第5研究室 アニメ化小説研究室 | トップへ戻る |

なぜこの小説は人気があるのか?

ネタバレ注意! このレビューにはネタバレが含まれています。

涼宮ハルヒの憂鬱

 
「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、
超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」。
入学早々、ぶっ飛んだ挨拶をかましてくれた涼宮ハルヒ。
そんなSF小説じゃあるまいし…点と誰でも思うよな。俺も思ったよ。
だけどハルヒは心の底から真剣だったんだ。
それに気づいたときには俺の日常は、
もうすでに超常になっていた。
第8回スニーカー大賞大賞受賞作。

■ 作品の書評                             

Y氏さんからの意見
 ひとつは作品自体の面白さがありますよね。
 まず一巻の革命的な構成、アイディアの技術。
 詳しくは一巻の解説に書いてありますが、
 これはこの本を読んだ大体の人の見解と一致していると思います。

 それに谷川氏の作品は毎巻ごと変化球なので飽きずに読めます。
 二巻三巻はそれなり、という感じですが、四巻の『消失』まで行き届いたら、
 もうずっとこのシリーズを読まなければ気がすまなくなるでしょう。
 
 作者に対する安心感といいますか、これほど起伏のある続編を書ける作者の確かな技術に安心し、
 シリーズを買い続ける不安がなくなりますよね。


 二つ目はアニメの加熱でしょう。アニメ版は残念ながら未見ですが、
 2005年の『サブカルチャーの夜明け』とでも表現できるサブカルチャーバブル発生の一翼は、
 まず間違いなくこの作品が担っていたと思えます。
 
 この作品は、当時から注目されていたブログやインターネット掲示板によって認知され、
 後は既存のオタクたちに受け入れられることでその作家性を確固たるものにする、
 というヒット作における理想的な流れにピタリとはまっていると言えます。


 ちょうど『ガンダム』や『カリオストロの城』、『ブレードランナー』と同じですが、
 この作品の得意なところは前者のようにじりじり加熱するのではなく、
 この作品自体が時代の潮流そのものになったということだと思います。

 もうひとつ挙げるとするならば、キャラクターの存在感が大きいと思います。

 文章というのは平易な表現である分、漫画と違ってなかなか読みきれません。
 そのため、当時もライトノベルはまだまだコアな分野としての印象が強かったように思えます。
 なのでよほどのことがない限り、ライトノベルは(BLや女性向け、または『キノの旅』のようなものを除き)
 女性まで認知されることはありませんでした。

 が、この作品はなんと言ってもキャラクター作りがずば抜けて巧みです。
 キョンや古泉の男性キャラのみならず、長門、みくる、ハルヒの女性キャラクターの造形も巧い。
 それらは折からのサブカルチャーバブルが耕した土壌の上で、
 女性にも容易に受け入れられるキャラクターとして広く人口に膾炙しました。
 
 作品全部が有名になるのではなく、『ルパン三世』のルパン一味や
 『スターウォーズ』のルーク・スカイウォーカーやヨーダのように、
 特定のキャラクター自体がファンの手によって形作られ、
 愛されるという事象は本当に稀なことなのです。

 作品はよく知らないがキャラクターの名前は知っている、
 という、人気作にはわりとありがちなケースが発生していると言えます。

 ……ということでざっと自分の見解をまとめますと、『涼宮ハルヒ』シリーズには、
 『ヒット作となるためのあらゆる条件が揃っている』、ということになりました。
 皆さんはどうでしょうか。


火氷茸さんからの意見
「シリーズ一巻の批評」
 個人的には、ハルヒ一巻はそこまですばらしいものではないと感じています。
 
 一巻の時点でハルヒが持っていたものは、「ある程度の完成度」
 「意外性とまでは行かないが、作品の持つ新しさ」「シリーズ化させやすい要素」だと思っています。

 
 もちろん、キョンの独特な一人称も人気に一役買っているでしょう。
 作品の個性と欠点は紙一重というか、背中合わせに近い感じでなのでアンチも多いですが。
 
 個性の多くをさらけ出さなかったため、
 今後シリーズ化に向けてある程度自由にできるキャラクター達と、応用の利きそうな設定。
 受賞の理由には、上記のものも含まれているでしょう。
 そういった出版社側の思惑を入れないのなら、
 大賞になるほどのすごいインパクトはもっていなかったと思います。

 編集者が谷川流さんの才能を嗅ぎ取ったという解釈もありますが、
 それをしてしまうと研究のしようがないので。
 
 早い段階から真相を明かしていく構成は、作品中にだらだらした感じを漂わせることもなく、
 展開が速く感じ、怒涛のように物語が流れ込んできた、あるいは飲み込まれたと感じるでしょう。
 しかし、起承転結でいう転の始まり、長門と朝倉のバトルは、
 山場を持ってくるためだけに挿入したような感じが否めません。
 小泉の閉鎖空間案内のようにタイミング的な必然性が感じられませんでした。
 まあ、だからなんだという程度のことですが。
 長門の能力実証のためには必要な展開でしたし。


 そういった起承転転転結という感じで、飽きが来る場所である物語の起こし(起)と、
 流れや枠組みの確立(承)が短く、意外な真相(転)が多くて「飽きさせない」ことが、
 「構成がうまい」といわれる所以だと思います。

 
 アマチュアの作品では「真相はどんでん返しだから、最後の最後で持ってこよう」
 という意図のため起起承承承承転結のように、最も飽きが来る起承が多く、
 スピード感がないため、ハルヒは斬新な構成といわれたのでしょう。
 
 しかしそれでも、ハルヒ一巻は世界設定やハルヒを取り巻く状況の説明である感が強く、
 手放しに「すばらしい作品だ」といえるほどのものではなかったと思います。
 しかし、その感じが「シリーズ化できそう」と編集者側に好印象だったのかもしれません。


 一巻を読んだ時点での私個人の結論としては、受賞のために必要なのは、
 「シリーズ化できそうな設定・キャラ」「スピード感のある構成」だと感じました。

 
 一巻時点ではキャラクターの魅力も最大限に引き出せたわけではないと思うので。
 個性的な何かがあれば尚良し、といった感じでしょうか。
 そしてまた、上記の悪いところに繋がりますが、出版後、一巻を手にした人たちが、
 さらに二巻三巻と買っていったのは、一巻は世界設定説明、状況説明の感じが強く、
 どんどんと明かされていった真相(転)が活用されないまま終わってしまったので、
 その設定の生かし方を見てみたかったというのもあるかもしれません。
 そうであった場合、ハルヒは「シリーズ化の条件」を高得点でクリアしていたのでしょう。
 
 スピード感のある構成も、「読みやすい(つまり、だらだらしていない)から、また買うかな」
 と思わせるに十分だったのかもしれません。

 
 五年ぶり、かつ三人目のスニーカーの大賞受賞者であるということも、
 一巻が売れた理由の一つではあるでしょう。


「全体的な批評」
 ハルヒを読み続けるのは、単純に「一巻一巻の話が面白い」からではなく、ある種の「期待」だと思います。
 
 ハルヒは一巻以降、二・三巻はキャラクターの魅力を前面に出し、
 応用を利かせられる設定を平均点くらいのストーリーにうまく絡めて、「面白い話」を作ってきました。
 しかしそれでは、読者がハルヒを読んでいるのは「惰性」であり、そのうち飽きられ捨てられます。
 
 実際、あそこまで大きな設定を一巻で提示しておいて、二・三巻はスケールが小さすぎました。
 学園内とその周辺でへんなことが起こるくらいで、
 あまりに広げすぎた設定をもてあましているような気もしました。
 
 しかし、四巻で行われた伏線の回収が秀逸で、ただ「惰性」で読んできただけだった今までの話を、
 すべてとは言いませんが「意味のある話」に変えてしまいました。
 このことで、読者は「谷川流=意外な伏線」と認識したでしょう。


 よって、以降二・三巻のような日常レベルの話が続いても、
 伏線回収に「期待」して読むことができたと思うのです。
 
 そのことで、ハルヒは一巻一巻で見ると良し悪しの差が激しいですが、
 「涼宮ハルヒシリーズ」としてみれば、良質な作品であるといえます。


 そして、Y氏さんも言っているように、アニメ化の影響が大きかったと思います。
 京都アニメーションさんが手がけたことも、確実にアニメ版ハルヒの評判をよくしているでしょう。
 実際、私が見たアニメ版ハルヒは原作の雰囲気そのままで、とてもクオリティが高いものだと感じました。
 
 落胆するような出来のラノベアニメが多い中、
 ハルヒは間違いなく他の追随を許さぬできのよさでトップを爆走していました。

 

 また、これは角川編集者さんのインタビュー記事に書いてあったことですが、
 ハルヒ人気は原作ファンの視聴者がネットの掲示板などで、
 宣伝しまくったことなどが理由に上げられるようです。
 アニメ版ハルヒ公式サイトは恐ろしいほど不親切であるにもかかわらず、
 アニメが超ヒットになったのはそういう理由だそうです。

 また、アニメ版ハルヒは時系列がバラバラであり、
 「続きが気になるから、原作を読もう」と思ったテレビからの読者も、
 原作とアニメが一致しないので、一気に全巻買ってしまうらしいです。

 
 「アニメを見たから原作は読まなくてもいい」「原作を読んだから、もうアニメは見なくてもいい」
 という負の連鎖のようなものが発生しなかったのも、アニメ・小説ともに爆発的ヒットとなった理由でしょう。
 まあ、このへんのアニメに関しては、私たちには関係のないところですが。

 皆さんも言われている「キャラクター」についてですが、
 私もハルヒは四〜七割、キャラクターに支えられていると感じています。
 しかしキャラクターに関しては、私はそれほど知識があるわけでもなく、
 私自身がキャラクター作りが苦手なため、具体的に「何がどう魅力的か」言えません。
 漠然と「魅力的」と感じているだけでして……。
 そのへんの具体的理由を説明できる人に預けます。現れてくれることを祈りましょう。

 私は別にアンチハルヒ派ではないので、ハルヒをけなされたと思って過剰反応しないでいただきたいです。

 まったく関係ないですが、角川スニーカー大賞について。
 大賞賞金が100万から300万に上がりましたよね?
 これはやはり、ハルヒに続く有望な新人を何が何でも確保したいと考えての策なのでしょうか。
 このことから、角川スニーカーは「シリーズ化できそうな作品」を新人賞に求めているように思えます。

 一発で終わるやつではなく、息の長い人気作品を他のレーベルよりも欲しているでしょう。
 なので、スニーカーを目指している人は、シリーズ化を意識したものを書いてみてはいかがでしょうか。
 スニーカーはハルヒしか超人気作がなくて大変そうですから。
 この頃のスニーカー新人賞受賞者も、質が微妙ですしね……。
 スニーカー志望者の健闘を祈ります。


ナカザワさんからの意見
 え〜、作品全体への意見ですが、内容が難しいです。
 自分は学生なので、よくクラスメートと話すのですが、ある友達の一言

「内容はよく分からないけど、キャラが良いからそれでいいや」

 この一言で思ったこと。
 確かに物語は面白いけど、アニメやグッズなどでの人気がほとんどだと思いました。
 確かに、原作が好きだという人もいるでしょう。
 ですが、ハルヒファンの大半はグッズなどで保っていると思います。

 まあ、谷川先生の技術は素晴らしいと思いますし、小説を書く側としては良い資料になりますが。

 あんまり説得力ありませんが、許してください。


カクタさんからの意見
 序でに、私が思い付く“涼宮ハルヒの憂鬱”の駄目な部分を書いておきますと……。

 ・物語が動き出す迄(アニメで云うと一〜二話)がただの萌え小説でしかなく、それが長い
 ・朝比奈みくるが“メタ的な萌えキャラ”でしかない


 ですかね。
 シリーズ全体で見た場合には、“一作目が完璧に纏まり過ぎている”点がマイナスと云えるでしょうが。


雷さんからの意見
 昨年末、ようやく『涼宮ハルヒの憂鬱』を読んだ雷です(笑)。

 「なるほど、これなら中高生から注目されるな」というのが、率直な感想ですね。
 非常に読みやすく、読後感も良かったです。
 テンポも軽快で、さくさくと読み進めることができました。


 ただ、続編を読もうという気は、今のところ起きていません(笑)。


 構成を見ると、ひとひねりある切り口と目を引く序章。
 穏便に、あるいは強引に、時には怒涛の勢いで動く物語。
 あっさりとした終章は、しかしユーモアたっぷりで思わずくすりとなります。
 小説で押さえておきたいポイントを、この作品はすべて押さえているんですよね。
 非常に基本に忠実な構成といえるのではないでしょうか。

 定石を踏んだ構成は、物語を平坦にしがちです。
 しかしキョンという人物の一人称を採用することで、この問題も解消されています。
 また、みくるや長門、古泉が自身の正体を明かし、ハルヒが何者なのか説明するときも、
 キョンは僕たち読者に近しい立場で彼らの言うことを理解し、受け入れようとします。
 理解できそうにないと分かると、思考を打ち切ったり、概要だけまとめてしまいます。
 だから読みやすい。


 ハルヒの性格も、傍若無人で破天荒ながら、
 キョンというワンクッションがあるおかげか、とりあえず(笑)存在を受け入れることができます。

 彼女と世界の関わりも、仏教世界に低通するものがあり、なかなか壮大です。
 しかし脇役たちの証言がこの世界観を補強しています。
 その一方で、彼らは分からないことは「分からない」と正直に言ってくれます。
 いっそすがすがしい。

 不満な点は、イラストでのハルヒがやや幼く見えるのが残念ですね。彼女はもっと美人のはずです。
 またハルヒのキョンに対する感情の変化も分かりにくい。物語後半は、やや急ぎ足でしたね。


 ついでに、キョンの口調には、推敲の甘さゆえか若干の揺らぎがあります。
 彼らしくない言い回しが散見されるんですね。でも、たいして気にはなりません。
 僕個人の人物造詣の解釈の仕方が、そう思わせるのかもしれませんし。

 全体的に見ると、文章も安定していて、構成も奇をてらわず素直です。
 だからこそキョンの独特な語りが際立つし、彼の人物もつかみやすい。
 そうしてキョンの目を通して、僕ら読者も物語世界を存分に楽しむことができるのだと思います。


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