ラノベ研シェアワールド企画3

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  1.  暴食の代償(食堂派)/約3400字 (No.46134への返信 ) – 太目魔導士
  2. Re: 暴食の代償(食堂派)/約3400字 (No.46184への返信 /) – ジジ
  3. ホアは虎彦を寝取りたい/キャラ二人/一人称/約4000字 (No.46134への返信 ) – ケスウ・ユジン・ヘイテ
  4. Re: ホアは虎彦を寝取りたい/キャラ二人/一人称/約4000字 (No.46193への返信 / 3階層) – ジジ
  5. 『瓦礫の隣で』 (No.46134への返信 / 2階層) – わをん
  6. Re: 『瓦礫の隣で』 (No.46201への返信 ) – ジジ
  7. Re: ホアは虎彦を寝取りたい/キャラ二人/一人称/約4000字 (No.46199への返信) – ケスウ・ユジン・ヘイテ
  8. 『腐女と喪女と僕』 (No.46134への返信 / 2階層) – 東湖
  9. Re: 『腐女と喪女と僕』 (No.46205への返信 ) – ケスウ・ユジン・ヘイテ
  10. Re: 『腐女と喪女と僕』 (No.46205への返信 ) – ジジ
  11. Re: ホアは虎彦を寝取りたい/キャラ二人/一人称/約4000字 (No.46204への返信 ) – ジジ
  12. Re: 『腐女と喪女と僕』 (No.46205への返信) – あまくさ
  13. Re: 『瓦礫の隣で』 (No.46201への返信) – たなか
  14. 食堂派の落ちこぼれ/キャラ二人/三人称/約1300文字 (No.46134への返信) – ねね
  15. Re: 食堂派の落ちこぼれ/キャラ二人/三人称/約1300文字 (No.46222への返信) – ジジ
  16. ●(更新3)お知らせスペース (No.46133への返信 ) – ジジ
  17. Re: ★お知らせスペース – あまくさ
  18. Re: 『瓦礫の隣で』 (No.46220への返信 / 4階層) – わをん
  19. Re: 『瓦礫の隣で』 (No.46203への返信 / 4階層) – わをん
  20. 職人は破壊する :食堂派の落ちこぼれpart2/キャラ二人/三人称/約2450文字 (No.46230への返信 ) – ねね
  21. ★コメントです (No.46148への返信 ) – ジジ

 暴食の代償(食堂派)/約3400字 (No.46134への返信 ) – 太目魔導士

やってみました。設定や意図を勘違いしているところもあると思います。面白くない、下手な点ともども、厳しくご指摘してくださるとうれしいです。

●タイトル【暴食の代償】
――――――以下、本文――――――――
食堂の第八(だいエイト)司祭、あだ名はシェフマンの朝は早い。三十過ぎで既にでっぷり太った彼は、いつもは早朝ランニングをしている。痩せたいらしいが、なぜダイエット丹を使わないのか。ともかく、週に一度だけその時刻に狩りをする。それを知った反跳(リバウンド)の餓狼、通称カロリーヌは、狩り用の装備をしたのシェフマンを確認すると、後をつけ始めた。森へ行くはずだ。それを知っているカロリーヌは、動きやすいトレーニングウエア、ランニングシューズをあらかじめ身に着けている。丸メガネを右手でつっと上げ直し、シェフマンをしっかり見据える。
狙いは彼が作る最強のダイエット丹、スリム・ド・丹だ。一日一錠でみるみる痩せる。しかし製法は彼しか知らず、値段は法外に高い。それでも、飛ぶように売れ続けていて、今や予約待ち三か月だ。カロリーヌはまだ十代の学生、買うお金がない。小遣いを貯めても、手間賃仕事をしても、とても足りない。
だから、製法を盗んでやる。自分で作ってやる。特許じゃないんだから、真似して作っても誰も咎めないはず、と思う。買えるダイエット丹ではロクなものがなかった。体重が減っても体型が変わらない。しかも、すぐに元の体重に戻ってしまう。よく調べたら利尿剤だったなんてこともある。どうしても、シェフマン秘伝のスリム・ド・丹でなければ。そう思い込んでいる。

シェフマンが森に入った。さらに奥へと進んで行く。カロリーヌは物陰から物陰へ移動しつつ、音を消しつつ着実に追尾する。ついに森の奥の少し開けた場所に出た。カロリーヌはやぶの中にしゃがんで様子をうかがう。シェフマンは左右に両手を広げて、やや上を仰ぎ見る。そのまま動かなくなった。
カロリーヌがじっと見つめていると、シェフマンの周囲を拳ほどの大きさの黒っぽいものが飛び交い始めた。だんだん数が増えてくる。黒っぽいものが無数に増えてシェフマンを隠したかと思うと、一斉に彼の頭上に集まった。ふわりと彼へと舞い降りそうになった黒い塊だが、突如としてカロリーヌめがけて突進して来た。

怖さでパニックを起こして動けなくなったカロリーヌ。黒い塊がぶつかり、思わず「きゃっ」悲鳴をあげた。しかし塊は、カロリーヌに吸い込まれるようにして消えて行く。何だったの、と思ったら、途端に冷や汗が出てきた。体の力が抜ける。視界が暗くなってくる。しゃがんでいられず、ばたりと倒れた。

そこへ悲鳴に気づいたシェフマンが駆けつけた。何が起きたか分かっているようだった。でっぷりしたお腹に乗ったウエストポーチに手を差し入れると、円盤状のものを取り出し、天に掲げて叫んだ。
「ハラーイ・パイ!」
それをカロリーヌの目の前に差し出して言った。
「これを食え! 死にたくなかったら食え!」
その迫力に負けて食べそうになったカロリーヌだが、気になって聞いた。
「今、ファンファーレみたいなのが鳴った気がしたけど、あれは何?」
「えーっと、いや気にするな、僕の趣味だ!」
と言ったシェフマンは丸いパイを彼女の口に突っ込んだ。やむを得ず飲み込むと、ふっと楽になった。立ち上がって聞いてみた。
「今の黒っぽいのって何? 何が起こったの? 今、何飲ませたの? 死にそうな気がしたんだけど!」
シェフマンはためらっていたが、渋々答えた。
「えー、あれは、僕のダイエット丹、スリム・ド・丹の原料だよ」
「あれが? 見たことないんだけど? あれって何?」
「あー、そのだね、霊みたいなもんで、つまり正確には残留思念だな、腹減ったっていう気持ちの名残り、ここら辺の動物の」
「何それ?」
カロリーヌはさっぱり分からないという顔をする。シェフマンはしばらく考えてから答えた。
「んーと、食ったもんの吸収を妨げるって丹があるだろ。使ったことあるんじゃないの?」
「ある、酷い目に遭った」
「そうだね、トイレがちょっとね。で、さっきの黒いのに襲われたとき、力が抜けたりしなかったか?」
「した。なんで分かるの?」
「そういうもんだから、あれは。えっとね、あれは飢えたっていう残留思念だから、カロリー奪うんだよ、糖質とか脂肪とか。それも消化吸収済みの分をね。食いもんに憑りついても、あれは内臓ないからね、駄目なんだ」
「どういうこと?」
やはり説明が分からない。シェフマンは仕方なく単純平易に言ってみた。
「つまりね、カロリー奪われるんだよ、あれに憑りつかれると。で、あの黒っぽいのは、宿主、あー、憑りついた相手のカロリー消費したら消える、じゃない、浄化される。痩せさせてくれるんだが、そのままじゃさっきみたいになる。だから……」
「分かんない……」
また駄目出しだ。シェフマンは戸惑った。困った顔になったシェフマンは言った。
「だからね、あれを炒ったひまわりの種に仕込む。それを食べると痩せるんだよ! で、まだ黒っぽいのが憑りついているのが分かるだろ、それはね……」
「分かった!」
そう叫んだカロリーヌは自宅に向かって猛然と駆け出した。シェフマンはあっけにとられて後姿を見るばかりだった。

食堂の第八司祭、あだ名はシェフマンの朝は早い。いつものランニングを始めようとすると、目の前に若い女が飛び出してきて叫んだ。
「ちっとも痩せないじゃない!」
カロリーヌだった。面食らったシェフマンが尋ねようとした。
「あー、一か月ほど前の、あれから……」
カロリーヌはそれを遮り、この一か月のことをまくし立てた。黒っぽい飢えた残留思念とかいうのをヒマワリの種に憑りつかせてスリム・ド・丹を大量に作ってみたこと、聞きこんだ用法、用量で毎日服用したこと、しかし痩せないこと、むしろお腹が空いて空いてのべつ幕なしに食べてしまったこと、それでもっとぽっちゃりむっちりしてきたこと。
「痩せないじゃない! 言った通りにしたのに!」
シェフマンはそっけない顔で喋りはじめた。
「僕が毎日走るのは、これ以上太らないためなんだけど……」
「そんなことはどうでもいいのよ、言われた通りに作ったのに何で……」
「食堂派にはさ、アスリート多いだろ。一流選手もいるし。あいつら、毎日猛練習してるだろ、それはさ……」
「そんな話はしてないってば!」
「何でそんなに毎日猛特訓なのかと言うと、そうしないと太って来るからなんだよね、僕もだけど。それはね……」
「だーかーらー、なんであたしは痩せないのっ!」
「利かないからんだよ、スリム・ド・丹だけじゃなく、どんなダイエット丹でも」
「……えっ!?」
「あのときさ、ほら森ん中で倒れてて、食わせたものがあっただろ」
「えーっと、なんか丸いもので、はら何とかだった?」
「ハラーイ・パイ。あれはアンチ・ダイエット丹だよ。一種の呪い。フォアグラ作るときの副産物だけど。要するにスリム・ド・丹とは逆の残留思念使ってるんだ。」
「それでどうなるの?」
「あらゆるダイエット丹が無効な体質になる。それと、すぐに腹が減るようになる」
カロリーヌは薄々、いやはっきり分かった。あれからちっとも痩せない、むしろ食い意地が張って体重は増える一方だ。そのせいだったのか。頭の中が何かがブチンと切れた。
「冗談じゃないわよ! あれからすこーし……すっごい太っちゃったの、あれのせい? あんたのせい?」
「いやー、だってほら、あのままじゃ死んじゃうとこだったから」
「いつ切れんのよ、その効果、いや、すぐ消してよ! 解呪しなさいよ! できるんでしょ!?」
「いや大丈夫、放っておいて心配ない。十年で効果はなくなるし、太り過ぎの害を受けない体質になってる、高血圧とか動脈硬化とかいろいろ」
「太り過ぎそのものが害じゃない!」
「だからさ、食堂派にはアスリート多いって言っただろ。痩せ薬とかに日常的に接してるからね。痩せ過ぎの害を受けないよう体質改善してるんだ。なので放っとくと太るんで、運動するんだ、凄くハードに。だってダイエット丹利かないから。で、いいつの間にか競技選手レベルになっちゃってる。いいだろ、これって?」
いったん言葉を切ったシェフマン。カロリーヌは押し黙っているが、目が潤み始めている。彼は大きな腹をパンッと叩くとニコッと笑い、上機嫌で言った。
「一緒に走るか? 気持ちいいぞ、朝ランは」
(終)

[No.46184] 2014/10/06(Mon) 12:57:57

Re: 暴食の代償(食堂派)/約3400字 (No.46184への返信 /) – ジジ

おつかれさまです。
ネタがよく効いて、最後までそのネタで引っ張れているのが印象的な一作でした。
設定に関しては「こんな感じ」というだけなので、いくらでもいかようにでも、自由に加工してください。

「スリム・ド・丹」は妙にいいですね。これだけで2分くらい笑ってしまいました……。
それにしてもネタが細かいですねー。カロリーカット系のサプリはお腹ゆるくなるとか、普通に暮らしている人はあまり知らないと思います。

>  面白くない、下手な点ともども、厳しくご指摘してくださるとうれしいです。

意見と言うほどのものではないのですが、せっかくのアスリートネタなので筋肉と脂肪の関係や、カロリーを抑えることで体が低燃費化してしまう対策の解放日、ドーピングなどをぶっ込むとさらにダイエット丹のネタが際立つのではないかと思います。

あと、丹がちょっと万能すぎるので、制約があるとよいですね。得られる利益より代償が大きい(差し引きで損をする)ようにするほうがわかりやすくおもしろいかと。

知識は武器ですので、これを機にダイエット系のコメディを考えてみてはいかがでしょう?

[No.46185] 2014/10/06(Mon) 15:33:00

ホアは虎彦を寝取りたい/キャラ二人/一人称/約4000字 (No.46134への返信 ) – ケスウ・ユジン・ヘイテ

狭く小さな部屋は薄暗い。俺こと虎彦は机の上の、最後の書類に目を通していく。やはり、安全性は高いと言っていいだろう。構成した魔術を、出来る限り詳しくまとめた文書の破棄を、取りやめる事にする。
「ファム。ファム。可愛いよファム。うむ。発音は正確だ。ど、どもるはずなどないな。大丈夫だ大丈夫」
何度も頷き、お茶を飲む。ファムが売ってくれる、果汁を混ぜた砂糖水の方が美味しい。でもファムは、大人っぽい男が好きらしい。十八だが、お菓子の好きな俺では駄目か。小部屋は散らかっており、全体的に小汚い。研究所から貸与された、最低クラスの部屋だ。
まあ、仕方あるまい。まだ俺の研究は認められていないのだ。個人的な、試みの範囲に留まっている。また純研究派の研究員に、雑用を回してもらって、賃金で費用を稼がねば。
金属の圧縮と低いテンションだけが、俺の売りだ。
高貴なる上下派の嗜みとして、お茶で薬を飲み下す。鎮静剤の効果がある、薬草を粉末状に煎じた逸品だ。落ち着いた気分になると、すぐ安眠できる。副作用は怖いのだが。
「うーむ。明日は何を着るか。お洒落は興味がないが。少し衛生的にせねばな。モヒカンをやめて短髪にしたら、ファムも前より優しくしてくれるようになったし。外見も重要だ。部屋も掃除しておかねば、また怒られる。まあ、それもご褒美かもしれないが」
俺は書類を放り投げ、机と椅子から離れる。寝台に寝ころび枕を頭にして、予備の枕を胸に抱く。今はもう、朝の六時のはず。明日の正午に、ファムと会う予定だ。もう一晩あるから今日は、じっくり寝ておこう。
仕事を口実に、ファムを呼び出す。研究成果の報告を行い、また取り引きして食事を取る。明日こそご機嫌を取って、頭を撫でてもらおう。立場が逆でもいい。
ファムは動物が好きなはずだ。ならば、珍獣でも構うまい。俺は少し、狸に似ているらしい。では、愛着をもってもらえるかもしれない。今度こそ、忠誠の誓いを認めてもらわねば。
妄想しながら、俺は眠りに入る。すぐに安らかな気分になって、薄闇で微睡んだ。

「ファム。天使のようだ。ファム」
俺はいつの間にか、厚い生地越しにファムの薄い胸に顔を埋めていた。喘ぐ声に、応えながら俺は頬を擦り付ける。
まだまだ感触が硬いのは、ご愛嬌だ。だいぶ健康にはなってきたのだが。
「ふふ。ファム可愛いよファム。ふてぶてしい猫の中に、20%しか美少女成分を入れていないような、マニアックな美貌がたまらない。大好きだ。ワンオブゼムのキープでも、ただ働きのブレーントラストでも構わない。百年後に、同じ墓穴に入ろう」
「虎彦さん。そこは壁です。胸の肉付きが薄いという、皮肉でしょうか。それと、まだお墓に入るようなお年でもありませんよ。普通ならば、ね。正直重すぎて印象は最悪ですよ」
目を開ける。近くには、にやにやした顔の美少女が立っていた。慌てて起き、身づくろいをする。食堂派のファム。研究者にして、吝嗇家で名の知れた商人である。死の商人とのパイプもあるが、本人は行商を名乗っている。まあ、確かに商売の規模は小さいのだが。
小柄な体は、肉付きが良く適度にむっちりしている。絵画で見た、ホビットという小人の美少女にそっくりだ。大きな瞳に柔らかい頬は童顔そのもので、大きな口と薄い桃色の唇はよく動く。能弁で表情多彩で、訥弁で無表情な俺とは正反対だ。
少し柔らかそうだが薄い胸を見て、心が疼く。子供みたいに、甘えたい。幼稚な願望を必死で否定した。絶対に、そうすればファムは俺を嫌う。何故か、そうなる気がする。
「あーあ。またドジりましたね。所内での手紙のやり取りは、迅速なんです。手紙は昨日の深夜に届いて、昨日の深夜に開けました。従って、昨日から見た明日の十二時、つまり今現在訪問する事にしました」
悪戯っぽい表情で、うふふと笑う。あの『無垢の聖女』のように、愛らしい。尊敬する『求愛の管理官』のように、ストイックで純粋でひたむきな、愛を貫き通したいのに。
「す、すすすすまん。ね、ねね寝間着のままですまん」
「馬鹿ですか。着替え忘れてます。白衣のまま寝ないでください。お洗濯、大変なんですから」
また借金か。家事の委託料の設定は良心的なのに、払えない自分が恨めしい。
いつの間にか、ファムが勝手に報告書を見ている。机の上に、置きっぱなしではあった。寝台に座る俺のすぐ横に、とすんと座った。
「まず最初の案ですが、全然駄目です。確かに、理論上は可能かもしれませんが。まず精鋭揃いの弓騎兵に、あなたが設計した鎧を、試験的に着用してもらう事ができません。無料でプレゼントしようとしても、断るでしょう。前提がそもそも間違いです」
「うむ……頑張ったんだが」
ファムの手をさり気なく取ろうとして、つねられる。手を引っ込めると、嘆息された。
「まあ、悪くありませんよ。試作品とセットで、権利ごと二束三文で買い取ってくれる所は、どこにでもありますから。第二案ですが、やはり魔法戦士も精鋭です。コネの問題で実現できません」
横目で、半眼で睨まれる。怖気づいて、俺もつい地が出そうになる。
「うん。な、何かごめんね。でも、成功作のはずなんだ」
「それにしても、小型の鎧が多いですね。とりあえず、私の寸法に合わせて作るのは相変わらずですか。自分の寸法なら、計りやすいし現実的でしょう。無駄な手順が多いのが、マイナスですよ」
「うん。何ていうか、その。パフォーマンスも大事かなって。女性の方が見栄えするから」
「気晴らしに試着して見せてもいいですが、報酬は少し差し引きますよ。第三案と第四案は、検討しますが駄目でしょう。まあ諦めてください。後でお駄賃あげますから」
言いながら、報告書を懐に入れる。手弁当として、干し肉を出してくれた。分け合って二人でかじり、食事を済ませる。カップに水を汲み、二人で回し飲みした。少し気まずい雰囲気の中、会話を再開する。
「はあ。冶金学を修めた錬金術師、というと格好いいのですが。実態は木偶の坊ですか。もう少し、市場の動向を考えましょう」
「何が売れるかな」
「そうですね。歩兵用の長槍の穂先なら、伝手があります。長槍を量産化して軍に納入する際に、錬金術師が入り用になるわけですね。後は矢尻も数がいりますし。虎彦さんでも可能なレベルのお仕事だと思われます」
もたれかかるファムに、心をときめかせる。色仕掛けだと、分かっているのに。
「で、でも。魔術師として宮廷のお抱えの学者になる夢を捨てないと、駄目じゃないかな」
「阿呆ですか。どこの地方貴族も、あなたなんて要りませんよ。宮廷は、望みすぎでは。街のギルドなら、一人の技術者として、雇ってくれなくもないでしょう。売り手市場の恩恵を、今なら受けられますから。戦争様様ですね」
ファムが俺を、試すように見てくる。何かを探っている様子だ。悪巧みをしているのではないのか。
「でもさ。ここを離れると。ファムとも会えないし」
「はあ。テンションが上がってきたようなので、ロハで戻して差し上げましょう。私はホアです。ファムさんは、とっくに死んでます。御墓はこの施設の内部に、確かにあるから会いに行けなくなりますね。まあいいじゃないですか。墓参の祭日に、帰ってこられれば」
嘲笑を聞いて、眩暈がする。手が伸びて、腰を触ってくる。ファムはそんなはしたない事はしなかった。
「……いや。君はファムだ。俺は、そう思って生きている。俺は、真善美を究める為に生きている。だから、俺の心を救ってくれたファムの、ファムの幻影の助けがまだ必要だ。確かに俺は、ファムに嫌われたままだったかもしれないが。でも、心の自由は」
「まあ、いいんですよ。確かに、似た人はいますからね。あんまり似てませんけどね。自分に優しくしてくれる、若い女の子には、甘いんですね。ファムさんはむしろ逆にスパルタだったはずなんですけどねえ。あなたの、戦争に対する考えに、馴染めなかったとか」
責めるようになだめるように、脅すように誘うかのように、ファムが鼻で笑う。俺が太ももに手を置いたが、ぴくりとも動かない。肩をすくめただけだ。
「気が変わったよ、ファム。錬金術こそが、世界を変える。あの日の言葉に嘘はない。革命を起こすのは、いつも技術の発達だ。戦争はいつか終わる。絶対にいつかは根絶できるんだ。君の胸の病気も、きっとよくなる。君の恋人も、戦地から絶対に帰ってくるはずだ」
あの日を思う。恋人が戦死したと聞き、ファムが自ら胸を突いた短剣は、俺のお手製だった。日用品のつもりで、作ったのに。もう体は、確かにボロボロだったけれど。
せき込むと、ファムが心配そうに見上げてくる。急に体調が崩れる。頭痛がしてきた。
「どうでもいいですよ。それより『サキュバスの愛撫』って薬、買いません? 上下派の皆さんが、随分ご執心の様子です。良い夢が、見られますから。あなたは可哀想です。でもいいじゃないですか。私は可哀想なあなたの、寂しそうな瞳が、誰よりも好きですから」
嗜虐的な表情で、懐から商品を出す。また安い睡眠薬で、鼻薬を嗅がせる気か。
「いい加減、認めてくれませんかね。あなたは、ファムさんに褒めて欲しかっただけの子供なんです。赤ちゃんなんですよ、あなたは。その後に、自分に優しくしてくれる友達が出来たから、ファムと名付けて可愛がった。それだけの、事なんですよ」
差し出された薬を、ひったくるようにして受け取り、机にあったお茶で流し込んだ。ベッドに倒れて体を丸めた俺の頭を、ファムが撫でてくれたのは、やはり妄想なのか。
気のせいでないのなら。ファムが寝入る俺の頬に、キスしてくれた気がする。すぐに体を包む柔らかい温もりで、満たされる。やはりファムは天使だ。それとも、夢なのか。では神に願おう。
夢ならば、どうか覚めないで。

[No.46193] 2014/10/07(Tue) 01:05:29

Re: ホアは虎彦を寝取りたい/キャラ二人/一人称/約4000字 (No.46193への返信 / 3階層) – ジジ

おつかれさまです。

マイナス方向へ振って来ましたか!
ストーリー中に漂う薄暗い匂い、楽しませていただきました。
この風情を映したノワールものやディストピアものもおもしろそうですね。本来の小説カラーも、どちらかと言えばマイナス方面に振る感じでしょうか?

[No.46199] 2014/10/07(Tue) 09:34:20

『瓦礫の隣で』 (No.46134への返信 / 2階層) – わをん

研究所の一区画、居住区の端の端に位置するこの場所には、今大量の瓦礫の山が出来ていた。
ゲルトはその残骸の前に立ち、手鏡をじっと見つめる。かと思うと今度は瓦礫の山に目を向け、見比べるように交互に顔を動かす。
「どうじゃ、何か分かったか?」
ゲルトの隣にいた少女が声をかける。
「何分、どこもかしこも同じような光景ですからな……いや、もしかしたらそこの窓枠が落ちているあたりやもしれません。のじゃババ様なら潜れますか」
「うむ、やってみよう」
のじゃババ様と呼ばれた少女はそう答えると、ひょいとばかりに足を踏み入れて瓦礫の隙間へ身をくぐった。
傍から見れば危険なことこの上ない。子供にやらせることではないと言う者もいるだろう、ただそういう意味では、彼女は子どもではないのだからまったく問題はないのだが。
「あったー! あったぞ!」
やがて少女が消えたあたりから、歓喜の叫びが聞こえる。ずるずるとお尻から這い出して来た彼女の手には、薬箱らしき物が抱えられている。
本来、この場所には彼女の住まいがあった。しかし先日ある事件が起き、このような悲惨な姿へと変わってしまったのだ。
「探し物は見つかりましたか」
「うむ! ちゃんと無事じゃった! いやーすまんな手伝ってもらって、お主の魔法は失せ物探しにはちょうどよいわい」
「はは、こちらこそお役に立ててなりよりです」
とはいえ、ゲルトも依頼してきたのが彼女でなかったなら多少渋っただろう。探し物ぐらい自分で何とかしろ、と。しかし流石の彼も彼女に対してそのようなことは言わない。
のじゃババ様。たくさんと魔法使いが出はいりするこの研究所とはいえ、彼女のことを知らない者はいないだろう。ゲルト等など比べ物にならないほど遥か昔からここの研究に携わってきた、紛うことなき食堂派の重鎮である。
「しかしババ様、それは何なのです? 私用の丹であればいつも肌身離さず持っていらしたでしょう」
「これは個人的に研究していた試作段階の丹じゃよ。こういうのは新しいものを作ってる時が一番楽しいからのう。……えーっと、例えばこれなんか面白いぞ」
言いながら、彼女は薬箱の中から一種類のケースを取り出す。
「それは?」
「メロメロ丹じゃ、いわゆる惚れ薬じゃな」
そんなものを楽しげに作っていたのか、とゲルトとしては若干呆れてしまった。しかし彼女にとってはどこ吹く風なのだろう。
どこか含みのある笑みを浮かべて言った。
「欲しいか? 今回のお礼にやってもよいぞ」
「先ほど試作段階と言ったのはあなたではないですか、お断りします」
「試作段階でなければよいのか?」
「重箱の隅を突くようなまねはご勘弁ください」
一切照れのない声でぴしゃりと言われてしまい、彼女はつまらなそうにため息を吐く。
「仕方ないのう、折角効果を確かめたかったのに」
「……というか、そういう物なら『求愛の管理者』殿に差し上げればいいでしょう。彼のほうが適任ですよ」
「そんなことしたらわし、邪神に対してケンカ売ってるようなもんじゃろ。流石に御免じゃよ」
手をひらひらを動かしてそう答える。
それは神たる「ベレルの舌」には絶対にかなわないという自認であり、同時に契約程度ならどうにかなるだろうという自信の表れでもあった。
「まあ惚れ薬は冗談としても、管理者殿には何か幸あってほしいですな。今回の騒ぎではのじゃババ様の次に被害を被ったともいえますし」
「うむ、それもこれも、みんなあの上下派のせいじゃ!」
握り拳を作り、彼女にしては珍しく怒りの籠った声で言う。
「あいつのせいで家はめちゃぐちゃ、わしは知人に寝床を借りねばならなくなってしもうた。まったく散々じゃ」
「心中お察しします。しかしその若者もちゃんと謝りに来たのでしょう?」
「そりゃ謝りには来るじゃろ、当然じゃ。ただし一回だけだったがの! あと謝罪と家一軒では釣り合わん!」
それはまあ、確かにそうだろう。
「まったくもう! ホントにあの連中はなっとらん! わしはもともと上下派というやつらはいけ好かないと思ってたのじゃ。だいたい精神なんていう不安定なもので魔法が使えてたまるか。論理はどうした、理屈はどうした!」
「ははは、あやつらには無用のものなのでしょうな」
「笑っとる場合か! 最近の者には純研究は頭でっかちそうだから、食堂派は女々しい気がするから、などどいう理由で上下派に入る輩も多いと聞く。そんな奴らもそんな奴らだが、才ある者がそのように道を誤るのは黙ってみておれん。なんとかせねばなるまいて」
実際、上下派は破天荒ではあれど人気があった。派閥の全体数としてはやはり純研究派が一番ということになるが、上下派はここ何年かの内に急速に数を増やしている。若い魔法使いには彼らの自由さが好ましく映るらしい。
「そうですな……では我々も対抗して髪型を変えますか?」
「モヒカン刈り!? いやいやそれは対抗というか同調ではなかろうか」
「冗談はともかくとして、まああまり気になさらないでいいかと」
ゲルトがそういうと、彼女は露骨に不満げな顔をした。
「なんじゃお主、上下派の肩を持つのか」
「あまり派閥で一括りにするのはよくないですぞ」
「わしに説教など十年早いわ。派閥の傾向なんぞ、あの若造一人の被害で十分思い知ったというもの」
「……その若造ですが、今何をしていると思いますか?」
唐突な言葉に、彼女はきょとんとした。
ゲルトは片側にかけられた眼帯を指でとんとんと指し示す。
「先ほどからこの『ミーミルの眼』を通し、件の上下派を探しておりました。ついさっきようやく見つけたところです」
『知り過ぎたるミーミル』は自動的に情報収集する精霊だ。過去視(クリスタロマンシー)であれば媒体も必要だが、その時起こっていることならば回線をつなぐだけで知ることができた。
「……で? なんだとというのじゃ」
「彼はどうやら、純研究派の区画にいるようですな。そこで技術関係者を中心に人を集め協力を募っているようです」
「技術関係者? 協力とは……もしやこれのことか?」
彼女は、自分たちの隣にうずたかく積まれた瓦礫の山をふり仰ぐ。もともと彼女の住まいは大きく、この瓦礫の規模をかなりのものになる。
「何とかして建て直そうと考えているようですな。本来なら彼自身が行うのが筋でしょうが、一人では難しいことに加え、彼らの魔法は細かい作業には不向きですから。修復や清掃の専門家を探しておるのです」
一度しか頭を下げに来ていないというのは、それはつまり今の今まで人集めに尽力していたということ。
足を使い、金をはたいて、自分になりに誠意を尽くそうとしてきた。
己の失敗を「上下派だから」などど言われないように。自らの落ち度を上下派の落ち度と思われぬように。
「……ふん、だからなんだというのじゃ。がんばってるのだから許してやれ、とでも?」
「許すなどとんでもない。彼が来たら泣くまで怒鳴りつけて、散々に説教をくれてやるのがいいでしょう。しかし十分に反省したようならば、最後に一言「これからは気を付けるように」とでも言ってやって頂ければ幸いです」
「……」
「ここから先は私の想像となってしまうのですか……のじゃババ様ほどの魔法使いであれば、すぐにこの家を直すことも可能なのでは?」
実際、彼女は自分の家が壊されたその時もあまり慌ててはいなかったと聞く。また、魔法使いの住居であるこの場所に何らかの魔法が仕込まれていたとしても不思議ではなかった。
「だったらなんだというのじゃ」
「あえてそのまま残しておくのは、もう一度あの者が謝りに来るのを待ってるからではないか、と」
もしも彼が自分の行いを後悔していて、何かしらの謝罪の形を持ってこようという気持ちがあったなら、先に家の直してしまうのは好ましくない。
加害者当人にとっては立つ瀬がない。それになにより反省の機会をなくしてしまうということだ。
「自分の苦手な上下派であろうと、若者が成長する機会を奪ってはならないとお考えなのでは。いやいや、先ほども言いましたがこれは完全に私の想像ですが」
「ええい、わしにそういう『いつも怒ってて怖いけど根は優しくて子ども好きのばあさん』みたいなキャラを押し付けるな! ただ単に直すのが面倒だっただけじゃ」
「ははは、これは失礼を」
怒られてもさして堪えた風のないゲルトを、彼女は忌々しそうににらみつける。
ゲルトとしては子どもの頃に散々同じようなことをされたので、ある意味意趣返しのつもりだった。
「……大体、お主もわしと同じじゃっただろ。以前までは上下派にあまりいい印象を持っていなかったはずではないか?」
「今だって積極的に関わりたいとは思ってません。ただ彼らにはよいところと悪いところがある、そう考えるようになっただけです」
それが変わったというのならば、まあその通りなのだろう。
ゲルトは軽く目をつむり、瞼の裏の闇を見つめる。ぼんやりと浮かび上がってくるのは、数か月前に知り合った知人と、その弟子であるディアーヌの姿だった。
その破天荒さに時に振り回されるも、時に救われる。それは今までにはない、心地よい関係だった。
「まああれですな、手のかかる相手ほど良い……そういうこともありますから」
苦笑交じりに言うゲルトに、彼女は大げなな身振りとともにやれやれとつぶやいた。
「お主のほうが、わしよりよっぽどジジイじゃな」

【終】

たなかさんの作品からのじゃババ様をお借りしました。
大変魅力的なキャラクターで、この作品も勢いのままに書き連ねることができました。
ありがとうございます。

二作目になりますが、字数に制限があるというのはなかなか難しいですね。
前作も大幅に削り、今作もシーン一つボツにすることにしました。
大変ですが、色々と勉強させていただいてます。

[No.46201] 2014/10/07(Tue) 12:49:16

Re: 『瓦礫の隣で』 (No.46201への返信 ) – ジジ

おつかれさまです。
昔話的な展開で、ほっこり読み進めることができました。
私は少女マンガでも悪い人がいないタイプのものが好きなので
(ちなみに週刊・別冊マーガレット(集英社)派閥です)、いい人たちのいい話が大好物です。

> たなかさんの作品からのじゃババ様をお借りしました。
> 大変魅力的なキャラクターで、この作品も勢いのままに書き連ねることができました。

こういうコラボこそシェアの醍醐味ですよね。
時間がもう少しとれれば、私もちゃんと書きたいのですが……
なんとか言い出した者として、聖女の小ネタだけでも投下したいと思っています。

[No.46203] 2014/10/07(Tue) 20:32:24

Re: ホアは虎彦を寝取りたい/キャラ二人/一人称/約4000字 (No.46199への返信) – ケスウ・ユジン・ヘイテ

>この風情を映したノワールものやディストピアものもおもしろそうですね。本来の小説カラーも、どちらかと言えばマイナス方面に振る感じでしょうか?

そうですね。作品のカラーは、多少の誤差はあってもこんな感じになります。
ノワール物とは、いいですね。ダークなヒロインを、好きなだけ書けそうです。何故かまだ未鑑賞なのですが、映画「レオン」のような話を、是非書きたいと思っています。
あの「キノの旅」に出てくるような、退廃的なディストピアが書けたら、満足感が得られそうです。作品の舞台は暗黒街とか、いいかもしれませんね。新しい選択肢が広がります。

ジジさんの作品や、参加した皆さんの小説に触発されて、つい私も掲示板のお祭りに混ざりたくなってしまいました。面白い企画、ありがとうございました!

[No.46204] 2014/10/07(Tue) 20:37:12

『腐女と喪女と僕』 (No.46134への返信 / 2階層) – 東湖

「腐女と喪女と僕」

「あんたたちに集まってもらったのは、他でもないわ」
大きなおっぱいを抱えるように腕を組んで、食堂派の派閥長『冥府の料理人』ことノエルが口を開いた。
食堂派の研究成果である《豊胸丹》、《ダイエット丹》、《アンチエイジング丹》、ひいては女性ホルモンを操作する《エストロゲン丹》まで自在に操るノエルの美貌に、今日も死角はなさそうだ。
「いよいよもってして、ハゲ、いえ『求愛の管理官』さまへの『奥様の愛』が冷める一方です」
ノエルは、石造りの薄暗い会議室をコツコツと歩きまわりながら言った。
「知ってのとおり、管理官さまが見捨てられると我ら魔法研究所は大スポンサーを失うことになり、解散を余儀なくされるでしょう。それは私が、いえ、世界中の女性が、魔法による美貌ドーピングを受けられなくなることを意味します。そこで、三派合同による一大プロジェクト、『愛を取り戻せ』ミッションを執行いたします!」
淡々とエゴ丸出し発言をしながら、ノエルは室内を一望した。
室内には純研究派の僕と、上下派の暗黒喪女こと『超重力のリナ』の三人しかいない。
こういうのを、面倒事を押し付けられたって言うんだろうな……
先日、純研究派で集会があって、ノエルから招集がかかっていることを教えられたのだった。
僕は黙って、ことの成り行きを見守ることにした。
「いいわよ、別に美貌なんて……。解散すりゃいいのよ。ってか、そもそも人類なんて滅べばいいのよ。人間がみんな死ねば、この世の悲しみも苦しみも全部なくなるんだからさ。けっ、ぺっ」
心の底から面倒くさそうにリナはつぶやいた。
机に突っ伏し、ソバージュになった癖っ毛はまるでクラゲを被っているようにさえ見える。
入所当初は、同郷の幼馴染を探しているとか言ってリア充ぶっていたが、この広大な研究所で人ひとり探し出すのは不可能だったようだ。
「いいの? リナ。そんなこと言って。知ってんのよ。あんたんとこの重鎮『ましら元帥』に、言うこと《聞かないと》お見合いさせるぞって言われて、それが嫌でここに来たそうね! ふはは! 無様ねっ。『無様のリナ』に改名したら?」
「あんたね。あんたこそ、『さすらいの魔女』ミラに純研究派にまで資金が回るようにしろって言われたそうじゃん。なんでかなー? なんで、食堂派の派閥長さまが無派閥の魔女の言うことなんか聞くのかなぁ~? あっ、そっかぁ~、薄い本は研究所にはないもんねぇ~」
ミラは純研究派に彼氏がいて、キャラバンで《外》に行くことの多い魔女だった。リナも、この手のゴシップは好きなのだろう。
「あんた、ホント嫌味な小娘ね。そんなだからモテないのよっ」
「えーえ~、モテなくて結構でございます。『冥腐の料理人』さま☆ 料理人なのに腐ってるって。超うけるぅ~」
じゃれ始めた二人を横目に僕はげんなりしてきた。
普通な人間が集まって普通に魔法の研究をしている、純研究派の普通な僕がどうしてここに呼ばれたのか、それがそもそも分からない。
ともかく、とっとと終わらせて帰って研究がしたい。
古魔法文書研究――
それは漢のロマンであり、悠久な時の流れに埋もれし偉大な過去の英知を――
トリップしかけた思考を引き戻し、今現在研究中の古文書『ファイラスの死亡名簿』を取り出した。
これは、純研究派の同僚であるアイニッキが故郷より発掘して持ち寄ったもので、紆余曲折あって借り受けたのだった。
僕はおもむろに古文字でもって、《即死消滅:人工庭園三階会議室の花瓶》と書いた。
その瞬間。
じゃれあう女性二人の間にあった花瓶が粉々に砕け、消滅した。
「…………」
「…………」
「僕、短気なんですよね。それに近頃の男性らしく、男女平等思想でして女性でも平気で攻撃できます。いつまで、だらだらするんですか? 服だけ消滅させましょうか? 帰っていいですか?」
普通に思ったことを、普通に発言した。
なぜか女性二人はドン引きした様子で静かになった。
「そ、そうね。あんたが純研究派の『肩書きのない肩書き』、『普通にキチガイ』のロッシュであることを忘れていたわ……」
ノエルは疲れたように、イスに座った。
「いいえ、帰られては困るの。あんたの『ファイラスの死亡名簿』が必要なのよ。リナの超重力もね」
真面目な顔になってノエルは言った。

「とりあえず、現状を説明するとね。食堂派の売店で販売しているショ糖に、《向精神丹》を混入してみたの」
「ファ!? あんた、さりげなく何やってくれちゃってんの!?」
珍しくリナが驚いた声をあげた。
「ショ糖なんて買うの上下派のテンション小僧ぐらいでしょう? 実証実験ってやつよ」
「ほう、やっと面白い話になってきましたね」
やはり普通に考えて、研究に人体実験はデフォだ。
食堂派は穏健派と思っていたが、そうでもなさそうだ。だとすると、この食堂派閥長は研究のなんたるかが分かっていると言っていい。
「でしょう? で、今売店では板チョコを売ってるのよ」
一枚の板チョコを懐から取り出して、ひらひらと振ってみせた。
「ほう、板チョコというと、古代の神々の食べ物であるテオブロミン丹とフェネチルアミン丹が混入されていると噂がありますよね」
テオブロミン丹は、中枢神経を刺激し興奮させるらしい。
フェネチルアミン丹は脳みそを勘違いさせて恋愛モードに突入させるという。
《外》の世界の教会で板チョコは、《性欲を無闇にそそる悪魔の食べ物》とされている。
「まぁね。普通は、ほんのちょびっとしか入れないんだけれど、今回は特別に大幅増量してみましょう」
「ちょっと、ストップ! そんなんならあんたら食堂派でやって、成果でもなんでも独り占めすりゃいじゃん。あたらしら巻き込まないでよ。面倒くさい。けっ、ぺっ」
「まぁ、話は最後まで聞きなさいってば。そんな元から入っている成分の増量程度で、邪神『ベレルの舌』の代償行為を修正できるとは思えないわ! そこで」
ノエルは11工程にも及ぶ、食堂魔法式の文書を机の上に置いた。
「こんなこともあろうかとミラに頼んで、南の砂漠でアカネ科のヨヒンベを採取してきてもらったのよ。こいつにはα2受容体遮断作用とセロトニン拮抗作用があるので、私たちの魔法で精製して《ヨヒンビン丹》を作るのっ」
ノエルは血走った目と荒い息で、まくしたてた。
「まったく専門バカは、これだから……。意味が分かるように言いなさいよ。けっ、ぺっ」
「つまりね、《ヨヒンビン丹》は性衝動を高めるの。これをしれっと板チョコに混入させて、嫁ちゃんに食わすのよっ」
「それって……」
「つまり……」
「ふ、ふふふ☆□▼⇒$%&#……。これは金になるわっ! ハゲ嫁で効果が立証できれば、どこに持って行っても言い値で売れる! 薄い本が厚くなろうというもの! ふふ、うふ腐腐☆□▼⇒$%&#……」
「それって、漫画とゲームが、夢のように買える!?」
「つまり、古魔法文書が、以下略!?」
「そうよ、店ごと買い占めるわよ。無垢の聖女さまが作ってる《メロメロ丹》より、やべーの作るわよ! あんたたちぃっ」

*****************

結論から言うと。
精製中に爆発炎上。
再度、精製に挑戦するもあれやこれやあって、研究所規範に《ヨヒンビン丹及び向精神丹取締規約》が追加された。

そして、ハゲがさらにハゲた。

そして、裏で《サキュバスの愛撫》と呼ばれる魔法丹が流れることになったが、出処はいまだ不明――

********************

こんにちは、すみません。
拾いまくってブン投げました。ごめんなさい。

[No.46205] 2014/10/07(Tue) 20:46:30

Re: 『腐女と喪女と僕』 (No.46205への返信 ) – ケスウ・ユジン・ヘイテ

ファッ!? まさか、格好いいと思って書いた薬品名を、上手くオチに使われるとは。
全編通して、腹がよじれそうな程笑いました。遠慮せずに、私も他の人の設定と絡めて楽しめばよかった、と地団太を踏まざるを得ません。
何というか、全部持って行かれた感が、すごいです。そこに痺れる憧れる!

[No.46207] 2014/10/07(Tue) 21:47:21

Re: 『腐女と喪女と僕』 (No.46205への返信 ) – ジジ

おつかれさまです。

> こんにちは、すみません。
> 拾いまくってブン投げました。ごめんなさい。

これは激しいシェアですね! ノエル女史、あきらかに入る派閥まちがえてますね……。
しかもなんだか魔法を超えた成分表が見えるかのような……丹って万能ですねぇ。

なにより、管理官、ついにハゲるという悲劇!
ショ糖の売れ行きも気になりますが、実にいいショートストーリーを見せていただきました。

[No.46210] 2014/10/07(Tue) 22:47:52

Re: ホアは虎彦を寝取りたい/キャラ二人/一人称/約4000字 (No.46204への返信 ) – ジジ

>  そうですね。作品のカラーは、多少の誤差はあってもこんな感じになります。

やはりそうでしたか。
筆になじみのある雰囲気だったので、得意な方面かなと思ったのでした。

>  何故かまだ未鑑賞なのですが、映画「レオン」のような話を、是非書きたいと思っています。

あのころのナタリー・ポートマンは奇跡のような子役でしたね。
また、ノワールものでもし未読でしたら、深見真氏の『ヤングガン・カルナバル(徳間文庫)』をぜひ。

>  ジジさんの作品や、参加した皆さんの小説に触発されて、つい私も掲示板のお祭りに混ざりたくなってしまいました。面白い企画、ありがとうございました!

もう1本……書いても、いいんですよ?

[No.46211] 2014/10/07(Tue) 22:54:05

Re: 『腐女と喪女と僕』 (No.46205への返信) – あまくさ

こんばんは。

ミニ企画の女王がついに降臨! 面白かったです。いつもながら、こういうの巧いですね。まさかリナまで拾ってくれるとは。

《冥府の料理人》は、原案もこんな感じです。研究所に何か問題がおこるとしゃしゃり出て、食物でコントロールしてしまう黒幕的な美女。怖れられてもいるけど、百合っけがあるのが弱点。そんなイメージでした。

[No.46212] 2014/10/07(Tue) 22:54:52

Re: 『瓦礫の隣で』 (No.46201への返信) – たなか

わをんさん、たなかです。
作品、楽しく読ませていただきました。
ロリババアっていいですよね……
ちょっと下品な話になるのですが、エロ漫画界ではロリババアが書きにくいそうです。理由は、「~じゃ」という口調で性欲が萎えるからだそうですが、むしろそこがいいのでは? と考える派の私としては、もっと流行って欲しいと思わなくもないです。
もっと人気が出れば良いなと思う、今日この頃。

ともあれ、楽しませていただきました。
キャラクター使ってくださってありがとうございました!

[No.46220] 2014/10/08(Wed) 00:35:52

食堂派の落ちこぼれ/キャラ二人/三人称/約1300文字 (No.46134への返信) – ねね

どっかーんっ!
物凄い音とともにモクモクと煙が立ち上る。
事件現場は、北西の建物の中にある北側の片隅。そこは通称「出来損ない」と呼ばれている。その名のとおり、食堂派の落ちこぼれたちの巣窟だ。
「ごふっ……けほけほっ……ふっくしゅん!」
犯人は、通称「出来損ない」の住人のひとり。爆発丹のルーアンだ。
「う、う、う……うわーん」
泣きながら台所を飛び出したルーアンの体に、どんっと衝撃が伝う。そのままばたんと後ろに倒れこんだ。
「あたしの進路を阻むなんていい度胸ね。出来損ないのくせに」
同じくその場に倒れこんでしまったらしい相手にじろりと睨まれて、ルーアンは体をすくませた。
それでようやく自分が、人とぶつかって倒れたのだと気づいた。
「カ、カイン……ごめん」
純研究派のカインは、研究所に来てたった一年の間でいくつもの呪文を開発した。
生活に欠かせない呪文ばかりで、実用度が高いうえにカインの声でなくては意味をなさないおかげで、研究所に莫大な収入をもたらしている。
実績が評価されたカインは、昨日14歳にしていきなり”ヒラ”から”ブチョー”に昇格したばかりだ。
『出来損ない』とは雲泥の差だ。
半袖の制服から伸びたカインの白く華奢な腕には確かにその証があった。”舞とぶチョウ”の印がキラキラと光っている。
「綺麗だね、それ」
ルーアンが素直な感想を漏らすと、カインはあからさまに侮蔑の表情を浮かべた。
「脳天気もここまでくると、呆れるわ。ルーアンなんて、やっぱり出来損ないがお似合いよ!」
ふんっと鼻を鳴らして、カインはくるりと体を反転させて、さっさと歩いて行ってしまった。
「わかってるよ。そんなになんども言わなくたってさ」
カインの姿が見えなくなったあとで、ルーアンはぽつりと力なくつぶやいた。
それにしても、どうしてこんな辺鄙な場所にカインがいたのだろうか。
ルーアンは、思わず首をひねる。
純研究派の研究室は、この食堂派の研究室とは真反対に位置する。
そもそも他派閥の人を見かけることも珍しいのに、カインとはここで偶然にしてはよく会っている気がする。
もしかして、僕に逢いに来ている、とか?
自分でそう思いついて、可笑しくなった。
「あははははーっ、……そんなわけないよなーははっ」
でも、最初からこんなに険悪だったわけではなかった。ここで最初の頃よく会っていたのは――、あれは、確かに逢いに来てくれていたのに違いない。
カインとルーアンは幼なじみだ。
ルーアンが魔法嫌いの親に反発して、魔法研究所に行くと伝えたとき、カインは泣きながら引き止めようとした。
ルーアンは、そんなカインを置き去りにして、ひとり魔法研究所の門をくぐった。
結局その後を追うように1年後に、両親を説得してカインも魔法研究所へとやってきたのだったが。
その後は、カインがめきめきと頭角を表すのと対照的に、ルーアンは、毎日台所で爆破音を響かせてばかりいる。
最初は、心配していたカインも、そのうち、ルーアンをバカにするようになった。
カインは変わってしまった。
それでも、研究所に利益をもたらすような丹をつくることができたなら、カインは、再会したときのような笑顔を見せてくれるだろうか。
――取り敢えず、爆発をなんとかしないと!
秘めた決意を胸に、未だモクモクと煙が立ち込める「出来損ない」へとルーアンは戻って行くのだった。

[No.46222] 2014/10/08(Wed) 01:39:34

Re: 食堂派の落ちこぼれ/キャラ二人/三人称/約1300文字 (No.46222への返信) – ジジ

おつかれさまです。

裏側にいろいろと語られない設定を感じるショートストーリーですね。ルーアンとカインの関係性や「出来損ない」の内部構成・事情などを、もう少し展開を見てみたいと思いました。
爆発というオーソドックスな「結果」の裏には理由や事情があるものと思いますので、それも知りたいところですね。

[No.46230] 2014/10/08(Wed) 12:36:00

●(更新3)お知らせスペース (No.46133への返信 ) – ジジ

なんとか2レスしました。
残りは明日の夜にがんばる予定です。

追:投稿してくださった方、もう少し詳しい感想など必要でしたらお気軽にレスしていただければと思います。
皆様が予想外に美しい短編を書いてくださるので、せめてもの誠意としてコメントさせていただきます。

[No.46231] 2014/10/08(Wed) 12:52:26

Re: ★お知らせスペース – あまくさ

お疲れさまです。
盛り上がってきたようで何よりです。面白い作品が集まっているので、このまま集合知で世界観を広げていけたら楽しそうですが、掲示板では限界もあるかもしれませんね。

詳しいコメント、ぜひ頂きたいです。酷評も歓迎。私も練習のためには手段を選ばない方ですので、忌憚の無いご意見を頂けるなら望外の喜びです。

[No.46237] 2014/10/08(Wed) 19:20:50

Re: 『瓦礫の隣で』 (No.46220への返信 / 4階層) – わをん

たなかさん、ありがとうございます。
最近ではロリババアと呼ばれるキャラ自体あまり見なくなりましたね
時流もあるんでしょうけど、寂しいものです。

こちらこそ、素敵なキャラクターをありがとうございました。

[No.46254] 2014/10/08(Wed) 23:27:45

Re: 『瓦礫の隣で』 (No.46203への返信 / 4階層) – わをん

ジジさん、感想ありがとうございます
自分は出版社はあまり詳しくないですが、少女漫画でも夏目友人帳や桜蘭高校ホスト部あたりは好きでした

シェアワールドは人のキャラクターをどのように書くか
自分のキャラクターがどのように書かれるかを楽しむものだと思っています
ジジさんの小ネタも楽しみにしていますね

ところでお知らせスペースを読みました
自分も、できれば詳しい感想を聞きたいです
この『瓦礫の隣で』と前の作品とで合わせて二作になりますが、どうぞよろしくおねがいします

[No.46255] 2014/10/08(Wed) 23:29:29

職人は破壊する :食堂派の落ちこぼれpart2/キャラ二人/三人称/約2450文字 (No.46230への返信 ) – ねね

二度目の爆発のあと、ルーアンは、その日の研究をあきらめた。
そろそろ夕食の準備に取り掛からなくてはならない。
夕食は、食堂派の仕事だ。美味しいご飯をつくることは、丹の精製とも関わってくる。これも修行のひとつだ。
ただし、ルーアンの担当は3日後の晩だ。
料理はいつも煮込み。煮込みにはちょっと自信があるからだ。
食堂派らしく他の料理ももちろん得意だと思っているけれど、煮込みだけは別格だと自負しているルーアンなのである。
(煮込めば煮込むほど美味しくなるから、本当はもっと前からつくりたかったのにな)
なぜか研究室の予約が立て続けにとれたせいで没頭してしまい準備が遅くなってしまった。――たぶん誰かが体調不良かなにかでキャンセルしたのだろう。季節の変わり目なのでそういうこともある。
一言に煮込みと言っても、ルーアンの煮込みは、毎回食材も味付けも変えてある。今まで一度も同じものをつくったことはない。
これまでの経験と、自分の舌を頼りに味を作り上げていく。
想像以上のものができたときは、なんとも言えない喜びがある。まだ、丹の精製では味わったことのない喜びを、夕食作りでは味わうことができる。
味は絶対間違いないものにしたい。
毎回3日くらい前に、一人分だけ味見用をつくっているほど気合が入っているのは、その喜びを味わいたいがためだ。
ルーアンは鍋つかみを手にすると、一人分の味見の入った鉄鍋をそろりと火から下ろした。
白い陶器の深皿に盛りつけたところで、ふと視線を感じてルーアンは何気なく振り返った。
「なあ……食いモン、ねーか?」
ルーアンよりも年上らしい男が、戸口にもたれかかるようにして立っていた。顔色があまりよくない。
見覚えはないので、派閥が違うのだろう。
モヒカンではないことになんとなくほっとしていると、ゴゴゴゴゴゴという地鳴りのような音が鳴り響いた。
「あー……くそっ、腹が減って死にそうだゼー」
どうしようとルーアンは狼狽える。
(あれは一人分しかない。あげてしまったら、味見ができない。それじゃ間違いのない味付けが完成しない。でも……このひと、本当に具合が悪そうだ。)
少しの逡巡のあと、結局放おっておくこともできずに、断腸の思いでルーアンは味見を差し出すことにした。
「……あの、ちょうど僕がつくったばかりの煮込み料理があるので、どうぞ入ってください」
夕食当番は、別にこれっきりじゃない。一度くらいいつもほどに完成されていないほうが、次の時の煮込み料理がより美味しく感じられていいかもしれない。
「ぃきょー!!ここまで来たかいがあったゼー!テンションマックスボンバーすぎてよー、ぶっ倒れてたもんだから、食いっぱぐれちまってよー。夕食まで待てそうにねーからマジ助かるゼー」
「上下派?!……モヒカンじゃないのに、上下派?!」
思わず声に出して言ってしまうほど、ルーアンは動揺していた。
一番ないと思っていたのに。
「ああ?知らねーの、おまえ。ダセーモヒカンなんつーのは、俺はとっくに卒業したっつの。上下派の最先端はなソフトモヒカンなんだゼー!ヒャッハー」
いきなりハイテンションで飛び跳ね出した。
上下派は、やっぱり、よくわからない人たちだらけだ。ルーアンはやや覚めた目でその様子を見つめる。
――このテンション、ついていけない。
そうは思いつつ、なんとなくソフトモヒカンと上下派の組み合わせに興味を覚えてうっかり問いかけてしまった。
「ソフトなモヒカンでも、テンションってあがるんですね?」
「ああ?いいから、早く飯食わせろ!」
”出来損ない”の壁をドカドカと蹴り上げ、パンチを食らわせる。ぱらぱらと煤が落ちてきた。
(すぐ暴力に訴えようとする……やっぱり上下派は苦手だ。)
でも被害は煤だけで、魔法の力で破壊力抜群のはずの上下派の武闘にも”出来損ない”はびくともしなかった。――常日頃、爆発とか悪臭とか、熱風にも耐えうるようにと、純研究派の実力者が数人がかりで強化魔法をかけているので、当然のことではある。落ちこぼれたちがこの”出来損ない”に集められるのはこの合理的な理由があるからだ。
「おい、早くしろよー!もうマジ待てねーゼ!」
これ以上煩わされたくないので、ルーアンは「はい」と、大人しく煮込み料理の皿を差し出した。
「もう、今なら、ゲロみたいにクッソマズイ料理だろうと美味しく食べちまいそうだゼ!」
(精魂込めてつくった料理を前にしてその例えはひどい。でも、すぐにわかるはずだ。お腹いっぱいだって、美味しく感じられるほどのものだってこと)
熱い料理を勢い良く口に掻き込んだかと思うと、次の瞬間ソフトモヒカンは、口元を手で覆った。そして、「おうぇえええええっ」と声を発しながら、そのまま元の皿へとリバースしてしまったのだった。
「もう、まったく。熱いのに、そんながっつくから」
ルーアンは笑いながら言う。
ソフトモヒカンは違う違うと必死に手と頭を振っている。目は涙目だ。最初見た時よりも顔色がさらに悪くなっている。
「ぃきょー!!お、おお、おまえかーーーー! ”破壊飯”の職人は!心と味覚を破壊するよーな忌まわしい飯を俺に食わせんじゃねーよ!」
「はい?」
ぱちぱちと二度ばかり、ルーアンは瞬きを繰り返した。言っていることの意味がわからない。熱さに怒り狂った上下派の言動は意味不明だ。
「こんなもんなー、こんなもん……重い魔法使う、テンション下げたいヤツくらいしか食うやついねーわ。あー、俺もー全然テンションあがんねー。もう今日は駄目だわー。寝るかー。……寝るしかねーっつの。ダメージデカすぎるっつーの、うううっ。今なら、重い魔法もズドーンとかましてやれそうだぜ。ううっ。そんな元気もねーけどな」
ソフトモヒカンはなぜか泣きながら”出来損ない”から出て行ってしまった。
「泣くほど、美味しかったのかな。あまりに衝撃的に美味しすぎて、ぜんぶ食べきれなかったんだろうな」
この事件以降、ルーアンは研究所内では、「破壊と爆発」で通るようになってしまったが、料理に関してだけは、妙にポジティブなルーアンは、自分の味覚と、腕がそれに関係しているとは露ほども考えていないのだった。
———-
ジジさん、はじめまして!

こういうのは初めてだったのですが、書いたものの意見を伺えるのはとても貴重だと思ったので、思い切って投稿してみました。

ストーリーはざっくり頭から終わりまであるのですが、
このまま書き進めると膨大な量になってしまって、
とても4000文字で終わらないなと思ったので、切りのよいところで終わってみました。

続きを書いてみたのですがどうでしょう。(またもかなりベッタベタで捻りはないのですが・・・)

これによって、爆発する理由が見えてくるという位置づけの話にしてみました。
——-

[No.46273] 2014/10/09(Thu) 00:48:17

★コメントです (No.46148への返信 ) – ジジ

それでは、時間の隙間隙間でひとつずつコメントしていきます。
よかった点は、以前の感想に書いたとおり、テンポのよい会話が物語を引っぱっていて、引っかかることなく読み進められたこと。また、キャラ分けと各人の役割分担がきちんとできているので、混乱することがなかったのもよかったですね。
この部分は武器になりますので、より磨きあげることを意識していきましょう。
課題点ですが、まず、今回は短いストーリーなので、「中心」になるネタを決めてほしかったですね。焦点が決めきれず、せっかくのネタが流れてしまっていると感じました。
中心に位置するネタがエロなら、聖女は最初から触れないか、もしくはキャラ配置の「ゲルト=ツッコミ」、「小ボケ=アイニッキ」、「大ボケ=ディアーヌ」を考えれば、設定上大ボケにしか使えない聖女をディアーヌとすげ替えるかしたほうがすっきりまとまるかと思います。
いらないネタは思いきってカットする勇気を。これはオリジナル作品の制作時にも非常に重要なことですので。

もう一点、ゲルトの能力が万能すぎるのは気になります。これはどのような作品にも言えることですが、「代償/制約」は、得られるものと比べて理不尽なくらい失うものを作るほうが映えるものです。
ものすごく小さな恩恵を受けるなら、差し出す代償もビスケット1枚でよいのですが、はっきりした恩恵を得るために必要な代償は指1本……というくらいの感じですね。ある一定ラインからいきなり代償のケタが跳ね上がる等の、極端な演出がよいかと思います。

[No.46277] 2014/10/09(Thu) 01:42:41
Re: 職人は破壊する :食堂派の落ちこぼれpart2/キャラ二人/三人称/約2450文字 (No.46273への返信 / 5階層) – ジジ

> ジジさん、はじめまして!
おつかれさまです。

> 続きを書いてみたのですがどうでしょう。(またもかなりベッタベタで捻りはないのですが・・・)
今のお話形態はまさに長い物語を切り取った一部分という感が強いですが、このようなショートストーリーの場合、やはり各話のテーマになるネタを定めるほうがよいですね。

1シーンごとに話を起こし、つなげ、転じ(もしくは次のシーンへの伏線を張り)、オチをつけることを心がけると、オリジナルの長編でもメリハリがつくようになります。

[No.46292] 2014/10/09(Thu) 08:25:09
★コメントです (No.46201への返信 / 3階層) – ジジ

構成的には今作のほうが決まっていますね。ゲルトが髪型を変えようかという冗談を言うシーンなど、派閥関係を臭わせるスパイスとしてうまく効いていますし、上下派の彼が人知れずがんばっている事実を書くことで、見た目どおりの存在でない上下派のことを読者に知らせられています。

ただ、オチがもう少し、振りに使われたネタ――この場合は惚れ薬とゲルトの能力――を反映したものになっているほうがよいですね。たとえば、人集めをがんばっている上下派の話も取り込んで、「ゲルトが代償を払って(この部分は前作へのコメントでも述べましたが、現状よりももっと大きな代償を支払うほうがよいと思いますので。前払いよりも毎回支払うほうが話も作りやすいですし)ホレ薬を探すより、ホレ薬を使って人を大量動員したほうがよいだろう。でも、そのためにはホレ薬を探す必要があり……」というようなオチの下敷きを作る等ですね。

[No.46294] 2014/10/09(Thu) 08:52:29
★コメントです (No.46166への返信 / 3階層) – ジジ

プラス部分については感想のとおりですので、ここでは割愛します。

あまくささんはラノベ志向であったと記憶していますが、現状でのいちばんの問題は「文章、構成、キャラ、すべてが成人(女性)向き」であるという点です。
特にキャラは、言葉づかいを始めラノベの主流からかなり外れた場所に位置しています。もう少し細かく言えば、人格が抑えられている――ラノベキャラの基本である、感情や行動の「むき出し感」が感じられないということになります。

ネタについても、やはりラノベとしては過剰な雰囲気重視になっていますので、ラノベを意識するならもっとはっきりとしたネタ(テーマ)を立てるべきですね。このお話で言えばジェシクと聖女のやりとりがなにを表わすのか、どのようなテーマがあってどのようなオチを見せるのか、それが読者に伝わらないまま終わってしまっています。
この、言い方を変えれば「雰囲気に流される」構成は、ラノベでは武器になり得ません。

読者対象層にとってわかりやすいネタづくりは必須になります。若年層を対象にするなら、明確なネタとオチを心がけるべきです。

余裕があるようなら、キャラとネタを意識したもう1本を見せてください。

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