ラノベ研シェアワールド企画6

この記事は約29分で読めます。

「シェアードワールド的なもの」2 (親記事) – ジジ

予想以上のみなさまのシェアの盛り上がりにより、前スレが大きく育ちました。
これ以上の需要があるかわかりませんが、とりあえず2本めを植えさせていただきます。

【世界設定】
どこかの世界のどこかの場所にある『魔法研究所』。
魔法を使う者の寄り合い所として作られたこの施設には、いろいろな場所から魔法を研究するため、さまざまな者が集まっています。その研究と人員の生活空間確保のため、施設の外周では常に改築と新築が行われています。

【研究所の派閥】
この世界において、魔法はけっこう普通に使える代わり、理論体系は確立できていません。魔法を使うための条件が、人によってちがうからです。
その中で、研究所の者たちは研究を進めるため、条件が近い者同士で派閥を作っています。まあ、派閥と言っても政治やら権謀術数やらが飛び交うような生臭いことは一切なく、派閥同士で協力しあう、互助会のような感じです。

派閥は大きく分けて4つあります。
●純研究派=普通に魔法実験や呪文開発、魔法発動の段取り研究などしている派閥です。見た目も行動もごく普通。常識的な者が多いです。ゆえに外の世界との橋渡しの役職に就き、苦労する者も。
●食堂派=魔法と融和性の高い食材の調理法を研究している派閥です。そこで開発された食べ物や飲み物はすべて「丹」と呼ばれます(相撲のちゃんこと同じ感じです)。副産物であるダイエット丹で超モデル体系を手にする者、味見の日々によってむっちり化する者の2タイプに分かれます。
●上下派=テンションを極端に上げることでエッジの立ったキレる魔法を使う派閥です。派生系に、テンションを極端に下げることで圧縮率が高く重い魔法を使う者もいます。その派閥傾向からマッド率が高く、また公式髪型としてモヒカン刈りが推奨されています。
●代償派=超越的存在に代償を差し出すことで、世界救済規模の大魔法を使う派閥です。非常に強力ですが、失うものがあまりに大きいため、派閥としては最小になります。

【研究所の有名人】
今のところ決まっているのは、代償派のふたりだけです。
・無垢の聖女=「壁なるツイナ」という古い存在と契約しており、最大で世界の1/4の範囲を守護できる防壁を生み出すことができます。
ただ、その代償として「心の年輪」を1枚ずつ剥がされてしまうため、18歳でありながら10歳程度にまで知性を落とされています。
彼女には師を同じくする仲の良い弟弟子がいますが、彼のことを、弟様をさらに縮めた「おとうさま」と呼び、慕っています。
・求愛の管理官=「ベレルの舌」という邪神と契約している中年男性。攻撃魔法から治癒魔法まで、必要に応じてなんでも使うことができますが、その代償は「愛する妻の、彼への愛情」。ちなみに彼の妻は研究所の大スポンサーの娘なので、妻の愛がゼロになって離婚されると研究所は解散の危機に陥ってしまいます。
研究所は便利な彼をできるかぎり温存しようと気づかい、彼は彼で冷めていく妻の愛をわずかでも取り戻すため、妻に尽くす毎日を送っています。
【物語のルール】
このシェアードワールドの目的は、「ひとつのシチュエーションを完結させる練習」です。小説はこのシチュエーションをより合わせてひとつの物語を作っていくものなので、そのいちばん小さな単位を作る練習をしましょうというわけです。

ですのでルールは、
●物語は4000字(原稿用紙換算で10枚)以内で完結
●明示されている設定は固定ですが、それ以外にどんな設定やキャラを出しても自由
●誰が作った設定でもキャラでも著作権フリー(応募作や商用への転用は禁止)

他の方の作品を読んで、感じ入ったキャラや設定を持ってくるも自由ですし、それはそれとしてパラレルなものを書いても自由、別設定をかぶせて潰しに行くも自由です。
この研究所で言う掌編の練習用お題なので、練習のためなら手段は選ばない方向で。

創作の合間の息抜きに、または作品づくりのための練習に、よろしければご参加ください。

[No.46405] 2014/10/11(Sat) 07:27:22
さすらい。あきない。はじらい。(改稿版) (No.46404への返信 / 1階層) – 雷

さすらい。あきない。はじらい。

「あ、いたいた」
魔法研究所内にある食堂にやってきたミラは、柱の陰で食後の休憩をとっているリナを見つけた。
「やっほ~、リナ」
「あんたがここに来るなんて珍しいわね」
リナは気だるそうな目でミラを見た。
ミラは笑いながら、リナの正面に座る。
「聞いたよ。上下派、純研究派、食堂派の三派合同で、大掛かりな魔法実験をしたんだって? 実験した研究員のひとりが、リナだったんでしょ」
「とんだ貧乏くじを引かされたもんよ。けっ、ぺっ」
リナは忌々しげに吐き捨てた。
「腐れノエルの、バカみたいな儲け話に乗っかったのが、運のつきよ。なにが『愛を取り戻せ』ミッションよ。ハゲ管理官をリア充にしたって、まわりのボンクラがまたハゲ管理官に下らない理由で魔法を使わせて、もとのモクアミになるのは目に見えてるってのに」
「そういえば、管理官の髪がまた薄くなったんだってね」
「知るもんか。そもそも、あんたが取ってきたヨヒなんとかのせいで、ノエルは実験を強行したんだからね。それでもって、わたしは爆発に巻き込まれて、火に焼かれそうになって、あやうく死ぬところだったのよ」
「あたしは、ノエルから注文された通りの品を手に入れて、届けただけだよ」
「間違いなく、諸悪の根源はあんただよ。ミラが買ってきた薄い本が、ノエルの趣味にばっちりハマって、あいつが本の購入費欲しさに実験を計画したのが、事の発端なんだから」
「あれはね、帝都で定期的に開かれるコミックマーケットで買ったんだよ。人混みを必死にかき分けて手に入れたんだから。ノエルに気に入ってもらえたなら、商人冥利に尽きるってもんよ」
「すっかり気持ちは商売人ね。もう“さすらいの魔女”から“あきないの魔女”にでも改名したらどうよ」
「その方が、今のあたしにはピッタリかもね」
「くそっ、イヤミが通じない!」
「リナは、さいきん調子はどう? 例の幼馴染は見つかった?」
「くだらない話をさせるな。けっ、ぺっ」
リナは、子供の頃に離れ離れになった幼馴染を探すために、魔法研究所に入った。
しかし、手掛かりがほとんど無かったために、すぐに幼馴染探しは行き詰まった。
ワラにもすがる思いで、ミラに頼み込んで、すべての研究員が記載されているという名簿を手に入れたりもしたが、その名簿も、ちっとも役に立たなかった。
名簿に載っているのが、研究員の二つ名ばかりだったからだ。
たとえばリナの場合は「超重力のリナ」と書かれていて、なんとか本名も分かるが、ミラの場合は「さすらいの魔女」と書かれているだけで、本名はまったく分からない。
しかも二つ名を持たない“名無し”の研究員は、名簿に記載すらされていなかった。
リナは何度も名簿を読み返したが、幼馴染の名前も、新しい手掛かりも見つからなかった。いつの頃からか、リナは幼馴染を探すことをあきらめてしまっていた。
「人間がみんな死ねば、この世の悲しみも苦しみも全部なくなって、わたしがこんなつらい思いをすることも無いのに……」
「人生はつらいことばかりじゃないよ。きっと楽しいことも幸せなこともあるから」
「リア充め。憎たらしい、ねたましい」
リナは溜め息をついてから、そういえば、とミラに問いかけた。
「あんたが前に話してた石の魔法使いとは、その後はどうなって――」
「あの、さすらいの魔女のミラさんですか?」
すこし控えめな声に振り返ると、女の子が、テーブルの横に立っていた。
「ええと、あなたは……」
「初めまして。わたしは上下派のディアーヌといいます」
はきはきとした元気な声で、ディアーヌは自己紹介した。
ちょっと声が大きくて、リナは耳をふさぎたくなる。
「リナさんは、さすらいの魔女とお知り合いだったんですね。知りませんでした」
「うん。わたしも、あんたのことは知らないよ」
「同じ派閥の研究員でも、お互いに顔と名前が分かるほど親密になるのは、珍しいことですからね。ちなみにわたしは、ずっと前から、リナさんのことを知ってました」
ディアーヌの口調には淀みが無く、視線はあくまで力強い。
リナは、心底から面倒くさそうな顔になった。苦手なタイプだ。
「おふたりに、お聞きしたいのですが――」
話を続けながら、ディアーヌはリナの隣に座った。
「違う派閥の研究員同士となると、なにかツテが無いと知り合うことは難しいですよね。リナさんとミラさんは、どのようにして知り合ったのでしょうか」
「あたしとリナも、同じ派閥だった頃は、お互い顔も名前も知らなかったよ」
「同じ派閥だった?」
ディアーヌはびっくりした。
「もしかして、ミラさんは上下派だったんですか?」
「大昔はね。でも、すぐに上下派を抜けちゃったんだ。いわゆる無派閥ってやつ。それから、あちこち旅しながら研究するようになったんだ」
ミラは、純研究派が開発する魔法アイテムや食堂派がつくる丹を仕入れて、それを“外”で売りながら、世界中を旅している。すると、いつのまにか“さすらいの魔女”というあだ名が付いていて、それが、彼女の正式な二つ名になった。
「リナと知り合ったのは、あたしがさすらいの魔女って呼ばれるようになって、すぐ後の頃だったよね」
「さあね、大昔のことだから忘れちゃったよ」
「リナはずっと人探しをしてて、あたしは、その手掛かりになりそうなものを手に入れて欲しいって頼まれたの。それが、あたしたちの出会い。結局、あたしはあまり役に立てなかったみたいだけど」
「そんなことがあったのですね」
ふむふむ、とディアーヌはしきりに頷く。
「石の魔法使いとは、どうやって出会ったんですか」
「石のって、キイスのこと?」
あまりにピンポイントな質問に、ミラはとまどってしまう。
ミラとディアーヌのやりとりに興味を示していなかったリナも、思わず身を乗り出した。こういうゴシップネタは嫌いじゃない。
「さすらいの魔女ミラは、純研究派の石の魔法使いと非常に親しいと、噂で聞きました」
ミラは照れ臭そうにする。
「まあ、親しいって言えば、親しいかな」
「いや、間違いなく親しいでしょ」
リナの指摘に、ミラの頬がすこし赤くなった。
「じつは、あたしが魔法アイテムや丹を売って旅の資金にするアイデアは、石の魔法使いが考えてくれたんだ」
「石の魔法使いが、ですか?」
「それは、わたしも初耳だわ」
「あたしはお金に困ってたし、石の魔法使いも、資金や研究材料を集めるのに苦労してたからね」
数年前のある日、石の魔法使いがミラを訪ねて、取引を持ちかけてきた。石の魔法使いが作り出した魔法石を、ミラが“外”で売り、そうして得た利益をふたりで折半しようと言ったのだ。
ミラと石の魔法使いは、それ以来の付き合いだった。
「ミラさんが旅から帰るたびに、石の魔法使いが住む塔に寝泊まりしてるのは……」
「石の魔法使いのそばにいた方が、仕事の話がしやすいでしょ。彼が論文を書いたりするのに忙しいときは、あたしが料理を作ってあげられるし」
「ああ、うらめしい、腹立たしい」
リナが明後日の方を向きながら毒づいた。
「ミラさんにとって、石の魔法使いは、あくまで仕事のパートナーということでしょうか」
「まあ、お互いに最良のビジネスの相手だとは思ってるよ」
「そこからどうやって、指輪を贈り、贈られるような関係になったのですか?」
「指輪――!?」
リナが絶叫しながら椅子から立ち上がった。
「指輪って、いったい何の……?」
「おそらく婚約指輪ではないかと」
ミラは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
リナはさらに質問する。
「その情報の出所は?」
「情報源は秘密です。ですが、信頼できる無垢な方からの証言ですよ。なんでも、ミラさんからの逆プロポーズを、石の魔法使いがその場で受けたとか」
あのね、とミラが口をはさんだ。
「その話、ちょっと違うんだけど……」
「ていうことは、大筋では認めるのね?」
リナの問いかけに、ミラは耳まで真っ赤になってしまう。
「えっと、『指輪が欲しい』って言ったら、『じゃあ、あげる』って言われて」
「それって、もう決まりでしょ」
「で、でもね、あたしははっきりちゃんと気持ちを伝えたわけじゃないの。キイスも、あたしのことをどう思ってるのか、分からないし……」
「リア充なんか、わたしの見えないところで幸せになればいいのに」
「そこで『爆発しろ』って言わないのが、リナの優しいところだよね」
「で、じつはここからが本題なんですけど」
「えっ、ここから!?」
リナは思わず聞き返してしまった。
ディアーヌは、真剣な眼差しをミラに向けながら、ゆっくり問いかけた。
「男の人のって、どれだけ大きくなるんですか?」
リナは目まいがして、あやうく倒れそうになった。
ミラは両手で顔を隠してしまう。顔を隠した両手は指先まで真っ赤になった。
ふたりの反応を見て、ディアーヌは慌てる。
「すみません! わたし、同年代でこういうこと聞ける知り合いがいなくて」
「だからって、よりによってほぼ初対面のミラに――」
「このあいだから、そのことが気になってしょうが無くて。ミラさんだったら、その、実物を見たことも、あるかなと。正直、彼とどこまでいってるんですか?」
「あ~も~大衆の面前でしかも大声で、そんな話をするんじゃない!」
「もしかして、腕の大きさくらいになるんでしょうか」
「そんなに大きくなったら、入るわけないでしょうが!」
えっ、とディアーヌは驚く。
「『入る』って、いったいどこにですか?」
「そんなことも知らないで、あんたは――!」
「どこまでいってるかというと、じつは、まだ手をつないだことも、なくて……」
ミラがもじもじしながら言うと、まあ、とディアーヌは目を輝かせた。
「それって、清い交際っていうんですよね」
「違うわね。踏むべき段階をすっとばしてるだけだわ。ミラも生真面目に答えるな」
リナは食堂を見回した。これ以上、人に話を聞かれたくない。
「場所を変えるわよ」
ミラとディアーヌの首根っこをつかんで、リナは大急ぎで食堂を出ていった。

———-(終)———-

またまたギリギリ4000字(汗)
こんにちは、雷です。せっかく書き上げたので、もうひとつ投稿します。
……詰め込みすぎたな。

> You、改稿したやつ、次スレに新規投稿しちゃいなよ。
時間を見ながらやってみます(笑)

今回は、あまくささんのリナちゃんと、
わをんさんのディアーヌちゃんを、勝手にお借りしました。
リナやミラの過去設定については、東湖さんの味付けを踏まえつつ。
他のみなさんの作品からも、すこしずつネタを借りています。

それにしても、俺の知らないところで、
“さすらいの魔女”がすごいことになってて、おもしろいですな(笑)

(追記)

ちょこっと書き換えました。

説明っぽいセリフをあちこちカットして
かわりに、リナとディアーヌのセリフやら動作やらを追加、
終盤をもうすこし膨らせました。

いまの俺にできるのは、ここまでだ……。

[No.46409] 2014/10/11(Sat) 09:22:51
賢者の石は何を思う (No.46404への返信 / 1階層) – ものものも

「リコル君。なぜその召喚獣がこれほどまでに攻撃的なのか、わかるか?」
「あっ、え!? ええっと」
魔法研究所内に造られた中庭――そこには様々な種類の植物が繁茂している。
動物達も多種多様で、時には研究所で造られたり、召喚されたりした魔獣が襲い掛かってくる事もある。
そう――今は戦闘の真っ最中。
リコル君と呼ばれた少女の目の前には、角を持った牛のような魔獣が息を荒くしていた。
少女の細腕は陶器のように白く、透き通るような水色の髪は、寸分の狂いも無く切りそろえられたショートヘアー。瞳の中には魔術印が施されている。
作り物のような体……というより本当に作り物だ。いわゆる“魔導人形”と呼ばれる物である。それゆえに頑丈で怪力。白く伸びた巨大な角の先端を、少女はその細い指先でがっしりと掴み、平然と押し留めている。足元でピシリと音が鳴った。綺麗に敷かれた石畳に、ひびが入るほどの力が加わっていた。
関節部分には継ぎ目もあり、機械的ではあるが、その皮膚は柔らかく、表情も柔軟に動く。やや焦り気味で苦笑いしている。
……その製作者はというと、彼女の背後で魔導書に目を落とす少年だ。
彼は至って冷静に言葉を投げかけた。
「召喚術というのは、対象を使役する為の処置を施す魔術でもあるのだよ。例えばこのように戦いを目的として組まれた召喚術ならば、召喚時に、必然的に、対象物の不要な感覚は切り捨てられるという事だ。つまり……」
「あ、あの~トネルネ様、長くなりますか? ちょっと色々ピンチなんですけど~」
トネルネと呼ばれた少年は「ふむ」と口元に拳をあて、モノクルの奥にある細い目を、一層細めた。
年季の入ったローブにすっぽりと身体を包み、後ろで結わえた髪の毛は、腰元まで伸びた白髪まじり。その身長は低く、リコルの肩ほどまでしかない。落ち着いた口調ではあるが、その声には幼さが残っている。
年齢不詳の少年は、パタンと魔導書を閉じリコルに命令を下す。
「その程度の相手に苦戦するとは思えんが……まあいい。許可する。さっさと処理したまえ」
「わかりました……この“牛さん”も勝手に連れてこられて戦わされるなんて、ちょっと可哀想ですね~」
「リコル君。きみは何か勘違いしているね。そもそも召喚にはいくつかの形式が……」
「すみませんトネルネ様。長くなりそうなので、後ほどお聞きします~」
リコルは話を切り、表情を硬くした。
関節の駆動部から青白い光が漏れ出し、リコルの瞳からは帯状の魔方陣が涙を落とすように這い伸びる。
そこに書かれているのは言語というより数式に近い。複雑で無機質な図形と数値が織り成す光の帯を体中に纏わせると、彼女の髪も魔方陣と同じように光を放ち、その頭部に円盤状の魔法陣が現れた。
そして、反比例するかのように、リコルの瞳は光を失っていった。
『対象確認 コレヨリ殲滅ヲ開始シマス』
リコルが発した言葉は、機械のように冷淡で抑揚が無い。これが本来の彼女の姿なのだろうか。
その間、トネルネは中庭と自身の周囲に不可視の結界を張りながら、リコルを無表情なまま観察していた。
――動き出すリコル。
角に指先が食い込み、ビキビキとひび割れ、砕け散った。
巨獣はそれでも食い下がろうとはしない。巨躯を持ち上げ、いななき、勢いよく押し潰そうとして――。
『プロミネンスサーキュラー起動』
リコルが空に手をかざすと「ジュッ」とか、「チュッ」とか、そんな小さな音がした。
本当に
ただそれだけで
魔獣の上半身が消失した。血は出ていない。焼ききられたように、断面は炭化していた。
ズズン……
巨躯は力なく地面に横たわる。
残った下半身も、やがて火が通ったように、煙と香ばしいにおいを漂わせはじめた。
『賢者ノ石 出力20%低下 通常モードニ切リ替エマス』
「ふうっ……それで、えっと、何のお話でしたっけ?」
「召喚の形式についてだ」
何事も無かったように、二人は話を始めた。
先ほどトネルネの張った結界が機能しているのだろう……中庭を覗く人影はこの事態に気付いてはいない様子だ。

「先ほどリコル君が可哀想だと言ったソレは、異界から呼び寄せられたのではなく、異界の獣を模しただけ――簡単に言えば“影”だ。つまりソレがこちらでどうなろうと、向こう側に影響は無い」
「え、影ですか? でもちゃんと肉がありますよ? しかもこんがりと焼けて、いいにおい~(つんつん)」
リコルは表情をとろんとさせながら。かがみ込んで、美味しそうな牛の丸焼き(魔獣)をつつく。
トネルネは気にせず言葉を続けた。
「それは本来の肉ではない。こちら側で召喚者が用意した器だ。生贄とも言うが……この匂いは、魔獣飼育棟の売店で販売されているマモノ肉か……大方、興味本位で召喚陣を使い、野放しになったのだろう」
「うう~、これ砂がついて食べられないですよ。もったいないです~……あ、こっちのはいけそうです」
「単なる移送陣であれば生贄など必要ないが、呼び寄せた召喚獣の制御は難しい。それに、戦闘目的であるならば、一度しか呼び出せないというのは大きなデメリットでもある」
「もぐもぐ……んっ、なるほど~。影をうつすだけなら、生贄をたくさん用意すれば何個でも出せますもんね!」
「そういうことだ」
話半分という様子で魔獣の肉を頬張るリコルだが、トネルネの話をしっかりと聞いてはいるようだった。
手を伸ばし、肉を掴むリコル。魔獣の身体は次々と彼女の口に消えていく。
――ある程度お腹を満たすと、彼女は立ち上がりトネルネに向き合う。
そして「んー」っと人差し指を唇に当て、考えはじめた。
「……ということは~。トネルネ様がこちらの世界に召喚されたのは、戦闘目的ではないってことですか?」
「それはわからん。だが、多数の制約を課されている現状、単に戦闘のみを目的に召喚されたわけでもないのだろうな」
「ふふふ。トネルネ様。前はもっとキツイ性格でしたもんね。身長だってこんなに小さくなって」
リコルは笑顔でトネルネの頭を撫で始める。
しかし、彼は別段気にする様子も無く、返答をした。
「何か言ったか?」
「いえいえ~」
「とにかく今は魔法研究所内を散策し召喚者を見つけ出すことが先決だ。このままフラフラしていたのでは拉致があかん」
そう言って彼は研究棟の方へ歩き出した。
「そうですね~。まあでも、私としてはこっちの生活も楽しいですし。別に今のままでもいいんですけどね~……今のトネルネ様。優しいですし(ボソッ)」
柔らかな表情を浮かべ、前を歩くトネルネにそっと背中に言葉を投げかけたリコル。
瞳の奥で魔法陣が揺らぎ、彼女は足を止めた。
「……」
戦闘用として造られた彼女が、この世界に召喚されたのは、元の世界で行方不明になった、創造主トネルネの手によってである。
当然そういう用途で呼び出されたと思っていた……だが、現状はどうだ……。
穏やかになったトネルネの後をついて周り。
道具ではなく、助手としての立場まで得て。
願う事ならば……このまま。
「リコル君。早くついてきたまえ」
「は~い」
そんなことを考えながら、しかしリコルが先ほどの戦闘に充実感を見出したのも事実であった。
魔導人形は考える。
今日も、安穏な日々の中で。
[No.46411] 2014/10/11(Sat) 11:44:28
会議はまわる、金がふる (No.46404への返信 / 1階層) – まーぶる

定員十人程度の小さな会議室。そこにある円卓では、四人が話し合っていた。
「我々純研究派はこれだけの予算を要求する」
髭をたくわえた大柄な男が言った。
「ちょっと、それじゃ、予算の七割が純研究派に行くって事じゃない」
髪をボリューミーなネジネジカールにした女が立ち上がる。
「ふん。研究には金が掛かるんだ。奇声をあげるだけの上下派に金なんて必要無いだろ」
髭の男はそう言って、自分の顎髭を撫でる。
すると、今度は犬が吠える。
「私達食堂派も、調理器具や食材などに結構お金が掛かるんですがね」
「ふん。犬っころの分際で」
髭の男が犬を睨み付けた。
「へえ、食堂派には喋る犬がいる聞いてたけど、思ってたよりずっと凄いや」
白のフードを被った男の子が、犬に顔を近づける。
「代償派の小僧。貴様の所も予算はいらないだろ。金を代償にするなんて話は聞いた事がない」
「『大髭の業突張り』の名前に偽りなしね」
上下派の女が座ってタバコに火を付けた。
「研究には資金がいるんだよ『上下派の掃除機者』様。ふん。ダサい名前だ」
「はあ?」
女の声に怒気が混じる。男と女が睨み合う。
「予算回さないなら食堂を有料にします」
全員が犬の方を向いた。
「ちょっと待ってよ。それなら、純研究派だけ有料にしなさいよ」
「食堂派は畑や家畜の飼育もやってるだろ。大体、調理器具だって何年も使い続けるじゃないか」
上下派の女と純研究派の男が口々に不満を訴える。代償派の少年だけはニコニコと笑顔を浮かべていた。
「色々と特殊で高価な食材もあるんですよ。特別な丹を作る為のね」
「むむむ。では、譲歩して純研究派は予算の七割から六割五分にしてやろう。その分を食堂派にくれてやる」
「結局、上下派には予算付かないじゃないの。いい加減にしなさいよ」
女の髪が浮き、ゆらゆらと揺れる。すると、天井からヒラヒラと何かが降ってきた。
「金、お札だ!」
少年が叫んだ。
四人が慌ててお金を拾う。全て合わせると、年間予算と同じくらいの金額になりそうだ。
「それだけあれば予算は十分だろ。貴様らには、それをやるから、予算は最初の通り純研究派が七割貰うからな」
純研究派の髭男の言葉に、食堂派の犬と代償派の少年は頷いた。上下派の女が高笑いする。
「あはははは。それアンタが貯めてたお金よ。じゃ、遠慮無く貰ってくわ」
そして髭の男だけが残された。

ども、全員新キャラでいきました

[No.46421] 2014/10/11(Sat) 19:43:07
★コメントです (No.46409への返信 / 2階層) – ジジ

真っ向からシェアードストーリーと向き合った良作ですね。
他の方の設定をあれこれ生かすのは大変ですし、ここまでやりきる覚悟と誠意をまずは讃えさせていただきたいと思います。

> ……詰め込みすぎたな。
この部分はそうですね。セリフが完全に説明になってしまっている部分がちょっと目立ちます。そういうときは逆に、キャラのしぐさなどを地の文で挟んで、ついでに説明文を短めにつけてしまうのも手です。

また、セリフの説明化により、ミラとリナの区別がつきにくくなっている感がありますので、意図的にわかりやすくするエピソードを挟んでしまいたいところですね。この場合、ディアーヌの役割をリナに渡し、オチの伏線を張ってしまうなどが考えられます。話し合いの端々に男の体について興味をのぞかせるリナ(指輪がらみで指の太さから始め、最後局部に行くという流れ)などですね。

> 他のみなさんの作品からも、すこしずつネタを借りています。
ここの部分はどんどんやっちゃっていきましょう!

[No.46425] 2014/10/11(Sat) 22:03:31
Re: 賢者の石は何を思う (No.46411への返信 / 2階層) – ジジ

おつかれさまです。

今まで出そうで出なかったスタイルのお話で、楽しく読ませていただきました。

この展開だと、トネルネさんの設定がまだかなり海面下に隠れているのでしょうか? その部分が海上に出てくると、バトルの意義と意味、加えてリコルさんとの関係性がわかりやすくなるかと思います。そのような感じの構成で考えてみていただくのもよいかと。

[No.46427] 2014/10/11(Sat) 23:17:56
Re: 会議はまわる、金がふる (No.46421への返信 / 2階層) – ジジ

おつかれさまです。

予算はね……どこの世界でも大変ですね。
取っておかないと削られるし、使わないと削られるし、使っても削られるし。なんだか理不尽な現実を思い出してしまいました。

食堂派ならステーキ丹、代償派などならなにかしらの代償による魔法など、プラス交換条件をちらつかせて他派を買収するような展開があってもよいかと思いました。

[No.46428] 2014/10/11(Sat) 23:22:48
Re: さすらい。あきない。はじらい。 (No.46409への返信 / 2階層) – わをん

どうも、雷さん
うちのディアーヌを使って頂いてありがとうございます
読んでいて、すごく自然な形で動いているのでびっくりしちゃいました

というか、ディアーヌもそうですがキャラクターがみんな活き活きとして感心してしまいます
恥ずかしがるミラの仕草なんか可愛くて目に浮かぶようです
自分は控えめなキャラクターが得意ではないので、雷さんから色々と学ばせていただきますね

[No.46431] 2014/10/11(Sat) 23:47:08
Re: 会議はまわる、金がふる (No.46428への返信 / 3階層) – まーぶる

ジジさん、返信ありがとうございます。

食堂派と代償派の二人にも、設定はありました。
ただ、今回は蛇足になるなと考えて削ったんですよね。
うーん、悩みどころです。

ちなみに設定は以下の通り


食堂派で飼われていた捨て犬。
純研究派の実験なのか、食堂派の丹が原因なのか、知能を得て正式な研究員になる。
以前、食堂派の人間が催眠丹により予算を巻き上げた事があり、食堂派は他派閥に警戒されてます。なので、最初から丹を出さない事を決めていた。もちろん私が。

代償派の少年
「恋する土の乙女」と契約した男の子。
代償は、嫉妬深い「恋する土の乙女」のご機嫌を取り続ける事。
恩恵は、術者に対する攻撃を、「恋する土の乙女」が全て身代わりに受ける事。土で出来ているので平気。
少年本人は、ご機嫌取りの為のデート費用が欲しかっただけ。予算については、あまり考えてない。上の人間から具体的な金額を指示されてたと思われる。

元から、強欲な純研究派から金を取る話として書いたので、入れるの諦めてました。難しいですね。

あと二人忘れてた。

髭男
珍しいアイテムのコレクター。
いつ高価なアイテムと出会っても良いように、金を貯めてた人。お金大好き人間。

上下派の女
怒りの対象者の大事なものを奪う事が出来る。その強さ、効果期間は怒りの大きさによる。物以外も奪う事が可能。愛とか若さとか。

[No.46435] 2014/10/12(Sun) 00:23:08
代償派になりたい! (No.46404への返信 / 1階層) – 名前はまだない

こんにちわ、名前はまだないです。
今まで文字数を気にせずに書いてきたバチが当たりました。書き終わった時、五千字を超えていて削るのが大変でした。
まだまだ拙い作品ではありますが批評をいただけると嬉しいです。

《代償派になりたい!》

私・フランシスカ=サイズは食堂派の研究員だ。最近、私には代償派になるという夢が出来た。
二ヶ月前、純研究派が実験に失敗し第三研究棟で大規模な火災が発生した。その時、代償派の『無垢の聖女』がいきなり火災の中に飛び込み、そして二人の研究員を救出して来たのだ。火の海から帰って来た彼女は無傷で、そして無垢な笑みを浮かべていた。
私はそんな彼女を見て、この人みたいな圧倒的な力で何かを守りたいと心の底から思った。だから私は代償派を目指す事にしたのだ。が、現実はそんなに甘くはなかった。
超越的存在と契約を結ぶ実力。魔法を使うのに払う代償。そして、その魔法を使いこなす自信。このどれもが私にはない。それを思うと気が引けてしまう事がある。
でも、大丈夫。火災の日以来、毎日努力を怠っていないし、無垢の少女と代償派になった自分を重ねた妄想をする事で代償派への憧れも忘れないようにしている。
いきなり現れ火災に飛び込み、研究員を救い出す。研究員を救った私に人が群がってくる。そして、感謝の声や私の力を絶賛する声に笑顔でこたえるんだ。
「――――ふふふ」
思わず声に出てしまい現実に引き戻された。顔がニヤニヤしているのに気付き、首を振って直す。そして、私は自分が丹を作り終えた事を思い出した。
この丹には乳房縮小効果がある。無論、私が食べるわけではない。というか、私が食べても無くなる胸がな――――うっさい……。
これは私の友人であるジェシカに食べさせるのだ。ジェシカは私と同じ食堂派の研究員で豊胸丹について研究している。男勝りな口調で良くも悪くも正直者。私はよく胸について馬鹿にされる。ちなみに、ジェシカは胸がでかい。ってな訳で、今日はいつもの仕返しにジェシカの胸を小さくしてやろうと考えたのだ。
丹はマカロンの様な形で、甘い匂いを発している。
「おお! いい見栄えじゃない! これならジェシカも喜んで食べてくれそう!」
初めて作ったので巧くいってよかった。今は気分がいい。誰だって新しい丹を作れるようになれば嬉しいものだ。まあ、それはよかったとして――――
「だいぶ汚れちゃったな……」
このからジェシカが遊びにくるのに、調理台の周りはかなり汚い。こんな部屋にジェシカが来たら、また馬鹿にされる。
なんだか、ほっぺにむず痒さを感じる。人差し指で撫でてみると、クリームが付いていた。
「顔に飛んだのにも気がつかないなんて……」
私は相当集中していたみたいだ。いつも集中して丹を作っているつもりだけど、本当の意味での集中とはこれくらいじゃなきゃいけないのだろうか。
己の未熟さを痛感しながら、指についたクリームをなめた。
「あまいなぁ……よしっ! パパッと掃除しちゃいますか!」
気合いを入れ直して後片付けを始めようとした時、自分の身体に違和感を感じた。なんだか体が熱い。それに力が入らない。そして私は更なる異変に気がついた。だんだん右手が小さくなり始めたのだ。いや、右手だけじゃない。体全体が徐々に縮み始めている。
「え? うそでしょ?」
もしかしたら、さっき舐めたクリームのせいかもしれない。顔にとんだクリームが既に丹として完成していたならば、一舐めで縮んでしまうこともあり得ない事ではない。
「だれか助けて……」
私はだんだん怖くなってきた。このままじゃ私が無くなっちゃう……。しかし心配には及ばず、人の手のひら位の大きさになった時、小さくなるのが止まった。
「止まったの? よかった……」
心の底から声が出た。が、まだ体の違和感は消えていなかった。縮んでしまった事もそうだけど、これとは違う、なにか身体が重たいような感じがする。違和感の正体は下を見てすぐにわかった。
「――――!?」
なんと、私になかなか大きい胸がついていたのだ。いや、これは嬉し……じゃない、これはなかなか凄い丹を作ってしまった。身体が縮んで胸が大きくなる丹なんて大発見かも。
それはともかくとして、これからどうしたものか。この体に合った服はないし、この後ジェシカも来る。それまでには元に戻らないと面倒くさい事になりそうだ。
その時、部屋の扉がバンっ! と派手に開かれた。
「おい、フラン! 遊びに来たぞー!」
ジェシカだ……。まだ約束の時間まで三十分以上あるのに。っていうか普通、他人の研究室に勝手に入らないでしょ! とりあえず、私は巨大な服の中に隠れた。
「あれ? いねぇや。匂いがしたからいると思ったのに」
さすがジェシカ、勘が鋭い。
「それにしても…………部屋汚ねぇな」
ムッ!
「――――うっさい!」
しまった。思わず叫んでしまった。
「なんだ、やっぱりいるんじゃん! 隠れてないで来いよ」
これはもうしかたがない。服を手に入れて顔を出すしかないか。
「わかった。出て来てあげるから床に落ちてる服の上にティッシュを一枚落としてもらっていい?」
「何か企んでんの? まあいいか」
ふさっと服の上にティッシュが落ちる音が聞こえた。ティッシュを服の中に回収し、そして身にまとう。そして、私は意を決して服の外にでた。すると、ジェシカがギョッとした顔でこっちを見ていた。
「なによ? なんか言いなさいよ。笑いなさいよ!」
「えーっと、じゃあ遠慮なく……あっはははは!」
本当に容赦ないな、こいつは……。
「いやぁ、なんで小さくなってんの? ってか、なんでおっぱいだけ大きくなってだよ! もうやめて! お腹が痛い!」
ジェシカの大笑いが研究室に響き渡る。そう、こいつはこういうやつなの。容赦がないの。
「もういい? 私、すっごく傷ついた」
「はあ、はあ……悪い悪い。もう落ち着いたから」
そうは言うが顔はニヤついていて今にも吹き出しそうだ。
「で? なんであんた小さくなってんの? 胸が大きくなっている所を見ると豊胸丹でも作ろうとして失敗した?」
「うっさい。違うわよ。えーっと、そう! ジェシカの為に丹を作ってたのよ! その時にちょっとね」
間違いじゃない。彼女の胸を小さくする為に作ったのだから。私は丹の方に指を指した。
「へー、これ? 普通に美味そうじゃん! でも私、フランと違って大きいおっぱいあるから、豊胸丹なんていらねぇよ? それに小さくなりたくねぇし」
「うっさい! 小さくならないし、美味しいから食べてよ」
ジェシカはオブラートという言葉を覚えた方がいいと思う、ほんとに。
「んー、でもなぁ。あ! じゃあ、フランが元の大きさに戻れたら食べてやるよ」
「ほんとに!? じゃあジェシカ、なにか案とか丹とかない?」
「えっ! 私が考えんのかよ! まあいいけど。丹は豊胸丹くらいしかもってないな。何か方法ねぇかな?」
こういう時、ジェシカは頼りになる。普段は冗談抜きで馬鹿にしてくるけど、困っている時は本気で力になろうとしてくれる。今だってまじめに考えてくれてるし。だから、私はジェシカを大切な友達だと思っている。
「そういえば、フランが作ったこの丹はどういう効果なんだ?」
「えっ……なんで?」
なるべく答えたくはない。こんな所でネタがばれたら仕返しが出来なくなる。ジェシカには悪いけど、それとこれとは別問題だ。
「いや、もしこの丹のせいで小さくなってんなら、この丹と反対の効果の丹を食べれば元に戻るんじゃないか?」
「おお! なるほど! 確かにそうかも!」
さすが、ジェシカ。あっという間に解決策を導きだしてくれた。私が食べたのは胸が小さくなる効果かある丹。っという事は、逆の効果がある丹は――――
「――――あ! ジェシカ、豊胸丹持ってるんだよね? 頂戴!」
「もし戻れる可能性があるなら、服の中で食べろよ」
ジェシカは豊胸丹を取り出し、私に渡した。こういう意外と冷静な所も羨ましい。危うく、私は素っ裸になる所だった。私は自分の顔と同じ位の大きさの丹を持って服の中に入った。
「じゃあ食べてみろよ」
「わかった! いただきます!」
私は丹を一気に食べきった。すると、私の体がムクムクと大きくなっていき、そして元の大きさに戻った。意外と私は怖かったのかもしれない。安心感から涙が出てきた。
「ジェシカぁー、元に戻れたよぉ」
私はジェシカに抱きつこうと手を伸ばした。しかし、ジェシカは体を折ってお腹を押さえながら震えている。そして――――
「――――ぷっ、あはははははは! もうだめ! 我慢出来ない!」
「――――!?」
ジェシカが顔を上げたと思ったら爆笑し始めた。突然の事に、伸ばした手も行き場を失ってしまった。
「なによ……? 何がおかしいのよ……?」
「だって、いま豊胸丹食べて大きくなったよな? じゃあ、あんたが小さくなったのって、おっぱいを小さくする丹を食べたからだよな? ってことは、丹が小さくするおっぱいを見つけられなくて、体を小さく……ぷはっ! あー、腹いてぇ!」
「なあ! 違うわよ! これは……その……」
言い訳が思い浮かばない。それに全部ばれてしまったみたいだ。
「てか、またおっぱい小さくなってるし」
「嘘っ!?」
下を見ると、そこは切り立った絶壁だった……。いや、落ち着こう。これは元からだ……。それより、おかげで思い出す事ができた。
「そういえば、私が元に戻れたらあの丹食べてくれるって約束したよね?」
「え? あー、その事なんだけど……そろそろかな?」
ジェシカが笑いを堪えて時計を確認する。嫌な予感しかしない。
「まさか……ジェシカ……?」
「うん、ドンマイ!」
ジェシカの声が聞こえたと同時に、私の体は煙を出しながら一気に小さくなった。
「もーう! どうなってんのよ! 私の体は!」
また胸は大きくなったけど体は小さくなった。ジェシカはまた爆笑している。
「あー、苦しい! 実はさっきあんたにあげた豊胸丹、二分しか効果ねぇんだ。どんまい!」
「えー! じゃあ私これからどうすんのよ!」
本気で困った。死活問題だ。
「うーん? まぁ良かったんじゃね? 夢の代償派になれた事だし」
「それどういう意味よ?」
「ほら、大きくなったり小さくなったり」
カチン!
「うっさーーーーい!」
(完)

[No.46436] 2014/10/12(Sun) 02:44:21

タイトルとURLをコピーしました