第4研究室 創作に関するQ&A 49P | トップへ戻る |
国下夏草さんからの質問  
 感情の裏付けは必要か?
 
 こんばんは、国下と申します。
 ふう、私大入試一週間切ってますよ〜。
 こんなことしてる場合か? なんて言われてしまいそうですが、
 少し気になることがありましたので聞かせていただきます。

 人間は感情を持つ生き物ですよね。
 それはまあ、多種多様なもので一言では到底表せないでしょう。
 ところで、強い信念―――を持つ人間でないにしても、時折激情を抱くことがあると思います。
 そんな感情には、裏付けが必要でしょうか?
 例えば、襲われている少女を暴漢から救う、とか、
 車に轢かれそうになった子供を飛び込んで助けるとか。
 あるいは逆に、自分の子供を助けるために人を殺す、とか………ですね。
 ふと思ったのは、正義感っていう感情なんですが、
 他人の身代わりになろうとするくらいの意志には、
 なんらかのトラウマとか原因を裏付けしたりする必要があるのかな……なんて思ったわけです。

 なんかグダグダですが、自分自身で整理のつかない問題なので、
 皆様の御意見をお聞かせ寝返れば幸いです。


●答え●

鈴忌さんの意見
 こんばんわ、鈴忌です。

 激情の種類によると思います。万人が共感しやすい類
 (ex.襲われている少女を暴漢から救う)とかなら、裏付けや説明なしでも大丈夫だと思います。
 ただ、「人を殺す」とか「人に恋する」という類は裏付けや説明がないと、
 読者としては唐突に感じてしまうのではないでしょうか?
 もっとも、そこの区別はなかなか難しいんですけどね……。

 ちなみに、とあるアニメ作品の話でこんな事例があります。
 その作品は「恋愛描写が薄い」ともっぱらの評判で、
 「主人公が恋に落ちた理由が分からず唐突に感じられる」とよく言われていました。
 そのため、監督インタビューの時に監督が「人間が恋に落ちるのに理由はいらない」
 とフォローの発言をしました。
 まぁ、正論ですし、監督なりにリアリティを追求した結果だったのでしょう。
 ですが、その発言を受けた別の作家がこんなことを言いました。

「しかし、その理由を納得がいく形で説明するのが我々の仕事だ」

 皮肉った発言ではありますが、鈴忌はちょっと感銘を受けました。
 一方的に、監督が悪いとは言いませんが、
 クリエイターの姿勢としては作家の言っていることの方が読者に親切だと思いませんか?
 特にラノベは純文学と違い、読者に行間を読むことを要求しないのが一般的です。
 ですから、作家の言うように「納得がいく形で説明する」ことが、
 ラノベ小説家には求められるのではないでしょうか?

 あと、正義感については、キャラが厭世的だったりクール系だったりしない限りは、
 裏付けなどがなくても読者は納得しやすいと思いますよ。
 読者が違和感を感じやすいのは、残忍なキャラなどがふと見せる正義感などのように
 「ギャップ」を含む場合だと思いますので。

 余談ですが「自分の子供を助けるために人を殺す」という事例を上げていらっしゃいますが、
 これは「人を殺す」という激情に対して既に「自分の子供を助けるため」という理由がついています。
 「自分の子供を助けるため」という理由は万人に理解されやすいので、
 この事例ならば、これだけでも説明としては十分ではないでしょうか?

 では、失礼いたします。


gazeさんの意見
 はじめまして、夏草さん。

 『惻隠の心』(かわいそうに思うこと。同情すること)
 説明をつけようと思えば、これが一番近いと思います。


 それはさておき実際のところ、何か事件が起きたとき、
 その瞬間、人間は何も考えていません。多分。
 というか、脳に血液が行ってないんです。
 これはFunctional MRIという機械を使うと判ります。
 例えば正義感の強い男が、暴漢がナイフで子供に襲いかかるシーンに遭遇したとしましょう。
 その光景が彼の目に入ると同時に、
 その画像データを受け取った脳細胞への血流が一瞬止まります。
 脳の活動に一瞬空白ができるのです。
 でもこの時、すでに彼の体は子供を助けるために何らかの行動を示しています。
 不思議と言えば不思議な話ですよね。
 もしかすると弱者を守るという行為自体が、
 人間の脳に予めインプットされているのかもしれません。
 生命の神秘、なのでしょうか。

 それはともあれ夏草さん、試験頑張って下さい。

(ちなみに上で「多分」と書いたのは、こは憶測であって実際には測定できてないからなんです。
 Functional MRIは人間が横になったまま中に入るタイプの測定器で、
 しかも大きさはキングサイズベッドを無理やり三段重ねにしたような笑えるデカさ。
 とっさの行動で脳がどうなっているかなんて、当然調べることができません。
 人の心に対しては、科学は結構無力です……。)


gazeさんの意見
 哲学・人間学的側面からお答えしましょう。蒼い人です。
 デカルトやスピノザという方々は感情の精微な考察を行う事で人間を把握しようと試みました。

 スピノザは欲望が満たされる「喜び」の感情表現が「愛」として表れれると言っています。
 逆に欲望が満たされずに「悲しみ」となる事が「憎しみ」という形になるのです。

 デカルトはもっとモラルに溢れていると申しましょうか。
 対象に肯定的な価値を置く感情が「愛」であり、
 否定的な価値を置くのが「憎しみ」としています。
 感情と欲望は、まず切り離して切り離した考え方です。

 二人とも、感情を生じさせる原因は外部にある、という事で一致はしています。
 つまり、感情は総じて受動的なのです。
 突発的な激情は、その最たるものでしょう。
 外部要因に突き動かされて、葛藤する余地が無くなっていますから。

 例えば、「キレる」を取り上げるにしても、二通り考えられます。
 一つは、情緒の形成が未熟で、自分が不快と受け取った対象を破壊しようとする意識に直結する。
 もう一つは、不快に多少堪えたものの、やはり答えが「対象の破壊」に帰結する。
 「キレる」というのは怒りそのものではなく、怒りの発散・解放の現象として私は捉えています。

>ふと思ったのは、正義感っていう感情なんですが、
 他人の身代わりになろうとするくらいの意志には、
 なんらかのトラウマとか原因を裏付けしたりする必要があるのかな……なんて思ったわけです。


 正義感とは何でしょうか? その「正義」は何に対して掲げられているのでしょうか。
 一見ですが、単に法律やルールを守らせようとするのは「法の番人」と同じです。
 そうする事が「仕事」の人です。
 この観点からすれば、人を殺す事なんてそうそう出来ません。
 職務外であれば殺人罪の適用は免れません。
 なので、あくまで外的なルールに沿った生き方では、
 殺人を経過させるプロセスはまず取れないでしょう。

 つまり、人を殺してでも他の人を救おうとするのは、
 外的な規範をそのまま受け取ってはいないのです。

 これはその人の内部に形成された規範、倫理というものが作用していると私は考えてます。
 よって、その倫理を形成する為に、
 「なんらかのトラウマとか原因」を裏付けに用いるのはかなり有効です。


 孟子の性善説は、端的に言えば「人間の本性は善である」としていますが、
 これは誤解を含みます。
 実際は善の素養があるだけであり、
 それらを伸ばす事で仁・義・礼・智の徳が完成する、という訳です。
 そこから、倫理を裏付けるものは「仁」や「義」の徳を伸ばす因子として見做せるでしょう。

 なので、何も考えずに正義漢となるのは無謀とも思えます。
 未熟な善を振りかざして、他人の為にと行動します。


 しかし、もしもそれで自分が怪我してしまったら? 
 きっと後悔するでしょう。「するんじゃなかった」と。
 自律的な人間はどんな結果であれ、甘んじて受け入れるでしょう。
 殺人を犯して刑務所に行こうが、構わないのです。
 その方が毅然としてカッコイイ人間として描けるでしょうし。

 よって、激情を一つ取っても、一概にそれは感情の賜物とは言えないでしょう。
 激昂は正に感情的な判断しか出来ていないでしょうが、
 正義感というのはある程度の内的な倫理に基づいた、理性的な判断が出来ていると思います。
 自らの倫理を信じて疑わず、反射的に行動出来る、という事で「突発的」に受け取られる。
 そうした行為は本人の要求を満たすものであり、ただ他人の為ではありません。
 助けた、というのは付属的な結果です。

 あくまでも自己本位であり、それでも立派だと称される人、それが正義の人です。
 とは言え、そうなるにはやはり経験が必要でしょうから、
 何らかの原因はやはり設置させるべきではないでしょうか。


飛車丸さんの意見
 少々気になったので一言だけ。

 助ける、という点に関してなのだけど、これには打算も何も無くて構わない時もある。
 困っている人がいれば助ける。この一点において理由は不要だと思う。
 でなければ――この掲示板で解答してくれる人も、
 何らかの打算の元に動いているということになる。
「人としてこうありたい」
 そういう信念は、人が人の為に動く理由になる。
 なんでもかんでも、コンプレックスやトラウマで片付けては、薄っぺらな人間になっちゃう。
 例えば、過去に重い病気を患っていて、それを治してくれた医者に憧れて、自分も医者を目指す。
 というのも動機として納得できるだろう。

 理由・動機になるものは、マイナス方向だけでなくプラス方向にも存在する。

 それだけっす。
 それではっす。

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