ライトノベル作法研究所
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  4. 現役下読みによるラノベ新人賞Q&A公開日:2013/10/20

現役下読みによるラノベ新人賞Q&Aその6

田中さんの質問2013/10/14

 何度も何度も申し訳ありません。
 最後の質問をさせてください。

 ずばり、ジジさんが求める作品とは?
 私たち新人賞投稿者に求めることとは?
 下読みは大変な仕事だとお聞きしたことがあります。それでも続けられるのには、何か理由があるのですか?

 それと、これは答えてくれると嬉しい程度の質問です。無視しても構いませんので、聞くだけ聞いてみたいと思います。

 新人賞のレベルが激化したと言われる昨今。私のように、作家になれるか不安な方が多いと思います。そんな私たちに何か一言いただけないでしょうか?

 お答えくださると、とても励みになります。
 何度も質問をして申し訳ありません。
 よろしくお願いします。

ジジさんの回答2013/10/14

> ずばり、ジジさんが求める作品とは?

 それはもう、他の応募作とは発想もキレもひと味ちがう「おもしろい」としか言いようのない応募作です。

> 私たち新人賞投稿者に求めることとは?

 めげないこと。それだけです。

> 下読みは大変な仕事だとお聞きしたことがあります。それでも続けられるのには、何か理由があるのですか?

 私の仕事のひとつがそれだからというのと、毎年その仕事が来る以上、そこそこは向いてるんだろうと思うからです。

> 私たちに何か一言いただけないでしょうか?

 これは――私あたりがえらそうに垂れていいことじゃないでしょう。
 ただ、私は20年近く投稿し続けてデビューした作家さんを知っています。小説ってやつはスポーツとちがい、脳が死ぬまではあきらめなきゃならない理由のないものです。
 投稿し続ける人には、投稿を止めた人とちがって可能性が常にあるわけです。
 なので、あきらめる勇気じゃなくてあきらめない勇気を持ちましょう。

ジジさんの意見2013/10/21

 いくつか補足をさせてください。

 書く側が示したはずの作品の武器がないがしろにされている応募作が多々あります。

 たとえばその応募作の武器が、オリジナリティあふれた魔法システムだとします。そして、最初に数々の設定を説明し、主人公などの人物がそれを使う描写をし、印象づけを行って、きちんとそれが本作の武器であることを提示できているとします。
 しかし、その武器がいつのまにか事件やキャラ同士のやりとりに押され、あってもなくてもいいような物になってしまう……そんな応募作が非常に多いのです。 

 序段でこだわって提示される要素には、読む側も「これがカギになって物語でおもしろい事件が起こる」と期待します。その期待に応えるため、徹底的にこだわることが必要です。

ジジさんの意見2013/10/21

 応募作として送ってはいけない作品にはいくつかのパターンがあります。

 ひとつめは「この謎は次の巻で明かされる」というもの。
 応募作自体は完結しているし、問題はないだろうと思って送ってくる応募者の方が実は多いのですが、伏線が応募作の中で完結していない以上、それは未完結と見なされますので、かならず途中で落とされます。

 ふたつめは「自分や読者の常識を当て込んだ作品」。
 メタネタやパロディというのがそれに当たるわけですが、賞にはかならずチェックポイントとして設定されています。
 以前ご質問でいただいた、ネット用語などもこのメタ、パロに引っかかるポイントだということです。なにせ応募者の方が考えついた世界観でもなければ、ネット民同士でなければ理解できない言葉遊びなわけですから。ただ、味つけとしてなら問題になるものではないので、程度問題ですね。
 また、このパロやメタは、プロにはゆるされることも応募者にはゆるされないことがある。という一種の信頼問題であることも重要です。

 さらに、歴史物は要注意です。既存の人物史や作品を「自分独自の目線で」書いたという応募作はどの賞でも常に何作かあるのですが、それらの作品が賞を取ったことは、私が知る限りひとつもありません。

 三つめは「作家が編み出した独自の組み合わせのインスパイア」。
 たとえば支倉凍砂氏の「狼と香辛料」があります。これは「ファンタジー+商売」という、ありそうでなかった隙間を埋めたすばらしい発想です。これが世に出て以後、この路線の応募作も増えましたが、ファンタジー+商売の図式である以上、どれだけよくできていたとしても「パクリ」としか判定されないのです。

 そして最後は、三つめともかぶる部分はありますが、最近増えている「西尾維新インスパイア」です。
 西尾維新氏は、「彼にしかできない独自の表現がある」作家です。ネーミングセンスしかり、キャラ立てしかり。
 剣と魔法のファンタジーや異能力者のいる近未来、具体的に言えば「バカとテストと召還獣」のようなリズミカルでおもしろい会話など、すでにフリー素材にされている世界観や作家のテイストというものは、書く側の必要に応じて分量を調節して取り込むことができるものですが、独自表現はこの調節ができません。キャラの名前が動詞や物の名詞だったり、心情描写よりも突飛なセリフまわしや行動で見せる西尾表現を借りれば、それはそのままパクリになってしまうわけです。

ジジさんの意見2013/10/21

 物語の構成や起伏を考えるには、ほかの方も述べておられましたが「プロ作品」を使うのは有用です。ただし模写ではなく、こんなふうにするとよいかと。

 まず「一冊で完結している薄めの文庫本」を用意します。
 次の場面に転換するまでをひとくくりとして、そのくくりの中で起こっていることを一行書きます。たとえば「○○と●●が△△についてバカ話をする」。そして、その横に気になる会話や文章(伏線になっている可能性がるもの)や、感心した表現などを書いておきます(これは単純に勉強のため)。
 これを繰り返していくと、その作品の構成がわかります。そしてどのように山と谷が描かれているかもおおよそわかるはずです。伏線もどこにどう張られているかも。

 これをおおむね10冊分も重ねれば、それなりのマニュアルができあがるものと思います。

ジジさんの意見2013/10/21

 日常物を書いているけれども、なかなか結果が出せない、評価されない(起伏がないと評される)という方も多いかと思います。

 これを改善するもっとも簡単な方法は、「キャラに役割を持たせること」と「舞台設定で山パートと谷パートを分ける」ことです。

 今回はあずまきよひこ氏の『よつばと! 』 で例えてみます。

 よつばと!世界は基本的に、家ととなりの家しかありません。これを日常とします。それ以外の外の世界は、非日常とします。

 よつばは物語の主人公で、「起点」になります。すべてのエピソードは彼女が発端となり、その後「トラブルメーカー」としての業務をこなすことになります。
 そこにとーちゃんという「事件を締める人」、ジャンボという「非日常への案内人」、ヤンダという「トリックスター」、となりの家の人たちやその他の人という「日常と非日常の橋渡しをする人」がからんできます。彼らの共通項は、よつばを「初めての体験」へ誘い、その中でよつばが感じたこと、行いに始末をつけることになります(その大半はとーちゃんの仕事になりますが)。オチはよつばがつけていながら、実は彼女の起こしたトラブルはまわりのキャラがそれぞれの役割に応じて回収しているわけです。
 そして、初めての体験という物語のテーマは常にありながら、非日常の話(アップテンポで動きが大きい)と日常の話(クールダウンの細かい事件)を交互に配することで、物語世界に山と谷を作っているのです。

 このように、キャラの役割と山と谷の舞台設定を明確に設定することで、かなり日常物の質の向上が望めるかと思います。

ジジさんの意見2013/10/21

 複数主人公視点は非常にバランスが取りにくく、難しいものですが、あえてそれに挑戦する場合は「中心点」に注意してみるとよいかと思います。

 ここで言う中心点とは、すべてのキャラクターの視点の中心となるもので、場所でも物でも信仰、思いでも、なんでもかまいません。

 たとえば石川博品氏の『ヴァンパイア・サマータイム』 という作品がありますが、昼に生きる人間男子の主人公と夜に生きる吸血鬼女子のヒロインが同じ学校の昼間部と夜間部に通っており、同じ教室の同じ席を使っているという設定になっています。

 その共通点をうまく機能させ、ふたりが昼夜のそれぞれの世界で同じ事件を追っていくという多人数視点を実現させています。
 しかも、その共通点から、しだいにふたりがそれぞれの中で相手を意識し、悩んだり悶えたりする恋愛ストーリーも楽しめるのです。

 共通点があれば、それを軸に多人数視点を機能させることが可能。この視点に挑戦される方はぜひご一考ください。

モンブランさんの質問2013/11/01

 はじめましてジジ様……で、敬称は的確でしょうか。モンブランという者です。

> そして最後は、三つめともかぶる部分はありますが、最近増えている「西尾維新インスパイア」です。

 とありますが、その内『キャラクターの名前が動詞や名詞』と『突拍子なせりふ回しや行動』、具体的な線引きというのは、ジジ様はどのあたりでなさっていますか?

 といいますのも私は大の西尾維新ファンでして、自覚できてしまうほどに彼の台詞の様式のようなものが染み付いてしまっています。
 無論台詞に関しては改善すべきだとは重々承知しています(地の文はそれほどでもないと思っています。あくまでも『思って』ですが)。
 ですがやはり彼のスタイル(ギャグセンスやせりふ回し、軽快な地の文等々)が素晴らしいのも事実であり、私としてはギリギリまで彼の独自色を薄めた上で、折角なら自作品に取り入れたいといった所なのです。……正直このあたり、自分でもどうすべきかよくわかっておりません。爆死乙です。

 ジジ様の文章を見た限りでは、そのまま彼のスタイルを拝借しない限りは問題ない、という風にも解釈できると考えているのですが……。
 身勝手な都合で申し訳ないですが、ジジ様個人の観点で良いので、「西尾維新インスパイアであるかないか」のボーダーラインを教えてはいただけないでしょうか。

ジジさんの意見2013/11/01

 自分が一度関わると、ちらちら来てしまいますね。自分以外の方の意見を見るのが楽しいです。

> その内『キャラクターの名前が動詞や名詞』と『突拍子なせりふ回しや行動』、具体的な線引きというのは、ジジ様はどのあたりでなさっていますか?

 たとえばキャラの名前が「殴打」やら「読本」やらだったりすると地雷臭を感じます。
 言動については範囲が広くて例を出しにくいのですが、ネーミングに加えて西尾氏が今までに書いてきたような出だしが来れば確信します。

> といいますのも私は大の西尾維新ファンでして、自覚できてしまうほどに彼の台詞の様式のようなものが染み付いてしまっています。

 応募作で西尾氏風のものをよく見かけるわけですが、その中でテイストを程よく継承できてるものは一作もありません。
 そのくらい西尾氏の書く設定、言動、描写にはクセがあります。

 ですので、西尾インスパイアは、基本的に「絶対避けるべきもの」であり、線引きに関しての私の基準は「西尾センスが感じられるものは基本的に地雷」となります。

 以上のような感じですが、なにかあれば重ねてご質問ください。

モンブランさんの質問2013/11/01

 返信ありがとうございます。

> たとえばキャラの名前が「殴打」やら「読本」やらだったりすると地雷臭を感じます。

 名詞の名前といっても色々あって、中でも西尾維新氏は特徴的な物が多いですよねえ(笑)。クビシメロマンチストの『むいみ』さんとか、めだかボックスの『形』君『恋』ちゃん兄妹とか。物語シリーズの『余接』『余弦』『正弦』も入りますかね。あるいは言葉遊びそのものな悲鳴伝の『空々空』くんとか。
 「~する」という動詞の一部(殴打であれば『殴打する』の一部)だったり、本来人名に使われる名詞として不適切だっ たり、姓名全体を見た時言葉遊びになっていたり…………といった例が『西尾維新的』なのでしょう、恐らく。最後の例は戯言の西東天、想影真心なんかも入りますかね……

 出だしには特に注意しようと肝に銘じます。物語シリーズの最初の語りが大好きなんですよ私。その分それに似せないよう尽力しようと思います。

> 応募作で西尾氏風のものをよく見かけるわけですが、その中でテイストを程よく継承できてるものは一作もありません。
> そのくらい西尾氏の書く設定、言動、描写にはクセがあります。

 目からうろこです(驚愕)。確かに彼に似た作風の新人さんを見ないとはかねがね思っていましたが、そういう訳だったんですねえ。
 似た作風はむしろそのものになってしまうからこそ見る機会が無かった、と。
 言動描写に設定……戯言然り刀語然り伝説シリーズ然り、ぶっ飛んだ、頭のおかしいと言われんばかりの奇抜な世界ですものね。鎧型の刀とかもう反則だろうとアニメ放映当時は思ったものです。

> ですので、西尾インスパイアは、基本的に「絶対避けるべきもの」であり、線引きに関しての私の基準は「西尾センスが感じられるものは基本的に地雷」となります。

 成程。
 他の作家さんの作品を読んで、インプットが偏らないよう努力します。自分の場合は特に文章が似通ってしまっていると感じていますので、他の文体をインプットしてみます。設定に関しては……何度も練り直して改善してみましょう。

 一西尾維新ファンとして、また物書きを志す者として非常に有意義なご意見でした。ありがとうございました。

ジジさんの意見2013/11/02

 蛇足かとも思いますが、モンブランさんは賞に応募される方だと思われますので、いちおう補足を。
 「好きな作風に似せない努力」よりも「モンブランさんの作風」がなんなのかを考えるべきかと思います。

 なによりも、モンブランさんの作品の売りはなんでしょう?

 それが西尾氏風味なのであれば、結果を出すのは非常に困難であると思われます。なにせ私の知る限り、西尾インスパイアの応募作が一次審査を通過したことは一度たりともありません。
 これは当然のことで、出版社は西尾維新2号を求めてなどいないからです。
 プロになりたいという気持ちがあり、それに挑むならば、いかにして他者(プロアマ問わず)とちがう、独自性を打ち出せるかにこだわるべきです。

 好きな作家は読むに留め、まずは自身の売り・武器がなんであるのかを考えてみてください。

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