ライトノベル作法研究所
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  4. 下読みがラノベ新人賞の疑問に答えます公開日:2014/01/06

下読みがラノベ新人賞の疑問に答えます。その4

ふねのるさんの質問2014/01/07

 選考で上にあがる方というのは、皆さんがジジさんのように分析的な読み方ができる能力をお持ちなのでしょうか?
 ジジさんのおっしゃる「応募作の長所短所を洗い出せる読解力と、それを伝えられる文章力がある」を借りて言えば、自作の長所短所を洗い出せる読解力、ということですが。

ジジさんの回答2014/01/08

 おはようございます。

> 選考で上にあがる方というのは、皆さんがジジさんのように分析的な読み方ができる能力をお持ちなのでしょうか?

 選考で賞を取るだけなら、別に分析力は必要ありません。
 その年度における「今感」があり、他作品よりもプラスもしくはマイナス方向に熱量や勢いが高く、応募者の方がのめり込めているのが見て取れるような作品であることのほうが重要かと思います。

 分析力が必要になるのは、いわゆる二次や三次の常連組……毎回評価シートを受け取りながらも受賞に至らない応募者の方ですね。
 なぜ受賞できないのか、それをシートから分析しきれないからこそその位置に留まっているわけですので。

 また、デビューできてもなかなか売れることのできない作家の方にも、この分析力は重要ですね。なぜ自分が売れないのか、作品のなにが悪いのかを判断する必要がありますので。
 ついでに言えば、作家やクリエイター外の編集者やライター系は、この能力が低いと使い物にすらなりません。

 ともあれ、賞の応募作では直感や感性が要求され、その次からはいきなり冷静な目やら分析力を要求されるわけですから、作家という職業は本当に難しいものです。
 それを置いておくとしても、人間は自分のことを冷静に見るのがいちばん難しい。私にしても、当事者でないからこそいちおうは分析的だと思っていただけるような視点を保てているだけのことです。
 当事者が自分に冷静になれ、分析しろ、と促すのは、他人の想像をはるかに超える難題ですし。

 ……すみません。ちょっと言葉を絞れなかった感じですね。
 不明点等あれば重ねてご質問ください。

寝子さんの質問2014/01/08

 ストーリーとキャラ、どちらかに重点を置くのならばどちらがいいのでしょうか?
 両方に力を入れられるのならばそれがベストなのでしょうが、両方に力を入れられるほどの力が無いもので……。

 主人公が引きこもりのため、前半、もしかしたらラスト以外のほぼ全てを家という狭い空間のみで物語を進めていく形になってしまうのですが、そうするとラストまでがどうしても単調なものになってしまう気がしてなりません(もちろんそうならないように手を尽くしてはいますが)。
 しかし、容易に主人公を外に出してしまうと引きこもりであるというキャラが崩壊してしまう、という状況なのです。

 キャラを取るとストーリーに、ストーリーを取るとキャラに、それぞれに問題が残ってしまいます。

 ほかのキャラを使って外での出来事も、と考えたのですがそうすると主人公がぶれてしまいそうだったり、かといって三人称にしてしまうと、心情描写が難しくなってしまうような気がしますし……。

 とまあそんな状況なのですが、この程度でしかお伝えすることが出来ませんが申し訳ありません。

ジジさんの回答2014/01/08

 おつかれさまです。

> ほかのキャラを使って外での出来事も、と考えたのですがそうすると主人公がぶれてしまいそうだったり、かといって三人称にしてしまうと、心情描写が難しくなってしまうような気がしますし……。

 こちらも内容を正しく把握できていない状況ですので、寝子さんのお悩みを晴らすような案が出せるとは思い上がれませんが。

 やはり「外での出来事」を、「ほかのキャラ」に持ち込ませるのがベターなのではないかと思います。
 主人公の引きこもりの度合いにもよるのですが、家族とコミュニケーションがとれ、トイレやフロは家のものを使える感じであれば、父母兄姉弟妹が次々事件や話題を主人公の部屋に持ち込んでくる。それを主人公がはからずも解決してしまう、もしくは家族や事件の当事者の納得させてしまう、それがエンディングの「外へ……」につながるような構成はひとつアリなのではないかと。
 ひきこもり探偵を主人公(ヒロイン?)に据えた坂木司氏の『青空の卵(創元推理文庫)』などは参考になるかと思われます。

 主人公のひきこもり性を保ち、且つ起伏を持ったストーリーを構築するには、他者ないし外の出来事と主人公が繋がることのできるコミュニケーションツール(主人公と物語世界を繋ぐ橋になるもの)が存在しないと非常に難しいものと思います。
 コミュニケーションツールとして、現状でもっとも簡単に使えそうなものが家族、その他であればネット、窓から見える風景(いつも同じ時間に通りかかる人など、その人に変化が起こることで主人公になんらかの情報がもたらされる存在)などでしょうか。

 ふわっとした回答ですみません。
 不明点等ありましたら、重ねてご質問ください。

寝子さんの質問2014/01/08

 いえいえ、おかげさまで大分方向性が固まってきました。
 不明点とは少し違うのですが、無いのですが引きこもり主人公というのは、上手く扱えば武器(オリジナリティー?)になるものでしょうか?

ジジさんの回答2014/01/08

 なります。

 一般・ラノベ問わず、応募作にはこのタイプの主人公が、多くはないですが一定数います。
 しかし、それが評価され、最終候補まで残ることはなかなかありません。理由は簡単で、ひきこもり主人公に自らアクションを起こさせるのは難しいので、物語がうまく転がらないからです。
 だからこそ、その難しい要素をうまく転がすことができれば、それは強い武器になるというわけです。

 そしてこの、うまく転がらない問題の対応策ですが、まずは主人公が自分の部屋の外と繋がる方法を用意したうえで――
 送る先がラノベの賞なのであれば、かなりコミカル(少なくとも笑えるネガティブ)におひとりさまな状況にいる主人公を悶絶させ、(存在するなら)まわりのキャラも表情やアクションをとにかく大きくして、物語を煽ることを心がけてください。
 一般の賞に送るなら、主人公が抱える「ひきこもりの理由」、「ひきこもり続ける中で生じる心の変化」を心情劇として多数練り込み、読者の心のどこかを共感させられるキャラづくりに徹するのがいいかと思われます。

 すでに取り組まれていたら申し訳ありません。
 なにかありましたら、また重ねてご質問ください。

るっちんさんの質問2014/01/08

 ジジさんにストーリーの追加質問なんですが、ラノベのストーリーや構成でチェックすべきポイントを教えてください。

ジジさんの回答2014/01/08

 おつかれさまです。

> ジジさんにストーリーの追加質問なんですが、ラノベのストーリーや構成でチェックすべきポイントを教えてください。

 大ざっぱに言ってしまえば、
1.物語が最初の10枚程度の文量できちんと「始まり」として完成しているか(読者を惹きつけるだけの設定・キャラ・しかけが提示できているか)?
2.中盤を越えるまでに、読者が作者の提示した設定・キャラ・しかけを好きになれているか(そのように演出できているか)?
3.妙に思わせぶりな伏線や謎を、エンディングまで残していないか?
 です。

 構成自体は書く方個々のやりかたがあるかと思いますのでコレということは言えないのですが、ストーリーラインから推敲する場合、この3点がチェックの視点になるかと思われます。

ふねのるさんの質問2014/01/08

 ジジさん。こんばんわ。

> 選考で賞を取るためには、別に分析力は必要ありません。
> その年度における「今感」があり、他作品よりもプラスもしくはマイナス方向に熱量や勢いが高く、応募者の方がのめり込めているのが見て取れるような作品であることのほうが重要かと思います。

 正解は一つではないということを前提に、最初から正解(ひとつのすごい形)が出せた人にとっては、分析力は必須ではないということでしょうね。
 場合によっては、受賞作がその方の「生涯の一作」「偶然の傑作」なのかも知れませんし、それこそ天然の天才なのかも知れませんし。

> 分析力が必要になるのは、いわゆる二次や三次の常連組……毎回評価シートを受け取りながらも受賞に至らない応募者の方ですね。
> なぜ受賞できないのか、それをシートから分析できないからこそその位置に留まっているわけですので。
> また、デビューできてもなかなか売れることのできない作家の方にも、この分析力は重要ですね。なぜ自分が売れないのか、作品のなにが悪いのかを判断する必要がありますので。

 正解を最初から出せない場合は、自己改善をして(自分なりの)正解に近づいて行くことが必要で、その改善プロセスの一部として分析力が必要になるということでしょうね。
 募集する側の立場で考えると、作家は最初から作家の完成形なのではなく(そういう方もいらっしゃるかもしれませんが)、編集と一体となった改善プロセスの中で作家として成り立っていくものだという認識でしょうか。評価シートを渡すという仕組みもそのための手段であると。

 しかし、年月をかけて作家を育てていたらしい昔と違い、大量デビュー、大量フェードアウトの時代には自己防衛して生き残るしかないという面が強いのでしょうね。

> ただ、人間は自分のことを冷静に見るのがいちばん難しい。私にしても、当事者でないからこそ分析的な視点を保てているというだけのことです。
> 当事者が自分に冷静になれ、分析しろ、と促すのは、他人の想像をはるかに超える難題ですし。

 私も質問を書きながら、「応募作の長所短所」と「自作の長所短所」が同じレベルのことであるかのような書き方しかできなくて、自分の質問は重要な点を避けてるなと思っていました。すみません。

 選者の方の評価シートが現状の問題点を指摘しても、応募者の側の自己改善プロセスが貧弱であると、なかなか機能しにくいだろうなと思います。悪い知らせを受け止め、正しく認識し評価し、問題の根源を見つけ、改善方法を立案実行し、結果が出るまで効率よくプロセスを回す、と口で言うのは簡単ですが。
 作家に編集者がつく理由のひとつは、単独では難しい自己改善を他人を媒介にして回転させるためのものなのかなと想像しています。しかし、そこへたどりつく前は、貧弱であってもなんとか自前の自己改善プロセスでやりくりする必要があるわけですね。

> 不明点等あれば重ねてご質問ください。

 お言葉に甘えまして。
 ジジさんの一連の分析を読ませていただきますと、
1・視点、心情、テーマなどの創作の諸要素が作品の上でどのような相互作用を起こすかという、有機的関係を前提にしたモデル分析が巧みである。
2・新人賞における、世界観、構成、設定、キャラなどの相対的競争力要因の重みづけ評価が明快である。
 という点に特に印象を受けました。

 これらをどのようにして身に付けられたのか、差し支えない範囲で結構ですのでお教え願えないでしょうか。
 できれば、教育機関に通う機会も企業内訓練の機会もない人間でもアプローチできるような、一般的な方法を示唆していただけますと幸いです。

ジジさんの回答2014/01/08

 おつかれさまです。長ったらしい私の言い分をひとつひとつ丹念に読み取ってくださり、ありがとうございます。
 まさにそういうことが言いたかった! と、うれしいかぎりです。

> 募集する側の立場で考えると、作家は最初から作家の完成形なのではなく(そういう方もいらっしゃるかもしれませんが)、編集と一体となった改善プロセスの中で作家として成り立っていくものだという認識でしょうか。

 出版側の立場で付け加えると、今回送ってきてくださった応募者の方に次回も送ってきてほしいと願うからこそ、評価シートを送るのです。
 評価シートというものは、編集部選考(大抵は最終選考のひとつ前)に上がるまでは、ほとんどの場合下読みが書きます。そしてこのシート作業がある賞は、読むだけの賞よりもギャラがかなり高くなります。
 ある意味、出版社による応募者の方への先行投資とも言えるわけですね。
 そして、それにけして安くない資金を投入してでも、出版社は次の新人作家が欲しいわけです。
 だからこそ、応募者のみなさんは書き上げた作品をどんどん賞に送ってください。と言いたくて、身バレを激しく恐れつつもこのようなスレを立てさせていただいています。

> ①視点、心情、テーマなどの創作の諸要素が作品の上でどのような相互作用を起こすかという、有機的関係を前提にしたモデル分析が巧みである。
> ②新人賞における、世界観、構成、設定、キャラなどの相対的競争力要因の重みづけ評価が明快である。
> これらをどのようにして身に付けられたのか、差し支えない範囲で結構ですのでお教え願えないでしょうか。
> できれば、教育機関に通う機会も企業内訓練の機会もない人間でもアプローチできるような、一般的な方法を示唆していただけますと幸いです。

 私が言う順位と当然ちがってかまいませんので、まずは物語を構成する大まかな要素である設定・キャラ・ストーリー・世界観などを、自分が重視したい順に順位づけしてみてください。
 そして自分が他人にオススメできるほどおもしろいと思う既存の作品を読み、なにがどのくらい重視されているか(単純な点数つけだと、途中で自分がつけた点数の根拠を見失い、作業が止まってしまいますので、5段階評価くらいで0・5もアリくらいのゆるさで)を測ってみます(便宜上、この作業を「計測」と呼ぶことにします)。
 この手順で何冊か計測すれば、「自分がどのような物語構成に惹かれるか?」がわかり、ひとつの「指針」ができます。

 その上でヒット作と呼ばれるものを何冊か、同じように計測してみてください。コメディ、異世界ファンタジーなど、同じジャンルにある物語であれば、ある程度の精度で平均点が導き出せるはずです。それが「読者や編集が求める魅力」のモデルになります。

 最後に自分の指針とモデルを突き合わせ、ちがいを比べてください。分析するべきポイントが多数出てくるものと思います。

 と、このような感じですがいかがでしょう?
 不明点でも新しい疑問でも、なにかありましたらまたお気軽にご質問ください。

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