ライトノベル作法研究所
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  4. タイムトラベルで過去へ行こう公開日:2014/09/23

タイムトラベルで過去へ行こう

 ダン・シーネンさんのコラム 2014年09月14日

 ターミネーターシリーズに限らず、バックトゥザフューチャーシリーズなど、SF性のある作品では『タイムトラベル』 がよく取り上げられる。ドラえもんもそうだし、古い海外TV作品ではタイムトンネルなどが有名らしい。未来へのタイムトラベルは問題ない。相対論は可能としている。

 常に問題となるのは過去へのタイムトラベルである。現在があるのは過去が連綿として続いてきたからで、原因と結果のつながりの連続である。原因が先で結果が後ということを『因果律』と呼んでいる。ボールが飛んできて、ガラス窓に当たってガラスが割れる。

 ボールをガラス窓に向かって投げたのが原因、ボールがぶつかって窓ガラスが割れるのが結果。そうなるのが当たり前なので「ガラス窓に向かってボールを投げないようにしよう」と気を付けることができるわけである。この順序が逆になるようだと困る。

 まず窓ガラスが割れてしまう。まだガラスが割れる原因は何もない。その後、ボールをガラス窓に投げつけるわけである。これは気を付けようがない。むしろ窓ガラスが割れたら放置せず、原因を作ってやらねばならない。そうでないと、宇宙に矛盾が生じる。

 矛盾が生じるような宇宙は不安定であるので、いつ消え去ってもおかしくない。この宇宙を守るためには、常に戦々恐々として原因のない現象(結果)を探して、もしあったら原因を作ってやらねばならない。ガラスが割れたら、すかさずボールを投げつける。

 そんなことは人類が知る限り、未だかつて起きたことがなく、因果律は経験則ながらも盤石の観があり、安心して暮らせるわけである。何もしなければ何も起こらない。間違わない限り、概ね予測通りの結果を得る。予測という行為が因果律に基づくからだ。

 ところがタイムトラベルで過去に戻るのは、因果律を破ることになるのである。窓ガラスを割るのは、割ること自体に注目すると因果律は保たれているので分かりにくい。過去へのタイムトラベルの矛盾では「母親消去のパラドクス」が比較的有名である。

 自分の母親が自分を生む前の過去に戻り、母親を消去してしまったとする。すると、自分は生まれなくなる。すると、母親は自分に消去されることはなく、無事に自分を生む。すると、自分は過去に戻り母親を消去してしまう。すると(略)と無限ループに陥る。

 決して「こうなる」ということに行き着かない。このことについて、物理学者の前野昌弘さん(いろもの物理学者さん)が論文の紹介・解説をしておられる。「物理学者によるタイムパラドックス分析」に詳細がある。

 ハードSFに使えるよう詳しいのだが、敢えて正確さを犠牲にして単純・平易に再解説してみる。トンネルを通ると過去に戻るというタイムマシンがある(タイムトンネル)。その入口と出口を近づけておく。入口にボールを投げ込めば過去の出口から出てくる。

 しかし投げ込む前に出てくるわけである。そこで、ボールが入口に入るのを、出口からのボールが邪魔するようにボールを投げ込むことにする。まず、投げ込んだボールが入口に入るのを出口からのボールが邪魔して、ボールが入口に入らない可能性がある。

 これは母親消去のパラドクスと数学的には同じで、数学解が無い。つまり、不可能なタイムトラベルとなる。これは、過去へのタイムトラベル自体が不可能なことを意味する。それなら自分を生む前の母親を消去には行けないわけで矛盾は起こらない。

 しかし条件を変えれば数学解が存在して、過去へのタイムトラベルが可能なことが示される。それは、出口から飛び出たボールが入口に入ろうとするボールを邪魔はするが、それでもかろうじて入口にボールが飛び込む場合である(衝突しない場合も広義には含む)。

 この場合の解釈は、少しややこしい。本来は入口に飛び込まないコースに投げたボールが、出口からの未来のボールで軌道が変わって入口に飛び込んでしまうこともあり得る。これは、未来からの干渉を必然として予定した歴史といった感じになる。

 映画バック・トゥ・ザ・フューチャー(BTF)は、そうした例である。劇中では主人公マーティが過去の結婚前の両親に干渉したことが、両親の結婚の原因を作っている。BTFでは過去から帰ってきたマーティには前より良い現在が待っていたというオチだった。

 残念ながら、それは数学解としてはあり得ない。過去から戻ってきたら、以前と同じ現実となる。過去に干渉しても、それは現在が現在の状態である原因を作っただけで、現在を変えてしまうことはできない。矛盾を引き起こしてしまう。あまり夢がない話ではある。

 実は過去へのタイムトラベルもう一つの数学解がある。つまり可能なパターンがある。それは、入口にボールを投げ込もうとしたら、そのボールではない別の何かが出て来て、ボールを入り口に入らないよう邪魔してしまうものである。。ちょっと卑怯な気もする。

 たとえば、ボールを投げたら、出口からバットを持ったイチローが飛び出て来て、ボールを打ち返してしまうとか。ただし、そのイチロー自身の因果律はこのパターンでは守れず、既述の過去を改変したからこそ、そのイチローが存在するものでなければならない。

 こうしたことがあり得るとすれば、それはその宇宙全体で常にそうしたことが起こり得ることになる。あちこちで頻繁に未来から過去への干渉があり、それがあるゆえに宇宙が安定して存在することになる。そういう宇宙はあり得て、一例にゲーデルの宇宙がある。

 ゲーデルは数学者であり、不完全性定理は有名。そのゲーデルが数学的にあり得るとして導き足したのがゲーデルの宇宙である。特徴は時間がループしていることである。時間をずっと未来へ進めていくと、いつの間にか過去に戻り、現在に帰り着く。

 その宇宙では全ての事はあらかじめ決まっている。19世紀末頃の物理学は宇宙の時間がループしていると思っていなかったが、宇宙が誕生した瞬間にその後の宇宙の歴史は全て確定すると考えていた。物理学の数式が全て確定を示していたからだった。

 それは決定論と呼ばれている。「どの時刻でもよいから、宇宙の全ての粒子の位置と速度が分かり、無限の計算能力があれば、宇宙のどの時刻・場所のことも正確に分かる」という表現もある。そういうことができる架空の存在が『ラプラスの悪魔』である。

 実際にはそんな存在はいないだろうけど、未来は誰にも分からないとしても、全てはあらかじめ決まっているということの別表現である。この決定論を打ち砕いたのが量子力学である。どんな粒子も確率的で不確定である以上、確定的なことは何も言えない。

○上記記事は、ダン・シーネンさんが、
http://togetter.com/li/521884
 にまとめられた記事を当サイトの交流用掲示場に投稿した物を転載したものです。
 意見や補足などが有る方は、下のメールフォームよりお送りください。

うっぴーさんの意見2014/10/05

 この世界には可逆的変化と不可逆的変化の2つがあり、過去へと戻るタイムトラベルは、不可逆的変化に分類されます。
 可逆的変化というのは、お湯を冷やすと水になり、さらに冷やすと氷になる。逆に、氷を温めると水になり、さらに加熱するとお湯になる、といった物質の状態を元に戻すことが可能な変化です。

 しかし、10℃の1リットルの水と、80℃で1リットルのお湯を混ぜて生まれた2リットルの水を、再び10℃の1リットルの水と、80℃で1リットルのお湯に分離するのは、どのような器材を使おうとも事実上不可能です。これが不可逆的変化です。
 水のような単純な物質であってもこれなのですから、死んだ人間を生き返らせる、老人を子供に若返らせる、過去へと時間を逆行するというのが、いかに困難なことか想像できると思います。

 また、過去へのタイムトラベルは、物理の基本法則である『質量の保存の法則』に違反します。
 例えば、のび太とドラえもんがタイムマシンに乗って、一週間前に戻った場合、のび太とドラえもんの質量が、現時点の宇宙から消えて、一週間前の宇宙では、その分、増えてしまうという矛盾が発生します。
 これが可能だと仮定しましょう。
 この場合、金塊を金の相場が最も高かった時代までタイムマシンで運んで売りさばく、という手が使えます。これを世界中の人が行った場合、その分の金の質量が、現時点の宇宙から消えて、過去の宇宙では増えます。
 これは質量が異なる2つの宇宙が誕生することを意味します。

 つまり、過去へのタイムトラベルとは新しい宇宙を誕生させることなのです。

 宇宙にはこのような矛盾を防ぎ、世界を安定させるための安全装置のようなものが存在しており、それが『質量の保存の法則』なのではないかと考えられます。タイムマシンに金塊を積んで過去に戻ろうとしても、タイムマシンが作動しない、動いたとしても爆発炎上してしまうことは十分に考えられます。
 理論上、過去に戻ることは可能なのにどうしてもできない、という状態です。

 タイムマシンで過去に戻ると、異なる歴史を歩んだ新しい世界Bが誕生するという、パラレルワールド説がありますが、これは新しい宇宙を創造するのと同意義であり、そのために必要なエネルギーは、宇宙誕生に必要なビックバンをはるかに超えるのではないか? と考えられます。

 このような矛盾が存在するために、過去へのタイムトラベルは、事実上、不可能といえるでしょう。

 ただ、創作としては、これではまったく夢がないですし、タイムパラドックスの思考実験などは、実におもしろいので、これからもタイムトラベル物の創作物が作られたり、タイムトラベルを可能にする方法が議論されていくことを望みます。

ダン・シーネンさんの意見2014/10/05

 仰っておられる内容は、もしかするとホーキング博士が提唱している「時間順序保護仮説」と似ているか、含まれているかもしれません。ホーキング博士は「まだ検証も証明も、そもそも発見すらされていないけど、この宇宙には過去へのタイムトラベルを禁じる、何らかの法則があるはずだ」と考えています。

 理のある仮説で、人工的に過去へタイムトラベルが可能だとすると、自然界でも起きていると考えられます。マクロでは起こりにくくても、常識が通用しないミクロの世界では起きている可能性は低くありません。ミクロの世界なら、亜光速とか普通ですし、一時的にエネルギー保存則すら破れます。真空で常に至る所で起こっている対生成と対消滅などは、一時的なエネルギー保存則の破れです。

 しかし、エネルギー保存則は一時的に破れても、必ず帳尻が合ってしまうものばかりです。無から光子がのペアが生まれる対生成は、すぐに発生した光子同士が対消滅して無に戻ります。

 対生成して対消滅しないものがあって、ブラックホールの事象の地平面で起こっています。対生成したペアが対消滅しようとしても、一方がブラックホールに落ちてしまい、もう一方が飛び出してくるものです。ホーキング輻射と呼ばれています。この場合も、輻射ででてきた分は、ブラックホールが質量を失うことで帳尻が合います。非常に長時間かかりますが、ブラックホールはこのホーキング輻射のため、最後には消滅してしまいます。

 それでも、本職の物理学者が真面目に過去へのタイムトラベルの可能性を考えることがあります。ほとんどの物理学では、時間反転しても問題がないことが、要因の一つです。唯一、熱力学は時間反転できない物理学になります。仰るような現象は、エントロピー増大の法則として知られています。

 しかし、熱力学は絶対ではない、ということも分かっています。統計力学が明らかにしました。熱現象を分子や原子の動きといったレベルで微視的に考察すると、熱力学でも時間反転はあり得る、としています。よく「水を入れた薬缶をコンロの火にかけるとみるみる水が凍って行く」ということがあり得る、と表現したりします。

 熱力学の法則が覆る現象が起こる可能性はゼロではありません。しかし統計力学は同時に、そうなる確率は途方もなく低い、ともしています。観測可能な宇宙にコンロと薬缶を詰め込んで、何億年も実験しても一つたりとも水が凍る薬缶は出ない、というくらい低確率です。いったんは否定しているようで、実はそれくらい熱力学が成り立つことを証明しています。

 ホーキング博士は、熱力学現象が示す熱力学的時間を考え、人間が意識できる時間はそれに沿った方向だけだと考えたことがあります。さらに、宇宙が収縮するときは熱力学的時間が反転すると考え(エントロピーが常に減少する)、人間の意識する時間も熱力学的時間に沿って反転するので、結局は人間はエントロピーが増大し、膨張する宇宙しか観測できない、と考えたこともあります。

 その後、博士はそのアイデアを捨ててしまいました。宇宙が膨張しようが収縮しようが、常にエントロピーは増大する、だから宇宙が収縮すれば人間にはそれが分かる、というある意味、穏当な見解になりました。

 どうやら物理学で何をどう考えても、非常識なことは起きなさそうです。しかし、エネルギー保存法則を含め、一切をチャラにする、何でもありにするものがあります。物理学では無限大が出て来るとお手上げです。

 ブラックホールの中心には特異点があります。質量は有限ですが、体積がゼロであるため、密度が無限大です。特異点周りでの重力も無限大に発散します。そういう特異点で何が起こるか、あるいは、何が出て来るかは一切予測できません。無限大なので計算できず、従って予想できないのです。

 それでも、普通は事象の地平面に覆われています。事象の地平面は外から中への一方通行ですので、事象の地平面内部で何が起ころうが、外には無関係になります。ですので、ブラックホールの外、つまり宇宙としては大丈夫そうです。

 ですが、そうではないかもしれません。特異点が事象の地平面で覆われない可能性があるのです。事象の地平面で覆われていない特異点は、裸の特異点と呼ばれています。宇宙と直に接しています。何が起こるか分かりません。

 ブラックホールの数学解の研究では、いくつか事象の地平面で覆われない特異点を持つ解が見つかっています。それが現実に起こるかどうかは、まだ不明ですが、物理法則として不可能ではないというのは確かなようです。これについては、以前からロジャー・ペンローズが「宇宙検閲官仮説」と名付けるものを提唱していて、裸の特異点は存在しないという観点で検証を進めています(おそらくホーキング博士は支持者)。

 過去へのタイムトラベルについては、負の質量の物質とワームホールを使用する方法が、物理学者のキップ・S・ソーンによって発表されています。負の物質の実際の作り方などの困難はありますが(不明だし、予想では観測可能な宇宙に存在する栄養可能なエネルギーの百億倍必要とも)、一応は穴がなく、ホーキング博士なども決定的な反論はしていません(「ワームホールを通ろうとしたら、潰れてしまう」程度しか言っていない模様)。

 その他、宇宙ひも(超ひも理論とは無関係)と呼ばれる、宇宙誕生のときから存在するものがあれば、ひもの周りをある方法で一周すると過去へ戻る、という理論的考察もあります。もちろん、そんなひもは見つかっていません。

 平行世界となると、似ているだけの別世界ですので、あるのなら行き来して物理学的に何ら問題ありません。ただ、よくある量子力学の解釈から出た平行世界(多世界解釈)ですと、行き来するというのは科学考証レベルでは間違いとなり(他の世界の存在確率がゼロであるため)、SF考証ということになります。

 物理学などでいろいろ分かっているようでも、分かっていないことのほうが多いですから、分かっていない部分を突っつけば、肯定はできないものの否定もできない設定は、いろいろあるのだろうと思います。昔の作品ですが、普通に加速して宇宙を超光速で飛び回り、登場人物が「光速度を超えられないはず」と発言すると、別の人物が「理屈と現実は違う」と一蹴する、なかなかの力技もあるそうです。その作品は、キャプテン・フューチャーです。

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