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  4. 消える魔球を安全に投げよう公開日:2014/09/25

消える魔球を安全に投げよう

 ダン・シーネンさんのコラム 2014年09月14日

 巨人の星における魔球を無理なく投げる方法について、考えてみたい。大リーグはメジャーリーグの意味で、原作の進行時期にはメジャーリーグは非常にハイレベルな、ある意味、超人選手が集う野球のようなイメージがあったらしい。そこで通用する魔球というわけである。

 大リーグボール1~3号を軽くおさらいをしておきたい。大リーグボール1号はバッターが構えたバットにボールを当ててしまい、凡打に打ち取る魔球。バッターの頭上を越える暴投と思ったら、バットに当たってしまうわけである。改良版も存在するが割愛。

 大リーグボール2号は「消える魔球」と別名が付いたほどの名魔球。野球盤なるゲームでは別原理で再現されている。飛雄馬の父、一徹が開発した、ボールを超高速回転させて鋭く曲がる魔送球を応用したもの。これをピッチングに応用して激しい下方向の変化を起こす。

 大変な変化球ではあるものの、見えてしまう。消える魔球を投げるとき、飛雄馬は足を高く上げる。このときに、グラウンドの土を巻き上げて、その土ぼこりを握り込んでボールに付着させて投げる。バッター近くで沈み込んだボールは土ぼこりを巻き上げる。

 土ぼこり色のボールが土ぼこりに飛び込み、保護色の原理で見えなくなるわけである。あらかじめボールに土を付着させるのはルール違反。そこで、土ぼこりを起こす投球モーションを使っているわけである。審判が投球前にボールを調べても何もない。

 しかし、これだけの回転をボールに与える投法は、体にかなりの負担と思われる。たとえばカーブを得意として多投した投手の中には腕に障害が出ることがある。ましてや、真っ直ぐ飛んできて、いきなり地面近くまで曲がるのである。相当な無理が掛かるはずだ。

 大リーグボール3号は飛雄馬の左手首の再生不能な筋断裂を起こし、いったんは引退を余儀なくした、まさに魔球が魔たる象徴的な投法。くわしい原理は不明だが、全力投球でありながらボールが手を離れる直前に、そこまでで込めた力を手首で受け取る。

 結果として、ボールは力を失って『軽く漂う』状態となり、バッターがフルスイングをすると、バットの風圧にボールが押されて避けてしまい、決して打てないというもの。しかし、スイングの力が弱い打者ではボール避けきれず、打たれてしまったりする。

 名投手、星飛雄馬は大リーグボール3号で並み居るライバルを退け、ついに完全試合を達成するものの、最後の1球で左手首に回復不能の致命的なダメージを受ける。その後、右投げとして復活するものの、彼の左手が動くようにはならなかったらしい。

 これらの大リーグボールには不可能とする反論も多い。やれるとしても、大変に大げさな装置が必要だという見解もある。3号に至っては「慣性質量を無くせるわけがない」とも言われる。それらについて本研究では、詳しく反論することは避ける。

 ただ、たとえば3号は実は高速回転しており、ボールの周りに空気のクッションを纏っているといった可能性などがあるといった示唆だけはしておきたい。だって飛雄馬が投げたんだもん!ライバルが魔球打倒を必死で工夫したもん!だからあるもん!

 コホン。こうした大リーグボールは良い子が真似してよいものではない。特に大リーグボール3号は投手から投手生命を確実に奪う魔球である。幸い、治療法が進歩したのか、右投手として復活した飛雄馬は、日常生活レベルなら左手は動かせたようだ。

 だからといって、真似してよいことにはならない。投手として鍛え上げた方の腕は投手として使えなくなるのである。大リーグボール2号、消える魔球とて、カーブとは比べ物にならない負担になるはずである。成長期の高校球児が試みたら大変なことになる。

 しかし、「やっちゃ駄目だよ」と言われたことに限ってやりたがるのが人間というものである。しかも、投げられれば威力絶大の大リーグボールである。言葉で禁止しても飛雄馬に追随しようとする選手が出て来るに違いない。いや、既にいるであろう。

 ならば、大リーグボールの投法を安全化することが必要になる。残念ながら3号については、その魔球性を生み出すのが体に負担を掛ける投法であるため、安全な投法は望めない。負担を代わって受けるサポーターなどの開発を待たねばならない。

 1号は変化球ではなく、特に体に負担は掛けない。投げられる選手は自由に投げてよいであろう。そこで2号の投法を安全化しよう。2号の問題点は、ボールに超高速の回転を与える必要があることである。カーブなどとは比較にならない身体負担がある。

 普通の直球は上下方向について、単純に放物線とした力学計算による軌道より、遅く落下する。これは、人差し指と中指をボールの縫い目に掛けて投げると、自然にボールにバックスピンの回転が掛かるためである。ボールの上下に気圧差が生じて浮く力が働く。

 消える魔球はバックスピンとは逆の回転を与えるわけである。ここで、大リーグボール3号がアンダースローであることから考えられることがある。直球でバックスピンが掛かるのはオーバースローだからである。アンダースローなら逆になるはずだ。

 もちろん、普通にアンダースローで投げても、消える魔球クラスの回転にはならないが、自然な動きによる自然な回転を強化する方向で工夫をする余地はあるであろう。それは今後の課題としたい。アンダースローによる消える魔球にはメリットも生じる。

 消える魔球が花形満によって最終的に攻略されたのは、消える魔球の消える要素のうち、『足が高く上がる』ことを突いたものである。花形は突如、片足を上げる一本足打法の構えを取り、驚いた飛雄馬は足が高く上げられず、そのまま投げた。

 飛雄馬の足が高く上がるからこそ、その足で巻き上げた土ぼこりをボールに付着させられるのである。投手の足が高く上がる時、青い虫が飛んできて青葉に止まる。足が上がらなければ、投球する手の位置まで土ぼこりは上がらず、土色の保護色にならなくなる。

 そのためボールは白いままとなり、土ぼこりに飛び込んでも保護色とはならず消えなかった。このとき、飛雄馬は自分の足が充分に上がり切らなかったことに気づいておらず、ボールが消えない理由が分からずにショックを受けている。花形の作戦勝ちである。

 これがアンダースローであれば、投球フォームとして投げる手は地面近くを通る。普通の足の上げ方で、充分高く土ぼこりを舞い上げられるであろう。突然の一本足打法といった猫だまし作戦は通用しなくなる。足を無理に高く上げていないからである。

 無論、他の消える魔球攻略法は依然として有効である。バットの風圧で土ぼこりを取り除いておく。汗だらけで倒れ込んで地面を湿らせて土ぼこりを抑える。いろいろとある。そこで、大リーグボール1号と併用することが望ましいであろう。

 と思う。なお、アンダースローはオーバースローに比べ、肩への負担が少ないと言われている。オーバースローで肩を壊した投手がアンダースローで復活するということもあったらしい。身体への負担の面からもアンダースローは見直されてもいいかもしれない。

 なお、大リーグボール右1号、別名:蜃気楼ボールは筆者には筆者には難解で、よく分からなかった。魔球打倒のために打者が選手生命を縮める問題も残っている。これらは今後の研究課題としたい。(終)

【補足:沈んだ球は浮ける!】
 消える魔球はボールの回転による気圧差で落ちるのは正しいが、反転して上がって来るのはおかしいという論がある。やはり反論しておきたい。それは単純化し過ぎている。コミックでは見極めが難しいが、アニメではボールが揺れながら飛んでいるのが分かる。

 ボールが単純な縦回転であれば、そのような軌道にはならない。横に細かく移動を繰り返しているように見えるが、らせんを描いていると考えられる。それには回転が二つあるとすれば説明がつく。変化球となる回転に加え、進行方向を回転軸とする回転もあるのである。

 そういう回転であれば、変化球として変化する方向が変わり続けるため、らせん軌道を描く。ボールは空気抵抗によりだんだん減速する。バッターの手前で大きく変化するのは、曲がろうとする力は同じでも、進行方向について低速となるからなのである。

 消える魔球がらせん軌道を描きバッターの手前で大きくらせんを描く。その結果、地面まで近づいて、反転して上がって来る。単なる縦変化のように見える描写は見やすさのため。これは一つの可能性でしかないが、単純な不可能論に陥る必要がないことは明らかである。

 実際の野球でも構えたバットに当たることってあるじゃん!アンダースローのスローボールで空振りなんかもっとあるじゃん!だったら、ボールが消えることだってあるかもしれないじゃん!どーせマンガとか言うな!いつかはきっとできるもん!(まずい、終わろう)

○上記記事は、ダン・シーネンさんが、
http://togetter.com/li/520748
 にまとめられた記事を修正した上で、当サイトの交流用掲示場に投稿した物を転載したものです。
 意見や補足などが有る方は、下のメールフォームよりお送りください。

迷える狼さんの意見2014/09/14

 巨人の星の影響で、野球漫画には魔球が付き物の時代がありましたし、現代でも色濃く残っています。
 全部は無理ですので、その中から1つを取り上げます。

 消える魔球として、「ミラクルジャイアンツ童夢くん」の「スノーミラージュボール」があります。
 これは、ドーム球場の気圧を利用した魔球で、ホームベース上でボールが消えて見えるというものでした(TVアニメ)。
 ちなみに、球速はわずか110km/hです。

 実はこのボールを最初に打ったのは、唯一実在のバッターである、当時中日の「落合 博満」です。
 また、落合は別の魔球も攻略しており、実在選手の中では最強のバッターです。

 また、ライバルバッター「ドード」に投げた時には、彼の凄まじいスイングの風圧を受けて、魔球が解けてしまっています。

○余談
 「ファミスタ’89」で、投手の名前を「ほし」にして150km/h以上の球(球種は何でも良い)を投げると、ボールが消える魔球となって、普通の選手では絶対に打てない卑怯技になります(オールドリームス」の選手だけは、このボールだけでなく、ワンバウンドしたフォークボールまで打てます)。

 「新巨人の星」で、父である一徹の口から、「飛雄馬は本来は右利きであったが、球質が軽いという弱点があった為、投手が有利な左利きに矯正した。」と言う事が聞かされます。

 また、右利き投手として復活する飛雄馬の為に、「大リーグボール右投手用」を開発して飛雄馬に届けますが、その時に「今度は、飛雄馬の右腕も壊そうとしている。」と苦悩しています。

 なお、大リーグボール1号は、バットに当たった瞬間に振り抜くという方法で、オズマに完全に打たれています。
 ちなみに原作では、最初に打たれた時はファールになっています。
 また、バットをはずせばクソボールと言う事で、当たる瞬間にバットを手放したり、後ろを向くという態度を取られたりもしました。

ダン・シーネンさんの意見2014/09/14

> これは、ドーム球場の気圧を利用した魔球で、ホームベース上でボールが消えて見えるというものでした(TVアニメ)。
> ちなみに、球速はわずか110km/hです。

 ドームで大リーグボール3号が投げられていたら、星飛雄馬も予想しなかった「消える&当たらない」魔球になったかもしれません。3号って「軽く漂う状態」になるボールだそうですので。

> なお、大リーグボール1号は、バットに当たった瞬間に振り抜くという方法で、オズマに完全に打たれています。
> ちなみに原作では、最初に打たれた時はファールになっています。
> また、バットをはずせばクソボールと言う事で、当たる瞬間にバットを手放したり、後ろを向くという態度を取られたりもしました。

 立てたバットに当たった瞬間に振り抜いて打ったのは、花形満です。筋力を極限まで鍛えた上で、一気に、かつ無理に最大筋力を出したため、重傷を負って休場に追い込まれました。

 オズマが最初に1号対策として行ったのが、投げた瞬間にバットを手放してしまうというものでした。星は全身の動きを予測する勘は養ったものの、手を開くだけという小さな動作は見破れなかった、ということだったようです。

 花形、オズマの方法に対抗するために、改良1号を編み出しています。ボールコントロールを正確にして、バットを握った下のエンドグリップを狙うというもの。父の一徹はわざと誤解したふりをして、バットを握った上の部分に当てて、花形打法の対策にしようとしていると公然と指摘。それでは打球が飛ぶ方向が制御できず、大リーグボールとして成り立たないと言って本当の狙いを隠した、なんて親ばかやっちゃってるんだそうで。

 それも束の間、一徹は飛雄馬を倒すべくオズマを特訓してバットスイングが目に目ないくらい速くさせます。狙いは「一度バットをホームベース上まで振って、1号のコースをそこへ誘い、素早く引き戻したバットをフルスイングして打つ」というもの。これで1号は完全粉砕されました。

 手品の種がばれたらもうお終い、普通の打者でもバントの構えをしておいて、投手が投げるのに合わせてバットを引いて普通に打つ、といったことで1号は攻略できるんでしょうか。飛雄馬はオズマに打たれた後は1号をほぼ完全に放棄しているので、それで打ててしまうのかもしれません。

迷える狼さんの意見2014/09/19

 魔球の盲点について。
 大リーグボール1号を、先に打ったのは、花形でしたか。

 さて、大リーグボールは急速に体力を消耗するという話ですが、原作では、一球も投げぬ前からすでに汗をぬぐうという実況のセリフがあります(その後、わずか3球でスリーアウトを取り、その実況が大はしゃぎしていますが)。

 「侍ジャイアンツ」では、分身魔球は心臓に負担をかけるという設定になっていて、蛮場はそれが原因で原作では命を落としています。

 さて、魔球を投げるシーンというのは、ほとんどがバッテリー(ピッチャー&キャッチャー)とバッターの3人の視点のみで話が展開するのですが、ここで疑問があります。

「外から見ている第三者の視点にすれば、一部の魔球は簡単に見破れるのではないでしょうか。」
 例えば、急激にバッターの視界から消える魔球も、外からならどんな変化をするか、一目瞭然です。

 ちなみに、「ミラクルジャイアンツ 童夢くん」では、新魔球「レインボースパークボール」を、選球眼で見た「通天閣 虎夫(つうてんかく とらお)」が、
「投げた瞬間にドーム球場の内壁を伝う様に飛び、バッターの視覚から消える」
 と、誤認しています(実際の原理は、アニメでは語られていません)。

 また、コロコロコミックで連載されていた「試験戦士 轟け!一番」(作:のむらしんぼ)では、野球の技術を武器にしたライバルが、カーブを応用して、視界から消える鉛筆を投げて攻撃して来ます。 

 同じ様に、急激に変化して相手の視界から消え、死角を突く攻撃は、色んな作品において敵も味方も使用しており、割とありふれています。

 ついでに言うと、投げたボールに土をかける大リーグボール2号は、ボーク(反則)だと思います。
 現実でも、指に唾をつけたり、帽子のツバにワックスなどを仕込み、帽子をなおす振りをしてこっそり指先につけるなど、さりげなくボールに細工をする方法がありますが、全て反則です。

 「がんばれ!レッドビッキーズ」で、ピッチャーの少年が投げる「ミルクボール」や、「野球狂の詩」で水原が投げる「ドリームボール」など、ホップする変化球というのは野球では相当に珍しいですが、ソフトボールでは実現可能です。オリンピックでは、日本チームが苦手にしていました。

 水原の場合、ソフトボールと同じアンダースローなので、ドリームボールはそんなに無理な魔球ではありません。

 また、月刊少年ジャンプで連載されていた「わたるがぴゅん!」では、沖縄出身の主人公が、「ハブボール」という、2段ホップする魔球を投げます(アンダースローです)。

 ちなみに、TVの番組で、ホップする球を実現する実験をしていましたが、ボール自体を浮かせる事は出来ませんでした。
 ただ、

「ピッチングマシンを使用して、200km/hでバックスピンをかけたボールを投げると、投球時と捕球時のボールの落差が無くなって、バッターからはホップして(浮いて)見える」
 という結果が出ています。

 もっとも、200km/hなんてボールは、変化するかどうか以前に、(今の所)人間に打てるもんでも投げられるもんでもないですが・・・。
 ただ、オーバースローで投げるミルクボールは、現在の所は再現不可能です。

 とりあえず、急激な軌道の変化をするだけの魔球なら、外から見たらその変化の仕方が解るので、攻略も早いのではないでしょうか。

○余談
「長嶋 茂雄」氏は、現役時代に敬遠の球を打つ練習をしていて、実際に成功していますので、大して球速が速くない大リーグボール1号なら、長嶋氏ならば打ったかも知れません(長嶋氏は「バットが届く距離の球なら打てる」と発言しています)。

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