有名SF作品に科学的なツッコミを入れる！
ダン・シーネンさんのコラム 2014年09月14日
作品名は伏せて設定にイチャモンを付けてみます（どれか分かっても、どうか黙っててやっててください）。
１．静止衛星軌道上にある月の1/4の質量の宇宙船
某映画より。静止衛星軌道上の巨大母船から発信した小型機搭載攻撃船の、圧倒的な攻勢の前に地球は危機に陥るんですが、しかし。物理を選択した高校生も指摘したらしいんですが、この母船の起潮力（潮汐力）はどれほどあるのか。
重力は質量に比例し、距離の2乗に反比例します（F=GMm/r^2）。静止衛星軌道は月軌道の1/10ですから、距離からすると100倍、質量からすると1/4ですから、25倍。そんな規模の満潮が起こると大変です。
もし母船がもうちょっと高度を下げて、方向を変えつつゆっくり地球周囲を回れば、世界の主要都市は水没してしまいます。軍基地も同じ運命でしょう。そうしなかったのは、おそらく侵攻してきたエイリアンの母星（や過去に侵略した惑星）には、言うの足る程の海がなかったのかもしれません。敵が潮の満ち干を知らなかったお蔭で地球は助かったのでしょう（あ、そうか、だから大統領はじめ、誰もそのことを言わなかったんだ、敵に傍受されて気付かれると困るから、きっと）。
２．亜光速ミサイル
かなり以前のアニメですが、地球でいえば相互確証破壊をもたらす兵器として描写されていました。ワープのある世界なんですが、普通に宇宙を動くものはレーダーなどの光速度での探知しかできないらしく、ミサイルが亜光速だと探知しても、迎撃が間に合わないらしい（光速の99％だと、10光秒先に見えたら0.1秒で到達してしまう）。
それを敵がついに使用してしまう（敵は知らなかったけど、地球側には実は亜光速ミサイルはない）。それでも通常の迎撃ミサイルでかなり撃ち落とすものの、いくつかは直撃を受けてしまい、大被害に。
という描写があるそうなんですが、ちょっと待てと思いました。光速度の99％だと、もう弾頭が通常火薬だろうが核兵器だろうが、ほとんど関係ありません。質量兵器といいますか、運動エネルギーのほうが威力が上回っています。迎撃して砕いたって無駄です。結局はミサイルの運動エネルギーのほとんどを受けてしまいますから。
そういう意味では、確かに防御不能兵器かもしれません。
３．マイクロブラックホール
以前は全てを吸い尽くす兵器として扱われていました。運搬可能な軽量ブラックホールです。惑星に落とすと、惑星中心まで沈み、次第に惑星全てを吸い込みつくしてしまう（1年とかかかるらしい）。超マイクロブラックホールが浮遊していて、人体に穴を開けてしまうという小説描写もあった模様です。
ホーキング輻射のことが有名になってくると、そういう使い方はなくなったようです。小さいブラックホールは超高温を発して消滅してしまう。以前に「太陽系に国会議事堂くらいの質量のブラックホールがある」なんてデマがあり、ホーキング輻射の公式を調べて計算したら、数兆度と出ました（宇宙初期にしかない温度なので、公式の適用範囲外だったのかも）。ヤマト2199では波動砲の威力はマイクロブラックホールのホーキング輻射、という設定になったようです。
４．ブラックホール化すると吸い込まれる
某作では、銀河中心の敵本拠に木星を送り込み、爆縮させてブラックホールと化し、敵すべてを吸い込みつくさせる作戦が決行されています。木星が質量を変えずにブラックホール化した途端、重力が超強力になり、周囲の敵をどんどん吸い込み始めるんですが、しかしそれって……。
星の重力は、ブラックホールであろうがなかろうが、球対称（普通は成立する）であれば、重力は中心の一点にに質量が集まっているとして計算したものと同じで、ブラックホールまで収縮しても、同じ距離にいれば同じ重力のままです。
やるとすれば、敵の密集しているところへ砲弾のように投げ込み、大量に巻き込むようにして質量増大を図り、さらに周囲を巻き込むようにできれば、なんとかなるかもしれません。さらに、銀河中心には巨大ブラックホールがあるはずなので、そこに落としてしまうようにできれば決着がつくのかも。
５．ガス欠で止まる航空機
ある米国アニメでこんなシーンがあるそうです。主人公が乗っていた大型軍用機が故障する。機長、操縦士は気絶している。主人公が「AUTO PILOT」というボタンを押すと、二足歩行等身大ロボットが飛び出してきて、ロッカーからパラシュート取り出して身に着け、機外に飛び出してしまう。
いや、そこはどうでもよくて、ついに機は墜落し始めます。速度を増しつつ地上に激突する寸前、プスンプスンと音を立てて止まってしまう。主人公が一言「危ないとこでガス欠だ！」
それは狙ったものなんですけど、大真面目にこれをやっちゃうことがあります。宇宙の戦闘でヒロインは搭乗機を破壊され、からくも脱出するも宇宙を漂流し始めてしまう。主人公は救助のため、自機のエンジンを最大に吹かして追跡します。ぐんぐんとヒロインとの距離を縮める主人公。ところが、あと少しのところで燃料切れに。
見ていたこちらは、「あっ、これでは衝突してしまう」と思ったんですが、燃料切れになった途端、それ以上接近しなくなってしまいます。主人公、宇宙遊泳して助けてました。接近してるんだから、接触前にむしろ減速しないといけないんじゃないのか。あの世界では慣性の法則はないのか。宇宙でも摩擦だらけなのか。と、ぶつぶつ。
（……でも、第2シーズン早く見たい）
６．太陽光をレンズや球面鏡で集光して1万度を作る
特に対象となる作品はないんですけど、ときどき聞かれる話なので。太陽表面は約6千度です。プロミネンスなどで部分的にもっと高温になることもありますが、除外しておきます（小さいので無視できる）。6千度をいくら集めても6千度にしかなりません。
なぜできないかと申せば、熱力学です。もし太陽光を単純に集めて1万度にできるなら、6千度の熱源から1万度の熱源へ熱が移動していることになります。低温源から高温源へ熱が移動していることになり、永久機関の実現につながる、熱力学の原理に反する現象です。
７．超常現象としての予知は現実には無いという話
特に対象作品はありません。あえていえば、あるアマチュアマジシャン（故人、プロも尊敬するほどの人）が、「マジックをやっているうちに、本当に超能力とか魔術があると思えて来て、一時期変な方向に走ってしまった」という述懐をしていたことかも。
予知能力でたった1％だけの利益があげられるとします。あまり大した能力ではなさそうな感じです。100円を元手に、毎日1回投資ができるとします。次の日には101円手に入り、それをまた投資します。次の投資で102.01円になりますが、1円未満もきっちり回収できるとします。それを、うるう年1回を含む5年間、毎日やったとします。
ちょうど5年続けると、77億円を優に超える大金となります（複利計算の公式でもいいけど、エクセルで日付と1.01倍の式を入れて、ぐぐーっと5年分ドラッグしても面白い）。1％の利益をあげる予知能力があれば、大金持ち確定みたいなものです。現実には、世の中に急速に金持ちになる人がほとんどいないのは、1％ですら無理である証拠になっているようです。
（それと同時に、これが借金だったら大変ということにもなります。借金を返すための借金はたちまち膨れ上がってしまいます。それについては、不幸なことに実例はいくらでもあるようです。）
●余談：盛大にせこいバイバインの栗まんじゅう（無から有）
無から有はできない、だから倍に増える栗まんじゅうは何かを原料にしているはず、という話が出ていました。それで、「無から有って、何かないか？」と思いを巡らすと、ないことはないような。
一つは、真空のエネルギーと言われるものです。普通の宇宙空間を普通の真空と呼ぶことにすると、それとは別に本物の真空があり、その落差でエネルギーが得られるという説です。どれくらいのエネルギーになるかは人によって見積もりが大変に異なります。旧作のヤマトでは、そこからエネルギーを得たい放題だったらしい。
波動エンジンを動かすだけでなく、もしかしたら物資も調達していたかもしれません。E＝mc^2でエネルギーから質量ある物質にもなりますから。栗まんじゅうもバイバインが真空からエネルギーを取り出すのだとすると可能かもしれません。ただ、取り出したエネルギーはどこかで帳消しにしないといけない、つまり返さないといけない可能性もあり、その場合はちょっと怖いです。
もう一つは、誰もが知るビッグバン、宇宙の誕生です。古典的なビッグバン説ですと、宇宙の全質量が一点にあって爆発的に膨張したことになっていますが、その後のインフレーション説では、宇宙の誕生は結構空虚で、その後に重力が生じるとともに、物質や光が生まれたらしいです。重力はエネルギーとして負なので、それと釣り合うよう正のエネルギーと物質が生まれたのだとか。フリーランチと呼ばれたりします。
そこで、バイバインの栗まんじゅう創造は、宇宙と同じようなビッグバンであるとすれば、無から有はできそうです。バイバインを栗まんじゅうに垂らした10のマイナス35秒後に（略）。ドラえもんの本来の時代、宇宙の誕生の謎が解明され、栗まんじゅう工場に、その知識が活かされたのでしょう。
