2015年4月ラノベ新人賞下読みによるQ&A2

FROGGERさんの質問

 こんにちは、私は「下手の横好き」をしているFROGGERと言う者です。
 若桜木 虚さんという方が書いた講座の本を読んで勉強していますが、いざ実践しようと思ってもなかなか出来ないものですね。
 その本の中で「新人賞の選考はどのように行われているか」という項目があり、そこでは「新人賞を受賞する為に必要な条件」として「最終候補に残る事」という回答を出されました。 その前に行われる二次予選、さらにその前に行われる一次予選を突破しないと、それこそ「話にならない」訳です。 当然ですね。

 そこで私達にとって……私にとって重要なのは、一次予選を突破する事です。 一次予選担当の下読みさんは過酷で、一つの作品につき数百円のギャラだそうで、それじゃ食っていけないから本業の合間に下読みをなさるとか。
 結論を急ぐと、私達がカタログを読むようにプロットで第一印象が決まるからプロットは大事だよ、プロットが良ければ、それだけで一次予選を突破する、いや、突破させてみせる! ……それ位気合の入ったプロットじゃないと難しい、らしいです。

 前置きが長くなりましたが質問です。 私はプロットが苦手です。 そもそもプロットって、小説を書きたいと思ってから書いても遅く、メモを書いているうちにその内容が繋がり「あれ、これって面白いんじゃ?」というのがプロットだと思っています。 なので、小説を書き始めた時、その小説を改めて「プロットにして書き直す」と、どう頑張っても規定の枚数に収まらないのです。 無理矢理型に嵌めたようなプロットだと「既視感のある話」になってしまいます。

 この場合、「多少の経緯を書かずにオリジナリティーを出した部分や台詞だけを強調する」というのは駄目なのでしょうか? 例えばプロットで面白くなりそうな部分が最後の所だった場合だと、「そこまで付き合えるか!」でしょうか、それとも「とりあえず問題の部分だけは読んでやる」でしょうか?

ジジさんの答え

 おつかれさまです。
 若桜木氏と言えば、実家に氏の著作である『宇宙戦艦ムサシ』という小説があって、それを10年ほど前に読んだことがありますが、さておき。

>の場合、「多少の経緯を書かずにオリジナリティーを出した部分や台詞だけを強調する」というのは駄目なのでしょうか?

 プロットは、下読みや編集者、審査員が大抵の場合、真っ先に目にする作品の設計図です。
 我々が欲しいのはまさに「概要」であり、物語がどのように始まり、どのような事件を経てどのようなラストへ至るのかになります。
 ですので、どれほどFROGGERさんがおもしろく感じなくとも、かならず作品の軸になるあらすじを、順を追って書き連ねてください。

 そして、

>  例えばプロットで面白くなりそうな部分が最後の所だった場合だと、「そこまで付き合えるか!」でしょうか、それとも「とりあえず問題の部分だけは読んでやる」でしょうか?

 プロットがどのようなものであれ、応募作を読む場合、最初から最後までかならず読みます。
 その際、展開や作者の意図がわからず、引っかかる箇所が出てくるのですが、あらすじがあらすじになっていないとその部分の確認ができません。そうなれば構成のチェック欄にマイナスをつけざるをえなくなりますので(あらすじで補完できれば、備考欄でフォローできる場合があります)、応募者にとって損になります。

 ですので、あらすじは淡々とでよいですので、物語の最初から最後までを、オチまで書くようにしてください。

>  一次予選担当の下読みさんは過酷で、一つの作品につき数百円のギャラだそうで、それじゃ食っていけないから本業の合間に下読みをなさるとか。

 確かに私も本業は別にありますが、ここまで過酷な値段設定ではないので(間に仲買が複数挟まっているとそのようなこともあるかもしれませんが)大丈夫です。
 そして私だけかもしれませんが、二次以降で読んでも値段が上がることはないです。

風月さんの質問

 早々のアドバイスをありがとうございます。

> これがなかなか難しいところで、読者を泣かせるための過程というものは、先人によって猛烈に開拓されてしまっています。
> ようは誰が書いてもワンパターンになりがち、ということですね。

> ちなみに私が本業で「泣き」を書くときは、とにかく「泣かせるために殺さない」ことを念頭に置いて作ります。

 激しく同意です。
 心情的には「記憶リセット」ものや「タイムリープ」ものを書きたいのですが、それは過去に名作と称されるものがあって難しい。
 架空の「難病」を持ち出すと、関係キャラが死んでしまい、バッドエンドになる。
 この二点をどういった斬新な切り口で克服し、物語を紡いでいくのか。
 非常に難しいところではありますが、可能性を感じるところでもあり、また楽しみなところでもあります。

> 個人的にはぜひ挑戦していただきたいです。

 悩んでみます。

 ちなみに、
 『クラナド』はどうしてあんなに泣けるのか。
 父親との「確執」や同じことは繰り返される「構造」といった、昔ながらのパターンが織り込まれているのに、どうしてなのか。
 余談ですが、ジジ氏はどう分析されますか?

ジジさんの答え

> 心情的には「記憶リセット」ものや「タイムリープ」ものを書きたいのですが、それは過去に名作と称されるものがあって難しい。
> 架空の「難病」を持ち出すと、関係キャラが死んでしまい、バッドエンドになる。
> この二点をどういった斬新な切り口で克服し、物語を紡いでいくのか。

 さらりと思いつく発想法論としては、「逆にしてみる」がありますね。
 タイムリープなら、主人公以外の世界の全員がタイムリーパーで、主人公だけが取り残された状況にしてみたり、記憶喪失なら世界中の人が記憶喪失になる中、主人公だけが記憶保持など(こちらは梶尾真治氏の『ちほう・の・じだい』や河野裕氏の『サクラダリセット』がすでに存在しますが)にしてみる、という方法です。

> 『クラナド』はどうしてあんなに泣けるのか。
> 父親との「確執」や同じことは繰り返される「構造」といった、昔ながらのパターンが織り込まれているのに、どうしてなのか。

 私見になりますが、「そのジャンルで存在しなかった方法論を持ち込んだがゆえの斬新さ」という一面はあるのだろうなと考えています。

 古いアニメになりますが、『アイドル伝説えり子』(1989年4月3日放送)という作品がありました。
 この作品では、アイドルアニメというジャンルに「昼ドラ」の展開を詰め込むという方法がとられており、当時のアニメファンの間でまさに伝説となったと言い伝えられています。

 既存のものでも、他者が考えつかなかった活用が実現できれば伝説になる。『CLANNAD』を始めとするKey作品は、今までそのような方法論のなかったジャンルに、それを魔改造や改悪をせずに持ち込んだことが成功の鍵だったのではないかと思います。
 まあ、CLANNAD関連については今考えただけのものですので、あくまで私見ということでお願いいたします。

サイラスさんの質問

 お久しぶりです。サイラスです。性懲りもなく質問させていただきます。
 実は、バレンタイン企画に投稿を行おうと作品を作っていたのですが、色々と問題があり、また、投稿を諦めました。それに関する質問です。

(1)作品の矛盾点の洗い出し方
 今回の企画に投稿する作品を作る際、ジジさんのアドバイスどおり、自分の書きたいものを肉付けしながら、設定を編み、書いていったのですが、途中、主人公やヒロインのその場にいる動機や、必要な技量がないことに気づいてしまい、再び練り直そうにも、時間とモチベーションが保てなくなり、書くことを放棄してしまいました。
 そこで、一つ目の質問ですが、作品の矛盾点というのは、どういった場所に現れやすく、また、見つけ方というのがあったら教えてください。

(2)作品作りのペース配分
 (1)に関わることでもあるのですが、バレンタイン企画等、どうも締切がある企画が苦手で、具体的には、どのくらいの時間、設定やプロットに当てればいいか分からず、見切り発車をして、後で整合性が取れなくなったり、修正までに間に合わないというケースを頻発しています。
 そこで、質問なのですが、締切1か月で、400字詰めを50枚から100枚書き上げるのに、プロット、設定づくり、執筆、修正は、どのような配分でやっていけばいいのか教えてください。

(3)二次創作について
 自分は、創作の原点が二次創作なのですが、ここ最近の企画をやっていると、恐ろしく発想が狭かったり、穴だらけなうえ、ジジさんの提供いただいた企画だと、(上手い下手を別として)ちゃんと書き上げられていたので、長い間、二次創作に携わりすぎると、作家としては、あまり良くないのでは?と思うようになりました。
 そこで、質問ですが、オリジナルの作品を作る上で、二次創作をするメリット、デメリットはなんなんでしょうか?
 個人的には、書く愉しみを覚えるのにはいいけど、発想が、他の作品の設定頼みになる、ファンや仲間とのトラブルが起きやすい等、デメリットが多い様な気がしてきますが、どうでしょうか?

ジジさんの答え

> (1)作品の矛盾点の洗い出し方
>  そこで、一つ目の質問ですが、作品の矛盾点というのは、どういった場所に現れやすく、また、見つけ方というのがあったら教えてください。

 物語の矛盾は通常の場合、ネタ設定かキャラ設定の片方ないし両方に表われます。
 ネタの展開を第一に考えるあまり、キャラの性格や行動をそれが展開できるようにねじ曲げてしまったり、キャラを活躍させようとするあまりネタをないがしろにしてしまったり……ですね。

 そして、

>  自分の書きたいものを肉付けしながら、設定を編み、書いていったのですが、途中、主人公やヒロインのその場にいる動機や、必要な技量がないことに気づいてしまい、再び練り直そうにも、時間とモチベーションが保てなくなり、書くことを放棄してしまいました。

 という状況だったとのことですので、ネタを第一に考えすぎ、キャラ設定を練り込めなかったのが原因でしょうか?

 個人的には、とにかく主人公が活躍するために都合の悪い状況や環境を設定し、世界観の中で生かせる設定を作りつつ、それをキャラが便利に物語中で使えないようにするのがよいかと思います。

> (2)作品作りのペース配分
>  そこで、質問なのですが、締切1か月で、400字詰めを50枚から100枚書き上げるのに、プロット、設定づくり、執筆、修正は、どのような配分でやっていけばいいのか教えてください。

 これはあくまで私は、という話になりますが、設定づくり3日、プロット20日、あとの7日間であとの作業の辻褄合わせという感じでしょうか。
 設定はワンアイデアをとっかかりに一気に作ります。重要だと思っているのは設計図づくりで、これにほとんどの時間を費やします。
 場合によっては冒頭部分を先に上げて、そこからプロットを組むこともありますし、もちろん書きたいシーンを書いて、それに合わせて調整することもありますが、いずれにしても時間が必要なのはプロットです。

> (3)二次創作について
>  そこで、質問ですが、オリジナルの作品を作る上で、二次創作をするメリット、デメリットはなんなんでしょうか?

 私に二次創作の経験がないので、あくまで門外漢としての意見ですが……プレッシャーの少ない環境で執筆経験を積めるのがメリットかと思います。
 なによりキャラやネタという悩ましい設定を考えず、好きなキャラを輝かせることのみに集中できるので、書く楽しみも積み重ねられますし。

 そしてデメリットですが、これははっきりしています。
 二次創作出身の応募者は、ネタとキャラを作るのが苦手な傾向がありますね。
 まさに、

>  個人的には、書く愉しみを覚えるのにはいいけど、発想が、他の作品の設定頼みになる

 ということかと。

 ただ、このマイナス点は、それを自覚して創作に挑むことで解消しうるものだと考えています。
 人間関係については、揉めるようなら全部投げ捨てる覚悟をしてかかるべきかと。アマチュアの強みは、執筆が趣味であり、仕事ではないことです。仕事ならそれに関わる人間関係を切り捨てることで仕事も失いますが、趣味は人間関係を切り捨ててもそれ自体は残りますし、新しい人間関係も作れますので。

サイラスさんの意見

 こんばんは、サイラスです。お返事いただきありがとうございます。

 当たっています。
 今回、アンチ転生物を書こうとして、ネタの設定は、意外とすんなりいったのですが、キャラの設定が、ネタや話の展開との整合性を取っていくと、コロコロ変わり、これで、もう大丈夫だろうと思って書いたら、ヒロインが戦うための技量が、自殺ほう助パーティーいる動機が強くないと、話が成り立たないということに気づいたときには……という結果でした。
 主人公が、生き返って転生した敵を退治する。ヒロインは、別世界の転生体で、裕福な家に生まれたが、体が14歳のままのため、体力がない等、設定を書くことに固執していた感があります。

> > (2)作品作りのペース配分

> これはあくまで私は、という話になりますが、設定づくり3日、プロット20日、あとの7日間であとの作業の辻褄合わせという感じでしょうか。
> 設定はワンアイデアをとっかかりに一気に作ります。重要だと思っているのは設計図づくりで、これにほとんどの時間を費やします。
> 場合によっては冒頭部分を先に上げて、そこからプロットを組むこともありますし、もちろん書きたいシーンを書いて、それに合わせて調整することもありますが、いずれにしても時間が必要なのはプロッです。

 僕は、設定に時間をかけ過ぎていた気がします。プロットを滞りなく作りたかったがために、設定に力を入れすぎた、というか設定作りとプロットが混同してしまったとも反省しています。
 また、一日に企画に取り掛かる時間も短かったために、それに余計拍車が掛かったようにも感じました。

> > (3)二次創作について

> 私に二次創作の経験がないので、あくまで門外漢としての意見ですが……プレッシャーの少ない環境で執筆経験を積めるのがメリットかと思います。
> なによりキャラやネタという悩ましい設定を考えず、好きなキャラを輝かせることのみに集中できるので、書く楽しみも積み重ねられますし。
>
> そしてデメリットですが、これははっきりしています。
> 二次創作出身の応募者は、ネタとキャラを作るのが苦手な傾向がありますね。
> ただ、このマイナス点は、それを自覚して創作に挑むことで解消しうるものだと考えています。

 そうですね。
 ここのところ、ここの掲示板で、よく二次創作のトラブルの質問が多く、作家になることが目標であって、承認欲求や仲間を得ることが目的になっているのは、どうだろう?と、質問内容を見ていました。
 また、自分みたいに、作家としての力がつかなかったり、他人の作品に寄りかかった判断や批判を見ていると、二次創作って何なんだろ?と思うようになりましたので、下読みさんとしては、どう見ているのかなと思い、質問してみました。

りりさんの質問

 「萌え」「ギャグ」は入れたほうがいいでしょうか、入れないほうがいいでしょうか。

ジジさんの答え

 ギャグは必要ありませんが、男子向けラノベを目ざすなら萌えはあったほうが安心ですね。

 個人的には、応募作の時点では萌えも無理矢理入れるくらいならないほうがよいかとは思いますが。
 ヒロインが魅力的に描けてさえいれば自然に萌えは宿りますし、受賞できた場合、それが必要と判断すれば編集サイドから指示が入りますので。
 それよりも、「ネタとキャラが勝負できるものであるか?」を意識すべきかと思います。

 逆に、きっちり泣かせられるキャラと設定が作れているならどのレーベルでも大丈夫かと思います。
 とりあえず、泣きは本屋でも棚ができるジャンルですので、設定づくりの前に十分なリサーチを。