ライトノベル作法研究所
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  4. 笑いの正体と『優越感』と『安心感』公開日:2014/02/16

笑いの正体とは『優越感』と『安心感』

 人間がどんな時に笑うかというと、『優越感』と『安心感』を感じた時、というのが答えの一つです。
 『優越感』は、笑いのアクセル、『安心感』は笑いのブレーキ解除装置です。人を笑わせるには、『優越感』というアクセルを踏んで、『安心感』というプレーキ解除装置を作動させなければなりません。

 例えば、お笑い番組の『アメトーーク!』では2008年9月4日の放送から5回に渡って、『中学の時イケてないグループに属してた芸人』というコンセプトのトーク企画が行われました。
 中学時代、唯一、女の子からかけられた言葉が「ここおったんかい!」だった。エヴァンゲリオンの綾波レイの声を録音して、毎日聞きながら学校に通っていた。といった、中学時代の残念なエピーソドを芸人が披露しあうというものです。

 これらのエピーソードがなぜおもしろいのかというと、「こいつらは(俺より)バカだなぁ」という『優越感』を感じるからです。また、芸人が楽しそうにこれを披露しているので、笑っても大丈夫という『安心感』があるからです。

 友達が女の子に告白して振られたり、ズレた発言をして恥をかいた時、笑ってしまいそうになっても、まともな人間なら笑いません。そんなことをしたら、ひどい奴だと思われて、自分の首を締めるからです。また、人の不幸を笑うのは悪いことであるという道徳心もあります。
 でも、テレビ番組で芸人が自分の残念な体験談を披露するのなら、そんな心配はいらないので、ブレーキをかけずに笑えます。『優越感』と『安心感』がセットになっているのです。

 他にも『アメトーーク!』は、運動神経悪い芸人、滑舌悪い芸人、絵心ない芸人、女の子苦手芸人など、視聴者の優越感を刺激する企画をたくさん提供しています。
 中には、芸人のサバンナ高橋がプレゼンしながらも、採用されなかった企画もあります。「ほんのりいじめられてた芸人」です。
 いじめられていた体験談などは、『優越感』を感じるでしょうが、テーマが重くて暗い気持ちになりますし、これを笑うのは悪い人間のすることだという道徳観を多くの人は持っています。『安心して笑うことをができない』笑えない企画であるために、ボツにされたのでしょう。

 大ヒットしたギャグコメディライトノベル『バカとテストと召喚獣』(2007年1月刊行)は、学園最低のバカである主人公・吉井明久が、落ちこぼれの集まりであるFクラスのメンバーと協力して、好きな女の子のために劣悪な教室の設備を改善するべく、優等生たちに戦いを挑むというものです。
 主人公が、キングオブバカ、仲間もみんな劣等生であるという設定が、『優越感』を読者に抱かせます。しかも、彼らが悪知恵を武器に優等生たちを学校の競技である「試験召喚戦争」で打ち負かしていくという展開は、明るく、楽しいものであるため、『安心』して笑えます。

 作者の井上堅二さんは、当初は『受験戦争』というタイトルで執筆していたそうですが、人生を決めるような重いテーマを書くのが憚られたため、大して人生に変化を与えない『設備入れ替え戦』をテーマにした、と書籍『このライトノベルがすごい!』2010年度版にて語っています。
 受験戦争のようなテーマで、主人公がいかにバカな劣等生かを描くと、『優越感』は感じますが、戦いはどうしても重苦しくなり、失敗した時のダメージが大きすぎるので『安心』して笑うことはできません。テーマの変更は、作品の大ヒットからかんがみて賢明な判断だったと言えるでしょう。

「私は友達と話していただけだ。エア友達と!」
『僕は友達が少ない1巻』(2009/8/21刊行)

 こちらは大ヒットした『僕は友達が少ない』(2009/8/21刊行)のヒロイン、三日月 夜空(みかづき よぞら)の非常に有名なセリフです。一人で放課後の教室に残っていた彼女は、空想の友達と楽しそうに会話をしているさまを主人公に目撃されて、この名言を放ちました。このインパクト抜群の一言が、残念な美少女という夜空のキャラを立たせました。
 この発言がおもしろいのは、友達がいなくて空想の友達と話している残念さが読者に『優越感』を抱かせ、開き直ってあまりにも堂々とそのことを告白するさまが、笑っても大丈夫という『安心感』を与えるからです。もし、夜空が傷ついた様子で、「……わ、私は友達と話していただけだ……エア友達と……」と言っていたなら、深刻なシーンとなってしまうので、笑いたくても笑えません。
 『優越感』と『安心感』がセットになっていないと、ダメなのです。

 また『とらドラ!』(2006年3月刊行)に登場する結婚を焦っている女性教師、恋ヶ窪先生のネタがおもしろいのは、それほど深刻なコンプレックスではないからです。彼女は29歳であり、30代で結婚する女性も大勢いるので、例え好きな男性にアタックして玉砕しても、致命的なダメージにはなりません。重くないのです。
 もし、彼女が39歳で結婚を焦っているという設定だったら、重すぎて『安心して笑えない』です。

 もし、読者を笑わせたいと思ったら、読者にいかに、こいつはバカだなぁ、という『優越感』と、笑っても大丈夫という『安心感』を与えられるかを考えるべきでしょう。

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