ライトノベル作法研究所
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  4. 萌えの二層構造公開日:2012/06/25

萌えの二層構造。理想の存在とは魂を持った人形

 『萌え』という感情は、恋愛感情に近い物です。
 恋愛感情とは、性欲だけで成り立つのではなく、特定の異性に好感を覚え、相手に認めてもらいたい、側にいたいと願う状態を指します。

 萌えとは、これを現実世界にいる実在の異性ではなく、二次元美少女に対して感じる状態を言います。
(ただし、オタクは二次元とリアルを別物と捉えており、恋人がいたり、結婚していながらも二次元にも嫁がいる場合がある)
 萌えという感情は二層構造になっています。

 第一層は、視覚に依った萌えです。

 男性は視覚を通して性欲を感じるように本能にプログラムされているので、美少女イラストを見ただけで『萌える』ことができます。
 イラストが上手ければ上手いほど、ここでの萌えの快感は強くなります。
 ただし、この情動は性欲とほぼイコールでありり、一時的な興奮に過ぎません。イラストが目に入らなくなれば、消えます。

 第二層は、感情に依った萌えです。

 社会的な動物である人間が共感を覚え魅力を感じるのは、魂を持った同じ人間だけです。
 石ころや植物に対して恋愛感情を持つ人間は、99.999%存在しないでしょう。
 二次元美少女がライトノベルのストーリーを通して、人間と同じように血や涙を流す共感可能な存在として描かれた時、我々は彼女を魂を持った同種の存在だと錯覚し、好感を覚えます。

 第一層の萌えは、メイド、幼馴染み、猫耳、妹などの萌え記号の組み合わせで簡単に作れます。
 極論すれば、若くてかわいい女性キャラクターなら、それでいいのです。
 しかし、ここでの記号の組み合わせをいくら工夫したところで、第一層に留まるだけで、真に魅力的なキャラクターを作ることはできません。

 第二層の萌えを作るには、普段は明るいのに、実は大きな問題を背負っていた、といった意外性や影のある部分などを演出し、現実世界の人間と同じように、多面性を持った存在として描く必要があります。

 例えばヒット作『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(2008年8月)の黒猫は、ヒロイン桐乃と口喧嘩を繰り返す美少女キャラクターとして登場します。しかし、桐乃が作ったケータイ小説が盗作され、彼女がひどく落ち込んだ時、主人公の京介と共に出版社に出向いて盗作の事実を訴えるという友達想いの一面を見せます。
 この普段とのギャップによって、黒猫の不器用だけど友達想いの部分が伝わって、読者は彼女に好感を覚えるのです。これが第二層の萌えです。

 読者は、決して黒猫がゴスロリで中二病だから、萌えているのではありません。こういった表面的な部分をマネしても、黒猫並みに魅力を持ったキャラクターは作れないでしょう。

 現実に生きている人間とは、常に一定の行動パターン、反応を返すロボットのような存在ではなく、状況や場所、時間の経過によって違った顔を見せる多面性を持った存在です。キャラクターもそのような多面性を持った存在として描くことによって、魂を持った存在として認識されやすくなります。
 こうして、第一層の萌えの上に第二層の萌えが搭載された時、そのキャラクターは真に萌える存在となるのです。
 そしてこれこそ、ギリシャ神話の時代から人間が理想としてきた究極の存在なのです。

なぜ現実の人間ではダメなのか?

 『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』 (2012/04)という本には、ラノベのキャラクターは、まんが・アニメ的リアリズム(漫画・アニメの世界を描写すること)にのっとった二次元存在としてまず描かれ、その後に影のある部分などを演出して、血の通った人間として描く。奇妙ではあるが、このようなねじくれた描かれ方を必要とする、とありました。
 『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』はまれに見る良書で、大いに勉強させていただきましたが、著者の飯田一史さんは、オタクではないので、この点が理解できなかったのでしょう。
 なぜ「人間」の感情の機微を描くのではなく、「キャラクター」がキャラっぽい状態を脱して人間のような感情を表現するように描かなくてはならないかというと……

 姿形だけでなく、その中身の魂まで、読者(男性)に都合が良いようにカスタマイズされた存在。それでいて、カスタマイズされたロボットだと感じさせない、血の通った共感可能な存在だと感じ取れる存在こそ、人類が追い求めた理想の存在だからです。

 『“文学少女”シリーズ』(2006/4)の遠子先輩なんて信じられませんよ! なんで、演劇の練習を勝手に抜け出した主人公を迎えに来てくれるのです? あんたは天使か……

 実は、人類は太古の昔から、このような願望を抱いてきました。
 ギリシャ神話ではピュグマリオンが自分が作った彫刻の美女に恋をしてしまい、彼女が人間になることを願ったところ、女神アフロディーテがこれを聞き入れて、人形に生命を与えてくれたという逸話があります。
 フランスの作家ヴィリエ・ド・リラダンは1886年に小説『未来のイヴ』で、歴史上初めてアンドロイド美少女を登場させました。この物語は、外見は美しいのに心は醜い歌姫に恋をした青年貴族が、彼女に絶望し、彼女そっくりの人造人間を博士に作ってもらうというものです。このようにして生まれたアンドロイドは、人間では決してあり得ない美しい心を持っていました。

 ラノベの二次元美少女とは、この系譜の延長線上にあるものです。
 完璧な姿に清らかな魂を封入された、決して読者を傷つけない存在だから良いのです。

 魂を持った3次元女性なんて、何考えているかわかりません。
 表面ではニコニコ笑っていても、腹の中では、このキモオタが! とか罵っていても不思議じゃないじゃありませんか?
 ラノベの表紙がグラビアアイドルの写真だったりしたら、彼女は笑顔を見せているけれど、本当はストレスが溜まる仕事で、お金のためにイヤイヤやっているのかな? とか考えてしまいます。

 しかし、二次元美少女なら、この点は安心。彼女は架空の存在なので、いくら好意を寄せても、●●ちゃんの中身はきっとコウダヨネ! と決めつけても、気持ち悪いと思われることはありません。決してこちらを拒絶しない、いくらでも愛情を注げる存在なのです。

 全米370万部突破のベストセラー『史上最強の人生戦略マニュアル』(2008/9)で、著者のフィリップ・マグローは人類普遍の法則として、「人間は拒絶されること一番恐れる」と語っています。
 「人間がもっとも辛いのは愛する者に拒絶されること」です。
 殺人事件などという悲劇は、ほぼ9割これが原因で起きます。 

 だから、理想の存在とは魂を持った人形なのです。

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