ライトノベル作法研究所
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  4. ダメな俺の才能が開花公開日:2013/09/13

ダメダメな俺の才能が開花しヒーローになってモテる!

 人気のあるライトノベルの主人公には共通点があります。

1.平凡だったり、ダメダメだったり、オタクだったりする。基本的に劣等生(感情移入促進の効果)。
2.生まれつき特殊能力を備えていたり、偶然、大きな力を手に入れたりする。天才。最強(強さ。オンリーワンの気持ちよさ)。
3.2の力を使って女の子を助けてモテまくる(モテ願望の充足)。

 例えば、鎌池和馬の『とある魔術の禁書目録』(2004年4月刊行)の主人公、上条当麻は、勉強が苦手な劣等生で、超能力者を開発する学園都市では無能扱いされています。
 しかし、先天的に「異能の力であれば、超能力・魔術問わず、いかに強力な物であっても右手に触れただけで打ち消すことができる」という「幻想殺し(イマジンブレイカー)」という能力を備えています。
 この能力で、数々のヒロインを助けてモテまくりますが、学校では相変わらず劣等生扱いで先生に怒られたり、夏休みの宿題が終わらなくて泣きそうになったりしています。

 石踏一榮の『ハイスクールD×D』(2008年9月刊行の主人公、兵藤一誠はエロくてオタクでバカな高校生です。学校では、「変態三人組」の筆頭として、女の子たちから嫌われています。
 彼は美少女の悪魔リアス・グレモリーの下僕として悪魔に転生しますが、魔力が弱いため、魔法陣で召喚者の元にワープできず自転車で移動するなど、悪魔としても劣等生です。
 しかし、強大な神滅具「赤龍帝の籠手(ブーステット・ギア)」を先天的に宿しているため、条件次第では魔王すら凌駕する力を発揮することができ、この力を使ってヒロインを助けてモテまくります。

 『IS 〈インフィニット・ストラトス〉』(2009年5月刊行)の主人公、織斑一夏(おりむら いちか)は、女性にしか使用できない最強の兵器「IS(インフィニット・ストラトス)」を使える唯一の男性としてIS操縦者育成学校「IS学園」に入学します。
 周りは中学校からすでにISの勉強を始めている少女達ばかりだったので、勉強が何もわからない劣等生として、学園生活をスタートします。
 しかし、彼は非常に高いスペックとトップクラスの攻撃力を持った専用ISを使うことができ、これで活躍して、女の子から認められ、モテまくります。

 ラノベの主人公が、このような設定のキャラになるのは、私たちの潜在的な願望が理由です。

 私たちは、みな自分が平凡で欠点だらけで、たいした能力もなく、異性にモテないことを知っています。
 でも、心の底では、自分はこの宇宙にたった一つの価値ある存在であり、いつか隠れた才能が開花してスーパーヒーローになり、女の子にモテモテになることを望んでいます。
 これは何も私の個人的な願望ではなく、日本人全体として、このような心理を抱いている傾向にあることが、経済学の見地からもわかっています。

 最近、いろいろな会社を見て感じるのは、儲かっているのは次の3つのテーマに取り組んでいるところかな、ということなんです。
 1つ目は、美容とかエステのようなモテるための商品を売っているところ。2つ目は、たとえば髪の毛が薄いといったコンプレックスを解消する商品を売っているところ。そして3つ目がお金儲けができる商品を売っているところ。
引用・経済とお金儲けの真実(2011/01刊行)

 エコノミストの飯田泰之さんの著作『経済とお金儲けの真実』によると、不況下でも儲かっている企業は、モテ系、コンプレックス解消系、お金儲け系の3つだそうです。
 つまり、日本人はみな誰でもモテたいと思っており、コンプレックスの塊で、勝ち組(資本主義社会での勝利者)への憧れが強いという訳です。

 このため、エンターテイメントコンテンツも、自然と、コンプレックスが解消されてモテモテになって大勝利! という欲求を擬似的に充足できるモノが求められているのだと言えます。

 このような願望を俗に中二病と呼びます。大人になれば消えてなくなる痛い妄想という奴です。
 ところがどっこい、いくら歳を取っても、仕事をして税金を納めるようになっても、結婚しても、このダメダメな自分が、いつかはスーパーヒーロー(成功して)になって美女にモテる! という願望は消えません。中二病 は不治の病です。
(少なくとも私はそうです。大人になったら精神的に成長するとか、ぜんぜん嘘でした)

 実は、このような心理は日本のオタク独特のものではなく、アメリカのポップカルチャーにも見て取れます。
 欧州と違って社会階層が固定化されていない自由の国アメリカでは、建国以来、誰もが「今はダメだけれど、いつか俺もスーパーヒーローに!」を夢見て、競争を続けてきました。
 その結果、平凡でダメダメな主人公にある日突然、特殊能力が宿り、スーパーヒーローになって大活躍して、ヒロインにモテモテ! というスーパーヒーロー物が人気となったのです。
 欧米の文化に詳しいライターの谷本真由美さんは、著書の中で以下のように述べています。

 アメリカを代表するポップカルチャーのひとつに、スーパーヒーローものというのがあります。
 これは田舎や都会の平凡な主人公(主に男性)が、ある日、突然特殊能力があることを発見し、友達や家族には内緒で、悪の敵と戦って地球を救うというお話です。その代表例は、アメリカンコミックが元になっている「スーパーマン」です。
 「スーパーマン」は、片田舎出身でドジな新聞記者のクラーク・ケント氏が、実は惑星クリプトン出身の超人的能力を持ったスーパーヒーローで、悪の敵と戦って地球を救う上、美人の同僚と恋仲になるという筋書きです。
引用・キャリアポルノは人生の無駄だ(2013/06刊行)

 スーパーマン(1938年刊行)と並んで人気の高い『スパイダーマン』(1963年刊行)は、勉強以外は冴えないオタク気味の男子学生ピーター・パーカーが、特殊な蜘蛛に噛まれたことによって超人的な力を手に入れ、コレを使って悪と戦って、憧れの美女(モデル兼女優!)にモテるという物語です。
 この筋書きは、まさしくライトノベルそのまんまですよね? 
 第二次大戦後、アメリカの文化、資本主義をマネてきた日本人も、アメリカ人と同じ願望「今はダメだけれど、いつか俺もスーパーヒーローに!」を持つようになり、これが日本独自のオタク文化と融合して、ラノベ主人公という型が生まれたのだと考えられます。。

 人気のあるラノベ主人公が、アメリカンヒーローと違う点は、力が不安定であるということです。
 彼らが有する能力は、特定条件下では最強ですが欠点も多く、「最強だけれども最弱」という振れ幅の大きな立ち場にいます。

 『とある魔術の禁書目録』の上条当麻は、超能力や魔術を右手で触れただけで完全に打ち消せるけれど、右手だけという制約がある上、物理的な攻撃は防げないため、いつも瀕死になっています。

 『ハイスクールD×D』の兵藤 一誠は、力を発揮するために時間がかかる、敵の本拠地に行かないと特性が使えないなど、能力に対する制約が多く、下手をするとすぐに殺される危険と隣り合わせです。

 『IS 〈インフィニット・ストラトス〉』の織斑 一夏は、最強の攻撃力を誇るISを使えるけれど、そのために自機のシールドエネルギーをすべて使わねばならず、武装の拡張もできないという大きな制約を背負っています。

 これは主人公が強すぎると、敵に簡単に勝ててしまって面白くない。燃える展開が作りやすくなる。
 万能だと、読者の立ち場とかけ離れてしまって、感情移入しにくくなる(コンプレックスの解消ができない)。
 制約がある方が、戦術性が生まれておもしろい。

 といった理由から生まれた工夫だと考えられます。

祖先から受け継いだ根源的欲求

「ダメダメな俺の才能が開花して、スーパーヒーローになって美女にモテる!」
 という願望は、人間の遺伝子に組み込まれている根源的なものだと考えられます。
 人類の祖先である猿は、群れで行動する生き物で、個体は力の強さによって群れの中でランク付けされています。
 トップであるボス猿がメスを独占します。また、ボスとなるためにはメスグループの承認を必要とします。
 ボスとなるためには力だけではダメで、メスたちにモテなければならないのです!
 このような社会では「力」と「モテ」への憧れが強くなるのは当然のこと。そして、90%i以上の個体は力も弱くメスにもモテません。
 それら90%が持つ願望とは、「このダメダメな自分が、本当は凄いやつで、いつかは最強になってハーレムを作る!」だったに違いありません。
 現代(2000年以降)ではこの根源的な欲求をストーレートに満たしてくれるコンテンツが人気となっているのです。
 このことは、東浩紀の著作『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』に詳しく書かれています。

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