ライトノベル作法研究所
  1. トップ
  2. ライトノベルの書き方
  3. オリジナリティ論
  4. 当たり前の素材を使った意外性公開日:2014/03/21

当たり前の素材を使った意外性

 オリジナリティとは、「こんなあたりまえの素材をこんな角度から見せてきたか」と感じさせる「意外性」です。
 今までにない斬新な設定やキャラクター、ストーリー展開などは、物語が大量に出まわってストックされ続けている現代社会には、もはや存在しないと言ってよいです。 

 このような状況でオリジナリティを出すためには、当たり前の素材を異なる角度から描くのがベストとなります。

 集英社スーパーダッシュ文庫の『六花の勇者』 (2011年8月)を例に上げて解説しましょう。宝島社が発行するライトノベルのガイドブック『このライトノベルがすごい!』のラノベランキング2013年度第3位、2014年度第8位を取った人気作です。

 基本となる設定は、世界を滅ぼす魔神が復活する時、運命の神に選ばれた6人の勇者『六花の勇者』が現れて、これを滅ぼすという、ファンタジーとしてはごくごくありふれたモノです。
 しかし、六花の勇者が集合場所にやってくると、なんと勇者の証を持つ者は7人いました。しかも、外に出られなくなる霧の結界に7人は閉じ込められてしまいます。この結界は、魔神側が送り込んだ偽の勇者である7人目の作動させた罠で、結界を解くために、結界を張った人間を殺さなければなりません。
 なんと6人の勇者が運命の神に選ばれるという使い古された設定を利用し、誰が敵なのか? という推理と、極限状態で疑心暗鬼に陥った勇者たちが、お互いに殺し合おうとするさまを描くのです。

 魔神を倒すバトルが目的ではなく、謎解きと、極限状態での人間心理がテーマとなっています。

 魔物との混血児の女の子が真っ先に疑われたり、お姫様に片思いする騎士が主人公に嫉妬して判断を曇らせたり、自分の判断を正しいと信じる聖者が、嘘を言って仲間を炊きつけて主人公を殺させようとしたりと……
 主人公は、7人目の仕掛けた罠によって7人目だと疑われて、仲間たちから命を狙われる中、真の敵とそのトリックを暴き出すために奮闘します。

 おもしろいのは、一つの謎が解かれたら、どんどん次の謎が現れて、単純な筋立てなのに、先が全く予測できないことです。

 1巻の終わりは秀逸で、やっと7人目を突き止めて終わりかと思ったら、もう一人勇者の紋章を持つ少女が現れて、また7人になってしまいます。
 実は、魔王の座をかけて争う3体の魔物のうちの2体が、偽の勇者を潜り込ませるという戦術を同時に思いついて、別々に実行していたのです。しかも、彼らが手に入れた勇者の紋章は、運命の神の力を宿した本物でした。果たして六花の勇者とは、何なのか? 魔神の正体とは? そして、7人目とは誰なのか?
 といった、謎がどんどん立ち上がっていきます。

 単純な設定を基本にしているので、理解しやすいのに先が読めないという、理想的な状況になっているのです。

 使い古された当たり前の設定を、角度を変えて使うことによって、斬新で先の読めない物語にしている好例と言えるでしょう。

次のページへ >> 技術のパラドックス

携帯版サイト・QRコード

QRコード

 当サイトはおもしろいライトノベルの書き方をみんなで考え、研究する場です。
 相談、質問をされたい方は、創作相談用掲示板よりお願いします。

意見を送る

『当たり前の素材を使った意外性』に対して、意見を投稿されたい方はこちらのメールフォームよりどうぞ。

カスタム検索