ライトノベル作法研究所
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  4. 世界観作りとはルール作り公開日:2013/08/21

世界観作りとはルール作り

 小説という娯楽媒体の特徴として、

●心情描写に向いている。
●頭脳戦、謎解きに向いている。
●アクションには不向き。

 ということが上げられます。
 情報を伝える方法が文章しかないため、アニメや漫画のように、かっこいいアクションシーンや映像美といった点で受け手を魅了することは、非常に困難なのです。
 戦闘を描くのであれば、戦闘シーンの視覚的な派手さではなく、戦闘に至るまでの経緯や、どうやって敵を倒すのか? 
 といった頭脳戦、心理戦、心情描写などで読者を魅了するのに向いています。

 戦闘の見た目的な格好良さにこだわったとしても、億単位のお金をかけてど派手なアクションシーンを制作するハリウッド映画などには絶対に勝てません。
 ハリウッド映画を上回る魅力を生み出そうとするのなら、映像美ではなく、頭脳戦、心理戦、心情描写という小説の得意分野で勝負するのが正解なのです。

 そのために必要なのが、ルールによる制約です。
 実は、世界観作りにおいて、もっとも重要なのが、その世界を支配するルール作りです。

 例えば、榊一郎のライトノベル『ストレイト・ジャケット』(2000年8月刊行) には、魔法を使いすぎた人間は魔族という怪物になるという設定があります。
 
 魔族は魔法を無制限に使って人間を襲う、人類の天敵です。
 魔族を倒すには魔法を使うしかないため、戦術魔法士という魔族退治専門の魔法使いがいます。
 主人公のレイオットは無資格の戦術魔法士であり、モールドと呼ばれる鎧に身を包んで戦います。

 モールドには魔族化を抑える機能を備えたデュラビットと呼ばれる端子が填っており、魔法を使うごとに、この端子が外れていきます。
 レイオットのモールドのデュラビット数は13であり、13を超えるデュラビットを消費すると、彼は魔族化してしまいます。
 威力の低い魔法はデュラビットを1つ消費するだけですが、強い威力の魔法となると2,3個、消費することになります。

 この制約の中で戦うために、どの魔法を選択するべきか? この局面で、魔法を使うべきか?
 戦術や駆け引きが生まれるのです。
 単なる力押しの戦闘ではなく、こういった頭脳戦の要素を取り入れることで、読者は「自分ならどうやってこの局面を打破するか?」といった物語に参加する楽しみが加わります。

ストレイト・ジャケットのルール

 勝利条件
●魔族を倒せば勝ち。

 敗北条件
●魔族に負ける(死亡)。
●自己の魔族化。
●13の魔法使用回数を使い切り、戦闘不能になる。
●封鎖区域の外への魔族の逃亡を許す(大勢の犠牲者が出る)。

 魔族の性質
●魔族は無制限に魔法が使える。
●魔族は時間が経つにつれて、進化し強力になっていく。
●魔族は脳の五割を破壊されないと死なない。それ以下の損傷は即座に魔法で回復する。
 魔族の脳は、身体のどこにあるかわからない。脳の場所を突き止めなくてならない。
●魔族に物理的な攻撃は効果が薄く、基本的に魔法攻撃によってしか殺すことができない。
●等級の低い魔族は、銃で倒すこともできる。
●6種類の呪文書式板をスタッフに装着しておくことで、詠唱なしに即座に魔法を放つことができる。
 これ以外の魔法は、口頭による詠唱でしか発動できない。
●魔族は理性が失われており、話し合いや説得はできない。破壊衝動のままに行動する。

 このような明確なルールがあるからこそ、どうやって敵に勝つか? という工夫が生まれます。

 読者は圧倒的に不利な状態から、主人公のレイオットがいかにルール内で試行錯誤して、敵に勝利するのか固唾を呑んで見守ることになります。
 この工夫の過程にこそ、人は熱狂するのです。
 図にすると

●圧倒的な不利な状況。
  ↓
●あっと驚く、解決手段(ご都合主義ではない)。
  ↓
●快感の発生
「ずけーっ! あの状況で、こんな手を思いつくなんて、カッコイイ!」
「敵の行動を予測し、ここまで計算して動いていたのか!?」

 この快感は、チェスや将棋などのゲームのおもしろさに似ています。

 ストレイトジャケットは物語の後半になると、人の身で魔族同様に魔法を無制限に使うことを可能にする『生贄システム』を搭載した魔法兵器が登場します。
 これは人間を単なる魔法を生み出す消耗品として捉えたものです。
 魔法を使った際に発生する汚染物質『魔素』を、システムに組み込んだ他人に流すことによって、自分ではなく他人を魔族化させます。

 魔法を使った代償を他人に肩代わりさせる、他人を生贄にして無制限に魔法を使うという仕組みです。
 生贄にされた人間は、魔族化する前に、自動的に爆薬によって殺されるので、まさに銃弾同様の扱いです。

 魔法使いの戦いというと、いかに強い魔法を使うか? といった話になりやすいのですが、使用回数制限があるため、いかに使用回数を増やすか? といった方向に兵器が進化するのです。
 つまり、根底にあるルールが、他作品との差別化を生み、ストレイトジャケット独自の魔法世界を作り上げているのです。

 ルールによる制約を設けることで、発想は窮屈になるどころか、逆に様々な応用や工夫が生まれ、それが独自性となります。

(交流用掲示板の公ちゃんさんの書き込みより)
 2010年、日曜のお昼に放送されたビートたけしと国分太一の「ニッポンのミカタ!」で、我々クリエイターにとって興味深い実験がありました。

●実験内容
 12人の被験者に半分づつA、Bの2チームに分かれてもらう。
 全員に「怖い林檎の絵」を描いてもらう。

Aチーム
 「怖い林檎」を描くことだけを伝える。
 結果→ほぼ全員がハローウィンのように林檎に顔を描いた。

Bチーム
 上記に加え、「林檎自身には何も手を加えないで」と条件を追加。
 結果→異臭のオーラや遠近感、流血など全員が異なる方法で表現した。

 以上の結果から、番組では「あえて規制を作る事でオリジナリティが出る」という結果論が出されてました。

 さらに、ストレイト・ジャケットの『生贄システム』という残虐な兵器の登場は、ダークな世界観をよりいっそう深めています。魔法と魔族のルールが、戦闘を盛り上げるだけでなく、この世界を覆う、暗く退廃的な雰囲気までもを作り出しているのです。
 なにより見事なのは、主人公は魔族化した育ての親を殺しており、その贖罪のために、もっとも危険な戦術魔法士という職業についているという設定です。

 主人公の行動の動機とこの世界独自のルールが深くリンクしているのです。

 また、魔族と人間の間に生まれた少女や、父親が魔族化したことにより迫害を受けた少年、といったキャラクターが重要なポジションを占めることにより、ストーリーを進める中で、自然に世界観に触れていくことができます。
 世界を支配するルールが、キャラクター、ストーリーと強く関連し、相互作用的におのおの魅力を深めているのです。

 ストレイトジャケットのルールの生み出す効果。
●キャラクターの行動の動機を作っている。
●戦闘に駆け引きや戦術を生み出す。
●主人公をピンチに陥れる(ピンチから逆転する過程こそが山場)。
●ダークな世界観を生み出す。
●他作品の魔法との差別化(オリジナリティ)。

 この作品のおもしろさは、まさに根底にあるルールが生み出していると言っても過言ではありません。

 他にも、乙一の短編集『ZOO』(2006年5月刊行)に収録された『神の言葉』には、魔力を備えた声を持った少年が登場します。彼の声には、以下のような力があります。

1・生物に対して、絶対的な強制力を持つ命令を発することができる(無生物には効果がない)。
 「死ね」と言えば、相手は死ぬ。「指が取れろ」と言えば、相手の指が床に落ちる。
2・「相手に命令を与える」と意識して言葉を発しないと効果がない。
3・一度、行使された命令は、取り消しが効かない。

 彼は幼い頃、些細なことから感情的になり、母親に対して、
「おまえはアア、猫とサボテンの違いがわからなくなるウウウ……」
 という命令を発してしまいました。
 以来、母親は、サボテンを猫であると思い込んで、顔をすり寄せて血だらけになるという奇行を繰り返すようになります。
 彼は、後悔しましたが、母は決して元に戻りません。

 少年はその後も、友人の朝顔を腐らせたり、凶暴な犬を手なづけたりと、自らの能力を使って欲求を満たしていきますが、そのたびに後悔することになります。
 果ては、憎くて仕方ない弟に「おまえは死ぬんだよ!」という命令をしてしまうのですが……
 その命令によって、彼は自分自身の記憶から消していた、恐るべき事実に気づいてしまいます。

 これ以上のネタばれは控えたいので、気になる人は実際にZooを読んでみてください。
 彼のかけた呪いによって人類が滅んでいく様は、実に恐ろしく、見事です。
 主人公の持つ能力に課せられたルールが、ストーリーの根幹となっているのです。

 他にも、鎌池和馬 の『とある魔術の禁書目録』 (2004年4月刊行)の主人公、上条当麻の持つ能力「幻想殺し(イマジンブレイカー)」も、おもしろいルールを持っています。

 「異能の力であれば、超能力・魔術問わず、いかに強力な物であっても右手に触れただけで打ち消すことができる」というものです。
 この力は、一見無敵に思えますが、必ずしも万能ではありません。

 まず、相手の攻撃を無力化できるのは、右手首から上だけです。
 上条自身は多少腕っ節が強い程度のごく普通の高校生なので、異能の攻撃が、体の右手以外の部分に当たったら致命傷になります。
 さらに、異能の力を使わない物理的な攻撃、例えば銃で撃たれたり、爆弾で攻撃されたりした場合には一切効果がありません。もし敵が超能力で作った火の玉で彼を攻撃した場合、火の玉は右手で消せても、その爆発で飛んできた瓦礫の破片などは消せないのです。

 また、この能力は彼の意思に関係なく右手に触れただけで発動するため、味方となるはずの力まで、壊してしまう恐れがあります。

 このように強力でありながらも欠点や制約がある故に、使い方に応用や工夫が生まれるのです。
 読者は、自分だったら、この能力をこう使うのになぁ、と空想するだけでなく、上条を倒すにはこうすれば良いのじゃない? と敵になったつもりで攻略法を考えることもできます。

 ルールや制約があることで、読者を物語の世界に参加させることができるのです。

 ただし、なんでもかんでもルールを作ればおもしろくなるかというと、それは違います。
 ゲームの世界には、まったくつまらない糞ゲーと呼ばれる評価の低いゲームがありますが、これはルール作りに失敗したためです。
 どうすれば、ゲームがおもしろくなるか? 参加者がエキサイトしてくれるか? 
 緻密な計算が必要になります。

●ルール作りのコツ
1、シンプルで理解しやすいこと。
2、応用が利くこと。
3、致命的な弱点、リスクを持っていること(主人公をピンチに追い込む)。
4、物語に深く関わってくること。

 漫画では、少年ジャンプで連載された『デスノート』 が好例です。

 これは人の名前を書き込むと、その相手が死ぬ『デスノート』を手に入れた少年、夜神月(やがみ らいと)が、犯罪者を地上から抹殺し、理想の世界を作ろうとする物語です。
 犯罪者を殺し続ける彼を追う名探偵Lと、熾烈な頭脳戦を繰り広げます。

 デスノートには、細かいルールが決められており、このルールが二人の駆け引きを生み出しています。

●デスノートのルール
・デスノートに名前を書かれた人間は死ぬ。
・書かれる人物の顔が頭に入っていないと効果は得られない。
・名前の後に人間界単位で40秒以内に死因を書くと、そのとおりになる。
・死因を書かなければ、すべてが心臓麻痺となる。
・死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。
・デスノートから切り取ったページや切れ端などでもデスノートの効果は有効である。

 デスノートで人を殺すには相手の『顔』と『名前』が必要です。
 月は自分を追ってきたFBI捜査官を利用し、同僚の名前をデスノートに書かかせることで、彼らを全滅させてしまいます。
 Lはこれらの経緯から、一見無敵に思える超能力大量殺人者・通称キラが殺人を犯すためには『顔』と『名前』が必要であることに気づき、顔はさらすものの本名だけは知られないように工夫します。
 一方、月はLを殺すために、Lの本名を手に入れようとしますが、うまくいかず、逆にLに追い詰められてしまいます。

 もし、デスノートが、殺したい相手をなんの制約もなく殺せる道具だったら、このような駆け引きが生まれる余地はありません。
 Lはさっさと月に殺されて終わりです。

 デスノートに制約が存在するからこそ、弱点を突いたり、裏をかいたりすることが可能になるわけです。

 また、具体的なルールがあることによって、読者は、デスノートをもし自分が手に入れたら、どう使うか? どう応用してLと戦うか? といったことを空想して楽しむことができます。

 ルールがあることによって、発想が膨らむのです。
 これはチェスや将棋のルールから無数の戦術が生まれるのと同じです。

太郎兵衛さんの意見2013/07/10

 世界観の作り方として、インディアンの民話が参考になります。
 そこで使われている法則が

 欠落+禁止+違反+回復+行って帰る

 です。
 プロの作品でもこの法則はよく使われていて、例えばエヴァンゲリオンでは

欠落:臆病な主人公碇シンジ
禁止:アダム(リリス)と使徒との接触
違反:アダムからエヴァを創って戦う
回復:使徒を倒す
行って帰る:秘密基地ネルフと学校を往復する

 という風に使われてます。

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