ライトノベル作法研究所
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  4. 底の浅い世界公開日:2013/08/21

描きたい展開だけに目がいくと底の浅い世界になる

 小説を書く一番の動機とは、おもしろい作品に出会い、それと同じような小説を書いてみたいと思うことでしょう。
 この想いが強いことは、小説を書く原動力になるので悪いことではありません。
 ところが、この想いにばかり囚われて周囲の事情に目が行かないと、底の浅い世界観ができあがります。

●例
 城の生活がイヤで、国を飛び出したお姫様がいたとします。
 そこにお姫様を拉致しようと狙う敵国の兵士がやってきます。
 お姫様は魔法使いで、呪文を唱えただけで、あっさり敵を撃退してしまいました。

 この話にリアリティを感じるでしょうか?
 私はまるで感じません。
 第1に、王城でぬくぬく育ってきた少女に負けてしまうような兵士って、兵士と言えるのでしょうか?
 兵士とは、戦争を想定した厳しい戦闘訓練を受けている者です。
 当然、魔法使いへの対処法などもある程度、訓練さているでしょう。

 第2に、王女が魔法使いとしての優れた才能を持っているのなら、それ以上の魔法使いを用意して捕獲しようと敵国の軍部は考えないのでしょうか?
 兵士は消耗品じゃありませんし、最初の任務に失敗して王女を警戒させたら、再チャレンジの成功率はかなり落ちます。
 「怖い目にあったので、やっぱりお城に帰る!」なんて心変わりされたら、目も当てられません。
 王女を捕らえる千載一遇のチャンスを、ずさんな作戦でドブに捨てるなんてマヌケのやることです。
 このように、

 描きたいことだけに目を向けて、周囲の事情にまで考えが及ばないと、リアリティの無い小説になります。

 そんな小説は底の浅さがわかった時点で、多くの読者が見限って読むのをやめるでしょう。

●例2
 次の例を出します。
 当サイトに投稿された小説の中にあったセリフです。

「後ろ暗い連中が、あいつらを雇って標的を殺させる。成功率はほぼ10割。規模がでかいから、とりあえず撃退してもまた別な奴がやって来る」

 この作品の中に出てくる暗殺組織「忍」は、ほぼ10割の成功率を誇る暗殺集団だそうです。 
 これだけで、著者が設定を深く考えていないことがわかります。 
 暗殺の成功率がほぼ10割などということはありえません。
 後ろ暗い連中の相手は、おそらくそれなりの有力者です。
 彼らも命がかかっていますから、プロの護衛を雇います。
 プロの護衛は無論、対暗殺者用の訓練を受けています。
 そんな相手と、10回戦って10回勝てる暗殺集団などいないでしょう。
 暗殺というのは敵のテリトリーに侵入して行うのものなので、守りを固めている相手に対してはほとんど成功しないのです。
 そうでなければ、世の中の有力者はみんな早死にしてしまいます。

 しかし、「忍」の刺客は、ヒロインである17歳の少女の暗殺に失敗して、返り討ちにされます。
 もう1人、暗殺者が派遣されますが、今度は彼女を守る少年に邪魔され任務を放棄して逃げ帰ります。
 子供に負けるような、実に質の低い暗殺集団です。
 彼らはずさんな作戦を立てるばかりか、専門的な暗殺ノウハウも、高度な身体技能を持っていないのです。
 おそらく作者が暗殺者の知識を持っておらず、調べる気もなかったのだと推測されます。
 こんな組織が、成功率10割なんて数字を出せるなんて信じられません。
 また、とりあえず撃退したら、その時点で黒星がカウントされるでしょう。
 セリフに、そもそも矛盾があります。
 これまたリアリティが皆無です。

●例3
 もう一つ、投稿された小説にあった例を上げます。

 主人公は魔法を教える魔法学園の生徒です。
 彼は学校授業の一環で、生徒同士で攻撃魔法をぶつけ合って戦うというバトルロワイヤルに参加します。
 バトルロワイヤルでは魔法の腕輪を身につけます。これは生徒の身を守るアイテムで、致死量の魔法攻撃を受けると、バトルフィールドの外に瞬間移動されるという便利な代物です。
 主人公は、このバトルロワイヤルを勝ち抜き、最後に友人との一騎打ちで最上級攻撃魔法を使います。
 なんと彼は、秘密図書館に保管されていた魔導書を読んだだけで、この魔法を覚えてしまったのです。 

 これまた恐ろしいほどリアリティがありません。
 上級魔法を本で読んだだけで身につけられるのなら、 彼は高い学費を払って学校に来る必要がありません。
 学校に通っている理由は、魔物を倒す戦士になるためだそうですから、もはや目的を果たしています。
 また、どれほどの天才かは知りませんが、一読しただけで最上級魔法が会得できてしまうなんて、この世界の魔法はなんとも底が浅いです。
 さらに、一般生徒に貸与できるほど溢れかえっている魔法の腕輪は、この最上級魔法さえ無効化してしまいました。
 スゴイ矛盾を感じます。どこが最上級なのでしょう?
 おそらくゲームの発想で小説を書いているために、こういう事態になってしまったのだと思います。

 ゲームの設定をそのまま小説に転用するようなことをすると、オリジナリティだけでなくリアリティすらなくなります。
 注意してください。

●例4
 あるオンライン小説で、このような記述がありました。

 アデプト・クラスの魔法使い。小さな国を1体で滅ぼせるような中級の魔物を、1人で倒せてしまうほどの存在である。

 この文章を目にした途端、たいていの人が読む気を無くすと思います。
 どこが悪いか解説しましょう。
 国を滅ぼせるような魔物を、単身打倒できてしまうなら、その人間は国家よりもはるかに強大な存在だということになります。
 そんな者がいたら、国家権力というのは成り立たないでしょう。

 彼は神にも等しい存在です。
 強盗、殺人、放火、どんな犯罪を起こそうと誰にもとめられません。
 国王でさえ、彼の自由を束縛することはできません。
 彼の気まぐれ1つで、国家は滅亡します。社会秩序は崩壊です。
 このアデプト・クラスなる者が、世界に数えるほどしかいないのであれば、まだイイでしょう。
 俗世との縁を切り、世界の真理に到達するための研鑽を続けている……
 とかいう設定なら納得できます。社会秩序は守られます。

 しかし、これが、まだ14,5歳くらいのふつう少女だったら、どうでしょう?
 苦労もなく育ってきたような娘で、血筋も特別なものではありません。
 そんでもって、主人公に誘われて、悪者を倒すための旅にホイホイ従います。悪者退治は遊び感覚です。
 特別な力や知識を与えられる者は、それを悪用しないようにに、本来、師よりその責任も教えられるものですが、彼女からは、そのような自覚はまったく感じられません。
 ものすごい安っぽさが鼻を突きます。プロのラノベはこの安っぽさを消すために、様々な制約を主人公やヒロインに与えているのですが、そういった工夫は一切ありません。
 しかも彼女は超イレギュラー存在というわけではなく、こんな連中が、主人公の敵や仲間にはゴロゴロしているのです。
 生きる大自然災害が無自覚に徘徊する世界……恐いですね。

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