累計発行部数1425万部以上を売り上げた鎌池和馬の『とある魔術の禁書目録』、第一巻(2004年4月刊行)の冒頭17ページには、以下のような一文があります。
学園都市でも七人しかいない超能力者、そこに辿り着くまでにどれだけ『人間』を捨ててきたのか……それを匂わせる暗い炎が言葉の端に灯っている。
『とある魔術の禁書目録』第一巻 p17
このシーンでは、学園都市に7人しかいない最強の超能力者の一人、ヒロインである御坂 美琴(みさか みこと)が登場し、その超人的な力を主人公に見せつけます。
ここで読者は、御坂美琴と同格の力を持った超能力者(レベル5)が他に6人いることを知りますが、第一巻の時点では、ここで他の6人の存在をほのめかすだけで、名前すら登場しません。
他の超能力者(レベル5)である一方通行という少年が登場するのは、第3巻になってからです。
この設定のうまいところは、最初に最強の超能力者が7人いると示し、「他にどんな奴がいるんだろう?」と読者の興味を掻き立てているところです。
なかなかこの7人全員が登場せず謎の存在になっているので、これが知りたくてシリーズを読み続けてしまいます。
この数字で隠れキャラを暗示するという手法は、1985年12月から少年ジャンプで連載が開始された漫画『聖闘士星矢』でも使われ、同作品の爆発的人気に繋がりました。
聖闘士星矢では敵として、黄道十二星座から力を与えられ、女神アテナを守護する黄金聖闘士(ゴールドセイント)が登場しました。
主人公である星矢たちは、黄金聖闘士を束ねる教皇に反逆者の汚名を着せられて、黄金聖闘士らと戦います。
黄金聖闘士は、序盤では、教皇に逆らってアテナを聖域から連れ出した射手座のアイオロス、主人公と因縁を持つ獅子座のアイオリア、主人公らに味方する牡羊座のムウしか登場せず、他の9名がどんな存在であるのか、その能力や性格、なぜ悪である教皇に荷担
しているのかなどは伏せられていました。
ここで読者は、他の黄金聖闘士にはどんなキャラクターがいるのか、猛烈に知りたくなります。
これをじらすかのように、時間をかけて、徐々に黄金聖闘士が現れていきます。
各々は、非常に上手くキャラ付けされており、能力や個性などが魅力的で、他にどんな黄金聖闘士がいるのか、読者は、ますます先を読み進めたくて熱狂したという訳です。
また、対応する星座がキャラクターの二つ名的な存在になっていたのも、各々の個性を際立たせるために有効に機能していました。
ライトノベルにおいてもこの手法は、有効なモノとして使われています。
例えば、2011年4月に刊行、漫画、アニメ化された人気作『魔弾の王と戦姫』 には、7戦姫という少女たちが登場します。
彼女らは竜具(ヴィラルト)という特殊な力を秘めた武器に選ばれた存在で、国王に次ぐ地位として領地を治め、戦姫(ヴァナディース)と呼ばれています。7人いるから7戦姫です。
第1巻では、『銀閃の風姫(シルヴフラウ)』の二つ名を持つヒロイン、エレオノーラ=ヴィルターリアしか登場せず、他の戦姫たちのことは伏せられています。
読者は他にどんな戦姫がいるのか気になって、続刊を買い求めてしまうというわけです。
その後、徐々に、『凍漣の雪姫(ミーチェリア)』のリュドミラ=ルリエ、『光華の耀姫(ブレスヴェート)』のソフィーヤ=オベルタスといった、他の戦姫たちが登場していきます。
二つ名や象徴となる武器があるので、7人と数が多くても判別しやすいです。
2008年9月刊行された石踏一榮の人気作『ハイスクールD×D』 の第1巻においても、このテクニックが応用されて使われています。
主人公、兵藤一誠(ひょうどう いっせい)は、堕天使に殺されて、美少女の悪魔リアス・グレモリーの下僕として復活します。
悪魔は下僕に『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』というチェスの駒の特性を模した能力を与えます。
主人公は兵士(ポーン)の特性を与えられ、リアスの他の下僕たちを紹介されます。その際、「女王」「戦車」「騎士」の仲間はいるが、「僧侶」の特性を持つ仲間は、ここにはいないと言われます。
「私の『僧侶』はすでに存在するの。ここにはいないわ。他のところで他の命令を受けて、私のために働いてくれているの。機会があれば、あなたにも紹介するから」
『ハイスクールD×D』第1巻 p157
『僧侶』は、名前はおろか、どこにいて、どんな命令を受けているのかも、匂わされた上で、伏せられています。これは上手いやり方です。
これによって、読者は『僧侶』はどんな奴かな? と興味を持ち、続きを読む原動力になります。
この手法は古くから存在し、江戸時代後期に書かれた長編伝奇小説『南総里見八犬伝』に、その源流を見ることができます。
この物語は、伏姫と犬神との間に生まれた八人の若者、八犬士をメインキャラクターとしています。八犬士は、それぞれに仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字のある数珠の玉(仁義八行の玉)を持ち、牡丹の形の痣を身体のどこかに持っているという設定です。
ストーリーは、宝刀・村雨丸を持つ八犬士の一人、犬塚信乃が兄弟である八犬士を見つけて仲間にしながら、悪い奴らと戦う勧善懲悪ものです。
この小説はとても人気があったために、後世の小説、漫画、アニメ、ゲームに絶大な影響を与えています。
『八犬伝』の大きな魅力は、最初に八犬士の存在を示し、他の八犬士って、どんな奴がいるんだろう? ワクワク! という興味を読者に与えたことです。
数字で隠れキャラを暗示するという手法、ぜひマネしてみて下さい。
ラノべ作家さんたちが考えたオリジナルアニメ「K」を思い出しました。
このお話には、世界の理を体現した7人の王が存在します。
それぞれテーマカラーがあり、登場したのは白銀・黄金・赤・青・無色です。
他二名はいまだに謎で、そのうちの一人は緑ではないかとされています。
このように、残る王はどんな人物なのかファンの興味や疑問を煽るのも物語の見どころの一つ・『謎』の作り方ではないかと思います。
やっぱりお話にはミステリーがつきものですね。
『ガンダム』や『エヴェンゲリオン』などは、直接数字で表していなくても新しい要素を期待させるようなものがあるのではないでしょうか。
例えば、試作一号機、試作二号機とか初号機だとかですね。その言葉をきいて「もしかして、試作三号機とかあるんじゃない」「二号機とかあるのかな」とか期待させておくわけです。
それで実際でてきたら「まだいるんじゃない? 出てくるんじゃない」と思うわけですよ。
あとは中途半端に「第三使途だな」とか言わせておけば「じゃあ、第二、第一使途はどうなったの」と、気になってしまうかと。
数字で七つ、とか固定されていない以上、いくら増やしても矛盾が出ないので使いやすいかと思います。増やしすぎて自爆してしまいそうですが。
ファンタジーの世界地図を眺めるときの高揚はまさにこの未知であると気付かされました。人物だけでは無く、未知の世界観は高揚を生むということにです。
現実世界に世界観が多くあるように、物語の中の世界観も多種多様であるべきだし、そうでなくてはリアルじゃないですね。
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