ライトノベル作法研究所
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  4. 夢と問題と変わらない部分公開日:2014/9/11

夢と問題と変わらない部分

 現実には存在しない超技術を物語に登場させる場合、これによってもたらされる「夢」と「問題」、それでも「変わらない人の営み」の3つが描かれていると、リアリティが生まれます。

 まずは、新しい技術によって生まれる「夢」と「問題」について、お話しましょう。

 人間の社会は新しい技術がもたらされることによって、既存の価値観や行動、社会制度が一変するというパラダイムシフトを何度も経験しています。
 例えば、ヨーロッパにおいて、王侯貴族を支配者とする王政が終わりを迎えたのは、『銃』が発明されたからです。それまで鎧に身を包んだ騎士や軍隊というのは、絶大な武力を持って人々を支配していましたが、銃が発明されたことによって、何の訓練も受けていない農家のオジサンが、最強と謳われた重装騎兵を倒すことが可能になってしまったのです。これじゃあ、剣や槍の腕を誇りにしていた騎士は商売上がったりですね。これによって、フランス革命のような市民革命が成功できるようになったのです。
 同時に、銃を利用した凶悪な犯罪も起こるようになりました。
 王政から近代国家への移行が「夢」の部分、銃の犯罪への利用が「問題」の部分です。

 他にも自動車が発明されたことによって、人々の行動範囲や移動スピードが劇的に上がってより大きな経済成長が可能になったけれど、交通事故という頭の痛い問題が起きた、というプラスとマイナスの事象が発生しています。

 現実には存在しない超技術が登場するSFの本質とは、もし宇宙での生活が当たり前だったら、人工知能を持つ人型ロボットが存在していたら、人々の生活や価値観、社会制度がどう変わるだろうか? というIFの発想を楽しむものです。
 夢の技術というのは、人類に繁栄だけでなく、新たな問題も運び込みます。こういったことに思考が届いていると、物語のリアリティがグッと増します。
 以下は、川原 礫の大ヒット作『ソードアート・オンライン』3巻からの引用です。

 実に不思議なのだが、アルヴヘイムで食事をすると仮想の満腹感が発生し、それは現実に戻ってからもしばらく消えることはない。カロリーの心配なしに甘い物が好き放題食べられるというのは、リーファにとってはVRMMO最大の魅力の一つなのだが、それで現実世界での食欲がなくなると母親にこっ酷く怒られてしまうのだ。
 実際このシステムをダイエットに利用したプレイヤーが栄養失調に陥ったり、あるいは生活の全てをゲームに捧げた一人暮らしのヘビープレイヤーが食事を忘れて衰弱死したりというニュースはいまやあまり珍しくない。
引用・ソードアート・オンライン3巻 フェアリィ・ダンス 著者:川原 礫  2009年12月10日刊行

 ソードアート・オンランのVRMMO(仮想現実大規模多人数オンライン)という超技術で引き起こされること。

○夢の部分……五感すべてて体感できるバーチャル・リアリティ空間を舞台にした夢のゲームで遊べる。
☓問題の部分……栄養失調。衰弱死。
△変わらない部分……ゲームのやりすぎでお母さんに怒られる。

 仮想世界にダイブしてゲームを楽しむソードアート・オンラインの世界では、ゲーム内で味覚を楽しむことができる副産物として、栄養失調といった問題が起こっています。
 現実のオンラインゲームでも、ゲームを不眠不休でやりすぎて過労死するといった事件が起こっているので、仮想世界で満腹感を得ることで、食事を取らなくなって衰弱死するといった問題は、現実に起こりうることとして想像しやすく、リアリティがあります。

 また、ゲームが原因で母親に怒られるという、私達の世界においても起きている問題が、ソードアート・オンランの世界でも起きているという部分が、この世界に確かな現実感を与えています。
 我々とは異なる世界においても、人間の基本的な営みというのは、変わらないのだなぁ、という実感を読者に与えるのです。

 例えば、アニメ『機動戦士ガンダム』(放送期間1979年4月7日~1980年1月26日)の名台詞に「あんなの飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ」というのがあります。
 これは人型戦闘用ロボットの整備兵が、まだ足が取り付けられておらず、完成度80%だった新型ロボットについて質問された時のセリフです。足なんて飾りです、と答えています。

 このセリフの優れている点は、視聴者に「宇宙でロボット兵器を使った戦争をしているような異世界においても、下っ端の兵士は、偉い人が現場をわかっていないことに対して苛立ちを覚えるのだなぁ」といった実感を与えることです。
 これによって、ガンダムの世界が単なる虚構ではなく、登場人物たちが確かな血肉を持って生きているかのようなリアリティを得ることができるのです。

「男のあなたに言っているのよ。そこの水着、片付けておいて」
 と、名前も知らない相手からいきなり言われる。ISが普及した十年で女尊男卑の風潮はあっという間に浸透した。どの国でも女性優遇制度が設けられ、男はこうして街を歩いてるだけでも見ず知らずの相手から命令される始末である。
引用・IS〈インフィニット・ストラトス〉3巻 著者:弓弦 イズル 2009年12月22日刊行

 こちらは、弓弦イズルの大ヒット作『IS〈インフィニット・ストラトス〉3巻』からの引用です。
 ISの世界では、既存のあらゆる兵器を凌駕する最強の兵器IS(インフィニット・ストラトス)が誕生し、これが女性にしか使えないという制約があったため、女尊男卑の世の中が到来しています。 

○夢の部分……美少女がそれぞれ特性の異なるパワードスーツに身を包んでバトルする。
☓問題の部分……女尊男卑の世の中。
△変わらない部分……高校に相当するIS訓練学校での勉強についていくことが大変。

 主人公の織斑 一夏(おりむら いちか)は、男性なのに唯一このISを動かすことができるという特殊な立場にいます。なぜ男性なのにISが動かせるのか、彼のISの謎が物語の根底にあります。
 そんなユニークな身上でありながら、IS学園の勉強についていけずに苦労する、といった現実世界と変わらない少年の悩みも描かれています。

 超技術によって変質してしまった人々の価値観、行動と、それでも我々と変わらない部分の両方を描くことによって、この世界は本当に有るっぽい、といった感覚、すわなちリアリティを生み出すことができるのです。

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