プロの作品で良く使われる手法に、冒頭にショートストーリーを持ってくるというのがあります。
(特に連載、第一巻に使用されるケースが多い)
このショートストーリーは、主に本編のクライマックスで重要となる謎や伏線を含ませつつも、これ単独で話として完結している、いわば掌編小説です。
アマチュアの小説には、意味不明の専門用語をばらまき、意味不明の展開を見せて、読者を引き付けようとする作品がありますが、これは下策です。
内容が意味不明では、そもそも読む気になれません。
逆に作者が自分に酔っているような悪印象を抱く場合さえあります。
掌編小説として、単独でも楽しめるように練られたショートストーリーを用意するべきです。
形態として以下の3つのうち、いずれかに分類されます。
1・本編のメインキャラは登場しないが、本編とリンク・伏線となっているエピソード。
2・メインキャラクターを紹介し、世界観を解説するエピソード。
3・主人公などの過去のエピソード。本編の発端、伏線となる重大事件。
例えば、田中ロミオの『AURA ~魔竜院光牙最後の闘い』における冒頭は、『1』に分類されます。
聖竜神アスタロイを裏切った最強の戦士・魔竜院とアスタロイに仕える聖騎士バルザックが、現代社会のビルの屋上で人知れず因縁の対決をするというストーリーです。
実はこれは、主人公・佐藤一郎の自作したライトノベル『魔竜院伝承 九乃巻』より抜粋されたワンシーンです。
作りこまれているので、掌編小説としても十分に楽しめる上、このエピソードはラストに佐藤一郎が取る言動の伏線となっており本編とリンクしています。
「ああ、最初のアレは、ここに繋がっているのか!?」
と、最後まで読むと、手を打ってしまうわけです。
単独でも楽しめて、伏線にもなっているこのタイプは、非常にうまい冒頭と言えるでしょう。
吉田直の『トリニティ・ブラッド 嘆きの星』 の冒頭部は『2』に分類されます
これは兄を吸血鬼に殺された少女が、仇討ちに吸血鬼の巣くう教会を訪れたところから始まります。
しかし、吸血鬼退治の為に持ってきた十字架や聖書が一切通用せず、あわや返り討ちに成りそうになったところを、主人公のアベル・ナイトロードに助けられます。
この時、吸血鬼でも人間でもない第三の種族であるアベルの能力の一端が垣間見え、これがクライマックスでの伏線になっています。
アマチュアの小説だと、最初に世界観を説明しようと、歴史やら、種族同士の関係やらの設定の羅列をしてしまうことが多いですが、これはいけません。
読者が小説に求めているのは「設定」では、ありません。「ドラマ」です。
おもしろいドラマを通して、読者に世界を見せるのが上策となります。
榊一郎の『ニンゲンのカタチ ストレイトジャケット1』の冒頭は、『3』に分類されます。
これは本編の過去、主人公のレイオットが少年時代に育ての親を殺してしまうというストーリーです。
この世界では、人間は魔法を使いすぎると、魔族という怪物に変身してしまいます。
その魔族に生まれ変わっている途中の育ての親を、レイオットは銃で撃ち殺してしまうのです。
これは魔族殺し専門の戦術魔法士レイオットの行動の動機となる事件であり、本編と深くリンクした、すべての始まりとも言えるストーリーです。
このように本編の発端となる重大事件を先に持ってくる、というのも良く使われる手法です。
冒頭のショートストーリーは、それ単独でも楽しめる完成度を持つこと。
それが本編とリンクし、重要な伏線となっていること。
この二つが大切です。
もちろん、インパクトのあるシーンにすることもお忘れなく。
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