ライトノベル作法研究所
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  4. 悲劇的だけれど実は読者の憧れの状況公開日:2013/10/01

悲劇的だけれど実は読者の憧れの状況でもある

 古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、観客が悲劇を好む理由を
「英雄に起こった出来事と行為を再現することによって、共に英雄の苦悩を経験し、最終的に浄化作用(カタルシス)を得られるからだ」
 と説明しました。

 人間は、舞台上のドラマと自分の経験を重ね合わせ、泣いたり笑ったりすることができます。
 おそらく、あなたも漫画や小説の主人公が辛く苦しい立場に追い込まれているのを見て、
「ああ、その気持ち、わかる、わかる!」
 という気分を味わい、主人公がそこから逆転勝利を収めるのを目の当たりにして、すっきりした爽快感を得た経験がありますでしょう?

 人間は、主人公の心の動きを我がことのように感じとって、自分が本来持っている痛みや悲しみを擬似的に追体験し、最後にこの激情から解放されることによって、心を浄化(カタルシス)することができるのです。
(悲劇で終わる場合でも、心の奥底の感情が揺さぶられたり涙を流したりすることで開放感が得られます。
 ただし、バットエンドは地雷となる危険性が高いので注意!)

 この浄化作用は物語に接すること以外では、まず得られないことなので、人は本能的に物語を求めるのです。良質な物語はこの浄化作用が強い作品だとも言えます。

 読者に浄化(カタルシス)を与えるには、まずは主人公に感情移入してもらわなくてはなりません。
 このため、悲劇的な苦境に主人公を立たせて、読み手の同情や共感を誘い、徐々にそこから逆転していくという筋道が王道となります。
 主人公に共感してもらうことが最大のミソになるので、恵まれていて、何の問題も悩みも抱えていない人格完成完全無欠最強無敵のスーパーヒーローが、障害にもならない小さなトラブルを鼻歌交じりで解決するような話はNGです。これでは自分と主人公を重ねることができませんし、逆境を跳ね返す快感も得られません。 
 反対に、あまりにも不幸の絶頂で、読者がまったくその境遇に憧れないような主人公も感情移入の対象にならないので、要注意です。

 ライトノベルの場合、主人公の境遇は、「悲劇的だけれど実は読者の憧れの状況でもある」、という条件下にあり、物語の王道を踏襲すると共に、読者の感情移入も促しています。

 例えば石踏一榮の人気ラノベ『ハイスクールD×D』(2008年9月刊行)の主人公、兵藤一誠は、冒頭でかわいい彼女ができたと思ったのも束の間、その娘に殺されて、美少女の悪魔リアス・グレモリーの下僕として悪魔に転生します。
 殺される、悪魔の下僕に生まれ変わる、ということは悲劇でありますが、同時に美少女に告白してもらえる、美少女に価値を認められて下僕にしてもらえる、といった読者の夢も叶えています。

 だからこそ、読者は兵藤一誠に自分を重ね合わせてニヤニヤした挙げ句、彼が逆境をはね除けて活躍する様に癒されるのです。

 2011年4月に刊行、漫画、アニメ化された人気作『魔弾の王と戦姫』 の主人公ティグルは、冒頭で戦争に敗れて、敵の総大将である戦姫エレオノーラの捕虜になります。

 戦争に敗れて捕虜になるというのは悲劇的な状況ですが、美少女エレオノーラに弓の腕前を認められて、彼女の所有物にしてもらえるという、読者の夢も同時に叶えています。
 これまた読者は、その境遇にニヤニヤした挙げ句、彼が逆境をはね除けて活躍する様にスカッとするというわけです。

 2009年12月に刊行されたヒット作『パパのいうことを聞きなさい! 』の主人公、瀬川祐太は姉夫婦が飛行機事故で行方不明となり、姉の子供である3人の少女を保護者として引き取ります。

 彼は大学に進学したばかりで、両親とは幼い頃に死に別れていたので、お金が無く、生活費を捻出するため、いくつもバイトをしたり、年頃の長女や次女に気を遣ったりと、かなり苦労することになります。
 姉を事故で失う、経済力もないのに3人の子の親になる、というのは大変な苦境です。でも、3人の美少女から父(男)として頼られるというのは、読者の願望でもあるのです。
 このため、読者はその状況を満喫した挙げ句、主人公が逆境をはね除けて、幸せな家庭を築いていいく様に喜びを得るという訳です。

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