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  4. 嫉妬が恋愛感情を生む公開日:2014/06/19

嫉妬が恋愛感情を生む

 恋愛感情を登場人物に抱かせるには『嫉妬』を利用するのが一番です。

 友達以上、恋人未満の男女はお互いを異性として意識していないことが多いですが、そこに恋のライバルが入ってくることによって、関係が危機を迎えます。自分のものだと思っていた相手が、別の異性と仲良くしているのを見て嫉妬の感情が芽生え、相手を取られてなるものかと奮起する、というのがラブコメの王道パターンです。

 嫉妬は、相手や物に八つ当たりするなどの形で表に現れるので、わかりやすさが重視されるライトノベルにおいては、王道中の王道とも言える恋愛表現です。

 恋愛感情というのは、本来、内に秘められているので、わかりにくいのですが、ヒロインが嫉妬を原動力にした攻撃を主人公に加えることによって、恋愛感情が可視化されます。

 シリーズ累計発行部数300万部のヒット作である竹宮ゆゆこの『とらドラ!』(2006年3月刊行)は、ラブコメとして高い評価を得ている作品です。この作品を例に挙げてみましょう。

 主人公の高須竜児と、ヒロインの逢坂大河は、お互いにお互いの親友に恋をしており、これを成就させるために協力関係を結びます。大河は、お互いの秘密を共有した気安さから、竜児の家に入り浸ってご飯を食べたり、一緒に買物や登校をしたり、服の染み抜きをしてもらったりと、まるで竜児と家族のように親密に付き合います。

 そんな大河が竜児を異性として意識しだすのは、第二巻のラストで、竜児が美少女の亜美と、抱き合っている(ように見えた)のを目撃してからです。

 大河は不機嫌になって、竜児に当たり散らしますが、なぜ不機嫌になるのか、竜児はわからずに困惑します。 

「ムカついている? 私が? そう見える? どうして? もしかしてあんたはこういうことを言いたいわけ? 川嶋亜美と自分がイチャついていて、それを目撃した私はやきもちを焼いて嫉妬に狂って怒ってキレてムカついて、あんたに謝らせるのが当然だと思っている──私がそういうみじめな女で、あんたにはその価値があると、私が嫉妬に狂うだけの価値があると、そう言いたいんだ?」
 引用・『とらドラ!』3巻

 こちらは大河のセリフですが、嫉妬に狂っていて実に怖いですね。
 このようにして、ぬるま湯のような関係に亀裂が走ります。この亀裂は、お互いを意識するきっかけとなり、関係の変化を促します。
 大河は、竜児を取り合って、亜美と水泳で勝負することになり、その勝負中に、竜児が半失神状態になって溺れた時、勝負が不利になるにも関わらず竜児を助けて、このように叫びます。

「竜児は、私のだぁぁぁぁーーーーーーーっっっ! 誰も触るんじゃ、なぁぁぁぁぁーーーーーーーいっっっ!」
 引用・『とらドラ!』3巻

 これは愛の告白以外の何物でもありませんね。
 嫉妬の感情は、相手が好きなことの裏返しです。
 嫉妬を起こさせることによって、友達以上恋人未満という関係に変化を与え、自然と恋愛関係に移行させることができるのです。

 この王道パターンは、実は兄妹という間柄にも応用できます。
 シリーズ累発行部数500万部の大ヒット作『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(2008年8月10日刊行)は、不仲だった妹、桐乃に振り回される兄、京介の奮闘を描くコメディー作品です。 

 第7巻において、桐乃はモデルの仕事を断るために京介に恋人ととしてデートして欲しいとお願いし、京介はこれをしぶしぶ引き受けます。しかし、デート中に、京介が他の女の子に気を取られていたことで、桐乃は不機嫌になり、次は本当の彼氏に頼むので、もうデートしてもらう必要はない、と告げます。
 これに京介は激しく動揺し、妹に本当に彼氏ができたのか、桐乃と仲の良い女友達に相談するも真偽の程がわからず、とうとう桐乃の彼氏と称するイケメンが家にやってきて、修羅場を迎えます。

 7巻のエピーソードは、桐乃が京介と仲の良い女の子に嫉妬、京介が桐乃の彼氏に嫉妬、という嫉妬の応酬で成り立っています。
 7巻に至るまでの間に、兄妹の関係は良好な物になってきており、京介は安心しきっていました。この関係に一度、ヒビを入れて修復することによって、二人の関係はより親密なもの変わります。

「……自分が認めた男じゃなければ、妹は渡せないと?」
「そうだ! おまえがどんなに凄いやつだろうが……俺は妹が心配なんだよ! 心配で心配でしょうがねえんだよ!──悔しかったら俺を安心させてみやがれ!」
引用・『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』7巻

 京介は妹とその彼氏の前で、このように叫びます。嫉妬をきっかけに、彼の本当の気持ちが引き出されたのです。
 『とらドラ!』の逢坂大河と同じ、ストレートで飾り気のない言葉ですね。だからこそ、相手の心に(読者の心にも)届きます。

 無論、ここでの京介の感情は、恋ではなく、兄妹愛や独占欲といったものですが、お互いに対する愛情がより深まる結果になっています。その後、京介と桐乃の関係は兄妹の枠を越えて仲良くなりすぎてしまい、とうとう最終巻では結ばれてしまいます。

 嫉妬とは、独占欲の表出、恋愛感情の呼び水であり、登場人物に恋愛感情を抱かせるには、嫉妬を利用するのが一番なのです。

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