ライトノベル作法研究所
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  4. 邪道と見せかけて王道公開日:2014/07/31

邪道と見せかけて王道

 ラノベ新人賞の下読みをされているジジさんは、王道作品について次のように述べています。

 陳腐とオリジナリティを分ける境界線はすなわち「設定(ネタ)」です。
 王道に仕分けられる素材を、ほかの人が思いつかないような角度で描くことができれば、それは非常に高い評価を得ることができます。

 王道とは、万人が潜在的に求めており、万人受けする素材なのですが、同時に世の中に溢れすぎているため、陳腐でツマラナイ素材でもあります。陳腐にならないために、ジジさんは、王道に仕分けられる素材を別の角度で描くべきだと述べています。
 この具体的な方法として、「邪道と見せかけて王道」という手が使えます。

 例えば、少年ジャンプで2012年31号から連載されている漫画『暗殺教室』 が、この典型です。

 『暗殺教室』は、一年後に地球を破壊するという謎の超生物「殺せんせー」が、中学校の落ちこぼれクラスに担任としてやってきて、各国政府の要望によりクラスメイト全員でこれを暗殺しなければならなくなる、という話です。暗殺の賞金は100億円です。
 テーマが『暗殺』と『担任の殺害』というトンデモナイものなのですが、中身は熱血教師が落ちこぼれの生徒を全力で助け、善導し、成長させていくという3年B組金八先生を彷彿とさせる王道的な教育ドラマです。
 暗殺を通して、子どもたちの豊かな人格形成を目指す、殺せんせーの体当たり指導は感動モノです!

 例えば、殺せんせーは、落ちこぼれ組に落とされたことをコンプレックスに思ういじめられっ子が自爆テロ的な攻撃をしかけてきた時、逆に彼を攻撃から守って、自分を大切にしなかったことを叱り、彼に自爆テロをそそのかした、いじめっ子の生徒らを懲らしめます。そして、人に笑顔で胸を張れる暗殺をするように指導します。

 このよな熱血教師ドラマは、ふつうの担任と生徒を登場させて、そのままストレートにやると陳腐でクサすぎて、とても読めたものではないので、『暗殺』という極端なテーマを被せて興味を引かせているのです。

 ライトノベルでは、1990年1月に刊行された、ラノベの元祖と言われる神坂一の『スレイヤーズ』 が例として挙げられます。この作品は、シリーズ累計発行部数2000万部以上を売り上げた史上最も売れたラノベです。

 『スレイヤーズ』は、王道的な異世界ファンタジーを邪道に崩したパロディ的な作品でした。ここで言う王道的な異世界ファンタジーとは、『人類を支配しようとする悪の魔王を倒すために、勇者の少年が仲間たちと旅立って様々な困難の末、これを成し遂げる』といったモノです。

 この作品は15歳の自称美少女の天才魔道士リナ=インバースが主人公です。彼女は、「悪人に人権はない」をモットーとし、野盗から金品を盗んで売り飛ばすなどして、路銀を稼いで旅をしています。実力は最強で、旅の目的は特になく、毎日を楽しく生きています。

 第一巻では、野盗を襲撃して金品を奪ったリナが野盗から追われ、しかも財宝の中に、伝説の聖人レゾが、自分の盲目を治すために探し求めていた賢者の石があったことから、彼の一派からも追われるというトラブルに見舞われます。
 異世界ファンタジーの主役と言えば、正義感に溢れてはいるが、まだ未熟な少年戦士、という1980年代までの常識(代表例は1988年4月刊行の『ロードス島戦記』の主人公パーン)をことごとく逆にしたキャラです。王道の主人公は、例え相手が悪人でも、強盗なんてしませんよね。
 しかし、彼女も殺せんせーと同じ『邪道の皮を被った王道キャラ』です。

 レゾの見えない目には、実は魔王シャブラニグドゥが封じられており、賢者の石争奪戦の結果、魔王が復活します。その際、リナの仲間の男たちは、その圧倒的な力の前に絶望し、死ぬつもりで戦おうとします。
 すると、リナは、そんな男たちを次のように叱咤します。

「勘違いしないでよ。あたしは『負けるとわかってはいるけど戦う』ってぇその精神(こんじょー)がけしからん、と言ってるわけで、『負けるからやだ』なんぞと言っているわけじゃないのよ。いい? たとえ勝てる確率が1パーセントほどだとしても、そーいう姿勢(つもり)で戦えば、その1パーセントもゼロになるわ。
 ──あたしは絶対死にたくない。だから、戦うときは必ず、勝つつもりで戦うのよ! むろん──あなたたちも」
引用・スレイヤーズ! 著者:神坂 一 1990年1月刊行

 死ぬつもりはないし、仲間も殺さないと言っているわけです。
 これはまさしく王道的な異世界ファンタジーの主人公のセリフそのものですよね。物語の冒頭で、リナは野盗の金品を盗んで野盗から追われているようなぶっ飛んだ性格として描かれているので、これがギャップとなって彼女の英雄的資質を際立たせています。
 この作品は女性人気も高いのですが、その秘密はここにあります。芯の強い少女が絶望する男たちを叱咤し、自ら中心となって勝利に導くからです。男女の立場が逆転している邪道ではありますが、やっていることは王道です。

 そして、リナの最強の魔法に全員の力、敵であり魔王に身体を乗っ取られたレゾの力まで合わせて、魔王に勝ちます。
 主人公が勝つために仲間全員が協力する、敵と最後に和解し、共通の敵に勝つためにその力を貸してもらうという、少年漫画の王道中の王道をラストに持ってきたのです。

 つまりスレイヤーズとは、邪道で始まって王道で終わる作品だった訳です。

 この安心感、キャラクターが自分の欲求のままに生きている邪道のようでいて、物語の核となっているのは仲間を守る、仲間と協力し合って困難に打ち勝つという王道であったから、その後、20年にも及ぶ長期連載と3回ものアニメ化が可能になったのだと分析しています。

 「担任の暗殺」「主人公が悪人から強盗をして逃げまわっている」という邪道な展開は、今までにない未見のものです。読者は、今までにないエンターテイメントを楽しみたいと思っているので、興味を引きつけられます。しかし、邪道な設定や展開というのは、そのままではウケないかいら一般化していないのです。何の工夫も無しに行えば、まず失敗します。
 そこで設定、冒頭は邪道ながらも、中身は熱い教師ドラマや、仲間と力を合わせて強敵に打ち勝つ、といった王道にすることによって、未見のものでありながら、安心して楽しめるという稀有な作品になります。

 王道をやりたかったら、邪道で始まる、キャラクターに邪道の皮を被せてみるのが、効果的と言えるでしょう。

とびーさんの意見2014/08/01

 『はたらく魔王さま!』(2011/2/10刊行)もそんな感じでしたよね。

 異世界の魔王が日本のファーストフード店で働くという、一見邪道っぽい雰囲気を出しつつも、魔界がらみの問題が起こり、謎解きをして、最後には思いっきり魔法バトルをして、大団円。
 これを王道と言わずになんと言うのだと。
 邪道で始まり王道で終わる、言い得て妙だと思いました。

管理人の返信2014/08/03

  『はたらく魔王さま!』は、主人公が異世界で悪逆非道の限りを尽くした魔王ながら、現代日本では、部下たちを食わせるためにバイトに精を出し、自分を狙ってきた異世界の刺客から、自分を慕ってくれるバイトの仲間のちーちゃんや、地元の人間を守るために、かつての宿敵である勇者と協力して戦うという話ですよね。
 より強大で悪辣な共通の敵が現れたから、勇者と共闘し、反発しながらも仲良くなっていくというのは、ドラゴンボールなどに代表される少年ジャンプ的な王道展開だと思います! まさしく、邪道と見せかけて王道ですね。

 危機とセットになった謎解きというのも物語に興味を引きつける重要な要素で、『スレイヤーズ』にも謎解きや、敵との知的な駆け引き、というのがありました。邪道と見せかけて、王道的重要ポイントを押さえているのが、ヒット作の特徴だと思います。

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