ライトノベル作法研究所
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  4. 過去を語る回想形式の弊害公開日:2013/08/26

過去を語る回想形式の弊害

「俺の話を聞きたいなんて、あんたも酔狂だな……」
 青年はおもむろに口を開いた。
 窓の外の星空を眺めて、遠い過去に視線を飛ばす。
「さて、あいつと出会ったのは、いつだったか」
 青年は静かに語り始めた……

 回想形式とは、上のように主人公(また、それに準じるの者)が、昔を思い出して物語を語るという形式の小説です。
 時点移動の一種であり、時点が混乱するという問題もありますが、一番の問題点は緊張感が出ないことです。

 主人公が昔を語っているということは、その物語の中で主人公がいかなる窮地に立たされようと、そのピンチを脱したことが、すでに証明されているのです。
 そのため、

 山場のおもしろさが半減します。

 恋愛や賭け事とか、命に関わることでないならそれほど問題ありませんが、活劇の場合は致命的です。
 敵に捕らわれて拷問されようが、大人数に包囲されて銃を突きつけられようが、封印された大魔王が地響きを伴って復活しようが、それはすでに過去のことでしかないわけです。

 敵との戦闘の醍醐味とは、生死を賭けたスリルと緊張感にあります。
 一瞬先、主人公がどうなっているかわからない、わずかなミスや判断の遅れ、敵の策略が彼(彼女)を死に追いやっているかも知れない……。
 こういう一寸先は闇な状態が、おもしろいのです。

 しかし、回想形式の場合、その窮地を切り抜けた主人公が回想しているわけです。
 これはハッキリ言って、半分ネタバレしているのに等しい所行です。

 結末がわかっている物語って、心底楽しいと思えますか? 思えませんよね。
 もちろん、プロの中にはこの回想形式を、物語のギミックとして活用している方もいますが、素人が安易に使うと99パーセント失敗します。ええ、それは無惨なまでに……
 過去を語るという手法は、やらないように気を付けてください。

●補足
 累計3000万部以上を売り上げた栗本薫の大河ファンタジー『グイン・サーガ』は、回想形式の物語です。
 第2巻『荒野の戦士』の刊行とほぼ同時期に外伝『『七人の魔道師』が刊行され、この外伝内で、第2巻内では、ただの放浪者だった主人公グインと、その相棒の傭兵イシュトヴァーンが、それぞれ一国の王となり、しかも敵対関係であることが示されます。
 グインとイシュトヴァーンは親友同士だったので、なぜ敵対するような羽目になってしまうのか? どうやってグインとイシュトヴァーンが、ただの風来坊から、王にまで上り詰めるのか? 興味を持って正伝を読み続ける原動力になっています。
 グインサーガは回想形式の特徴をうまく利用して成功した物語だと言えます。

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