ライトノベル作法研究所
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  5. 僕の左手/君の両手公開日:2013年05月04日

僕の左手/君の両手

空ノさん著作

 その瞬間は、まるでドラマのように訪れた。

 交差点で思いを寄せる女の子を待っていた僕。
 横断歩道の向こう側に見つけた彼女の姿。
 歩行者用信号機が青に変わり、小走りで寄ってくる彼女。
 ふと感じる、言い知れぬ不安。
 赤信号にもかかわらず、スピードの落ちない乗用車。
 そのとき僕はなにを思ったのだろう。今ではまったくもって不明だけれど、とにかく彼女のもとへ全力で走った。このままでは絶対に轢かれる、そう確信したから。
 けれど。

 どうやら間に合わなかったらしい。

 目の前が一瞬ブラックアウトしたかと思うと、なぜか足元に彼女がいたんだ。
 足はありえない方向へ曲がり、眼球が一つなくなっていた。
 僕は心の中で何度も何度も、祈りの言葉を繰り返した。
 お願いです、神様。僕に力をください。あのときのように、傷を癒す力をください。お願いです。

 僕は大きく震える左手を伸ばし、彼女の血にまみれた右手を握った。

 目をつむり、また祈り続けた。



 ◆Scene0 『六年前』


 あれは確か、僕が十歳になるちょっと前だったかな。仲のいい近所の女の子と二人で、いつものように裏山へ探検に行ったんだ。
 表皮がボロボロに剥げ落ちた小枝をいまだに持ち続けているその女の子に対し、僕は開口一番、呆れたように言った。
「その木の枝、まだ持ってるの? もう捨てなよ汚いから」
「やだよ。これはセッちゃんとレンくんをつないでくれた、愛の剣だもん!」
「な、ななななんだよ、それ」
 その小枝をぶんぶんと振り回しながら踊るように林の中を駆け回るその女の子は、雪と書いてセツという名前の、いわゆる幼馴染的な存在だった。
 愛、という言葉にどこか卑猥な印象を持っていた当時の僕は、雪の言葉にとんでもなく過剰な反応をしてしまった。隠そうとすればするほどに表に出てしまう僕の性分は、今でもまったく変わっていなかったりする。ちなみに僕の名前は蓮と書いてレンと読むが、心温まる命名秘話とかそんなものは別段なにもない。母いわく、呼びやすいから。ただそれだけの理由らしい。
 雪はとにかく小さな女の子で、集会でも健康診断でも、なんでもかんでも、常に一番前で腰に手を当てる役だった。「セッちゃんも前ならえしたいなぁ」というのが口癖で、となりにいる僕は、いつも同意を求められていた。つまりはまぁ、僕もクラスで一番のチビすけだったわけだけど。
 雪は、正直に言って、すごく可愛らしかった。小さく整った顔に置かれたクルミのように大きな瞳が特徴的で、名前に負けないほどに白く艶めく肌は太陽光に弱いらしく、夏でも長そでを着ていた。大食漢と言ってもいいくらいに良く食べたが、体を動かすことが好きな雪はすこぶる代謝が良かったのだろう。飛んだり走ったり、とにかく元気いっぱいな雪の体は裏腹に、それこそ木の枝のようにポキリと折れてしまうのではないかと心配になるほど細かった。
 オロオロとする僕を堪能するようにある程度の間を取ってから、雪はポケットから一つのビー玉を取り出した。
「それよりさ、見てみてレンくん、セッちゃんまた見つけちゃった。このセッちゃんみたいに真っ白で透き通った色、今までで一番のお気に入りになったの。どう?」
「え、どうって言われても」
 ビー玉集めは、雪の趣味だった。中には深いマーブル模様など魅入ってしまうような綺麗なものもあったが、僕からしてみればだからなんだという思いだった。このころの僕はまだ『価値』というものの意味を理解していなかったため、なんの役にも立たないビー玉を楽しそうに集めて自慢してくる雪が、どこか別の生き物にすら感じていたくらいだ。
 雪は線の細い髪の毛を指にくるくると巻きつけながら、頬を膨らませつつ言う。
「もう、レンくんってばホント、にぶちんね。そんなことだと女の子に逃げられちゃうよ」
「だってビー玉になんか興味ないもん、僕。それと、足は確かに遅いけどさ、でも女子には負けないよ」
「ちがーう。レンくんってばホントに子供」
「な、なんだよそれ。わけわかんないよ」
 今ならわかるけれど、僕は……いや、男は女の子に比べて本当に心の成長が遅いんだなぁとしみじみ思う。そのあとも、こんな的の外れたことを言っていたのだから救いようがない。
「じゃ、じゃあまた勝負しようよ。いつものでっかい木まで競争ね」
「いいよー、さて、レンくんの連敗記録は今日こそ止まるでしょうか」
「うるさいな、止めてやるさ! よーい、ドン!」
 そう言ってスタートを切ったのは僕だけだった。
 雪はなにやら上の方を見上げて、「落ちた」とつぶやき、大樹とは反対の方向へ走っていった。
 僕はムッとしながらも、そちらへ向かった。
「どうしたんだろう、この子。なんで落ちちゃったんだろう」
 雪の両手に優しく横たわっていたのは、スズメだった。時折ピクリと羽が動いたが、口は開いたままで、一目で瀕死であることが覗えた。
「ねぇ、レンくん。助けてあげてよ、かわいそうだよ」
 生命に対して、雪は特に敏感だった。本人も理由はわからないらしかったが、ロウソクの火が消えてしまうように、その命が絶たれていく工程が頭に流れ込んでくるそうだ。蟻だろうが蚊だろうが、命が失われつつある生物を視界にとらえると、それだけで悲愴な感情が湧き上がり、同時に涙も供給されてくるらしい。
 当然ながら、僕にはまったくわからない感情だったけれど、僕がそれをしないと雪は納得してくれない。そのときも、いつものように左手でスズメの体を優しく包んだ。
 そう、ただそれだけだった。そうして少しばかり二人の手の中で、冷たくなってゆく生命を見届ける。いつもならそれだけのはずだったんだ。
「あれ? なんかスズメさん、温かくなってきたような……」
「え……う、うわぁっ!」
 チュンチュンと、まるで早朝のように忙しく鳴きながらスズメは力強く羽ばたき、青く染まる空へと一瞬にして吸い込まれていった。
 立ち呆ける二人。沈黙を破ったのは雪だ。
「レンくん、すごい!」
「僕はなにも――」
「ちがうよ、レンくんがすごいんだよ! だって、レンくんがなでたら元気になったんだもん! きっと、レンくんには癒しの力があるんだよ。うん、きっとそうだ!」
 大きな瞳は充血したままだったが、本当に嬉しかったのだろう。雪はその場で飛び跳ねて喜んだ。でも僕は、意外に冷静だったんだよね。
「そんな魔法使いみたいに言わないでよ。気絶してただけだったんじゃないかな」
「ううん、ちがう。あの子はもう死ぬ寸前だったよ」
 ふと、はしゃいでいた雪が真顔になって僕を見つめてきた。そのときの双眸には、なにか確信めいた想いが宿っていたように感じ、僕は一瞬ドキッとなった。

 それからというもの、雪と二人で遊んでいるときに、何度か同じような現象が起こった。雪が両手で触れ、僕が左手で触れる。すると、たちまち元気になる。そんな奇跡のようなことが、本当に奇跡なんだと自分の中で認めることができたのは、猫を救ったときだった。
 僕らの目の前で車に轢かれた猫。
 口から血を吐き、伸縮の弱まっていく心臓。
 左右から迫る車など意にも介さず猫へ走り寄っていく雪に、僕も続く。
 なにも言わずに雪が両手で支え、僕が左手で触れる。
 その状態で、結構な時間が経過した。僕らがいるせいで車は往生し、左右どちらにも長蛇の列ができた。
 そしてついに。ドクン、と一際大きな鼓動を左手に感じた瞬間、猫は何事もなかったように立ち上がり、一度だけ思いっきり伸びをして優雅に去って行った。
 僕も雪も大満足だったわけだけれど、それは二人だけの世界での話。路上で数分間うずくまって車の往来を完全に停滞させてしまった事実は、お互いの両親の耳にも当然のごとく届くことになり、こってり叱られた。

 そして、それを期に、なぜかその治癒の能力は一切発揮できなくなってしまった。猫という比較的大きな命を救ったことにより、僕の体がMP切れを起こしてしまったのかもしれない。当時はそんな悠長なことを考えたりもしたっけ。
 ただ、それを伝えた時の雪の落ち込み具合といったらなかった。バシバシと叩かれ、「もう一生口利いてあげないんだから!」とまで言われる始末だ。さすがの理不尽さに僕も怒り心頭し、それから一カ月近く、本当に口を利かない期間があった。まぁ、今となれば可愛い話ではあるけれど。

 そんな僕の特殊能力。
 たっぷりと六年以上充填したMP。
 左手に戻ってくれてもいい頃合いだろう。


 ――そして、本当に奇跡は起きてくれた。



 ◆Scene1 『中学校の校門前』


 息が切れていた。
「ちょ、ちょっとレンくん! どこまで走るの!?」
 わからない。行先だけじゃなく、なぜこんなことになってしまったのか、それすらもわからない。

 僕が雪の手を引きながら必死に走っているというこの状況。その発端は、あの事故現場で起きた事態に起因する。


 悲惨な状態の雪の右手を握った瞬間、なにかが共鳴したかのようにズシンと地盤が沈み込み、辺りに激しい縦揺れが発生した。僕を震源として、振動の波が円形に広がってゆくその感覚に、体は硬直した。
 ただ、そんな呪縛からはすぐに逃れることができた。
「あれぇ……レンくんおはよう。どうしたの? ここ、どこ?」
 雪が、まるで眠りから覚めたように目をこすり、そうつぶやいたからだ。
 あのクルミのような大きな瞳も健在で、小枝に似た色白の足も元通りになっていた。
 嬉しさのあまりつい手を離して抱きしめたくなったが、それは叶わない。手を離そうとした瞬間、全身に得体のしれない怖気が走ったのだ。電気のようなビリビリとしたものではなく、最悪の未来を垣間見てしまったような、そんな黒い感覚。
 雪の手を離してはいけない。
 離してしまったら、それこそ取り返しのつかないことになる。
 そう直感した。
 交差点は往生する車であふれ、どんどんと混乱を増していく中、一台の車から人が降りてきた。
 そしてその瞬間、地面にできた黒く焦げたような円形の影に飲み込まれ、消えた。
「な、なんだ……?」
 ジュクジュクと煮え立った釜の中のような、そんな円形の黒い穴から、今度は腕のようなものが現れた。右手、左手、そして頭。穴から這い出てくるようなその物体は全身が黒ずんでおり、瞳だけが赤く揺らいでいた。動く影、といった形容がしっくりきそうだ。
 ふと気づくと、いたるところにその黒い穴ができていた。そしてやはり、中から動く影が這い出てくる。出てきた全員が、僕の方を睨んでいるように感じた。
 僕は全身を巡る恐怖を抑え込み、とりあえず逃げなければいけない――ただそれだけの感情に導かれ、眠気まなこの雪の手を引っ張り、走った。


「レンくん!」
 去年まで通っていた中学校の前まで来て、ようやく頭が機能してきた。雪の言葉を受けて、弾かれるように立ち止まる。
「あ、ごめん……」
「いったい、なにがどうなってこんな愛の逃避行みたいな状況になってるの?」
 とりあえず乱れた呼吸を整えるために深呼吸をすると、春の陽気とともに雪がいつも使っている香水の匂いが感じ取れた。改めて雪を確認する。
 結局人並みにすら伸びなかった身長は百五十手前でストップし、その腹いせのように伸ばし続けた細い髪は腰にまで到達していた。ユキのように白い肌も相変わらずだ。歳を重ねるごとに魅力を増していく雪は、シャレた雑貨屋の店頭に飾られたドールのようで、美しいという言葉は彼女のためにあるのではないかと錯覚するほどだ。
 周囲を見渡してみたが、あの動く影は見当たらない。
 安心感に浸っている僕にしびれを切らしたらしく、雪は口をとがらせて答えを催促してきた。
「ああ、ごめんごめん。えっとね、今日は二人で映画を観に行くために待ち合わせをしていて、それで僕が待ち合わせ場所にちょっと早めに着いたから――」
「ちょっとレンくん、私を記憶喪失かなんかと勘違いしてない? そんなことはわかってるよ。そうじゃなくてさ、手を繋いで走ってるこの状況はなんなのって訊いてるの。もう、相も変わらずマイペースなんだから。高校生にもなったわけだし、少しはシャキッとしないと」
 言いながら雪は僕の顔を下から覗き込んでくる。この、いい具合に傾いだ首と上目使いに、僕は幾度となくドキリとさせられてきた。
 が、今日は少しだけ違った。気がよそへ行くと、すぐに手を離してしまいそうになる。そしてそのたびに、ゾワゾワと悪寒が全身を駆け巡るように立ち上がる。
「レンくん? なんか顔色が悪い気がするけど、大丈夫?」
「え? ああ、大丈夫、なんでもない。ちゃんと説明するよ」
 雪が事故に遭って瀕死になったこと、手を繋いだことで治癒したこと、そのときに起きた地震のような現象、黒い影、そしてその混乱から抜け出すためにとりあえず走ったこと。すべてをありのままに話した。


「……そっか。じゃあ私、本当は死んじゃってたかもしれないんだね。ありがとう」
 さすがに自分の身に起きた異常事態はショックだったのだろう、雪は胸に手を当ててうつむく。
 僕は沸いた疑問をそのまま口にしてみた。
「僕の話、信じてくれるの? すごく突拍子もないし、まるで漫画みたいな話なのに」
「信じるに決まってるじゃん。いまさらなに言ってるの?」
 わかっている。僕は嘘をつかないし、ついたとしても長年の付き合いである雪には筒抜けになる。けれど、それでも確かめたかった。こうやって起きた事象を目の当たりにしているにもかかわらず、いまだに受け入れることができないからだ。
「あのさ、レンくん」
「ん?」
 雪の白い頬が若干赤らいだ気がした。なにか言いにくそうに、左手で髪の毛をいじっている。
「その……手、もう離してもいいんじゃないかな。なんだかね、ちょっとだけ恥ずかしいの……」
「あ! ご、ごめん! 今離す――っと危ない!」
「えぇ!? な、なに、どうしたの?」
 手を繋いだままアタフタとする二人。客観視するとさぞ滑稽に見えるだろう。
 でも、なりふり構ってなんかいられないのだ。つい離しそうになってしまった手をぎゅっと強く握り返す。
「い……痛いッ」
「ああ、ごめん。でも、どうしても離せないんだ。だから」
 混乱する中でも、その先の言葉はやはりとても言いづらかった。
「だから、なに?」
 雪が不安の混ざった表情で見つめてくる。それはそうだろう。こんなわけのわからない状況で、ムードもへったくれもない雰囲気の中で繋いだ手と手。僕らにとって特別な行為であるそれは、本当なら人生で最高の感動を生むことができるほどのものなのだから。
 それをこんなふうに消化してしまったこと、雪は怒っているかもしれない。
「だから……もう少しこのままでいよう」
 緊張のあまり震えた声が実に情けなかったが、雪は小さく頷いてくれた。


 通っていた中学校の校門前にそびえている桜の木は満開の時期を終えて、吹き抜ける風とともにその花弁を辺りに散らしていた。ちょっとだけ苦めな香りが鼻を刺激する。
「懐かしいね、この桜の木。二人で一緒に校門をまたいで、その三年後、また一緒に今度は外に向かってまたいだよね」
「そう……だね」
 ただならぬ違和感が走った。
 桜の木を見上げる雪の表情には、ほとんど変化はない。言葉のとおり、過去を懐かしむような柔らかでいて温かな雰囲気だ。
 問題はそこじゃない。髪の毛だ。
 雪の髪の毛が短くなっている。
 さっきまで腰辺りまで伸びていたはずの髪は、肩を少し過ぎたところで毛先を露わにしているのだ。
「……あれ?」
 雪は髪の毛先をクルクルといじるのが癖になっていたため、やはりすぐに気づいた。
「なんで髪、こんなに短いの……? え、なに? なんで?」
 雪の顔からスーッと赤みが消えていく。
「レンくん、私なんか変じゃない? なんだか悪寒がする。レンくん!」
「大丈夫、落ち着いて。なにがあっても手は離さないから。僕は、そばにいるから」
 混乱しているのだろう。過呼吸気味になった雪をなんとかなだめ、落ち着かせる。僕にとっては歯の浮くようなセリフではあったけれど、二人とも雰囲気を作る状態ではまるでなかった。


「とりあえず、髪の毛以外は特に変化はないみたいだね」
 雪の表情から不安は消えない。
 本当にこの状況はなんなのだろうか、と僕は考える。落ち着いて辺りを観察してみると、不自然なほどに静かで、生命が感じられないことに気づいた。校門脇に立ち並ぶ桜の木もどこか機械的で、ずっと昔から成長してきたとは思えないほどにその存在を薄く感じた。
「……あ、私だ」
 突然、雪がつぶやいた。
 校門から薄い人影が二人、なにやら会話しながら出てきた。しかし、その白く若干透けている影から声は聞こえず、幻を見ているような感覚に陥る。
「あれは、僕と雪?」
「やっぱり、そうだよね。だってほら、レンくん、ネクタイしてないもん」
 卒業式の日、僕はネクタイを忘れるという致命的な失態を犯した。それを雪に散々叱られ、友人たちに「最終日も痴話喧嘩かよ。おまえらもう結婚しちゃえって」などとからかわれたことは、もはや僕にとって黒歴史に近かった。
 でも、その時の雪の切り返しは、今でもしっかりと覚えている。
「結婚、しちゃう?」
 そうそう、からかわれたことに憤るどころか、それを肯定――
「って、え? あ、いや、なんでもない……っていうかなに、いきなり」
「レンくんがよからぬ妄想してるみたいだったから、先読みしてみました」
 えへへと言わんばかりににっこりと微笑む雪。その笑顔は、今起こっているこの異常現象など、どうでもよくなるくらいに強烈だ。どうやら、あの白い影のおかげで落ち着きを取り戻した様子の雪に、少しだけ安堵する。
 上昇する体温を悟られないように、つないだ手をそのままにしてちょっとだけ距離を取った。


 いつのまにか白い影は消えていた。
 二人ともが視認したのだから、単なる幻ではないようだったが、まだまだ今の事態に慣れることはできない。
 心なしか赤みを帯びてきたような周辺の空気をぐるりと見渡していると、雪がまた声を上げた。
「あ、また私だ!」
「……と、僕もいるね」
 今度は歩道の先から、僕らに向かって二人で歩いてきた。やはりどこか影のように色合い薄く、その白い体は奥の景色を透かしている。
「あれって、入学のときの私たちだよね。あんなに小さかったんだ、私……」
 いや、今でも小さいから。中学三年間で五センチしか伸びなかったじゃないか。
 心の中でそんなつっこみを入れていると、二人の影が徐々に迫ってきた。避けようと左に動いたところで、ぐいっと腕が引っ張られた。雪が逆方向に飛びのいたらしい。
「ひゃっ!」
「うわっ」
 僕らはまるでゴム毬のように弾かれて、元の位置に戻る。勢いで密着してしまった体がまた一気に火照ったため、慌ててつないでいない方の手で雪をべりっと引きはがそうとした、そのときだった。
 白い影が僕ら二人の体をすり抜けた途端、フッと一瞬にして雪の雰囲気が変わった。
 先ほどまでの美しいという表現から、可愛いという幼さの強い表現がマッチするようになる。そこには高校生ではなく、あの白い影とピッタリ重なる中学校入学時の容姿へと変貌した雪がいた。
「な、なんだ……これ……」
「あ、あのあの、ちょっとレンくん。なんでそんな真剣な顔するの? その、チュウするならもっと雰囲気のあるところで……がいいんだけど、な」
 雪は言いながら目をそらす。左手はしっかりと雪の手を握りしめ、右手は雪の肩をがっしりと掴んで、見つめ合う。確かにそんなシチュエーション――
「うわ、ごめ、そういうんじゃないだ。ちょっと、その」
「きゃっ!」
 弁解しようとしたそのとき、大きな地鳴りとともに地面が大きく揺れた。あの事故現場と同じ、瞬間的な縦揺れだ。あまりの揺れにバランスを崩した雪を抱きかかえ揺れに耐えながら、リズムを刻むように一定のテンポで繰り返される爆発音のような地鳴りの発生方向へと目を向ける。
 道路に亀裂が入り、コンクリートの擦れる音を上げながら断裂していた。その地割れは道路から校門へと繋がり、ひときわ大きな唸りをあげて上下にずれる。
「桜の木が……」
 雪の見つめる先にある桜の木は次々に割れた地面へと吸い込まれ、奥に見える校舎さえも倒壊しながら飲み込まれていく。
「雪、走るよ!」
「ど、どこに行くの!?」
「わからないよ! でもここにいたら僕らも飲まれちゃう!」
 僕は雪の手を引き、校舎から遠のくように走り始めた。
 後ろから断続的に聞こえてくる破壊音の恐怖に耐えながら、とにかく逃げた。



 ◆Scene2 『河川敷』


 いきなり別世界に放り込まれたような気分だった。
 その発端はやはり僕の治癒能力の発動にあったのだろうか。予想が立てられるとすれば、それだけだ。
 容姿が若返ったことは雪に話してみたが、今度はそれほど驚いた様子はなかった。僕自身、この不可思議な現象の実態を飲み込めていないこともあり、そんな雰囲気を知って気を使ってくれたのかもしれない。
 走りついたのは、夏になれば花火大会が催されるほどの大きな川を望む河川敷だ。街を二分する川だけに向こうとこちらを行き来する車は比較的多く、道路は河川敷とは思えないほど綺麗に整備されている。
 しかし、車は一台も走ってはいなかった。
 それどころか、川を下る方向、上る方向、どちらに目を向けてみても、人影すら見当たらない。
「静かだね。なんだか、私とレンくん、世界で二人ぼっちになっちゃったような気分だよ。私、ここにいていいのかな」
 遠くにかかる橋を見つめながら、雪はしんみりと漏らす。
 きっと雪も気づいているんだ。この状況を作り出したのは僕であり、あの治癒能力の発動が引き金になったのだということを。でも――
「たとえ雪を治したことでこんな状況になったんだとしてもさ、理由がわからないよ。今までだって使ってきたじゃないか。初めて治したのはスズメ、それからいろんな小動物を経て、最後は猫。なにも問題はなかった」
「そうだね。でもさ、なんだかすごく怖いんだ。人間の命を蘇生させるなんて、神様に逆らっているようだし、もしかして怒らせちゃったんじゃないかな……とか考えたりして」
 確かにそうかもしれない――と納得しそうになったが、ふと引っ掛かりを覚えた。なにかはわからないが、今までと違う、一瞬だけ背筋を孤独が走ったような妙な気分。
 雪は今にも泣きだしそうな震えた声で、僕に訴えてきた。
「ねぇレンくん。私、本当は死ななきゃいけないんじゃないかな」
「……そんなこと、ないよ。理不尽だよ、そんなの」
 そうだ、理不尽だ。信号機は赤だったにもかかわらず突進してきた相手が百パーセント悪いのに、雪はなにも悪くないのに。なのに生命を絶たれる運命なんて、認めていいはずがない。
 そう、僕は生きている。でも雪は、本当は死んでいるかもしれない。
 死んでいるはずなのに生きている。その感覚は想像するだけで足がすくむ。しかも、髪が短くなり体が幼くなって……雪は僕なんかよりずっと強い不安に襲われているはずなのに、なにをふらふらと浮ついているんだ僕は。
 僕が守らないで誰が雪に手を差し伸べるんだ。
 初めて雪と出会ったときの気持ちを少しだけ思いだし、勇気がわいてきた。
「もしかしたら、この手を繋いでいることが関係しているのかもしれない。離したら、世界はもとにもどるかも。よくわからないけど、そう感じるんだ」
「傷を治せるのはレンくんの左手……だから?」
「そう。でも、僕は離さないから」
「え?」
 確信めいたものがあった。手を離してしまったら、もう一生、雪に会えなくなってしまうという、最悪の未来図。世界と雪、天秤にかけるにはあまりに極端ではあったが、それでも僕は雪を失いたくない。
「離さない、絶対に」
「レンくん……」
 一回り小さくなった雪が、僕の胸にゆっくりと顔をうずめる。
「本当にすごく怖くて……だから、そう言ってくれて安心したよ。絶対に離さないでね、約束だからね」
 まだ日中帯だというのに、空とその周りの空気がさらに赤みを増してきていた。
 世界に二人だけ。僕も同じように感じた。別に学校生活が嫌になったとかそういうわけじゃないけれど、このまま二人で生きられるのならば、それもいいかな、なんて思った。


 河川敷の脇を抜ける車道を、少しだけ歩いた。
 中学校の前で起きた地震など想像すらできないほどの静寂があたりを包み、響くのは二人分の足音と衣擦れの音だけ。
「あ、また……」
 言いかけて雪はすぐに気づいたようだ。僕も、その光景は鮮明に記憶に残っている。
 車道の真ん中に座り込む二人の影。やはり体は白んだシースルーで、二人が手を当てている対象まで透けて見える。
 僕が最期に治癒した、あの猫だった。
 しばらくすると、猫はその白く透けた体を持ち上げ、一度だけ大きく伸びをして川の方へと歩いていく。雪の影は猫に向かって「元気でね」と言うように大きく手を振りながら、ゆっくりと姿を消していった。
「あの影、だんだんと私たちの記憶をさかのぼってる感じだね。中学卒業、入学、そして猫さん。どういうことなんだろ」
 雪が首を傾げながら訊いてくる。僕は実のところ予測が立ち始めていたが、とりあえず首を横に振っておいた。
 ふいに、手を離してしまいそうになった。
 慌てて強く握り返すと、雪が驚いて僕の方を向いた。
 その顔はさらに幼く変貌し、ただでさえ小さな手もさらに一回り小さくなっていたのだ。相変わらず細い指だったが、少しだけ感触がふっくらしたようにも感じる。
「あれ? レンくん身長伸びた? ……って違うよね。なんか私、また縮んじゃったみたい」
 無邪気に笑う雪の姿は、まさにあの猫を助けた時と同じで、とうとう十歳まで若返っていた。
 変化、ではなく若返る、という表現をしたことには理由がある。三回目の影を見たときに浮かんだある予測。それが確信に変わるのはそう遠くないかもしれない。
「ねぇ、レンくん、あの猫さんの影、まだ消えてないね。ちょっと追いかけてみようよ。特に目的もないんだし、いいでしょ?」
 言うが早いか、雪は僕の手を引っ張って川へ続く土手の方へ駆けていく。その奔放さは本当にあのころの雪のようだったが、記憶や思考回路などは幼くなっていないらしい。体は子供、頭は大人。そんな存在に近づいているようだ。
 白い影である猫には、僕らはやはり見えていないようで、川沿いを独り優雅に歩いている。対して僕ら二人はペースを合わせて並んで歩く。春の暖かな陽気をいっぱいに受けながらの遊歩は、まるで天国にでも来たかのような印象を含んだ。僕も雪も、言葉はなくともどこか幸せを感じていたと思う。そんな折にふと思い出したことがあった。
『命に重さの差なんてないんだよ。蟻さんだって一人一人ちゃんと自分を持っていて、毎日いろんなことを考えながら精一杯生きてるんだ。だからセッちゃんはね、みんなが今を幸せに生きてくれたら嬉しいし、それだけで笑顔になっちゃうの』
 いつだったかは釈然としないけれど、雪はそんな言葉を僕に残していた。生命に対しての平等な見解。当時の僕はやはり、多分に漏れず理解していなかったが、雪が人一倍優しい子であることだけはわかった。
 僕の癒しの能力は、本来ならば雪が持つべきものなんじゃないかと、いつも思う。
「あ、猫ちゃん、どうしたの!?」
 雪が立ち止まり、いつの間にか歩くのをやめていた猫の方へ駆けよった。当然、僕もそれに引っ張られる。
「どうしたんだろ、なんだか苦しそうだね」
 僕のそんな言葉に小さくうなづく雪。白い影の猫は、伏せをした状態でぶるぶると震えていた。
 そして、突如血を吐いて横に倒れた。
「え……猫、ちゃん? 嘘、なんで……?」
 この瞬間、全身の毛が針のように逆立った。いくつかのパーツがスムーズにはめ込まれていき、一つの予測に対する答えが頭に想起された。
 しかし、それを頭の中で整理する時間はないらしい。
 ボッ、というなにかが土面に落ちたような音がしたため、僕と雪はほぼ同時にその方向に目を向ける。
 スズメだった。
 ピクピクと全身を痙攣させ、開いた口が苦しそうに上下するその様は、やはり見たことのある光景だった。
 二人とも声すら出なかった。なにも言わずに立ちあがり、一歩、二歩と後ずさる。
 すると突然、右肩になにかが当たった。
 反射的に右を向き、視界に入った地面に落ちていたもの。やはりスズメだ。
「な……なんなんだよ……」
 無意識的に、僕は空を見上げる。
 そこには赤らめた空間が広がっているはずであったが、そうではなかった。
 無数の黒い点が視界いっぱいに、まるでショットガンを放ったかのように打ち込まれていた。
 僕は弾かれたように雪に言う。
「雪! 走るよ!」
「う、うん」
 手を強く握り返し、全力で土手を上っていく。
 まるで雹のように上空から降ってくるスズメたち。頭に当たらないように右手で防ぎながら走ったが、それでも少しずつ体にぶつかってくる。
 雨とは違う、なんとも形容しがたい音が幾重にも重なって後ろから聞こえてきた。スズメが地面に全身を強打する音――想像しただけで身震いするようなそんな考えはすぐに振り払い、とにかくまた、河川敷から遠ざかるように走り続けた。



 ◆Scene3 『繁華街』


「ちょっと……レンくん! 私もう、限界……っ」
 その場にしゃがみ込んでしまった雪を見て、僕はようやく失敗に気がついた。すでに十歳を切るほどにその身を小さくしてしまっている雪は、運動能力も当然落ちているのだ。逃げることに必死で雪への思いやりをないがしろにしてしまった自分を叱咤する。
「ごめん、少し休もう」
 ぺたんとアスファルトに座り込む雪から目を離し、素早く上空と周囲を見回す。どうやらスズメは降ってきそうもない。ふっと肩を落とし、僕もどっしりと腰を落とした。
「やっぱり誰もいないね、いつもならすごく賑わう場所なのに」
 落ち着いてきた雪の言葉通り、この街一番の繁華街ですら人は見当たらなかった。僕らが座っている歩道の脇にはガラス張りの大きなショーウィンドウがあり、中をのぞいてみてもあるのは無機質なモノばかりで、生命は感じられない。
 同じようにショーウィンドウを見ながら、雪がつぶやいた。
「あはは、私ホントに子供になっちゃったね。でも、このままだとさ、私……」
 その先の言葉は予想がついている。僕はこの状況に対する、一つの答えを話すことにした。
「雪、おそらくだけど、僕の能力は傷を癒すことなんかじゃなかったんだと思う。若返っていく雪と、さっきの記憶……猫やスズメを見てそう思った」
 雪は小さくうなづき、ゆっくりとうつむく。
「僕の左手は、きっと触れたものの時間を戻してしまうだけなんだよ。だからどんな傷も癒してしまう――いや、もとに戻してしまうんだ。怪我をする前の健康な状態にさ。そして、手を離した後は、その戻った時間が、また一気に進む」
「じゃあ今まで治してきた子たちはもう……」
「生きては、いないかもしれない」
 雪は命を救うたび、本当に喜んでいた。言葉では表せない喜々とした感情を体いっぱいに使い、まるで踊るようにはしゃいだ。自分に熱があっても、けがをしていても、そんなことは関係ない。助けるためなら車が交錯する路上にだって平然と飛び出していく。雪は自分の命よりも、自分が存在する世界の中で生きているものすべてを優先するような、そんな女の子だった。
 だから、今まで助けていたと思っていた生き物たちを、実は誰一人として救えていなかったという事実に対し、雪は絶望すると思った。
 でも違った。
「仕方ないよね、ただ触れただけで命を救う、そんな都合がいいだけの能力なんてあるはずないよ」
「雪……」
 また、僕の背中を孤独が走った。
 幸せな過去を根底から崩されたという、とてつもなく大きなショックであるはずなのに、こうも簡単に割り切れるものなのか?
 ただ、今この状況で絶望するよりはいいのかもしれない。
「よかったよ、僕はてっきり雪が絶望して生きることをあきらめちゃうかもとか、ちょっとだけ心配だった」
「あきらめたくなんかないよ。でも、このまま若返ったら私きっと……って考えちゃって」
 そう、能力が時間を戻すことだと予想したとき真っ先に浮かんだ最大の懸念。
 僕だってもちろん理解している。けれど、どんなに考えても解決策が出てこない。
 手を繋ぐことで死を回避する。
 手を繋ぎ続けることで雪は若返っていく。
 それは何歳までなのか。
 希望的観測を言えば、今すぐにでも止まる可能性だってある。現に、十歳くらいになった雪はその姿を変化させていない。
 それでもやはり、どうしても最悪の構図ばかりが頭に浮かぶ。
「私、消えちゃうのかな」
「そんなことにはならないよ! なんとかなる……いや、なんとかする! その方法を、この異常な世界の中で探すんだ! そして二人で帰る! 答えは、きっとあるよ、大丈夫」
 今にも泣きだしそうな雪の瞳を見つめる。大丈夫、きっとなんとかなる。そう自分にも言い聞かせながら、ゆっくりと二人で立ち上がった。
 手を離す、という選択肢はすでに僕の中にはなかった。あの猫やスズメを見てしまった後でということもあるのだろうけれど、離してしまったらその瞬間に雪の体が血まみれになり、もう二度とこうやって温もりを感じることができなくなってしまうのではないかという想像ばかりが先行してしまうからだ。
 もちろん、絶対じゃない。離せば二人とも助かり、世界も元通りになるかもしれない。けれど、そういう考えが頭にチラつくたびに、どす黒いなにかがふつふつと湧き上がってくるのだ。それは決して手を離してはいけないという警告ではないか……そう考えることが自然に思えた。
 そんなことを悶々と考えていると、服の袖をぐいっと引っ張られた。
「ね、ねぇレンくん。あれ、なんだろう」
 雪の指し示す方を見ると、ショーウィンドウの中でなにやらうごめく黒い影が目に入った。
 そして、すぐにわかった。あれは、事故現場で見たやつだと。
 ジュクジュクと地面から這い出してくるようにその体を露わにし、真っ黒な全身の中で唯一怪しく光る金色の瞳で僕らを睨んでくる。
 一度だけ、渇いたのどに唾液をとおし、握る手に力を入れる。
「きゃあっ!」
「え……」
 突然悲鳴を上げた雪を見ると、別の黒い影が雪を羽交い絞めにしていた。ぞっと全身に鳥肌が立ったが、体はすぐに反応した。
 青く光る瞳にけりを入れ、左手で雪を強引に引っ張りだす。蹴った足に若干の感触があったことが気になったが、そんな思考はすぐに消え失せ、雪を引っ張りながらまた走り出した。
 黒い影は追ってきているようだったが、そのスピードは対して速くはないらしい。後ろを確認するたびに、黒い影は姿を小さくしていった。
「あの黒いの、私を狙ってるの? なんで!?」
「わからないけど、でも大丈夫。手は離さない」
 やはり手を離してはいけないんだ。離したら、それだけであの黒い影に連れ去られてしまい、二度と取り戻せないかもしれない。
 また一つ、決意を強める糸が増えた。
 しかし、そんな僕の決意の糸を断ち切らんとする光景が目の前に現れた。
「レンくん……怖い」
「だ、大丈夫、大丈夫さ」
 アーケード状になっている繁華街の入口から、つまりは僕らが走り抜けようとしていた方角から、空間を埋め尽くすような群れとなって黒い影たちが寄ってきていた。赤や青、緑に橙、チカチカと点滅するイルミネーションのようにカラフルな瞳が怪しく光る。こうなれば当然、前には進めない。となれば後ろ――という考えはすぐに消えた。後ろからも、複数の黒い影たちが迫ってきていたのだ。
 前後をふさがれた僕たちは、もう横に折れるしかない。大通りに構える店の合間に進路を取り、狭い路地へと駆け込んでいく。
 雪の嗚咽が聞こえる。今すぐにでも慰めてあげたい気持ちを制し、とにかく走った。
 ドォン、という重低音が足元から響いてきた。
 また地震、こんなときに……!
 そう思ったが、今度はどこか違う。というか、揺れをほとんど感じない。路地をいくつか曲がり、この街で最も急な坂道まできたところで辺りを見回してみたが、黒い影たちの姿は見えなかった。
「な、なんの音? 余震かな……」
 雪の言葉に応えようとしたその時、坂になっている道路の下の方から、だんだんと轟音が近づいてきた。なにかおぞましい事態が起こるような気がしたが、なぜか足が地面に吸いついたように動かない。怖いもの見たさというやつなのか、どうしても視線を坂の下側から離すことができないのだ。
 そしてとうとうそれは目に飛び込んできた。
 水だった。
 茶色い濁流となって、建物の間を抜けてカサを勢いよく増やしていく。
 地震による津波が起きたのかとも考えたが、そういう思考はもはや意味をなすものではなかった。隣では雪がまた、ぺたんとしゃがみこんでしまっている。
「雪、上だ! 高台の公園まで走るんだ!」
 僕の声が耳に入ったかどうかすらわからなかったが、雪は震えながらもなんとか立ち上がる。
 手を握る力をさらに強め、僕らは走った。



 ◆Scene4 『高台の公園』


 僕らはなんとか高台にある公園にたどり着き、呼吸を整える。揺れはいつのまにかおさまっていて、なだれ込んできた濁流も止まったらしかった。
 二人とも、言葉を失っていた。
 この公園から眼下に望む景色は街の名スポットになるくらい壮大で、普段なら見惚れてしまうほどに美しいものなのだが、今はまったく逆の意味で目が離れない。川の奥に見える理路整然とした住宅街はそのほとんどが水没していて、ところどころにある貸しビルだけが水面に顔を出している。
 そしてなにより僕らを放心させているのは、さらに赤みを増した空だ。
 月や太陽など比べ物にならないほど巨大な球体が上空の視界を埋め尽くし、真っ赤に燃えながら落ちてきていたのだ。
 この世界はあと数分で死ぬ――ぼやけた頭の中に浮かんだ言葉は、そんな絶望的なものだけだった。
「レンくん、私、もう死んじゃってもいいや」
 雪の言葉に、なにも答えることができない。いや、ちがう。僕も、すでに同じような気持ちになっているんだ。まさか自分がスーパーマンになってあの隕石を宇宙へ向かって投げ返すわけにもいかないし、神様みたいに世界を新しく創造することだってできやしない。
 雪の頬につーっと流れ落ちる涙を見た。
 僕はもう一度強く手を握り返す。
 今度こそ本当に覚悟を決めるために。
 もう、この手を絶対に離さない。二人なら怖くない。
 心の中で何度もそんな言葉を繰り返していると、後ろに気配を感じた。
「また私……」
 今度は雪一人だけだった。白く半透明な、五歳の雪が座った状態でじりじりと後ずさっている。その前には二匹の野犬がこれまた白く透けた体で、吠える声などは一切聞こえなかったが、雪に向かって差を詰めていた。
 その光景も、僕はもちろん知っている。
 野犬に襲われているという危機的状況の雪の影からは目を離し、公園入り口付近の草むらに目を動かす。そこには、ぶるぶると震えながら小枝を握る僕の影がいた。
「早く動け。怯えるな」
「……レンくん?」
 当時の情けない僕に対し、つい声が漏れた。
 するとようやく僕の影が草むらから飛び出し、小枝をやたらめったに振り回しながら野犬を少しだけ払いのける。そして、小枝を野犬に向かって投げつけ、雪の影の手を握って公園の外へと全力で走っていった。小枝は砂場に残された状態で、白い野犬の影はフッと姿を消した。
「このときのレンくん、すごくカッコ良かった」
 ふと聞こえたその声がさらに幼くなっていることに気づく。雪の体は、今見た影と同じ五歳にまで小さくなっていた。握る手に伝わる感触は、ふわふわとまるでマシュマロのように弾力がある。本来の雪と比べると、ずっと肉付きがいい。
 そんな雪の醸し出す雰囲気は子供のそれではなく、僕と同い年のいつもの雪だった。
「もうとっくに気づいてると思うけど、私ね、この初めて出会ったときにレンくんのこと好きになっちゃったんだよ。わぁ、私の王子様だぁって」
 こんなときだというのに、雪の言葉に動揺を隠せないでいる僕はなんてウブなんだろう。そんな風に、少しだけ自惚れた。
 そして、伝えた。
「僕だって同じだよ。その……すごく可愛いなって思って、だから彼女のヒーローになれないかなって漫画みたいなこと考えて。それだけが原動力になって飛び出していったんだ。弱いくせにね」
「えへへ……レンくん、それすごく照れるよ」
 世界が崩壊する寸前だというのに、今まで感じたことのないくらい温かで幸せな気分になった。
 十年以上言えなかったことを口にすることができた。
 本当は今日、映画を見たあとに二人でこの公園に来て、夕日を見ながら雪に伝えようと思っていたその想い。
 雪に先を越されてしまったことを少しだけ悔やんだけれど、そんな贅沢はすぐに消えた。
「レンくんは覚えてる? この時以来、手を繋いだのって今日が初めてなんだよ」
 そう、野犬から救い出したこの時以降、一度たりとも雪と手を繋いだことはなかった。だから、想いを伝えるその時に、もう一度優しく握って、行動でも表してやるんだ――そう考えていたのに。
「ごめん。せっかく温めてきたことなのに、こんな状況で繋ぐことになっちゃって……」
「ううん、嬉しいよ。もう、離さないでね。たとえ私が消えちゃうとしても」
 下の方から、いつまでも変わらないクルミのような大きな瞳を向けられて、僕はやはり恥ずかしくなる。雪の体が少しずつ色を失っていき、あの白い影たちのように透け始めたが、そんなことはもう気にならなかった。
「離さないよ」
 それだけ言って、お互いに微笑みあう。
 そして、この残り少ない至福の時間を味わおうと二人でベンチに座ろうとした、そのときだった。
 大きな爆発音と同時に地面が割れ、一瞬にしてベンチが飲み込まれた。
 慌てて雪の手を引っ張り飛びのいたが、ぐいっと思いっきり引っ張られる感覚に陥る。
 気がつくと、地割れに飲まれそうになる雪を、握った手でなんとか支える形になっていた。雪は宙ぶらりんの状態で、僕が手を離せば奈落の底へと落ちてゆくしかない状況である。
 幸いだったのは、雪の体がずいぶんと軽かったことだ。同い年の体であったなら、つないだ手はお互いの握力が足りずに離れていただろう。
「レン……くん……っ」
「ぐっ、大丈夫……今持ちあげる」
 それでも十五キロは超えているであろうその体は、そうそう簡単には持ちあがらない。
 隕石よ、落ちるなら落ちてくれ。そして早く世界を終わらせてくれ!
 そんな思いが頭を巡る。
 ふと、声が聞こえてきた。動物の鳴き声だ。
 猫、犬、スズメなどの小動物から、トラや馬など大型の動物など様々な声が耳に入ってくる。まるでジャングルに迷い込んだかのような気分だ。
 鳴き声のする方に目を向けると、そんな動物たちがみな次々に地割れに飲まれていた。中には逃げようとする動物もいたが、なにか見えない壁のようなものにはばまれ、穴を広げていく割れ目になだれ込むように落ちてゆく。
 僕の思考は当然パニック状態だ。地鳴りと鳴き声が混じり合う混沌とした状況の中で、トーンの高い声が響く。
「レンくん! 動物なんかに気を取られてないで、早く、早くあげて!」
「あ、ああ、ごめん。今持ちあげ――」
 違和感が全身を貫いた。
 力はまだ残っている。引きあげようと思えば、両手を使ってなんとかできるはずだ。
 そう考える頭とは反対に、なぜか引きあげてはならないという気持ちがわいてくる。
「ちょっとレンくん! なにしてるの!? 動物と私、どっちが大切なのよ!」
「え……?」
「絶対離さないって約束したじゃない! 最後まで私と一緒にいてくれるって、消えるまで一緒に手を繋いでいてくれるって言ったでしょ! あれは嘘だったの!?」
「う、嘘なんかじゃ――」
 変だ。おかしい。
 雪が、雪に見えない。
 まるで人格が入れ替わったようにその表情までもどこか険しく変貌し、手を繋いでいること自体に恐怖すら感じ始めた。
 回らない頭で、雪はどんな女の子だったか再構築を試みる。
 しかし、こんな切迫した状況でブロックを組み立てることは不可能だった。どうしても混乱が解けない。
 ――命に重さの差なんてないんだよ。
 ふいにそんな言葉が再生された。
 ――蟻さんだって一人一人ちゃんと自分を持っていて、毎日いろんなことを考えながら精一杯生きてるんだ。
 雪の声だ。
 ――だからセッちゃんはね、みんなが今を幸せに生きてくれたら嬉しいし、それだけで笑顔になっちゃうの。
 そうだ。雪はそんな子だった。
 生ける命は平等に、しかも自分の命よりも大切に扱うような――どんな小さな命でも、その灯が消えるときは涙を流してあげられるような、度を超えた優しい女の子だ。
 僕は一度だけ固唾をのみ、手を繋いでいる少女に問いかける。
「君は、なぜ生きたいの?」
「な、なに言ってるのレンくん? そんなの、死ぬのが怖いからに決まってるじゃない! 私はレンくんと二人で最期を迎えたいの! 一人で死ぬなんて絶対にイヤ!!」
「でも、君が大好きな生命たちはどんどん落ちて、死んでいるよ?」
「だからなに!? そんなの私には関係ないじゃない!」
 ひときわ大きく跳ねる鼓動と同時に、強い悲愴感が僕の中に生まれた。
「……そっか、わかったよ」
「レンくん……?」
 頬を涙が伝った。
 この世界には、僕一人だけが生きていたんだ。
 雪は最初から、存在しなかった。
 困惑の表情を浮かべる少女に、僕は別れを告げるようにして、手を離した。
「さよならだ」
 スローモーションのように闇に落ちていく少女を見つめながら、服の袖で涙をぬぐう。
 僕は一人だった。じゃあこの世界はいったいなんなんだ? 僕はこれからどうすればいい? いや、どうなる?
 そんな絶望的な疑問が沸いては泡のように弾けていく。

『離したね』

「え?」

『もう少しだったのに』

「な……なん……」
 絶句した。
 空気を波打たせるようなエコーがかったハスキーな声。
 今まで雪の姿をしていたそれが一瞬にしておぞましいモノへと変貌をとげ、割れた地面から重力に逆らい浮上してくる。
 息ができなくなるほどの恐怖を感じた。足から急に力が抜け、しりもちをつく。
 一見すると魔女に近い印象だった。深淵のような黒一色でまとわれた体に張り付く真っ白な顔。自分の数倍はあろうかという体全体は炎のように揺らぎ、時折バチバチと稲妻が走るように光っている。
『なぜ離した? 愛しの雪と一緒に死にたかったんじゃないのかい?」
 なにかを考えることはできないと悟った僕は、本能のままに答え続けた。
「き、君が雪じゃないと確信したからだ。雪は、誰よりも優しいんだよ。自分を大切にしないのは褒められたことじゃないかもしれないけど、それでも僕は、そんな意志を持った彼女が好きなんだ。君には、きっとわからない」
『そうかい。いい演技だと思っていたんだけどねぇ』
「演技……だって?」
『そうさ。おまえの中にある雪という子の記憶を拝借したんだよ。おまえだって、この混沌とした世界の中で、あの子と二人でいることに幸せを感じていただろう? まやかしだってことに気づかずに……ヒヒヒ』
「君は……いったいなんなんだよ。僕をどうする気だ!?」
『どうするって? そりゃあ死後の世界に連れて行くのさ。当り前さね、あたしは死神なんだから』
「死神……?」
『手を繋いだままなら、こんな恐怖なんて味わうこともなく、幸せな気分のまま逝けたのにねぇ。おまえは愚かだよ。そして実にかわいそうだ……』
「それはどういう――ッ!?」
 猛スピードで伸びてきた死神の腕に首を掴まれ、そのままゆっくりと持ち上げられる。
 息ができない。
『こうやって苦しまなきゃいけないからねぇ。ま、最後にいいことを教えてあげるよ。ここは生と死の狭間の世界ってやつでね、現実世界で死にかけたやつをこうやって確実に殺すのがあたしの役目さ。ただ、それだけじゃああまりに酷過ぎる。だから安楽に逝かせてやるっていうメニューを用意してあげているんだよ。まぁ、記憶は当然いじるけどね。優しいだろ? でもおまえはそれを拒否した。ゆえに、あたしが直接に殺すしかないってわけさね。わかったかい坊や?』
 遠のく意識の中で、僕はようやく理解し始めていた。
 そうか、だからなのか。だったら僕の能力は、もしかしたら本当は――
『うっ……ッ!? なんだいあんたたち!?』
 突然首から手が離れ、僕は肩から地面へ落とされた。
 肺に思いっきり空気を流し込み、座ったまま体勢を整えて死神を見上げる。
 すると、死神の体のいたる部位に、道中で僕たちを襲ってきた黒い影がまとわりついていた。死神は長い腕をブンブンと振り回し、虫のように飛んでひっついてくる影たちを薙ぎ払い続けている。
 影の一体が隣へ降ってきたため、僕は驚いて飛びのく。全身を叩きつけられた影の青白く光る瞳はだんだんと輝きを失っていき、真っ黒な体は宙へ霧散していった。そしてぽとぽとと二つ、瞳のあった部分からなにかが落ちた。
「これは……ビー玉?」
 青く澄んだ、衛星から見た地球を彷彿とさせる美しい色をしたビー玉だった。
 さらに、次々と死神に叩きつけられる影たちは、その瞬間に体を蒸発させていき、二つのビー玉だけがその場に残される。一つとして同じ色はなく、ワインのような透き通る赤や、星のまたたきのような深い銀色、中には絵具を混ぜ合わせたようなマーブル模様まであった。
 これには見覚えがあった。雪が小さいころに集めていた、あのビー玉だ。新しいビー玉が手に入るたび、僕が自慢げに見られてきたいくつもの記憶がよみがえる。
「そう、だったんだ」
 あの影たちは、僕を襲ってきたんじゃない。偽りである雪――死神から、僕を守ろうとしてくれていたんだ。だから今も、こうやって身を挺して死神から僕を解き放ってくれている。
 死神は、ここは生と死の狭間の世界だと言っていた。それはいったいどういうことなのだろう。
 どうすればいい? どうやってあの死神に対抗すればいいんだ? なにをどうしたらこの世界から抜け出せるんだ?
 疑問が疑問を呼び、また混乱してきた。
『チッ、うるさいこばえどもだねぇ! 散れぇッッ!!』
 死神の怒号は空気を振動させ、その波は死神を中心に球形に広がり、突風となって辺り一面に吹き抜ける。僕は体ごと数メートル吹き飛ばされ、縦に横に、砂場の上で勢いよく回転した。口に入った砂を吐きだすように咳き込む。
 全身の痛みに耐えながら目を開くと、そこには小枝があった。僕がヒーローを目指して手に取り、野犬を追い払ったあの小枝だ。白く不透明な色は変わらずだったが、小枝全体を青白い電撃のような光がまとっている。
 僕は考えるより先に、小枝を手に取った。
『おやぁ? そんな枝っきれでなにする気だい。チャンバラごっこなら死んでからやりな』
「ちがう……これはただの小枝なんかじゃない」
『なんだって? 恐怖で声が縮んでいるねぇ。聞こえやしない』
「これは、僕の勇気の原点だ……そして、僕と雪を繋ぐ、愛の剣だ!」
 数秒の間を経て、死神が噴き出した。
『イヒヒヒヒッ! 正気かい坊や? 聞いているこっちが恥ずかしいよ』
「う……うるさい!」
 なぜか本当に漫画のヒーローになった気分で、ラスボスを倒すときのようなセリフを吐いてしまった。恐ろしく恥ずかしくなり体温が一気に上昇したが、それが功を奏した。先ほどまで力が入らなかった足に筋力がもどり、短距離走を走る直前のような準備が、体全体で整ったことを感じた。
 剣を両手で逆手に持ち、思いっきり地を蹴りだす。
「うあぁぁぁぁぁっ!」
『あれ、本当に向かってきたよこの子。チビなおまえに、あたしの体までその剣とやらが届くわけがないだろう』
 そのとおりだった。またあの長い腕が瞬時に伸びてくる。
 が、その腕は僕の体とは別の方向へ折れた。
『クッ、まだいたのかい……うざったいねぇ!』
 死神の腕には、ユキのように深い白色の瞳をした影が絡まっていた。あれは、そうだ。スズメを癒した時に見せられた、雪の一番のお気に入り……。
 走りながら苦笑した。
 興味がないなんて言いながら、ビー玉のこと、色までしっかりと覚えているじゃないか。どこか矛盾した記憶に口元が緩む。
 目の前の割れた地面などまったく怖くなかった。
 勢いをつけて全力で飛ぶ。
 そしてそのまま死神の胸あたりに、剣を突き刺した。
 声とは言い難いような地響きにも似た死神の叫びを浴びながら、僕の視界は幕が下りるがごとくブラックアウトしていく。
 すべてが消滅していくようなその世界で見えたのは二つ。
 深い深い白色のビー玉。
 そして、夏の日差しを受けると火傷してしまうであろう、これまた真っ白に染まった小さな小さな手。
 僕は、その手を掴むように、必死に腕を伸ばした。



 ◆Scene5 『現実』


 重たい目を開けると、天井があった。
 白く清潔感のある壁だった。
 体を起こそうと試みるが、全身にほとんど力が入らず、まったくといっていいほど動けない。
 病院であることはすぐにわかったし、自分がどうしてこんなボロボロの状態でベッドに横になっているか、ということも理解していた。
 あの交差点で事故にあったのは、雪じゃなく、僕の方だったんだ。
 さっきまで彷徨っていた生死の狭間の世界で見た記憶。あれはいわゆる走馬灯というやつなんじゃないかと、ふいに思い至った。今まで生きてきた中で特に心に刻まれているシーンをフラシュバックのように垣間見る――まさにそのとおりではないだろうか。
 ふと、左手に温かみを感じた。なんとか力を振り絞り、首をその方向に向ける。

 そこには、椅子に座った状態で、ベッドに突っ伏して眠っている雪がいた。
 雪の両手は僕の左手としっかりと繋がっていて、どんなに力を入れても離れそうにない。ちょっと痛いくらいに強い力だ。

 ここで僕は今日何度目かわからない確信を抱いた。
 能力は僕の左手に備わっていたんじゃない。
 雪の両手に宿っていたんだ。
 しかも、傷を癒すのでもなく、時間を戻すのでもなく。
 生死の狭間から引き上げてくれるという、そういう類の能力。
 いや、もしかしたら単なる『想い』なのかもしれない。
 生命を思いやる心が人一倍強い雪のその『想い』が、相手に生きる勇気を与えてくれるだけなのかも。
 まぁ、そんなことは二、いや、三の次でいい。
 今はお礼を言うのが先だ。

「助けてくれて、ありがとう」
「……ふぇ……?」
 どうやら起こしてしまったらしい。雪の眠そうなまぶたがゆっくりと上がっていく。
 そして僕と目を合わせるや否や、そのクルミのような大きな瞳はさらに大きく見開かれた。

「おはよう、雪」
 雪の瞳は、しだいに細く歪んでいき、潤いを増していく。
「……おはようじゃないよ……レンくんのばか……」

 退院したら、もう一度あの高台の公園に誘おう。
 夕日を見ながら、今度こそ僕から先に想いを伝えるんだ。

 もちろん、手を繋ぎながらね。

作者コメント

こんにちは、空ノと申します。
こんなに長くなる予定はなかったんです……orz
少しでも興味を持ってもらうため、簡単なあらすじを書きます。

◆あらすじ
突然おとずれた交通事故により、思いを寄せる女の子が瀕死の状態となってしまう。
主人公である蓮は、幼いころに持っていたであろう治癒の能力を思いだし、女の子の手を握る。
しかし、手を握ったその瞬間から、世界はなぜか崩壊を始めた。
その世界から脱出するため、蓮は奔走する。
絶対に手を離してはいけないという想いを強く意識しながら。

ということで、ある名作のオマージュたっぷりの作品です。気づかれた方がいたらちょっとうれしいです。

未熟者の作品ではありますが、よろしくお願いします。

※5/5 ご指摘いただいた箇所を色々修正しました。ありがとうございます。

2013年05月04日(土)11時49分 公開

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感想

インド洋さんの意見 +40点2013年05月04日

>名作のオマージュ
「この人の手を離さない。僕の魂ごと離してしまう気がするから」
 体験版しかやったことないけれど、ICOでしょうか。

 こんにちわ、インド洋です。
 拝読させていただきましたので以下に感想を残させていただきますね。

 では、項目ごとに。


◇率直な感想

 素敵な作品でした。短編のほどよい長さのなか、仕掛けを含めてきれいにお話がまとまっていた印象です。総じて言ってしまえば完成度が高い作品であったかと。また、こういった作風のものは自分には書けないものでもあるのでとても勉強になりました。
 気になった点としましては、設定(能力)の部分でしょうか。ころころと変化していき、それが先を読ませる興味にもつながってはいるのですが、いささか最後の結論のところですんなり腑に落ちなかったというのを多少なりに感じました(後述します)。

◇文章

 綺麗でうまいです。情景がすらすらと頭に浮かんできますし、文句なしでした。

◇キャラクター

 雪も可愛らしい(あと綺麗)というイメージがとてもよく伝わってきますし、セリフや姿の描写で彼女のキャラは頭のなかではっきりと思い描くことができました。ただ反面、死神に関しては本作の雰囲気とは離れた印象も感じたところではあったので、もう少しクールで知的な造形にしてもよかったような気もいたします。死神の本性があらわになったところで展開に少し置いていかれたように感じられたのはたぶんそれが原因だったかとも思いますので。

◇設定

 能力は治癒ではなく時間の逆行だというのは死神の罠だったとして、最後の結論である主人公に力はなく、雪の両手に宿る「生死の狭間から引き上げてくれる能力」だったというところなのですが、多少強引な答えだったような印象が残りました。雪がひとりで能力を試そうとした機会がこれまでなかったというのもちょっと気になるところでもありますし、やっぱりすんなりと「ああ、そういうことだったのか」という納得がラストにほしいところでもあったので、その点は個人的には多少読後感に影響が出たように感じます。

◇ストーリー・構成

 気になったところはほとんどなかったかと。一点あげるとすれば、◆Scene2の冒頭三行。時系列が遡るので一瞬だけ混乱したかもです。
 二人の過去を狭間の世界で見ていく流れはとても魅力的でしたし、雪が若返っていくという絶望感もあって最後にそれをひっくり返す展開。このおかげで読んでいて飽きる箇所なく最後まで楽しんで読了することができました。

◆総括

 設定の部分でICOをオマージュしていることを考えますと(これで違っていたら赤面ものなのでその場合はスルー願います……)、なかなか評価の基準を設けるのが難しいところではありますが、普通に楽しんで読めたことを考えてこの点数とさせていただきました。
 余談ですが、内容としましては、個人的には病室のシーンでは終わらせずにその先の告白のシーンまでやってほしかったような気もいたします。死神の演じていた雪ではなく、本当の雪を物語にもうちょっと出して印象づけたほうがよいのではと思ったこともあったので。


 拙い感想で申しわけありませんが、以上です。
 一個人の意見でございますので、何卒、取捨選択をよろしくお願いいたします。
 今後とも執筆活動のほう、ぜひともがんばってくださいませ。

 ではでは~

文鳥愛子さんの意見 +30点2013年05月04日

先日は御感想ありがとうございました。感想返しに参った文鳥愛子です。読みましたので、感想を残していきますね。

綺麗な話でしたね。展開、文章共に、作者様の実力の高さを窺えました。
文章においては、描写が非常に丁寧で、読みやすかったです。ただ、せっかくの一人称なのですから、地の文にも主人公らしさを出してみてはどうでしょうか。あっ、こいつならこんなたとえ使いそう、こんなこと考えそう、とかいうものですかね。地の文でも主人公の魅力を伝えられると私は思います。

登場人物は、雪さんと蓮さんは良かったと思います。雪さんはしっかり者の女の子だからこそ、蓮さんを頼るところは可愛く見えました。蓮さんについても、雪さんを守ろうとする意志は非常に伝わってきて、頼りがいのある男の子、という印象を持ちました。ただ、死神がどうも、なんだか‥‥‥。
死神は安っぽい印象をうけました。私個人としては、死神というより童話に出てきそうな悪い魔法使い、という感じでしたね。敵キャラももう少し魅力ある設定にしてみてはどうでしょうか。敵キャラというのは何気に重要ですので。

色々と間違った指摘もあると思います。御了承下さい。お互い頑張りましょう。それでは。

杉宮紫乃(=詩乃さんの意見 +20点2013年05月04日

お久しぶりです空ノさん! やっと会えたと言わんばかりの勢いで感想を書かせていただきます!

面白かったです。ストーリーにぐいぐい引っ張られて読むことができました。指摘点考えながら読むのがもったいないような気がしたので、二度読んだんですからねっ!(意味もなく照れてみる) 
「孤独」と「手を離してはいけない」だけをキーに絞って読んでいたのですが、見事に予想を(良い意味で)裏切られました。ぅぅむ悔しいです……。


ちょっと気合入れて批評の方を。

・さすがの文章力でした。描写も的確ですし、詰まることなくスラスラ読むことができました。……ぁ、一つだけ誤字発見。
>どうやらスズメは振ってきそうもない。 
いや、ホントにこれくらいしか言うことが……orz

・キャラも上手く描かれていました。特に、弱っていく雪の描写が見事です。ヒロインたるものこうでなくちゃね!と暗に言われているような感覚に陥りました(笑)学ばせていただきます!
強いて言うなら、偽の雪に対する小さな違和感を積み重ねてほしかったです。あと、蓮が一貫して気丈だったところが気になりました。時々弱みを見せれば、もっと深く感情移入できるキャラになるかもです。

・ちょっとだけ気になったのが、「影」の登場シーンです。何で地面から生えてきた(?)のかがわかりませんでした。後半で「地面の割れ目」に落ちた者は死ぬ、ということになっていたので、ちょっと矛盾してるかも、とか言ってみます。
あと、影→ビー玉の流れは良かったと思いますが、ちょっと急過ぎる気がしました。序盤(狭間の世界)でビー玉らしきもの(←主人公は気付いていない)が落ちてきて、影になったとかのほうが自然な気がします。それに気付いた死神が過剰に怯えて、蓮と一緒に逃げ出せば、伏線と謎の役割を果たせるかもしれないですし。……何か微妙な提案ですいません(泣)

・それと、scene1はscene0になっていた方が個人的にはしっくりきます。完全に私の感覚なのですが、ここだけ別ですし。


全体的に私見に寄った感想になりましたが、どうかお許しを<(_ _)> まともに指摘できるところがなかったのでいちゃもんみたいになりましたが(汗)

ちょっとググって知ったのですが、「影」と「白い肌をもつヒロイン」ってたぶん原作(インド洋さんの推測に乗っかったもの)のものみたいですね。
なんかこれ、めっちゃ良い作品っぽい……! 何よりテーマソングが幻想的で素敵……! 小説版があるようなので、ちょっと読んできます(・・)/~~~ 

それでは失礼します。執筆、お疲れ様でした。
次回作も期待しております! 

神咲ユイさんの意見 +30点2013年05月04日

 こんにちは、神咲ユイです。感想返しが遅くなって申し訳ありませんでした。

 レベル、高いですね。いやぁ。自分は何やってるんだろ、と悲しくなってきました。読んでよかったです。

 気になったところとしては、他の方が仰っていることとほぼ同じなので省かせて頂ます。と、言うより、ホントその位しかなかったです。完成度が高い作品でした。

 文章力や構成力はもちろん、キャラが立っていました。オチもなるほど! と思えて、本当に良い作品です!

 何も言えませんでしたが、これで失礼させて頂きます。次回作にも期待しています。

汁茶さんの意見 +30点2013年05月04日

こんにちは。汁茶と申します。
拝読いたしましたので感想を。


●良かったと思うところ
・ストーリーの流れ。理解しやすかったです。
・情景、場面描写。スラスラ浮かびました。
・小道具・伏線回収が見事。

●指摘点
・雪のキャラが変わったところ(死神が正体を明かすところ)が少し唐突だったかなと。
・(あえて言うならば)単調なところ。


●その他、諸々。雑談。

オマージュ元が何なのかは知りませんが読み終わった後、自分の頭に浮かんだのは『冥界下り』でした。イザナギ・イザナミとかオルフェウスとか。
神話のストーリーだと絶対に~してはいけないというルールがあり、それを破るとペナルティが科されますが、違ったパターンでよかったと思います。真似したいです。
特に突っ込むところもないような気がして、「面白かったです」で終わらせたいところですが、(技術的に巧い人の作品にはあんまり書くことないんですよね……)せっかくのですので粗探し的に。
指摘点でもあげましたが、雪のキャラが突然の変化が唐突だったかなと思います。唐突、と言うか激情にかられたようなキャラの変わり方ではなく、もう少し「甘い罠」みたいな感じだったらスッキリしたのかなあと。
落ち着いた語りだったせいか、単調さを感じ、山場でもやや盛り上がりに欠けていた印象です。もうちょっと焦りを感じさせてくれるような……。
あとラノベと言うよりは若干、児童文学的かなとも思いました。


わたしからは以上です。

執筆お疲れ様でした。
それでは失礼いたします。

詩野さんの意見 +30点2013年05月04日

こんばんは。
詩野です。感想返しに来ました。

全体を通しては、すらっと頭の中に入り込んできて読みやすい文章でした。
序盤に謎を提起して読者をうまく物語に引き込むのがうまかったです!


> あれは確か、僕が十歳になるちょっと前だったかな。仲のいい近所の女の子と二人で、いつものように裏山へ探検に行ったんだ。

この後に続く会話なんですけど、特に最初なのでどっちが喋っているのかわかりづらかったです。セリフ前に一行どちらかの動作なり入れてくれると読みやすくなります。

>雪は髪の毛先をクルクルといじるのが癖になっていたため、やはりすぐに気づいた。

事前にこの仕草を出しておいた方がすんなりと癖として読者に認知させることができるので、いきなし出さない方がいいと思います。
いきなりだと読者にそういう設定なのねと、ご都合的に見られる可能性が高くなります。
どうせならその仕草が僕は好きで――とか入れると、より読者に印象を残すこともできます。
毛先をくるくるとかせっかく可愛い仕草なのにもったいないです。

>手を離した後は、その戻った時間が、また一気に進む
あれー? 個人的には手を離したら戻った時間が単に普通に進み始めるという解釈だったんですが。すずめも猫も傷が治ったらすぐ手を離したのでこう捉えることもできるかも?

>それでも二十キロは超えているであろうその体は、そうそう簡単には持ちあがらない。

5歳の女の子の平均体重は18.5kgなのでせっちゃんて背が低いのに意外とおも……なんでもないですごめんなさいです。

>座ったまま体制を整えて→体勢ですね。

>愛、という言葉にどこか卑猥な印象を持っていた
>命が失われつつある生物を視界にとらえると、それだけで悲愴な感情が湧き上がり、同時に涙も供給されてくるらしい。

これらの理由――なぜそうなるか――を物語に絡めないとただの設定で終わってしまうですよ。
特にせっちゃんの方。これは大切なキーになっているので道具として利用するだけよりも、その理由・根本的原因も絡めていくともっと読者に感情移入と共感・引き込むための要素に昇華できます。


以上です。
個人的にはもっと面白くする為の要素がいくつもあったので(どうして左手なのかとか。左利き?)次により期待です。でも今作ももちろん面白かったです!
……ふぇが被った!?

上村夏樹さんの意見 +30点2013年05月05日

空ノさんへ

上村夏樹です。
先日どころかいつもお世話になっております。


何かお役にたてるかと思い、息巻いてやってきましたが、私のようなモブキャラが批評できることなどないです。完成度は高いんじゃないでしょうか。

以前掌編の作品でも申し上げましたが、一部分でなんとなーく文章に違和感を覚えました(あ、批評が始まってます)。気になるほどではないですし、それで御作の魅力が減るわけではないのですが……たぶん、空ノさんの作品を読む場合、伏線を拾おうとして文章をねちっこく読むので、わずかな違和感に過敏に反応しているだけかもしれません。空ノさんのときは、いつもより敏感でございます。


いくつかありますが、たとえば、

>そのとき僕の頭はどんな回転をしていたのだろうか。

これって「そのとき僕は何を考えていたのか」という趣旨ですよね? 「頭は回転」という表現がしっくりこなかったかなぁと。「頭」「回転」という単語を用いるなら「頭を回転させる」が読みやすいです。主語が頭だからいけなかったのかもしれません。もしくは回転を使わず、ストレートに「考える」「思う」でもいいのかもしれませんね。伝わらなかったら申し訳ございません。

あ、ちなみに恒例の意味不明な深読みですが、轢かれた人物の誤認のオチに対する伏線でしたらすみません。轢かれてものっそい吹っ飛んだのなら、文字通り、頭はあらぬ方向に回転するかもしれません……むごい。


他にも愛に卑猥という印象を持つ九歳児にピンと来なかったり――などなど、ネチネチした批評しかできませんので、素直に面白かったでいいのだと思います。他には指摘できることがありませんでしたので、このようなネチ批評を致しました。どうかご容赦ください。


いやーそれにしても伏線は相変わらずお上手です。私は空ノさんの短編サイズのお話を読ませていただいたことはないので、掌編とは違うどんな仕掛けが待っているのかワクワクしちゃいました。美味しくいただきました!


若干話がズレますが、雪に関しても「この子、こんなありえない状況をよく一瞬で飲みこめるよな。レンくん信頼してるじゃ弱くないか? よし、あとで作者にガッツリ教えてあげよう」とか思っていましたが、このオチでは仕方がないというか、違和感があって当然でしたね。騙されました。


ええっと、モブがグダグダと何かさえずっていますが、伏線が上手かったってことが伝われば幸いです。仕掛けは空ノさんの作品の最高の武器にして、最大の魅力だと思います。


空ノさん、楽しい時間をありがとうございました!

タカテンさんの意見 +20点2013年05月05日

ご無沙汰しております。タカテンです。
拝読させていただきましたので、感想を送らせていただきます。

握った手に加えてヒロインの白い肌、そして黒い影……自分も「ICO」を思い浮かべました。宮部みゆきさんの小説版は読んでいませんが、ゲームは色々と想い出深い作品です。

そういう意味でも黒い影は自然と自分の中で敵扱いで、それが実は味方、しかも幼い頃のビー玉のエピソードがここに繋がってきたのは「おおっ!」と感嘆しました。
街で大量の影が現れた時の色とりどりの瞳が輝いている描写に「ん、なんかイメージが違う」と思ったのですが、これも伏線だったとは。
そして同じように雪の言動にも時折「あれ?」と思うところがあったのですが……なるほど、実は死神の化けた姿だったのですか。
いや、これも上手く機能していたと思います。
特に河川敷で「絶対手を離さないで」と話すセツは違和感があり、今回のオチを想定していなかった自分は「しめしめ、ここは指摘してやるゾ」とほくそ笑んでいましたw
それだけに「ヤラれた」感が強いですwww

ただ、負け惜しみに聞こえてしまうのが歯痒いですが、その違和感を主人公にも感じて欲しかったかな、とも思います。
というのも、死神が勝ちを急いでしまったのか、その正体が分かるシーンがどうにも性急に感じるのです。
時折感じる違和感。自分の知っている雪と微妙にズレる手を繋いだ少女。これらの意識があってこそ、ちょっとした死神の失敗(これ大事)に、その正体を主人公が看破した方がカッコいいなぁ、と。
「動物なんかに気を取られてないで」なんて、死神様テンパりすぎですw

ついでに、偽雪の正体を看破する際に、何故自分だけがこの世界に閉じ込められたのか、もしかして何か問題が起きているのは自分の方じゃないのかという推理から事故のシーンを思い出し、自分が手を握っていたのが死神だと分かるとちょっとゾクっとしそうです。

あと、インド洋さんもご指摘されておられましたが、主人公にも何かしらの力が欲しかったかなぁ。
あるいは雪と主人公のふたりで初めて発動するとか。
あ、そう言えば治癒能力が発動しなくなった理由ってなんだったのでしょう?
雪の性格からして、主人公の力が消えてしまっても傷ついた動物がいたら拾い上げると思いますし、あれ、そういう意味でも本当はやっぱり二人いないと発動しなかったのかな。
見落としたのかもしれないので、もう一度読み直しに行ってきますw

んじゃ、拙いですが感想は以上です。

ALTさんの意見 +40点2013年05月05日

 こんにちわ、ALTというものです。

 ICOと聞いてすかさず読みました。あのゲーム僕も大好きですよ。でも実際は結構怖かった記憶があります。
 とても面白かったです。
 ストーリーがとにかくしっかりとしていて、常に先を読まされるような感覚で読み進めていました。これってけっこうすごいことだと思います。

 最後までまったくつまることなくスラスラと読めてしまったので指摘など全然浮かんでこないのですがそれでも満点ではないのは、死神がなんかディズニーに出てくる悪役っぽくて想像はできましたが、なんか雰囲気が変わりすぎた気がしたためです。名前は忘れましたがいましたよね、真っ黒な体に白い顔って。誰でしたっけ。

 それ以外は特になく、純粋に読むだけになってしまいました。ロクな批評ができなくてすみません。偽物でも雪ちゃん可愛らしかったです。

 よろしければ僕の作品を読んでもらたら嬉しいです。

ラスタさんの意見 +30点2013年05月05日

どうも
ラスタです
感想を頂いたので感想返しに参りました

面白かったです
圧倒的な世界観

私が気になったのは冒頭ですかね
結末から考えると足元に彼女が居たという表現は少しずるいかなと
赤に染まったとか暗転したみたいな、少し曖昧に表現して欲しかったです

設定が素晴らしかったと思います
オマージュ元が分からないので何とも言えませんが、没入できる世界観だったなと
手と手を取り合えば何だってできる気にさせてくれます

感想に不備等ありましたら申し訳ありません
ご存知の通り素人ですので間違ったことを言っているかもしれません
ご容赦ください

ではでは、次回作も期待しております

03さんの意見 +20点2013年05月06日

拝読いたしました。
いつもお世話になっております。03と申します。

【良かった点】
・丁寧に張られた伏線とストーリー構成

【悪かった点】
・作品の雰囲気とどんでん返しがアンマッチ

【総評】
まず最初に。ストーリー構成についてよく練られている作品だな、という印象を受けました。読み返して気づく伏線も多く、このあたりの技術はさすがだと思わせる一作でした。
気になったところとしては、上記にもありますが、雪のことが好きなんだぜどこまでだって逃げてやるー、という主人公の一人語りとラストのどんでん返しがいま一つ嚙みあっていないな、という印象でした。
互いを想いあっている少年少女のやりとりは微笑ましく、楽しく読ませていただいただけに最後の展開は個人的に「やられた」というより「えー」という読後感を抱いてしまいました。なんというか、一人称にもかかわらず誰よりもユキのことを知っているレンがユキの挙動を疑わなすぎというか。ちょっと唐突だな、という印象でした。
あと、御作はセカイ系に分類される作品にもかかわらず、ラノベ寄りというより童話寄りの雰囲気になってしまっている思います。それもあって、なんかしっくりこないなあ、と感じさせる作品に留まってしまっていると思います。
今作のウリはストーリー構成だというのは伝わってきますので、上記の点を考慮して足りない頭なりに自分ならどうするかというのを考えてみました。
思いっきり童話寄りにするなら、もっと壊れゆく世界を無慈悲に書くといいのではないでしょうか。人の死体が一切出てこないですし。多分遠慮してグロテスクな描写を避けてると思うのですが、童話だって結構残酷だと思うんですよ。かちかち山なんて「ヒャッハー!こいつ愛するバーサンの肉美味そうに食ってるぜプゲラッチョw」なんて描写もあるぐらいですし。
そうすれば命というテーマに重きを置いて色々できるのではないかと思います。死人を生き返らせてみたり、二人の不安を煽って信頼関係にヒビ入れてみたり、最後の展開も「万物の命を弄びおって!」な説教くさい死神にしてみたり「そうか、ユキがおかしくなったのはこの世界のせいじゃなくて、元々ユキじゃなかったのか!」みたいな理由付けもできますし。…あ、レンは能力ないのか。まあそこは猫らぼ様ならなんとかしてくれるでしょう(無茶振り)
ちなみに、ラノベ寄りにしたいなら正直短編の尺では難しいかなあと。具体的には「最終兵器彼女」や「イリヤの空、UFOの夏」のように大人の都合を書いていけばそれっぽくなるのではないかと。二人の能力を利用する大人を出して、世界の崩壊を救えるのは君たちしかいない、みたいな感じで。で、救助作業が嫌になって逃げだしたら「万物の命を(ryな死神が出てきてエヴァみたいに締めくくれば完璧、と。うん、書いてて「これ別の作品じゃん!」とセルフツッコミしたのは内緒ですw
ということで、率直に言うと「やりたいことはわかるけどなにか足りない」作品だという印象でした。大分自分のことを棚上げして辛辣な感想になりました。申し訳ございません。
余談ですが、GWはいかがお過ごしでしょうか。私はぎっくり腰やらかしてぎっくりウエストでぎっくりウィークですorzということで、寝たきり老人だったので実は投稿当初に既に御作を読んでいたのですが、今日になってやっと感想を書けた次第であります。ヒマだったから結構繰り返し読ませていただきましたよ、今作。だからこそ重箱の隅をつつくような粗を見つけてしまったのかもしれませんがw

拙い感想で申し訳ございません。
以上、失礼いたしました。

斉藤 真さんの意見 +20点2013年05月06日

斉藤 真です。
作品を読ませて頂きました。
非常に読みやすく、文章に関しては「スゴイ!」の一言に尽きません。
ストーリー構成も良かったです。
ただ少し単調な感じもします。
ストーリーの大半が、二人の逃げるシーンだったからそう感じのかも
しれません。もう少し途中にも何かイベント的なものがあったら面白かった
かなとも思いました。
最後に魔女が出てきて戦うシーンで、どことなくディズニー的な印象を
受けました。

ただ面白さは別として、作品のクオリティの高さには感心するばかりです。
そういった意味では非常に勉強になりました。

またよかったら読ませて頂こうと思います。
素人の拙い感想ではありますが述べさせて頂きました。

Hiroさんの意見 +10点2013年05月06日

はじめまして、Hiroと申します。
拝読しましたので、拙いながらも感想を残させていただきます。

不思議な力と意味深げな逃避行が、微笑ましい文章でつづられていた前半部は個人的に好印象でした。
ただ、物語の『転』にあたる死神とのやり取りで話が陳腐化したかなぁ~という気がします。
また、手をつないでいた相手が死神だったことで、これまで積み重ねてきたものが、悪いほうに崩された印象を受けました。
全体的には良い印象ですが、肝心の転が個人的には合わないなぁ~と思ったので、点数はここで区切らせていただきます。

感想は偏った生き物が書いております。情報の取捨選択にはご注意ください。
では、失礼します。

etunamaさんの意見 +20点2013年05月08日

 とてもおもしろかったです。
 不思議な雰囲気ですが、最後にすとんとおさまるステキなお話でした。

 以下感想は、リアルタイム実況形式、および項目別形式の複合型でお送りします。

 まずはリアルタイム実況形式から記述します。


>  その瞬間は、まるでドラマのように訪れた。
 なにいってんの? みたいな。

>  どうやら間に合わなかったらしい。
 あ、そういうことね。

>  目をつむり、また祈り続けた。
 こいつくせえな。

> 「やだよ。これはセッちゃんとレンくんをつないでくれた、愛の剣だもん!」
 ちょっと痛い子?

>  愛、という言葉にどこか卑猥な印象を持っていた当時の僕は、
 ふふってなる。

>  チュンチュンと、まるで早朝のように忙しく鳴きながらスズメは力強く羽ばたき、
 そ、そんなばかな……。

>  たっぷりと六年以上充填したMP。
 えきもれしそう。

>  ジュクジュクと煮え立った釜の中のような、そんな円形の黒い穴から、
 え、え? なのこの超展開。うそでしょ。

> 「その……手、もう離してもいいんじゃないかな。なんだかね、ちょっとだけ恥ずかしいの……」
 ふひひ。めっちゃかわいいやんけこいつ。
 まじめに書くと、彼女の恥じらいをうまく表現していてとてもいいとおもいます。萌え。

> 「離さない、絶対に」
 テライケメン。ぬれるわ。
 まじめに書くと、とってもすてきです!

>  無邪気に笑う雪の姿は、まさにあの猫を助けた時と同じで、とうとう十歳まで若返っていた。
 ここらへんで、ああ、なるほどってなる。

>  そして、突如血を吐いて横に倒れた。
 ん、ん? どゆこと?

>  そして、手を離した後は、その戻った時間が、また一気に進む」
 そ、そんなばかな……。でもなっとく!

>  それは何歳までなのか。
 ふひひ、ロリババア。

>  黒い影は追ってきているようだったが、そのスピードは対して速くはないらしい。
 ん? わけわかめ。
 てかここらへんで読むのめんどくさくなった。

> 「レンくん、私、もう死んじゃってもいいや」
 そんなこと言わないで!

>  レンくんのこと好きになっちゃったんだよ。
 おおお! きたきたーっ!

> 「僕だって同じだよ
 きゃああっ! すてき!

> 「えへへ……レンくん、それすごく照れるよ」
 ひゃほーい!
 てかまじかわいすぎ。もえ死ぬ。ぱた。

> 「レンくん! 動物なんかに気を取られてないで、早く、早くあげて!」
 あ? なんなんこいつまじで。ぶっころすぞ。いらいら……。
 さっきの萌え分かえせ!

> 「ちょっとレンくん! なにしてるの!? 動物と私、どっちが大切なのよ!」
 くそびっちまじぶっころ!

>  雪が、雪に見えない。
 しまった! そういうことか!
 まんまとひっかかったぜ……。

> 「さよならだ」
 かっけー。
 でもここらへんからぼくの理解力がおいつかなくなる。けっきょくどゆこと? みたいな。

> 『離したね』
 え?

> 「え?」
 かぶった。はずかしい……。

> 『もう少しだったのに』
 ちょっと寒け。びくびくです。

>  絶句した。
 ぼくも絶句しました。べつに喋ってませんでしたけど。

> 「死神……?」
 へえ……。なるほど。

> 「これは……ビー玉?」
 おお。前半のあれは伏線だったのか。

> 「これは、僕の勇気の原点だ……そして、僕と雪を繋ぐ、愛の剣だ!」
 きゃああっ! すてきっ! 抱かれたい!

> 『イヒヒヒヒッ! 正気かい坊や? 聞いているこっちが恥ずかしいよ』
 まあ……うん。

>  重たい目を開けると、天井があった。
 お? おお……。

>  病院であることはすぐにわかったし、
 あ、そゆこと。はいはい。って夢オチかい!

>  雪の両手は僕の左手としっかりと繋がっていて、
 かわええ……。

> 「……ふぇ……?」
 か、かわええ……嫁にしたい……。

> 「……おはようじゃないよ……レンくんのばか……」
 どっきーん! もうやめて! 萌えすぎて死んじゃう!

>  もちろん、手を繋ぎながらね。
 じ、じーん……。ええ話や……。


 リアルタイム実況形式での感想は以上です。
 次に、項目別形式での感想を記述します。


○ タイトル
 すばらしいです。
 適度に興味がひかれます。おもしろい。読んでる途中で「あ、こういうことね」ってなる。で、読みおわったあと、なんだかぽかぽかします。すてき!
 ただ、スラッシュを使ったのは失敗かな? なんておもいます。普通に読点句点でよかったのでは? スラッシュだと、分母と分子で分数みたいです。

○ 構成
 すばらしいです。
 ホットスタートでのはじまりで、興味ひかれます。で、二転三転と状況が変わり、先に先にと読みすすめたくなりました。
 ただ、すこし理解がおいつかない場面がいくつかあったので、もうすこし間があったらな、なんておもいます。

○ 文章
 いまいちです。
 これは主人公の回想調一人称ですよね。であるのに悲愴や大樹や蘇生(あ、これはセリフですね)などの固い単語があります。作品のイメージにそぐわないです。主人公のキャラクターに合わない、みたいな。mpなんて軽めの言葉もありますから、落差が酷いです。ぷんぷん!
 固い二文字熟語は三人称などではゆるされるとおもいます。(筆がのっちゃいました?)
 最初から最後まで主人公の回想ですので、統一感が大事かとおもいます。
 ただ、それ以外ではとくに違和感がなかったので、文章自体はうまいのかな、なんておもいます。

○ キャラクター
 すばらしい! げろ萌えです!

○ アイディア
 ちょっぴりよかったです。
 手をつなげないとうんたらかんたらって設定は、たまにありますね。でもおもしろいです。
 アイディアそのものより、それをうまくまとめたことがすばらしいとおもいます。


 なんか感想書くのあきてきたんで、ここらでやめときます。ごめんなさい!
(てかぼくの感想の後半、失速感すごいですね。ごめんなさい)

 最後に感想をまとめます。
 ぶっちゃけ文章いまいちって印象でしたけど、とってもおもしろかったです!
 読んでよかった! では失礼しますね!