ライトノベル作法研究所
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  5. 女装シンデレラと毒リンゴ公開日:2013年08月01日

女装シンデレラと毒リンゴ

黒木猫人さん著作

ジャンル: 女装、学園、ラブコメ

 ◇5

 シンデレラは部屋に戻って、籠一杯のリンゴをテーブルに置き、眺めます。
 黒いローブの怪しい女性から貰った紅いリンゴ。赤色を通り越して、不自然なまでに美しく艶やかな紅色。
 以前、友達である白雪姫から話を聞いたことがあったので、シンデレラはひょっとするとあの怪しい女性が魔女なのではないかと疑っていました。
 そして、見たことも無いようなこの紅い果実は、毒リンゴなのではないかとも。
 ただ、不自然ではあっても、そのリンゴは美しく艶やかで、シンデレラからは美味しそうに見えていました。
 何より、そのリンゴはとてもとても甘い香りがするのです。
 濃厚で、部屋一杯に広がるような、魅惑の甘い香りが。
 ああ、なんて美味しそうなのでしょう。きっとかじったら、その甘さが口一杯に広がるに違いありません。
 シンデレラはリンゴを見つめて考え続けます。
 これは毒リンゴなのでしょうか。それとも――。



 ◆1

 十七歳の男子、高校二年生の中野春道《なかの はるみち》には、人に言えない趣味がある。
 性癖と言い換えてもいいかもしれない。とにかく、誰もが定期的にオナニーをするように、春道はそれをせずにはいられない。
 休日、日曜日の朝。春道はシャワーを浴びた後に自室へと戻り、フルーティフローラルの香水を膝裏に付け、専用のタンスから女物の下着を取って履く。色は気分でパステルブルー。断じて誰かから盗んだものではなく、女装姿でショップを巡り、自分の小遣いで買った正真正銘自分専用の下着だ。
 続いて同じ色のブラジャーも着ける。春道にとって女装という行為は、身も心も女になるという『変身』なのであって、ブラジャーを着けないということはすなわち半端な心持ちで臨むことだと思っている。ブラジャーをきっちりとすることで、心まで女になりきれるのだ。
 外からBカップに見えるよう胸パッドを入れて調節し、続いて引き出しからウィッグを取り出し、全身鏡を見ながらネットで髪を纏めて被る。
 それからスカートを選ぶ。もうすぐ夏であり、外は段々と暑くなって来ている。そろそろ短めのスカートを履いても良い頃合いだろう。
 クローゼットからスカイブルーの三段フリルのミニスカートを取り出し、身に着ける。上着は白の半袖ブラウスを着て、ウェストに皮のベルトを着ける。持って行くバックは白の物を選ぶ。
 最後に机の前で二十分程掛けて丁寧に顔にメイクを施して、準備完了。
 中学二年の頃までコンプレックスだった女っぽい顔も体型も、女装をするようになった今では、心の中で神様と両親に感謝が絶えない。
 ありがとうございます、神様、お母さん、お父さん。今年も俺は、どこにも目立つ毛が生えることなく素敵な女装ライフを送れています。
 うぶ毛は昨夜の時点で処理済み。なので自信を持って半袖とミニスカートで外へ出掛けることが出来る。
「うわっ、春道、露出多いよ! それで外出る気!?」
 自室から出て一階に降りると、お姉ちゃん――十九歳、大学生の中野一夏《なかの いちか》と鉢合わせをして、目を丸くされる。
「多分大丈夫なはず。どう? おかしくない?」
「……とりあえず、私が女として自信を無くすくらい似合ってるわよ」
「本当? ありがとう、お姉ちゃん」
「変なのにナンパされないように気を付けなさいよ、いやマジで」
 真に感謝すべきは、女装趣味を否定せずいてくれる家族の優しさだろう。



 ◆0

 春道が女装をするようになったきっかけは、中学二年生の頃に学校で行われた文化祭にある。
 クラスの出し物として劇を行うことになり、内容は男女のキャスティングを逆転し、コミカルにアレンジされたシンデレラ――劇名『女装シンデレラ』が企画された。
 発案した女子によれば、発想の元となったのは、同じクラス内に男装が似合いそうな女子と、女装が似合いそうな男子が、偶然にも揃っていたからだという。
 男装が似合いそうな女子は、当時中学校の女子生徒達から絶大な人気を集めていたベリーショートヘアーの日向《ひなた》さんという人で、女装が似合いそうな男子として指名されたのは、春道だった。
 中学生にして身も心もイケメンな日向さんが「私でよければ、王子役、是非やらせて貰うよ」と快く引き受けたのとは逆に、女っぽいと言われる容姿が強いコンプレックスになっていた春道は、必死に断ろうとした。しかし、クラスの面々から「やろうよ!」「絶対似合うよ、大丈夫だって」と毎日のように説得され、クラス一丸となってやたら意欲的に進められる作業行程を日々見せられては、自身のコンプレックスと真正面から向き合う以外に選択肢は無かった。
 納得は出来なかった。中学になっても女子っぽい容姿をからかわれることはあったし、春道がその度にどうしようもなく恥ずかしい気持ちになることを誰も知りはしない。
 けれど、やがてシンデレラの衣装が完成して、それを着て、女子にメイクをして貰ってから春道の世界が大きく変わることとなる。
「これは……想像以上に……」
「やべぇよ……マジでか……」
「春道……お前……」
「絶対に似合うとは思ってたけど……」
 まるで本物のシンデレラみたいだ、とクラスの皆は口を揃えて言ってくれた。
「キャー、中野くん可愛い! どこからどう見ても、女の子にしか見えないよ!」
「まさに溜め息が出るような美少女って感じ!」
「まさかここまでとは……!」
「春道、俺と結婚しよう」
「いいえ、中野くんは私が嫁に貰うわ」
「実は俺、前から中野のこと――」
「行ける……! 女装シンデレラ、マジで行けるぞこれ……!」
 容姿をからかわれることはあっても、まともに褒められるのは生まれて始めてのことで、今までとは異なる恥ずかしさと言い様の無い高揚感で、春道は全身が火照るのを感じていた。
 俺、シンデレラに――女の子になれてるのか。
 そう思えるようになってから、春道は劇の練習にも本気で取り組むようになった。シンデレラ役に抜擢されてから鬱々と感じていた日々が、その日を境に鮮やかに色づいて感じられた。
 文化祭当日を迎え、クラス委員長の粘り強い交渉の成果として、女装シンデレラは教室よりずっと広い、体育館のステージで行われた。
 クラス一丸となり取り組んだ努力が結実し、女装シンデレラは果たして成功を納めた。
 体育館を埋め尽くす拍手喝采をステージ上で浴びながら、春道は思う。
 自分は今、この瞬間、女の子になれている。
 ずっと嫌だった女っぽい容姿が、皆に受け入れられている。そのことがどうしようもなく嬉しくて、恥ずかしい。
 でも、嫌な恥ずかしさじゃない。
 全身が火照る。気分が高揚する。身体が興奮で震える。
 劇中でシンデレラにかけられた魔法は、午前零時を告げる鐘と共に解けてしまったけれど。
 春道にかけられた魔法は、今もまだ解けていない。



 ◆2

 あの日以来ずっと、常識的に考えて駄目だ、止めなくちゃとは思っていても、春道は女装をせずにはいられない。すっかり癖になってしまっている。
 一方で、タバコだったり酒だったり、女遊びだったり、万引きだったり、そういうものに嵌まって止められないよりはよっぽど健全だろう多分……と内心思っていたりもする。
 休日の密かな楽しみなんだから、別に良いよね。普通にしていれば、誰にバレるわけでもないんだし。
 毎年恒例というか、薄着の女装をする季節になると、いつも以上に周囲の人目を気にしてしまって、そういう自問自答を頭の中で繰り返してしまう。
 夏前の爽やかな陽気の中であっても、ちらちらとこちらを見てくる人々の視線が、女性としての魅力を感じるから見てくれているのか、それとも女性としての違和感を感じるから見ているのかと考えると、少し肌寒い。
 とはいえ、女装して迎える夏もこれで三度目だ。大丈夫、今は女の子。俺は今、女の子になっているんだ。
 春道は背筋を伸ばし直して歩く。駅のホームを抜け、構内から外に出る。 
 本日の予定としては、貯めていたお小遣いを使って、今年の夏に向けての新しい服(もちろん女性用)を買いたいと考えている。それからクラスの女子達が話題にしていたのだが、ショッピングモールの近くにあるレストランの新作スイーツが病み付きになる美味しさらしく、是非食べてみたい。
 とりあえずはショッピングモールへ向かおうと歩を進めたところで、
「っ……」
 思わず躊躇ってしまう出来事に遭遇した。
 高校で同じクラスの女子生徒が、駅前にある噴水の前に立っていたのだ。
 高峰林檎《たかみね りんご》さん。本人に自覚があるかのかは知らないが、学校の男子達の間で可愛いと評判の整った顔立ちとグラマーなスタイルを持つ美少女だ。ウィッグを付けている春道からすると、背中まで伸ばした枝毛一つ無い綺麗な髪をとても羨ましく思う。いつかは俺もあんな風に髪を伸ばしてみたい。毎日欠かさず手入れをして、あんな風に綺麗な髪を維持したい。
 ……髪の話はひとまず置いておくとして、今は目の前にクラスメイトが居るということが問題だ。
 落ち着け俺、と自身に言い聞かせながらも、春道は足を止めない。
 大丈夫だ、こういうことが今までに無かったわけではない。これまでも何度か出掛けた際に学校の知り合いと遭遇したことがある。
 しかし、いずれも女装した春道に気付く者は居なかった。冷静に考えて、目の前を通り過ぎる女性を知り合いの男と結び付けたりは早々しないだろう。
 だから大丈夫。何も気にする必要は無い。避ける必要は無い。足を止める必要も無い。ただの他人として、彼女の前を通り過ぎるだけだ。
 そもそも高峰さんとは親しいと言える程話したことは無いし。たまたま二年間同じクラスになった生徒同士というだけ。
 心を静めて、噴水の前へと近付いて行く。ふと、手元のスマートフォンを覗いていた高峰さんがこちらを向く。何かの待ち合わせで友達を待っていたのかもしれない。
 彼女の大きな瞳がぱちくりと瞬いて、じっとこちらを見つめている気がした。気がしただけだ。彼女に意図はない。たまたま目が合っただけ。俺が必要以上に神経を尖らせているだけ。自意識過剰なだけだ。
 春道は何事も無く彼女の前を通り過ぎて――
「あ、あの、すいません!」
 突如手首を掴まれて、ドキッと心臓が大きく脈打った。
 ぶわっと背中から冷や汗が出て、手首から電流が駆け抜けるがのごとく、全身が震えた。
 なんで。どうして声を掛けられる。
 息を吸おうとして、上手く行かない。
 自然に自然に自然に。その言葉で頭の中を埋め尽くして、振り返る。
「な、なんですか?」
 声はいつもの女性モード。声変わりしていないが故の高音。しかし普段とは違って、女装時は本当に女になったつもりで声を出している。
 かつてシンデレラを演じる時に散々練習して、クラスの皆から「女の声にしか聞こえない」とお墨付きを貰ったのだ。大丈夫、バレるはずがない。バレるはずが――
「ひょっとして……同じクラスの中野さんじゃないですか……?」
「え」
 顔というか、頭から血の気が引いていくのが自分でも分かった。
 くらっと視界が揺らいで、危うくその場で崩れ落ちそうになる。
 立って居られたのは、ここで膝を折ったら全てが終わってしまうという恐怖故かもしれない。身体の震えが止まらない。
 彼女と同じクラスの中野という名字を持つ人間は、春道以外に存在しない。だが、彼女は中野『さん』と言った。中野『くん』では無く。
 人違いだ、きっと。そう思わないと立っていられなかった。
 春道は精一杯の笑みを作って、
「人違いじゃありませんか? 私は中野なんて名字じゃありませんよ?」
 別人で押し通す。何が何でも誤魔化さなくてはならない。そうでないと、もう学校へは行けない。
「いいえ、間違いなく中野さんです。声を聞いて今度こそ確信しました」
「わ、私はあなたのこと知りません」
 声も震えてしまっていた。嘘だ、バレるはずがない。彼女は何かを勘違いしているんだ。そうに決まっている。
「同じクラスの高峰です。高峰林檎。確かにそんなに話したことは無いかもしれませんけど……えっと、あっ、そうだ。この前、一緒に日直やりましたよね? 五月二十五日の水曜日です」
 覚えている。彼女は間違いなく、春道を『中野くん』と認識した上で、わざと『中野さん』と言って話し掛けている。バレている。春道が女装していることが見抜かれている。
 駄目だ。これ以上何も話してはいけない。一刻も早くこの場から立ち去らなくては。
「い、いい加減にして下さい! あなたが何を言っているか、さっぱり分かりません!」
 高峰さんが掴んでいた手を振り解く。「失礼します」と言って、その場を立ち去る。
 そうだ、こうやって有耶無耶にしてしまえばいい。最初から彼女とは出会わなかった。そういうことにして、学校で何か言われてもシラを切り通せば問題ない。
 女装している春道が目の前に居ない限り、証拠なんてどこにも残らないのだから。
「駄目です! 待って下さい!」
 と、後ろで高峰さんが大声を上げる。
 知らない。待ちたくない。
「止まらないのなら、私はこの場であなたの下の名前を叫びます!」
 足を止めざるを得なかった。
 日曜の駅前には数え切れない程に人が一杯居て、彼女が大声を上げるものだから、周囲の注目を集めてしまっている。
 この場で下の名前を叫ばれたら、春道が女装している男だとバレてしまう。加えて、公衆の中に同じ学校の生徒でも交じっていたら。
 春道は次の日から、女装趣味の変態として校内に知れ渡ることになってしまう。
「あ……あ……」
 冷や汗は吹き出し続け、身体が寒くて震える。
 春道は振り返って、高峰さんの顔を見る。
 彼女は真剣な表情をしていた。
「ついでに学校の名前、学年、クラス名、その他私が知る限りの個人情報を全て大声で言いふらします! それでもいいんですか!?」
 春道はもう、観念せざるを得なかった。
 どうしようもなく震える声で答える。
「……わ、分かりました。それで……あなたは一体、私にどうしろと……?」
「とりあえず、ここから移動しましょうか」
 高峰さんはこれまで見たことのないような怪しい笑みを浮かべて、言った。



 ◆3

 誰かに脅される、というシチュエーションがこれほど絶望的な気分にさせられるものだとは思っていなかった。
 一体何を要求させられるのだろう。汚いことをさせられるのか、それとも金か。
 そしてそれは、保身の対価に見合うようなものなのだろうか。
 最悪の場合、俺は――。
「ごめんね。今度埋め合わせをするから。うん、ありがとう、美恵《みえ》ちゃん」
 隣を見やると、高峰さんが『突然の用事が出来て家に帰らなければならなくなった』という旨をクラスの友達に電話で伝えている。
 春道は彼女と共に電車に乗って別の駅に移動し、そこから更に徒歩で移動している最中だった。
 しばらくして電話を終え、スマホをバッグに収めた彼女は、春道の視線に気付いたらしく、
「ごめんなさい。そんなに怯えなくても大丈夫ですよ、中野くん。あの時は思わず脅しちゃいましたけど、私は中野くんが女装してることを誰にも話したりしませんから」
 横を歩いている高峰さんが申し訳なさそうに言う。
「付いて来て下さい」と言われるまま乗った電車の中ではお互いに何も話さなかったので、春道が口を開くのはあれから始めてになる。
「……それじゃあ、どうして俺を連れて来たの?」
「それはつい……魔が差したというか、雰囲気に流されてしまったというか……。うん、今ではちょっと反省してます」
 人差し指を突き合わせてどこか恥ずかしそうに言う高峰さんは、何を考えているのかよく分からない。
「じゃあ、高峰さんは俺をこれからどこに連れて行く気なの?」
「それは、その……」
 ごにょごにょと小さい声で何か言う高峰さん。
「ん?」
「出来ればその、私の家で話が出来たらなって思ってて」
「高峰さんの……家?」
「は、はい……」
 何かを脅すには邪魔が入らず、打って付けの場所かもしれない。
 ただ、このまま逃げ出すことも出来ない。
 目の前の女の子、高峰林檎は、想像以上に意思が強い。
 春道の女装をバラそうと思ったら、本気でやり兼ねない。
 先程の駅前で味わった恐怖を思い出すと、背筋が凍える。
 彼女が一体何を考えているのか、それを見極める為にもちゃんと話す必要がある。
 そう考えると邪魔が入らず、周囲の目を気にして言葉をオブラートに包む必要の無い場所として、彼女の自宅というのは悪く無いかもしれない。
 最悪の場合は、暴れてでも脱出しよう。それくらいの気概は持って臨むつもりだ。
「も、もしお嫌でしたら、近くの喫茶店とかでも構わないので」
 高峰さんはぶんぶんと両手を高速で横に振って、そんなことを言い出す。意図は分からない。
「いや、いいよ。家で話そう。俺も聞きたいことがあるし」
「本当ですか!? えへへ、嬉しいです」
 駅前で見せた怪しげな笑みを浮かべる高峰さん。
 その笑顔を見ると、春道は寒気で身震いする。彼女が何かを企む魔女のように見えて仕方が無い。顔立ちが整っているから尚更。
 分からない。彼女はどうしてそんな笑い方をするんだ。
 やがて、高峰さんの家の前に着く。二階建ての一軒屋で、敷地はなかなかに広い。
「どうぞ、中に入って下さい。今日は両親共に出掛けて夜遅くまで居ないので、遠慮しなくても大丈夫ですよ。……あっ、別に深い意味とかは無いので! 本当に!」
 慌てて取り繕う高峰さんは落ち着きが無く、そわそわと忙しない。
 何か嫌だな、入るの。
「……お邪魔します」
 が、ここまで来たら覚悟を決める。高峰さんが開けた玄関の扉を潜った。
 俺が中に入ったのを確認してから、彼女は「二階へどうぞ。私の部屋、二階なので」と言いつつ、扉を閉め、鍵をかける。
 それからチェーンもかけた。
「……」
「どうしました?」
「いや、その……チェーンまで掛ける必要あるのかなって」
「一応、万が一を考えて、念の為というか」
「万が一?」
「あっ、別にこれも深い意味は無いんですよ? 中野くんが嫌ならチェーンも鍵も外しますし」
「……別に構わないけど」
「えへへ……」
 彼女の笑顔がどんどんと学校での明るい華やかなイメージからかけ離れ、怪しさを増して行く。
 良く捉えれば色っぽく妖艶だが、女装趣味を知られた春道からすれば不安を煽る材料にしかならない。
 二階に上がって高峰さんの部屋に入ろうとすると、「ちょっと待ってて下さいね。片付けますので」と止められて、扉の前で待つことになる。
 高峰さんが部屋の中に消えた後、ドタバタと凄まじい騒音が続いて、一体中でどれだけ凄まじい片付けが行われているのかと想像すること約五分。
 高峰さんはやたら息を荒くしながら、「お待たせしました」と春道を中に迎え入れた。
 足を踏み入れると、すぐさま玄関と同じように扉の鍵を内側から閉じられた。家には誰も居ないはずじゃ……いや、もはや気にするまい。
 五分でどれ程掃除したのか分からないが、部屋は綺麗に見える。カーテンが淡いピンク色だったり、タヌキのぬいぐるみが置いてあったり、クッションが青いハートマークの形をしていたり、ごく普通の女の子らしい部屋だ。
 高峰さんは床のハート型クッションに腰掛け、春道は促されるままベッドに腰掛ける。どうして俺がベッド側なのかと考えるよりも先に、彼女が口を開く。
「あの……中野くん」
「なに?」
「今更聞くのもあれなんですけど、中野くんは、私の知ってる中野くんで合ってるんですよね? 本当に、同じクラスの中野春道くんなんですよね?」
「……そうだよ。合ってる」
「ああ、やっぱり。夢じゃないんですね……!」
 もはや怪しさを通り越して、恍惚とした表情でため息を漏らす彼女に、春道は思わずドキッとしてしまう。
 高峰さんって本当に美少女なんだな、とそこで始めて意識する。
 ……って、こんな時に何を変なことを考えているんだ俺は。
「高峰さん、聞きたいことがあるんだ」
「はい、何ですか?」
「どうして女装しているのに、俺が同じクラスの中野だって分かったの?」
「え?」
「自惚れかもしれないけど、俺はそれなりに女装が上手く行ってるって自信があったんだ。なのに、どうして高峰さんは、俺の女装を見抜けたの?」
「確かに、そうですね……。普通見抜けませんよね……。でも、私はちょっと特殊なので」
「特殊?」
「はい。実は私――」
 高峰さんは恥ずかしそうに頬を上気させ、顔を両手で押さえながら言った。
「女装フェチ、なんです」
「は?」
「女装した男の子が堪らなく好きなんです」
 二度言われても春道にはよく分からなかった。
 先程まで一触即発な程に気を張り詰めていたのに、逆に一瞬で毒気を抜かれてしまって、
「えっと……どういうこと?」
「どこから説明したら良いのか……私、昔から女の子っぽい可愛い男の子が好きで。そういう男の子見る度に女装姿を妄想するのが趣味で。正直に話すと、高校に入って中野くんと会ってから、ずっと女装したら似合うだろうなって妄想してたんです。でも、それはただの妄想で、現実にはあり得ないことだって思ってたんですけど、そしたら今日、妄想そのまんまの女の子が駅前に現れて、これは絶対女装した中野くんだって直感的に分かって。気付いたら声を掛けちゃってて……」
 ほぅと熱い溜め息を漏らしながら語る高峰さん。
「じ、女装フェチ……」
 そんな人……居るんだ。世界って広い。
「あの、私からも聞いていいですか!?」
 瞳を輝かせる彼女の勢いに押されるまま、「う、うん」と春道は頷く。
「中野くんはどうして女装してるんですか!? 趣味なんでしょうか!?」
「……そうです、趣味です」
 女装フェチを明かされた今、隠す理由など無く、女装シンデレラの劇がきっかけとなったことを話す。
 聞き終えた彼女は、夢でも見ているかのように、とろんと瞳を潤ませて、
「はあぁ……素敵過ぎます……こんなに素敵な女装男子が同じクラスに居たなんて……」
 彼女はゆっくりと立ち上がると、春道の横、ベッドに腰掛ける。
 そっと寄り添って来て、
「中野くん……」
「た、高峰さん?」
 上目遣いで彼女は訊いて来る。
「下の名前で、春道くんって呼んでも……いいですか?」
「それは別に構わないけど……」
「春道くん……」
 吐息の音が聞こえそうな程、ぐっと顔を近付けられて、春道は仰け反ってしまう。
 高峰さんは春道の手を取って、両手で包み込む。とても柔らかくて、温かい。
「あのですね……私、密かに憧れてたことがあるんです」
「憧れてたこと?」
「隠さず言っちゃいますけど、私、女装が趣味の男の子とお付き合いすることにずっと憧れてたんです」
「え!?」
「なので、いきなり過ぎて驚くとは思うんですが、聞いて下さい! 中野春道くん、あなたは私が理想とする男の子そのものです! だから付き合って下さい!」
「えぇぇぇッ!? いきなり過ぎるよ!」
「だって、ここまで女装が似合う男の子が同い年で同じクラスに居るなんて、もう奇跡以外の何物でもありません! こんな出会い、もう絶対、二度と無いです! 私はこのチャンスを絶対に逃したくない! だから礼儀とか恥ずかしさとか、そんなものは捨てます! 自分の下心を曝け出して言います! 私は女装した春道くんとイチャイチャしたいんです! 春道くん可愛い! ぐう可愛い! 天使! 女神! 堪らないんです私は! ぶっちゃけベッドに押し倒してエッチなことがしたい!」
 一気に捲くし立てる高峰さんの怪しい笑みを見て、春道はその正体が一体何なのか分かってしまった。
 これは……彼女がいやらしいことを考えている時の顔なのだ。要するに、エロスマイル。
「ちょっ、ストップ! ストーップ! 頼むから落ち着いて! 俺の中で高峰さんのイメージが完全崩壊してワケわかんないことになってるから今!」
「春道くぅぅぅん!」
 彼女は息を荒くして、春道をベッドに押し倒す。
「はぁっ……、はぁっ……! 一回! 一回だけでいいですから!」
「何を一回!? ちょっ、やっ……」
 じゃれる犬のように息を荒くして、上着に端正な顔を擦り付けて来る高峰さん。
「ああ、どうしてこんなに良い匂いがするんですか、男の子なのに!」
「そ、それは香水を付けてるからで……ひゃんっ!?」
 服を捲くられて、手を内側に入れられる。彼女の手は体温が高いのか、妙に心地よく感じてしまう。
 彼女は春道の背中に手を回し、抱き寄せて腹部に鼻先を押し当てる。
「いいえ、それだけじゃありません。甘いけどビターで濃くて……これはきっと春道くんが出す女装フェロモンです!」
「女装フェロモンって何!? というか、匂い嗅ぐの止めて! 死ぬ程恥ずかしいよ!」
 得も知れない興奮で顔が熱くなる。
 ずぶずぶと進んでは行けない領域に足を踏み進めているような気がする。
「ああもう、ここまで来たら良いですよね!? 大丈夫ですよね!?」
 高峰さんは高熱に浮かされた顔をして、春道の下半身に手を伸ばす。
 スカートのフリルの端を掴む。
「止めて! 止めてってば! あっ、ちょっ……どこ触って……このっ、止めんかぁぁぁ!」
 春道は湧き上がる変な感情を振り切って叫ぶと、大きく平手を振り被った。



「うぅ……すいません……近くで見る春道くんが余りにも可愛くて、つい理性が飛んでしまいました……」
 ベッドに危険を感じ、そこから離れることにした春道は、赤く染めた頬を青いハートマークのクッションで隠している高峰さんと向き合う形で床に正座していた。
「いや、俺も叩いてごめん」
 女の子を叩いてしまった。張った手の平がジーンとして熱い。
「結構強く叩いちゃったかも。大丈夫? 痛くない?」
 痣とかになったら嫌だな。せっかくの綺麗な顔に。
 春道は手形の付いた高峰さんの頬っぺたに触れる。はっとなった。
「あっ、ごめん。つい……」
 と、高峰さんが、だらーっと大量の鼻血を出した。
 春道は驚いて声を上げる。
「おわぁっ!?」
「あっ、鼻血が」
「本当にごめん! 俺が強く叩いたせいで」
「いえ、違います。これは単純に心配してくれる春道くんに萌えて、興奮してしまっただけなので」
「リアルで興奮して鼻血出す人、初めて見た!」
「とにかく、私とお付き合いすること、考えて貰えませんか? 私、本気なんです!」
 鼻にティッシュを詰めながら、彼女は言った。
 真剣な瞳で見つめられ、春道は困ってしまう
「……その……正直何もかも急過ぎて、気持ちが全然追い付いて無いんだ。だから、今はどんなに言われても、ごめんなさいとしか答えられない。俺には高峰さんも全然冷静じゃ無いように見える。少し時間を置いて、落ち着いて考え直して欲しい」
「でも……!」
 高峰さんは春道の目を見て、何か言おうとする。しかし、それ以上言葉は出てこない。
「俺……今日は帰るね」
「……はい。春道くんの言う通り、ちゃんと落ち着いて考えてみます」



 ◆4

「ただいまー」
 春道が家に帰るとお姉ちゃんが「あれ、早いね」とリビングから顔を出して、首を傾げた。
「どしたの春道? 何かあった?」
「ううん、別に。大丈夫だよ」
「そう? 何か凄く疲れた顔してるけど……」
「ちょっと眠くて。昨日夜遅くまで本読んでたせいかも。なんで、少し部屋で休むね」
 夜遅くまで起きていたというのは嘘だ。気疲れしてしまったせいか、眠いというのは本当だけれど。
 お姉ちゃんがそれでも心配そうな顔をしていたので、笑顔で「大丈夫、心配してくれてありがとうねお姉ちゃん」と手を振ってから、洗面所に向かう。
 メイクだけは落としておかないと肌に悪い。女装する者にとって、肌荒れはダメージが大きい。
 ただ今更、肌が荒れたところで……と洗顔しながら思う。
 何せ同じクラスの女子に女装趣味が露見してしまったのだ。これ程致命的なことが他にあろうか。
 いや、でも、高峰さんは誰にも話す気は無いと言っていた。
 というか、そうだ。告白されたのだ俺は。
 ……何で告白されたんだっけ?
 そうだ、高峰さんが実は女装フェチで、それで――。
 春道は水道の蛇口を捻って水を止める。タオルで顔を拭いて、二階の自室に向かう。
 自室に入ると、着替えないままベッドに倒れ込んだ。うつ伏せになる。
 まさかクラスの女の子……それも高峰さんのような可愛い女の子から告白されるなんて思わなかった。もっとも、彼女が好きなのは女装した俺なのだろうけど。
 それでも。
(誰かに好きって言われたの、初めてだったな……)
 思い出すと胸が熱くなって、とくんとくんと大きな鼓動を返す。
 顔に上って来た熱さのやり場が無くて、枕に火照った顔を押し付ける。
 女装するようになってから、女の子と付き合うのなんて考えたこともなかった。
 男の女装癖を受け入れてくれるような女の子なんて居るはずが無い。そう思っていた。
 ただ、そんな子が今日、目の前に現れた。
 高峰林檎さん。彼女は春道の女装を知りながら、好きだと言ってくれる。
 こんなことを考えてしまうなんて、とてもいやらしいことだとは思うけれど。
 本当は好きと言われて、とても嬉しい。彼女と付き合う日々を想像すると、顔がにやけてしまう。
 女装をした状態でデートとか、家でイチャイチャとか。
 ただそれは、妄想の中で許される『禁断の甘い蜜』であるように思えて、実際にやってはいけない気がする。
(駄目だ。俺も全然冷静じゃない……)
 あり得ないことが一度に多発し過ぎて、頭の中がごちゃ混ぜになってしまっている。
 一端考えるのを止めよう。時間を置いて、冷静になろう。
 ベッドで仰向けになって目を瞑る。次第にやって来る静かなまどろみの波に身を任せる。
 もしも。もしも起きて、それでもまだこの胸の高鳴りが続いていたらどうしよう。
 それはもしかすると――
 恋ってやつじゃなかろうか。
 出来ればそれが続いて欲しいような。そうでないような。
 期待と不安で胸を一杯にしながら、春道はまどろみの中に落ちて行く。



 目を覚ますと、窓の外に見える光景は暗く、日は既に落ちていた。
 枕元のアナログ時計が指し示す針は見づらく、代わりにベッドの横に置いていた白色のバッグから携帯電話を取り出して開く。時刻は午後の七時十二分。
 結構な時間、眠っていたらしい。
 春道はベッドから起き上がると、天井から垂れ下がる紐を手探りで見つけて引っ張り、部屋の明かりを付ける。
 カーテンを閉じてから、何気なく全身鏡に目をやって気付く。
 女装したまま寝てしまったんだった。
 せめて、ウィッグを外してから寝るべきだった。ウィッグに変な寝癖が付いてしまっている。後でちゃんと手入れしないと……。
 着替える前にシャワーを浴びようと思い、服だけ持って一階に降りる。
 ソファーに腰掛けて雑誌を読んでいたお姉ちゃんが気付いて、
「おっ、春道起きたか。眠気は取れた?」
「うん。ちょっとこれから着替えついでにシャワー浴びるね」
「だと思った。そろそろ起きるんじゃないかって予想して、お風呂入れといたんだ」
「本当? ありがとうお姉ちゃん」
「ふふん、褒めて褒めて。あと、お父さんとお母さんは今、夕飯の買出し行ってるけど、もうすぐ帰って来ると思うわよ」
 春道は「分かった」と頷いて、バスルームに向かう。
 上着と下着は脱いで洗濯機に入れ、フリルのスカートは後で手洗いする為、別の場所に置いておく。
 シャワーを浴びて身体と頭を洗った後、浴槽でお湯に浸かって一息吐いた。
 ――何だか全て、夢だったような気がする。
 同じクラスの女子……それも男子から人気を集める可愛い子に女装趣味がバレて、彼女が偶然にも女装男子好きで、おまけに付き合って欲しいと告白されて。
 なんだその女装好きが作った創作物語みたいな設定は。
(夢……だったんだろうか……)
 もう一度大きく息を吐く。
 思い返せば思い返す程、それが本当にあったことなのかどうなのか、分からなくなってしまう。
 そう言えば、携帯の電話番号もアドレスも聞いていない。高峰さんの自宅の電話番号を知っているわけでもないので、現実かどうかをすぐに確かめる術は無い。
 ――そもそも俺は、どっちなんだろう。
 昼間の出来事がただの夢であって欲しいのか。それとも、現実であって欲しいのか。
 夢であったなら、何もこれまでと変わらない。休日に女装して出掛ける。平和な女装ライフ。
 春道はそれで不満は無かった。別に男の自分が嫌いなわけでは無いし。
 じゃあもしも、昼間の出来事が本当にあったことなら。
 俺はどうするんだろう。高峰さんの告白に対する返事は。断るのか、それとも――。
 そこまで考えて、胸が高鳴るのを感じた。否応無しに鼓動が大きくなって行く。
 ああ、どうしよう。少なくとも、この『嬉しい』という気持ちは本物だ。
 春道はのぼせる前に風呂から上がった。帰って来た両親とお姉ちゃんと共にリビングで夕食を取る。
 それからフリルスカートを手洗いしてベランダで干し、自室でウィッグの手入れをしてから、明日の学校の準備をする。
 全部終えた後、昼間に寝てしまったせいか眠気がなかなか来なくて、机でこの前買ったライトノベルを読むことにした。
 女装が趣味のせいか、TSF(トランスセクシャルフィクション)物の作品が好きで、よく読む。
 春道が手にしたライトノベルはTSFで十巻以上続いている人気シリーズの最新刊だった。
 作者がTSFばかりを書く人気作家だから、読めば何か答えが得られるかな、と思った。
 いや、そもそも何に対する答えなのだろう。
 考えながら読んでいるとなかなかページは進まなくて、ベッドの枕元にあるアナログ時計を見やれば、もうすぐ午前零時になろうとしている。
 やがて長針と単針が十二の数字で重なって、日付が日曜日から月曜日へ移り変わったことを告げる。
 結局、その後本を読み終わっても何か答えが得られることは無かった。
 春道は考えるのを止めて、部屋の電気を消し、ベッドで横になり、目を閉じる。
 夢は見なかった。


 
 翌朝はいつもより早く目が覚めた。変に期待して、気持ちが浮ついているのが分かって、それを落ち着けようとゆっくりと仕度をしてからいつも通りの時間に家を出る。
 それでも高校に着いて、教室の前に立つと否応無しに胸の鼓動が高鳴る。
 もし高峰さんが朝一番に笑い掛けてくれて、話し掛けてくれたら――。
 そんな風に考えてしまう。
 春道は一度呼吸をしてから、教室の扉を開ける。
 果たして、高峰さんの姿はあった。他の女子と談笑していた。
 高峰さんと目が合って、ドキッとした。
 しかしそれは一秒足らずのことで、彼女は視線を談笑している女子に戻し、春道に話し掛けて来ることは無かった。
 春道もまた視線を自身の机に向けて、席に座る。
 その後は男友達のところへ行って、いつものように話して、チャイムが鳴って。朝のホームルームが始まる。
 もともとそれ程親しいわけでは無かったから、授業の合間の休み時間にも、お昼休みにも会話を交わすことは無い。
 これまで通り、お互いただのクラスメイトとして別々に過ごすだけ。
 春道が意識し過ぎているのか、それとも高峰さんも気にしてくれているのかは分からない。
 ふとした拍子にちらっと視線を向けると、目が合うことが何度かあった。けれどどちらともなくすぐに視線を逸らして、何が進展するわけでもない。
 結局、放課後になっても一言も交わさず、春道は帰路に着いた。
 これが普通だよな、と思う。これが正しい。
 昨日の出来事は、あまりにも非現実的で、夢であったように思える。
 実際にあったことなのか、時間が経てば経つ程に自信が持てない。
 仮に現実だったのだとしても、彼女の反応は正しい。
 昨日がおかしかったのだ。何か距離感が狂っていた。
 春道はただ、誰にも知られることなく静かに女装趣味を続けられれば良かったのだ。
 お互いの領域に踏み込まず、元の鞘に戻っただけ。
 それが一番無害で、平和だ。
 何の根拠も無いけれど、高峰さんは春道の女装趣味をバラしたりはしないだろう。そういう人ではないと思う。
 それに春道も彼女の女装フェチ――ただの夢だったのかもしれないけれど、別に言いふらすつもりはない。自分が女装趣味を持っているからこそ分かる。
 性癖なんてものは、それが大小の差異あれ、誰しも抱えているものだ。互いにそれを理解していて、理解しているからこそ、外には出さず、干渉しない。
 性癖があろうが無かろうが、高峰さんは高峰さんだと思う。笑顔で明るく友達と接する、可愛らしい女の子だ。
 だからこれでいい。
 性癖なんて、分かち合うものではない。



 ◆5

 火曜日から金曜日までの間、春道が高峰さんと言葉を交わすことは一切無かった。
 これまでと変わらない学校生活。
 しかし、ふとした拍子に高峰さんを目で追ってしまうことがあって、それが単純に彼女の綺麗な長髪が羨ましいという理由だけではないと、春道には分かっている。
 ひょっとすると恋をしていたのかもしれない。もう確かめようの無いことではあるけれど。



 そうして迎えた日曜日。春道は先週の出来事を忘れる為、リベンジを決行することにした。
 内容は単純で、女装して先週出来無かったショッピングを心行くまで楽しみ、行けなかったレストランで評判のスイーツを味わうというものだ。
 今日一日しっかり楽しめれば、何かスッキリとした気持ちで明日学校に行けそうな気がする。そんな風に思ったのだ。
 先週と同じ女装をして、電車に乗り、目的の駅に向かう。
 構内から青い空の下に出て、夏前の爽やかな空気を肺一杯に吸い込む。
 よし、思いっきり休日を楽しもう。
 春道はウィッグとフリルのスカートを揺らして、歩き出す――。
 それで終わり……のはずだったのに。
 先週のことは忘れようとしていたのに、彼女は、高峰林檎は、先週と同じように噴水の前に立っていた。
 春道の足が止まる。
 ――どうして。
 そう思わずにはいられない。
 高峰さんは先週と同じ服装で、何かを探すように雑踏を見つめている。
 何を探しているのかと考えて、春道は胸が高鳴ってしまう。
 一体いつからそこに立っているのか。どれだけの時間、『何か』を探し続けているのか。
 そう考えると、春道は涙が零れそうになる。
 俺はまだ、選べる。
 噴水の前を通らずに、別の道からショッピングモールに向かうことも出来るし、このまま駅の構内に引き返すことだって出来る。
 でも、期待してしまう。
 先週のように横を通り過ぎようとしたら、手を掴んで声を掛けてくれるんじゃないかって、そんな期待を。
 行っては駄目だと、春道の中の理性が訴え掛ける。それは何かが間違っているからと。
 一方で、同じくらい先週の出来事が本当にあったことなのか確かめたいという気持ちが胸の中にある。
 春道は動けない。足が地面に貼り付いてしまったように、前にも後ろにも進めない。
 動け。動いてよ。
 足元に視線を落としていたことで、春道は気付かなかった。手を掴まれるその瞬間まで。
「あ……」
 息を飲んだ。顔を上げると、いつの間にか噴水の前から近くまでやって来ていた高峰さんが泣きそうな表情でこちらを見ていた。
 掴んだ春道の手を、強く、しかし優しく握り締める。
「同じクラスの中野さん……ですよね?」
 彼女は言った。
 彼女の手から伝わる熱い体温がそのまま流れ込むように、春道の身体は熱くなる。
 とくんとくんと心臓が大きく脈打つ。
「えっと……」
 春道は答えられない。胸の鼓動ばかりが大きくなる。
 高峰さんの手は震えていた。
「私、先週のことが夢だったんじゃないかって思えて、教室で話しかけられなくて。それでもやっぱりずっと中野さんのこと考えてて。勇気は無くても諦め切れなくて……。それでもしかしたら、先週みたいに駅前に来たら、中野さんと会えるんじゃないかって……!」
 夢が夢ではなくなって、現実感が胸に湧いて来る。
「こうしてまた会えて、私、やっぱり中野さんと仲良くなりたいって思ってます。中野さんは、どうですか?」
「わ、私は――」
 熱くなった顔を見られたく無くて、春道は目を逸らしてしまう。
 とても言葉に出せない。言ってしまったら後には戻れない。何か落とし穴がありそうで、それがとても怖い。
 高峰さんは両手で、春道の手をそっと包み込む。
「迷ってるなら、一つだけで構いません。それさえ答えてくれれば、今は十分です」
 彼女は言う。
「今私の目の前に居るのは、同じクラスの中野さんで合っていますよね?」
 その訊き方はとてもずるい。
 春道は考えて、考えて、考えて、繋いだ手の熱さが心地良くて離せなくて、恥ずかしくて目が合わせられなくて、段々どうしたらいいのか分からなくなって、頷いてしまう。
「……はい」
「……中野さん!」
 周囲に沢山の人目があることなど気にせず、高峰さんが抱き付いて来た。
 恥ずかしさと触れ合った熱さで、春道の全身から汗が噴き出す。
「は、恥ずかしいよ高峰さん」
「中野さん中野さん中野さん……! 夢じゃない……! 夢じゃないんだ……!」
「う、うん……」
 ああ、どうしよう。あの時と同じだ。
 中学でシンデレラを演じた、あの時と。
 どうしようもなく恥ずかしいのに、決して嫌な恥ずかしさじゃなくて、気分が高揚して、嬉しくて。
 こんな気持ちを味わってしまったら俺は――



 ◇6

 シンデレラは紅いリンゴを口にします。
 毒リンゴかもしれないと思っても、魅惑の甘い香りに逆らうことが出来ませんでした。
 一口かじると、それはそれは甘く、香るよりもずっと濃厚で、天にも昇るような美味しさと幸福感が口の中一杯に広がりました。
 果たして、シンデレラは――



 ◆7

 夢を見た。
 自身がいつかのように女装シンデレラになって、どうやっても毒リンゴにしか見えない、けれどとても美味しそうなリンゴを食べる夢だった。
 春道は燃えるように顔が熱くなって、ベッドの中で一人悶える。
「うぅ……」
 出来れば無かったことにしたい。



「はーるみちくんっ」
 教室に入ると、降り注ぐ朝日のような笑顔を浮かべた高峰さんが声を掛けて来た。
「おはようございます」
「お、おはよう」
 携帯の電話番号とアドレスを交換し、夜に何度かメールのやり取りをしていたからかもしれない。
 高峰さんは昨日と何ら変わり無く、春道の前に立った。
「えへへ、実は今日、早起きしちゃったのでお弁当作って来たんですよ。春道くんはいつも購買のパンでしたよね? よければ一緒にどうですか?」
「た、高峰さん、そんなこと言うと……」
 当然、男子女子問わずクラスメイト達がざわつく。
「おい、どういうことだ中野!?」
「林檎と中野くんって、先週まで全然仲良くなかったよね?」
 これまでまともに話したことも無かった男女二人が、昼食を一緒にしようなどと話をしていればこうもなるだろう。
 もうちょっとタイミングを見計らって、こっそり言うとかそういう発想は無かったのだろうかと高峰さんを見やると、両手の人差し指同士をつんつんと突き合わせて嬉しそう。
「実は昨日、私から春道くんに好きだと告白させて貰いまして……」
「告白!?」
「それで、二人は付き合うことになったの!?」
「まぁ、そんな感じで……えへへ」
 言っちゃうんだそれ!
 クラスメイト達の矛先が春道の方へ向けられる。
「そうなのか春道!?」
「その……」
「本当に!?」
「えっと……」
 春道がなかなか答えられずにいると、いつの間にかクラスメイト達の間を擦り抜け隣にやって来ていた高峰さんが、不安そうな上目遣いで春道の制服の袖を引っ張る。
 その上目遣いはとっても卑怯だと思います!
 春道は恥ずかしくて若干泣きそうになりながら、
「……そうです。昨日から高峰さんと付き合うことになりました……」
 これは新手の羞恥プレイか何かですか。
「マジかよぉぉぉ! うおぉぉぉ、俺らの高峰さんがぁぁぁ!」
「嘘だろ! 嘘だと言ってくれぇぇぇ!」
「あー、やっぱりそうだったんだぁ」
「林檎ちゃん、いっつも春道くん見てたもんねぇ」
 絶叫する男子と、何故か納得したように頷く女子。
「えへへぇ」とだらしの無い照れ顔を浮かべる高峰さん。美人が勿体無いよと言ってあげたいけど、これはこれで可愛い気がしてしまうのは、春道が彼女と付き合い始めたからなんだろうか。
 思わずつられて笑みを浮かべてしまいそうになって、春道は気持ちを引き締め直す。
 駄目だ、場の雰囲気に流されては。
 冷静になって、高峰さんとのこれからをちゃんと考えるって今朝決意したばかりじゃないか。



 春道と高峰さんが付き合い始めたことは、一日中クラスで話題にされた。
 放課後になるまでに蓄積された精神的疲労で、春道はげんなりとしてしまう。
「別にあんな堂々と明かさなくても……」
「ごめんなさい。でも、学校で春道くんと心置きなく過ごせるようにしたかったんですもん」
 一緒に下校をすることになった高峰さんがはにかむ。
 と、それまで周囲の目を気にすることなく話していた彼女がそっと身を寄せて来る。
 ふわっと髪から甘い良い匂いがして、春道はドキッとしてしまう。
 彼女は密やかに小声で囁く。
「それで……今日はどうしますか?」
「ど、どうって……?」
「今日も私の家、寄ります?」
 彼女は魔女のように怪しい笑みを浮かべていた。
 本当は内心ドキドキが止まらない春道であったが、そんな簡単に誘惑に流されるわけには行かない。
 咳払いをして、
「エロスマイルになってるよ高峰さん」
「エロスマイル!?」
 もにもにと自身の顔を触って確かめている高峰さんに告げる。
「その……昨日はちょっとおかしかったんだよ。お互いテンションが昂ぶってたからって、あんな……」
 まるでお互いの存在を確かめ合うように――
 と、昨日のことを思い出して妙な気分になりかけ、首を横に振って記憶を追い払う。
 とにかく、昨日は駅前で会った後、色々あったのだ。
 顔がすっかり熱くなってしまい、高峰さんとまともに目が合わせられない。
 しかし彼女は、逸らした視線の先に回り込んで来て、誘惑の甘い笑みで言う。
「だから……もう一回確かめてみませんか?」
「昨日も一回だけって言ってたじゃないか。なのに結局……」
「うん?」
「……何回も何回も……」
 高峰さんはクスッと涼やかに笑いつつも、熱い吐息を春道の耳元に吹きかける。
「だって……春道くんが悪いんですよ? あんな風に美味しいって教えちゃうから、また味わいたくなっちゃうんです……」
「そ、そんな言い方……」
「春道くんは家に帰ってから……思い出したりしませんでしたか?」
「それは……」
 言えるわけがない。
 周りで誰が見てるか分からないのに、隣を歩く高峰さん肩を擦り合わせて来る。目を細め、口元を弧月のごとく曲げて笑む。
 どう見たって悪女そのものの表情なのに、綺麗だと感じてしまう。それが彼女の素直な感情から来るものだと分かっているからだろうか。
「私は……思い出してましたよ? 全然満足できなくて、なかなか夜眠れなくって大変だったんですから……」
「~~っ!」
 背筋がゾクッとした。反対に、顔は燃え上がるように熱さを増す。
 駄目だ。これ以上彼女のペースに乗せられてはいけない。
 春道は高峰さんと一歩距離を開けて、きっぱりと言う。
「とにかく、駄目なものは駄目! 今日は寄りません!」
「えー、そんなぁ!」
「お預けを喰らった犬みたいな顔をしない」
「うぅー……」
「切なそうな顔をしない」
「今日は何か用事があったりするんですか……?」
「別にそういうわけじゃないけど……」
「だったら……」
 高峰さんの見上げる瞳が物欲しそうに期待で潤んでいる。
 見つめ返すとその瞳に吸い込まれてしまいそうで、春道は視線を逸らしながら、
「そもそも高峰さんは一つ、重大なことを忘れてるよ」
「重大なこと?」
「昨日と違って、俺は今日女装してない」
 春道は学校帰りそのままの格好で、着ているのは男子の制服だ。女っぽい顔立ちではあっても、まんま男なのだ。
 しかし彼女は、瞳をぱちくりさせて、不思議そうに首を傾げる。
「何か問題ありますか? 正式にお付き合いしているんですから、春道さんが私の家に来たって別に――」
「いや、問題っていうか……高峰さんは女装している俺が好きなんでしょ?」
「え?」
「だから、このまま家に行ってもしょうがないし……」
 それに、そういう『好き』は何か間違っていると思う。いつか破綻する気がしてならない。
 本当の意味で高峰さんと付き合うには、ちゃんと一人の男として、中野春道という人間を好きになって貰わないと意味が無い気がする。
「それは違いますよ春道くん」
 彼女は首を横に振った。
 なかなか目を合わせられずにいた春道が視線を向けると、彼女は包み込むような柔らかな表情で言った。
「私はそういう趣味を持つ春道くんが好きなのであって、もちろん女装した春道くんも好きですけど、男の子としての春道くんも好きなんですよ? 格好とか関係なくて、そのままの春道くんが好きなんです」
「え、えっと……」
「元々、こんな男の子が女装したら素敵だろうなー、って春道くんを見ながら日頃妄想してわけで。だから、安心して下さい。男の子として、春道くんがちゃんと好きですよ私は」
「そう……なんだ」
 それ以上、春道は何も言えなくなってしまった。
 顔が熱い。何度も熱くさせられたけど、これまでのよりずっと熱い。
 恥ずかしさから来る熱さじゃなくて、これはきっと――
「ええ、そうなんです」
 花が咲くように笑う高峰さん。
 春道の心臓が今、破裂しそうなくらい高鳴っていることを、彼女は知らない。
 それが何だか悔しく思えた。
 だからかもしれない。
「今日……やっぱりさ」
「はい」
「その……家に寄ってもいい?」
「えへへ、もちろん!」
「……うん」
 何だか上手く丸め込まれている気がしてならないけれど。
 それでも、今この瞬間の気持ちには抗えない。
 二人で駅への道を歩く。
 さりげなく高峰さんが手を握って来た。春道がその温もりに身を委ねていると、彼女は更に指を絡めて来る。
 時折隙を見て猫のように擦り寄ってくる彼女からは、甘い匂いがした。
 心のどこかでいけないと思っても決して無視出来ない、とても甘い匂い。
 今日も誘惑に負けてしまった春道に出来るのは、もはや祈ることだけだ。
 ――どうか毒リンゴではありませんように。

作者コメント

2013年夏祭り、変態企画に投稿した小説です。
◆使用した変態の種類:女装癖、女装フェチ

◆一行コピー:どうか毒リンゴではありませんように。

◆使用したお題:女神、鼻血、平和

 変態をテーマにということで、最初企画見た時「おお、自分に向いてそうかも」と思っていたのですが、いざネタ練りに入ってみると、恐ろしい程に内容が思い付かない。
 結局、本気で勝負するなら自分が強く興味あること――それこそ性癖と言い換えてもいいかもしれない――を書き綴るしかないという結論に至り、大好きな女装ネタをで挑むことになりました。
 い、言っとくけど女装ネタが好きなだけで、俺自身に女装趣味があるわけじゃねぇから! あくまでジャンルとして『好き』なだけだから!
 ……ホントダヨ?

2013年08月01日(木)01時56分 公開

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感想

つとむューさんの意見 +20点2013年08月05日

夏企画の執筆お疲れ様でした。
作品を拝読いたしましたので、感想を記したいと思います。

*本感想にはネタバレが含まれています。

本作は、主人公の心理描写が素晴らしい作品だと思いました。
読んでいるうちに、すっかり春道の気持ちになっておりました。

> 一体いつからそこに立っているのか。どれだけの時間、『何か』を探し続けているのか。
> そう考えると、春道は涙が零れそうになる。
> 俺はまだ、選べる。

ここが一番いいですね。主人公の逡巡に、自分も思わず心を焦がしてしまいました。

主人公だけでなく、高峰さんの気持ちもよく伝わってきました。

> 高峰さんと目が合って、ドキッとした。
> しかしそれは一秒足らずのことで、彼女は視線を談笑している女子に戻し、春道に話し掛けて来ることは無かった。

学校での一幕。
春道、高峰さん共に複雑な心境だったのでしょう。
とても良かったです。


本作の変態の種類は、『女装癖』と『女装フェチ』。
これもよく表現されていたと思います。
二人の変態ぶりが自然にすうっと入って来ました。


ただ、今回は変態企画なので、二人には『◆7』以降も変態ぶりを貫き通してほしかったと思います。

>「私はそういう趣味を持つ春道くんが好きなのであって、もちろん女装した春道くんも好きですけど、男の子としての春道くんも好きなんですよ? 格好とか関係なくて、そのままの春道くんが好きなんです」

こういう展開もアリだとは思いますが、なんだか高峰さんの変態度が一気に薄れたような感じがしました。
今までの高峰さんの行動は、彼女の『女装フェチ』に支えられていて、個人的にはそれで納得しておりました。
が、そのままの春道が好きなんだったら、今までの彼女の行動は何だったのか?と思わなくもありません。
今回は変態企画なので、個人的には『そのままの春道くんよりも女装した春道くんの方が好き』でラストまで通してほしかったと思います。
学校ではよそよそしい高峰さんなのに、週末は女装デートでラブラブになってしまう。
それでこそ、一行コピーやラストの『毒リンゴ』が活きてくるような気もします。


>「止めて! 止めてってば! あっ、ちょっ……どこ触って……このっ、止めんかぁぁぁ!」

ここは笑ってしまいました。面白かったです。


お題の『女神』、『鼻血』、『平和』も無難にクリアしていたと思います。
特に、女装の春道を指して『女神』という表現はとても良かったです。
そして『鼻血』の展開を生むために、高峰さんは「止めんかぁぁぁ!」と叩かれるわけですね(笑)


いろいろと書いてしまいましたが、主人公の気持ちに同化させてもらった良い作品でした。
高峰さんの変態ぶりが最後まで貫かれていたら、もっと点数アップしていたかもしれません。
拙い感想で申し訳ありません。今後のご活躍を期待しています。

モドキ堂さんの意見 +20点2013年08月05日

 とりあえず、一人称は『僕』にしとけよと思った。
 あと、個人的にいうなら変態指数がそれほど高いとは思えない。ラノベ的な、ようするに強烈なインパクトを持つ変態というより、あくまで個人的な趣味の範疇だと思います。
 とか思っていたら、そっちかよぉぉぉぉぉぉぉっ!
 完全に変態の意味合いが逆転しやがった。
 背中から刺された気分だ。
 だけどまあ、中盤のどんでん返しを除けば、それ以外は割りとコンスタンスな仕上がりですかね。
 変態から逃げず真っ向からぶつかっていった、この規格の趣旨に対するお手本のようなお話だったと思います。
ただお手本すぎて、綺麗にまとまりすぎですかね。

インド洋さんの意見 +10点2013年08月06日

 企画参加お疲れ様です。
 インド洋と申します。本作、拝読させていただきましたので以下に感想を残させていただきますね。


◇よかったところ

・綺麗な文章
 主人公の心情がよくよく整理されていて読むのが非常に楽な文面でした。また、女装男子と女装好き女子の恋愛を書いたお話のなかで良い雰囲気が出せていたと感じます。

・読後感
 男女が付き合うまでのお話で内容的には小規模だったのですが、読み終わったあとさわやかなイメージを覚えました。

◇気になったところ

・お話のなかで山場がないこと
 付き合うまでの心情を追うような内容になっているため、今一物語に起伏が感じられませんでした。雰囲気はよかったのですが、その面では些か味付け不足だったかと。この点、作品を面白くするという工夫の部分で、もう少し恋愛が成就するまでのあいだに紆余曲折が欲しかったように思います。


◆総括
 どこか清涼感ある読み心地でした。ただ、現状ですと雰囲気押しになってしまっているようにも感じますので、ストーリーにより魅力がほしかったというのが正直な感想でございます。

 以上、拙い感想で申し訳ありませんが。
 ではでは~

ナマケモノさんの意見 +20点2013年08月06日

 こんばんは、ナマケモノと申します。普通にレベル高いと感じた作品でした。冒頭、唐突にシンデレラが出てきてちょっと首ひねりましたが、話が進むにつれて納得、つーかりんごを食べたって・・・・・・ 作者様の見事な比喩の使いっぷりに感服です。
 とにかく全体的に凄く綺麗な仕上がりの作品でした。春道くんの心理描写にもブレがない。高峰さんの変態っぷりにもブレがない。女装と女装フェチも生かしきれているし、ただ枚数のせいなのか終わり方が唐突・・・・・・。
 思い切って構成を変えて、山場作ったほうがもっと面白くなるのになっとおもったり。じゃあどうに作るのって聞かれると、答えられないんですが・・・・・。
素敵な作品を読ませていただき、どうもありがとうございました。

須賀透さんの意見 +20点2013年08月07日

 須賀透と申します。ご作品を拝読しました。

【以下ネタバレあり】

 中野一夏を含めた中野家全員が、中野春道の女装癖を受け入れていますね。
 つまり、特殊性癖を受け入れてくれる人がいるということです。
 細かいところではありますが、ここが志村貴子の「放浪息子」と違ってほのぼのとする要因ではないでしょうか。
 春道が女装に目覚めるエピソードも納得できるものでした。
 彼が演じる「女装シンデレラ」……みてみたいですね。
 そして、高峰林檎にばれてしまうところは、こっちまで冷や汗を掻きました。
 ですが、純粋に女装男子フェチでした。
 押見修造の「惡の華」みたいな女の子じゃなくて春道くんはセーフでしたね。
 全体的に雰囲気小説になりそうなところを、シンデレラに絡めることで引き締めています。
 とはいえ、カタルシスを得るほどの起伏はなかったように思います。
 いちばんの山場は、女装癖が高峰林檎にばれるところだと思います。
 ただ、山場をかなり前半にもってきているので、後半は比較して平坦になってしまったイメージがあります。
 高峰林檎との恋愛成就について描くのであれば、
「高峰林檎は女装したぼくにしか興味がないのでは?」
 という春道の葛藤をもうすこし押しだしてもよかったのではないかと思います。
 たのしく読ませていただきました。


【疑問点】
 冒頭が◇5になっていますが、これは◆5とリンクしているという解釈でよろしいでしょうか?
 ◆と◇の番号が同じなのがここだけなので、いまいち確信が持てませんでした。
 このような同じ番号のリンクを増やすか、もしくは(リンク感は薄れますが)◇5.1と書いていただいたほうが、わたしとしては理解しやすかったです。


 ありがとうございました。

etunamaさんの意見 +20点2013年08月05日

 きゃああ! えろい! かわいい! ブヒれる!
 おもしろかったです! ふひひ!

 うーん。なんだろ。なにがよかったかっていうと、わかんないんですけど、とりあえずラストにふひってなったし、彼女のこと考えてもんもんしてる春道くんはもえたし、で、えろい。
 文章もとくにひっかかったところもなく、構成や展開もおどろかされたってことはないんですけど、シンプルでわかりやすくてよかった。
 内容としては、女装趣味の子がクラスの子にみつかって、告白され、もんもんなやんだすえに付き合っちゃう、みたいな。軸はふつー。女装趣味と、女装男子フェチの恋愛。
 心情がきっちりと過不足なく丁寧に書かれてたから、そこがよかったのかな? 女装がすきってことと、高峰さんに告白されてどきどきおどおどしてるかんじ、あと彼女の好意みたいなのもすっごく伝わるし、ラストのあまあまな展開もすっごくすき。ふひひ。

 読後の印象としては、とくに不満はなかったんですけど、あらためて考えると冒頭らへんは退屈だったかも。むむ。あとはちょっぴり都合よすぎかなーとかおもっちゃった。高校二年で女の人っぽい体系、顔、さらには声がわりしてないってやつとか、違和感ありました。女性ホルモンでも注入してるのでしょうか? ま、家系か。さらに◆3のところ、高峰さんいきなりおしたおしてたし、なんかなーっておもった。展開についていけなかったというか……。ま、こまかいことなんですけど。

 どーでもいいけど◆0とか◆1なんて書き方で、ミスリード作品かとおもってしまった。ラストに「こーゆう順番で読むと、真実がわかるよ?」みたいな。勝手に勘違い。すんません。これは単純に時系列の整理ってことですよね。ちがったらごめんなさい。

 でも、とりあえず、ブヒれた。ふひひ。あとえろかった。満足。
 楽しませてもらいました。ありがとうございます。

 感想は以上です。
 じゃ、さいなら

枡多部とあるさんの意見 +20点2013年08月13日

・枡多部とあると申します。企画参加お疲れ様でした。読ませていただきましたので感想を書かせてもらいます。
・企画の趣旨を100%理解してるといっても過言ではない作品です。もうこの作品が優勝でいいや(あ 
・主人公の女装から始まって、こいつは変態だー! と思ってたらむしろヒロインのほうがはるかに変態だったという罠。逆レ○ プ最高(あ
・一方でシンデレラの比喩もうまい。あの通し番号のせいで逆にわかりにくいと思った人もいたのでは? 正直、マイナスポイントはこれぐらいじゃないかな。
・個人的には、林檎には春道君の女装を見破るときに「チャックが開いてましてよ?」といって欲しかった(多分作者様なら元ネタはわかるはず)。
・私からの感想は以上です。それでは、ご縁があればまたお会いしましょう。

いさおMk2さんの意見 +20点2013年08月13日

 企画参加お疲れ様です。いさおMk2と申します。御作を拝読致しましたので、拙いながらも感想など書かせて頂きます。


・フェチについて

 女装癖と女装フェチ。なるほどなーと感心しました。
 特に、女装フェチw こういう切り口があったのかと、目からウロコが落ちる思いです。今回の企画にマッチした、良いフェチだったと思います。


・ストーリーについて

 女装癖の主人公と、女装フェチのヒロイン。とても奇妙でおもしろく、何故か可愛らしく、そしてエロいw 実にツボでした。
 ストーリーは確かに起伏がたりないかとも感じましたが、春道君の心理描写をとても丁寧に描いているので退屈もせず最後までサラっと読めました。
 あと、徹底的に間接的なエロ描写を貫いている所も良かったです。そうか君はりんごを食べてしまったのか。そういえば半分に切ったリンゴって(以下自主規制

 勿体無いと思った所、っていうかここはほとんど言いがかりとか願望の類ですが。
 個人的にはもっとお姉ちゃんを、お姉ちゃんを話に絡ませて欲しかった!
 それこそ実は彼女は重度のシスコンで、林檎ちゃんと春道を取り合うくらいの展開だったら小生はとても嬉しかったです(きめぇ

 あと、前半クライマックスの春道が林檎ちゃんをビンタするシーン。
 本来ならば男が女の子に手を上げるとか引く展開の筈なのですが、不思議と受け入れる事ができましたwww


・文章について

 先述しましたが、主人公春道の心境をとても丁寧に描いていたとお見受けします。この文章のテイスト自体が御作の魅力、そのひとつかもしれません。どこか柔らかい感じの文体、素敵です。


・総評
 
 柔らかくてかわいらしいお話でありながら、しっかりとエロくて面白い。今回の企画の趣旨をしっかりと理解している良作と感じました。


 以上を持って感想とさせて頂きます。
 乱文、ご容赦を。
 お互い企画を楽しみましょう。

うさまさんの意見 +10点2013年08月14日

 どうも、うさまです。
 作品拝読しましたので拙いながらも感想をば。

【文章】
 とくに問題なく読むことができました。 

【キャラクター】
 主人公、ヒロイン、ともに特徴があってキャラが立っていたと思います。ヒロインの登場シーンからしばらくのくだりは、なんだか可愛らしかったでした。

【ストーリー】
 導入がよく、物語を楽しんで読むことができました。しかし、、後半は急ピッチで話がすすみ、え、終わり? という感じでした。あと個人的にですが、進展がいろいろ早すぎて「この二人が幸せになってよかった(ニヤニヤ」ではなく、「なんかこいつらそのうち破局しそう……」だったのが残念です。

【設定】
 女装男子× 女装男子好き女子× 童話モチーフ
 なかなか良い設定だったなと感じました。

【総括】
 前半は良かったのですが、後半がいまいちでした。

 以上。
 引き続き夏企画を楽しんでいきましょう!
 それではっ。

彼方やつでさんの意見 +20点2013年08月15日

こんばんは。
彼方やつでと言います。

ただの女装だでなく、女装男子好きの女子というのは良かったです。二人きりになって暴走している高峰さんの様子はかなり笑えました。
一方で、今回の企画では、人目場所かまわず暴走する変態が多かったですが、御作の二人は、ちゃんと気を使っていて、それが妙にリアリティがあって良かったです。

出会った後、間違いだったのではと、学校ですれ違う展開も良かったです。ですので二度目の確認しあうシーンは感動でした。

特に不満もなく完成度の高い作品だったと思いますが、しいていうなら、春道の容姿をもう少し詳しく描いてほしかったかなと。女の子みたいな……と言われても、女の子の中にもいろいろなタイプがありますので。
高峰さんの女装フェチの印象が強く、もう一人の変態である春道の女装の部分がやや弱かった印象です。お姉さんを含めた家族との絡みももう少し描いてほしかったです。

ではでは。
企画参加お疲れさまでした。

タカテンさんの意見 +30点2013年08月16日

企画参加お疲れ様ですっ!
タカテンと申します。
拝読させていただきましたので、感想を送らせていただきます。

女装男子フェチ、この発想が実に秀逸でした。
たいてい女装男子に惹かれる女の子ってのはその女装に気付かず、「素敵なお姉様」と百合的な展開をするのがほとんどなので、今作はとても新鮮に感じます。
また、高峰さんが春道くんの女装に惹かれながらも、しっかり男の子としての彼も好きであることを明言しているのも好印象でした。
なんというか、ちょっと変わった形ではあるけれども、とても爽やかな青春恋愛モノに仕上がっていると思います。
ぶっちゃけ、最後の二人の関係はラノベとしてはどうなのかと感じるぐらいにアレなのですが、個人的には大いにアリですw うん、爽やかでした。

気になったところとしては、少しドラマ性に欠けるところでしょうか。
いや、今のままでも十分にドラマチックだとは思うのですが、高峰さんの告白を保留ってのがどうも物足りなく感じました。
ここはむしろ高峰さんの告白を一度拒否をしてみるのも手ではないかなぁ。
もっとも言葉で拒否ではなく、女装好きゲージ満タンで暴走してしまった高峰さんから主人公がパニックになって慌てて逃げ去るような感じで。
告白保留から二度目の出会いまでの主人公の心の葛藤は素晴らしかったので、そこにもうひとつ「自分のは認めてもらったのに、自分は相手の性癖を思わず拒絶してしまった負い目」も加えると、より二人の再会が映えるような気がします。

拙いですが、自分からは以上です。いや、良いものを読ませていただきました。
夏企画、残りもあと数日となってきましたが、まだまだ盛り上げていきましょう!

03さんの意見 +30点2013年08月17日

拝読いたしました。企画参加お疲れ様です。
結婚できるならもうニューハーフでもいいや……03と申します。

【良かった点】
・キャラクターが魅力的
・設定を活かしたストーリー構成

【悪かった点】
・キングクリムゾンェ……

【総評】
まず最初に。面白かったです。女装男子フェチというアイデアが秀逸だったと思います。また、その奇抜な設定を活かしながらも読後感の良いラブストーリーに仕上がっている点は好印象でした。キャラクターも非常に魅力的でしたし、作者様は相当に高い実力をお持ちの方なんだろうな、という印象を受けました。(実は、何度か交流させていただいているあの人なのかな、というアタリはついてますが……)
気になった点としては、上記の点となります。はい、そうです。

個 人 的 な 嗜 好 で す が 何 か ?

いやね、ここまでいったらとことんイっちゃいましょうよ。書いちゃいましょうよ。高校生なんつったら毎日がエブリデイですよ。時間と性欲を持て余した野獣ですよ。猿ですよ。そりゃ林檎ちゃんも何回も何回もエンドレスワルツですよ。春道君も「五飛、教えてくれ。俺は一体あと何回頑張ればいいんだ……?」ってなりますよ。
ということで、ご行為を徹底的に省いたことが不満でした。せめて触りでもいいので加筆修正していただければ俺得なんですけどねー(チラッ
色々カキましたが、レベルの高い作品で楽しめたことを報告して感想を締めさせていただきます。ありがとうございました。

拙い感想で申し訳ございません。
以上、失礼いたしました。

へろりんさんの意見 +20点2013年08月18日

 へろりんと申します。
 企画参加作品執筆お疲れさまでした。
 御作を拝読しましたので、感想を書かせていただきます。
 素人の拙い感想ではありますが、しばしの間おつき合い下さい。

 タイトルを拝見して、なにやらファンタジーっぽい感じがします。
 有名な童話のパロディっぽい作品でしょうか?
 昨今のドラマにあった、男女逆転の大奥みたいなお話でしょうか?

 使用した変態を拝見して、『癖』はわかりますが『フェチ』って???

 一行コピーを拝見して、よくよく考えると、シンデレラには毒リンゴは出てこないですね。
 どういうことでしょう?
 楽しみです。

 まず最初に、大変楽しく読了しました。
 面白かったです。
 タイトル、題材から推し量って、コメディ作品かと思いきや、思いっきり純愛物でしたね。
 特殊な性癖を持つ主人公の心の葛藤がよく表現できていたと思います。
 ですが、ラストでちょっと雰囲気が壊れたように思えた部分があったのが、すごい残念でした。

 読み始めたらいきなり5から始まって、おや? って思ったら、ちゃんと後で繋がってて、おぉ! って思いました。
 演出がうまいです!
 自分は『女装フェチ』というのは馴染みがなかったのですが、そういうのってあるんですね。
 知らない世界だわー。
 昨今の『女装男子』っていう人たちがいるのはテレビで見て知っていましたが、男の子なのにメッチャ可愛いんですよね。
 そういうメチャ可愛い女装男子とイチャイチャしたいという女子がいても、まあ不思議はないかもです。
 で、御作の主人公は、自分の特殊な性癖と、これまた特殊な嗜好の女子に告られて葛藤するわけですが、これがまたよかったです。
 夢だったのかもって思うあたりが青くさくて。
 そんで、ヒロインの方も実は同じように葛藤してましたってのもグッドでした。
 変態が取り持つ縁ですが、純愛でしたね。
 ラストで、ヒロインがちゃんと主人公を男の子として見てたってわかったのも、すごいよかったです。
 で、すごい不満に思ったのは、自分はこのお話を純愛物として読んでいたんですね。
 なのに、ラストシーンの二人の会話の中に、日曜日に彼女の部屋であった色事が示唆されていて、水をさされた感じでした。
 それがなければ、キレイな純愛物だったのに、残念です。

 企画のテーマである変態については、特殊な性癖を描いたということで、よかったと思います。

 評価ですが、全編を通してとても楽しく読ませていただいたのですが、最後にきて水をさされた感じでしたので、ちょっとおさえさせていただきました。

 以上、簡単ではありますが、これで感想を終わりたいと思います。
 素人のたわ言ですのであまりお気になさいませんように。
 例によって作者様の身になりそうな部分だけ、取捨選択をお願いします。
 執筆お疲れさまでした。
 面白い作品をありがとうございました。
 失礼しました。

とよきちさんの意見 +40点2013年08月20日

どうも黒木猫人さん。先日は拙作への感想ありがとうございます。とよきちと申す者です。
それでは拝読したのでさっそくさっそく~

面白かったです。正直、男の娘って気にはなっていたのですが、それをメインとして扱うものはあまり読んだことはなくて、御作で何かが目覚めてしまいました。……責任、とって下さいね?(笑)

文章について
とても読みやすかったです。きちんと主人公にも感情移入できましたし、軽妙でした。実に実に。

キャラについて
とても魅力的でした。高峰さんエロ可愛い。エロスマイルでエロ素晴らしい。

構成について
ところどころに挟まれるシンデレラと毒リンゴのお話が良い味を出していると思います。個人的に好きですこういうの。
内容は、読んでいる間ずっとニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべていたことからお察し下さい(笑)ええ、もう何から何までドストライクでしたとも。自分もこういうの書いてみたいと思いました。なんだか、こういった甘甘なお話、実に久しぶりに感じます。

総評として
全体的に大好物でした。いえ、大好物になりました。開眼させて下さりありがとうございますw(もはやお礼)しかし女装趣味をもつキャラが好きなのであって、紳士な自分は女装趣味に目覚めたわけじゃないことははっきりさせときます(キリッ)
点数は迷いましたが、お礼も兼ねてわっしょいわっしょい。


自分からは以上です。

それでは黒木猫人さん、美味しいリンゴ、ごちそう様でした!

えんさんの意見 +20点2013年08月20日

 う、あー……お、面白かったです。
 自分的にはツボでした。
 どこかで連載してください。

 ああ、なぜだ! なぜわたしは企画中にこの作品を読めなかったんだー!!
 と自責の念にかられています。

 ひっひっふー。
 何かが産まれそうな作品でした。
 ごちそうさまです。
 でわでわ!