ライトノベル作法研究所
  1. トップ
  2. 鍛錬投稿室
  3. 高得点作品
  4. 短編小説
  5. 初めてのお仕事は悪の花道。公開日:2013年10月21日

初めてのお仕事は悪の花道。

デルティックさん著作

ジャンル: コメディ、オタク

 真新しいスーツに身を包み、秋葉原までやってきた。
 目の前にあるビルには「スイカブックス」の看板がかかっている。
 ここまでの道のりは長かった。この不景気で就職活動は難航し、家に溜まった不採用通知は四十八枚。高卒十九歳の乙女の心は折れそうでしたが、ついに今日、この会社で社会人デビューです。
 故郷のお母さん。私は東京で一人でも元気にやっていきます。
 いざ、私の仕事場へ。
 そして意気揚揚と初出社の為にビルの扉に手をかけた。


「ここですか……?」
 まだ準備中の店舗に入ると、従業員から「ああ田名加(たなか)さんね、五階の執務室に行って、室長が待ってるから」と言われてエレベーターで上がってきたのだが、この五階はどう見ても倉庫だった。
 エレベーターの扉が開いて目に入ったのは、ダンボールに入った商品の山。
 そして、倉庫の隅に小さい部屋があり、扉には「執務室」とマジックで投げやりに書かれた紙がガムテープで張られていた。私は今、その扉の前に居る。
「なんか私のイメージと違うんですけど……」
 秋葉原のど真ん中に立つ綺麗なビルだったので、清潔なオフィスを想像していた私は、多少の困惑、そしてかなりのガッカリ感を味わう。
 いや、仕事の舞台裏とはこんなものだと思い直し「頑張れ私。見た目で判断するな」と自分に言い聞かせてドアをノックした。
「入りたまえ」
 低い、しかしよく通る男の声で返事が来る。
「失礼します」
 ドアを開けて室内に入る。執務室の第一印象は「殺風景」だった。
 部屋にあるのはパイプ椅子と会議机、それとノートパソコンが一台だけだ。サングラスをした黒髪短髪の男性が一人、パイプ椅子に座り会議机の上で手を組んで私を待っていた。
「まあ、座りたまえ」
 そう促がされて、彼と会議机を挟んで向かいにあるパイプ椅子に座る。
「田名加サユリ君だね。待ってたよ。私がここの室長だ。そのまま室長と呼んでくれたまえ。今日から君の上司になる。よろしく」
「よろしくお願いします」
 座ったまま会釈する。
「あの、それでですね。私はここで何をすればいいんでしょう?」
 五階に入ってから気になっていた事を聞く。
「ああ、それはこれから説明しよう。サユリ君の仕事だが基本的には私の補佐だ。まあ詳しい説明の前にだな――」
 そう言って室長は自分のカバンから小さな紙袋を出して私に差し出した。
「これが君の社員証と名詞だ。営業や下の店舗に出ることもあるから持っておきたまえ」
「あ、はい」
 返事をして机に差し出されたモノを受け取る。社員証にはこう書いてあった。

【秘密結社、裏スイカブックス。幹部、ダークスイガール(本名・田名加サユリ)】

「……なんですか、これ?」
 なんとかそれだけを喉から搾り出して、ケータイでカレンダーを確認した。今日は五月二十二日。解ってはいたがエイプリルフールはとっくに過ぎている。
「サユリ君のここでの役職だ。それと、我々は株式会社スイカブックスではない。その子会社の秘密結社。裏スイカブックスだ。……念の為に言っておくが真面目な話だからな」
「はぁ……」
 なんだかとんでもない所に就職してしまったようだ。
 生返事を返しながら不安になってきた。大丈夫だろうかこの会社。
「それから――」
 室長がそう言いながら自分の後ろから今度は大きな紙袋を取り出した。そして会議机の上にドサリと置いた。
「これがサユリ君の制服だ、代えも含めて四着分ある」
「ありがとうございます」
 思わず顔がほころんだ。スイカブックスの店員は、緑と黒を基調としたメイド風の可愛らしい服装をしている。マスコットキャラクター【スイカちゃん】と同じ格好だ。
 実はここに就職が決まった時から、あの格好が出来るのはいいかも。と期待していたのだ。
 結構大きくて重い紙袋を受け取る。ウキウキしながら中を覗き込むと、明らかにスイカちゃんの衣装ではなかった。
 中に詰まっていた布は真っ黒。所々に赤い縁取りが見える。
「あれ? スイカちゃんの衣装じゃないんですか?」
 思わず聞いてしまった私に、室長は怪訝な顔を浮かべた。
「さっき渡した社員証に書いてあっただろう。我々は裏スイカブックスだ。なので制服もあちらとは違うのだよ。この部屋を出てすぐ左に空き部屋があるからそこで着替えてみなさい」
 そう言われて入り口を指差された。何はともあれ着替えてみる事にする。パイプ椅子から立ち上がり部屋を出ると、たしかにもう一つ扉があった。電気が点いていなかったので気付かなかったらしい。
 空き部屋に入って、袋から制服を取り出した私は言葉を失った。
「……ナニコレ」
 かろうじて出せたのはそんな言葉だった。


「ふむ。流石に私が見込んだとおりだ。まさに完璧! イメージ通り!」
 着替えが終わり、執務室に戻った私にかけられえた第一声がそれだった。
 渡された制服は、黒いエナメル質で作られたハイカット型の水着のような衣装に膝まである皮製のハイヒールブーツ。同じく皮製の手袋、そして黒いマントに猫を思わせる造型のマスクのセット。各部にワンポイントで赤い縁取りがされている。
 制服をフル装備した私の姿を端的に言うのなら、ヤッター○ ンに出てくるド○ ンジョ様と言えば解って頂けるだろうか。
「室長……この格好はかなり恥ずかしいんですけど……」
 ついでに言えば春とはいえ少々肌寒い。居たたまれずにマントを身体に巻きつけて暖を取りつつ室長の視線をかわす。
「ええい。そうやって恥らう姿もそそられるが、もっと堂々としたまえ。女幹部の肩書きが泣くぞ!」
「なにサラリと欲情してんですか! セクハラです。これはどこからどうみてもセクハラです!」
 思わず室長に怒鳴りつけた。しかし、室長は左手の中指でクイっとサングラスの位置を直して話を続ける。
「そう怒鳴る前に私の話を聞きたまえ。いいかね? これがサユリ君の仕事だ。つまり――」
「わ……私にエッチな衣装を着させて、室長を欲情させる事がですか!」
「違う! そうじゃない。お願いだから誤解しないで!」
 ここまで調子を崩さなかった室長が慌てて否定した。
「ごほん! いいかね。我々は裏スイカブックスとして、スイカブックスを乗っ取ろうとする秘密結社。という扱いだ。要するに広報活動の一環だな。たまに下の店舗を使って、舞台のような立ち回りをする事になる。その際のサユリ君の立ち位置が、裏スイカブックスの女幹部でありダークスイガールという訳だ」
「つまり、遊園地でやってるヒーローショーのようなモンですか?」
「そんな所だ。サユリ君を採用した決め手になったのは中学、高校と六年に渡って演劇部に在籍していた事。それと細すぎずに適度な肉感の身体がその衣装にマッチしていた為だ」
 演劇部のくだりはともかく、面接の時にそんな所を見ていたのかこのオッサン! この会社は早々に辞めた方がいいかもしれないという考えが一瞬、脳裏によぎった。
「とにかく、サユリ君が来た事で広報活動の下地は整った。最初の営業は決まってるからな。これから段取りと練習に入る」
 どうやらもう後には引けない状態のようです。お母さん。私の前途は多難かもしれません。


「では段取り通りに。まず私が店内に入る。十分後にショーの開始だ」
 そう言って室長がドアを開けて車から降りた。今、私はスイカブックス秋葉原本店の裏にある従業員用駐車場のワゴン車に居る。
 私が裏スイカブックスに入社してから二週間目。とうとう初めての営業の日がやって来た。
 高校の部活で舞台に立った時を思い出す。独特の緊張感。そして心地良い高揚感。ついでにまだ残ってる衣装に対する羞恥心。うぅ……だって公共の場にこんな格好で出るんだもん。やっぱり恥ずかしい。
 しかしこれも仕事。頑張れ私。もう就職探しは嫌なんです。
 そうやって、心の整理をつけていると時間が来た。いよいよ私の見せ場だ。
 手元に置いてあった仕事道具を持って車を降りる。
 一度自分の全身をチェックする。よし忘れ物はない。表に回ってスイカブックスの店内に乗り込んだ。
 自動ドアが開き、私が入ると賑わっていた店内が静まり返る。いよいよショーの始まりだ。
 カツンカツンとヒールの音を響かせながら、店内を進む。
 私は仕事道具の皮製のムチを振るうと、店内にいた哀れな客A(に扮した室長)をムチで絡めとリ、その場に引き倒した。
「ひぃぃっ! あばぁ」
 オーバーリアクションな声を上げて室長が倒れる。
 ここで店内に流れていたアニソンが止まり、決められていたダークスイガールのテーマ曲が流れ始めた。
「愚民ども! 私の声をよくお聞き! 今日からスイカブックスはこの私。ダークスイガールが占拠する。この店は明日から裏スイカブックスとして生まれ変わるのよ!」
 あらかじめ覚えてきたセリフをドスの効きながらも艶が残る声(室長による演技指導)で店内に響かせる。
 どうやら客もこの辺りで何かのイベントだと気がついたようで、ケータイを取り出しては私の写真を撮り始めた。
 お願いします。頑張ってキャラ作ってるんです。恥ずかしいからあんまり撮らないで下さい。
 と、内心で涙を流しながら。表面上はダークスイガールを演じる。
「さあ、そこのスイカちゃん。早く店を空け渡しなさい。この哀れな人質がどうなってもいいのかい?」
 そういってムチが捲きついて身動きが取れない室長をヒールで踏みつけた。
「あああぁああぁぁぁぁっふぅ~!」
 店内に響く室長の悲鳴……なんか室長、少し喜んでるような……
 周囲のお客から「いい足してるなぁ~」とか「あいつ羨ましい。オレも踏んでくれ」とか「手下にしてくんないかなぁ~」とか聞こえてくる。
 あなた達レベル高すぎです。
「そこまでよ。そのお客を放しなさい。ダークスイガール!」
 高らかに宣言しながらスイカちゃんがカウンターの上に立った。合わせて店内に流れていた曲が軽やかなものに変わる「おぉぉ」と客から歓声が上がり、スイカちゃんがケータイの撮影音に包まれる。
 いいなぁ~私も本当はあっちが良かったなぁ~とちょっと思った。
 まぁそれはそれ。私の役はダークスイガール。趣味は置いておいて、ちゃんと役割は演じなければならない。お仕事ですから。
「フン。やっと腰を上げたわね。この店の看板娘の座は今日から私のモノよ。さあ、この客が大事なら店を私によこしなさい」
 そう言って室長を踏んでいる足をグリグリっと抉る。
「ひぃぃ~~っ!」
 足元で悶える室長。あ、ヤバイ。今ちょっと楽しい。
「お店の大事なお客さんを足蹴にするなんて……そんな人にスイカブックスは渡せません」
「ハッ。なら力ずくで頂くまでさ」
 そう言ってもう一度ヒールを踏みつけた。
「あぁぁぁぁ~~っっ!」
 なんか室長が白目を剥いてる。キモイっ! いや、やりすぎた?
「なんて事を、お客さん。あなたの仇はとってあげる」
 ここでスイカちゃんの一撃をもらって、私は捨て台詞と共に逃げ出す予定だ。
 さぁ、はやくこの茶番を終わらせて下さい。お願いします。
「くらえぇ。スイカばるか~ん☆」
 そう言ってスイカちゃんはレジの裏から緑と黒に塗られたガトリング砲を重たそうに取り出した。
「えっ! ちょ……なにソレぇぇぇ!!」
 私、そんな重火器が出てくるなんて話聞いてません!
「悪党せんめ~つ。ふぁいや~~」
 微妙に間延びした可愛らしい声と共に、低く唸るモーター音とBB弾の発射音がシンクロした。
「きゃぁぁぁぁっっ! 痛っ。痛い。マジ痛いっ!!」
 あまりの展開とあまりの痛さに素でリアクションをとってしまった。
「どう? まだやる気? ダークスイガール」
 油断無くガトリング砲を構えたまま不敵にスイカちゃんは言う。もう勘弁して下さい。マジ痛いです。
「ちっくしょう。覚えてろ! いつか乗っ取ってやるんだからな!」
 忘れずに使い古された捨てセリフを残して店を出た。
 そのまま大急ぎで駐車場のワゴン車に逃げ込む。ひいぃ~弾が当たった所が赤く腫れてる。これは大変な仕事になるかもしれない。お母さん。私、東京で頑張ってます。


「おはようございます」
 空き部屋で着替えを済ませて執務室に入った。初めての営業から一晩が過ぎたが、BB弾が当たった所はまだ蚊に刺されたように赤くなっている。
「うむ。おはよう」
 室長はすでに出社していて、いつものようにテーブルの上で組んだ手に顎を乗せていた。
「今日は何をするんですか?」
「次の営業の企画と打ち合わせだな。だがその前に――」
 室長はそう言ってケータイを取り出して電話をかける。
「ああ、私だ。五階の執務室まで来たまえ」
「誰かお呼びですか?」
「うむ、我々裏スイカブックスの新しいメンバーだ」
 室長がそう言った所で勢いよく扉が開けられた。
「おっはようございまーす」
 元気のいい挨拶をして、小柄な影が私の横に走ってきて並ぶ。彼女もまた際どい格好だった。黒いスクール水着に赤と黒のチェックのスカート。それに黒いニーソックスといった具合だ。
「紹介しよう。君の部下になる四湖島(よこしま)ココロだ。幹部の君に付き従う戦闘員のポジションになる。役名はスイカノカワだ」
 小柄な少女は黒いツインテールを揺らしながら、こちらに振り向いた。
「よろしくお願いします。お姉さま」
 なんともむず痒くなる呼ばれ方だったが。素直に可愛いので思わず微笑んでしまう。
「こちらこそよろしくね。ココロちゃん」
 そう返した所で室長が言葉を続けた。
「ああ、それとココロ君は東大を卒業した秀才だ。頭脳面でも君の手助けができるだろう。参謀としても活用したまえ」
 へぇ凄い。東大出なんて私より遥かに頭が――
「ええっ! 大学出なら私より年上じゃないですか!」
「二十三歳ですよ。お姉さま」
「ちょっと止めて下さい。私まだ十九歳の小娘ですよ!」
 慌ててココロさんにそう言った。
「何を水臭い事を言ってるんですか。ボク、お姉さまのような方にお使えするのが夢だったんです。この仕事に就けるのが本当に幸せです」
 私の太ももに抱きつきながら潤んだ瞳で見上げてくる。
 ダメな娘だ。この娘は結構ダメな娘だ。
「いや。ちょっと抱きつかないで。太ももをさすっちゃダメぇ! 室長。この人なんとかして下さいよ」
「はっはっは。ココロ君。離れたまえ。サユリ君が困ってるじゃないか」
 室長は軽く笑いながらココロさんを諭した。
「すいません叔父さま。ボクもう興奮してしまって」
 そうは言っても私の足から離れないココロさん。ハアハアと息が荒いのが何か嫌です。
「って叔父さま? 室長が!?」
 本気で驚いてココロちゃんと室長を見比べる。似てねぇ~。
「そうとも、ココロ君は私の甥っ子なのでね」
 その言葉を聞いて、脳味噌に意味が到達するまでにたっぷり五秒はかかった。そして意味を理解するまでに更に五秒。
 ゆっくりとココロさん……いや、ココロ君に視線を下ろして。
「もしかして男性……ですか?」
 聞くと室長はゆっくりと頷いた。
「性別なんて関係ありません。ああ、お姉さまの太もも。スベスベのムチムチで柔らかいです」
 可愛らしい見た目が急に小憎らしく見えてきた。
「ぎゃあぁぁぁっ! いつまで触ってるんですかこのスケベ。もう最っ低!」
 ココロ君を振りほどき。思わず平手打ちをお見舞いした上で思いっきり蹴り飛ばした。
「お姉さま。今の蹴り……最高です!」
 床に転がり、平手打ちが鼻に当たったらしく鼻血を出しながら、しかし凄く満足そうな笑顔をこちらに向けてきた。うーわ、本格的にダメな人だ。
「さてと、新人と気持ちよく交流が出来た所で仕事の話といこう」
 そう言ってあっさりと話を切り替える室長。
「まず、これを見て欲しい」
 そう言ってノートパソコンを私に向けてきた。ネットの掲示板のようだ。内容は――
『スイカブックス襲撃事件について』
 そのタイトルが真っ先に目に止まり、凄く嫌な予感が背筋を襲う。
『昨日、スイカブックスに悪の女幹部が襲撃』
『なにそれkwsk』
『まずは映像をみて頂こう。コレダ』
『テラ、ド○ ンジョ様ww』
『やべぇウケルww』
『これは新展開ww』
『ダークスイガール? ダセェww』
『いやこの足はなかなか』
『オレも襲われたい。スイカブックスに行けば会えるのか? 踏んでもらえるのか!?』
『どうやらスイカブックスを乗っ取る悪役の模様。先日は午後二時十分に秋葉原本店に現れた』
『これはスイカブックスの常連にならざるを得ない』
『動画があった。最後らへんで素で痛がってる所が最高』
 以下このようなやり取りが続いていた。読んでいく程に私の表情から感情が消えていくのを自覚する。
「まぁこの様に好評だったので、次回は今週末の土曜日、午後三時から秋葉原二号店で営業を行う事にした――サユリ君。目が死んでるが大丈夫かね?」
「ハイ。ダイジョウブデス」
 私の中で大事な何かが崩れていく感じがした。何故か一般社会から少し遠ざかってしまったような。そんな感覚。
「もう、しっかりしてくださいお姉さま。大丈夫ですよ。これからはボクがいつも一緒ですからね」
「ありがとう。ココロ君。でもサラッと私に抱きつこうとしないで。普通にセクハラだから」
 鼻息荒く、また太ももに抱きつこうとしたココロ君の頭に手を当てて、突っ張り棒にしてセクハラを阻む。
「ともかく。これからサユリ君とココロ君は秋葉原二号店に向かって欲しい。店舗の目の前で登場予告をして来るんだ」
「つまり……路上でパフォーマンスして来いと?」
「そうだ。前回はゲリラ的な営業をしたが、今回はしっかりと告知をする。といっても難しい事じゃない。次の土曜日に襲撃する! と店の前で叫んでくればいいだけだ。あとは放っておいても勝手に拡散する。便利な世の中だな」 
 うう。この格好で路上パフォーマンス……殆どさらし者にされてる気分です。
「ああ、人が大勢いる中での路上パフォーマンス。これは興奮しますね。お姉さま」
「はっはっは。ココロ君。興奮するのは構わんがハミ出して猥褻物陳列罪とかは勘弁してくれよ」
「大丈夫ですよ叔父さま。ボクのスカートは鉄壁です」
「では。行ってきなさい。その格好のまま歩きでね。近いから」
「ええっ? このまま行くんですか……」
 思わず自分のダークスイガールの衣装を見た。
「大丈夫。ここは秋葉原だ。オッサンがセーラー服着て歩いても逮捕されない街だぞ? 問題ない。道中も宣伝を忘れずにな」
 どうやら、腹をくくるしか無さそうだ。上司が変態なのは仕方が無い、部下も変態でもうしょうがない。これも仕事です。なんだろう……無性に泣きたい……。
「それでは行ってきます」
 そう言って出かけようとした所で室長に声をかけられた。
「そうそう。その格好をしているサユリ君は、あくまでダークスイガールだ。表では常にキャラを演じていたまえ。地を出すんじゃないぞ」


 黒いマントをなびかせながら堂々と街中を歩く。私とココロ君の二人連れはあっという間に注目を浴び、いたる所でケータイで写真を撮られまくった。
「なにあれ? なんかのコスプレ?」「いや、普通にド○ ンジョ様じゃん」「なんか微妙に違う気がする」「あのツインテールの子可愛い」
 周囲からそんな声が聞こえてくる。そんな折にココロ君、いや今は手下の『スイカノカワ』という役か、にマントをクイクイと引っ張られた。
 チラチラと私たちの話をしている方に視線を向ける。ここで軽くアピールをしておこうと言ってるようだ。
 マスクの下で小さく溜息をつく。よしっ、と気合を入れてマントを翻して声を上げる。
「オイ。そこのお前達。私はド○ ンジョ様ではない。スイカブックスを乗っ取る為に秋葉原に来た。裏スイカブックスの幹部ダークスイガールだ」
「ボクはお姉さまの手下のスイカノカワでーす」
「今からスイカブックス秋葉原二号店に宣戦布告をする。興味があるヤツはついて来い!」
 なるべく高圧的にそう言うと、再び歩き出す。後ろから興味を持ったらしい何人かがついて来る。
「お姉さま。バッチリです」
 ボソリとスイカノカワが親指を立ててウィンクしてきた。
「道化よね……この仕事って……」
 心で泣きながら誰にも聞こえないように愚痴を吐く。
 しばらく歩くと秋葉原二号店に辿り付く。さて、なんと口上を述べるべきか。そう考えていると。
「お姉さま。台本です」
 スイカノカワが私の前に進み出て、私に向かって跪きながらノートを掲げる。なるほど、予め準備はしてあった訳だ。
「聞け。愚民ども! 私は裏スイカブックスの幹部。ダークスイガールだ! 今週末の土曜日、午後三時にスイカブックスの乗っ取りを実行する。私の栄誉ある門出に立会いたい者は見物にくるがいい。面白い見世物を約束しよう!」
 昔の演劇を思い出しながら高らかに台本を読み上げた。
 そしてタイミングを見計らい、秋葉原二号店の自動ドアが開きスイカちゃんが出てくる。
「昨日は本店で返り討ちにあったから、今度は二号店を狙う気ね! 私がここに居る限り、あなたの好きにはさせないわ」
 スイカちゃんも演技がかった振る舞いで、私に指を突きつけながら叫ぶ。
「ふははははっ! いいだろう。私の乗っ取りを防げるものならやってみなさい。今度の週末には店を追い出して、スイカちゃんの惨めな姿を晒してやろう」
 そこでスイカノカワはノートを閉じた。台本はコレだけ。後は帰るだけだ。
「せいぜい、週末まで店を切り盛りすることね。オーホッホッホホッ!」
 捨てセリフを残してその場を去る。
「いい演技でした。お姉さま」
 見物人の輪を抜けるとスイカノカワから褒められた。
「大したこと無いわよこのくらいッ――!」
 何? 今の?
「お姉さま? どうかしましたか?」
「ココロ君。今、私に触った?」
「いいえ? この位置から触れる訳ないじゃないですか」
 そうだ、ココロ君の位置は私の左前方だ。ということは、私のお尻を触っているのは――

 チカンだ。

 これまでも電車の中とかで何度かチカンにあった事はある。でもまさか道のど真ん中で?
「お姉さま?」
 ココロ君が怪訝な顔を向けてきた。マントが邪魔で私の尻を撫でまわしてくる手には気づいてないらしい。
 どうしよう。電車の時は、恐くて、何もできなかった。今度も無視すれば大丈夫だろうか?
 そんな事を考えていると、お尻を強く揉まれた。ビクリと身体を震わす。
 ダメだ。なんとかしないと。でもどうすれば? 私には何も出来ない。
 そこで、ふと。室長の言葉が頭をよぎる。
『その格好をしているサユリくんはあくまでダークスイガールだ――』
 田名加サユリにはチカンを撃退する力はない。でも、今の私はダークスイガール。ダークスイガールならどう行動するか。
 その考えに行き着いた時、私は下唇を噛み、私の尻を撫でまわす手を掴んだ。
「この私に気安く触れるとはいい度胸じゃないか! じっくりと尻を触ってくれたけど高くつく事を教えてあげるよ!」
 怒鳴りながら振り返る。相手の姿を認めると、私は一瞬引いた。いや正確にはドン引いた。
 その相手はどこにでもいそうな小太りのオッサンだった。セーラー服を着ていなければ。だが。
 あまりに似合ってないその姿に変態の二文字しか浮かばない。衝撃の生物を目の当たりにして時が止まった私の横から、ココロ君が走りこんできてオッサンを殴りとばした。
「お姉さまに手ぇ出すとはいい度胸じゃねえかっ! 尻にはオレもまだ触ってないのに先に味わいやがって。ただで済むと思ってんじゃねぇぞコラァッ!」
 ドスの効いた声で色々とツッコミたい事を罵りながら、倒れたオッサンに馬乗りになりボコボコにタコ殴りにするココロ君。
 その光景を見ていて一気に素に戻った。
「何事だ。ケンカは止めなさい!」
 その時、騒ぎを見咎めたお巡りさんがやって来た。これでひとまず片がつく。
 一気に安堵して、大きな溜息が漏れた。
  

「ただいま戻りました」
 やっと帰ってきた執務室の扉を開ける。時刻は既に夕方。チカンと一緒に交番に連れて行かれて事情聴取さらた後に職務質問やら「そんな格好でウロつくな!」と怒られたりとかで時間がかかったのだった。
「ご苦労。お疲れだったね」
 警察から職場にも連絡されたので室長も事態は把握している。
「それにしてもよくやった。宣伝効果は抜群だ」
「また、掲示板で話題になってるんですか?」
 わざと少々うんざりとした声で聞く。
「いいや?」
 そう言うと室長はノートパソコンをこちらに向けた。
『本日午前に秋葉原でチカンの捕り物がありました。スイカブックッスが広報の路上パフォーマンスを行った際に――』
「えぇぇぇっ! ニュースになってるぅ?」
 しかも全国ニュース! 
「あ。すごいですねお姉さま。これなら宣伝効果抜群ですよ」
「いや本当にな。二号店付近でチカンが出没するとは聞いていたんだが、まさか取り押さえるとは思わなかったぞ」
 室長が満足そうに語る。
「もしかして室長。こうなる事を計算済みで?」
 ニュースを見ながら質問した。
「いや。多少の話題作りになればいいかなと思った程度だ。一応ココロ君を付けたのも護衛の意味もあったんだが予想以上の展開だった」
「本当ですね~。ちなみにボクこう見えても空手三段です」
 悦に浸る室長と、笑顔でブイサインをしてくるココロ君。確信犯かアンタ等!
『――ダークスイガールがチカンを取り押さえる一部始終が、通行人の手で撮影されています。こちらです』
 ニュース内では動画の再生が始まった。
「あああぁぁぁぁぁ……全部撮られてる。嘘でしょう……」
 ノートパソコンの前で私は膝をついた。
「丁度、路上パフォーマンスが終わった直後でしたからねぇ~」
「通行人がずーと撮ってたんだろうな」
「よかったですね。お姉さま。これでいきなり全国規模に知れ渡りますよ」
 もう嫌だ、こんな仕事やってられません。
「……お母さんの所に帰る」
「サユリ君?」
「お姉さま?」
 ボソリと呟いた私の言葉に二人が反応した。
「もう嫌ぁ~。私実家に帰る。帰らせてもらいます!」
「えぇ? ちょっと待って」
「そんなのダメですお姉さま!」
 立ち上がって出口を目指して歩き出すと、室長からマントを掴まれ、ココロ君は私の腰に抱きついて制止してくる。
「引き止めないで下さい。上司も部下も両方変態とかやってられるかぁっ! 実家に帰って普通の仕事を探します。もう東京なんかウンザリだ!」
「そんな事言わないで。ね? 君ほどの逸材を探すのは大変だし。もう宣伝しちゃったから代役探すにも時間がないし。私たちと仕事しようよ」
「そうですよ、お姉さま。ボクはもう一生付いて行くつもりなんですから。ああ、この触りごこち最高です」
「室長はサングラス越しでも解るくらいにすがるような目で見るな! ココロ君はドサクサ紛れに私のお尻にほお擦りしてるんじゃない! 二人とも離して」
 執務室の出口付近でジタバタしていると、部屋に電子音がなり響いた。これは私のケータイだ。画面を見るとお母さんからの着信だった。
 室長に「出ても?」と目で聞くと「どうぞ」とジェスチャーで返された。なんかやり取りに間抜けなモノを感じながら通話ボタンを押す。
「もしもし。お母さん?」
『あ、サユリ。東京で元気にやっとると』
「うん、元気にしとるよ」
『あんた、本屋さんに就職したっち言いよったねえ』
「そうよ。それがどうかしたと?」
『今、テレビ見とったらダークなんとかって人がチカン捕まえたっち言っとるんやけど……これサユリよね?』
 全身の毛穴が一気に総毛立ち、血の気が一斉に引いた。ヤバい。お母さんにバレた。
「いや違うんよお母さん。これには色々と事情があって――」
『やっぱりあんたやったんね。まあどんな仕事でもいいけど嘘はいけんよ。お父さんには黙っといてあげるけんね』
 いや、嘘じゃないの。私は確かに本屋さんに就職したの。上司が変態だっただけなの!
「お母さん、話ば聞いて。私も色々あってね――」
『いいかいサユリ。お母さんはアンタの味方やけんね。でも中途半端で放り出したら承知せんよ。それじゃ、またね』
「もう、人の話を少しは聞いて――」
 プツッ。ツー。ツー。
 切られた。いつもながら人の話を聞かない母だ。
「サユリくーん。これで逃げ場がなくなったねぇ? 方言もなかなか可愛いじゃないの」
 背後から粘着質な室長の声。
「これでお姉さまと、もっと一緒にいられるんですね。ボクは。ボクはもう!」
 私のお尻からココロ君の悦びの声。
 こうして私は実家と言う最後の逃げ場を失った。


 エピローグ
「くぅ。またもお客さんを人質に取るとは。ダークスイガール、どこまでも卑劣な女め!」
 カウンターの上でスイカちゃんが叫ぶ。前回と同じく私の足元にはムチでグルグル巻きにした上でヒールで踏みつけられている室長がいる。
「フン! 同じ手が何度も通じるそちらの落ち度だよ。まずは私の手下と戦ってもらおうか。スイカノカワ、相手をしておやり」
「はい。お姉さま」
 スイカノカワが前に出る。
「さあ。今日こそはこの二号店を頂くよ」
「それはどうかしら?」
 不敵に微笑むスイカちゃん。
「この店にスイカちゃんが一人だと思わないことね」
 この声はカウンターの奥にあるバックヤードから聞こえた。奥から歩いてきたのは黄色い衣装のスイカちゃんだった。
「スイカには黄色いものがあるのもお忘れでなくって?」
 周囲の見物客から「おぉ~」と声が上がる。
「誰だい。オマエは!」
 私の問いに、黄色いスイカちゃんはカウンターの上に飛び乗ると、普通のスイカちゃんと並んで高らかに名乗る。
「私はイエロースイカ。秋葉原二号店のマスコットキャラクターよ! スイカちゃんほど優しくないから覚悟してね」
「フン。一人増えようと同じ事さ。スイカノカワ、蹴散らせ!」
「そうはさせない、スイカばるか~ん☆」
「私も行くわよ。ダブル☆スイカマシンガン」
 私がスイカノカワをけしかけると、前回のようにスイカちゃんがカウンター裏からガトリング砲を、イエロースイカも同じくマシンガンを二丁取り出す。
「え、ちょっと待って。やっぱりこの展開も聞いてないんですけどぉ!」
 素で叫ぶ私。
「お姉さま。これは勝てそうにありません」
 早々に諦めて舌を出すスイカノカワ。
「え? ちょっとこの位置だと私も巻き込まれるんだけど――」
 足元で諦めの悪い事を言う室長。
「いっくよ~。くろ~す」「ファイア!」
 スイカちゃんに続いてイエロースイカの声と、低いモータ音とBB弾の発射音が三重奏でシンクロした。
「きゃぁぁぁぁ! イタッ。 痛い! もう嫌ぁぁぁ!」
「ああん。お姉さまボクもおうダメですぅ」
「あ痛っ! 人質にも当たってるって。 痛いイタタタタァッ!」

 スイカブックス秋葉原二号店に、私達の割と素の悲鳴が響きわたった。


 おわり

作者コメント

ド○ ンジョ様書きたいな~

この一つの思考から本作は生まれました。
書いてる本人は楽しかったです。
ちなみに作中後半の方言は私の地元付近ですね。


本作の主要キャラクターは作者が脳内音声で声を再生しながら書きました。
その際のキャストは以下の通りです。


キャラクター「声優」(代表作)

田名加サユリ「折笠愛」(ガンダムW、カトル。スパロボ、レビ・トーラー)

室長「立木文彦」(銀魂、マダオ。エヴァ、碇ゲンドウ)

四湖島ココロ「斉賀みつき」(グレンラガン、ロシウ。HELLSING、ハインケル)

こんな感じでした。

2013年10月21日(月)16時05分 公開

感想送信フォーム 作品の感想を送って下さい。

お名前(必須)

点数(必須)

メッセージ

感想

高波さんの意見 +30点2013年10月21日

とても面白かったです。

唯一不満に思った点は、セーラー服のおっさんがガチで犯罪者だったことです。

自分だったらこうすると思います。

女装のおっさんは趣味が裁縫、セーラー服も自分の手作りである。
サユリの服の素材とデザインに目を惹かれ、
思わず意匠を確かめようと痴漢と間違われるような行為をしてしまった。
痴漢と誤解されて警察にしょっぴかれそうになっているオッサンを、
見た目はこれでも秋葉原の仲間だから、とサユリが許してあげる。
ダークスイガールの器の大きさに、なおのこと人気が出てしまう。
で、後日このオッサンも仲間になるのだが、実はこのオッサンの正体は……なんて。

コメディの世界では冗談と犯罪の境目が曖昧になります。
限りなく黒に近い行為も白として、笑いのうちに消化できるのが理想です。
ただそこに一滴、白にしようもない黒が落とされてしまうと、
真っ白な世界ではなくなってしまいます。
その基準は人それぞれですし、私としてはこの作品ではセーフなのですが、
ただこの作品が秋葉原を好きな人達に楽しんでもらおうという狙いであれば、
このセーラー服のオッサンもギャグ要因として迎え入れてあげて欲しいと思うのでした。

感想は以上です。

樹思杏さんの意見 +30点2013年10月21日

 こんばんは。樹思杏と申します。
 とても面白く読ませてもらいました。題名から、コメディなんだろうと想像していましたが、前作とのギャップがすごいですね。

 キャラもいいし、展開もスムーズで中だるみもないし、本当に面白かったです。上司も後輩も変態なんて、さゆりちゃんの苦労がしのばれます。

 何のアドバイスもない感想ですみません。
 次回作も楽しみにしています。

たこわさびさんの意見 +10点2013年10月23日

こんにちは、たこわさびです。読ませていただきましたので、感想を。

良かったです。何より登場人物のキャラクター(室長とその甥)が面白く、楽しく読むことができました。その被害に遭う頑張り屋の主人公のキャラも相まって、明るくいい雰囲気のお話だったと思います。

唯一気になった点は、遭遇するトラブル、このお話の場合は痴漢です。
おっさんが犯行に及んだ状況がよくわかりませんでした。
「見物人の輪を抜けて」「道の真ん中で」とあるので、比較的あたりはひらけているのですよね……。余程判断力が鈍くなければ、そのような状況で女性に密着していかがわしいことをしようとはならないように思うのです。
ましてやすぐそばにはおつきの変態がいますし、リスクは高いはずです。にも関わらず痴漢行為を敢行したおっさんが、かなりの気違いということになってしまいます。……もしかしてそうだったのでしょうか。
もし痴漢が容易に可能なほど道が混んでいたのなら、そういう描写が欲しかったです。でも、主人公(とおつきの変態)の姿、あとセーラー服のおっさんの姿はひどく目立つでしょうし、それでも難しいように感じます。

僕が読み落としていることがあったのならごめんなさい。指摘していただければ幸いです。

……細かいことをつついてしまってすみません。
ただ、この一点以外は僕が気になったところはありませんでしたので。

最後ににもうひとつ。立木さんは脳内再生が予想以上に余裕すぎて、最初の「入りたまえ」でンフッと笑ってしまいました。

それでは、失礼します。よいお話をありがとうございました。


追記
僕は「反論・言い訳」だとは受け取らないので、痴漢の状況についてのデルティックさんの考えておられることや僕の誤った認識を、遠慮なく説明していただけるとうれしいです。その方が、自分としては色々と参考になりますので。
よろしくお願いします。

へろりんさんの意見 +20点2013年10月27日

 はじめまして、へろりんと申します。
 御作を拝読しましたので、感想を書かせていただきます。
 素人の拙い感想ではありますが、しばらくの間おつきあいください。

 まずはじめに、とても楽しいコメディーでした。
 最後まで楽しく読了させていただきました。
 読後に、なにも残らないのも、このテのコメディーのお約束。
 読んでいる間楽しめればいいのです。
 ですが、もうちょっとはっちゃけてもよかったかなと思いました。

○ 文章について
 全編にわたって、主人公のひとり語りがいい感じでした。
 主人公の嘆き節がもうちょっと極端でもいいかなと。
 だいたいが引っ掛かるところなく読めたのですが、一点、冒頭の部分。

> 真新しいスーツに身を包み、秋葉原までやってきた。
> 目の前にあるビルには「スイカブックス」の看板がかかっている。
> ここまでの道のりは長かった。この不景気で就職活動は難航し、家に溜まった不採用通知は四十八枚。高卒十九歳の乙女の心は折れそうでしたが、ついに今日、この会社で社会人デビューです。
> 故郷のお母さん。私は東京で一人でも元気にやっていきます。
> いざ、私の仕事場へ。
> そして意気揚揚と初出社の為にビルの扉に手をかけた。

 冒頭の二行は三人称の地の文に読めます。
 最初の一行で主語「私は」を省略しているせいですね。
 んで、自分の頭が三人称なんだなーとなったところに、三行目と四行目は主人公が心情を語った文になっています。
 混乱しました。
 この作品が三人称で書かれているのか、一人称なのかわからないところでこれをやられたのでちょっと戸惑いました。
 これは、かなり読みづらい文章ではないかと身構えましたが、これは杞憂でした。
 その後は、なんの問題もなく読めただけに、最初に悪い印象を持たせる結果になったのは、ちょっと勿体ないと思いました。


○ キャラクターについて
◇田名加サユリ(ダークスイガール)
 本編の主人公にしてヒロイン。
 そして、唯一の常識人。
 典型的な巻き込まれ型の主人公ですね。
 描写はそれほどなかった気がしますが、ええスタイルしたぴちぴちおねーさんですね。
 彼女に踏まれたいという気持ち、わかります。

◇室長
 本編のトラブルメーカー、変態一号。
 社命なのか趣味なのかサッパリわかりませんが、広報活動の一貫を錦の御旗にセクハラまがいの仕事? を主人公に強います。
 この人がいなきゃ、話がはじまりません。
 典型的ではありますが、何を言われても動じない(聞いてない)ひょうひょうとした感じが好きです。

◇四湖島(よこしま)ココロ(スイカノカワ)
 変態二号。
 東大出のインテリにして空手もたしなむ幼顔の男の娘。
 この設定だけでおかわり三杯いけます。
 それだけに、使い方がもったいなかったかも?
 もうちょっと主人公の頭痛の種になってもよかったように思います。
 でもまあ、尺的にはちょうどよかったのかも知れませんね。
 にしても、スイカノカワってw
 作者様の残念なネーミングセンスに感服しました^^

 それぞれ主要な登場人物のキャラが立っていてよかったと思います。
 どこかで見たことのあるような既視感は否めませんが、短編の配役としては充分だったと思う反面、それが物足りなさにもつながっているような気もします。
 それぞれのキャラがもうちょっと極端でもよかったかなーと。

○ 設定について
 就職難の折、やっと決まった仕事が秋葉原という土地柄とはいえ、恥ずかしい恰好での広報活動。
 世相を反映したコミカルな設定が素敵でした。

>しかしこれも仕事。頑張れ私。もう就職探しは嫌なんです。

 主人公が採用を勝ち取るまでの苦労話がネタとしてあると、辞めたいけど辞められない主人公の想いに深みが出たように思います。
 この部分にも、もっと悲壮感とか感じたかも。

○ ストーリーについて
 やっと決まった仕事が、恥ずかしい恰好での広報活動だわ、上司も同僚も仕事なのか趣味なのかわからない変態だわ、災厄つづきの主人公。
 ラストはニュースにまでなって、遂に耐えきれず辞める決心をしたところ、とほほな状況が知った母親の勘違いで辞めるに辞められず、主人公の受難は続くのであった。(合掌)
 ストーリーとしては、コメディーの定石を踏んでいるように思いました。
 ですが、一番盛り上がりのある痴漢事件が、なんかふつーでした。
 この事件、テレビでニュースになってラストにつながるので、はずせないイベントであると思いますが、もっとはっちゃけて欲しかったです。
 主人公は、もっと恥ずかしい思いをして貰った方が、ラストの実家に帰る発言により重みがでるかと。
 と言っておいてなんですが、どうやってはっちゃけさせたらいいかは、自分的にはサッパリ思いつきません。

○ 総評
 全体として良質のコメディーでした。
 最後まで楽しませていただきましたが、御作にはここがいい! という飛びぬけたところがないように感じました。
 ですので、点数はこの辺で抑えさせていただきます。

 以上で、素人の拙い感想を終わりたいと思います。
 いろいろと知ったふうなことを書き連ね申し訳ありませんでした。
 素人のたわ言ですので、あまりお気になさいませんように。
 作者様の身になりそうな部分のみ、取捨選択をお願いします。
 楽しいひとときをありがとうございました。
 失礼しました。

ゆうまさんの意見 +40点2013年10月29日

笑いました、もうその一言です。

あり得ない設定も受け入れてしまう文章力や笑いのセンスで、気持ちよく読み進めることが出来ました。
主人公が「就活はしたくない」という理由で渋々と受け入れ、母親から電話がかかってきて外堀埋められて、嫌々ながらむっちゃその仕事、むっちゃ合ってるじゃんと思わせるその状態が面白かったです。
地の文(主人公の独白)も自分好みでした。

点数は10点(文章)+10点(最後まで飽きなく読めた)+10点(もう一度読みたいと思った)+10点(個人的好み)=40点という感じです。

面白かったです。
(もう一回読んじゃおうw)

ではでは。

えんさんの意見 +10点2013年11月01日

こんにちはっ!

長編の間に出張していただき、おまけに感想までつけていただきありがとうございました!
作者レスより先に感想返しにきてみましたっ(`∇´ゞ

さて今回の作品はとても面白い内容でした。
テンポよくサクサク読めました!

ただドロンジョは若者は知らないだろうなぁと思ったり、内容はライトだけど登場人物の平均年齢高いな、と思ってしまいました(自作を棚にあげてすいません)

あとちょっとこの作品の山場が分かりにくいです。
主人公職を探す→恥ずかしい職業役を得る→がんばって演じる→ココロが仲間にくわわる→痴漢撃退→実家に帰ろうとするが母に中途半端は許さないと言われる→まだまだ主人公のお仕事は続くのであった。

って流れなんですけど、たぶん痴漢あたりでもっと盛り上げるべきだったのかなぁ、なんて。

最初から仕事がうまくいきすぎてる気もしました。
演劇部だったけど実は人前にでるのが苦手とか、そういう弱点を主人公に持たせてお話し中に克服させたりすると良いのかも?

主人公の変化が乏しく感じたので追加して欲しいかな、なんて思ったわけでした。

勝手なこと言ってすいませんがそんな感じでした。

個人的にはココロ君のキャラが良かったです! ひゃっほうスクミズスカート男の娘!(o^∀^o)

…………正直スマンカッタ。
でわでわ(^_^)v

素直な良い子さんの意見 +10点2013年11月07日

ども、読んだので、感想、書いておきます。

文章は相変わらずうまいと思います。テンポもいいし一気に読めました。

内容はテンプレの塊と言う感じがしました。私はギャグ&コメディは過激な方が好きなので、少し物足りなかったです。マサキくんとは互いにエールを交わしたいと思いましたがそういうのは今回なかったです。(ただ、私に合わすと他の方が逃げますので、このままいかれたほうがいいかと思います)

あと、他の方も上げてましたが、セーラー服おじさんのところ。
私は読みながら、これは所長が全部仕組んでいると思って期待していたのですが、スルーな感じで少し肩すかしでした。主人公も突っ込んでいるところから、作者さんも頭にも(テンプレ展開だと所長の仕業だということが)あったはずです。理由は他の方への作者コメントでわかりました。
こういう作者としてのこだわりは、どういうことでも大事だと思うので大切にした方がいいと思いました。
ただ、読者としてはテンプレ展開だと、「テンプレかよ」と文句をいいますが、期待したテンプレがないとそれはそれでさみしいです。(わがままです(笑))
私も何かしら、後につなげてほしかったと思いました。

今作は客観的に見ると20点くらいだと思いますが、ギャグ、コメディは主観のほうが大事だと個人的には思うので10点としておきます。(ごめんなさい)
私はネタ重視なので、何かしら私でもドカンと笑える大ネタ(マサキくんみたいな)が1つあれば、たぶん高得点を突っ込むと思います。

以上です
ではでは……

Hiroさんの意見 +20点2013年11月25日

>初めてのお仕事は悪の花道。

こんばんは、Hiroと申します。
そういえば昔デル●ィンなんてHNの人がいたな…という流れで作者コメに目を通し、ド○ ンジョ様の名称に心を引かれました。
そんな縁ですが、拝読しましたので拙いながらも感想を残していこうと思います。


おもしろかったです。
作者様の性癖がいかんなく発揮されていた良作でした。
テンポがよく、失速する前に短編として話をまとめたのもよかったと思います。

気になるところは、セーラーおっさんの痴漢行為あたりでしょうか。
常時ギャグな展開でつっぱしる御作で、ここだけがガチな犯罪行為だったのが浮いているように感じました。
(いや、届け出のない野外のイベントなども冷静に考えるとやっちゃいけないことですが)

個人的な趣向では主人公が行動を選択するときの葛藤にもう少し行数をさいて欲しいようにも思いました。


●他、適当に…

>スイカブックス
・てっきりメ□ ンブックスかとおもったら違ったっぽい?
 あそこはゲーセンの地下にあるし、イベントスペースもないからなぁ。
 どっちかというとゲー●ーズっぽいかも。

>どうやらもう後には引けない状態のようです。
 もうちょっと、きっちり逃げられない理由をつくって欲しかったです。

 男の娘カフェの客引きはみたことあるけど、セーラー服きたおっさんはみたことないなぁ。

>あらかじめ覚えてきたセリフをドスの効きながらも艶が残る声~
・ドスを利かせながらも~?

>早く店を空け渡しなさい
・明け渡し?

クオリティー的にはやや物足りなくも思いますが、読後感が大変よかったので+20点を残していきます。


感想は偏った生き物が書いて降りますので、情報の取捨選択にはご注意ください。
では、失礼します。

音波 雲さんの意見 +30点2013年11月29日

初めまして、音波 雲と申します。
作品を読ませていただいたので感想を書きます。

タイトルの方からヤのつくお仕事か? などと思いつつ読み始めました。
すると何ということでしょう。イベントスタッフのヒール役だった?のですね。
気になった点としてはスイカブックスという文字列が出てきた時にそれだけじゃ書店だとイメージし辛かったことと、イベントなのにスイカちゃんとの打ち合わせ(リハの様なもの)もしくは同じ事務所?ではなかったことくらいでしょうか。
軽快な文体にコメディ特有のご都合展開(タイミングよくかかって来る母からの電話など)めちゃめちゃ面白かったです。欲を言えば主人公が自主的に役をやりたいと考えるようなストーリーが欲しかったかもです。最後、嫌々やっている様でしたし。

大変楽しませていただきました。
それでは、これからも執筆頑張ってください。

布施隆三さんの意見 +30点2013年11月30日

 いつもお世話になっています、布施です。
 コメディは滅多に読まないのですが、ニヤニヤしながら読ませていただきました。
 変態、どこにでもいますよね。僕の大学があった地方都市にも、バニーガールのコスプレしたスキンヘッドのおっさんがいましたし。
 全体的に手堅くまとまっていると思います。僕個人の感覚ですが、文法にも粗は目立ちませんし。まあ、書いてる本人にしか気付かない部分はあるのでしょうけど、僕という他人が一読した限りでは致命的な部分はないと感じました。
 気の効いたコメントが残せなくて恐縮ですが、今後ともよろしくお願いします。

e-honさんの意見 +30点2014年01月01日

はじめまして。読ませていただきました。

不採用通知の山、いいですね!
他人事じゃないので掴みとしてよかったです。
文章が読みやすく、全体的にテンポがよくて笑えました。

あと傲慢なお願いなのですが、自分の作品を掌編の間に8枚で投稿しています。もしよろしければ読んでいただけないでしょうか。
可能でしたらお願いします!

高山ゆうやさんの意見 +30点2014年01月01日

高山ゆうやと申します。はじめまして、作品拝読させていただきました。
文章自体も読みやすく、ストーリーも、綺麗にまとまっていて良かったです。

少し横道に逸れますが、ヒーローショーなどで、一番重要なのは悪役だと思います。
主人公が、演劇に長けていたので、悪役に採用されたのは、自然な成り行きだと思います。
そして葛藤のシーンも共感出来ました。私としては、良い作品だと思います。

巻々さんの意見 +20点2014年01月03日

はじめてコメント書かせていただきます、巻々と申します。
感想の書き方がよく分かってないのですが、よろしくお願いします。

○ 良かった点
・まず文章が大変読みやすかったです。なので始めから終りまで疲れることもなくスラスラと読むことができました。

・ココロ君のキャラが個人的にツボでした。インテリ+男の娘(童顔)+年下系エロっ子(実際は年上ですが)……ごちそうさまでした。
 ココロ君は普段はどんな感じなんだろうとか、大学ではどんな感じだったんだろうとか、スピンオフというかサイドストーリー(?)というかが読みたいなと思いました。

○ 気になる点など
 特になかったです><


執筆お疲れ様でした。

窒素さんの意見 +20点2014年01月05日

デルティック様、はじめまして。窒素と申します。
早速感想ですが、サユリさんは新宿のハロワに駆け込むべきだと思います。

終始「こいつらアホだなぁ」と思える作品でした。
読後に冷静になってみると「ん?」と思う設定もありますが、ギャグなんだからこまけぇこたぁいいんだよ、ということで。少なくとも、読んでいる間には気にならない位まとまっていると思います。
唯一気になった点としては、(許される)セクハラ行為と(許されない)痴漢行為の境界ってどこだろうなぁ、という疑問ですかね。オッサンは許されないけどココロ君は許される(嫌がられるだけ)という不思議。本来はどちらも許されないし、やってることはほとんど同じなんですけどね。男の娘だから?
つまりオッサンではなく美少女なら……。
「私は痴漢ではない! 痴女だ!」
これなら許された可能性が微粒子レベルで……!

いや、答えは「ギャグだから」というだけなんでしょうけれど。


以下、誤字報告や気付いたことなど。余計なお世話かもしれませんが。

>いや、仕事の舞台裏とはこんなものだと思い直し「頑張れ私。見た目で判断するな」と自分に言い聞かせてドアをノックした。

自分への言い聞かせを一文の中で繰り返しているため、やや読みにくいと感じました。私が直すとするとこんな感じでしょうか。
 いや、仕事の舞台裏なんてどこもこんなものだろう。頑張れ私。何事も見た目で判断してはいけない。などと自分に言い聞かせながら、私は目の前の扉をノックした。

>社員証と名詞

名詞→名刺

>【秘密結社、裏スイカブックス。~

社員証なら句読点は無くても良いかと。

>私にかけられえた第一声~

かけられえた→かけられた

>その格好のまま歩きでね。

堂々と本店ビルから出て来ていいのか秘密結社。それも含めてネタなんですかね?

>見物人の輪を抜けると~

他の方からの指摘にもありますが、この文によって人ごみからは離れたような印象を受けます。次の痴漢のシーンがイメージし辛かったです。いや、そもそも路上での痴漢行為自体がイメージし辛かったのですが。

>事情聴取さらた

さらた→された

>ボクもおうダメですぅ

もおう→もう
台詞なのであえてこうしたのかな、とも思いましたが、一応。


それと、全体を通して句読点の位置が気になりました。どうもそれで読むときのリズムが狂ってしまった感じです。
例として「~。~!」となっている台詞ですね。違和感のないものもありましたが、勢い的にはこれも「!」でいいんじゃないかな、と思うところが散見されました。他にも地の文や台詞で(私としては)「、」が来て欲しい所で「。」が来ていたりとか。
個人の好みレベルかとは思いますが、声に出して読んでみることを意識してみてはいかがでしょうか。

後は「ド○ ンジョ様」ですね。○ の後に半角スペースを入れているのはこだわりでしょうか? 私には逆に読み難いように思えました。そういうルールがあるのなら不勉強で申し訳ないです。


以上です。何かご参考になれば幸いです。