企画過去データ

2012年小説夏祭り企画優勝作品
納品・レジ打ち・客対応!


2012年08月04日(土)21時06分 公開

【選択したジャンル】
 コメディ× 業界

【選択したお題】
 オレンジ・うさぎ・殺人鬼

【一行コピー】
 苦しい・疲れた・もうやめたでは、スーパーの店舗担当者は務まらない。

【作者コメント】
 祝・夏祭り開催! まずは今企画を主催してくださったうさまさんに厚く御礼申し上げます。そして、ジャンル追加で『業界』を推薦してくださった方、おかげで今作を投稿することができました。本当にありがとうございます!
 今回、『業界』というジャンルは後から追加されたということもあり、おそらくそう多くは投稿されないはずだと睨んでいたのですが……あれ、ない!? 
 ひょっとして追加されていたというのは私の勘違い? などとルールを確認してみましたが、ちゃんと入っておりました。ふう、一安心。
『業界』ということで、今作は小売業、平たく言えばスーパー、もう少し詳しく言うとディスカウントストアを舞台としています。一応これも『業界』です……よね?

 今回の夏祭りを少しでも盛り上げられるよう、今作がその薪の一本になれれば幸いです。
 それでは、いらっしゃいませっ! 
 ……あっ、間違えた。よろしくお願いいたします!


  ~ 店長からの電話はろくなことがない ~

 携帯から響き渡る無機質な呼び出し音に、俺の背筋が悪寒で震えた。
 時刻は朝八時半。ディスプレイの『店長』という二文字に、悪い予感が滲み出す。
 今日は日曜だが、スーパーで働く身には日曜イコール休みなどという考えはない。むしろ忙しいくらいだ。
 大きく深呼吸して、通話ボタンポチ。
「……はい」
(あっ、もしもしー、僕)
 わかるよ携帯で連絡してんだから、という不機嫌そのままな横槍を呑み込み、「何でしょうか」と返す。
(実はさー、さっき朝のパートさんから連絡があって、急に子供が熱出しちゃったから出られないらしんだよねー。悪いんだけど代わりに出てくれない?)
「……マジっすか」
 起きたばかりの頭が眩暈して、体がよろけた。
 常時二人しかいない店だから、一人休むだけで深刻な危機に陥る。管理の難しい生鮮がないからできることだが、それでも二人は酷い。
「や、でも俺が店に行くまで二時間はかかりますよ。絶対開店遅延になります。店長の方でどうにかできませんか?」
 俺は電車通勤なうえ、そこそこ店舗から遠い家に住んでいる。少なくとも今から準備して出発したところで、十時の開店には間に合わない。
(うーん、パートさんが鍵開けとレジの立ち上げはしてくれるらしいから大丈夫。朝はお客さんも多くないだろうからしばらくは一人で回せるしー)
「……マジっすか」
(うん、だからさー、できるだけ急いでー?)
『店長』と呼ばれていても、正式名称は『エリアマネージャー』といい、複数店舗を見ている。だから一店舗に応援で来ることは稀なので仕方ないと言えば仕方ない。
 が、少ない希望に賭けて言ってみる。
「あの、俺明日『通し』なんですけど」
『通し』とは、開店から閉店までずっと作業をすること。開店作業が朝九時から、閉店作業が終わって店を出るのが夜十二時なので、休憩込みで十五時間働くことになる。ただでさえ今週は水曜からチラシで忙しいのに、こんな緊急出勤は勘弁してもらいたいのだが。
(ごめーん、今日休みだからムリー)
 ぶん殴ってやろうかと握りしめた拳をどうにか広げ、「わかりましたっ」と吐き捨てる。自分でも失礼だなと思う声だったが、ニコニコ取り繕えるような精神状態じゃなかった。
「行きます行きますよ。わざわざ休みの日に申し訳ありませんでしたっ」
(うんうーん、気にしなくていーよー?)
 嫌味で言ってんだよ! わかれよ!
 通話を切り、携帯をベッドに投げつける。大きく弾んだ携帯を追った目がカレンダーに止まり、改めてため息をついた。
 ……俺、こんなことするためにこの会社入ったのかなあ。
 入社からまだ半年も経たないが、よくそんなことを最近よく思う。
 やりたいことや目標があって入社したわけじゃない。『お祈りします』を繰り返し、ようやく拾ってくれたこの会社にほとんど流されるように社員となった。今の会社に不満があるというのなら、その非はいい加減に就職を決めた俺にある。
 けど。
「……俺、この会社で働いてていいのかなあ」
 ぽつりと漏れた独り言は、エアコンの音に紛れてすぐに消えた。



 ~ お客様は神様ですか? ~

「今村くーん」
 レジから聞こえた声に、品出しをしていた手を止めそちらを見る。
 レジを打っていたのはパートの田中さんだ。お子さん二人はともに社会人というおばちゃんだが、気さくな人で、彼女とちょっとした話をするのは荒んだ仕事生活の中の小さなオアシスとなっている。
 そんな彼女が鼻をつまみ、俺にサインを送る。その意味を察し、こくりと頷くと入り口の自動ドアに向かった。
 むわっ。
 鼻を突く刺激臭に、寝不足の頭が揺れる。
 近所の公園に住む浮浪者が店に入ってきたのだ。ボロボロで薄汚い服を着て、髪は伸び放題のボサボサ、風呂に入る環境ではないらしく、臭いは半径数メートルまで届く。
 通り過ぎていくお客さんも、嫌そうな顔をしてそそくさと離れた。
 俺の前に店舗担当者だった人は、その人について回り消臭スプレーをかけ続けた(!)らしいが、流石にそこまでやる勇気はなかった。自動ドアを開放し、風通しを良くして少しでも臭いを消す努力をする。八月の熱気が入り込んできたが、臭いよりマシだ。
 しばらくして、『二番レジ解放お願いします』のアナウンスが流れ、レジに向かう。並んだ三人のお客様のうち、二番目のお客様の籠をもち二番レジに案内しようとして――
 それが例の浮浪者であることに気づき、顔が引きつった。
「……コチラノレジヘドウゾー」
 若干片言になりつつ、籠を持って二番機へ。ホームレスという人たちがどういった手段でお金を稼ぐのか知らないが、週三・四回は店に来て買い物をしていく。
 商品をスキャンしている最中、後ろに親子連れが並んだ。子供はまだ四歳くらいの小さな男の子だ。
「お会計、七百五十九円になり――」

「おかあさん、なんか臭いよ」

「フゴッ」と吹き出してしまった。ノロノロとした動作で財布を漁る浮浪者を待つ間に母親の様子を見ると、小さく首を横に振っている。静かにしなさいという意味なのだろうが、子供に大人の空気の読み方などわかるはずがない。
「おかあさん、なんかここ臭い。なんか臭い」
 なんか臭い、を連呼する子供に、しっと指を唇に当てて黙らせるが、それでも彼は臭いと言い続けた。無理もないだろう、だって臭い。
 ようやく浮浪者が会計を終え、サッカー台(買った商品を買い物かごからレジ袋に移す所)に移動し、親子連れの会計に移る。と、母親が俺の顔を見て申し訳なさそうに会釈した。
 苦笑いを浮かべつつ、いえいえ、と会釈を返す。子供のすることだから怒っても仕方ない。
 むしろ良く言ってくれた。グッジョブ、少年。
 母親に見えないように子供に親指を立てると、子供は不思議そうに首を傾げた。



 ~ 叱責のメール ~

 本部からの指示は、緊急のものでなければメールで来ることが多い。
 作業効率重視の為、パソコン一台はレジ二台に囲まれた中にあり、レジに入りながらでもメールを見られるようになっている。
 田中さんに休憩に入ってもらっている間にメールチェックを済ませる。同時に不要なメールの削除もしていくわけだ。
「……ん?」
 その中に『振替作業不備について』という件名の、店長からのメールを見つけ、顔を歪めた。
 商品を本部に振り替えた際、誤って店舗控えまで送ってしまうという初歩的なミスをしてしまったのだ。気づいたときには出荷済みで、そろそろ連絡が来るだろうとは思っていた。
 店長は電話や直接話すときはふにゃふにゃした話し方をするが、メールでは一転して毒を吐く。
 怒られるのかなあ、と戦々恐々しつつメールを開く。

『論外です』

 一言で切り捨てられた。



 ~ 噛んだ ~

 田中さんは十九時で退勤となり、代わりに大学生の千石鈴奈がやってくる。
 茶色のショートヘアで体格は小柄、つり目気味の大きな瞳は人を警戒する猫を連想させた。彼女はいつも無地の漢字入り白Tシャツに黒いハーフパンツと極めてラフな格好で来る。
 今日の文字は『閻魔蟋蟀』。見た目カッコいいのに読めた途端に迫力が失せる特異な言葉だった。
「じゃあ千石、田中さんと交代でレジお願い」
「……」
 ろくに返事もせず、エプロンをつけて売場へと出ていく。これでただの無愛想なら注意のしようもあるのだが。
「どうだった?」
 聞いてきたのは田中さんだ。彼女がレジで違算を出していないか、精算をしているところだ。
「え? ああ、今日も違算ゼロです」
「やた、ブイ」
 ブイサインで喜びを表す田中さんに、思わず笑みがこぼれる。
「じゃあ、また明日」
「はい、お疲れ様でした」
 頭を下げて彼女が事務所から出ていくのを見送ると、ドロアーに蓋をしてレジへと持っていく。
 一号機レジにドロアーをセットすると、千石が二号機から一号機へレジを移る。ちょうどお客さんもタイミングよく切れてくれた。
「……何すればいい?」
 千石が相変わらず不機嫌そうな声で聞いてくる。四六時中レジに客が並ぶような店ではないので、レジ担当者にも作業を任せることは多い。
「うーん、いつも通りかな。飲料と見える範囲の食品のメンテナンスお願い。休憩は八時半から三十分、九時から日配品の明日期限の値下げ、十時過ぎたら冷蔵什器のお酒の補充も。何かあったら放送で呼んで」
 いつも通りの作業を伝えた後、「あと」と付け加える。
「レジにお客様が並んだら、できるだけ早く俺を呼ぶように」
「……はい」
 無愛想な低い声で応じ、彼女はタイミング良く来たお客様に向き直った。
「いらっしゃいませー!」
 途端に無愛想は消え失せ、スマイル豊かな挨拶が響き渡る。
「こちら三点で、五百五十円でございます!」
 この笑顔を、どうして俺の前では出せないのか。
 まあ嫌われてるんならしょうがないかと諦め、その場を離れようとした時だった。

「四百五十円のおつりでござるっ!」

 噛んだ!
 お客様さんがおつりを受け取る手を止めた。ポカンとしたもののすぐにニヤリと笑う。
「ん、かたじけない」
 ノリの良いお客さんだった。
 この後彼女の前に回り込み、涙目で顔を真っ赤にする千石をニヤニヤしながら見つめていたら、カッターがついたままのガムテープを投げつけられた。
 危なッ!



 ~ ちりしある ~

「ちりしある?」
「は?」
 思わず聞き返してしまい、お客様の顔が曇った。神経質そうなお婆ちゃんだ。
「だから、『ちりしある』って聞いてるの」
 そう言ってギロリと睨んでくる。
 ちょっと失敗すると即クレームになりそうなお客様なので早々に対応を終わらせたいのだが、何を言っているのかわからない。
『ちりしある』って何だ? コーンフレークのことか? 
 でもあれは『シリアル』だよな。
「お客様、『シリアル』でよろしいでしょうか?」
「はあ?」
 露骨に不機嫌な顔になった。まずい、怒らせたか?
「『ちりし』よ『ちりし』」
「……あー、失礼しました」
 なるほど、『ちりしある』は『ちりし、ある?』に分けるのか。
 で、『ちりし』をお探しと。
 ……『ちりし』ってなんだ。
「お客様、『ちりし』とはどういった商品でしょうか?」
「ちりしはちりしよ。そんなこともわかんないの?」
「……申し訳ありません、少々お待ちください」
 ぐっと奥歯を噛みしめ、いったんその場を離れると千石にヘルプを求める。ちょうどお客さんも途切れたところだった。
「千石、『ちりし』ってわかる?」
 彼女は首を傾げると、小さく横に振った。
「さあ。外国の『チリ』とか?」
「ああ成程、『チリ市』が欲しいと。……てあるわけねーだろ」
「違くて、だから『チリ』に関する何かってこと。チリソースとか、チリペッパーとか」
「……あー、そういうこと、なのか?」
 一応納得し、「ありがと、助かった」と礼を言ってお客様のところに戻る。
「お客様、『チリソース』でよろし……くないですね、申し訳ありません」
 ものっそい睨まれた。次ミスったらガチでクレームだな。
 唾を飲み込み、必死に頭を巡らせる。
 ちりし、ちりし、ちりし……あ、ひょっと『ちり紙』って書くのか? つまり探しているのはティッシュ。
「お客様、ティッシュでよろしいですか?」
「『ちりし』って言ってるでしょ!?」
 めっちゃ怒られた。結構良い線行ってると思ったのに。
 そうなるともう八方塞り、どうしたものかと考えていると、「あっ、あるじゃない」とお客さんがティッシュの方に向かった。
 なんだよ、やっぱりティッシュじゃないか。
 目的の物を見つけたからか、お客様は上機嫌だった。この分ならクレームにはならないだろう。
 お客様はティッシュを選びつつ、
「今の若い子は『ちりし』って言わないのかい?」
「そうですね、ティッシュって言うことが多いですね」
「ふーん、時代かねえ」
 彼女が二度三度と頷き、ようやく決めたらしい二つティッシュを手に取ると、腑に落ちないといった感じで呟いた。
「みかんをオレンジって言うようなもんかねえ」
「……そうですねえ」
 その例えはどうだろうという気はしたが、否定して長引かせるのも面倒だった。



 後日、この『ちりし』のお客様の話を田中さんにしたところ、「私はティッシュって呼んでるわよ、まだ若いから」と胸を張られた。
 ちょっと萌えた。



 ~ やる気スイッチ ~

 閉店時刻が近くなると、自然と客足も少なくなってくる。
 店内BGMが少し大きく聞こえてくる時間帯でも、時折家族連れが来ることがある。広い店内に小さい子供が興奮して走り回ったり大声で叫んだりすることもあるが本気でやめてほしい。迷惑というのもあるが、重いものを持って歩くこともあるので、とにかく危ないのだ。
 そんな子供にイライラしつつ(今いるのだ)、棚上在庫を棚に補充する作業をする。
 明日明後日と通しなので丸三日仕事漬け、今日の叱責のメールといい落ち込む要素には事欠かず、気力の湧かないまま棚上からお菓子のケースを下ろす。
 ふう、とため息しつつ、何となく聞き覚えのあるフレーズを呟いた。
「……やる気~スイッチ俺のはどこにあるんだろ~」

「カンチョー!」
「アウッ!」

 ガキが俺の尻にカンチョーしやがった!
 悶絶しつつ尻を押さえて振り返ると、颯爽と店を出ていく小学生らしい子供の姿が見えた。
 涙目に見送り、ぼそりと呟く。

 ――くそ、俺のやる気スイッチは肛門じゃねーぞ……。



 ~ やる気スイッチ その二 ~

 翌日月曜日。
 今日は開店と閉店の両方をしなければならないので、九時前に店についた。
 いつも九時に来るバイトの子と二人で、日配品の品出しや清掃などの朝の作業をやることになっている。
 のだが。
 バイト来ねえ!
 今日来る予定の北村君(大学生)はあまり勤務態度の良い子ではなく、今までにもこうした遅刻・無断欠勤があった。俺も店長も不安視している子ではあるが、人手不足の当店にクビにする余裕はない。
 店長に緊急連絡したところ、『田中さんに早く来てもらって、それまでは今村君がレジ入ってて』というお返事をいただいた。要するに『しばらく一人で何とかしろ』ということらしい。
 で、開店してからかれこれ一時間近く一人で店を回している。そろそろ田中さんが来てくれる時間なのだが。
 と、レジにお客さんが並んだ。
 昨日の『臭い客』と似たような若干汚い服装で、おそらくホームレス。歳は五十近いおっさんだが、微妙に化粧をしている。
「あ、いらっしゃいませー」
「あら、可愛い子ね」
 だみ声の女喋りに、背筋が震えた。
「どお? あたしと遊ばない?」
 
 ――ヤル気スイッチ入ってる!?

「――っ、失礼いたします!」
 脱兎のごとくレジを抜け出し、ちょうど来てくれた田中さんにレジへ入ってもらう。
 遠目から何事もなくオカマ客が帰っていくのを見届け、安堵の息をついた。



 ……二日連続でお尻の危機とか、なんなんだよこの店。



 ~ 同期とシモネタ ~

(あー、それは大変だったねえ)
「でしょ? 白澄さんもそう思うよね」
 十一時を少し回ったところで来てくれた田中さんとレジを代わると、同期の白澄さんから電話がかかってきた。赤眼鏡が印象的なほんわかした子で、まだ店舗配属にはなっておらず、店舗応援としていろんな店を転々としている。
 ちなみに彼女の言う『大変だったねえ』はお尻の話ではない。
(でも無断欠勤する人なんて本当にいるんだねえ。わたしも店舗配属になったらそういうこともあるのかなあ)
「あるかもなあ。わかんないけど」
(あはは)
 電話の目的はうちの店長と連絡を取りたかったからだが、いないことを告げるとそのまま同期トークに突入してしまった。
(ところでさ、大丈夫?)
「え、何が?」
(声が疲れてるっていうかさ、研修の時と比べて元気なさそ。この前の飲み会も結局来れなかったし)
「……あー」
 一か月くらい前に、同期十数名で集まっての飲み会があった。元々俺も参加するつもりだったのだが、その時も緊急出勤を余儀なくされ、やむなく欠席となった。楽しみにしていたのに……。
「まあ、ね」
(無理しちゃだめだよ? 体が一番大事なんだから)
「あはは」と渇いた笑いが漏れた。そんなこと言っていられる状況じゃない。
 一度、店長に品出しが間に合わず次の納品でバックヤードが溢れてしまうという緊急連絡をしたことがある。その返事がこれだ。
『ん~、なんとかして~?』
 できねーから言ってんだよ! という暴言を喉元ギリギリで抑え込み、結局バックヤードに入りきらなかったパレットは売場に置いて、その日の夜と翌日早朝に(タイムカードを押さずに)出勤し全て片付けた。
 よく考えると、まともに休んだのって何日前だ?
(……そうだ、今村君水曜って休み?)
「えっ、ああ、確か」
 何事もなければ、というのは飲み込んだ。
(したらさ、映画見に行かない? わたし見たい映画あるんだけど、一緒にどうかなって。ちょっと骨休め的な感じにさ)
「行く!」
 白澄さんとデート! 多分彼女はそんなつもりはないだろうけど、俺の中ではデート確定!
(ホント? やったあ! じゃあ詳しいことはまたメールするね。あー、なんか今村君と会うの久しぶりな気がするなあ)
「俺が配属される前だから、もう二か月ちょいくらいかな」
(もうそんな経つんだあ。凄いなあ、そんな早くに店舗任されるなんて)
「凄かないよ。今もミスばっかりだし」
 昨日も『論外です』って言われたしな。
(そんなことないよ。わたしも昨日店長に怒られちゃって)
「なんで?」
(アイスの冷蔵什器の冷え方が悪いってことで、霜とりしたんだけどね、なかなかとれないからドライバーでガリガリやったら、壁に穴開けちゃって。もう店長にこっぴどく怒られちゃった)
「あはは……」
 ドライバーはダメだろ。
 少し話した後、電話を切る。
 明後日は白澄さんとデート。うし、うしと右手をぎゅっと握りしめ、久しぶりにテンションを上げてから売り場に戻った。

 ちょっとした『霜ネタ』というお話。



 ~ 客注 ~

 すいません、と声をかけられ、品出し作業の手を止める。
 そこにいたのは、近所の保育園のエプロンを着た三十歳くらいの女性だった。
「はい、何でしょうか」
「今度お泊り会をする際の飲み物を大量に欲しいんですけど、大丈夫ですか」
「はい、ありがとうございます」
 この店はとにかく飲料が安い。自販機やコンビニで買うのが馬鹿らしくなるくらいに安い。そのため、車で来て飲料をケースで買っていくお客様は多く、売り場には二段の什器に上はバラで、下はケースで積んである。
「それで、どちらをお買い求めでしょうか?」
 彼女の説明によると、上限金額と必要数量は決まっているらしい。また欲しいのはペットボトルで、缶では買いたくないということだった。
「今ここに並んでいる商品で基本的には全てですので、ここにあるものでしたらすぐにでも販売できます。ここにない商品や、それ以上欲しいという場合には、バイヤーに発注可能かどうか確認をとらなければならないため時間がかかります」
 ここをちゃんと説明しておかないと、後でやっぱり商品が来ませんでしたではクレームになる。
「ええと、このスポーツドリンクが二ケース、炭酸が一ケース、ジュースを四ケース、だと一ケース足りないかあ。なら炭酸一ケース増やして……あ、予算オーバーしちゃった。ジュース一ケース減らして、代わりにスポーツドリンク一ケース、だとなんか偏っちゃうかなあ。あっ、これも美味しそう。でもちょっと高いし……」
 早くしろよ。
 やらなければならない作業はいくらでもあるのだ。表面的には作り笑顔を貼りつけているけれど。
「あのー、これって一ケースしかないんですか?」
「そうですね、これ以上ですとバイヤーに相談して、ということになります。もしかすると、もうセンターにも在庫がないかもしれませんので、確実に入ってくるとは言えないですね」
 他店の在庫を振り替えてもらう、という選択肢もないではないが、在庫があるかいちいち確認するのも面倒くさいし、それでも確実とは言えないのだから、説明する必要はないだろう。
「うーん、でもなあ、うーん……」
 ちらりと時計を見ると、すでに二十分近く過ぎていた。対応中一度もレジに呼ばれなかったのは幸いだが、逆に言えば作業に集中できる時間を全てこのお客様一人に取られたと思うと余計にイライラする。
 とはいえ、大量に買っていただければ売上も上がる。おろそかにはできない――
「すいません、ちょっと相談してからまた来ますね」
 買わねーのかよ! 



 ~ 終わらない作業 ~

 朝番・午後番・夜番と分けるとすると、午後番の人はおよそ十四時から十九時まで働いてもらっている。なので、休憩はスムーズに行けば十七時から三十分入ってもらうのだが、作業が長引いてしまったときなどは、ちょっと遅れて入ってもらうこともある。
 今日はチラシ前ということもあり、納品の量が増えて余計に忙しい。
「すいません、今日の休憩、十七時半からいいですか?」
 田中さんが休憩に入ってしまうと、自分がレジをしなければならない。だが、今納品が来たらバックヤードがパンクする。やらないわけにはいかない。
「おけっ」
 ブイサインで答えてくれる田中さんに「すいません」と詫び、また商品陳列に戻る。

 十七時半になった。
「……すいません、あと十五分、もらっていいですか?」
「あららあ、大変ねえ。こっちはだいじょぶよん?」
「ありがとうございます、助かります」
 三時間以上レジに立たせっぱなしだ。流石に申し訳ない。できるだけ早く片付けなければ……。

 あれから十五分経った。
「……ホント申し訳ないです、十八時までには、必ず休憩入れますので」
「しょーがないって、今回は私がお客さん並べちゃったからだし」
「……すいません」
 これ以上遅らせるわけにはいかない。意地でも終わらせなきゃ……。

 十八時になった。店頭にライトがつき、程なくして納品のトラックが来る。
「……田中さん、ホントにホントに申し訳ないです。後でぶん殴ってもらって構いませんので、どうかもう少しだけ俺に時間をください」
 もうすでに本来の休憩予定時刻を一時間も超えている。田中さんは十九時に上がるので、下手をすれば休憩なしか、休憩してもらった直後に退勤ということになりかねない。そもそも四時間ぶっ続けでレジを打たせているわけで……。
 お客さんが途切れたところで、俺は田中さんに直角になるまで頭を下げている。
 俺ならキレるような状況に、田中さんも間があった。いくら彼女が優しくても、いい加減怒っていいはずだ。むしろ怒ってほしい。こんなダメな上司で申し訳ない、穴があったら入るからそのまま埋めてほしいくらいだった。
「……今村君」
 少し低くなった声に、ビクリと背中が震える。降り注ぐ怒りの声を受け止めるべく、ぐっと奥歯を噛みしめた。
「ご飯は食べた?」
「はっ?」
 思わず顔を上げると、いつもの優しい笑顔を浮かべた田中さんがそこにいた。
「忙しいから休憩できないのはしょうがないけど、食べるものはちゃんと食べないだとダメよ? お腹が空いてたらどんどん悪い方向に考えちゃうから。私は休憩なくたって大丈夫だから、今村君が何か食べないと。ね?」
「田中さん……っ!」
 作業が終わらず、パートさんを休憩に入れてあげることさえできない俺に、こんな優しい言葉をかけてもらう権利があるのだろうか。
 こみ上げてきた涙を押し戻し、思いっきり頭を下げる。喉が詰まって声が出なかった。

 何がなんでも彼女を休憩させるべく力を尽くし、どうにか田中さんを休憩させ、バックヤードもパンクさせずにすんだ。
 田中さんには、どれだけ感謝しても足りないと思う。



 ~ 思いもよらぬこと ~

 十九時になり、田中さんと入れ替わりで千石がレジに入った。
 ハイペースで仕事したこともあり、とりあえず一呼吸入れることにする。
 飲料はうちの店に置いてあるものの方が安いが、混んでいる場合などはレジを考慮し店舗裏の自販機で購入するのが暗黙の了解となっている。流石に昼食用の弁当やカップラーメンなどは店で買うが。
 とりあえず飲み物だけでも、と自販機に向かい、百円を入れて何を飲むか考える。お茶類は苦手なので、少し悩んだ末リンゴジュースを押す。

 午後ティー出てきた。

「……!?!?」
 自販機と午後ティーを二度見三度見する。いや、確かにリンゴジュース押したんだけど。
 不思議に思い、もう一度百円を入れてリンゴジュースを押す。
 今度はちゃんとリンゴジュースが出てきた。
「……???」
 ひょっとしたら知らないうちに押し間違えたのかもしれないし、業者が入れ間違えたのかもしれない。だが……。

 ……人生には、時々思いもよらぬことが起きる。



 ~ 客注 その二 ~

 水が四パレット来た。
 パレットというのは商品を乗せて運ぶカゴ車のことで、大きさは二リットルペットボトルが六本入ったケースが三十六ケース乗るくらい。それが四つ。さあ水は全部でいくつでしょう?
 数えるのも嫌になる数だが、全て一人のお客さんが注文した商品だ。
 こんな量バックヤードに置いておけないので、早々にお客さんに連絡し買いに来てもらう。
「もしもし、鈴木様でいらっしゃいますか? 先ほど、ご注文されました水が届きましたので、ご連絡させていただきました」
(……あー、そのー)
 どこか歯切れの悪い話し方に、「お客様?」と問いかける。
(いやー実は、もっと早く安く売ってくれるお店が他に見つかりまして、そちらでもう買ってしまったんですわ。だからそれはキャンセルで)
 言い返す間もなく電話は切れた。
「……マジかよ」
 水が四パレットである。夏だから売れる商品とはいえ、とにかく数が多すぎる。バックヤードも圧迫するから、一度に売れないとなった以上とにかく売場に出すしかない。少なくとも明日以降の納品でパンクしない程度に減らさないと――



 工夫二割、根性八割で頑張った結果、一パレは普通に(多少棚前にはみ出してはいるが)出し、一パレは事務所に置き、一パレ分は棚上に置ききった。
 一メートル八十センチの棚の上に、縦に四段横に九列で計三十六ケースの二リットル入り水が並ぶ。脚立に上らなきゃ届かない高さに自分のアホさ加減を疑うが、もうしょうがない。よく見れば爽快な眺めじゃないか。滅多に見れないぞこんなの。
 一パレはバックヤードに置いてあるが、この程度ならバックヤードがパンクすることはないはずだ。
 棚上の三十六ケースの水を眺めつつ、千石に「どうだ」と胸を張って見せる。

「バカじゃないの?」

 ごもっともです。俺の中の常識と良心が有無を言わさず同意した。



 ~ 思いもよらぬこと その二 ~

 千石はレジが遅いわけではないが、客が並んでも俺を呼ぼうとしない悪い癖がある。一度お客さんが並び過ぎてクレームになりかけたことがあったから気を付けているが、注意しても曖昧な返事をするだけで改善される気配はない。
 まあ、おかげで自分の作業に集中できるんだけどね。
 一人ごち、売り場に出したパレットから一番上にあった商品を取り出す。形からしてカップラーメンのようだが、ダンボールの絵に見覚えがないのでおそらくスポット商品(定番ではなく、限定的に入ってきた商品のこと)だろう。定番商品のように決まった売場がないので、どこに出そうか考えつつ賞味期限をチェックする。
 今日だった。
「……!?!?」
 もう一度確認するけどやっぱり今日が期限。商品の量はなんと十ケース、百二十個。
「……マジかー」
 時々こういうアホな納品をすることがあるが、まさか今日期限を持ってくるとは。後たった三時間で百二十個売り切れると思ってんのか? アホめ。
 心の中で悪態をつきつつ、それでも出さなきゃ一つだって売れないのだ。
 まあ値段は十九円と安いし(原価二円てマジか)、レジ前に置いときゃ多少は売れんだろ。
『本日期限につき大特価!』と表記したポップをつけてレジ前に置く。残り四時間で賞味期限が切れるラーメンに、千石がため息をついた。
「……売れんの? 全部」
「さあ。まあ、最後は俺が少し買うよ」
 正直一人暮らしにはありがたい。期限ちょっと過ぎたくらいなら構わないしな。
 


 ……二時間後。
「あれ、ラーメンは?」
「売り切れた」
「マジで!?」



 ~ 仕事中だけどバイトとちょっと雑談しました ~

『ドМ、お好きですか?』
『はい、大好きです!』
『僕もです! あの這いつくばって媚びへつらうあの姿がたまらなくて!』
『わかるわ! ヒールでグリグリやるときなんか、もう最高!』
『いいですねヒール! 僕なんかは逆に、わざと弱めに平手打ちして、「もっと強く……」とか相手に言わせるのが好きですね!』
『ああ、想像するだけでゾクゾクするわ! こんなに共感できる人初めて!』
『僕もです! 僕たち相性抜群ですね!』
『もう私たち、付き合いましょう!』

「……っていうカップルがいたら、絶対別れるよね」
「仕事しろ(怒)」
 怒られちった、てへぺろ。



 ~ 未成年と思われるお客様にお酒をお売りすることはできません ~

 事務所で伝票処理をしていると、お客様が事務所に入ってきてしまった。四十くらいのちょっと太めなおばさんだ。
「申し訳ありません、こちらは従業員以外立ち入り禁止となっております」
「あの、止めた方がよくないですか?」
「はいっ?」
「なんか、レジの子とガラの悪い子たちが揉めてるんです」
「げっ、ちょっと失礼します」
 売り場に戻ると、「だから言ってんだろうが!」と怒声が店の端まで聞こえてきた。続いて、「何度も言ってんでしょうが!」と怒鳴り返す千石の声が響く。
「未成年にはお酒は売れないの! わかったらさっさと帰れ!」
「俺らもう二十一だっての!」
「じゃあ身分証明書見せなさいよ!」
「持ってきてねーんだよ! 客がそうだっつってんだから信じるのが筋ってもんだろ!」
 大声で言い合う険悪な雰囲気に、回りのお客さんもおびえて遠巻きに成り行きを見守っている。
『ガラの悪い子』の二人組は、口にチェーンがついてたり肩にタトゥーが入っていたりと確かに健全な青少年には見えないが、二十歳未満には見える。二十歳未満と『思われる』お客様には身分証明書の掲示を求めるため、例え実際には二十歳を少し上回っていたとしても身分証明書の掲示を求めるのは間違っていない。
「そんな青臭い顔で二十歳超えてるわけないでしょ! バカじゃないの!」
「てめ……それが客にする態度かよ!」
 まずい、どっちも熱くなりすぎてる。
 今にも手が出そうな雰囲気に、意を決して真ん中に飛び込んだ。
「もーしわけありません! 申し訳ありません!」
 口にチェーンした方のガラ悪い子が、胡乱気に俺を見る。
「ああん? 誰あんた。店長さん?」
「いえ、店長はただいま留守にしておりますので、私が今の責任者です」
「ふーん」
 ジロジロと不躾に俺を見定めると、
「まあいいや。ところで、何この女。客に向かって何ほざいてんの? こんなの店でやっていいのかよ」
「は、誠に申し訳ございません」
 深々と頭を下げると、千石が声を荒げた。
「はあっ!? わたしは悪くな――」
「黙れ!」
 一喝して黙らせ、頭を鷲掴みして力づくで下げさせる。
 彼女が悔しげに歯噛みしている様子が、掴んだ手に伝わってきた。
 二人して頭を下げる様子を見てか、わずかに上機嫌になったガラの悪い子が声を弾ませる。
「……まあ、ちゃんと教育してくれりゃあいいよ。さっさとレジ済ませてくれ。早く飲みたいし、回りのお客さんのご迷惑にもなってるしな。オレ超気ぃ使ってね?」
「うっせえよ」
 ゲラゲラ笑い合う『ガラの悪い子』達に、はっきりと、売り場の端まで聞こえるように堂々とした声で言い切った。
「それはできません」
 瞬間、二人の顔が引きつる。
「ああん?」
「当店では未成年と思われるお客様には身分証明書の掲示を求め、できないお客様にはお売りすることができません」
 千石の頭を離し、なおも頭を下げ続ける。
「何言ってんだお前、さっき謝ったじゃねえか」
「それは彼女の言い方や態度がお客様に対するものではなかったからです。私の教育が至らなかったことに対し、心からのお詫びと再教育をお約束いたします。しかし」
 ばっと頭を上げ、真正面から二人を見据える。
「彼女の言い分は何一つ間違いなく、私の命令を忠実に守ったにすぎません。私は彼女の名誉を守るため、何があろうと身分証明書の掲示がない限りお客様にお酒をお売りすることはできません!」
 一歩たじろぐ二人に、声を押さえて付け足す。
「もしまだご不満があるのでしたら、警察を呼んで正当な判断を伺いますが」
 警察、という言葉がとどめを刺したのだろう、ガラの悪い子は「二度と来ねえからな、こんなクソ店!」と捨て台詞を残して店を出ていく。それを見送り、店内放送を利用してお騒がせしたお詫びをすると、ほっとしているんだが怒っているだがわからない表情の千石に詰め寄った。
「お前さあ、お酒のクレームは捻じれやすいから、さっさと責任者呼べって言ってるだろうが」
「だって、なんとかできると思ったから……」
 いつもより語気が弱い。なんだかんだで怖かったようだ。まったく。
「実際できなかったろ。レジが混んでもなかなか呼ばないし」
 頭を掻き、「……そんなに俺は頼りないか?」と、心なし自信のない声が漏れた。
「ち、違う!」
「じゃあなんでだよ」
 彼女はぐっと詰まると、弱々しくなった声で呟いた。

「だって……いつも忙しそうだから」

 ――グサリと、体の深い所に言葉が刺さる。
「わたしが頑張ればさばけるんだし、呼んだら余計面倒かけちゃうから」
 天井を仰ぎ見る。ついでため息が漏れた。
 ……そうか。そうだな。こいつは仕事はちゃんとやる、責任感もある。呼ばないのには、呼ばない理由があったんだ。しかも理由が俺なんだから、情けねえなあ、ホントに。
 こいつにはきっと、「それで困るのはお客様だから」とか言ったって、聞いたりしないんだろうな。それはわかってんだから。
 だから、こう言いかえよう。
「千石。俺に面倒をかけるのは、悪いことじゃないんだ」
 自分でもまとまっていない言葉を、一つ一つ丁寧に整理しながら口にしていく。
「いつかそう遠くないうち、俺の力不足とかミスとかで、お前に面倒をかけることがあると思うんだ。でも、いざ頼もうと思ったときに『私は私の仕事のちゃんとやってます』とか言われたら、頼みにくいだろ? だから、今のうちに俺に仕事を押し付けてくれ。面倒をかけてくれ」
 つまり、と唾を飲み込む。意外に大きな瞳が、俺を真っ直ぐに見つめていた。
「いつか助けてほしいから、今は貸しを作らせろってこと」
 ……なんだか、ずいぶん恥ずかしいことを言った気がする。
 くるっと背を向け、作業に戻る。
「じゃ、今度からはちゃんと呼べよ!」
 ビシッと最後に指さし、返事を待たずに駆け出す。

 俺の言葉が効いたのかどうかはわからないが、その後何度かレジに呼ばれたから、多分わかってくれたんだと思う。



 ~ 退店後 ~

 従業員入り口の鍵を閉め、セ○ ムをセット。
 今日一日の作業がようやく終了し、ぐっと背筋を伸ばす。早めに切り上げたおかげか、まだ終電には余裕がありそうだ。走らなくても大丈夫そう。
 さっさと自転車にまたがる千石を、「ちょいマテ」と呼び止める。
「なに?」
 ジロッと睨みつけてくる顔の前に、午後ティーを差し出す。
「お疲れ様」
「……何? これ」
「午後ティーだよ。見りゃわかるだろ」
「なんでそんなもの。わざわざ買ったの?」
「ん、まあね」
 ホントは自販機で間違って出てきたやつだけど。
 彼女は渋々、という感じに唇を尖らせた。
「……ありがと」
「どーいたしまして。まっ、今日は色々あったからな、疲れただろ」
 彼女が午後ティーに口をつけると、何となく残る雰囲気になってしまった。幸い終電にはまだ時間があるし、「あのさ」と話しかけてみる。
「……確か、明日も入ってるよな」
 特に話題が思いつかず、仕事の話が出てきた。良く考えたら、こいつの趣味とか全然知らないんだな。
「んー、まあね。夏休みだし」
「そうか、なら明日もよろしくな」
 会話終了。やっぱり俺、こいつ苦手なのかも。
「アンタさ、こんなゆっくりしてていいの? 終電は?」
「今日は早めに上げたから、まだ大丈夫。なに、チャリで送ってくれんの?」
「はあ? なんで私が」
 眉を顰めた彼女に、「だよな」と特に気にすることもなく返す。
「……でも、どーしてもって言うなら――」
「っと、悪い、電話だ」
 誰だ? 店長か? ゲッソリしつつ取り出すと、『白澄』の表示にテンションが上がる。
「白澄さん! お疲れっす!」
(うん、お疲れ様ー。今大丈夫?)
「おけおけ! なになに?」
(明後日の映画のことで。だいじょぶそう?)
「おけです! もちろん!」
(おー、良かです良かです!)
 それからしばらく、待ち合わせや見る映画の簡単な説明を受けた後、電話を切った。
 明日行けば休み、そしてデート! 久方ぶりのテンション上昇に両拳を握り締めると、千石が冷ややかな目で見つめていた。
「千石? どした?」
「……別に」
 冷たく言い放つと、自転車にまたがりさっさと行ってしまった。
「……怒らせるようなこと言ったかな、俺」
 ぽりぽりと頭を掻き、駅へと歩き出す。終電までにはまだ十分に時間があった。



 ~ お客様は神様ですか? その二 ~ 

 チラシの前日ともなれば、いつもよりも忙しくなる。
 売場作成作業、チラシ掲載商品棚卸、納品数も通常時よりずっと増え、作業を終わらせるためには走り回らなければ到底間に合わない。いつも走ってるけど。
 朝に来た納品が十二パレット、夕方にはおそらく同数くらいのパレットがまた来てしまう。それまでに納品を片付けつつそれをやれねばならないことを考えると、休んでいる暇はない。
 のだが。
(業務連絡いたします、二番機解放お願いします)
 田中さんの店内放送を受け、売り場で棚卸をしていた手を止めレジへと向かうと一昨日の臭い客がいた。換気のために呼ばれなかったのは、俺が見える範囲にいなかったので、放送で呼ぶのをためらったからか。流石に店内放送で『臭い客が来たので換気をお願いします』とは(オブラートに包む言い方をしたとしても)言えないだろう。
 渋くなりそうな顔をどうにか取り繕い、二番目に並んだ別のお客様の買い物カゴを二番機に持ってきて会計を始める。
 幸いそんなに混んではおらず、二人ほどレジを打ってお客が途切れた。
 ふう、と一息つくとちょうど田中さんが臭い客のレジを打っているところで、今日は飲み物やパンのほか、ズボンと下着を買っていた。田中さんのテンションが見るからに低い。
 臭い客はレジを済ますと、サッカー台に腰を下ろした。お客さんはいないタイミングだったので何も言えなかったが、あまりいい気分ではない。
 少しして臭い客が離れ、入れ違いに一昨日『なんか臭い』を連呼した子供と母親が店に入って来た。子供がきょろきょろした後サッカー台に向かう。俺も視線をそちらに移すと、臭い客が座っていた場所に落とし物らしき物があり、近づいてみる。
 その落とし物を見て、子供が叫んだ。

「うんこだ!」

 うんこ、うんこと連呼しテンションマックスな子供を、母親が口を塞いで無理やり遠ざける。
 まさかと思いつつ、距離をとりながらそれを覗き込む。

 うんこだ!

 大人として流石に声には出さなかったが、あまりの衝撃に開いた口が塞がらない。でも鼻は塞ぎたい。切実に臭い。
 うんこの処理を田中さんに任せるわけにはいかないので、自分で処理するべく急いでグルグル巻きにしたトイレットペーパーでふき取った後、雑巾で何度もこする。周囲から感じる目線が超痛い。

 ……何やってんだろう、俺。

 今後仕事を続けるか続けないかというレベルで考え込んでしまった。



 ~ 仕事中だけどパートさんとちょっと雑談しました ~

『僕、実は男が好きなんです。でも誰にも理解されなくて……』
『わかります、私も女性しか愛せない女なんです』
『ああ、あなたもなのですか。切ないですね、愛した人にさえ理解されないというのは』
『ええ、あなたの気持ち、痛いくらいだわ』
『嬉しいです。僕の気持ちをわかってくれるのは、もうあなたしかいません!』
『私も同じ気持ちです! 私を理解してくれるのはあなたしかいません!』
『好きです! レズ美さん!』
『私もです! ホモ太さん!』

「……っていうカップルがいたら、全部丸く収まると思いません?」
「そうかもねえ(苦笑)」
 こんなろくでもない話を真面目に聞いてくれる田中さんマジ天使。



 ~ 思いもよらぬこと その三 ~

 客商売に従事していれば、時に理不尽なクレームにさらされる。
 そのクレームは、四時を過ぎてややお客さんが減ってくる時間帯に起きた。
 普通に「いらっしゃいませー」と挨拶する。

「うるせえ!」

 ……もう挨拶できないよぉ。



 ~ 思いもよらぬ新商品 ~

 ウサ耳始めました。
 いや冷やし中華じゃないんだから、と突っ込んでじっと手元のウサ耳を見つめる。
 田中さんの休憩も終わり、入れ替わりにレジから事務所に戻ってきた俺は、ふと新しく入ってきたパレットの中に面白そうなものを見つけて引っ張り出したら、それがウサ耳だったのだ。
 ヘアバンドにくっついた耳は二十センチくらいで、ピンと立っているものもあれば垂れているものもある。色はいずれもピンクだ。
 ……確かにこの店は時々おかしなスポット商品を入荷してくるが、しかしウサ耳というのは初めてだ。値段は二百円、おお安い!
 こっそり買ってしまおうか。そして明日のデートで白澄さんにつけてもらおう。
『え~、恥ずかしいよ~』
 と顔を赤らめつつ、でもつけてくれて、
『どう、かな?』
 なんて言われたら、もう……!
「……いや、ここはあえて千石にという手もあるな」
 当然嫌がる千石をあの手この手でどうにか納得させ、嫌々ながらもつけさせる。
 真っ赤になった顔を背けつつ、でも俺に弱いところを見せまいと虚勢を張り……
『見、見るな、ばかあ……』
 おお! 悪くない、悪くはないぞ! 俺の中であいつの好感度がめっちゃ上がった!
 実際外見はそれなりに可愛いからな。シチュエーションと性格がかみ合えばイケる素材なんだ。
 ふう、とため息しつつ、手にしたウサ耳をどうしようか考える。
 ……とりあえず装着。
「おつかれさまです……あ」
「あ」
 振り返った先に、ちょうど今来た千石が立っていた。今日のTシャツの文字は『殺人鬼』。接客業で着てくんなよ。
 そう言いたいけど、俺ウサ耳装備中。
「……」
「……」
 無言で見つめ合う数秒の後、彼女はポツリとつぶやいた。
「……変態」
「ごめんなさい……」
 蔑む彼女の眼が怖くて、反論できませんでした。

 ウサ耳を外し、千石が来たことを伝えようとレジに向かったところで電話が鳴った。もうレジまで来ていたので、レジ内の電話で受話器を取る。
 店長からだった。
(もしもしー、僕だよ。今大丈夫?)
 明らかに面倒そうな何かだ。
 少し考えてから「……ダメです」と答える。
(うん、すぐ済むから)
 結局言うんかい。
(実はさー、チラシに載ってるベビー用品で、什器を一本増やさなきゃいけなかったんだって。で、今日中にそれやってほしいんだ)
「はあ? そんな時間ないっすよ、ただでさえチラシ前で作業たまってんのに、納品だって来てますよもう」
 ウサ耳つけてニヤニヤしてたのは秘密。
(それはまあ、田中さんにちょっと残ってもらってさ、千石さんと二人がかりでやれば一時間かからないはずだし。詳しい作業内容はメールするから)
 言い返したところで電話が長引くだけ。「わかりました」と短く言い捨て、電話を切る。
 話の内容を察したのか、田中さんが不安気な目で見ていた。
「すいません、急に作業が入っちゃって、一時間だけ残業してもらっていいですか?」
「えー」と不満げに口をとがらせたものの、すぐに「しょうがないなあ」と笑って応じてくれる田中さん。慣れてしまいそうな自分が許せない。
 ありがとうございます、と深々頭を下げ、作業内容を印刷した紙を持ってレジを離れる。
 作るのはベビーの什器か。おむつが多いから、確かにそう時間はかからないかも。
 そんなことを思いつつ、ちょうど売場に出てきた千石を呼び止める。
「千石悪い、ちょっとレジの前に別作業頼む」
「なに?」

「俺とベビー作ってくれ」

「けだものっ!」
 拳が俺の眉間を打ち抜いた。



 ……後になって思う。あれは俺が悪かった。



 ~ 働く理由と、働く意味 前編 ~

 閉店まであと一時間、というところで電話が鳴った。
 チラシ前日の夜という最も忙しい時間にかけてくんのはどこのどいつだ、と内心に毒づき事務所に向かう。苛立ちつつも冷静に「お電話ありがとうございます」とお客様対応の声を吹き込む。
(やっほい、僕だよ僕)
 忙しさを感じさせない店長の声に、うぜえと喉元までこみあげてきた。どうやら俺は自覚している以上に焦りを覚えているらしい。
「なんでしょう。ベビー什器なら終わりましたけど」
(え~とさあ、悪いんだけど、明日出てくれない?)
 なんでもないような言い方に、思わず「どこに」と言い返してから、店長の言葉を理解する。
「……えっ?」
(どこにって、やだな~、店に決まってるじゃない)
 店内BGMが途切れた。頭の中が真っ白になる。
「えっ? でも、明日俺休みで、店長が入ることになってたはずじゃ」
(そうなんだけど~、実は他の店ででっかいクレーム来ちゃって、謝罪しに行かないといけなくなっちゃったんだ。先方の指定した時間と場所を考えると、どうしても朝からってわけにはいかないんだよねえ。だから明日の夕方、十七時くらいまで。振替の休日はまた作るからさ)
 クレーム? 謝罪? なんだよそれ。
(ね? 頼むよ。それとも、なんか予定入れちゃった?)
 なんだよその言い方。予定があれば出なくて済むのか?
「はい」
(どんな?)
「それは……まあ、私用ですけど」
(明日じゃないとできないこと?)
 いちいち苛立たせる言い方だった。こう聞かれれば、「そんなことはないです」と答えるしかない。何しろ同期と遊びに行くだけだ。店に人がいなくなるかもしれないことを考えれば、どちらがより重たいかなど考えるまでもない。
 例えそれが、どんなに楽しみにしていたことであっても。
「……わかりました。出ます」
 言葉にした瞬間、体のどこかが千切れたような錯覚を覚えた。胸が痛くて、視界がぼやけて、うまく息ができない。たかが一回遊びに行けなくなっただけなのにと思いたいけど、そんな軽いものじゃないことを自分が一番わかっている。
 店舗配属から二か月、久しぶりに楽しみと思える明日だったんだ……!
(あっ、出られる? ごめんねー?)
 だから、店長の喋り方一つ一つが異様に俺の神経を逆なでる。
「ええ出ますよ。それじゃ」
 これ以上話していたら気が狂いそうだった。有無を言わさず受話器を置き、どっかり椅子に座り込む。
 ……まあ、社会人ならよくあることだろ。休みが休めなくなるくらい。
 白澄さんに詫びのメール入れて、また次回誘ってもらえばいい。いや、次は自分から誘うべきか。
 それよりまだ作業残ってんだよなあ。納品もあるし。
 やらなきゃ。やらないと作業が終わらない。そう思い立ち上がろうとするけれど、糸の切れた操り人形みたいに体が動かない。頑張らなくちゃという気力が湧いてこない。

 ……なんで俺、こんなことやってんだろ。

 ……こんな仕事続ける意味、あるのかな。

 ……もう、いいや。

 無気力、という言葉を実感した。
 結局俺は、閉店時刻を過ぎても売り場に戻ってこない俺を千石が呼びに来るまで、一歩も動けなかった。



 のろのろと閉店作業を済ませ、従業員口から外へ出る。夜だから当たり前だけど真っ暗だった。街灯の明かりがチカチカして鬱陶しい。
 時間は……ああ、多分終電には間に合わない。いいさ、漫画喫茶か、ないなら公園ででも寝ればいい。冬じゃないから死にはしないだろ。
 渇いた自嘲が漏れ、余計空しくなる。
 もう考えるのも面倒くさかった。
「ねえ」
 丸くなった俺の背中に、千石の鋭い声が突き刺さる。
「何かあったの? 最後全然売場にいなかったけど、チラシの作業終わったの?」
「……あー」
 肯定の「ああ」ではなく、ただ声をかけられたから応じただけの音だ。言葉でさえない。
「……ひょっとして、明日の休みがつぶれた、とか」
 千石は不審者よろしくニヤニヤしていた昨日の俺を知っている。勘付くのも無理はない、かもしれない。
 急に店長が夕方まで来れなくなったことを教えると、千石は大きくため息した。
 ついで勢いよく頭を掻き。
 俺の顔をちらちらと見ては目を逸らし。
「あー」と何か言いたげな様子を見せつつも口を噤む。
 今度はダンダンと地団駄を踏み始めた。
 何がしたいのかわからないので、もう帰るかと足を踏み出す。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ああ、もう!」
 何を思ったのか、彼女は思い切ったように大股に俺の前に立ちふさがった。
 俺の頭を両手でガッチリとホールドし、拳一つ分くらいの距離に顔を近づける。
 そっと近づいたらキスできてしまいそうだ、なんて無意識に考えていると。
 彼女はおもむろに自らの頭を後ろに仰け反らせ――
「――え?」
「うおりゃあ!」
 勢いをつけた額が俺のおでこを打ち抜いた!
「おごぉ!?」
 視界が乱れて体がよろけ、立っていらず膝をつく。痛みよりも何が起きたのかわからず、呆然と彼女を見上げるしかない。
 そんな俺の腹と腰に手を回し、自分のチャリの荷台に乗せると、自分はサドルにまたがった。
「……送ってあげる」
「……いや」
「送る!」
 きっぱり言い切られ、断る前に走り出してしまった。ぐらんと後ろに倒れそうになり、あわてて彼女の肩をつかむ。
 自転車はすごい勢いで歩道を駆け抜けていく。歩けば二十分はかかる距離だが、この分だと五分かそこらでついてしまいそうだ。
「……わたしが出るよ」
「なに?」
 猛スピードを緩めることなく、彼女は言った。
「明日。一応わたしも時間帯責任者だし、開店作業くらいできる」
「いや待て、お前も明日の夜入ってただろ」
「一日店にいればいいだけの話でしょ? あんたはもう三日それやってるんだし、わたしだってそのくらいできる」
「いや、でも」
 どんなに無能でやる気がなくても俺は店舗担当者で、店を回す責任がある。だが、パートさんやバイトたちにそこまでの責任を求めることはできない。それでなくとも、特に田中さんや千石には通常のシフトよりも多めに入ってもらっているのだ。
「自分で言ったんでしょ? 迷惑をかけてくれたら、後で面倒押し付けやすいって。今回貸し一つ、わたしに頂戴」
「……本当にいいのか?」
 千石に押し付けて、本当にいいのか。彼女と、そして自分にも問いかける。
 白澄さんと遊びに行ける誘惑は、如何とも抗いがたい魅力があった。
「後でアイス奢ってよね」
 最後まで俺を見ないでそう言った彼女に、俺は「わかった」と答えた。



 ~ 働く理由と、働く意味 後編 ~

 家についた俺は風呂につかり、買い置きのカップ麺で夕食を済ませたところで睡魔に襲われた。考えてみれば丸三日、十五時間労働を続けていたのだ。通勤時間を入れれば二十時間近く、全部でざっと六十時間。疲労はピークに達していて、実際千石に代わってもらっていなければ仕事にならなかったかもしれない。
 財布に軍資金となる五万を投入し、敷布団だけ引いて飛び込む。目覚まし時計をセットしなかったのは久しぶりだ。
 仕事をすればミスばかり。パートさんやバイトには迷惑かけっぱなしで、あろうことかパートさんやバイトに仕事を押し付け自分はのうのうと遊びに行く。サイテーだ。
 自嘲混じりに、千石が代わりに出勤してくれることを店長に伝えるメールに、『自分はこの仕事を続けていいのでしょうか?』と書いて送信した。



 朝起きて、時計を見る。時刻はもう九時を回っていた。咄嗟に遅刻だと背筋が凍るが、休みだということを思い出してほっと息をつく。休みが久しぶり過ぎて体が慣れない。
 とりあえずパソコンをつけ、ネットを見る。
 さあっと血の気が引いた。
 浄水場から放射性物質が見つかり各地で断水が起こっているというニュースに、あわてて詳細をチェックする。
 ――ここ、うちの店の近くだ!
 断水地域を改めて確認すると、確かに店も入っていた。
 店舗で水が使えないのは、良くはないが大したダメージはない。トイレに使用不可の紙を貼り、お湯が出ないので昼食用のカップ麺をパンにしてもらえば済むことだ。この程度なら電話すれば済む。問題はそこじゃない。
 断水しているということは、水が爆発的に売れるということだ。
 ただでさえチラシ初日で客数増加が見込まれるのに、水を買うお客さんでさらに増えていく。水そのものは売り場に出ているし、客注キャンセルでバックヤードにも在庫は大量にあるし、そもそも需要が急激に増大するので欠品しないなどあり得ない。それはもう仕方ない。
 問題は、棚上に水をケースごと置いておいたことだ。
 百八十センチの棚の上に、水が三十六ケース、お客さんにも見える位置に置いてある。当然これも売れと言われるだろう。そのとき店舗にいるのは千石だ。もう一人のパートさんも女性で、腰を悪くしているから重いものは持てない。小柄な千石が、三メートル近い場所にある重たい水のケースを、果たして無事に下ろせるだろうか?
 いや、例え下ろせたとしても時間がかかり過ぎる。レジは当然混むだろうが、二人しかいないからどうしたってさばけない。
 目をつぶり、そんな状況を想像する。
 険悪な雰囲気の中、一人棚上の水とレジを往復する千石。中には口汚く罵倒するお客さんもいるかもしれない。そんな中で、彼女が頼れる人間はいない。
 そんな状況、許すわけにはいかない。

 ――店に行こう。

 最悪のイメージにいる千石の姿を想像すると、自分でも驚くくらいあっさり結論が出た。昨日はあんなに落ち込んだというのに、今はむしろ晴れやかにさえ感じる。なんでなのか、自分でもよくわからない。
 ささっと支度を済ませ、電車を使っては間に合わぬとタクシーを呼ぶ。幸い軍資金は五万ある。
 家を出る寸前、白澄さんにメールを打とうとして、電話に切り替えた。コール三回でつながる。
「もしもし、白澄さん? ごめん、今日行けなくなった」
(ふぇ? どうして?)
 寝起きっぽい彼女の声に、苦笑が漏れる。
「店舗が忙しそーなんだよね。そっち行かないとまずいから」
(……そっかあ、わかった。残念)
 しょぼんとしたのが声でわかった。やっぱり白澄さん可愛い。
(……うん、しょうがない。でも、元気そうで良かった)
「そう?」
(うん。一昨日話したときより声が弾んでる。何か良いことでもあった?)
「……ちょっとだけ、ね」
 うまく言葉にできないが、どこか吹っ切れたような、答えがおぼろげに見えたような、そんな感じだった。
(そっか)
 白澄さんはまるで自分のことのように、嬉しそうに笑った。



 店の前につくと、開店直後とは思えぬ人だかりができていた。
 タクシーの会計を済ませて中に入ると、案の定棚上に置いた水を脚立を使って懸命にとろうとしている千石が見えた。レジはレジで並んだお客さんが苛立った空気を放っている。
「千石!」
 近くまで行って呼びかけると、彼女は目を見開いた。
「よっ」
 手を挙げて声をかける。彼女はしばしぽかんとした後、ゆっくりと脚立を下りた。
 ツカツカと俺の傍まで寄ると、無言で俺のほっぺを両手で引っ張った。かなり全力らしく無茶苦茶痛い。
「な・ん・で、アンタがここにいるのよ」
「ひゃっへへひひょひょひゃひょーひゃひゃ」
「わかる言葉で言いなさい!」
 誰のせいだ!
 とにかく手を離せと引っ張る両手を叩く。満足に喋れるようになってから、
「心配だから来たんだろ。ほら、お客さん待ってるから。やるぞ」
 ぽんと背中を叩き、彼女に代わって脚立を上る。
 やはり水のケースは重く、一つずつ下にいる千石に渡す。
 最初の一つを渡したとき、彼女がかすかに嬉しそうだったのは、多分見間違いではないはずだ。



「何で来たのよ」
 朝の水ラッシュが一段落し、昼を過ぎてレジ担当者が田中さんに代わったころ。
 事務所まで連れてきて腕組みし、俺を正座させ、忌々しげに千石が舌打ちする。
「何でって、断水で客数半端じゃないと思ったから。実際俺いなかったらヤバかったろ」
 昼過ぎまでほとんどレジ二台がフル稼働していたのだ。三人いなければ作業は何一つ進まなかっただろう。棚上はもちろん裏から水を出すこともできなかったはず。
「それは、そうだけど……」
「大丈夫だって。今回はタイムカードも押したからサービス残業にもなってないし」
「……ぐむ」
「そーいえば、『わざわざ』心配して来てあげたのに、『ありがとう』の言葉ももらってないなあ」
「……むむっ、それはっ」
 ムキになって言い返そうとする千石に、「冗談だよ」と笑いかける。ついでに正座もつらいので立ち上がる。
「ありがとう。感謝してる」
「なっ……、はっ?」
「これからも迷惑かけると思うけど、よろしくな」
 口をわなわなとさせ、顔が真っ赤になる。やれやれ、素直な奴。いや素直じゃないからこうなのか?
「……何よ、急にやる気出しちゃって。気持ち悪い」
 目を逸らしぶつぶつ呟く千石に、心の中で答える。少し時間が経って、ようやくまとまってきた。
 ――多分、働く理由っていうか、意味が見つかったからなんだろうな。
 ――田中さんや、白澄さんや、千石。俺のことを心配してくれて、助けてくれたり、気にかけてくれたりしてくれる人がいる。一人で考え続けていた俺に、一人ではないのだと教えてくれた人がいる。
 ――そんな人たちのために頑張るのなら、悪くはないんじゃないかなと思えた。
「……うん、ありがとう、千石」
「二度も言うな、気持ち悪い!」
「ぐえ」
 尻を蹴り上げ、腕組みしたまま彼女がそっぽ向く。横顔は少し赤く、唇の端が上がってなんか嬉しそうだ。

 ……ドS?

 いやいや、照れているのだと信じよう。
 なおも頬を膨らます千石を促し、「アイス三つだからね」となぜか奢る量が増えたことには言及しないことにして、品出しを進めるべく売場に出る。昨日の夜に半端にしたままの作業も残っているので、遊んでいる時間はない。
 作業は多く、相変わらずキツイ一日になるだろうなと思う一方で、初めて心のどこかで『楽しい』と思っている自分がいることを感じていた。



 ~ エピローグ ~

 夜、千石を休憩に入れたところでメールチェックする。
 店長は別の店で起きた万引き対応で来れなくなり、結局俺が残った。もう怒る気もしない。
 受信トレイに店長からのメールを見つけ、そういえば昨夜『自分はこの仕事を続けていいのでしょうか』というメールを送ったのを思い出す。
 もう自己解決したわけだが、果たして店長がどんなアドバイスをくれたのか。軽い気持ちでメールを見てみる。

『辞める必要ないけど、辞めればいいのにと思う』

 ……俺、泣いていい?


2012年08月28日(火)00時07分 猫舌菜雲 
燕小太郎様 こんばんは。拝読しました。
企画お疲れ様でした。そして総合第三位おめでとうございます。

大したことは書けませんし、お前が言うな的な部分もあるかと思いますが、思ったことをトコトコと書かせていただきます。

読了後、冒頭とエピローグが対比されておりいいなぁ、と思いましたが、実は初読時に冒頭部分で、暗そうと思ってしまい投げていました。立ち上がりのインパクトが弱く感じられ、損をしているように思われます。はったり的な一文があればそれだけで結構引っ張れるものなので、その手のものを入れてみても面白いのでは?と感じられました。

ラスト前の白澄さんに電話をしてデートを断るシーン。リアリティーから考えれば正しいのかもしれませんが、盛り上がりを考えればデート中、若しくは待ち合わせ場所でこれからデートというタイミングで、の方が良かったかもしれません。電話で進行してしまうため描写で引っ張る事も出来ず、淡々と進んじゃっている気がしました。『私のことは気にせず魔王(仕事)を倒してきて!』みたいな展開が……私は好きです(要するに好みの問題かもしれません)。

また、ラスト、厳しくしたとのコメントがありましたが、『辞める必要ないけど、辞めればいいのにと思う』はやっぱりちょっと厳しいかな、と。私もろくでもないメールを受け取ることがままあります。そう、「このメールは不幸のメールです。読まないで破棄することをお勧めいたします」なんて文句が冒頭に入ったメールが届いたこともありました。チェーンメールではありません。仕事のメールです。タイムスタンプは大抵、AM3時とか4時とかだったりします。電話で本社に向かって、「辞めちまえ、馬鹿野郎」などと叫んでいる人もおります。なので、リアルでそんな人がいても不思議ではないのですが(リアルの方が小説に登場させるとリアリティーが無いって突っ込まれまくるような奇妙な人が沢山いるような気がします)、締めくくりはほんわかと『けど、辞めないで欲しい』とかで終わった方が良かったように思います。それでいて、『P.S. 先日は業務命令外で出社したため親切なお客様が趣味で手伝っていただいたと判断して……云々』みたいなオチをつけるのもありかな。などと、考えていました。

その他、スーパーの大きさのイメージが浮かびませんでした。このスーパーって常時三人くらいしかいないのだろうか?などという疑問が若干ありましたが、途中では他のバイトさんもいるようですし、ちょっと掴みきれませんでした。ストーリー上は必要ありませんが細かい描写や薀蓄なども読みたかった気がします(もっとも守秘義務とまではいかないけど書きづらいということが多々あるのかなとも思いますが)。

今村君のキャラクターにつきましては、個人的には悪くありませんでした。超人じみているわけでもなくごく普通の(失礼)真面目な青年なので、その等身大の姿に自己投影しやすく共感できました。

最後にどうでもいいことですが、私は千石さんより白澄さんの方が好みです。
しょーもない感想で申し訳ございません。何かしらお役にたてることが書けていれば幸いです。
それでは失礼いたします。

2012年08月26日(日)21時49分 燕小太郎  作者レス
 いさおMk2さん、コメント感謝です!

>小生の友人が、以前地元のスーパーで働いておりまして、その時の愚痴とまったく同じ様な事が書いており切なく笑えました。常々考えているのですが、このような業務形態が平然と行われているわが国はとても先進国とは言えませんね。友人は『奴隷の仕事だ』と嘆いておりました。
 かなり極端に描いていますが、視野を広くとれば、これよりずっとひどいところもあるようです。と、『なれる! SE』シリーズを読んでいて思いました。実は今回の業界× コメディのファーストイメージがそれで、この世界観をスーパーに当てはめてしまえばできるのではないかと考えておりました。

>そのスーパーの業務をリアルに描きつつも軽妙な文章で読ませる知識と筆力は素晴らしかったと感じます。文章的に引っかかる所も無く、仕事の様子がまるで見ている様に頭の中に再生されました。ちなみにコンビニのパートをやっている小生の嫁さんにも読ませてみたところ「うん、リアルだねえ」と言っておりました。
 前回が割と暗い真面目な雰囲気だったので、意識的に変えてみました。

>主人公。
>なんていうか、要領の悪いコだなあと感じましたw
 いやー、恥ずかしながら作者と一面がそのまま出てしまったようです。というのも、実際上司から『君は要領が悪い』とはっきり言われたことがありましたので、この指摘を読んだ瞬間に苦笑が漏れました。
 ただ、要領よくスイスイこなすキャラよりも、要領悪くとも泥臭く頑張るキャラのが自分は好きですので、これはこれで良いかなと思います。
 他の部分で美点を感じ取っていただけたなら幸いです。

>千石
>ナイスツン。そしてナイスデレ。
>「だって……いつも忙しそうだから」
>にはあざといと思いつつもヤられましたw
 うーむ、あざとい、ですかねえやっぱり。元々『ツンデレを書こう』というよりは『いつも追い詰められているくせに自分一人で何でもやろうとする態度がムカつくけど、自分から言い出すのもなんか癪』というのが彼女を作る上での最初の設定でした。それを自分なりに作ったところ、ツンデレ化しました(笑)。
 みなさん割と気に入っていただいたようで、良かったです。

>ところでTシャツネタでは嫁が「『閻魔蟋蟀』が読めなくて意味わからなかった」と言っておりました。ちょっと優しくないネタだったかも。
 人を選ぶネタだと思います。奥様には申し訳ありませんと伝えていただけると助かります。
 この単語を選んだ理由は、本文にあるのもそうなのですが、もう一つ、少し考えると読めるのではないか、という意図があります。難しい漢字ではありますが、それでも『閻魔』までは割と有名なので読める→エンマがつく虫の名前→エンマコオロギだ、となるんじゃないかな、という狙いだったのですが、空振っていたら申し訳ありません。

>店長
>この人は、個人的に勿体無いかなと感じます。
>主人公の、どこか甘い部分をこの人の仕事を通して見せ付けたりする事で、主人公の『この仕事続けていていいのだろうか』という悩みに答えを見せたりする事ができるのではなかろうかと感じます。
>このままでは只のクズ人間ですからw
 枚数の割に必要な人物が増えたため、メイン・サブをはっきりさせることを心がけました。そのため、話の中心にいる今村・千石は良悪それぞれ描き、他のキャラクターはどちらか片方を強く押し出すようにしています。そのため、田中さんや白澄さんは主人公を思いやる優しい部分が描かれていて、その反対が店長だったというわけです。
 ちょっとかわいそうではありますが、その分店長は店長でキャラが立ったのかな、と思います。

>おそらく、作者様はこの仕事をしておられてなるべくリアルに業務を描こうと思われたのでしょうけれど。小説として読んでおりますと、似た様なエピソードが多くてダレます。
>例えば、『お客様は神様ですか?』の章などは読んでいてあまり面白い類のものではなく、小生はむしろ不快に感じて読み飛ばしました。
 自分の中で、印象の強いエピソードを中心に出して行った分、『どれが面白いのか?』というのは不安に思っておりました。良いもの悪いものがわかったのは、自分の中で収穫にしたいと思います。
 
>そして、ラスト。
>せっかく何となく良い雰囲気に終わると思っていたらこの仕打ち。
>個人的には、笑うというより醒めました。
 ここも迷った部分で、クライマックスは良い形で盛り上げても、ラストはストンと落としたいと思っていたのですが、嫌な感じになってしまったのだと思います。反省です。

 感想、ありがとうございました!



 三水 未さん、コメント感謝です!

>何がってもうともかく千石可愛い! すっごいリアルに可愛いんですよ!>正直、他の作品でも可愛い女の子はいっぱいいました。いました、が、正直嫁にしたいとまで思ったヒロインは千石が唯一です。っていうかラ研で読んできた作品の中で唯一じゃないのかな。それくらい、もう可愛かった。
>個人的にもうニヤニヤが止まらなくて足バタバタしそうになったのは(会社なので一応堪えました)、「だって……いつも忙しそうだから」のシーン! もう何この子超可愛い! 本当、千石ちゃん僕にください!
>千石千石言ってますが、正直、この手の可愛さって、ある程度今村くんのかっこよさと連動してると思うんですよね。今村くんがしっかりかっこいいからこそ、そんな今村くんのことがちょっと気になる千石の可愛さが、すごく目立つ。すごく理想的なキャラクターが並んでいたと、思います。
 う~む、まさか千石がここまで心を打つとは思っておりませんでした。気に入っていただけたならありがたいですが。
 今村と連動して、というのは特に嬉しいですね。特に描いてはいませんが、バイトと新卒社会人ということで微妙な年齢差があるので、この辺を上手く出せたのではないかと思ったり思わなかったりです。あんまりないと思うんですよね、この二人に近い関係って。その辺がオリジナリティになっていれば良いのですが。

>先にも書きましたが、ともかくこの作品のメインって、千石の可愛さだと、思うんですよ。コメディとしては非常にいい構成だったと思うんですが、いかんせん序盤、千石の出番が少なかったかなあと思うんです。特に「ちりしある」~「思いもよらぬこと」辺り。いや、多分時間帯の問題もあると思うので仕方ないと思うんですが、「ちりしある」「やる気スイッチ」の辺りでもう少し千石の可愛らしさを見せて置いてもよかったかなあ、と思うんです。
 気に入っていただいたのに恐縮ですが、そこまで千石メインには考えておりませんでした。正直、ここまでキャラクターを褒められて逆に恐縮しているくらいです。
 キャラクターもありつつ、スーパーネタを中心に置いて描いていたので、構成はある程度考えた末の結果となっております。
 ただ、序盤にメインヒロインが出てこないことには不安を感じておりました。キャラクターでここまで引っ張れるとわかっていれば、もう少し考えたのですが。勿体ない部分です。

>そうそう、ふと今思いついたことですが、できたらサブタイトルの脇にでも曜日、時間帯を併記してあっても良かったのかな、とも。ちょっと分かりにくかったと、感じたので。多分僕の読解力不足が原因ですのであまりお気にはなさらず。
 時間軸のわかり難さは不安要素でした。ですので、サブタイ脇にというアイデアには天を仰がずにはいられません。痛恨の極みです。

>それと、もう一点は他の方も言っておられますが、店長がやな奴で終わってしまっていること。あの、クレームで謝罪に行かなきゃいけなくなった、ってシーン。実は今村くんの尻拭いをしてくれていた、みたいなところがあったらちょっと面白かったのかな、とか。難しいとは思うんですけど、ね。
 ちょくちょく言われて迷いつつありますが、とかく今作は良い人が多いので、一人くらいこういうのがいてもいいんじゃないかなーっと思うんですけど、やっぱりだめですかね。
 ……だめなのかなあ。

>ただ、全体通してともかく面白い作品だったと、思います。作品の完成度もトップクラス。水の伏線がしっかり生きていたのも、よかったです。
 実は、断水のために水キャンセルのエピソードを入れました。なので、伏線が生きたというより伏線のために作ったのがあのエピソードなんですよね。
 ちなみに、『棚上に大量に乗った在庫』は実体験です。その時は水ではなくカップラーメンのケースでしたが、十ケース近く積み上がった光景は壮観でした。

感想、ありがとうございました! 
2012年08月26日(日)21時40分 燕小太郎  作者レス
 路野トホホさん、コメント感謝です!

>実を言うと私の親はコンビニの店長でして、学生時代は毎日のように親の店を手伝わされていたので作品を読んでいて「あるある」といちいち共感してしまいました。特に、アルバイトに急に休まれいきなり店に駆り出されるときは、本当に眩暈すら覚える絶望感を味わえますよね。
 しばしば、小売業関係者の方からの感想を頂きます。その意外な多さにちょっとびっくり。
 緊急出勤は小売りに限定した話ではないかもしれませんが、急に来れないとか実際かなりつらいです。

>ストーリーに関しては特に大きな山場などは見当たりませんでしたが、ジャンルがジャンルだけに現実としてあり得る範囲内で話が纏められているのはリアルさを感じられて逆に良かったと思いました。
>クスリと思わず笑わされるような描写がところどころ散りばめられており、退屈することなくするすると楽しく読み進めていくことができました。
 基本的に体験したことをいじりながら描いていったので、リアリティはあると思います。ストーリー性はショートショートの構成上、なかなか出しにくかったのですが、退屈することなく読んでいただけたなら幸いです。

>本作はキャラクターがとても魅力的だと感じました。特に主人公は、優柔不断で心も弱い情けない人間ですが、いざというときは迷惑客に対し、毅然とした態度で接してアルバイトを庇う等、非常に魅力的で格好良いキャラだと思います。周囲の人たちが主人公を助けるのもわかる気がします。思わず応援したくなるキャラですよね。
 キャラクター作りも怠ってはいませんでしたが、基本的にはネタ優先に書き始めた作品だけに、キャラクターへの評価は嬉しい誤算でした。一応主人公である今村は、お酒のシーンは格好良くしようと意識して描いたので、成功していたなら良かったです。

>他にも、店長・田中さん・千石・白澄などなど、みんながみんな良い味を出していたと思います。
 メイン・脇役と意識的に出番に差をつけたのですが、それぞれ好感を持っていただけたようで何よりです。

>気になった点は、タイトルがちょっとあんまりにも適当過ぎるのではないのかと思ってしまったことですw
 来ましたねタイトルへの指摘! おそらくそう言われるかもしれないとは思っていたので、ここは腰を据えて説明させてください。
 本編が書き終わった時点でまだタイトルが決まっておらず、どうするか悩んでおりました。タイトルの条件として、?『今作の舞台がスーパーであるとすぐにわかること』?『堅苦しくなく、一目でコメディとわかること』を決めておりました。しかしろくなものが思い浮かばず悩んでいたところ、ある一つの映画タイトルを目にしました。
 その映画が、タイ映画『トム・ヤム・クン!』です。
 アクション映画でトムヤムクンとか出てこないのに、タイトルに据えてしまうその勇気と発想力。これを見た瞬間、『これだ!』と確信しました。
 小売りでの仕事で最も基本的なものを三つ並べるだけ。これなら肩苦しいことなどまったくなく、同時に今作がスーパーを舞台にした作品であると伝わる。そうしてつけたタイトルが、『納品・レジ打ち・客対応!』でした。
『適当過ぎる』と言われてしまいましたが、コメディなので不快にさえなってなければ大丈夫です。

>正直、かなり面白かったです。
 よっしゃ!

 感想、ありがとうございました!



 makkuxさん、コメント感謝です!
 
>業界あるあるネタてんこ盛りの本作、お受け取りいたしました。私自身もコンビニでアルバイトをしているので、ところどころ共感できるところがあって大変愉しませていただきました。
 今回は業界ということで、『知っている人』と『知らない人』の読者様がいるという今までにない経験をしました。知らない人に対して説明不足になっていないか、知っている人からツッコミを入れられないか、と色々考えましたが、楽しんでいただけたなら何よりです。

>ですが、これ……だれるっすね。
>いや、面白いんですよ。むっちゃ好きな感じなんですよ。
>ただ、だれるんですよねえ……連作短編って形ですと、いわゆる途中で『飽き』がぽっかり穴空ける感じっていいますか。
>文句なしに面白いんですけど、必然的に途中で飽きちゃうんですよねえ……。
 多くの方から指摘されたのですが、だれる、というのは正直考えておらず、目からウロコの気分でした。言われて、成程、と。
一つ一つの話がある程度独立して、それを全体としてまた繋ぐ、というようなイメージでいたので。物語における起→結とする部分を上手く作れていなかったのだと思います。指摘されて思い返すと全くその通りで、うーむと唸るしかなかったです。反省です。

 面白みがログアウト、というのはグサッと来ました。物語の楽しさをどこかに忘れてしまったのかもしれません。

 感想、ありがとうございました! 
2012年08月26日(日)21時37分 燕小太郎  作者レス
 企画終了後は、いつも燃え尽き症候群に似た脱力感に襲われます。
 そのため返信レスが遅くなってしまい、大変申し訳ありません。何とか今月中には全員分の返信をしたいと思いますので、もう少しだけお待ちいただきたいと思います。

 いりえミトさん、コメント感謝です!

>また、登場人物たちそれぞれに個性があって、よく描けているなと思いました。
>「キャラが立っている」というより、「人間が書けている」という感じです。仕事の描写と同様、人間描写にもリアリティがある感じで。
 ありがとうございます。人よりネタを書くことが優先されている自覚がありましたので、キャラへの評価は嬉しく思います。
 店長は、仕事や会社における理不尽さみたいなのの象徴というイメージで書きました。
 田中さんは、リアルに一行コピーを『田中さん(50)に萌えてください』にしようか迷ったくらいです。
 そして、千石が思っていたより好評でビックリしています。確かにメインヒロインとして描いていましたが、登場のタイミングが遅れたりと若干不遇な感じもありましたので。
 
>ただ、ストーリー的には、大きな目的というか、「ゴール」に相当するものがなく、ひたすらスーパー業務の描写が続く感じなので、この長さではさすがにダレる感じがありました。
 ここは、全く警戒していない指摘でした。ショートショートのイメージだったので、一つ一つのネタで面白く、それがつながってなお面白くと考え、全体としてスタートとゴールを繋ぐというか最初に終着点を明示する、というのは考えておりませんでした。反省点です。

>断水が起きて、今村くんがスーパーにかけつけるシーンがクライマックスになるようですが、それも「仕事描写」の延長ですし、なにかもう少し違った形での山場も欲しかったように思います。
>千石さんと白澄さんを絡めた三角関係でにやにやしたかった、という思いが個人的にはあるのですが……。
 実は断水は後から考えたラストで、元々はチラシ特売当日にトラブル発生、しかも朝来る予定のバイトはまた来ないためたった一人しかいないという絶望的な状況の中、今村を心配して千石や田中さんが、さらに店舗応援として白澄さんも現れ、自分が一人ではないことを知り、仕事に立ち向かう気力を取り戻す、という流れにするつもりでした。
 ただ、そうするとコメディではない部分が長くなってしまい、最後はシリアスな雰囲気にするとしてもあまり長くならないよう、ということで断水に変更となりました。
 そのため、白澄さんと久しぶりの再会に喜ぶ今村、そんな今村に面白くない態度をとる千石、彼女の様子に事情を察した白澄さんが千石をからかうという、いりえさんの仰る三角関係に近いものになる予定はありました。

 感想、ありがとうございました!



 インド洋さんへ、コメント感謝です!

>まず、ジャンルの使い方が非常に上手いと思いました。これって日常系のあるあるネタの作品だと思うのですが、お仕事を主題にしたことで企画内容に沿う形にもっていけてる点がグッドでした。
>また、ルールの穴でもありませんし、かなり作品の幅が広がる方法だったのではないかと考えます
 日常を広義的に受け取れば、非日常、つまりなんかしら事件が起きるような作品でなければ全部含まれてしまいかねないですからね。ジャンルは業界・お仕事と受け取っていただきたいと思います。

>内容も、ショートで繋ぐことでとても読みやすかったですし、まさにくすくすと笑える作品でした。また、登場キャラも可愛いですし、一度も姿を現さない店長もいい味出してますね。
 一つ一つのネタが独立していることもあり、ショートショートが一番やりやすかったです。キャラに関しては、メリハリをつけることを意識しました。主人公で視点である今村は皆勤賞として、メインヒロインたる千石は出番を多くするため、田中さんは後半の出番を少し減らし、店長や白澄さんは電話やメールのみとする。主役―脇役をはっきりさせ、それぞれの形で魅力を出せればと思っていたので、それができていれば良かったです。
 店長は、むしろ来ないことで役割を果たしていますから(笑)。

>気になった点としては、60ページいっぱい使う必要はなかったかなというところでしょうか。わりと同じテンポでショートを繋いでいく形なので、途中でどうしても多少の飽きが出てきてしまう恐れがあるように感じます。
 途中、バイトさんの会話(ショートのさらにショート)でテンポを変えているようなところもあったのですが、さらに効果的にテンポを変えていただければ、この長さでも気にならなかったかもしれません(提案としては、店長の呟きを挟むとかぐらいしか思いつきませんが)。
 当初の予定では、下限枚数ギリギリを狙おうと考えていました。ただ、書くにつれて枚数は増えていき、気づけば上限いっぱいまでいっておりまして、もう行くしかないと。
 ……ううむ、そうか、テンポが一定でだれてしまうんですね。そこまで考えておりませんでした。新しい発見です。ファーストイメージは『正捕手の篠原さん』(MF文庫)の構成だったんですが、確かに変化は必要だと思います。参考になります。

>総括として、企画作品としてアイデアがよかった点と、普通に内容が面白かったことを考慮し、この点数とさせていただきます。
 当初はミステリーも考えていましたが、『どー考えてもコメディにならん!』と業界一本に絞ることにしました。結果的には功を奏したのではないかと思います。

 感想、ありがとうございました!

2012年08月24日(金)09時53分 田中敬介 .X2tbVW.LA
 先日はありがとうございました。田中です。
 拝読しましたので、感想を残させていただきます。

 全体的な感想から先に書きますが、正直、あまり良い印象は持ちませんでした。
 というか、読んでいて何だか疲れましたw  

 ただ、【~ 噛んだ ~】の章は良かったです。面白かったです。このレベルぐらいが自分にはちょうど良かったです。
【~ 思いもよらぬこと その三 ~】も、【~ 噛んだ ~】とは違うベクトルですが、面白かったです。

 しかし、その他の章――『~ 客注 ~】とか【~ お客様は神様ですか? その二 ~】とかは、「笑えないなぁ……」と。

 一つ一つのネタが、主人公が一番最初の章でつぶやく>「……俺、この会社で働いてていいのかなあ」というセリフの感じ――リアリティを追求する現実的な雰囲気に食われてしまっていたような気がしました。というか、一つ一つのネタがその雰囲気を打ち破るほどではなかったから笑えなかったのです、私は。

 ついでに、【~ 思いもよらぬこと ~】は、「それ、ただの報告だろ!」とツッコミを入れていました。
【~ 思いもよらぬこと その二 ~】と【~ 仕事中だけどバイトとちょっと雑談しました ~】もそうです。リアルに起こったら笑えるネタではありますが、それらが上手く小説内の世界の「ネタ」として昇華できていない感がありました。

 
 というか、感想中盤でこんなこと書くのもアレですが、自分はこの作品、確実にカテゴリーエラーだったんですよね。
 ……私は根が真面目なので、現実的な場面で現実的な問題を提示されちゃうと、なんだか色々と考えちゃうんですよねぇ……。事実、「浮浪者が店に入ってきたら」というシチュエーションのとき、「どのように対処すれば正解(に限りなく近い回答)なのだろうか」と、腕組みして考える自分がいましたw
 
 ただ、文章自体は上手くかけているなと思いました。「もっとコメディした文章にしてくれよ」という不満は少しありますが。
 あと、【~ 働く理由と、働く意味 ~】なんかは、作者様の確実な実力が窺われるとても真面目で感動的な話であるがゆえ、逆に少し浮いている感がありました。
 
 拙いですが、感想は以上です。
 執筆お疲れさまでした。 
2012年08月21日(火)09時36分 運営うさま 
 燕小太郎さま、掲載の許可を戴き、誠にありがとうございます!
 責任を持って対応させていただきます。

 それでは、失礼いたしますっ。 
2012年08月21日(火)07時27分 燕小太郎  作者レス
 うさま様、運営お疲れ様です。作者の燕小太郎です。

 企画ページでの公開ですが、少し思うところがあり返答が遅れてしまいました。申し訳ありません。
 お返事ですが、OKです。よろしくお願いします。

 うさま様並びに感想をいただいた方々、作者レスはちょっとずつ進めていくつもりですので、もう少しお待ちいただければ幸いです。

 それでは、また。 
2012年08月19日(日)14時44分 運営うさま 
 燕小太郎様こんにちは。うさまです。

 夏祭り企画、総合第三位おめでとうございます!
 つきましては、ライトノベル作法研究所内の企画ページにて、御作を公開させていただきたいのですが、いかがでしょうか?

 許可、不許可、いずれでももちろん構いませんので、ご連絡お待ちしております。

 それでは、失礼いたします 
2012年08月19日(日)06時25分 燕小太郎  作者レス
 みなさん、コメント感謝です! 作者の燕小太郎と申します。

 後々お一方ずつ返信レスはさせていただきますが、とりあえず一度お礼と、簡単な説明(という名の言い訳)をさせてください。

 おそらくお気づきとは思いますが、作者は小売業関係者です。その経験を大体そのまま今作に落とし込んでおりますので、作品への思いは今までのどの作品よりもある意味で強いと言えます。
 何より、自分自身精神的に一番キツイ時期であり、今村と同様かなり苦しんだ頃の経験をほぼそのままに描いています。会社からのメールに怯えパソコンの前で震えていたり、一人しかいない事務所で急に叫んだり。ストレスと緊張のあまり、発作的に壁に叩きつけた傘の柄は今も曲がったままです(流石に作中ではそこまで描いておりませんが)。ですから今村の葛藤は、実際自分の中で何度も味わった葛藤でもありました。もっとも、私の場合はたった一日で吹っ切れたりはしませんでしたが。

 また、千石はスーパーのバイトという役割と、ライトノベルという小説形態から生み出した完全に架空のキャラクターですが、田中さんは実際のパートさんをモデルにしています。リアル田中さん含め、今村同様に迷惑をかけ通しだったにもかかわらず、私を見捨てることなく助けてくれたパートさん、バイトの皆さんには、感謝しかありません。

 白澄さんは、一番キツイ時期、自分が決して一人ではないことを教えてくれた同期の方々を象徴して作ったキャラクターです。実際、同期がいなければ自分は会社を辞めていたことでしょう。出番は少なくまた電話でしか出てこられませんが、彼女にも相応に強い思い入れがあります。

 悪一点、唯一非難を受けることになった店長ですが、流石にこちらはほぼオリジナルでモデルはおりません(笑)。ただ、千石、田中さん、白澄さんといい人ばかりがいたため、『こんなにやさしい人ばっかりじゃねーぞ』という思いを込めてこんなキャラクターとなりました。最後少し人間味を出しても、という意見を頂き再検討も視野に入れておりますが、こうした理不尽悪役というのはあまり書いたことはないので、そういう意味では狙い通りのキャラクターが描けたのかなと思います。もちろん彼は彼で激務に追われているだけで、悪役というのはあくまで今村目線での話なんですけどね。

 さて、ここまで書いた部分だけを見るとなんだか相当重たい作品に思えてきました(笑)。思い入れは強いですが、辛かった頃の経験をコメディとして落とし込み、『面白い』と多くの方に言っていただけたこと、大変嬉しく思います。いずれスーパーの話をライトノベルとして描いてみたいと思っていたので、夏祭りを企画・運営してくださったうさまさん、業界を推薦した頂いた名も知らぬお方には感謝の思いでいっぱいです。

 何だか作品の中身ではない部分の説明が多くなってしまいましたが、そちらはお一方ずつへの返信レスでお答えしたいと思います。全員分すぐにできるかはわかりませんが必ずお返事はいたしますので、気長にお待ちいただければ幸いです。

 それでは、感想を頂いた方々並びに、私を助けてくれた全ての方々に、最大級の感謝を込めて。

 ありがとうございました! 
2012年08月18日(土)18時23分 うさま  +20点
 こんにちは、あるいは初めましてうさまと申します。
 作品拝読しましたので、拙いながらも感想を。

『文章』
 スラスラと読みやすかったです。
 また、話が細かく切れているので、気持ちの切り替えがしやすく、サクサク進んでいけました。

『キャラクター』
 田中さんと千石が好きですね。
 とくに千石はヒロインとして、可愛らしいなあと。すごく、現実に居てもいいよねと思う可愛らしさなんですよね。。
 ストーリーもそうですが、あってもいいよねーっというこの現実感は、何気に好きです。

『ストーリー』
 コンビニで働いていたことがあるので、どことなく共感できる部分が多かったです。
 ホームレスのお客様とかもやっぱりいて、 店長が業務中にストーカーして家を突き止めたり(←え)

 とと、ふわゆる系としてまとめつつ、仕事に対する葛藤もきちんと描かれていて、納得の出来る展開でした。

『総括』
 個人的に共感できるところもあり、楽しく拝読できました。 
2012年08月18日(土)16時55分 へろりん  +20点
へろりんと申します。
企画参加作品執筆お疲れ様でした。
御作を拝読しましたので、感想を書かせていただきます。

タイトルを拝見して、どうやら小売業界のお話のようです。
一行コピーを拝見して、やっぱり小売業界、スーパーのお話のようです。
どんなお話でしょうか。
今企画、業界のお話は少ないので楽しみです。


まず最初に、面白かったです。
楽しんで読了しました。


○ 文章について
特にひっかかることもなく読めました。
掌編のオムニバス形式って、なんか手抜きのような気がしてました。
作品としての流れを考えていないようで。
ですが、御作についてはうまくまとめられていると思いました。

○ 登場人物について
今村(主人公)
まだ入社したばかりなのに社員としてがんばってる、お疲れ様ですの人。
そりゃいろいろ考えるわな。
でも、言う時はきっちり言ったり、パートの人のことを考えたり、責任感のある好青年でした。

田中さん
気さくなパートのおばちゃん。
神です。
この人のおかげでいろいろと救われます。

千石
ツンデレの女子大生。
主人公にちょっと気があるのかなってしぐさが垣間見えるが、主人公がそれに全く気がつかないのはお約束。

白澄さん
主人公と同期の女の子。
出番はないけど、主人公にとってのマドンナです。
あー、デートしたかったー

店長
主人公目線で見ると、しょっちゅう約束は破るは、無理難題は言うは、いけてない上司。
でも、上に立つと視点が違ってくるので、案外いい上司か?
実は、主人公以上にお疲れ様の人かも。

とてもリアルな人間関係だったと思います。

○ ストーリーについて
ひとつひとつの掌編が、大爆笑というわけではありませんが、リアルな笑いがありました。
登場人物といいストーリーといい、このリアルさは、作者様の体験談でしょうか?
前にも触れましたが、掌編の寄せ集めかと思いきや、なんと最後につながるとは。
お見事でした。
主人公が、忙殺される日々に疑問を持ち、それを払拭するという流れもGOODです。
ラストの店長のむごいメールもよかったです。
ですが、リアルなだけに、最後の事件が出来過ぎな気もしました。

○ コメディについて
リアルで、どれもありそうなお話で、なんか笑えました。
リアルなだけに、突き抜けた笑いはなかったように思います。
とはいえ、突き抜けた笑いって、今企画でもそうそうお目にかからなかったので、充分ではないかと思います。


とてもリアルな楽しい作品でした。
スーパー業界を堪能しました。
以上、拙い感想でした。
失礼しました。

2012年08月18日(土)02時42分 grass horse a.TkuxTCe. +10点
執筆、大変お疲れ様でした。
grass horseと申します。
ほとんど唯一ともいえる、業界× コメディーものですね。自分も挑戦しようと一瞬思ったのですが、良く考えれば業界にいませんでした……。
ということで、作品拝読させていただきましたので、感想を残させて頂きます。

※なお、この感想にはネタバレが含まれているかもしれませんので、未読の方はご注意下さい。


後半になるにつれ、面白くなっていったと思います。
短編連作ということもあり、どこがストーリーラインになるのかな、と探りながら読んでいたのですが、千石ちゃんが絡み始め、主人公の悩みも見え始めたころからどんどんと引き込まれていきました。
作者様に実感がどれほどこもっているかは自分には推し量れませんが、でもどこかリアリティーがある主人公の悩みやそこからの脱出といった経緯が、良く伝わってきました。
個人的には、少々あるあるネタ系よりも、早くにそちらのほうに移ってほしかったです。

ちょっと、業界の愚痴、という感じを受けました。特に、「お客様は神様ですか?」のシリーズは、どう受け取って良いのか分からなかったです。
自分は飲食店での勤務経験はないので、ほかの皆さんのように「あーあるある」とはなれず、むしろ「今度店に行くときは気を付けよう」と気を引き締めました。
しかし……それはむしろ勉強になったというところで、あまり、面白いというところにはつながりませんでした。
どれほどの読者が共感して楽しく読めるのかはわかりませんが、自分のようなただの消費者でしかあったことのない人間にとっては、いささか「楽しめる」といった作品ではあまりなかったです。
しかし、とても「興味深く」はあり、自分もぜひ飲食店で一度働いてみたいと思いました。

それにしても、安定した世界設定に支えられて、じわじわと来る面白さがありました。
味があるとでも言うのでしょうか。
今の自分には到底出せないタイプの面白さで、ぜひ見習わせていただきたいと思いました。

短いですが、感想は以上です。
えらそうなことばかり並べたてて申し訳ありません。どうか、うまく取捨選択していただければ、幸いです。
それでは、あと少しですが、夏祭り盛り上がっていきましょう!
失礼しました。


2012年08月15日(水)20時04分 ひながたはずみ  +20点
こんばんは。ひながたはずみと申します。作品を拝読させていただきました。折角ですので感想など残させていただければと思います。ですが、あまり読解力のないものですのでどうかお気になさらずに。

 スーパーで奮闘する新入社員のお話でした。

『文章』
 今村君の一人称はとても読みやすく、感情移入しやすかったです。また、地の文でも仕事に対する態度や見方が変わっていくのが読みとれて、とても巧いと思いました。

『設定』
 うん、きっと作者様の実体験が元になっているのでしょう。いろいろと勉強になりました。ありがとうございます。
 全くの余談ですが、妹がファミレスで働いておりまして、ピンポンと店員さんを呼び出してからメニューを決めるとえらく叱られます。メニューを決めてから呼び出せと。やはりそういったバックグラウンドを知るのは大切ですね。すいません、話がそれました。

『構成』
 一つ一つの掌編に意味があって、味のある構成でした。しかしやはりリアリティを追求したせいか、山谷の起伏がほとんどないように感じられたのも事実です。
 なので最後の断水が「作者様によってわざと起こされたような事件」に感じてしまったんですよね。余りの水が必要になるあたりとか。普通なら伏線として処理される部分が、あまりにも舞台設定にリアリティがあったゆえにそう感じることもあるんだと、小説の書き方の点でも勉強になりました。
 序盤から一つくらいありえない事件をねじ込んでおくと解消されたかもしれません。

 あとはやはり日常的なシーンが続くので、ダレてしまったのもあったかと思います。

『キャラ』
 今村 頑張ってください。日本はあなたのような若者に支えられています。
 千石 ツンデレでした。可愛かったです。思いやりを素直に発揮できるようになるといいですね。
 店長 あなたのような上司が日本をダメにしているんだと思います。
 田中 昔のバイトのおばちゃんを思い出しました。いますよね、こういう優しい人。

 いうわけで、とても楽しく拝読させていただいたのですが、「小説」という観点で見ると中だるみとご都合主義(正確には私がそう感じてしまった)があったように思います。

 祭、盛り上がっていきませう。

2012年08月14日(火)21時00分 つとむュー  +30点
夏企画の執筆お疲れ様でした。
作品を拝読いたしましたので、感想を記したいと思います。

「コメディ」× 「業界」
お見事です。
今回の企画は、この組み合わせが正解だったと思わせてくれた作品でした。
業界ネタで笑いを取りつつ、今村くんと千石さんとの気になる関係が進展する。
そして最後は、なにかこちらも元気をもらったような気持ちになりました。

>「ん、かたじけない」
>『ちりしある』って何だ? コーンフレークのことか?
>ちょっとした『霜ネタ』というお話。

これらの小ネタも面白かったです。


お題は必要最低限という感じでした。

>今日のTシャツの文字は『殺人鬼』。

ここはちょっと笑いました。

>痛みよりも何が起きたのかわからず、呆然と彼女を見上げるしかない。

この時、彼女の胸には『殺人鬼』と書かれていたんですよね(笑)


気になる点は、時間についてと店の規模についてです。

時間の表記については、「十九時」か「午後七時」か、どちらかに統一して欲しかったです。
(セリフのことを考えると、後者の方がよいかもしれませんね)

>や、でも俺が店に行くまで二時間はかかりますよ。
>開店作業が朝九時から、閉店作業が終わって店を出るのが夜十二時なので、休憩込みで十五時間働くことになる。

午後十二時以降に電車に乗って、二時間かかって帰ると午前二時。
次の日に午前九時から働くとなると家を出るのが朝七時。
すごい過酷な労働ですね(ちょっと過酷すぎるような気もします)。

>で、開店してからかれこれ一時間近く一人で店を回している。そろそろ田中さんが来てくれる時間なのだが。

これって、常時二人体制なのに、午前十一時から三人体制の予定だったということになりますよね?
忙しい日曜日は二人体制だったのに、平日の月曜日は三人体制って、なんだか不思議な感じがしました。


店の規模についても気になりました。

>常時二人しかいない店だから、一人休むだけで深刻な危機に陥る。

忙し日曜日なのに、開店時はバイトさん二人の予定だったってことですよね?
また、読み進めていくと、常時二人の店とは思えない描写がいくつか……

>朝に来た納品が十二パレット、夕方にはおそらく同数くらいのパレットがまた来てしまう。
>それを見送り、店内放送を利用してお騒がせしたお詫びをすると、

納品が十二パレットだったり、店内放送が必要なお店を二人で回しているというのは、ちょっと無理があるような気もします。


その他、気になる点について。

>「うっせえよ」

誰のセリフか不明でした。


>「いつかそう遠くないうち、俺の力不足とかミスとかで、お前に面倒をかけることがあると思うんだ。でも、いざ頼もうと思ったときに『私は私の仕事のちゃんとやってます』とか言われたら、頼みにくいだろ? だから、今のうちに俺に仕事を押し付けてくれ。面倒をかけてくれ」

いいセリフですね。感動しました。


>『辞める必要ないけど、辞めればいいのにと思う』

最後の店長のセリフ、個人的にはすごく良かったです。
作品を最後に締めてくれましたし、憎い店長だけど、どことなく優しさが滲み出ているような感じもしました。


いろいろと書いてしまいましたが、「コメディ」× 「業界」を十分に楽しめた作品でした。
拙い感想で申し訳ありません。今後のご活躍を期待しています。

追伸 えんまこおろぎのTシャツ、欲しい~! 
2012年08月14日(火)16時51分 。。。  +20点
 はじめまして、本作を読んだ。。。というものです。
 読ませていただいたので、感想を書かせて頂きます。
 なんの実績もない素人が書く感想なので、的外れだったり意味不明だったりする箇所が多々あると思いますが、そのような時は「オトナの対応」でスルーして頂けるとありがたいです。
 というわけで、感想の方に移ります。

■この作品を友達に一言で紹介するなら?
「暇な時にオススメの日常系な連作掌編(ただしスーパー店員の日常)」

■タイトルについて
 ひと目で作品の内容把握よゆーでした。
 人目を引くとかどうでもよくて、ただ個人的に褒めたい良タイトルだと思います。

■ストーリーについて
 私はドMなので、ここはクソ長くなること承知で一話ごとツッコミをしますね。

◯店長からの電話はろくなことがない
 一日に十五時間拘束パネェと思いつつ、パートが子供の熱で休むとか笑えねぇリアリティーがあり、つかみはグッドでした。
 ただ、これは私の住んでいる地域にそういった店がないせいかもしれませんが「常時二人のスーパー」というのが、絵的な意味で想像できなかったです。

◯お客様は神様ですか?
 前の店舗担当者さんは、そこまでするなら入店拒否れwと脳内ツッコミ。

◯叱責のメール
 物語のテンポはいいのですが、やはり映像的な意味で店舗のイメージが浮かばないです。ここは本作の悪いとこ。
 そして、ネタがマニアックすぎるのか面白みが分からなかった回でした。

◯噛んだ
 特にコメントする場所はない、面白くもないしつまらなくもない、ただダラダラと読み流すのに最適な日常系(スーパーver)でした。
 面白い!とは思わないんですが、とてもいい雰囲気で読めてます。

◯ちりしある
 あるあるーwww

◯やる気スイッチ
 特にコメントはありません。

◯やる気スイッチ その二
 続くのかよwwとタイトルを見てツッコミ。ただネタは滑っていたので、もう少しひねって欲しかったですね。
 ですが、このエピソードはリアルで経験した事で、どうしても書きたかったというなら……たとえ作品がつまらなくなろうと関係ありません。
 私は作者さんの創作スタイルを支持します。

◯同期とシモネタ
 あー、スーパー業界っぽいオチだぁーと思いました。
 決して面白いオチではないのですが、とても納得のできる読者として満足できるオチでした。

◯客注
 客うぜぇw

◯終わらない作業
 人的余裕のなさすぎるスーパーが泣けます。田中さん良い人すぎ。

◯思いもよらぬこと
 あるあるーwww(その2)

◯客注 その二
 あー、たまに近所のお店で「商品がありえない積み方」されてることありますけど、あれバックヤードのスペース確保の理由もあったのかもですね……

◯思いもよらぬこと その二
 近所のお店で季節はずれのカップ麺や見たこともないレトルト食品がアウトレットで安く売ってることがあるのですが、たまに面白そうな商品があるので買うことがあります。
 個人的な経験として「定価が高すぎたせいで売れ残ったっぽい系は当たり」が多くて「不気味すぎて誰も買わなかった系はハズレばかり」というのがあります……名前の知らない会社の作る「イタリアン! トマト素麺つゆ」とか、いくら安くても買うのに勇気が入ります。
 そんなことを考えてしまう、店員さんの事情が垣間見れるエピソードでした。

◯仕事中だけどバイトとちょっと雑談しました
 特にコメントしたくなることはありません。

◯未成年と思われるお客様にお酒をお売りすることはできません
 あるあるネタ→ちょっといい話。他のエピソードに比べて浮いて読めてしまったので無いほうがいいかも?

◯退店後
 流し読みしました。特にコメントなし。

◯お客様は神様ですか? その二
 リアルすぎて酷い話です……ありますよね、たまーにこういう信じられない出来事。

◯仕事中だけどパートさんとちょっと雑談しました
 田中さんマジ天使。

◯思いもよらぬこと その三
 ガンバレ今村……お前は間違ってない。

◯思いもよらぬ新商品
 本部から押し付けられるクソ商品と業界用語の怖い話でした。

◯働く理由と、働く意味 前編
◯働く理由と、働く意味 後編
 前編はあまりおもしろく思わなかったのですが、後編はドラマチックというか……リアルなとこが面白かったです。
 ――断水でお店が混雑→俺が行かなきゃ誰がやる!
 とかいう展開、スーパーの店員というのを除けば熱いですねっ!

◯エピローグ
 途中で詰まることなく最後まで読めましたー。

■文章について
 たぶん作者さん的に、本作はすげー書きやすい作品だったのではないでしょうか?
 舞台は「スーパー固定」なので状況説明は最小限で済みますし、物語の舞台は我々の生活に密着した「詳細な風景描写が不要な物」と。
 本作のような場面がめまぐるしく変わる連作掌編の場合、ココら辺の構造上の利点が生きてたと思います。
 基本的には、問題なく読み進めることが出来ました。しかし、それでも細かい指摘ポイントは見つけられます。
 たとえば、店の構造について。生鮮食品を扱わない常時二名で回す小さなスーパーなのは分かりましたが、ちょっとイメージが浮かないです。私の家の周囲にソレ系のスーパーがないせいかもしれませんが、普段見慣れているスーパーとイメージが違って。ここは個人的な生活環境に起因するのが申し訳ないのですが、冒頭で悪い点だと思いました。
 あと気付かれないかもしれないのが「什器」とかの見慣れない単語について。作者さんには盲点だったと思われるのですが、普通の読者、それもバイト経験が未熟な学生とかには、特に馴染みのない言葉だと思います。
 私自身も何を意味する言葉かは知ってましたが、実は「什器(読み方分からん)」という類の単語でしたので、読み仮名などの配慮が欲しかったです。
 こういう馴染み深いけど実は専門用語な言葉は使うなとは言いませんが、30文字ぐらいの説明を挟むとか「二段の什器」を「二段の陳列棚」と言い換えるなど、クッソ細かい読者配慮があっても良かったかもです。意外とみんな知らないんです。こういう用語って。
 この作風らしく、こういった専門用語の説明そのものを一本の掌編にするのもいいかもしれませんね。


■総評
 読んでてクソ笑えた的な面白さはなかったのですが、まったり読み流すのが苦じゃないユルイ雰囲気が楽しめる作品でした。
 コメディーとしての面白さは弱いかな?と思いますが、ただの業界モノとしては楽しく読めました。
 連作掌編という形態で、エピソードは面白さ的な意味で当たりも外れもあり、内容はとにかく豊富で、物語の密度はかなりのもの。
 読み終えての満足度は、かなり高かったです。
 ただ本作を読む上でひとりの読者である私が求めていたのが「スーパー店員のトホホ話」であって、たまにデレる千石さんとの「働く理由と、働く意味」などは、正直に言うと流し読みに近い感じで読んで心に残るものがありませんでした。作品の面白さの邪魔もしてないけど貢献もしなかったという感じですね。ただ終わらせ方が難しい本作において、ひとつの物語を終わらせる的な意味では「働く理由と、働く意味」エピソードは悪くなかったと思います。特に不満があるわけではないのですが、こう思う読者も居るぜ!というアピールでした。
 というわけで、基本的に楽しんで読める作品だったので、最初の「■この作品を友達に一言で紹介するなら?」では、本作のジャンルをパッと書いた「暇な時にオススメの日常系な連作掌編(ただしスーパー店員の日常)」としてみました。
 純粋な面白さとは別の魅力を感じられた作品なので、直感で感じた点数に加えて評価には+10点ほどオマケしてます。
 振り返って冷静に考えると、中身にセンスがあったりすげー面白いネタを用意されてるわけではないのですが、リズムが良くてテンポよく読めた作品でしたというわけで、感想を終えます。
 ではでは、失礼します。 
2012年08月14日(火)13時15分 茶渡詠爾  +30点
「納品・レジ打ち・客対応!」
 猛暑が続きます折から、皆様にはいかがお凌ぎでしょうか。
 お初にお目にかかります。あるいは旧知の方かもしれません。
 茶渡詠爾(さど・えいじ)と申します。

 このたび御作を拝読させていただきましたので、感想を書かせて頂きたく存じます。


 さて、感想といいましてもただ漠然と書いては作者様のご迷惑になるというもの。
 ここでは以下の項目について評価基準を設けさせていただきます。合計するとあら不思議、50点満点です。
【もくじ】
・素材:5点
・アイデア(鮮度・ひねり・連想・組み合わせ):10点
・テーマ:10点
・キャラクター:10点
・シチュエーション:5点
・構成:10点
・総評や雑感など:時価
 個人的に嫌いだという作品であっても上記項目の技術力が高ければ高得点になります。
 個人的に好きな作品であれば、オマケポイントとして評価に上乗せすることがあります。
 長らくお待たせいたしました。それではよろしくお付き合いくださいませ(^O^)

◯素材
 スーパーの裏側。社畜。連作短編。他の人ができないという点で素材としてはとても良かったと思います。5点
◯アイデア(鮮度・ひねり・連想・組み合わせ)
 良かった点は、ただの社畜自慢ではなくきちんと読者を想定したライトノベルになっていたことで、つまらない業務作業を立派な物語にしているところです。つまり作者様の実力なら普通によくある題材で書けばもっと面白くなるはずで……。いえ、今作も面白かった部類に入ります。鮮度1点・ひねり1点・連想3点・組み合わせ2点:7点
◯テーマ
 仕事を続ける意味。ですが、物語の後半くらいからこのテーマの輪郭が生まれてきたように思えます。また、仕事をする意味の解決が、職場の部下たちのため、というのはやや弱いように思えました。説得力はもちろんありましたが、こうして文章の仕事を指標にしていると、人のためにする仕事は所詮いつでもやめられる仕事なのではないかな、と個人的には思うわけです。まあ個人的な違和感は置いておくにしても、日常系ストーリーでもテーマがしっかりあることはとても良いことです。6点
◯キャラクター
 わずかな描写でも、シーンでしっかりと人柄を演出できており技量の高さが伺えました。8点
 今村:社畜。現代の若者。見ていて辛い部分はリアリティということで。
 田中さん:人のいいパートのおばちゃん。良い人や。
 千石:無愛想なバイト。こんな良いバイトの子がいたらな、と思わされる反面、こんなバイトはいないよ、とも思わされました。
 店長:物語に変化を加えるポジション。物語を動かすポイントが店長からの明日入れ電話というのはいかがなものかとは思いますが、そんなにバリエーションもないですよね、まあ。最後の毒舌にはやや違和感がありました。
◯シチュエーション
 スーパーを舞台にした新人社員奮闘記。何が納得行かないかって、コメディ要素がほぼゼロだったことですね。4点
◯構成
 店長からの電話はろくなことがない→臭い客→叱責のメール(店長メール弁慶)→千石の性格→ちりしある→カンチョースイッチ→ケツの危機→白澄さんとデートの約束→客注→作業延長、田中さんの優しさ→午後ティー→客注、大量の水→ラーメン在庫を売り切る→小休止(千石と会話)→未成年には酒を売れない(千石の好感度UP)→千石に午後ティー、白澄さん電話→臭い客うんこ→小休止(田中さんと会話)→ウサ耳、ベビー作るぞ→店長の電話(デート行けない)。落ち込む。千石が代わってくれる→断水。大量の水が売れる。千石一人では無理。デートの約束を取り消し、スーパーへ向かう今村。千石にありがとう→店長のメール(オチ)
 このイベント量を見ると、小説というよりもゲームチャートに近い感覚を覚えます。千石ルートを設定してその間をリアリティを増すため日常パートで埋めたような感じでしょうか。ところどころで伏線と回収がありますが、小説としては不要部分が多いのが気になります。5点
◯総評
 経験者(もしくは綿密な取材)でないと書けない内容だったため作品のリアリティが一つ突き抜けていました。あまりに社畜すぎて心苦しいものもありますが。セリフもしっかりしており、技術的にも良かったのですが、他の方もおっしゃっているように主人公に貫通目標がないため前半~中盤でものすごく中だるみしています。書きたい部分があっても取捨選択は必要ではないかなと思います。

 点数は端数切り捨て計算です。##点。
 感想は以上となります。長文失礼致しました(^O^) 
2012年08月12日(日)19時22分 水守中也 WqqU5hdvk2 +30点
こんばんは。水守中也と申します。
企画参加お疲れ様です。

御作を拝読して、業界ものを書けばよかったなと後悔しました。はい。とても面白かったです。
私は各店舗(スーパーではありませんが)に商品を供給する仕事をしています。作品とはちょっと舞台が違いますが、とても親近感が沸きました。おばちゃんのパートさん多いしw
ちなみに私のところでは、パレットとは荷物を載せる板みたいなものを指し、カゴ車はそのままカゴ車と呼んでいます。舞台が変わると名前も変わるものなのですね。

さて小説内容に移ります。
まず上手いと思ったのは、ちゃんとライトノベルしているということです。
私が業界物として仕事場を描けば、おっさん・おばさんばかり出て面白みも何もなくてなってしまうところですが、御作は違いました。
白澄さんに千石、そして田中さんにも、ライトノベルに必要な「萌え」がありました。
みな魅力的な女性ばかりでしたが、とくに千石がお気に入りです。一人でがんばっちゃうところなんて、特に良いですね。今のところ今企画のベストヒロインです。
店長さんも一貫として困った人になっていて好印象です。ただ改善策があるわけではないですが、ラストのメールはもう少しきつく脱力させるようなものが良かったかなと思いました。ちょっと弱く感じました。

・ストーリー
仕事内容を小さな章で進めていく展開で、どういう風にまとめるかと思って読んでいましたが、ラストは綺麗に締めていましたね。

・コメディ
かなりの部分で、主人公の今村くんに共感できてくすりとできました。
ただそれは、似たような仕事を自分がしているからかもしれないので、余計な心配かもしれませんが、関係のない学生さんが読んだらどう思うのかなと感じました。

・お題
「うさぎ」とありますが、ウサ耳だけで、「うさぎ」と検索してもヒットしませんでした。代わりに「兎」で検索したら「脱兎」と出ました。
別に文字列として使わなくてはいけないわけではないと思うので、どうでもいいのですが、狙っていたら策士だなとw

・小ネタ
バイトとの雑談ネタは楽しめました。ただ、ホームレスネタにはちょっと困りました。
おそらくリアルな体験なのでしょうけど、笑っていいのかな、という感じでした。

・最後に
例の断水騒動のとき、私の仕事場では、自社のトラックだけではなく物流本部に来る納入業者のトラックもお借りして、各店にペットボトルの水を配送しました。
けれども微妙に高い商品だったせいか、もともと店舗が水を売るようなスーパーではないせいか、思いっきり余ってしまったようで、返品処理が大変でしたorz
しっかり納品して売り切った今村さんを見習ってほしいものです。そして千石さんのようなパートさんがほしいですw

それでは。失礼します。 
2012年08月11日(土)23時53分 三水 未  +40点
 こんにちは。三水 未(さみず まだ)といいます。「納品・レジ打ち・客対応!」読ませていただきました。基本的に僕ならこうするということを書いていきますので、作者様の方で合わないと思われたらスルーしてやってください。

 えっと、あの、実はこれ、仕事中に会社で暇だったもんでこっそり読んでたんですけれど、ニヤニヤするのが止まらなくて大変だったじゃないですかどうしてくれるんですか。(全部僕が悪い)
 何がってもうともかく千石可愛い! すっごいリアルに可愛いんですよ! 正直、他の作品でも可愛い女の子はいっぱいいました。いました、が、正直嫁にしたいとまで思ったヒロインは千石が唯一です。っていうかラ研で読んできた作品の中で唯一じゃないのかな。それくらい、もう可愛かった。
 個人的にもうニヤニヤが止まらなくて足バタバタしそうになったのは(会社なので一応堪えました)、「だって……いつも忙しそうだから」のシーン! もう何この子超可愛い! 本当、千石ちゃん僕にください!
 千石千石言ってますが、正直、この手の可愛さって、ある程度今村くんのかっこよさと連動してると思うんですよね。今村くんがしっかりかっこいいからこそ、そんな今村くんのことがちょっと気になる千石の可愛さが、すごく目立つ。すごく理想的なキャラクターが並んでいたと、思います。

 そして、面白いんですよね。いかにもそれらしい、少しダーティな、けれどニヤリとくる、楽しさ。正直「コメディ」と「業界」って絶対合うとは思っていたんですが、それをしっかりと見事に合わせてきたなぁと、思います。

 が、気になった点も少し。
 先にも書きましたが、ともかくこの作品のメインって、千石の可愛さだと、思うんですよ。コメディとしては非常にいい構成だったと思うんですが、いかんせん序盤、千石の出番が少なかったかなあと思うんです。特に「ちりしある」~「思いもよらぬこと」辺り。いや、多分時間帯の問題もあると思うので仕方ないと思うんですが、「ちりしある」「やる気スイッチ」の辺りでもう少し千石の可愛らしさを見せて置いてもよかったかなあ、と思うんです。
 そうそう、ふと今思いついたことですが、できたらサブタイトルの脇にでも曜日、時間帯を併記してあっても良かったのかな、とも。ちょっと分かりにくかったと、感じたので。多分僕の読解力不足が原因ですのであまりお気にはなさらず。

 それと、もう一点は他の方も言っておられますが、店長がやな奴で終わってしまっていること。あの、クレームで謝罪に行かなきゃいけなくなった、ってシーン。実は今村くんの尻拭いをしてくれていた、みたいなところがあったらちょっと面白かったのかな、とか。難しいとは思うんですけど、ね。

 ただ、全体通してともかく面白い作品だったと、思います。作品の完成度もトップクラス。水の伏線がしっかり生きていたのも、よかったです。

 最後になりましたが、執筆お疲れ様でした。
 それでは、生意気な感想失礼しました。

P.S.
 っていうか本当多分ムリなのは分かってますが千石を嫁にください。マジで。 
2012年08月10日(金)16時46分 いさおMk2  +10点
 企画参加お疲れ様です。いさおMk2と申します。御作を拝読致しましたので、拙いながらも感想など書かせて頂きます。

 小生の友人が、以前地元のスーパーで働いておりまして、その時の愚痴とまったく同じ様な事が書いており切なく笑えました。常々考えているのですが、このような業務形態が平然と行われているわが国はとても先進国とは言えませんね。友人は『奴隷の仕事だ』と嘆いておりました。
 そのスーパーの業務をリアルに描きつつも軽妙な文章で読ませる知識と筆力は素晴らしかったと感じます。文章的に引っかかる所も無く、仕事の様子がまるで見ている様に頭の中に再生されました。ちなみにコンビニのパートをやっている小生の嫁さんにも読ませててみたところ「うん、リアルだねえ」と言っておりました。

 人物について
 主人公。
 なんていうか、要領の悪いコだなあと感じましたw
『客注』の章などは、嫁さんと読んでいて思わず
「ここ、私だったら『お決まりになりましたらお呼びください!』で逃げちゃうなあ」
「だよねえ」
 と二人で駄目出ししてしまいました。
 小生はスーパーでの業務は経験ありませんが飲食が長いもので、どうもそういうところに目が行きがちです、ごめんなさい。
 未成年のガキを追い返す所やパートの田中さんに萌えちゃう所など美点も多いキャラなのですが。

 千石
 ナイスツン。そしてナイスデレ。
>「だって……いつも忙しそうだから」

 にはあざといと思いつつもヤられましたw
 あと変なTシャツも。
 ところでTシャツネタでは嫁が「『閻魔蟋蟀』が読めなくて意味わからなかった」と言っておりました。ちょっと優しくないネタだったかも。

 店長
 この人は、個人的に勿体無いかなと感じます。
 主人公の、どこか甘い部分をこの人の仕事を通して見せ付けたりする事で、主人公の『この仕事続けていていいのだろうか』という悩みに答えを見せたりする事ができるのではなかろうかと感じます。
 このままでは只のクズ人間ですからw

 お話の展開について。
 先述した通り、ディスカウントスーパーの業務をリアルに描いていて興味深いものでした。

 しかし、小説として読むとダレます。

 おそらく、作者様はこの仕事をしておられてなるべくリアルに業務を描こうと思われたのでしょうけれど。小説として読んでおりますと、似た様なエピソードが多くてダレます。
 例えば、『お客様は神様ですか?』の章などは読んでいてあまり面白い類のものではなく、小生はむしろ不快に感じて読み飛ばしました。

 それと、日常をリアルに描き過ぎる事による抑揚の無さ。ここは少し話を『盛る』事でカバーできるのではないかと感じます。
 
 そして、ラスト。
 せっかく何となく良い雰囲気に終わると思っていたらこの仕打ち。
 個人的には、笑うというより醒めました。
 ここは先述した様に、店長が只の嫌な奴にしか見えなかったからそう感じたのではなかろうかと愚考致します。


 総評として
 とても興味深く読ませて頂きましたが、引っかかる所も多々ありました。もしかしたら小生の『営業態度に厳しい』というオヤジ特有のスキルがそうさせているのかもしれませんが。
 細部のシェイプで相当に化ける作品でなかろうかと感じております。

 乱文、ご容赦を。
 お互い企画を楽しみましょう。 
2012年08月08日(水)04時19分 makkux  +20点
拝読いたしました、makkuxと申しますです。

業界あるあるネタてんこ盛りの本作、お受け取りいたしました。私自身もコンビニでアルバイトをしているので、ところどころ共感できるところがあって大変愉しませていただきました。
ですが、これ……だれるっすね。

いや、面白いんですよ。むっちゃ好きな感じなんですよ。
ただ、だれるんですよねえ……連作短編って形ですと、いわゆる途中で『飽き』がぽっかり穴空ける感じっていいますか。
文句なしに面白いんですけど、必然的に途中で飽きちゃうんですよねえ……。


といいますのも、物語の方向性が冒頭で定まってないのが大きな原因ではないのかと愚考します。
そのため、どこにどう決着するのか、という部分に興味を引かれることもなく、『あれ、この話って結局なんなの?』という感じになってしまったのが痛かったかなと。
『面白味』がログアウト状態だったような気がどうしてもしてしまいました。


では、拙いながらも以上で感想とさせていただきます。
一個人の一意見まで。 
2012年08月06日(月)21時48分 路野トホホ  +30点

こんばんは、路野トホホと申します。作品、拝読しましたので感想を書かせていただきます。

実を言うと私の親はコンビニの店長でして、学生時代は毎日のように親の店を手伝わされていたので作品を読んでいて「あるある」といちいち共感してしまいました。特に、アルバイトに急に休まれいきなり店に駆り出されるときは、本当に眩暈すら覚える絶望感を味わえますよね。

ストーリーに関しては特に大きな山場などは見当たりませんでしたが、ジャンルがジャンルだけに現実としてあり得る範囲内で話が纏められているのはリアルさを感じられて逆に良かったと思いました。
クスリと思わず笑わされるような描写がところどころ散りばめられており、退屈することなくするすると楽しく読み進めていくことができました。

本作はキャラクターがとても魅力的だと感じました。特に主人公は、優柔不断で心も弱い情けない人間ですが、いざというときは迷惑客に対し、毅然とした態度で接してアルバイトを庇う等、非常に魅力的で格好良いキャラだと思います。周囲の人たちが主人公を助けるのもわかる気がします。思わず応援したくなるキャラですよね。
他にも、店長・田中さん・千石・白澄などなど、みんながみんな良い味を出していたと思います。

気になった点は、タイトルがちょっとあんまりにも適当過ぎるのではないのかと思ってしまったことですw

正直、かなり面白かったです。
それでは、面白い作品をどうもありがとうございました。失礼致します。

2012年08月05日(日)19時24分 インド洋 dIe1A1rqVw +30点
 なるほど。お尻にあるのは「やる気スイッチ」ではなく、つまりは「ヤラれる♂スイッチ」だと仰りたいのですね……ごくりっ(汗


 こんばんわ、インド洋と申します。
 なんとなく初めてではないような気もするのですが、初めまして。本作、拝読させていただきましたので、以下にて感想を残させていただきますね。


 まず、ジャンルの使い方が非常に上手いと思いました。これって日常系のあるあるネタの作品だと思うのですが、お仕事を主題にしたことで企画内容に沿う形にもっていけてる点がグッドでした。
 また、ルールの穴でもありませんし、かなり作品の幅が広がる方法だったのではないかと考えます。

 内容も、ショートで繋ぐことでとても読みやすかったですし、まさにくすくすと笑える作品でした。また、登場キャラも可愛いですし、一度も姿を現さない店長もいい味出してますね。

 気になった点としては、60ページいっぱい使う必要はなかったかなというところでしょうか。わりと同じテンポでショートを繋いでいく形なので、途中でどうしても多少の飽きが出てきてしまう恐れがあるように感じます。
 途中、バイトさんの会話(ショートのさらにショート)でテンポを変えているようなところもあったのですが、さらに効果的にテンポを変えていただければ、この長さでも気にならなかったかもしれません(提案としては、店長の呟きを挟むとかぐらいしか思いつきませんが)。

 総括として、企画作品としてアイデアがよかった点と、普通に内容が面白かったことを考慮し、この点数とさせていただきます。


 拙い感想で申しわけありませんが、以上です。
 一個人の意見でございますので、何卒、取捨選択をよろしくお願いいたします。
 最後に、いい結果がでることを祈りまして。

 ではでは~
  
2012年08月05日(日)17時34分 いりえミト  +20点
『納品・レジ打ち・客対応!』、拝読しました。いりえミトという者です。よろしくお願いします。


よかったです。
スーパーを舞台としたほんわかコメディでしたね。
私はスーパーやコンビニで働いた経験がまったくないので、なるほどこういう仕事なのかと感心しながら読み進めました。
なんだか、色々大変そうですねぇw すごいリアリティを感じたのですが、作者さんは経験のある方なのでしょうか?

文章はすっきりとしていて読みやすく、よかったです。

また、登場人物たちそれぞれに個性があって、よく描けているなと思いました。
「キャラが立っている」というより、「人間が書けている」という感じです。仕事の描写と同様、人間描写にもリアリティがある感じで。
特に店長は……w
こんなのが店長だったら文殴りたくなりますけど、上司だから耐えざるをえないんですよね。今村くんの気持ちが、痛いほどわかりますw
それとパートの田中さんがいい味出してますね。職場のオアシスという感じです。
そいでもって、千石さんがたまらなくかわいいですw ツンデレ…いや、無愛想デレか? 彼女なりに今村くんに気をつかって仕事をしていたというエピソードが印象的ですね。


ただ、ストーリー的には、大きな目的というか、「ゴール」に相当するものがなく、ひたすらスーパー業務の描写が続く感じなので、この長さではさすがにダレる感じがありました。
断水が起きて、今村くんがスーパーにかけつけるシーンがクライマックスになるようですが、それも「仕事描写」の延長ですし、なにかもう少し違った形での山場も欲しかったように思います。
千石さんと白澄さんを絡めた三角関係でにやにやしたかった、という思いが個人的にはあるのですが……。
でも、恋愛がメインになってしまわないように、あえてその辺りは書かなかったのかもしれないですね。


総評としては、リアリティと人間描写に長けた良作だと思いました。

簡単ですが、感想は以上になります。
それでは失礼します。 
合計 17人 330点

ページの先頭に戻る▲