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デッドリー・チョコレート

 もうすぐバレンタイン! カンタン! 生チョコレートの作り方[ミニコミ.comより抜粋]

○材料一覧
  板チョコ200g
  アーモンド・カシューナッツなどあわせて20個(トッピング用)
  牛乳20ml
  アルミホイルカップ(Sサイズ)20個(お弁当によく使います)
  非ベンゾジアゼピン系カプセル2錠(よく効きます)


 ハート型に「愛してます」のマーク入り。それは熱い恋心。
 赤いチョコの入った銀紙を大切そうに抱えながら、立花美香は歩いていく。
 ショートの髪に、三白眼の鋭い瞼。女の子なのに「何ガンつけてんだてめぇ?」といわれてもおかしくない顔つきだ。もちろん、言った奴は血の海へと静めるのが立花美香の信条だが。
 とはいえ、そんな彼女も今日は少々機嫌が良い。理由は手にしたチョコレート。
 愛しの日向井君に、このバレンタインのチョコレートを届けるの。
 前回の反省を生かし、中には日本語で「愛してます」と綴ったチョコ。直球勝負のド本命。
 というかヤバイ。マジ告ってるよ立花美香。しかも今度はストレート。本当にいいのか立花美香?
 ええもちろん構わない。好きな人に告白する、そこには罪も罰も無い。
 あるのはそう。私の純粋なハートだけ。
「ああ……」
 チョコレートのとろける味。そして思い浮かべる、日向井君のとろける笑顔。そしてついに、桜の木の下で愛の告白。
 今は冬? 恋に季節は関係ない。
「くくくっ」
 やばい想像が膨らみすぎる。センター試験で801点取ったようなやばさだこれ。
 花咲く乙女、立花美香17歳。今日こそ恋を叶える時――
「と、いいたいけれど」
 妄想から抜け出して、立花美香は足を止める。時には現実も必要だ。
 目の前に見える、不穏な影。彼女の相対する悪魔。
「……やっぱり出たな」
 立花美香の三白眼が、さらに鋭角度を増していく。
 日向井君への告白チャンス、この女が見過ごすはずも無いだろう――
「あら。随分な挨拶ね、美香さん。この千葉高見が存在がご不満なのかしら?」
 美香の前に現れたのは、流麗な髪を流し、豊満な胸を輝かせたお嬢様。成績オール5、ルックス最高、料理の腕と性格以外はパーフェクトのその女。
 愛しの日向井君を奪い合うべく、古来よりバトルファイトを繰り広げてきた永遠の敵。その女は千葉高見――
「ええ、とっても不満よ高見さん。何ていうのかしら。例えるならそう、三角関数並みに憎い存在だわ」
「それは私もお互い様ですわ、美香さん。貴方を例えるならそう、日向井君と私の間に立ちふさがるベルリンの壁」
「いつか壊れる、って言いたいわけ?」
「高等なギャグが通じて嬉しいですわね美香さん」
 手元を口に当て、高見がくけけけけけけっと笑いを零す。
「まぁ、単細胞の美香さんの事だから、どうせハート型のチョコレートの真ん中に『愛してます』とか書いているのでしょう?」
「くっ」
 ばれている。しかし、美香の愛に偽りは無い。
「でも、チョコレートなんてストレート勝負が一番よ。それにいつも金に物を言わせる貴方と違って、私のは手作りですから。愛を込めた。そう、手作り。貴方には無理でしょう? 料理下手な高見さん?」
 手作り。その言葉に弱い殿方の、なんと多いことだろう。日向井君とて健全な男子A(十七歳)に違いない。例え豪華絢爛、金色ピカピカの金塊チョコレートが出てきたとしても、日向井君なら手作りチョコを選ぶはず……………………だと思う。
 そしてこの千葉高見は、料理が壊滅的に下手なのだ。その時点で既に、雌雄は決している。
 そう。この勝負、もとより立花美香に勝負あり――
「……そう言うと思ったわよ、美香さん。でも残念だったわね。私も今回は、愛を込めて自ら作ったチョコレートよ!」
「なに?」
 あり得ない返事の直後、高見が銀紙に包まれたチョコレートを取り出した。
「どうかしら?」
 高見の台詞と、自慢げな態度。それに相反する、質素な銀紙に包まれた小さなチョコ。
 何だこの、千葉高見らしからぬ庶民の味をアピールしたような雰囲気は。
 いや、落ち着け私。高見の作ったチョコレートなど、たかが知れたものなのだ。あの料理下手の高見には不可能な代物――
「ど、どうせ味の方は不味いんでしょう?」
「汗かいてるじゃない、美香さん? そんなに気になるなら、お一つ食べてみてはいかがです?」
 自信ありげに話す高見。そういわれて、言葉を返さない美香ではない。
「……ふ、ふん。面白いじゃない。そうまで言うのなら、頂いてあげるわ高見さん」
 売り言葉に買い言葉。どうせ大した味ではないに決まっている。そう思い込み、静かに差し出した高見のチョコを、手先に掴んで口へと放る。
 途端に口内で広がる、チョコレートのまろやかな味わい。
 そして謎の肉汁。それはチョコの甘さと絶妙に織り交じり、
「ぐほあっ」
 不味い。不味すぎる。驚嘆すべき不味さだ。
 とろとろとしたクリーミーなチョコレートの甘みに、ゲロ味を加えたとしか思えない絶妙なバッドチョイス。
「っ……えほっ」
 思わず膝をつく。しかし同時に、それは己の勝利を確信した瞬間。
 美香の作ったチョコレートは少なくとも、人類が食しても問題の無いチョコ味だった。ゲロではない。
「くくっ……」
 この程度で、日向井君が振り向いてくれるはずも無い!
「馬鹿げてるわね、高見さん。こ、こんなもので日向井君の心が……ぐっ」
 笑顔を浮かべて立ち上がろうとし、美香はふと動きを止めた。
「ま……まさか」
 背中に流れる冷たい汗。
 ――不味すぎて、身体が動かない。
「くくっ……あはははは!」
 目の前で、高見が勝者の声を上げる。
「引っかかったわね美香さん! どうかしら、私の特製、体が動かなくなるデッドリーチョコレートのお味は!」
 美香の叫びに、高見がにんまりと笑みを返す。
「あ、あなた、最初からこのつもりで……!」
「そうですわ! 確かに私は、料理に関しては才能が劣っています。それは認めてあげましょう。けれどもそれは――不味い料理を作る才能がある、という事ではなくて?」
 背筋にぞっと寒気が走る。
 なんて恐ろしいポジティブ思考な女なんだ。
「くくっ……残念ですわね、美香さん。これで私の勝利は確定。そして美香さん。貴方なら分かるでしょう? このチョコレートを日向井君に食べさせて、彼が倒れた後は私も思うがまま……ふふっ。チョコはストレートが一番なのですよぇ、美香さん?」
「くっ……」
「で、ついでに」
 身体を震わせる美香の手から、高見がチョコを取り上げた。
「あ!」
「完全勝利を目指すため、貴方のチョコレートはこの場で没収させて頂きます。日向井君にあげることはできなくとも、私がここで食べて差し上げますから感謝しなさい?」
 目の前でチョコを奪われる。そのまま美香に見せ付けるように、高見はチョコレートを一口でぱくりと頬張った。
 美味しそうに一度噛み、ゆっくりと味わい――
「ふぐぅっ」
 高見の体がふらついた。突然の眩暈を訴えたかのように体が揺らぎ、足元がたたらを踏んだ。
 バカな女。
「く、み、美香さん、まさか貴方も」
「ふふっ……ストレートで勝負、でしょう? 愚かで可愛そうな高見さん。自業自得とはこのことね」
 片腹を押さえ、顔を蒼白にして高見の前に立ち上がる。しかし、身体はまだろくに動かない。
 想像以上に、高見の入れたデッドリーな薬品は強烈だ。
「くっ。どうやら今日の勝負はお預けのようね、高見さん」
「そのようね。私もこの体調ではちょっと、日向井君に直接手渡しはできませんわ。後でチョコ郵送が席の山というところかしら」
 お互いに、静かで冷徹な笑みを零す。
 日向井君にあげる筈のチョコを手渡して、何故か満身創痍になっているというのはどういう事なのかとも思うが。
「そして、チョコを食べて寝込んだ日向井君を看病して、ラブラブハッピーエンドへ突入と」
「……考える事は同じですわね、美香さん。でも今回の件で、貴方の実力の程は見えましてよ。後で日向井君に贈るチョコ、貴方の比ではない、それこそ一口で卒倒するようなチョコを作ってあげますから」
「ふん……私こそ、一口で昏倒するチョコを作ったほうがよさそうね。二錠じゃ足りなかったかしら」
「くくっ……」
「ふふっ……」
 不気味な笑いが、二人の間を包んでいく。そして、
『負けませんわよ! 貴方なんかに!』
 今日もまた、二人の火花が空へ散る。


 ――後日。
「ごふぁっ」
 そして日向井君は今日も散る。


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●感想
柊 木冬さんの感想
 柊です。いつもお世話になってます。読ませていただきました。

 実は高得点入りした年賀状はあまり面白いと思えなかった私なのですが、
 (ギャグセンス、一般とずれてんのかな?)これは良かったです。
 「ベルリンの壁」「三角関数並みに憎い」「謎の肉汁」。
 ここまで惜しげもなくネタを使いまくっちゃってクッパさん大丈夫か!? といらん心配したくなるほど。
 ちなみにベルリンの壁=いつか壊れる、は分かりませんでした。
 いいのか柊、春から大学二回生。歴史の知識が……

 ただ、さすがに三作目ともなるとちょっとパターン化してきちゃってますねえ。
 高見と美香が火花を散らして、ラストで日向井くんが酷い目に遭うという図式が確立しちゃってるわけで。
 個人的にこういうギャグのパターン繰り返しが許されるのは三作目までだと思ってるので、
 もし次回作があるのならもうちょっと捻りを入れて欲しいところ。

 追伸――美香ちゃん。三角関数が憎いあなたの気持ち、お姉さん痛いほどよおっく分かるわ(笑)


榛翔矢さんの感想
 料理の腕の悪さを逆手に取る作戦に出た高見嬢には感服いたします(ぉ)。
 料理が下手な美少女キャラは多いですがそれを利用した作戦は新鮮に感じました。


駿河さんの感想
 こんにちは。
 タイトルに惹かれたのでフラフラ〜っと読ませていただきました。
 恐ろしいチョコレートですね……最初の材料で
 『非ベンゾジアゼピン系カプセル2錠(よく効きます)』ひそかに笑ってしまいました。
 感想になりますが、失礼します。


一言コメント
 ・読みました。キャラの濃さがものすごいっ!!見習いたいです!!
 ・文章に関しては素人の口からは何も言えないけど。冒頭の意味の書き方が面白かったです。
 ・優雅な立ち振る舞い(?)の中に織り交ぜられる滑稽なギャグがツボにはまりました。
  大好きですこういうギャグ。
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