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哀れなランナー

 走れ。動け、己の足。
 決して恵まれてはいない、その華奢で細い足を動かすのだ。
 コーチに言われるがまま、時には直線を疾走、時には急カーブをトップスピードで走り切ったではないか。己の脚力を信じるのだ。
 この世界は、シビアだ。使えないとわかれば、すぐに捨てられる。それが怖くて、己は走るのだ。滑るような走りで、その地にくっきりと跡を残す。
 走れ。走れ。今己の持つ力を全て出し切るのだ。今力を出さなければ、いつ出せるというのだ。
 己は孤独のランナー、常勝のランナーなのだ。
 ああ、力が段々抜けてくる。足が震え、その振動が体に伝わっていく。足は動かなくなっていき、冷たくなる。もうだめか。
 その時、足に生温い風を感じた。するとどうだろう、なぜか力が湧いて来た。先ほどまでのぎくしゃくした走りとはうって変わって、また滑るような走りができるようになる。
 もっと、もっと力強く。己の足はそれだけの為に動いていた。ざらざらした地面に、自分の走った形跡を残すのだ。
 しばらくは、そのままトップスピードで走り続けた。ガリガリと、地面を蹴り上げる音だけが耳に届く。あとは、その速さによってできた風が耳元を通り過ぎるくらいだ。足が動きにくくなってくると、決まって生温い風が手助けをしてくれた。
 このままなら、いける。コーチに褒められ、使えない奴などと思われないですむ。このままの速さで走り続ければ、きっと――。
 だが、己の意思とは相反してまたも足は動かなくなってきていた。生温い風を受けても、力は出ない。出ないというよりは、使い果たしてしまった感じだ。ぎくしゃくした動きが再来し、しょっちゅう躓きそうになる。
 嫌だ、まだ走れる。頼むから、捨てないでくれ――。




「くっそ、また出ねぇ。このペン、先が細いだけがウリかよ。こっちは急いでるっつーのに」
 少年は、ペン先に息を吹きかける。それでも、インクは出ないまま。
「もういいや、こっち使おう」
 少年は別のペンを取り出した。そして、出なくなったペンをゴミ箱に放り投げた。


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●感想
一言コメント
 ・この発想は普通できません。
 ・創造性は感じます。
 ・散々走って最後は…世相を映し出してるかも。
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