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雪のなかの青い鳥

 『雪のなかの青い鳥』


「いいか、みちる。絶対に目を開けるなよ。絶対にだからな」
 目を閉じていても、まぶたを透かして吐息の白さが見えてきそうなほど、夜の空気は冷え切っていた。
 日暮れから降り続いた雪は、町内をすっぽり白く覆った。クリスマス前に雪が積もるのは珍しい。一昨日までは晴れていたというのに、あっという間に冬はやってきてしまった。
「にしても、寒いなぁ」
 私の手を引く蛍太が言う。
 彼がいつも来ている薄っぺらのジャンパーにスニーカーという冬を舐めてきった格好で迎えに来た時は、さすがに驚いた。南国育ちで雪を見たことがなく、おまけに万年金欠で何事においても腰が重い性格の彼である。厚着をしようにも、そのための防寒具一つ用意がなかったのだろう。
 一方の私は、ロングコートにマフラー、ニットキャップをかぶり、両手にはミトンの手袋。履いているはゴム長靴という完全防備。それでもまだ寒いのだから、彼が感じる寒さはどれほどだろう。ミトン越しにつないだのでは、彼の手のぬくもりまではわからない。
 ――と、うっかり同情しそうになる自分を、あわてて制する。危ない、危ない。今はまだそこまでこいつに優しくしてはいけない。少なくとも、彼の見せたいものがわかるまでは。
 私は彼の言いつけ通りに目をつむったまま、慎重に雪道を進む。
「ちるちるみちる」
 唐突に、彼がつぶやいた。
「これ、何のことかわかるか?」
 質問ではなく、確認のための問いのようだ。良いことを思いついた子どものように、無邪気で楽しそうな声調子である。
 チルチル、ミチル。
 青い鳥を探した子どもたち。
 彼らもこうして手をつないで歩いたのかもしれない。

    ***

 蛍太の場合、腰が重いというのは完全に欠点だった。用心深く石橋をたたいて渡るのではなく、石橋をたたくことすらしないで呆然と立ちすくんでいるような性格なのである。
 十二月に入ってから、彼は妙に落ち着きがなく、時折、決まり悪そうに何かを言いかける時があった。
 私は、そのことに気づきつつも、確かめることが怖くて気づかないふりを通した。
 そうして。
 彼がようやく言う決心を固めたのは、クリスマスまで残り一週間を切った日のことだった。
 それは、温厚に済ますにはあまりにも遅すぎた。腰が重いとかいうレベルではなかったのである。


「幸せは雪みたいに儚い」
 生まれてから一度も雪など見たこともない生粋の南国育ちのくせに、蛍太は言う。
 しかも、そこで言葉を切って、悔しそうに唇をかむパフォーマンス付き。
 どうにかして、恋人――つまりは私のことだ――の同情を誘おうと必死だが、真実のところ、こいつは根本的にこういうものに向いていない。いわゆるファニーフェイスってやつで、何をやってもどこか様にならない。
 大学に隣接したハンバーガーショップは、食事時でなくてもそこそこに混んでいる。暖房と学生たちの熱気のせいで、ガラス窓は全面結露しており、表の様子をうかがうことはできない。
 しかし、やって来る客たちは一様に震えながら背を丸めており、この冬一番の寒波というやつが迫ってきているのは明らかだった。
 私はハンバーガーの包み紙を丁寧に畳み終えると、ゆるゆると紙コップに被せられた蓋を取る。まだウーロン茶は半分近く残っていた。
「……で?」
 なかなか本題に入らないので促してやると、蛍太は、う、と言葉に詰まる。ほらね、やっぱり。
 私は苦笑して見せた。
「クリスマスにバイト入っちゃったんでしょ」
「すまん、みちる。イブもなんだ」
「あっそ」
 それは彼が演技を始めた時点で、ある程度察しがついていたことだ。
「……あっそ、って」
 動じたのは蛍太の方だった。
「みちる、怒らないのか? イブとクリスマス両方だぞ。あれだけクリスマス楽しみにしていたのに」
 ええ、そうですとも。とても楽しみにしていた。
 十一月からずっと私の頭の中は、私たちの経済状況でも可能な、最もロマンチックな過ごし方とは何なのかという議題で持ち切りだし、私が切り出す話題もそればかりだから、いくら鈍感かつ無知な蛍太だってクリスマスの重要性は実感していたはずだ。私がクリスマスに食べたいケーキは駅前のケーキ屋さんのブッシュドノエルだということとか、私の指輪のサイズとか、そういった情報の提供もさりげなく、しかし徹底的に行ってきた。
 だというのに――
 蛍太はほとんど反応を見せない私を不審がっていたが、やおらキラキラと表情を輝かせた。
「そうだよな。クリスマスなんて別に大したイベントじゃないよな。さすがみちるは心が広い!」
 どうやら、自分に都合よく解釈したらしい。
 その顔を目がけて。
 私は紙コップの中のウーロン茶を彼にぶちまけてやった。ぎゃー、と品のない悲鳴が上がる。
「うっわ、信じられねえ。つめてー、風邪引くー!」
 他の客を気にせず大騒ぎする彼を残して、私は席を立つ。
 ――引くなら引け。そして寝込んでしまえ。クリスマスを笑うやつは、冬将軍に泣かされてしまえばいいのだ。


 クリスマスにこだわっているわけじゃない。別にキリスト教徒じゃないんだし、資本主義の策略に乗ってやる義理もないでしょ。
 友人にはうそぶいているが、クリスマスにこだわりまくっていることは、私自身が一番よく知っている。
 遊園地とかレストランとか、別に特別なことをしたいわけではない。何より、そんなお金は割り勘にしたって蛍太に出せるはずがない。
 実家暮らしの私と違って、蛍太は一人暮らしだ。しかも仕送りも少ない。大学の学費免除制度と奨学金とアルバイト代で糊口をしのぐ、今どき珍しい正真正銘の苦学生である。
「だからさぁ、加藤と安野さんはサークルの会議、宮田さんは家族で旅行、東海林は法事だって。みんなサボれない用事ばっかで、そしたらもう残ってんの俺くらいだろ? な? 仕方ないんだって」
 クリスマスはお店にとって稼ぎ時であり、かつ、バイトのシフトが最も埋まりにくい時期。蛍太の金銭事情と人の良さ――単純さとも言う――を知るバイト仲間が、蛍太を頼るのは当たり前といえば当たり前だった。というか、年末も近いこの時期に法事、って絶対だまされているから、それ。
「シフトは先月には決まっていたはずでしょ。どうして黙っていたのよ」
「言いづらくて」
「あんたは何もわかってない」
 私は一方的に携帯電話を切った。
「……仕方ないって、何よ」
 断ろうと思えば断れたはずだ。私とバイト仲間を天秤にかけて、それだけでも腹立たしいのに、あろうことかバイト仲間を取りやがったわけである。しかも、自分で選んだ結果なのに、それを仕方ないで済まそうとするなんて、人間としてどうかしている。
「あーもう! ムカつく!」
 ばふー、とベッドに倒れ込む。
 枕の横には編みかけのマフラーが転がっている。ラッピング用の袋やリボン、メッセージカードだってすでに用意してある。
 イブは三駅向こうの百貨店にある特大ツリーを見に行って、その帰りにブッシュドノエルを買って、蛍太のアパートでささやかなパーティをする。そして、クリスマスはずっと二人きりで過ごす。私が思いつく低予算でロマンチックな過ごし方は、それが限界だった。
 けれど、そのために友達やサークルからの誘いは全部断った。きっと蛍太も同じことをしてくれると思っていたのに。
 右手を掲げる。何もつけていない薬指にばかり目が行ってしまう。
「あーあ……」
 小さくため息をついて目を閉じると、風と雨が窓を強くたたいている音が聞こえた。昼間、蛍太と別れてから天候は一段と悪くなった。
 確か、蛍太は今夜もアルバイトだったはず。この風雨の中を行き帰りするなんて、想像しただけで気分が滅入る。
「蛍太のやつ、転んだりしなきゃいいけど」
 そこまでつぶやいて、今、彼に腹を立てていることを思い出す。
「べ、別に私には関係ないし、どうでもいいけどさ」
 誰に向かってでもなく訂正する。そして、しばらくまどろんでいると、ふと外が少しだけ静かになったような気がした。
 窓辺に寄る。晴れていればまだ夕日が差し込む時刻だが、今日は厚い雲が空を覆い、夜と言っていい暗さだった。
「……雪だ」
 雨はいつの間にか白い雪に変わっていた。一つ一つが大きく重い、しめり雪。やがて積雪に変わる雪である。
 雪は強風に煽られ、ななめに降りしきる。雨が雪に変わっただけの暴風雪。傘もまともにさせない天候である。視界はほとんど効かず、家の前を慎重に車が徐行していく。
 蛍太から会って仲直りがしたいと電話がかかってきたのは、日づけも変わった深夜二時の少し前だった。


 寝静まった我が家をこっそり抜け出す。お気にいりのブーツを濡らすのは忍びなく、迷った末、弟のゴム長靴を拝借した。
 完全防備の私を見て、玄関先で待っていた蛍太は、
「へんてこな長靴」
 という短い感想をくれた。
「みちる、雪だ! 初めて見た!」
 蛍太はバイトが終わってから、ようやく雪景色と対面したらしい。ケンカしていたことなど忘れたように浮かれ調子で、雪だ、すげえ、と繰り返す。
 今のところ、雪も風も収まっているが、星は見えず、目を凝らすと辛うじて暗い雲が速く流れているのがわかる。冬の空だ。
 雪の深さは、足首と向こうすねの半ばほど。短い間にずいぶんと積もったものだ。
「のん気なものね。雪なんて、すぐに嫌気が差すわよ」
「……何だよ、冷めてるなあ」
 蛍太は軽く顔をしかめたが、すぐに笑顔になって私の横につく。私たちは車が作ったわだちを左右に分かれて歩き出した。
 雪は音を吸収する。深夜という時間と相成って、圧迫感のある静けさが私たちを包む。
「どこ行くの?」
「いいところ。ついてくればわかる」
 蛍太がいつものように手をつなごうとしてきたので、私はさっとポケットに両手を突っ込んで拒否した。
 何だ、この態度は。ウーロン茶のことをとやかく言われないのはありがたいが、ごめんなさいのセリフが出てくる気配はまるでない。
 ひょっとして、もったいぶっている、とか。何のために深夜に呼び出したのか。一番可能性がありそうなのは、バイトのシフトを変わってもらったという報告だろう。いや、でも、もしかして。けれど、一度浮かんだ期待は簡単には消えてくれない。
 あれこれ思案していると、視界の隅で蛍太が盛大に転んだ。
「痛ってぇ……」
「そんな靴履いているからよ」
 内心を押し隠すためにも冷たく言ってやるが、彼に嫌味は通じない。何が楽しいんだか、けらけら笑いながら立ち上がる。頭から足まで雪まみれである。
「うわっ、背中に雪入った! つめてー!」
「ちょっと。時間考えてよ。そんな騒いだら迷惑だって」
 雪の降らない場所から来た人は十中八九、雪が好きだ。これは私の偏見だが、蛍太のはしゃぎようからしても、あながち間違いではないと思う。事実、彼は何度も転びかけ、その度に楽しそうに笑った。
「……ねえ、どこ行くのよ? 用があるなら早くして。意味がないなら私帰るから」
 含みを持たせて言ってようやく、蛍太の動きが止まる。
「意味はある」
「どこに?」
 蛍太は少しだけ考える素振りを見せたが、意を決したように強引に私の腕を取った。
「ちょっと!」
 小声で抗議する私を、蛍太はまあまあ、となだめる。
「ついてきてほしいところがあるんだけど、それまで目をつむっててくれないか」
「……変なことしないでしょうね? そんなのプレゼントとは言わないからね」
「変なことって?」
「それは」
 自分の考えていたことに頬が火照るのがわかる。キ、の形を作ろうとしていた唇をあわてて別の形に変える。
「へ、変なことは変なことよ。私が変だと思ったら、即、ぶん殴ってやるから」
「理不尽な暴力は良くない」
 昼間のウーロン茶を思い出したのか、蛍太は一言意見してから、
「そこに着くまで、な、いいだろ?」
「うっかり転んでも殴る」
「……努力する」
 蛍太の口調は珍しく真剣だった。
 さて、どうしよう。
 彼の態度からして、ひょっとしたらひょっとするかもしれない。クリスマスを一緒に過ごせると期待しても、いいのだろうか。
 しばし悩んだ末に、私はうなずいた。
 蛍太はほっとしたように相好を崩し、改めて私の手を取る。
 私は言われた通りに、目を閉じる。視界が利かず、頼りは彼の手だけ。その状況が、余計に私をドキドキさせた。
「いいか、みちる。絶対に目を開けるなよ。絶対にだからな。……にしても、寒いなぁ」
 そろりと蛍太は歩き出す。一応、転ばないように努力はしているらしい。
 そんな発見にすら、ちょっと嬉しくなる。
 もったいぶるのはもういいから、早く言ってくれたらいいのに。
「ちるちるみちる」
 唐突に、彼がつぶやいた。
「これ、何のことかわかるか?」
 質問ではなく、確認のための問いのようだ。良いことを思いついた子どものように、無邪気で楽しそうな声調子である。
「わかるけど」
 彼の言いたいことがつかめず、私は曖昧に、しかし弾んだ声でうなずいた。吐息が温かく、鼻先をかすめた。

     ***

「下の名前、ミチルっていうのか?」
 彼が初めて口にした私の名前は、どこか不思議な響きがあった。
 今思えば、単に訛っていただけなのだけど、そんな音色で呼ばれたのは初めてだったから、妙にドキドキしてしまった。
 新歓コンパの席で、彼は軽く酔っていた。少々上気した顔で、にかっ、と気安い笑みを見せた。
「じゃあ、幸せの青い鳥を探しているんだな」

     ***

 つま先の感触がアスファルトの固さから土の柔らかさへ変わる。どこかの空き地だろうか。
 まだ蛍太の許可は下りていないので目は閉じたままだが、もう手はつないでいない。ここに到着すると、彼の方から手を放したのだ。
「みちる、もういいぞー!」
 前から声がした。
「だから、大声はやめなさいってば……」
 小言を口にしつつ、目を開ける。
 町はずれの公園だった。遊具もなく、柵で周囲を囲っただけの場所。知っていても遊びに来ることはない、そんな類の公園である。そういえば、蛍太の住むアパートもこの辺りだっけ。
「みちる」
 呼び声で我に返る。
「どうだ、見てみろ!」
 蛍太は、一際はしゃいでいるようだった。彼の見てほしいものが、今夜、わざわざ私を誘った目的であるに違いない。クリスマスの予定が狂って怒り心頭の私を喜ばせるために、彼が考えた贈り物。
 何だろう。何だろう。
 期待にドキドキしながら、ゆっくりと、彼のいる方に視点を合わせる。
 だが、いまいち彼の意図がつかめず、私は小首を傾げた。
「ええと……、雪だるまがどうしたの」
 そう。
 蛍太の横には、雪だるまがあった。バケツの帽子、顔にはビンの蓋とサインペンが埋め込まれ、おどけた感じの目と口になっている。背は蛍太の胸の辺りまで。この雪の量でこの大きさなら、なかなか立派なものだ。とはいえ、取り立てて驚くものでもない。見慣れた冬の風物詩。
「バイトが終わってから急いで作った」
 自信満々に蛍太は胸を張る。
 明らかに反応を期待している眼差しに、私は急いで言葉を探した。
「がんばったわね」
「心がこもってない!」
 蛍太は大げさに落胆する。
「いいか、こいつの名前はなぁ、チルチルだ。青い鳥にいただろ、チルチルとミチルの兄妹」
 チルチルで雪だるまを指し、ミチルで私を指す。
「二人はだ、夢の世界で頑張って捕まえた青い鳥はどれも死んでしまったり、よく見ると青い鳥じゃなかったりして、とうとう捕まえることができなかった。けれど」
「けれど、夢から覚めると、実は自分たちが飼っていた鳥が、探していた青い鳥だった……でしょ。知っているわよ、そのくらい」
 蛍太の言葉を遮って結末を話すと、彼は悔しそうに口をへの字に曲げた。
「まあ、いいけど。要は、青い鳥のテーマってのは……」
 まさにその時、頭の中に唐突にひらめくものがあった。天啓のように、と言ってもいいくらいの確信と、しかし、うるさいアラームの音に似た嫌な予感を伴って。
「ちょっと待って。まさかとは思うけど」
 知らず、目が据わってしまう。
「青い鳥をわざわざ探す必要がないように、クリスマスもわざわざ祝う必要はない、とか言うつもりじゃないでしょうね」
 蛍太が笑顔のまま固まるのを認めつつ、私はさらに追及する。
「そんなつまらないことを言うためだけに、わざわざ雪だるま作って私を呼び出したんじゃないでしょうね。こんな寒い夜に、しかも深夜に! わざわざ!」
「……雪だるまじゃない。チルチルだ」
「へええ、あえてそこを訂正するわけね。聞くけど、それ以外に訂正する場所は?」
 冷やかに問うと、蛍太は油の切れたロボットのようにぎこちなく身じろぎした。視線がチルチル、私、スニーカーのつま先を行き来する。
「バイトのシフトだけど、交渉はした。自分でも、あの鬼チーフ相手に善戦したと思う」
「それは頑張ったわね。一応、ほめておきましょう。……で、首尾は?」
「クリスマスとイブ以外に、二十六日から二十九日までシフト入れられた」
「死刑」
 私の行動は早かった。
 雪玉を作り、蛍太めがけて投げつける。一つじゃ全然足りない。作っては投げ、作っては投げる。当たれ。当たって砕けて死んでしまえ。この大馬鹿野郎。今度生まれ変わったらもっとマシな人間になれるように祈ってあげるから。そう、恋人を失望させないだけの賢さとか交渉力とかを持った人間に。
「うっわ、ちょっと、タンマ。マジでタンマだって! みちる!」
 タンマ、何とも懐かしい言葉。変なことに感心しながらも、雪玉投擲の手は休めない。
 蛍太は必死で避けているが、足を雪に取られてうまく動けないようだ。命中率はほぼ九割。面白いくらいによく当たる。蛍太の全身が、どんどん雪で白く染まっていく。その無様な様子が、さらに私の神経を逆なでする。
「ああもう信じられない。来て損した! 何が仲直りしよう、よ。嘘ばっかり。煙に巻こうとしただけじゃない!」
 単刀直入に謝らないのは蛍太の悪い癖だ。同時に、優しさでもある。率直に言うことが自分も相手も傷つけてしまうことに繋がりかねないと知っている証だろう。外堀を固め終えてから、ようやく気持ちを伝え、行動する。普段はお調子者気どりで、明け透けなイメージを抱かれやすいが、本来の蛍太はどちらかと言えば、とても奥手なのだ。
 と。
 もしも私の機嫌が良ければそう評すだろう。だが、つまらない言い方をしてしまえば、彼はただただ腰が重いのだ。優柔不断。言いたいことが言えず、行動もできず、まごまごしているうちに、袋小路に迷い込んで四面楚歌。シフトを減らすつもりが増やしてどうする。
「ごはぁ!」
 とりわけ硬く握った雪玉が蛍太の顔面に命中する。
 蛍太は思いきりバランスを崩し、ひっくり返った。その時、足が雪だるまの身体の方に当たってしまい、衝撃で雪だるまのバケツがぐらりと動く。
 あ、と思う間もなく、丸い頭が蛍太の上に落下した。愛嬌のあった白い頭は崩壊し、ビンの蓋でできた目がぽとりと落ちる。チルチルという名前があった分、何となく後味が悪くなって、私は雪玉作りを止めた。
 雪だるまの残骸に身体の半ば以上埋まりながら、蛍太がうつ伏せで横たわっている。そのまま動く気配がないので、少しだけ不安になってきた時、
「……あー、もう無理」
 足もとからくぐもった声が聞こえた。蛍太が倒れたまま、つぶやいたらしい。なげやりに。
「何かもう、どうでもいいやって思えてきた」
「え?」
「ムードとかロマンチックとか、みちるが欲しがっているものは俺には無理だったってこと。せっかく雪だるま作ったのになぁ」
 ぶつぶつ言いながら、腕を立てて身を起こす。雪がジャンパーの上を滑り落ちる。よくよく見ると、ジャンパーの大部分に濡れ染みができていた。
「俺はだ、こう計画していた。まずな、みちるは俺の作った雪だるまを見て、すごいって喜ぶんだ。わざわざ私のために、バイトで疲れているのに作ってくれたんだー、って」
「……お生憎ですが、クリスマスの恨みはそんなもので懐柔されるほど薄っぺらくないの」
 半眼で蛍太をにらむ。元をたどれば全部蛍太のせいなのに、まるで私が責められているようでカチンときた。さすがに気づいたのだろう、蛍太は取り繕うように両手を振った。
「それくらいわかってるさ。でもなぁ、ただクリスマスプレゼントを渡すだけじゃ、きっとみちるの言うロマンチックにはならないだろ。でも、俺も金ないし。雪だるまならかわいいし、俺にとっても念願っていうか」
「ちょ」
「雪なんて初めて見たけど、テレビで見るよりずっときれいだった。冷たいのに柔らかかった。これなら、ロマンチックかなぁって……」
「ちょっと!」
 あわてて制止する。さらりと、何かすごい単語が聞こえた。私にとってとても重要な単語。急に心拍数が上がった気がする。
「今、クリスマスプレゼントって」 
「うん、ちょっと早いけど。遅れるよりはいいだろうと思って」
 余りにもあっさりと蛍太はうなずく。
「聞いてないよ。そんなの一言も」
「先に言ったら、ムードがないとか言って怒るだろ。昼間渡そうとしたら、怒って帰っちゃうから渡しそびれたんだ。だから考えたんだけど、駄目だ。俺は絶対的にそういうのに向いてない」
「それは、確かにそうね」
 私のことだ、ハンバーガーショップで渡されたら、デリカシーがないとさらに激怒していただろう。ウーロン茶はちょっとだけ悪かったと思っていたのだが、意外や英断だったのかもしれない。
 蛍太はごそごそとジャンパーのポケットを探っている。
「いいか、驚け。指輪だぞ」
「もう、内緒にするなら最後までにしてよ」
 わざと怒って見せたが、それが限界だった。ものすごくうれしい。ドキドキする。
「……私が欲しいもの、覚えていてくれたんだね」
 あの鈍感な蛍太が、である。きっと彼のことだから忘れていると思っていた。
「『サイズは九号よ。プラチナがいいけど、蛍太の財布じゃ無理よね。シルバーで構わないからね』……だろ? あれだけ言われたら誰だって覚えるさ」
「えー、そんなしつこく言った記憶はないわよ」
 首をひねって誤魔化す。それを合図に、二人して肩を震わせて笑った。
 ふと、蛍太がおもねるような態度を見せる。笑いながら、しかし申し訳なさそうに。
「じゃあ、みちる。バイトの件はこれで……」
「何言ってるの、それはそれでこれはこれ。話は別よ」
 ぴしゃりと返す。半分以上、冗談のつもりで。
 クリスマスのことは残念だけど、今さらどう言っても仕方ないのはわかっている。今夜のことは蛍太なりに気を使った証拠である。プレゼントに免じてこれ以上のわがままは我慢しよう、と自分に言い聞かせた。
 だが、蛍太は真に受けたらしく、笑いを引っ込めて押し黙ってしまう。
 やだなぁ、冗談だってば――苦笑しながら言おうとしたが、先に口を開いたのは蛍太の方だった。
「……ない」
 ぽつり、と言った。呆然とした風にポケットに手を突っこんだまま。
「落とした、かも……」
「え?」
「指輪がない!」
 悲鳴に近い声を上げて、蛍太は先ほど自分が倒れた辺りを探し始めた。濡れるのもいとわず膝をつき、必死に雪をかき分ける。
 最後の最後にこの不手際。注意力散漫にも程がある。けれど、怒りは湧いてこなかった。
 雪は確かにきれいだと思う。でも、冷たい。素手で触り続けていると、かじかんで骨に食い込むように重く痛むものだ。それなのに、蛍太は雪の中を探り続ける。それは自棄になっているようにも見えた。
「私も手伝うよ」
 しかし、蛍太は首を振った。
「いいよ、みちるは。風邪引いたら大変だし。ちょっと待ってて、すぐ見つけるから」
「でも……」
 やんわり拒否されてしまい、私は立ち尽くす。
 蛍太の薄っぺらジャンパーは暗がりでもわかるほど濡れている。おそらくスニーカーの中も同じ状況だろう。雪の中を探す手に至っては手袋もつけていない。霜焼けになっているかもしれない。
 一方で、見ているだけの私はとても暖かい格好をしている。ミトンの指先がちょっと冷たい気がする程度。コート、マフラー、ニットキャップ、ミトン、ゴム長靴。
 崩れた雪だるまを見る。蛍太の手が目に使っていたビンの蓋を弾く。期待していた褒め言葉もなく、あっという間に壊れてしまった時、蛍太だって嫌な気持ちがしたに違いない。だというのに。
 私はわがままだ。
 ううん、わがまま過ぎる。蛍太がいろいろと鈍過ぎるように、私は他人に期待を押しつけ過ぎる。
 私が本当に欲しかったものは何だったっけ? クリスマスにツリーを見に行くこと、ケーキを食べること、欲しかったプレゼントをもらうこと、どれも違う気がする。どうして私はあんなに怒ってしまったのだろう。
 雪の中で四苦八苦している蛍太が、大きなくしゃみをした。それも二度。
「……馬鹿。先に風邪を引くのはどっちよ」
 私は思わず蛍太の傍らに駆け寄る。途中でマフラーを外すと、冷たい空気が首筋を舐めた。
「立って」
 言って彼の腕の引っ張り無理矢理立たせた。ジャンパーについた雪をたたくように払い、彼の首にぐるぐるとマフラーを巻きつける。
「もういいよ」
「え、え?」
 状況がつかめないのか、蛍太は目をきょろきょろさせた。
「だから、もういいって言っているの。指輪がなくたって私はすごく幸せだって気づいたから」
 ミトンも外し、彼の手にはめる。サイズが大きくてよかった。
「でも」
 なおも名残惜しそうな蛍太を、じろりとにらむ。
「蛍太が寒そうにしているのを見てて、私が幸せな気分でいられるわけないでしょ」
 最後にニットキャップを外し、背伸びして蛍太の頭にかぶせる。どれも女ものだからかなり不格好だけど、まあ仕方あるまい。
 私は目じりの力を抜き、彼を見つめた。
「いい? 青い鳥のミチルだってね、チルチルがいなかったら寂しくて、青い鳥を探すこともできなかったと思う。チルチルがいてくれたから、ミチルは幸せを探そうと思えたはずなのよ」
 幸せには前提条件がある。クリスマスもプレゼントも幸せの一つの形だけど、一人で叶えられるものではない。私はついそれが当たり前にあるものだと思ってしまった。だから、随分ひどいことを言ったし、つい暴力的なこともした。馬鹿みたい。一番大切なことを忘れていた。
 まあ、バイトのシフトが逆に増えてしまった経緯など、あとで問いただすべきことは山積みだけど。
 それでも、今夜のことは全部――雪だるまのことも、プレゼントのことも全部が、私のためだったということは信じられる。
 指輪が惜しくないと言えば嘘になるけれど、迷いはなかった。
「帰ろう? 蛍太が風邪引いちゃうよ」
「でも、指輪が……」
「い、い、か、ら!」
 なぜか私より未練がましい蛍太の腕を強引に引っ張って歩き出す。蛍太は公園を出た辺りでようやく観念したらしく、私の横に並んだ。
「蛍太。クリスマスってバイト終わるの何時くらい?」
「夜の十時。忙しかったら、もっと遅くなる」
 申し訳なさそうに言うと、彼は私の手を取る。ミトンのやわらかな感触。
「じゃあ、クリスマスの日、バイトに行く前に鍵貸してよ。それでアパートで待ってるから。時間は短いけど、やっぱり会いたいよ」
「……それなら、合鍵は俺が作っておくよ」
「そう? じゃあ、お願いするね。ありがと」
「それは俺のセリフだって。やっぱりみちるは心が広いよな。ちょっと怒りっぽいけど」
「何だか一言多くない?」
 笑いながら空を見上げると、雲間にうっすらと星が見えた。
「明日晴れるかな? 晴れたら、雪溶けるよね。そしたら、私、指輪探してくるよ」
「えっ」
 心底驚いたように、蛍太が足を止めた。確かに一度はいらないと言ったものなのだから、現金な話に聞こえたかもしれない。
「や……、だって、せっかく蛍太のプレゼントだもの。蛍太のお財布じゃ指輪買うのだって簡単じゃないってこと、私知ってるし。でも、なくなったのは私のせいでしょ。明日ゆっくり探そうかな、って。ね、どんなケースに入っているの? それとも袋?」
「あ、その……」
「どうしたの」
「ええと、それも俺が明日探しておくよ。プレゼントした本人に捜させるなんて格好悪いし」
「……蛍太がそれでいいならいいけど」
 妙に歯切れの悪い返事を不思議に思いつつ、それ以上追及するのは止める。怒ったり、ほっとしたり、ものすごく疲れた気がしていて、小さな疑問はどうでもよく思えた。
 手をつないで家路につく。それはとても幸せなことだと、今はわかる。


「これ、ありがとう。暖かかった」
 私の家に着くと、律儀にも蛍太はマフラーなど貸していたものを全部返してきた。私が貸すと言っても聞かないので、家の中から使い捨てカイロを探してきて渡す。
 しかし、蛍太はすぐに帰ろうとはしなかった。
「あの、みちる」
 何かを言いかけるのだが、結局、言う勇気はなかったらしい。軽いキスをすると、アパートに帰って行った。
 足音をひそめて自分の部屋に戻る。外との温度差に震えながら、エアコンを入れた。
「……何を言いそびれたのかな、蛍太のやつ」
 苦笑しながら、コートやマフラーをハンガーにかける。
 明日、蛍太に会ったら聞きたいことがたくさんある。増えてしまったシフトのことや、別れ際に言いかけたこと。
 エアコンの当たる場所にミトンを置いて乾かそうとした時だった。
「あれ?」
 指先に、固い感触が当たる。あわててミトンを逆さまに振ると、小さく光るものが転がり落ちる。
 銀色の指輪。
「あの馬鹿」
 様々な疑問が氷解していく。
 蛍太はなくしてなどいなかったのだ。
 私が「話は別」だと言ったのを、私がまだバイトの件を怒っていると本気で真に受けてしまったのだろう。
 それでよく考えもせず、思いつきで一芝居打ったのだ。きっと格好よく見つけたふりをして、私のご機嫌を取るつもりだったに違いない。
 けれど、予想外にあっさりと私が許してしまう。仕方ない、後日渡そう。そう考えたが、私が明日探しに行くと言い出したから、蛍太は追い詰められた。実は芝居だから探しても指輪はありませんなんて、今さら打ち明ける勇気もない。――で、あわててミトンに隠して私に渡した。
 だから、帰り際、マフラーなど防寒具を返すと言って聞かなかったわけだ。
「ほんと、馬鹿なやつ」
 臆病で、行動は遅くて、自分のミスを打ち明ける勇気もなくて、ロマンチックとかムードとか女の子が喜ぶものを少しもわかっていない。よく苛々させられる。
 でも、私のことを大切に想ってくれているのも知っている。
「明日問いただすことが、また一つ増えたわね」
 つぶやいて、ゆっくりと指輪を右の薬指にはめる。
 よく見ると、指輪の真ん中には小さな輝石がはめ込まれていた。
 青い色の石。
 それは、幸せを呼ぶ鳥の色だ。
●作者コメント
 お久しぶりです。chiiです。
 少々短気な女の子と少々間が悪く、優柔不断な男の子の冬の一夜のお話です
 恋愛ものは得意ではないのに、たまにこういう「ベタ」なお話が書きたくなります。
 ラブストーリーと呼ぶには生ぬるい糖度、コメディと呼ぶにはローテンション。サクッと読めて、ちょっと幸せなお話を目指したつもりなのですが……。
 忌憚なき感想をいただければ幸いです。


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こちらのメールフォームから、作品の批評も募集しております。

●感想
神原さんの感想
 こんにちは、拝読しました。神原です。

 コメントにある様なお話はちゃんと書けていた様に思えますです。 
 
 夜の公園なのですが、暗い中のお話なのが、イメージできたのが昼間の公園でした。 少しでも、周りが暗い事が書かれていれば、もっと良かったと思います。(良く見えている様に書かれています。深夜でしかも星も見えない筈なのに) 

 あと、プレゼントの指輪ですが、なぜ包まれてないのでしょう? 露天で買ったのでしょうか? 普通に裸の状態であるのはちょっと違和感です。

 彼、良い人ですね。 怒った弾みでウーロン茶をかける様な彼女を好きな理由。 彼がどうして彼女を思っているのかのサイド・ストーリー(彼と付き合うきっかけ)などが書かれていても良い様な気がしますです。

 少し良かったですの評価にしようか悩んだのですが、怒りっぽい彼女の行動や言葉が、ちょっとなじめないのでこの評価にしました。 次回、期待してます。 では。


グレープ+αさんの感想
 初めまして。御作品、読ませて頂きました。

 なんだか、かわいいお話ですね。
 人物像がはっきり書けていてすっきりした作風になっています。

 べたな話でしたが、べたなりの良さがあってサクッと読めました。
 読んでいて心が安らぐ作品ですね。
 これからも、頑張って下さい。それでは。


ユルネバさんの感想
 どもども、こんばんは。ユルネバです。
 ふらりとやってきたら、あろうことか(!)、chiiさんの新作が! 頼まれてもいませんが感想を書きにやってきました!
 
 …なんというか、chiiさんらしい『優しい』話でしたね。はぅふー(ため息)。読み終えて心が温まりました!
 蛍太もミチルも純粋で嫌味がなく、ちょっと短気なミチルでさえ、彼と出会ったエピソードなどを見せられると、ぐいぐいと引き込まれ感情移入してしまいました。
 一旦そういったところに引き込まれると、ちょっとやりすぎかなって行動まで、愛情の裏返し、蛍太のことを本当に好きだから、というのがよく伝わってきます。
 …というか、こういうカップル好きですよねchiiさんは(笑)。
 
 キャラクター造形に関してはどんどん上達していますね。それぞれのキャラがちゃんと目的を持ち、しっかりと動いているなと思いました。
 蛍 太君はいいキャラだなー。こういう、人が良くちょっと抜けてる鈍感なキャラっていいですね。微笑ましいというか、なんというか、ミチルとのやり取りはとこ ろどころクスリと笑わされました。淡々とした話のなかに、シリアスな部分とボケの部分を用意し、読者を飽きさせないような工夫は上手いなぁと思いました。
 栄太君、『見えた未来は』のまぁ君を少し情けなくした感じでしょうか(笑)。滑ったのがバナナでなく雪だったのが残念でした!
 
 青い鳥がどう話に絡んでくるのかな、と思っていたら、最後の最後、思わぬところで出てきて、終了。素敵な演出でした。むー、いい読後感です。
 全体を読んで一番良かった部分は、ミチルが一番大切なことに気づいたところでしょうか。終盤までいじけてるミチルが、遠回りしてやっと気づいた大切なこと、そのときの気持ちがとても晴れやかで素晴らしかったです。
 
 一方で気になったことしていくつか。
  
 なにやら大人しい話なので、粗を探すのも難しいのですが(汗)。
 ミチルと蛍太君の出会いのシーンは、ドキドキするものでよかったのですが、二人がつき合うまでに至ったエピソードも読みたかったなと思いました。
 うーん、場面の合間などにそういった過去の話をちょくちょく挟んでも良かったんじゃないのかなぁと思いました。まぁ、ただ単に私が読みたかっただけですけども(笑)。
 でもでも、ミチルがツンケンし過ぎているので、ミチルと蛍太がお互いに惹かれていった過程を鮮明にしといたほうがよかったかも知れませんね。
 
 これは好みの問題かもしれませんが、全体的に文章が硬いかなと思いました。鈍感な男の子とツンケンした女の子っていう微笑ましい組み合わせに比べ、リアル過 ぎる描写とか文章がちょっとちぐはぐかなと。もっと柔らかい書き方をしてみてもいいんじゃないかーって思いました。でも描写自体はいつもどおり非常に上手 かったですよ。描写は確実にプロレベルですね!!(知らんけど)
 
 以上です。
 
 なんというか、メッセージにあるとおりサクッと読めて幸せな気持ちになれました。その狙いは成功している なと思いました。さすがですね(パチパチパチ) 
 でもでも、そこは良かったと思うのですけど、前回はゆるゆると悲しい話を目指したとか言ってたし、そろそろchiiさんが自由に書きたいように書いた話を読んでみたいなぁと思いました。いや、蛇足ですね(汗)。
 全体的にかなりハイレベルで正直自分には粗を探すのが難しかったです(汗)。
 ちなみにこういう優しい話は大好きだったりです。元気が出ました!
 ではでは、優しい話ありがとうございました。次回作も楽しみにしていますね!
 失礼いたしました。


ラストさんの感想
 こんばんは、いつもお世話になっています、ラストです。

 拝読させていただきましたので感想を。
 もふーとしたくなるようなお話ですね! 随所にクスリと笑わせながら、しかもちゃんとテーマもあるという面白い作品でした。
 文章もとても読みやすく、一人称にありがちな疲れも感じませんでしたです。

 気になった点に
>「あの馬鹿」
 様々な疑問が氷解していく〜
 の部分だけが少し強引な印象もありましたです。とはいえ『これでバイトの件は』はその後すぐにプレゼントをなくすということで強めてありますので……うー ん、その時にあやふやな仕草を見せたり、今までどこに持ってたの、なんて聞いてあわてさせるのもありなのかな、とか思ったりです。とはいえ、伏線ははって ありますし、少々鋭いかな、という程度なので気にしないでください(何)
 むー、本当に指摘する箇所がない……orz

 サクッと読めて、しかも楽しめる。まさに自分的ライトノベル! という感じでした。いやもう、タンマとか、雪だるまじゃないちるちるだ。とか随所で笑いましたです。男性キャラに好感を持たせるっていうのは自分には無理なので、勉強になりました。
 青い鳥というテーマ(?)もしっかりと活きていたように感じました。クリスマスプレゼントの話や、明らかに何かを渡すために今の状況がある、というのを早めに提示したのにも関わらず、最後まで惹きつける楽しさがありました。

 というわけで結局指摘なんてしていません(マテ)。本当にただの感想でしたがこの辺でorz
 それではー


nakaさんの感想
 そういえば、chiiさんの作品は毎回読んでるけど、感想を書くのは初めてだなぁとか思いながらこんばんは。nakaです。
 拝読しましたので、感想を書かせていただきますね。

 うん……とても面白いです。何というか、読了後に有川浩さんの小説を連想してしました。何というか、強く生きる女性と、繊細な心理描写のせいでしょうかね、何か非常に似通っている者を感じました。
 やはり、女性の繊細な感覚は自分のようなのには、無理なんだろうなぁと……悲しくなりますね(汗)

 内容に関しては、本当に主人公(はたして女性に使っていいものか……)の心理描写が真に迫っていました。本当に血の通った人間のような感覚です。何という か、小説特有のわざとらしさが皆無というか。それは蛍太に関してもそうだと思います。人物に関しては言うことなしだと思います。
 で、話の流れに関してですが。
 むぅ……こっちもなかなか粗がないなぁ(汗)かなり重箱突きになりますが、ご容赦ください。

>>雪玉を作り、蛍太めがけて投げつける。
 根っからの南国人で、雪見ただけでテンションがグイッと上がる自分ですが、そんなに高速で雪玉って作れるもんなんでしょうか? それに、女性の腕力と言うのもあるでしょうから、投げられたら腕で払い落とすとかできないかな〜?と……。まぁ、無粋な指摘ですね、すいません。

>>ミトンの指先がちょっと冷たい気がする程度
 ん? 前の文章で『ロングコートにマフラー、ニットキャップをかぶり、両手にはミトンの手袋。履いているはゴム長靴という完全防備。それでもまだ寒い』とありますが……。雪玉作ってるうちにあったかくなったんですかね?

 うぅん……これで一杯一杯(滝汗)
 起承転結も上手くいってる様に思えますし、最後の青い鳥になぞらえた締め方も上手かったです。
 うん、自分は役に立たないという結論で←オイ
 本当に役に立たなかったですが自分の感想はこのくらいです。
 では、互いの健闘を祈りながら筆を置かせていただきます。


キリヒトさんの感想
 どうもchiiさん初めまして。
 キリヒトと申します。

 読ませて頂きました。

 感想ですが、ぬるくゆったりした物語ですね。
 褒め言葉ですよ^^;

 二人の登場人物の性格が対照的でハッキリとしており、素直に受け入れることができました。
 それに極端に正反対な性格が、相対的な効果をもたらし、物語にとても良い味をつけていると思います。

 短編としては、変に掘り下げたり、手を広げすぎたりせず綺麗にまとまっていると思います。
 変に奇を衒わず、普遍的でほんわかとしたラブストーリが、旨く短編という形式にしっくり嵌っています。
 良い意味で日常的で、主人公達に見合った等身大さには素直に好感が持てました。

 描写も読みやすく、小説としてキチンと完成されていると思います。
 特に
 「下の名前、ミチルっていうのか?」から「じゃあ、幸せの青い鳥を探しているんだな」までのみちるの短い回想はとても絶妙で旨いです。

 みちるという名前に掛けて、青い鳥を引き合いにだしたのも良いですね。
 二人の心情の変化と童話のストーリーが良く調和されており、作品をどこかファンタジー的に感じる事が出来ました。

 所で蛍太なのですが、彼の雪だるまを作った行為は、僕的に十分ロマンチスストで、笑いましたね。
 奥手なりに努力したのでしょうが・・・^^;

 全体的に見て欠点と呼べるものはありません。
 ただ、惜しむらくは読者へ対してもう少し驚かせる展開があっても良かったかもしれません。
 途中で、ちょっと冗長さを感じたもので。

 ですが、雰囲気は非常に良いものが、作れてました。
 作風というものを、持っていると思います。
 これからもどんどん書いて頑張って下さい。
 次回作にも期待してますので。

 なんかさんざん偉そうに言ってしまいましたね^^;
 ではでは。


lieさんの感想
 幸せな物語をありがとうございました。
 こんにちは、大変遅い感想返しにやって参りました。

 なぞらえるモノ、ということをこれほど上手に表現されるとは……chii様の技量にただ脱帽するのみです。心理描写や会話はぜひ参考にしたいと思いました!

>「じゃあ、幸せの青い鳥を探しているんだな」

 個人的にグっと来たセリフでした。それからの展開にドキドキしながら読み続けて、最後、青い鳥になぞらえた指輪……こういう作品をワタシも書いてみたいと本気で思いました。
 一つだけ進言させていただくと、二人のやりとり以外のテンションももう少しだけ高いと、さらにこのお話はより良いものになるのではないかと思いました。
 むー、すごく満足したからあまり指摘できません……。
 これからもどんどん頑張って下さいね!

 役立たずな感想ですみません。
 良作品、ありがとうございました!


日原武仁さんの感想
 こんばんは、日原武仁です。チャットでもお世話になっています。
 拝読しました。
 いいお話です。いいですね、みちる。いかにも「女性」らしく、血の通っているキャラは流石です。真似します。
 個人的な好みになりますが、出来る事なら冒頭にある文を出さずに回想シーンを今の時間につなげて欲しかったです。同じ文章があるとどうもダレてしまうように思うので。
 あと、プレゼントの指輪の包装は何も無かったのかが気になった日原でした。


里見さんの感想
 こんにちは〜。毎度どうも里見です(久しぶりにサボってます(コラ))。
 拝読しましたので、感想などを書かせて頂きます。

 ○感想
 ……いつのまにか新作がっ(泣)。なんで平日なんですか、出遅れてもうたやないか、うわーん(笑)。と、鬱陶しい戯言は置いといて、置いといて(汗)。chiiさんの新作って久しぶりです。
 あくまで主観なんですけど今までよりグレードアップ(笑)しちゃったりしてるかも、しれないです。そんな印象を読後に受けました。
 サクッと読めて読後感は良い、ストーリーもわかりやすかったです。そりゃ、これで完璧っちゅーのはないので、突き詰めていけばまだまだザルな所はあるかもしれないですけど。
 ある程度「型」みたいなもんは出来てきてはるんとちゃいますか?(なぜか関西弁♪)
 そんな気がします。あとはがっしりとした骨組み(基礎)にどれだけ柔軟で変化に富むストーリー展開、色んな角度で楽しめる人物像などの「肉付け」が出来るかだと……。
 偉そうに言ってしまってごめんなさい(汗)。要するにオリジナルティーなのかもしれません。これから読者として私が求めているものは、です。
 この作品に限っていえば、もっと人物に「アク」が欲しい、ストーリーに華やかさが欲しい、読んでいてこちらの心まで動きだしそうな描写の「繊細さ」が欲しい、など。怖いですね(汗)。どんどん欲求が広がっていきますよ(オイ)。
 けれどそれはchiiさんの作品が成長を続けて行くのですから、当たり前なのです(汗)。
 
 ■批評もどき
 一読者の感想なので(汗)。誤った見解かもしれません。ご了承くださいませ。

 【みちると蛍太について】
  まず、少し違和感を感じました。それは彼らの年齢設定にです。「青い鳥」は誰でも知っているような童話なのですが、それを二十歳前後の男女に絡ませると、 アンバランスな気がします。逆に彼らの子供っぽさを主体である大人な部分に添えるならまだしも。子供らしさが全面に出ていて「あれ?」と思ったのです。
 ライトノベルの年齢層にあわせても十分マッチしたと思います。例えば小中学生くらいでもお話は成り立ちます。
  この年齢設定で、と仰るならそれなりの演出は必要かと(汗)。みちるの一人称でやるとまた難しいのですが、蛍太の仕事ッぷりを(お客さんに怒鳴られて、そ れでも必死に頭下げてる姿とか)見て、みちるが自分の言動を省みるとか。蛍太がひそかにみちるの「クリスマス計画」を実行しようとするだとか(汗)。
 ……考えるとキリないですね。しかし年齢というのは、とりあわけ十代は変化します。その時だけの特別なものがたくさんあると思います。
 たった一日でも大人の三ヶ月分に匹敵する『心の成長』を見せるかもしれないですよ……(しみじみ)。
 せっかくの恋愛物なんで、恋が愛に変わっていく様子を描いても楽しいかもです(吐血)。

【ストーリーなど全体について】
 まぁ、あくまで外枠の話であります。人物の心理描写は相変わらずお見事です。今回は特に、会話やモノローグの入れ方に無理がなく。スラスラ読めます。時点の移動も夜の数時間のエピソードに挿入される形をとって、綺麗にまとまっているな、と感じました。
 しかし物語の背景を説明にやや頼りすぎて、作者と登場人物の間が少し遠い感じがしました。前の項目と被るのですが、蛍太の経済的に苦しい状況をもっと伝わりやすく工夫してみたり。
 こんなに綺麗に話のリズムの中でエピソードも加えられてるのですから、何か欲しかったです。小道具は何も防寒具だけじゃないですし(笑)。
 手や頬のアカギレや、仕事上のストレスからくる感情の縺れやら。あんまり現実感あると、大変ですけど。日常生活にあるものを上手く利用するとキャラクターに愛着湧いてきますよ〜。
 
 ……いつも以上に言いたい放題でした(汗)。最後に「青い鳥」の決定打が弱かったことなど。題名に絡めるなら、「これじゃないとだめだ!」的なインパクトあったら良かったかもです(何言ってんねん(汗))。


 偉そうで本当にすみませんでした(滝汗)。言いたいことがちゃんと伝わったら嬉しいですが、何分私はアホなので(泣)。
 よう言い切りません…。少しでも参考となる所があれば幸いです。

 次回も期待しております。これからも頑張ってください!


ほうきんさんの感想
 どもー、こんばんは。
 拝読しましたので感想を。

 いい話っすねー。
 大切なものは、あなたの手の中にある。
 つい忘れてしまいますもんねー。
 ミチルの心理状況が丁寧に追われてて読みやすかったです。
 ただまあ、男の私が感情移入できたかっていうと、否ですけどね(笑)。
 キャラとして見てますので、そのことで点数は変動させてません。

 文章に非の打ち所は無いよう思いました。
 この丁寧さがchiiさん最大の長所でしょうか。

 ラ研に来ている人なら、一行目を読んでラストまでの予想が立つでしょう。
 変に裏切る必要はないと思いますが、もっとドキドキ感は欲しいかなと思いました。
 ミチルが本気で蛍太を切るとは思えませんでしたし、蛍太が鈍くさい告白をするだろうというのも、すべて予定調和。

 コメントでchiiさんが目指されたものはすべて達成されてると思います。
 佳作でした。


乾山直希さんの感想
 意見の重複がありそうですが、読みましたので率直に感想を書かせていただきます。

 まず第一に文章は秀逸秀逸、と思いました。
 chiiさんの文章は澄んだ水晶のようですね。同時に無機質な感じも受けましたが。
 情景の浮かびやすさから読みやすさに至っては見習うべきところがあります。
 これといって問題は見受けられませんし、評価されて然るべきだと思われます。


 それはさて置き、内容について触れます。
 うーん、内容に関してはあまり評価し難いですね。
 楽しめなかったというのが本音です。

 なぜなのかと言いますと、話と三メートル以上の距離感を常に感じながら読んでいたからです。
  主人公のミチルと共感するところは絶無に等しく、男性でも頷ける普遍性というやつを感じませんでした。あるいは、僕自身がミチルを一人の女性として見たと しても惹かれる所がなかったです。極めて一般的な女性でしかない、持った印象はそれだけでリアリティはあるものの、魅力は感じられませんでした。仮に一般 的な女性であったとしても、女性が持つ良い部分、加えて惹かれる部分がありませんでした。これは僕個人の主観的な感覚なのかもしれませんが。

 蛍太がミチルのことをなぜそこまで好きなのかも理解に苦しみました。あそこまで努力するほど、蛍太はミチルのどこが好きなのでしょうか? ワケがわかりません。
 いや、でも考えてみれば、恋愛とはそういうものなのでしょう。個人個人の考え方、欠点から思考、解明不可能な色んな作用が絡み合って人を好きになる。となれば、それを説明するのは困難ですし、いが仕方のないことなのかもしれません。

 と言ってしまったら、世の中に恋愛小説は存在できませんね。


 まとめれば僕が距離を感じてしまった(感情移入できなかった)理由はこうです。
 ミチルに共感できる部分、惹かれる部分(魅力)がなかったこと。
 蛍太があそこまで努力するほど、ミチルのことが好きな理由がわからないこと。

 前者を解決すれば、おそらく万事オーケーだと思います。ミチルに共感したり、魅力を感じていれば、自ずと蛍太がミチルのことを好きな理由も想像できますし、行動が理解できて話にのめり込める気がします。

 あとはストーリー性ですかね。話の出来事が極めて日常的なことに終始していることが、面白みに欠ける理由だと思います。もう日常は自分の生活だけで飽き飽きしてます。ですから、リアリティのある『日常』を見せられても何も感じません。
 やっぱり見ていたいのは、リアリティのある『非日常』です。

 文章が優れているので、克明に話が見えてきて、肌の合わなさが際立ったのかもしれません。この感想自体も僕自身の主観ですし、登場人物や話との肌の合わなさも僕個人の主観です。あまり深く考えないのが吉だと思います。

 最後に点数について書いときます。

 文章+30点
 話+0点
 登場人物−10点

 それではこれにて。


鵜殿さんの感想
 どうも、お久しぶりです。鵜殿です

 人物同士のやり取りが上手で、ほのぼのした気分で読む事が出来ました。
 読んでいて恥ずかしくなるような場面もありましたが、終わってみればそれも良い感じに残っていました
 ただ、人物の心情の変化が急すぎて、「何で?」と思う場面もちらほらと・・・

 何時もながらに文章が上手でうらやましい限りです。
 では次回作も期待してます


夜凪さんの感想
 前に短編の間に感想を書いたのもchii様の作品だった気がします。
 こんばんわ、いつもお世話になっています夜凪です。少し前に拝読させていただいていたのですが……大分遅れてしまいました。僭越ながら感想を残して行こうと思います。思ったことを徒然と。取捨選択お願いします。

 メッセージ欄にあるとおりの綺麗な恋愛話に纏まっていたと思います。完成度が高くしばらくは指摘点も思いつきませんでした。3行感想+加点だけで引き返そうか、真剣に悩みました。

 良い感じにベタな恋愛話だったと思います。ただし、同時に展開の落差が弱い印象も受けました。
 変な持論ですが、ベタな物の展開というと、どうも外からの予想外の邪魔が入る印象があります。ただ今回は予定調和の、二人の仲で自己完結している問題をメインに添えているために弱く感じるのかな、などと思いました。
  今回の場合だと問題が始まったところからスタートしていて、故にせっかくの障害がニュートラルな位置に配置され、そのために(順調な)日常との対比が利か ず壁が低い印象になったんじゃないか、と思いました。また後述ですが、シーンの切り替え方がやや単調なために問題提起から入る構成も巧く活かしきれていな い印象です。
 せっかく『蛍太との過去を見たい』という意見もあることですし(余計に単調になる気もしますが)二人の少し前のエピソードなども添えて抑揚に当ててみてはどうだろう、と思いました。
  上記の補足になるのですが、彼女たちにとっての日常が見えてこない(あえて伏せてある)ために、みちるさんにとっての蛍太君の印象(つまり設定)と、この 話の上での蛍太君とでもやや違うように思うところがありました。特に『腰が重い』に関しては(シーンだけたどると)むしろ逆な印象を受けるほどで……これ に関しては恐らく、彼女がどれほど我慢したかを第2段落でさらっと流してしまった影響だと思います。

 あと(あくまで個人的主観です が)、描写、説明がやや浮ついているように思いました。特にケータイで蛍太と話をしているシーンは、(直前のシーンの途切れ方が唐突だったこともあり)ど のような状況で話をしているかがわかりにくかったり、(冒頭で雪が積もっているシーンを描き、その後特にフォローがなかったため)雨が降っていることに違 和感だったり、でした。
 似たようなことで、シーンの転換が全体的に掴みにくい印象でした。時点移動自体は特に問題ないとも思うのですが、全体的 に、状況を後出しする描写でシーンが始まるために、何だか足元がおぼつかない印象でした。特にオープニング→蛍太の説明→ハンバーガ屋の辺りが、(前フリ を回収しないシーンが続くため)浮ついた印象です。

 最後に、どうも設定を有効利用できていなく、また統一感がないように思いました。主 軸が『雪(転じて、クリスマスや温かさ)』と『青い鳥(二人の幸せの定義、また過去のエピソード)』と二つがあと少しで巧くかみ合っていない印象です。ま た、『南国育ち』『苦学生』『雪だるま』など、一方通行気味でちょっと効果的に使えていないように思う設定も幾つか、でした。
 また、中盤で青い鳥の話をはぐらかすために使いみちるさんが否定した出来事を挽回し切れていないような印象で、題名に置かれたテーマながらやや不完全燃焼なようにも思いました。

 ここからはその場その場で思ったことの羅列になります。


>指輪

 今作キーアイテムで二人の距離感をあらわすのにぴったりなアイテムだったとは思うのですが……あくまで個人的に、ちょっと物々しい印象でした。ただ、 ラノベで描くに大学の話はやや大人すぎる、という後人的主観に基づくところが大きいのでスルー推奨です。
 ……イベントは質素に。でも指輪は絶対。そんな彼女のわがまま具合は良い味を出していたように思います(笑)


>――引くなら引け〜〜冬将軍に泣かされてしまえばいいのだ。
>当たって砕けて〜〜恋人を失望させないだけの賢さとか交渉力とかを持った人間に。


 テンポを考えるにコメディ調が似合いそうな部位ですが、(作者コメントどおり)ローテンションな印象でした。話の雰囲気に合わせる、といういともあるとは思いますが、もう少し言い回しを弄れるかな、と思いました。
 もしくは、このあたりでキャラクターを出してみるのも良い、とも思います。
 口調でみちるさんに味付けをしてみる。突っ込み方で蛍太くんの印象を暗に示してみる。両方あわせて二人の距離感を、などです。
 自分自身使いこなせそうにない手法ばかりですが、何かのお役に立てば幸いです。 どう使うもchii様次第ですが、自分の感覚としては上記の部分が単調に感じた、と報告させていただきます。


>「みちる、雪だ! 初めて見た!」

 一読時は特に何も思わなかったのですが、この後で彼が先に雪だるまをスタンバイさせているシーンがあり……何気に演技も出来るんだな、と思いました。五分五分ですが、少し彼のキャラから外れるようにも思います。


>「……変なことしないでしょうね? そんなのプレゼントとは言わないからね」

 些細なことですが、ここで『プレゼント』という単語を使っているために、もう少し後ろの『クリスマスプレゼント』という言葉の印象がやや薄れた感じでした。


>彼の態度からして、ひょっとしたらひょっとするかもしれない。クリスマスを一緒に過ごせると期待しても、いいのだろうか。

 凄く微妙なことなのですが、何処かへ連れて行かれる→クリスマスを一緒に過ごせる、という思考が繋がりにくいと思いました。
 彼女のキャラや流れを見るに、ちょっとした演出を添えて報告、という期待があったんだと思うのですが、現状だとやや短絡的かな、と思います。


>私は言われた通りに、目を閉じる〜〜

 個人的に、今作一番の見せ場だと思います。オープニングに切るくらいなのでchii様も同じように思われていると思うのですが……ちょっと物足りない印象でした。
  例えば目を閉じて歩くと色々な音――雪を踏みしめる音、冬特有の風の音、彼の吐息などが聞こえたりしそうですし、雪が降っているなら顔にあたる感触もあり そうですし、歩くことに集中して四感がさえそうに思います。全体的に描写が薄いように思いましたので、メリハリをつけるという意味でも書き足してみる、な ど。
 心象描写中心のシーンになっているのですが、それを含めどうも薄い印象。特に『視界が利かず、頼りは彼の手だけ。その状況が、余計に私をドキドキさせた』と短く纏めたこの言葉こそ、もっと色々膨らませて遊んでもらいたかったな、と思いました。
 あと、

>つま先の感触がアスファルトの固さから土の柔らかさへ変わる。

 と有りますが、雪を踏みしめた上でその感触がわかるかどうか、少しだけ疑問でした。恐らく彼が雪達磨を作ったから公園の雪が少なくなっていた、ということだと思うのですが、とにかく何らかのフォローがあればよかったかな、と思います。

 また、

>ここに到着すると、彼の方から手を放したのだ。

 の一行も、さらっと流してはいるのですが、実際に手を離されると何らかのリアクションがあると思われ、だからこそちょっともったいないと思ったり、でした。


>蛍太は思いきりバランスを崩し、ひっくり返った〜〜うつ伏せで横たわっている

 『ひっくり返った』だと『横や後ろに勢いよく倒れる』という意味らしいので、その後うつぶせになっていることが少し違和感、でした。


>「……あー、もう無理」

 すごく主観なのですが、一読時、一番ドキッとしたシーンです。状況といい言葉といい、凄く意味深な感じだったのでどうなるのかな、と思いました。
 ……彼女にとってもこのタイミングでのこの言葉(や、次の「何かもう、どうでもいいやって思えてきた」)はちょっと重いと思うんです。
 なので「え?」の次の行くらいに一拍おいてみれば……自分の好みです。シーンの流れに沿わないとも思うので取捨選択お願いします。


 ……などです。普通の作品なら全てスルーするところなのですが、chii様の作品ということでちょっと煩わしいことをしてみました。何か一つでもお役に立てば幸いです。

 総じて、安定感のある、心温まるような良作だったと思います。
 それと……ちょっと冗談抜きに似たようなことがあり、凄く感情移入してしまった気がします。それくらい、派手さはなくとも丁寧でリアリティのある作品だったと思いました。

 それではこのあたりで失礼します。今回のような完成度で長いものならハードカバーでも買おうと思ってしまった夜凪でした。凄く良かったと思います。


一言コメント
 ・童話と絡ませた話の進めかたが綺麗でした。舞台は冬ですが、読後、心が温まるような優しい気持ちになれました。これからもがんばってください。
 ・丁寧に描かれた心象と安定した文章。読後感も良い、良作でした。
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