高得点作品掲載所      坂口タクヤさん 著作  | トップへ戻る | 


永遠ということ

 俯いて左手の薬指に光る安物の指輪を見つめる君。
 僕がその銀色をそっと抜くと、手の甲にしずくが落ちた。

 君は泣いていた。



「このあたしと付き合うっていうことは、死ぬまで隣にいるってことよ! わかってる?」
 初めてのデートは港沿いの小さな遊園地。
 人気の夜景など見られるはずも無い真昼間の観覧車の中、全身を射抜く夏の日差しに負けないくらいの明るさで君はそう言った。
「ま、頑張ってはみるさ」
 答えた僕に、君は少し不満気な表情を浮かべた。
「頑張ってはみる、ってちょっとやる気が足りないんじゃないの?」
「んじゃ、そういられるよう努力するよ。ってのはどうだ?」
 あごに手をあてて少し考えた素振りを見せて
「なーんか釈然としないけど、それでいいわ」
 そう笑顔を浮かべる君に釣られて僕も笑った。

 永遠の愛を信じる彼女と、斜に構えた答え方しか出来なかった僕。
 5年前の真夏。僕たちは夜景を分かち合うにはまだ少し若かった。

 それよりも少し前。
 人の心はあやふやで、行き当たりばったりで、とても移ろいやすい事を僕は知ってしまっていた。
 恋心なんて、ふとした拍子にすぐ転がってしまう。時間が経てば薄れてしまう。いや、薄れるどころかむしろ仇心にすら変わり得る。
 こんなつまらない恋愛の真理を知った僕は、永遠なんて無いという事実をも知ってしまったのだ。
 形のあるものだっていつかは崩れるのだから、形の無いものが崩れない道理があるわけないのだ。
 無邪気に微笑む彼女を眩しくみつめながら、この感情にもいつか終わりが来ることに怯えを感じていた。
理屈の上では分かっていても、僕は終わりが怖かった。



 考えていたとおり僕たちは変わっていった。
 僕は社会人になり、仕事で忙殺されんばかりの日常だ。
 君は一人称が「わたし」へと変わり、ほんの少しだけ落ち着いたような気がする。
 変わらなかったことと言えば君の笑顔くらいだ。

 永遠のモノなんて無い。
 その答えを教えてくれたのは他ならぬ君の笑顔だ。ならばそろそろ自分から切り出そうと考えた。



 手の甲で弾けたしずくに口付けて、代わりの白い石の付いたリングをはめる。
 君は小さな声で言った。
「死ぬまで隣にいるってことよ……」
 僕は変わらず答える。
「そうあれるよう努力するよ」
 彼女は満足そうにいつもの笑顔を浮かべた。

 恋愛の真理はこんなにもくだらなくてつまらないものだけれど、君といる一瞬一瞬はなによりも輝いている。
 だから僕は永遠という存在しない目標に向かって、その一瞬を道として歩いていくのだ。

 5年前と同じ観覧車。窓から夜景を望むくらいには僕たちも大人になったのかもしれない。


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●感想
大栗朋大さんの感想
 こんにちは。感想いただいたのでお礼のつもりで拝読いたしました。

 素敵です!感動しちゃいました。自分の作品と見比べて、同じくらいの長さの作品で、ここまでレベルが違うのかと思ってしまいました。
 文章表現も巧みで、是非見習いたいです!
 恋愛の素晴らしい真理に、尊敬の意味加えてこの40点数を付けさせていただきます!
 ありがとうございました!


和己さんの感想
 恋愛の「永遠」って一瞬を大切にし続ける事なんですね。
 どうしても永遠を信じられない身としては、少しばかり疲れる結論のようです。
 信じてないから目標に。尊敬です。


幻想魔術師さんの感想
 こんにちは。幻想魔術師と申します。

 拝読しましたので感想をば。
 何で腐女子彼女(ぺんたぶさん)を思い出したのか自分でもわかりません。
 短い中で永遠を表現してハッピーエンドになっているのでこの点数で。
 単純に好きなもののかけ合わせと言えばそこまでですけど。
 気になったところは、もう少し改行を少なくして切れ味をあげられないかなと。

 これからも頑張ってください。次回作も待っています。


ssさんの感想
 こんにちわ、ssといいます。
 読んだので感想を。

 永遠というのを、少ない枚数でここまで表現できるのに驚きました。
 恋愛は一瞬で。でも、それは永遠というもの。
 それを感じてとって文章にしたのはスゴイと思いました。


荒神森羅さんの感想
 うまっ!
 なんつうこと考えるんだっ、あんたは!
 どうも、こんにちはっ!
 荒神森羅ですっ!

 彼女の指から抜かれるリング。
 涙。
 悲観的な思想。

 悲しいお話?
 いえいえ。

 変えられる価値観。
 嵌められる白い石。
 涙の意味。

 うまっ!
 なにこれっ!
 原稿2枚!?
 なにそれっ!

 ………。

 よかったです。
 これだけの文章の中に重厚なドラマがありました。
 言外に伝わる何か、そういったモノを表現できるセンスは羨ましい。妬ましい。
 もう一つ読ませて欲しいなぁ。
 
 ただ、だからこそ、悪点を述べるならば、少々わかりづらくもある。
 そういったモノが伝わらなかった時、駄作と成り得る可能性を孕む作品でした。
 私なんか特にそうです。
 こういった毛色の作品を読んだとき、そこに伝えたい作者の思いが見えてこないと、低い点数をつけてしまいます。
 それを、読み手の読解力の無さと揶揄するか。
 書き手の未熟さと反省するか。
 意見はわかれるところだと思います。

 ………感性は十人十色。もしかしたら、単なる相性とかもありかしら?
 
 とにかくっ!
 今作につきましては色々と驚きがありましたっ。
 そんなわけで20点っ。

 そいでは、またどこかで(・ω・)/


立待さんの感想
 雰囲気いいです。こういうのいいなあ。……と思ったんですが
>変わらなかったことと言えば君の笑顔くらいだ。
>永遠のモノなんて無い。
>その答えを教えてくれたのは他ならぬ君の笑顔だ。ならばそろそろ自分から切り出そうと考えた。

 
 どうやら他の方の感想を見ていると私の読者レベルが低すぎのようです。
 この部分が気になって気になってしょうがありません……。
 『君の笑顔は変わらなかった』と書いてあるのにどうしてその後すぐに『永遠がないことを教えてくれたのは君の笑顔』と書かれているんだろうと。

 この作品の本質を見抜けず、雰囲気のみの評価で申し訳ない。


さくま 心さんの感想
 こんばんは。
 んー、すいません。伝わってくるものがありませんでした。
 文はまぁまぁだと思います。
 頑張ってください。


池袋秋葉さんの感想
 坂口タクヤさん、はじめまして。続々点数が伸びていたので、気になって覗かせていただきました。
 感想は……もう、素晴らしい! に尽きます。他の皆様同様、私もミスリードに引っ掛かりました。この短さで、このクオリティですか……いやはや。読後の気分も、大変良かったです。ハッピーエンドは、やはりイイですね。
 これをこのまま、ブライダルCMに使うのもアリだなぁ、とか考えてみたり。

 ただ。惜しむらくは、個人的にはタイトルに惹かれなかったんです。だから、読むのが今更になった次第でして……。
 勝手ですみません。基本、初めての作家さんは、タイトルのインパクトで選ぶ派なんです。

 見習うべき箇所が、多々ありました。参考にさせていただきます。
 次回も楽しみにお待ちします!


一言コメント
 ・短いので、これで良いと思います。見せ方が非常に上手いと思いました。
 ・だまされました。うまい。
 ・良かった!
 ・ラストに「♪給料の●ケ月分。カメリア・ダーイアモーンド♪」とかのコピーが聞こえて来た。
  そんだけ。芸の無い小品。
 ・ちょっとイマイチという感じもしますけど、がんばってください。
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