高得点作品掲載所     所沢クリキントンさん 著作  | トップへ戻る | 


がんじがらめ爆発

 ちんすこうがまた爆発した。
 幸い軽い火傷で済んだものの、もしあれがサーターアンダギーだったら……考えただけでも身の毛がよだつ。
 私はトイレから机に戻り、濡れた手をズボンでぬぐって仕事を再開した。水ぶくれしなければ良いのだが。

 私が働くオフィスにはお菓子箱がある。社員が持ち寄ったお菓子が集められており、誰でも好きなときに食べることができる便利なシステムだ。
  最近、そのお菓子箱が沖縄のお土産で占領されている。そう、布細工で彩られた炊飯器サイズの木箱に沖縄ハイチュウとちんすこうとサーターアンダギーが溢れ んばかりに堆積しているのだ。もちろん私が触れればビルごと吹っ飛ぶのは間違いないだろう。それゆえこのところ甘いものにありついていない。今日は大丈夫 だと思ったのにやはり爆発した。
 そもそもどうして触れただけで爆発するのだろう。最初は中に火薬でも仕込まれてるのかと思った。残念ながら犯人に思い当たる節が無いわけでもない。
 しかし調べようにも触ればドカン、目の前の川村さんがちんすこうを口に含んでいるのを見ても、火薬の線は薄い。ちなみに川村さんは眼鏡を外すと可愛い小柄な女性というとてもベタなお人であり、私の憧れの的だ。34歳。
 ちんすこう爆発……響きはシュールだが実際問題、これはとてもとても怖ろしいことだ。
 何しろ、私の勤める会社には全身がちんすこうで形成された『ちんすこう人間』がいる。経験上サイズと爆発力は比例する。45キロものちんすこう……つまりそいつに触れた瞬間、近辺はほぼ壊滅するはずだ。
「やあ栗山くん、元気かね」
「ぼちぼちです」
 ウワサをすれば影、女性特有ものとは異なる甘い匂いがオフィスに充満する。ちなみに栗山とは私のことだ。
「げ、もうお昼休みじゃないか。社会人失格だなあこりゃあ」
  オッサンみたいな口調をインプットされた、この砂糖臭い女性が例の『ちんすこう人間』清水である。見た目は完全にパーフェクトにスパシーパに普通の人間で あるものの、時折砂糖の塊が見える絹のような肌からポニーテールまで全てちんすこうでできている。さすがにフレッシャーズスーツは某青山で買ったらしい。
「清水、理由はあるんかえ」
 やる気なく主任殿が聞いた。
「寝坊です。大変申し訳ないです」
 本当は賞味期限切れが近いので中枢部分以外を焼きなおしてきただけである。そのためかちょっぴり湯気が立っていた。
 ところで『ちんすこう人間』清水の会社内での立ち位置はあくまで社員である。別にマッドサイエンティストが作ったわけでもないし、社運をかけた次世代型商品でもない。むしろ我が社はただの建築会社であり、この人(?)は普通に試験を受けて普通に入ったきたのだ。
 社長殿の「差別のないように」との一言とともに。
「くーりーやーまーくーん」
 ちんすこうの塊が忍び寄ってくる。遅刻したわりに反省の色がないのはバグなのだろうか。何の混じりっけもない明るい笑顔を見せてくれる。
「何ですか清水さん、とりあえずあっちいってくださいよ」
「最近ちょっと冷たいねえ、キミ」
「……そうですかね」
 そりゃ触れた瞬間ドカンですから。いやドッカーンかもしれない。どちらにしろシャープな音ではないはずだ。
「まあいいや。今日は何を食べようかね、考えといてね」
 そう言い残して、清水は香ばしい匂いとともに自らの机のもとへ去った。

 かくして私は爆発の危険と隣り合わせの生活を続けている。
 慎重に過ごせば大丈夫だと私は思う。とにかく沖縄産のものを敬遠すればいい。本州ではそうそう見ることはないはずだ。
 問題は、たまに物陰からシーサーを投げてくる謎の存在と、どうもお菓子の分際で清水は私に好意を持っているらしいということだ。男の思い込みではない。ミニマム眼鏡・川村さんのお墨付きだ。彼女のお局力をなめてはいけない。



 昼休みの社員食堂は常にガラガラである。
 お世辞にも美味しいとはいえないため、社員達はこぞって北浜や天満橋のランチセットを漁りに出かける。
 そんな社員食堂で私はある男とコンタクトをとった。
「ありえないな」
 彼は私の悪友で名を名原健太という。若くして世界爆破発破大好きクラブの副会長を務めたが、モサドとかいうどっかの警察みたいなやつに国際手配されたため現在流浪の身である。彼とは大学のサバゲー同好会で知りあって以来、不思議と縁が途切れない。
 そんな爆弾のプロ曰く、ちんすこうに爆発するような力はないらしい。
「変な味はしないんだろ?」
「川村さんは何でも美味しいってけど、たぶんそう」
 もちろん私は食べられない。死ぬ。
「無味無臭の火薬か……でも信管は……」
 しばらく名原はぶつぶつ言ってたので私はうどんをすすることにした。
 良かった、こいつは犯人じゃなさそうだ。
 ずるずるずる。
 麺のコシもスープの味もいまいち。実家の香川なら開店休業ものだろう。

「くーりーやーまーくーん!」

 急にうどんが甘くなった気がした。
 そういえば一緒に昼食をとる予定だった。完全に忘れていた。
「なんで約束やぶるかなあ、私は悲しいよホント」
 目を伏せ、腕を組んで呆れたようなポーズをとる巨大なちんすこう。
 今度はジト目でにらみつけてきた。だからこの人は苦手だ。
「すみません、急用ができたもんで」
「急用ってそちらの方との食事かい? 先客は私のはずだがねえ」
「大事な話なんですよ」
 早くどこかに行ってくれ。
「ほう、話を聞こうか」
 逆効果だった。
 まあ、名原にこの人のことを説明するのが面倒くさかっただけだが……。
「何か困ったことでもあったのかい?」
 いいだろう。この際話してやる。
 そうすれば簡単には寄ってこなくなるはずだ。
 私は息を吸い込んだ。
 隣に座った清水もマジメな顔になる。普段の演技じみた表情とうってかわって、こう見ると意外に整っているというか、可愛らしい気もしてきた。無論、ちんすこうなど好み以前の問題だが。

「最近、私が触れると沖縄土産が大爆発するんです」
「ふざけんなーーっ!!」

 ぶちまけられる天ぷらうどん。塗装の剥げた安物のお椀はテーブル対面の名原の顔にクリーンヒットした。
「触った瞬間、かつ識別装置……熱いな」
 さすがは中東の死線をかいくぐった男だ。動じない。
「ならアレか、私がキミに触れたら……そ、その……ドーンってなるのかい? ありえないというか普通に考えてみなよ、常識って奴を!」
 それをあんたが言うか。
「そんなの、無い、無いだろよお……」
 一転してメソメソしだす清水。どうしたんだ全く。感情の起伏が激しいお菓子だ。
 あ、そうか。こいつはそうだったな。ああ……。
 私は清水にハンカチを渡し、ティッシュを名原に差し出した。
 汁まみれの男と涙するちんすこう。ずいぶんバラエティ豊かなテーブルになってしまったものだ。

 その時だった。
 空を舞うマーライオン。
「いや、あれは……!」
 私はとっさに席を立ってそれを避けた。
 安物なのか床にぶつかり粉々になる某国の象徴はフェイク。
「本命はこっちか!」
 同じ方向から飛んできたシーサーを左手の携帯電話で打ち返す。あらぬ方向に飛んだ守護神は名原の頭に激突して、そのまま床に墜落した。一般的な赤いものではなく緑色をした土産用の陶器なのであっさりと2つに割れる。
「今のが例の奴か?」
 頭をさすりながらも平然としている名原が少し怖い。
 安心して振り返ると犯人はもういなかった。
「追いかけないのか、栗山」
「前にそうしたら罠にはまった」
 床が大量のちんすこうで敷き詰められ、靴が1足台無しになったことがある。
「まるで殺気が感じられなかった……プロだな」
「確かにいつも不意打ちだ」
「むう……それにしても何者だ、意味がわからん」
 意味不明といえば、清水。
 そんな思考回路の短絡回線の導きで隣の席を見ると、そこに等身大ちんすこうの姿はなかった。



「申し訳ない、シーサーを投げつけられて立ち往生してるうちに逃げられてしまった、すまん」
 その言葉にウソはなく、エレベーターホールには割れたシーサーが散乱していたし、清水も下を向いたままだった。
 なぜか甘い匂いが引いた気がした。
 その後、たまたま主任殿に見つかり、とにかく見栄えが悪いので掃除するように命じられ、実行した。
「大丈夫ですか、清水さん」
「心配することはないよ、栗山くん。次は捕まえてやるさ」
 清水は右腕に力こぶを作ってみせた。
「いや、身体壊れたりして……」
 ふっと何かが流れた。
 一瞬驚いた顔を見せてから、清水は穏やかに微笑んだ。
「私は大丈夫だよ。いくらでも身体なんぞ作りなおせるからね」
 そう、この人はちんすこう。中枢部分以外はただのラードと小麦粉と、砂糖だ。
 だから何か気にする必要はない。所詮お菓子だ。
「清水さん、触っても爆発しなくなったら、そのポニーテールに触らせてください」
「フェティズムかね。大歓迎だよ」
 でもお菓子と仲良くなって悪いなんてことはないはずだ。
 それも身を挺して私を襲った奴を捕まえにいくような、最高のスイーツだぞ。
 最近甘いものにご無沙汰なんだ。その時は髪の先でも食ってやろう。
 しばらく清水は『ハイサイおじさん』をエンドレスで歌っていた。



 作戦は川村さんが立ててくれた。
 決して暇なわけではないが至急の仕事もなかったので、課の皆で話し合いすぐに案はまとまった。
「あんまりお菓子食べないなーと思ってたら、そういうことだったのね」
 川村さんが心配してくれた。ちょっと嬉しい。
「あのゴミもそういうことだったのか……」
 主任殿もうんうん頷いている。
「すまんかった」
 清水以外には厳しい主任殿から、最高の言葉を引き出せた。雪でも降るんじゃないだろうか。

 さて、名原の調べによると、私の謎の能力はどうやら琉球王国の伝統的な呪いらしい。
 歴史的に中原の王朝に従属していた琉球には、大陸からいろんな文化が流れ込んでいた。
 古代の中国に炮烙という刑罰があった。
 とてつもない業火の穴の上に油を塗った丸太をかける。囚人が丸太を渡りきったら無罪。もちろん油のせいですべったり転んだり、だいたいの囚人は火の海に投げ込まれたらしい。
 それが琉球に伝わり、爆殺刑となった。
 しかし島国に無限の火薬があるわけもなく、困った国王はユタと呼ばれる祈祷師に解決策を求めた。
 そこでこの呪いが誕生したのである。
 琉球――今の沖縄のものに触れた瞬間、爆風が吹き荒れる。つまり当時なら呪いをかけられた瞬間、地面が爆発したのだろう。怖ろしい話だ。
「ぜひ方法を知りたいもんだ」
 何をする気なのかは聞かないことにする。
「やはり犯人が私に呪いをかけたんですかねえ、シーサーを投げてくるってことは」
「だろうねえ、まあ捕まえて解く方法を聞けばいい話だよ、栗山くん」
 どこから自信が湧いてくるのか、ヒューマノイドちんすこうはやる気十分である。
「そして解いたら……ね」
 ちんすこうの意味深な微笑み。
 言っておくが、私はこのお菓子に一切気はない。そもそも私は既婚者だ。



 玄関で警備員に挨拶したのち、私は自動ドアの横すべりを眺めながら外に出た。
 今日の天満橋は暑くもなく寒くもなく、蚊もいない小春日和。
 脱いだトレンチコートを片手に私は昼食を食べにインド料理店へ向かった。
「Bセット1つ」
「かしこまりました」
  サリーを着ている日本人の店員が応対してくれた。川沿いの地下にあるため窓からは大川が間近に見える。有線のBGMと奥でナンを焼くコックだけが唯一イン ドの匂いを残していた。都会的で清潔で健やかな印象を受けるこの店は私のような賃金労働者に大変人気がある。安くて美味しいのはこの街では当たり前だ。
 さっそく料理が来た。2種類のカレーとライス、サラダにタンドリーチキン。全て鉄製の皿に盛ってあり、その上を大きくてアツアツのナンが横たわっている。このナンがなんと食べ放題なのだから信じられない。
 私は思わず見とれてしまった。
 その隙を犯人は突いてきた。

「栗山くん、甘いわね」
「そうですか?」

 犯人を追い詰めるためにわざわざ地下レストランを選んだ。
 1つしかない出入り口を張っておけば必ず捕らえられる。
 もちろん、店内に私だけなのは不安なので、味方を1人――そう、味方を。
「お菓子箱を沖縄まみれにしたのはアナタですよね?」
「あら、最初からわかってたの?」
「作戦会議の時、店内要員に立候補した時点で特定できました」
 川村千秋。
 ミミガーチップを私の背中に触れないように突きつけていた。テーブルとテーブルの間に立っているので他のお客さんや店員の邪魔になっているが川村さんは気にしない。
「じゃあ主任や清水さんも知ってるわけ?」
「いいえ……」
 信じたくはありませんでしたから。新入社員時代から尊敬しつつ憧れていた川村さんが犯人だなんて、私にはとうてい理解できなかった。
「馬鹿ねえ、それじゃどうしようもないじゃないの」
 そのままぶつけては爆風で自らも危ないからか、川村さんは席に戻る。
 そしてカバンの中から大量のミミガーチップを取り出した。
「ブタの耳よ、シーサーだと爆発が強すぎるから。それに数撃ちゃ当たるわ。なぶり殺しって奴かもね」
「どうしてなんです、川村さん」
 私には理由がわからなかった。私を殺そうと考えた理由が。
 私は何もしていない。
「ひとえに栗山くんが……憎いからよ!」
 窓からの光で眼鏡を白く染め、その小柄な身体からは想像もつかないほどの大声をあげた。それこそ私が外の清水さんや主任にも聞こえるんじゃないかと心配してしまうほどに。
「なんで結婚したのよ、どうして!」
「だって川村さんは私を振ったじゃないですか!」
「それで諦めてどうすんのよ! 馬鹿じゃないの! もっともっと男を上げなさいよ!」
「はい?」
「そして私に見合うぐらいの男になって、私を迎えに来てよ! お願いだから!」
 ますますもってわからない。何が言いたいんだ川村さんは……。
 激高して泣き叫ぶ川村さんを見て、サリーを着た店員さんが駆けつけてきた。至極当たり前である。
「お客様、他のお客様のご迷惑に……」
「うるさいわね、あんたも爆破してあげようか?」
「は、はい?」
 ミミガーチップを顔に突きつけられて怪訝な顔をする店員。これまた至極当たり前である。
「そうか、呪わなくちゃね……中枢部分はあるし、これならどうかしら?」
 川村さんはカバンからヒモのようなものを取り出した。これがウワサの中枢部分なのか。
「ちゅ、中枢部分!?」
「そうよ栗山くん……勘がいいわね。ほらほらできてきたわ、呪いの人形が」
 ふと見ると、川村さんが持つヒモに店中のナンが集まってきている。暖かいの冷めたの半分しかないのカレーに浸されたの、多種多様なナンが飛んできては合体していく。
 最後にヒモを離した時には、どう見ても中年男性にしか見えないナンの人形が完成していた。

 その時、私は全てを理解させられた。
 だが助けを求めるにはあまりに遅すぎた。



 呪いの、人形は、食べ物で、作ること。
 もし、囚人が、外国に逃げたら、追いかけるのが、人形の、仕事だ。
 人形は、意志をもって、囚人を、追い、続ける。
 それは、怖ろしい、光景でも、あるし、微笑ましい、光景でも、ある。
 大和では、心中ものが、流行している、らしい、よ。

   《おもろさうし第二十三巻/人形おもろの御さうし》より訳文



 とにかく白い。白すぎる。
 目を覚ますと病院にいた。白い壁やベッド、機器類に点滴ですぐにわかった――が病院独特の薬臭さは感じなかった。
「おお、お目覚めかね栗山くん」
 案の定、清水がいた。
 腹のあたりの縫ったと思しきところが痛い。できるなら二度とこんな経験はしたくないが、年をとれば自然と増えていくのだろう。
「大丈夫かね、ナース・コールしてやろうか」
「結構です」
 そんなことよりも聞きたいことがあるのだ。
 清水は何かを察したのか、おもむろにスーツのポケットに手をつっこんだ。
「これを見るといい」
 A5サイズの紙切れというには大きい、4つ折の印刷用紙を渡された。
 どうやら名原の書き置きらしい。またFSBとかいう組織に追われているのだろうか。
「呪いを解く方法だそうだよ、私も見せてもらってねえ」
「へえ、あいつどこで調べたんでしょう」
「いやいや、そうじゃなくてね……」
 それからしばらく清水が事の顛末を話してくれた。
 地下レストランから爆発音がしたので、急いで見に行ったら川村さんが勝ち誇った顔で謎の中年男性を羽交い絞めにしていた。
 口にミミガーチップを含みながら。
 あっさり御用となった川村さんだが呪術で立件はできず釈放されたらしい。
「栗山くん、あの女、許せないだろう?」
 そんな等身大ちんすこうはやけに笑顔だ。
「いや、やっぱりいままでお世話になってきましたし、私にとっちゃマドンナみたいなもんですから」
 さすがに爆発はやりすぎだと思うが。
「え、そうなのかい? 今となりの病室にいるんだけど」
「……何をしたんですか」
 しばらく悩んだ後、清水は人差し指を唇にあてて、豊かなアルカイックスマイルを見せてくれた。
 もはや聞くまい。
 なんだか、全部どうでもよくなった。
「あ、そうだそうだ。呪いの解き方だけどね……」
 清水は私の手から4つ折の紙を奪い取り、開いてからまた手に戻してくれた。右手が包帯まみれなのを気にしてくれたらしい。
 相変わらず出来の良いお菓子だ、全く。菓子職人に万歳……って川村さんか。


 栗山へ。
 マイクロウージーを持った男を見たので台湾に逃げることにした。
 そのうち整形して戻ってくる。心配するな。
 呪いを解く方法だが、川村が吐いた。
 その根本である人形を食えばいいらしい。簡単でよかったな。
 なんか行き遅れの私は結婚のハードルもなんたらとかブツブツ言ってたけど、どうしたんだ?
 おっと、誰か来たようだ。また会おう。


 しばらく病室には何も流れなかった。
 清水を食べる。名原はさらりと書いているがそれは――。
「いいんだよ。食べてくれても」
 それは――。
「味は保障するよ、牛乳と一緒だとなお良し」
 それは――!
「まあ45キロも食べたら飽きるかもしれないけどねえ」
「食べられません!」
「……わからないかね、君は」

「私は呪いの人形として作られた哀れなちんすこうなんだよ。お菓子にとって食べられることは幸せなんだ。最後くらいお菓子らしく消化してくれたっていいじゃないか、そうだろう、キミ」
 そのとてもとても明るい声は、時折、濁った。

「お菓子が涙を流したり、ご飯を食べたり、消費者を助けたりするもんですか」
「最近のお菓子はすごいんだよ……さあ」
 目をつむり、顔を寄せてくる清水。
 今の私は逃げられない。全身が包帯で巻かれ、なおかつ足は吊るされている。とても動ける状態ではない。
「……! ダメです清水さん!」
「奥さんも良いって言ってくれたよ」
「な……!?」
 あの馬鹿、何考えてるんだ。
 そんなことしたら、そんなことしたら。

 ちゅっ。

 とてもちんすこうとは思えぬ柔らかさと暖かさ。
「栗山くん、ずっと好きだったよ。そういうプログラムなのかもしれないけど……私は」
「そんなことしたら爆発するでしょ清水さん!」


 ドーン。


この作品が気に入っていただけましたら『高得点作品掲載所・人気投票』にて、投票と一言感想をお願いします。
こちらのメールフォームから、作品の批評も募集しております。

●感想
ツヴァイさんの意見
 こんにちは、ツヴァイです。感想をば。

 ハイテンションナンセンスギャグですね。
 食べ物が爆発する、という要素と、食べ物でできた人間、という要素。
 それらが相まって、不思議な作風に仕上がっていると思います。
 そもそもなんでこんなことになったのかなど、考えるのは野暮というものですよね。
 ここは素直に、不条理に身を任せて読み進めるべきでしょう。
 しかしちんすこう爆発……こういうネタを引っ張り出してくる辺りに、作者様の非凡なセンスが窺えます。
 その不条理さで、これからもがんばってください。では。


わをん。さんの意見
 拝読しましたので感想を少しばかり……

 シュールですね。
 とても斬新なアイディアだと思います。僕にはとても真似できません。

 何より、作品情報には初投稿とありましたが、内容を読んでみて完璧に肩透かしです。
 書き慣れてらっしゃる。

 ただ、この長さならよくあることですが、誤字脱字があります。
 じっくりと推敲された方がよろしいかと……。

 良作を有り難うございます。


K.Kさんの意見
 非日常を最低限度にとどめた配置でスタートさせ、うまくストーリーが進行していますね。
 破天荒とまでは行きませんが、なかなかに不条理で、そうですね、 手堅くまとめてあると感じました。
 すべりがちなところをしっかり踏みとどまっています。
 そうそうできることではないと思います。
 とにかく楽しめました。


donpoさんの意見
 はじめまして、拝読させていただきました。

 面白かったです。一行目から惹きつけられました。
 何というか、よくこんな不可思議な設 定を思いつきましたね(笑)。
 徹頭徹尾シュールな世界観が構築されていて、コメディものとして質が高いと思います。
 オチは無難でしたが、そこに至るまでの 過程が徹底的にぶっ飛んでいるので、
 逆に一種の安心(?)を覚え、すっきりした気分で読み終えられました。

 文章については、かなり簡素に 書かれていてテンポも良いのですが、
 誰が喋っているのか判断できない箇所がありました。
 「ぜひ方法を知りたいもんだ」という台詞です。
 長めの解説後の台詞で、その下の地の文では
 主人公の心情描写しか書かれていないのが原因と思われます。
 その後の文章から、恐らく清水の台詞だと思うのですが、
 こういうわかりにくい箇所はテンポを崩してしまうので、気をつけた方が良いと思います。

 それでは。


高橋 アキラさんの意見
 こんにちは、読ませていただいたので感想を。

 設定はすごく斬新で良かったと思います。でも、私には物語りの展開がまたく理解できませんでした。

 ――爆発するのには犯人がいいる、って雰囲気になってから話が分からなくなってしまい、
 しょうじき楽しめませんでした。多分私が沖縄をよく知らないというのが一つの理由だと思います。

 説明不足ですみません。これは私の率直な感想なので聞き流して下さってもかまいません。
 参考になればうれしいです。


こぶしさんの意見
 沖縄生まれの、こぶしです。
 サーターアンダギーは、時々作りますぜ。

 5年の浅い読書歴の中で、小説でくすりと笑ったのは初めてかも。

 ただ一言、「おもしろかった」と。
 久し振りに秀逸なギャグ小説が読めました。
 さっき文芸誌で読んだ短編より、断然ぼくは『がんじがらめ爆発』をプッシュしますね。

 浅野いにおのマンガ『おやすみプンプン』のようなシュールな雰囲気を感じました。

 ファンとして、次回作も期待しています。
 とこで、ちんすこう人間には、何処に行けば会えますか?


兼業パン屋さんの意見
 はじめまして。

 いやー、シュールな笑いでした。
 こういうのは私には絶対に書けないなーと思いました。
 ちんすこう人間の秘密とか、よく考ええたなーとも。
 特に批評はできません。申し訳ない。
 ただただ、笑わせてもらいました。


KaNa。さんの意見
 こんにちは。
 拝読してまず、冒頭で笑わせてもらいました。
 とても面白かったです。地の文についてはたくさんの方がコメントされているので、はぶきますね♪

 とても面白い、ただそれだけです。
 他の方にも紹介したい文章だと思いました。また、短編を楽しみにしています♪


飛車丸さんの意見

 感想でも書くか、書くまいか、いやいやでもなあうーん、
 などと悩みつつ感想レスを読んでいると『ベタな大阪人』とあるではないですか。
 ダメな大阪人選手 権ロシア代表の私としては、これは感想を書かねばなるまいと思った所存です。
 飛車丸です。ただし、他の方よりは辛口なので口内炎にお気を付けください。

●文章
 誤字脱字はともかくとして、微妙に残念な部分が散見されます。
 例えば、

 序盤の爆発エピソードにおいて、
> 今日は大丈夫だと思ったのに
 とありますが、ここは『大丈夫だと思った理由』を入れるか、
> 今日は大丈夫かも知れないと思ったのだが
 といった『希望的観測』にしておくとベター。

 その後に遅刻を説明するシーンでは、
>  本当は賞味期限切れが近いので中枢部分以外を焼きなおしてきただけである。
 といったように、清水にしか分からないはずの情報を栗山が扱っている、という不手際。
 視点のぶれか、文脈の歪みか、語彙選択のミスかは分かりかねますが、
 私は一読目の時に「栗山がそれを知っているのは、実は既に清水と大人の関係であるなどして、
 前もってその情報を仕入れていたという類の伏線だろうか」と勘繰ってしまいました。

 中盤の清水が爆弾魔を追うシーンで、
> その後、たまたま主任殿に見つかり、とにかく見栄えが悪いので掃除するように命じられ、実行した。

 という文章以降、どのような場面であるのかがさっぱり不明です。
 掃除を命じられて『実行した』とあるのですが、これ以降の会話が掃除中のものなのか、
 それとも掃除後に別の場所で行われたものなのか、全く描写がないために、
 情景がぴくりとも出てこないんですね。

 終盤の名原からの手紙では、
> なんか行き遅れの私は結婚のハードルもなんたらとかブツブツ言ってたけど、
 と言う部分が、川村の言葉であることを明確化しておくと、一気に読みよくなります。
 例えば文頭に『アイツ、』と一言添えるだけでも、大きな変化が得られるかと存じます。

 ちなみに、上から順に『文脈の途絶or語彙選択ミス』『描写不足』『主語述語の欠落』となっています。
 こういった部分に気を付けて推敲してみると、良い結果が出るかも知れません。

●キャラ
 まず目立つのが名原と清水でしょう。
 この二人に関しては、大した容姿描写があるわけでもないのに、
 自然と「こんな顔かなぁ」などと思い浮かぶくらいにキャラが立っていたと感じました。
 ですがそれとは対照的に、主人公である栗山がなんとも冷静で無感情で無個性という、
 なんとも寂しい出来になってしまっています。
 何か一点でも目立つ部分を作って強調してみるなどして、
 もう少しだけ個性を前面に出しつつ今のシュールさを保てたならと思うところです。
 また川村に関しては、序盤で性格に関する描写を行ったり、
 主人公ともう少し絡ませたりするなどしておけば、犯人特定時により大きなカタルシスが得られるかと。

●構成
 起承転結のしっかりした構成、でした。
 最後のオチが今一つ弱いことと、綺麗に纏まりすぎている点が残念ではありますが、
 大筋の構成としては難癖をつける点が見つけられないことが逆に残念でなりません。

●設定
 これが今作における何よりの目玉であり、すべてでした。
 一行目のインパクト、全体の構成、主人公以外のキャラの立ち具合など、
 設定を練りこんだ分だけ良質なものに仕上がっている、というのが率直な感想です。
 この大阪テイスト溢れる支離滅裂かつ支離滅裂なアイディアを、
 よくここまで形にしたものだ、と感嘆しきりなわけです。


 そんなわけで、辛口と言いつつやっぱり+10点。
 文章を書き慣れる、主人公をただの語り部から脱却させる、オチに冒頭以上の強さを持たせる、
 などの改善すべき点は目に付きますが、さすがにこのアイディアには脱帽でした。


毛利 鈴蘭さんの意見

 はじめまして、こんばんは。
 拝読しましたので感想を残していきます。

 とにかく斬新でした。
 もはや衝撃と言っても過言ではないのかもしれません。
 序盤からすっかり話のペースに乗せられて、あっという間に読みきってしまったほどです。
 全体的にテンポが良かったことが常識を逸脱したシナリオにも関わらず、
 気持ちよく読みきらせたポイントだったと思います。
 そもそもちんすこうからこのような物語、どうすれば浮かんでくるのか不思議でなりません。

 こういったユニークな作品は大好きです。
 今後の作品にも期待しています。


藤峰 由さんの意見
 こんばんは、藤峰 由です。
 感想返しにまいりました。

 えっと…… ふつーに面白いんですが……ッ!
 お初だなんて…… ぐー、その腕が羨ましいです。

 ともかくストーリーにはライトノベル風のぶっとんだ感がありつつも、物語は破綻しておらずよかったです。
 またノリがよかったです。
 個人的にマーライオンがフェイクだったところ。たぶん、私だけだろうけど。ここでくすっと笑ったの。

 どこか指摘するべきなのですが、私には見当たらないです。。。
 すみません、お役に立てなくて。
 
 ちんすこう、ではないのですが。
 受験前に、菅原道真に象った砂糖菓子を知りあいにいただきました。なんでも、ご利益があるそうで。
 まぁ、第一志望には受からなかったんですが(汗
 で、この砂糖菓子。受験後に食べて下さい、と知り合いに言われていたので、
 食べようとしたのですが、大きすぎる。大きいんですよ。
 350mlの缶と同じぐらいの大きさ!! 
「ひぃいいい!!」
 とてもじゃないですが、足の部分を食べてギブ。捨てちゃいました(ごめんなさい)
 
 ええ、こんな話をしたのは、ラストを読んでいたら思い出しただけです。
 ごめんなさい。場を汚して、ごめんなさい(ぇ

 では、次回作もがんばってください!
 期待してます!


Ririn★さんの意見
 はじめまして。Ririn★です。

 ちんすうこうがどんなお菓子か最近まで知らなかったんですが、
 ちんすうこうで出来ている人ってどんなんか想像もつかなかったです。
 ポニーテールもあるし、私の中ではロボットみたいな容姿をしていました。あっていますでしょうか?

 内容は不条理ですが、納得させられてしまうというか、雰囲気で押し切られたというか、
 疑問に持つことが少なく読み終えることができました。
 最後はべたなオチでしたが、私はこのほうが好きです。

 不条理系ですから、次回にも続けることができる話かと思います。
 続ける気はないかもしれませんが、次回作期待しています。

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