高得点作品掲載所     紅供(くく)さん 著作  | トップへ戻る | 


初めてのリクエスト

『初めてのリクエスト』

 私の好きな人は嘘つきです。
 高校二年の時、偶然同じ学科を専攻しており、知り合うことが出来ました。
 移動した教室で偶然横の席に座った、彼からの私に対しての第一声はこうです。
「あれ? 俺たちどこかで会ったことない?」
 ありません。即答しました。
 皆は私を指して天然(人工の人などいるのだろうか?)とかドジッ子(何処の国の言葉でしょうか?)はたまたお人形さん(これはもしかするとほめ言葉なのでしょうか?)などのよく分からない名称をおっしゃるのですが、これでも私、記憶力はあるほうなのです。
 彼の外見は茶髪に制服の着崩しなどが特徴的で、元々男の方の知り合いがあまりいない私は、間違いなくこの雰囲気の方とは今までお話したことがありません。
 間違いを訂正したのでこれで話は終わりかと思ったのですが、返答後キョトンとしていた彼は、唐突に笑いながら、
「速っ! アハハハハッ。スゲー回答速っ!」
 と言うのです。なんだかよく分からないのですが笑顔になっているならそれは悪いことではないはずです。
 私も笑顔には笑顔で返しました。
 彼は私の笑顔を見るなりまたキョトンとした顔をしました。コロコロと表情が変わり面白い人です。
 彼は今度は慌てたように、
「あっ、えーと俺、新野竜也。えっとさ、君の名前は?」
 八島竜姫。
「おっ!竜姫のたつは竜って字?」
 はい。
「同じ、俺も同じ! これも何かの縁かな! これからよろしくね!」
 そう言ってまた笑うのでした。
 正直男の方とは余り話さないのですが、彼の表情はとても面白いです。思わず笑みが浮かぶほどに。ですからよろしくと返事をしました。
 
 後に一番仲の良い友達の雪ちゃんに聞いたところ「そりゃまんまナンパでしょうが」と呆れたような顔で教えて頂きました。
 彼女はとても元気で私に様々なことを示唆してくれる、ありがたい人です。そんな彼女が言うのだから間違いありません。
 遅ればせながら驚きました。人生初のナンパでした。

 それからはよく彼に誘われて二人で色々なことをしました。
 彼は私の知らないことを色々と教えてくださいました。とても量が多く、お値段が低くて美味しい料理を出してくれるお店。ゲームセンターの楽しみ方。面白い漫画。バイクの後ろに上手く乗る方法。
 代わりに私も彼の知らない事を色々教えて差し上げました。雪ちゃんとよく行く美味しいジェラートのお店。図書館のベストスポット。面白い小説。美味しい紅茶の入れ方。
 それはそれは、とても楽しい時間でした。
 ただ一つだけ、彼が私に嘘をつく事を除けば。
 そう、何故か彼は長く学校を休んで登校してきたときに限って嘘をつくのです。
 私がどうして休んでいたのか、心配で聞くと決まって彼は嘘をつきます。
 曰く「サボってゲームをしていた」曰く「しばらく旅に出ていた」等々。 まだまだ言い訳の種類はあるのですが、決まって彼は最後に「心配かけてゴメン」と言って私の頭を撫でるのです。
 何も言えなくなってしまいます。ですが直感的に分かってしまうのです。
 彼は出鱈目しか告げていない、と。
 ですがそれが何故なのかが私には分かりません。
「なんかいつも心配掛けてて悪いし、俺にして欲しいことがあったら言ってくれよ」
 そう彼は言い、私はいつも首を横に振ります。
 私は彼に色々なモノを貰ってばかり。心苦しくてとても彼の隠しているモノがなんであるのか、聞く勇気が持てません。そんなまま、私たちは将来を決める受験の時期に入りました。

「女の子ってさ、どんなモノを貰ったら嬉しくて笑ってくれるかな?」
 図書館での勉強中、彼は唐突に漠然とした質問をしてきました。
 余りにも的を射ない言葉に私も漠然な答えしか返せません。
 たぶん心のこもったモノならどんなモノでも良いのではないのでしょうか。
 そう言うと彼はとても気持ちの良い笑顔で、
「成る程……うん、わかった、サンキュー竜姫!」
 と言ってくださいました。
 どうしたのでしょう、最近になって気付いたのですが、彼と一緒にいる時間、私の鼓動が急に早くなることが多々あることに気付きました。
 雪ちゃんに聞いたところ「うわー!この子可愛すぎるー」と抱きしめられました。
 続けて「困ったことがあったらいつでも私に言ってね」と満面の笑みで言われました。
 いつも遊んでくれているのに、これ以上雪ちゃんに迷惑を掛けるわけにはいきません。
 私は首を横に振ります。
 そうすると寂しそうな表情を一瞬だけ見せて、それが何でか判らなくて。 でも彼女はすぐに笑顔になってくれます。考えてみるとこの問答は昔から何度かあったことです。
 何故でしょう?
「まぁ自分で考えるのも良い経験ですよ。にょほほ」と、頭を撫でてきます。
 よく分からないけど、まったく意味は教えてくれない当たり意地悪です。

 見てしまいました。私は見てしまったのです。
 今日は用事があるからと、彼は授業終了と同時に帰宅した、そんな日のことです。
 彼は筆箱を学校に忘れていったようで、彼のクラスの方が何故か私を訪ねてきました。
「八島さんだよね。これ竜也のなんだけど……今の時期筆箱忘れるのは痛いじゃん? 届けてやりたいんだけど私たちあいつの家知らなくてさー。よかったら八島さん届けてくれない?」
 驚きました、二つのことに。
 一つは、彼女らは何故か私が彼のお宅の住所を知っていることを知っていることです。
 それについてすぐにお二人に聞いたところ「あはは、本当に天然人形だ」と笑われてしまいました。
 二つ目は、可愛らしいお二人がどちらとも彼のことを普通のように名前で呼んでいたことです。私は彼のクラスに行ったことは無いためクラスでどのように過ごしているのか知りません。
 そうですか、女の子とも仲がよろしいようですね。なんでしょう、この胸の疼きは。
「じゃ、よろしくねー」
 そう言ってお二人は行ってしまいました。
 彼の家を訪ねる機会が増えて悪い気はしません。早速向かうことにしましょう。

 それほど掛からずに彼の家の前に着きました。ですがそこで見てしまったのです。
 彼の家の前に止まっている車の中で、運転席にいる若い女性の方が助手席の彼を抱きしめているところを。
 足下がふらつきました。なんでしょう目眩もします。そして何よりこの締め付けられるように痛む胸の内は……一体……訳が分かりません。
 何故私は電柱の陰に隠れるのでしょう。何故彼はあの女性に抱きしめられているのでしょう。何故足はすくんで動かないのでしょう。何故彼は私に気付いてくれないのでしょう。
 何故車は走り去ってしまうのでしょう。何故運転席の方は以前見たことのある彼のお母さんではないのでしょう。
 ……訳が……分かりません……

 気付けば自宅のベッドの中に入っていました。どうやって帰ってきたのか。どうやってベッドに入る今まで家族と会話したか。分かりません。
 でも大丈夫。明日彼に聞きます。彼は私の知らないことを教えてくれる。頭を優しく撫でてくれる。
 ……そうしたらこんな胸の痛みなんて……

 次の日彼は学校に来ませんでした。今時珍しく携帯を持っていない私には連絡の取りようがありません。胸が苦しい。
 痛い。痛いよ。

 一週間が経ち、彼が学校に登校してきました。
 私は毎日彼のクラスを訪ねていたので、その日も朝のうちに彼にクラスまで向かい、彼が来ていることが判りました。だけどどうでしょう、私の足は 教室のドアより先に動きません、固まったように前に進みません。
 後ろには動きます。だから、自分の教室まで戻っていました。
 訳が分かりません。

 一時間目の休み時間。彼は私の教室を訪れ、
「竜姫、毎日俺の教室まで来てくれてたんだって? ありがとうな!」
 そう言って笑顔で私を見るのです。
 胸が痛い、痛い、痛い。
 最近は長く休んでも私はどうして休んでいたのか聞きませんでした。彼に嘘をつかせてしまうのが心苦しかったからです。でも今日は、今日だけは、答えて欲しい。
 尋ねてしまいました。
 お願い、休みの間何をしていたのか教えて。
「別に、少しばかり旅行に行ってただけだよ。心配かけてゴメンな」
 そう言って彼は私の頭を撫でるのです。
 分かってしまいました。分かりたくありませんでした。
 ……彼は……出鱈目を言ってます……
 何故でしょう。いつもはあんなにも心の温まる彼の手の温もりが、今は少しも感じられません。これは何故でしょう。分かりません
 私の頬を流れるこの液体はなんでしょう。この胸の喪失感はなんでしょう。
「えっ? 竜姫……なんで泣いてんだよ……」
 泣いている? 私が? 
 物心ついてから泣いたことは無かったらしいのに……これが……涙。
 雪ちゃんが教室に入って来るなり、すぐさま彼を私から引きはがしました。
 雪ちゃんが私に声を掛け彼に対して怒鳴っているのが聞こえます。
 ですが聞こえていても理解が出来ません。思考が追いつこうとしません。
 頭の中は彼が抱きしめられていたことに埋めつくされてしまっています。
 頭の中は彼の嘘で一杯です。
 頭の中は今までの彼の優しさで満杯です。
 彼のことで、彼のことで、彼のことで。

 気付けば気分が悪いという理由で雪ちゃんと学校を早退していました。
 公園のベンチで雪ちゃんは私に「どうしたの? 何があったの?」と尋ねます。
 私の口は蛇口の壊れた水道のように雪ちゃんに全てを話します。
 彼が休んだときは絶対に理由を言わないこと。この間彼の家の前で見たこと。ずっと彼といるときは鼓動が早くなって踊るようだったのに、最近はずっとずっと胸が痛くてその理由が分からないこと。全部全部話しました。
「それはね、恋だよ。」
 ……こ……い…………恋……
「竜姫ちゃんは竜也君の事を好きなんだよ。愛してるんだよ」
 ……好き……愛……
 これが、こんなに苦しくて辛いモノが、本当にそれなの?
「そうだよ、恋や愛って感情は、時に苦しくて辛くて寂しくて悲しくて泣きたくなるようなモノなんだよ」
 でも、だって、それじゃあなんで皆が皆、こんなにも苦しい思いをしてまで恋をするの? 何故そうまでして人は人を欲するの? こんな感情私は……私は……
「竜姫ちゃん、普通はね、普通の人は一人じゃ生きていけないの。みんなこの広い世界ではちっぽけで、どうしようもないこともある、それでも人は協力することで前に進めるの、だからみんながみんな惹かれ合っていく、そうやって世界は回るの」
 ……皆が皆……惹かれ合う……
「うん、だから恐れないで、その感情を。否定しないで、今の気持ちを」 
 ……この気持ちを……
「だから泣かないで」
 ……うん……わかった……だから雪ちゃんも……泣かないで……

 しばらく二人で泣き合いました。私が覚えている中で二回目の涙は、とても苦しくて、でも嬉しくて、先程までとは違います。
 もう、寄る辺のない不安感はありません。
 私には雪ちゃんがいてくれる。私のために一緒に泣いてくれる人がいる、だから、たとえどんな結果でも……明日彼にきちんと聞いてみる。
 〜♪
 唐突に雪ちゃんの携帯が鳴りました「ごっごめん」と言って雪ちゃんは携帯の画面を見ます。
 私に謝る必要なんて無いのに。
 するとみるみる雪ちゃんは顔色が青くなっていきます。
 どうしたの雪ちゃん? 大丈夫?
「竜姫ちゃんっ! 竜也君がっ!」
 雪ちゃんは慌てながら携帯の画面をこちらに向けます。
 竜也君が……っ!

 近くの病院だったので、走って病院に着きました。
 雪ちゃんの友達が知らせてくれたのです。私たちが早退した後、竜也君が持病のせいで倒れて、病院に運ばれたことを。
 持病ってなんですか? 彼からはそんなこと一度も……ずっと笑ってたのに……
 雪ちゃんが受付で聞いてくれた手術室の前に辿り着きました。
 そこには、彼のお母さんと、あの時車に乗っていた女性が並んで座っていました。
 その女性の方が先に私たちに気付きました。彼女は竜也君のお母さんの方を向き、周りに目を向ける余裕が残っていないということが分かったのか、耳元に何かを告げてこちらに向かって歩いてきます。
 近くで見るととても格好いい方です。背がとても高くてスーツがよく似合っている。女性の方なのにとても凛々しいキリッとした表情にロングの髪の毛。この人が彼の……
「初めまして、竜也の姉の香虎です。あなたが竜姫さん?」
 お……ねえ……さん?
 姉? そう言えば彼から聞いたことがあった。海外に出張中の姉がいるって。じゃあ、あの時のことも全部……
 ぐるぐる頭は回転しているけど反射的に頷きます。
「竜也が言ってた通り、本当にお人形さんみたいに可愛いわね。竜也ったら家でずうっとあなたのことばかり話すのよ」
 そう言って彼のお姉さんは笑った。
 その笑顔は、彼に、とてもよく似ていた。
「でもね、あの子あなたに言ってなかったことがあるのよ」
 ドクンと胸が震えた。
「あの子は生まれつき病弱で……心臓が弱いの」
 病弱? 心臓が弱い? そんなこと、一度も聞いたこと無いよ……
 足下の床が無くなったように感じた。でもそこで私を支えてくれるモノがあった。雪ちゃんの手が、私の肩を支えてくれていた。大丈夫。うん。大丈夫。
「竜也は言ってたわ。竜姫には絶対に情けない部分を見せたくないって。俺があいつを笑わせるんだって」
 私を笑わせる? だって……私は笑ってたよ……ね……
「あの子を許してあげてね」
 そう言って私に笑いかけてくれた顔は、今もっとも見たい笑顔に限りなく似ていた。

 数日後、病院のベッドで横になっている彼。その隣で私はそっぽを向く。
 彼は両手でおがんで私に向かって必死に謝罪を続ける。
 私だって簡単に許す気はない。こっちがどれだけ心配したと思ってるんだか。
「ゴメン! ほんとーにゴメン! もう嘘つかないし泣かせるようなこと絶対にしないって約束します! だからお願い! 許してください!」
 ものすごく困ったって顔で、次々と謝罪を口にする彼を見るとついつい許してあげたくなってしまう。
 でも駄目だ、雪ちゃんが簡単に許すとつけあがるって言ってた。
 私の態度が軟化しないことに困り果てた彼は、ふと思い出したように病院備え付けの引き出しを漁り出す。
「あった! 竜姫! 少し遅れたけどこれ!」
 そう言って彼は、とあるペンダントを私の目の前に差し出した。
「遅れたけど誕生日プレゼント! 俺の謝罪の気持ちが最大限詰まってます!」
 小さいクロスの付いたペンダント。
 あっ、そうか、あの時の女の子が笑ってくれるモノって。
 フフフッ
「あっ! 今っ! 笑った! 竜姫が笑った! やった〜!」
 笑ってるよ私。
 いつでも私あなたのそばでは笑えていたんだよ。
 あなたがいたから、生きていてくれたから、笑えるよ。


 何やら馬鹿騒ぎしている病院の個室の前。廊下に二人の人物が佇んでいる。
 一人は親友と共にお見舞いに。一人は弟のお見舞いに。そして二人は中の笑い声を聞きながら微笑む。
「竜姫ちゃんは母親がいないんです。物心付いたときからずっとお父さんと二人暮らし。だから、誰にも迷惑を掛けないように、誰にも何も要求しないように、そうやって考えていくうちに感情が麻痺してしまったんです」
 高校の制服を着た少女は隣にいる女性に不意に語りだす。
「辛い顔をみせない、疲れた素振りも見せない。代わりに涙を流したこともない、笑顔も浮かべない。そうやって生きてきてしまった。みんなは面白がって竜姫のこと陰で人形とか言って」
 思い出したのか涙を浮かばせながら語る。
「でもあの時、竜也君と話したと言っていた日は違ったんです。何かは分からないけど竜姫ちゃんがいつもと違った、変わっていた。だから私は彼に賭けました。出来るだけ彼と一緒の時間を作って、私は邪魔しないように」
 そうして病室の中を覗く。カーテンの奥からは男の子の笑い声と女の子の笑い声が聞こえてくる。
 自然、少女も笑顔になっていた。
「よかったです。彼が生きていてくれて。竜姫と笑っていてくれて」
 そんな幸せそうな女の子を見て女性も語り出す。
「実はね、竜也も笑わない子だったの」
少女は女性の方に顔を向け、心底驚いたという表情をする。
「あのいつでも誰かと楽しそうにしている竜也君がですか?」
「そうよ。ずっと、どんな時も笑わない子だった。自分の心臓のことで運動制限があってね、どうしても周りの子のように素直に笑うことが出来なかったの。でも一つの出会いがあの子を変えたの」
 何を思いだしているのか、憂いを帯びた表情になり空を見上げ言う。
「その子は幼くして死ぬ運命にある子だった。ちっちゃくて可愛い女の子だったわ。ちょうど竜姫ちゃんみたいに。幼い頃の長期入院中、竜也はその子がずっと笑っているのを見ていたの、すぐそばで」
 目をつぶりながらより深く思い出していく。
「誰よりも仲が良かった子が死んだ時、あの子が笑ったの。僕が笑わなくちゃ。彼女はもう笑えないんだから僕は彼女の分まで笑うって。泣きながら笑ってたわ。それからよ、笑っていない子を絶対に見過ごせない、明るい良い子になったのは」
 女性は少しだけ目尻に浮かんだ涙を指ですくい、話を続ける。
「最近になって私海外から帰ってきたんだけどね。竜也ったら竜姫ちゃんを笑わせてやる。それまで絶対に死んでやるもんかって何度も言うの。実は竜也の心臓結構悪くなってて……確率はどうとしても、近々手術するしかなかったのよ。だから……もしかしたら……彼女のおかげかもしれないわね、竜也が今、笑っていられるのは」
 そう言って病室の笑い声に耳を傾ける。
「運命って、こういう二人のことを言うのかしらね」
「かもしれないですね。惹かれ合って、会うべくして会った二人、か」
 二人は当事者ではない、しかし当事者をもっとも思っていたという部分はとても共通していた。だからお互いの気持ちが手に取るように分かった。
 嬉しい。その言葉で胸がいっぱい。
 きっとそうだ。
 でも、
「「あ〜あ。私も彼氏欲しいなー」」
 そんなセリフも、二人一緒だったとか。

「本当良かった! 竜姫が笑ってくれて! ああっ! でもあれだよ! 謝罪の気持ちも忘れてないよ! 何でも言っていいよ! どんなことでもするよ!」
 どんなことでもですか?
「うん! どんなことでも!」
 良いのだろうか。彼にお願いしても。私はずっと誰にも迷惑を掛けないように、誰にも何も要求しないように生きてきた。そんな私が今更……
――「否定しないで、今の気持ちを」――
 うん。そうだったね、雪ちゃん。私頑張ってみる。
 私は泣けたし笑えた、もう人形じゃない。
 これが物心付いてから、初めての『リクエスト』
「竜也君っ! 私と、私と付き合ってください!」

 FIN
作者コメント
 初めまして紅供(くく)と申します。
 今回が初投稿で戦々恐々しています。
 ですが、それよりなにより皆様の感想を聞きたいという気持ちが強く、今回の投稿に至りました。
 
 日課である三題噺の中でも綺麗に終わったと思った文がこれです。
 『病弱』『出鱈目』『リクエスト』
 ご感想、よろしくお願いします。


この作品が気に入っていただけましたら『高得点作品掲載所・人気投票』にて、投票と一言感想をお願いします。
こちらのメールフォームから、作品の批評も募集しております。

●感想
ルーシーさんの意見
 こんにちは、初めまして。
 「初めてのリクエスト」読ませていただきました。さっそくですが感想に移りたいと思います。

 まず思ったのは全体的にありきたりな話ながら上手く纏めてるなぁ、と。
 途中で竜姫の1人称の感じが変わるところがありますが、初見では?となったものの、最後まで読んだ後では納得の展開でした。
 ただ竜也君が最初にナンパした理由ってのは何なんでしょうか?
 昔亡くなった女の子が竜姫ちゃんと似ていたからでしょうか、それとも笑わない事が昔の自分と重なったので治してあげたかったのでしょうか、はたまた一目惚れでしょうか、あるいはその全てでしょうか。
 それとなく示されてはいますが、若干消化不良に思えたので突っ込ませていただきました。
 三題噺でこれだけ書けるのはうらやましいです、ただもうちょっとだけ予想外の展開、というか面白い要素があるともっと良かったかなと思います。
 あとはこのサイト仕様でしょうか、少し改行が多いかなとも思いました。

 短いですがこの辺りで。
 綺麗にまとまっていたので30点つけさせていただきました。
 それでは、今後もお互い頑張りましょう!


シンズーさんの意見
 はじめまして。拝読しましたので感想を書かせていただきます。

 ストーリー自体は盛り上がる部分もきちんとあって、楽しめました。
 しかし、テンポは良いのですが全体的に描写が薄過ぎるかなと思いました。
 おそらく竜姫の人形らしさを意識しての表現だと思いますが、竜姫の心理描写で三点リーダーが多いことが特に気になりました。
 個人的には雪からそれは恋だと指摘される場面での、
……こ……い…………恋……
……好き……愛……
……皆が皆……惹かれ合う……
 ……この気持ちを……
……うん……わかった……だから雪ちゃんも……泣かないで……
 特に、この場面は三点リーダーではなく、丁寧に描写したほうがいい部分だと思います。
 前半のですます調が終盤になると普通の語り口になるのも、竜姫の変化を意識してのことだと思いますが、変化の描写が薄いので唐突な印象です。
 竜姫の変化はこの物語の核だと思うので、きちんと描写すれば読み手にもっと竜姫の変化を感じさせることができるのではないでしょうか。

 これは本当に僕個人の印象なのでスルーしていただいても結構なのですが、台詞はともかく心理描写で三点リーダーが多様されていると、書き手が描写することを投げてしまった印象がしてしまいます。
 自分のこと完全に棚に上げています。本当ゴメンナサイ。

 全体的に綺麗にまとまっていて、楽しく最後まで読むことができました。
 しかも、三題噺というのが凄いです!
 僕も試したことはあるのですが、あんまりに脈絡のない三題になり30分で発狂してお題を破り捨てた経験があります。
 最後に、色々と偉そうなことを言ってしまってごめんなさい。
 お互い精進しましょう。
 それでは、失礼します。


よしけんさんの意見
 はじめましてこんばんわ。よしけんです。こういう不器用な女の子は大好きです。だんだん女の子になっていくのがほほえましい。
 物語の流れもおかしいところなく、シンプルですが面白かったです。三題噺とは思えない完成度。私だったら投げ出してしまってるところです。
 少し残念に思ったのは最後の方の雪ちゃん達の会話です。説明的になっているように思えました。ちょっとわざとらしくなるので、いっそのこと削っちゃうか?(すいません、気にしないでください)
 あと個人的に雪ちゃんと竜姫が仲いい理由が知りたいです。まあ、こんな子いたら可愛がっちゃうかな。
 短い文ですが、励みになってくれれば幸いです。ではがんばってください。


DDさんの意見
 お久しぶりですDDです。向こうでお世話になったククさんがここいるのにビックリ、思わず読みました。

 しかしまさか恋愛モノとは。
 おいおいククさんあんたがそんなジャンル……恋愛書けるんかよ!
 驚きました、綺麗にまとまったいい話じゃないですか。
 以前までの作品と随分毛色が違いますね。
 でもこういうのもいいかもしれません。

 まぁだめ押しを言うなら他の皆さんが仰っているとおりですね。
 もしそこらへんを改良できればもっとよい作品になるのでは?

 僕は今までとのギャップで40点だ!

 短いですが今回はこれで。これからもがんばってくださいね。


燕小太郎さんの意見
 読ませていただきました、燕小太郎と申します。

 うまい作品ですね、読了した後ほんわかしました。安定した文章力と丁寧な一人称が好印象で、すらすらと読み進めることができました。

 ただ残念な点として、他の方からもあった通り最後で二人の説明が入ってきてしまったことでしょうか。後付け設定のようになってしまい、ストーリー全体も停滞してしまったように思います。せめてヒロインの説明だけでも中盤でしておいた方が良かったかな、と感じました。
 ところで、親友とお姉さんのシーンは誰視点だったのでしょうか? 文章が巧くてスルーしてしまったのですが、よく考えたらヒロインの一人称ですから見えないはずなんですが……。細かいところで申し訳ないです。

 ヒロインが最後だけ「」で喋る、というのは良いですね。こういう仕掛けは好きです。成長した感じが現れているように思えました。

 総じて良作であると思います。拙い感想ですが、少しでも参考になれば幸いです。それでは、また。


●作者レス
 燕小太郎さん、感想ご意見ありがとうございます。
 ほんわかして頂けたようで幸いです。

 最後の説明文になってしまった部分については、今後物語に上手く組み込めるような文章力を付けていきたいです。

>親友とお姉さんのシーンは誰視点だったのでしょうか? 文章が巧くてスルーしてしまったのですが、よく考えたらヒロインの一人称ですから見えないはずなんですが……

 このシーンは語り部視点になっております。
 実は私の小説は、三人称の中に時々一人称を組み込むことや、一人称の中に時々三人称を組み込むことが多々あります。
 使い方次第で賛否両論なので難しいのですが……もしもう一度このレスを読みにいらっしゃった際には、それについてお聞きしてもよろしいでしょうか?
 最後のこれは蛇足ですね、お忙しいならスルーでも構いません。

 参考になりましたありがとうございます。
 これからもよろしくお願いします。


燕小太郎さんの意見
 どうも、燕小太郎です。作者レスを読ませていただきました。できる限りお答えしたいとは思うのですが、質問の意味をイマイチ理解できずにいます。それは『視点移動』についてなのか、それともまた別のことなのでしょうか? 詳しい説明をお願いします。


●作者レス
 燕小太郎さん、お忙しい中書き込みありがとうございます。
 確かにわかりづらかったですね、すみません。

 はい、視点移動のことについてです。
 一人称なら一人称、三人称なら三人称のままきっちり終わらせた方が良いのでしょうか?
 この作品では竜姫の一人称の中、一度だけ語り部視点が入り、雪と香虎の話を聞くという形になりました。
 私の書く作品はこのパターンか、これとは逆に語り部視点の三人称で進めていき、とある部分だけ、作中の登場人物の一人称に変えるパターンが多いんです。
 今まで漠然とやってしまっていたので、ぜひ燕小太郎さんの意見を聞かせて頂きたいと思いました。


燕小太郎さんの意見
 基本的には、統一するのがセオリーであると思います。今作であれば、『これは後で雪ちゃんから聞いたんだけど、〜という話をしてたんだって』と回想するか、『静かな病室に、廊下で囁きあう声が聞こえてくる』と多少強引にでも視点まで持ってくるといった方法で、代用できたかもしれません。
 ただ、違和感なく視点切り替えができているのであれば、そこまで深刻に考える必要はないと思います。今作でも三行空けることで、自然な視点切り替えができています。頻繁な視点切り替えで読者が混乱するようなことがなければ、テクニックとして活用していくべきでしょう。

 一人称と三人称について、私の考えを簡単に述べておきます。一人称は地の文がそのまま心理描写になり、主人公の内面表現は楽な反面、主人公のフィルターを通してしか描写できないため、他者や周りの描写が難しい。三人称は主人公の見えない部分であってもある程度描写できる反面、視点が語り部となるため、油断すると心理描写が抜け、退屈な説明文がダラダラと続いてしまう可能性がある。私はそのように考えています。

 私としては、三人称からの一人称、というのはあまりお勧めできません。というのも、一人称は視点が誰なのか見え難いので、『誰の視点になっているんだ?』と読者が戸惑う可能性があるからです。これを利用したテクニックなどもありますが(ミステリーで、犯人が誰だかわからないように犯人の行動を描写する、等)、特別な狙いがなければ避けた方が無難だと思われます。ただ、私はそうした作品を読んだことがないので、ひょっとしたらうまく使われている成功例があるのかもしれません。
 一人称からの三人称であれば、主人公を『僕』あるいは『私』の一人称で統一し、違う誰かに視点切り替えするときは名前で三人称にすると、誰の視点であるか容易に判断がつくため、一人称と三人称の長所を同時に生かすことができ、かつ誰の視点かもわかりやすくなると思います。一人称で小説を書きながら視点切り替えの必要があれば、こちらを選ばれたほうがいいかなと私なら考えます。
 もし複数の主人公、あるいは視点の数が多くなりそうであれば、最初から三人称にする方が自然だと思います。視点が増えると、今度は視点のキャラクターの印象が強くなり、主人公『僕』あるいは『私』が誰だったか忘れてしまいかねないので、それなら全員を三人称にしてしまった方が違和感なく話が進むのではないでしょうか。

 長々と感想欄を圧迫し、失礼いたしました。私ごときの考えがどこまで参考になるかわかりませんが、少しでも紅供さんのためになればと思います。それでは、また。


界乱夢想さんの意見
 受験勉強も大変になってきてあまり批評に来れません(すいません^^;)界乱夢想です。以下、感想を。

 読んでみてまず、女性視点でここまでのせつなさを描けるのはうらやましいです。主人公の心理描写の持って生き方には学ばせられるところがありました。
 ストーリーも面白かったと思います。

 ただ残念なのが、伏線不足。ページ数が少ないからなのかはわかりませんが、後半のお姉さんと親友の話が、読んでいて都合よく感じました。
 彼女らの説明のなかで、主人公は笑わないとあったのですが、「え? そうだったの?」と思いました。
 天然主人公の恋とそういう風に見てしまった私が悪いのかもしれないんですけどね。

 彼のミスリードに関しては上手いと思いました。
 やられましたね、浮気癖とか勝手に思ってごめんなさい;;

 さて、全体的にですが、面白かったと思います。テンポも良かったですし。
 これからの作品に期待します。
 次はもう少し長い作品を所望(かってでごめんなさい)します^^


水さんの意見
 こんにちは、水と申す者です。拝読させていただいたので感想を残したいと思います。

【タイトル】
 『私(竜姫)』から竜也へ、初めてのお願い(リクエスト)=告白。最後のシーンに同じ言葉が引用されていて(あるいはこっちからタイトルに引用したのでしょうか)読後の印象をより濃くしてくれるタイトルだったと思います。が、直接タイトルとは関係ないまでも、ちょっと勿体ないなと思った点がいくつか。それは後の【文章・描写・表現】の項に書かせていただきたいと思います。

【テーマ性】
 一言で言うなればとある女の子がひとつ成長するお話、ですよね。元が三大噺ということですが、仮に制限時間を設けた中で練り上げたテーマと方針であったなら、限られた時間の中で明確なテーマ性を持たせることが出来、尚且つそれをストレートに伝えられるだけの発想力は、素直に感心してしまいます。

【文章・描写・表現】
 最初に読んだ時、『何か詰まるなー……』と感じ、その理由をアレコレ考えてみました。その結果として辿り着いた結論は、この作品は竜姫の一人称で話が進みますが、所々に含まれる『竜姫の(心の)声』と『竜姫の心理描写』がしっかりと区別できていない、というのが原因ではないかな、と。特に中盤以降では『心の声』に頼って『心理描写』がやや疎かになってしまっている気がします。
 普通の台詞でも、それを言うまでの心理プロセスを描くことで、より自然に伝わるように演出したりできますよね。この作品においてはその心理プロセスが『心の声』にとって代わられている箇所がいくつかあるため、キャラクターの心理・思考がなだらかな線ではなくジグザグになってしまい、部分部分で詰まってしまうように感じられる。多分それが私の感じた違和感の原因じゃないかな、と思うのですが……何分、考えるうちにだんだんと理論的解釈が先に立つようになってしまったため、間違いなくそうだと言い切れないのが痛いところです(だったら書くんじゃねーヨ)。

 それとタイトルの項で書いたことの続きですが……。
 中盤あたりで一度、竜也や雪ちゃんから『なにか自分にしてほしいことはないか?』とリクエストを促される場面、それと『女の子が貰って喜ぶものは?』と、こちらも遠まわしにリクエストを促されていることが覗える場面。
 恐らく、狙いとしてはこれらと最後の『リクエスト』を対比として、竜姫の『変化』とか『成長』を描くつもりでいたのだと思われますが、どちらの場面でも竜姫の反応が今ひとつ普通というか地味というか……『自分からは何も要求することが出来ない』という後に明かれる真実を踏まえて読み返しても、この場面においてはただ単に遠慮から断っているだけのように感じられてしまったことが、ちょっと残念だったかな、と。
 これらの場面ではもう少し露骨に『ちょっと普通じゃない反応』をしてみせたほうが、後に竜姫の事情が明かされた時に『ああ、あの時のなんか不自然な反応はこういうことだったのか!』と、読者としても納得し易いかな、と思いました。
 ちょっと即興で思いついたパターンですが、例えば『何かして欲しいことは?』と尋ねられた時に『……この人は何を言ってるんだろう?』と、『自分が相手に何かを要求する』ということ自体を想像出来ず、言われたことに疑問を感じてしまう、とか?
 何れにしても、『首を横に振るだけ』という普通(地味)な反応をしているためか、場面それ自体の印象がやや薄く、読者の記憶に引っかかる部分がありません。従って、対比としてあまり機能していないな、と。もう少し読者が気にするようトゲを刺しておけば、それを抜いた時によりスッキリとした印象を与えることができるんじゃないかと思いました。結果としてラストのタイトルを引用した一文がより一層際立つんじゃないかな、と。

 他、細かい点ですが
> 何故私は電柱の陰に隠れるのでしょう。何故彼はあの女性に抱きしめられているのでしょう。何故足はすくんで動かないのでしょう。何故彼は私に気付いてくれないのでしょう。
> 何故車は走り去ってしまうのでしょう。何故運転席の方は以前見たことのある彼のお母さんではないのでしょう。

 この中では『車は走り去ってしまうのでしょう』がちょっと余計かな、と。
 多分、竜姫の心理としては、竜也と謎の女性(仮)が抱き合っている様子にびっくりして、それが目に焼きついたままぐるぐると考えが巡っているんだと思います。
 小説やアニメなんかでは、絶望的状況に際して『一瞬が永遠にも感じられた』なんて表現を使ったり、動きがやたらとスローモーションになったりする演出がありますが、このシーンってまさにそんな感じだと思うんです。だから竜姫が思考している最中に、竜也たちの時間がしっかり流れていることが感じられる描写は避けたほうが、演出的に面白いんじゃないかなぁ、と。

 あとは
>次の日彼は学校に来ませんでした。今時珍しく携帯を持っていない私には連絡の取りようがありません。胸が苦しい
 この文章だと、竜姫が携帯をもっていないというだけで、竜也が携帯を持っているのか、持っていたとして竜姫が番号を知っているのかに関して言及されていないため、竜姫の家の電話から竜也の携帯に電話をかければいいだけなように思えます。
 多分、紅供さん自身は携帯電話を持っていて、知人の電話番号は全部その中に記録してあるため、それが無ければ誰の番号もわからずに電話がかけられない、という状況なのではないでしょうか? だから作品の中でも竜姫は携帯電話を持ってない→竜也の番号がわからない→連絡がとれない、という結論に直結してしまったのではないかなぁ、と。
 ですが、携帯電話を持っていないならば電話帳などに番号を記録すればいいことですので、竜姫が携帯電話を持っていない=連絡が取れないという図式が成り立つのは違和感が残ります。

 それと他の方も仰っていますが、地の文が敬語ではなくなるタイミングがちょっと唐突に感じられました。

【キャラクター】
 軽そうな性格の男子、面倒見のいい親友など、少女マンガなどにおいてはわりと『ありがち』なキャラクターが揃う中、個人的には主人公の竜姫を形容する『お人形』という言葉に二重の意味を持たせたのが秀逸だなぁ、と思いました。そのほかのキャラクターに関しても『ありがち』をしっかりと描けている点で、短編のキャラクターとして十分評価されるものと思います。

 気になった点として、竜姫の親友である雪ちゃんは、多分徹底して『面倒見のいい優しい子』であり『竜姫のよき理解者』として描かれている中、
>「だから泣かないで」
 この台詞にちょっと疑問を覚えました。
 後に雪ちゃんは『竜姫は感情が麻痺してしまった』と説明し、竜姫のモノローグにも
>私が覚えている中で二回目の涙は、
 とあり、いままで竜姫は『泣く』ことすら出来なくなっていたであろうことが覗えます。加えて↑の台詞の前には雪ちゃん自ら、『恋する気持ちとそれによりもたらされる感情を否定するな』という趣旨の発言をしていますね。
 ここまで考えると、この台詞は『人形』としての竜姫を知る友人という雪ちゃんの立場からも、前後の流れからも矛盾しているように感じられます。
 感情が欠落していた竜姫がやっと素直に『泣く』という行為を通して辛い感情を表に出すことが出来たのだから、それって親友としては喜ばしいことのように思えますし、ここは存分に泣いていい場面じゃないかなァー……という気がするのです。少なくとも雪ちゃんからこの台詞が飛び出すのは、ちょっとおかしいんじゃないか、と。

【ストーリー・構成】
 面白おかしい展開が無い、けどこういう物語は下手にストーリーを捻るより、描写の面で技術を高めた方がより効果的じゃないかな、と思います。従ってシンプルなストーリーはそれ以外の点を目立たせることにつながり、ベストチョイスだったのではないかな、と。

 視点移動に関してですが、私は『竜姫の一人称』→『雪ちゃんとお姉さんの場面』への移行に関しては、違和感というほどのものは感じません。
 が、そこから再び竜姫の一人称へと戻ってしまったのが……個人的には残念でした。最後のシーンはそのまま、病室から漏れ聞こえてくる竜姫と竜也の会話を、雪ちゃんとお姉さんが聞いているという演出のままでよかったようにも思えます。
 これは改善点ではなく要求となりますが、竜姫のモノローグ部分はそのまま雪ちゃんの心理に繋がりますし、いい方向へ変わった竜姫を物陰からこっそり見守る雪ちゃんの様子で〆ることで、竜姫を陰ながら見守ってきた雪ちゃんという『もう一つの物語』の存在がより強く感じられるんじゃないか、と。他の方が仰るように、今は『説明』としか受け取られない雪ちゃんとお姉さんの会話が、より自然に物語に溶け込むような気がします。


【総評】
 枚数やストーリーの長さに比べて、多くのものが詰まった物語だったと思います。表現にも色々と工夫が見られる箇所があり、お話としても文章としても楽しめる作品でした。


wさんの意見
 こんにちは。
 感想キャンペーン中、ということで、読んでみました。
 といっても自分が辛くなるような無理はしたくないので、駄作だった場合は最後まで読まずにブラウザバックしますし、感想も、書きたくなるような作品にだけ書きます。

 本作についてですが。
 途中でブラウザバックすることなく最後まで読みました。面白かったです。なかなか良い作品に当たってラッキーでした。
 文章について。
 まず、冒頭の一行目が良かったです。「私の好きな人は嘘つきです。」好きな人ってどんな人なのだろうか。そして、どんな嘘をつくのか。気になります。読者を引きつけるのに成功しています。
 ただ二行目はなんかイマイチでした。学科を専攻?専攻って、大学とかで専門分野のことを言うのではないですかね。しかも学科といいますでしょうか。ここは「同じ選択授業を取っていた」という感じではないのでしょうか。それとも今は高校の授業でも学科とか専攻とかいうのでしょうか。
 その後の文章もややイマイチ。かっこ書きで説明というか心中ツッコミを入れるのは、なんというか、テンポが悪く読みにくかったです。それと同時に、天然だとかドジッ子とかいうのは、「周りの評判」という形をとっているとはいえ、このように安直に説明として読者に示すのではなく、本文中の描写で示す方が良いのではないかと。
 これ以降の文章の中では、主人公の天然ぶりとかドジぶりなどがきちんと描かれていただけに、この部分はやや蛇足と感じました。
 それ以降は、文章についてはほとんどひっかかる部分はありませんでした。というか、この辺でですます調の文章に慣れて作品世界に入り込めて行ったからだと思います。

 キャラに関しては、主人公と彼も普通に良かったですが、雪ちゃんが上手く機能していたと思います。この手の脇役キャラを上手く書ければ、作品としての質がワンランク上がるように思います。雪ちゃんが脇役としていい味を出しているので、主役二人も引き立ちます。
 「彼の家の前に止まっている車の中で、運転席にいる若い女性の方が助手席の彼を抱きしめているところを。」この文章を読んで一秒も経たずに「姉だな」と思いました。さすがにひねりが無さ過ぎるというか……ただ、シンプルな恋愛短編である本作においては、「実は姉でした」くらいで丁度良いのかもしれません。なお、私は、かなり先が読めてしまう読者であることを付け加えておきます。

 後半の展開は……彼に持病というのはさすがに読めませんでした。意外性はありましたが、伏線がしょっちゅう休むことだけでは、なんとも、という感じです。
 また、主人公は母親がいなくて……という後着け設定説明部分も、さすがにイマイチと感じました。いや、だからどう直せと言われても、ちょっと改善案が思いつかなくて申し訳ないのですが。

 最後の締めの部分は良かったと思います。「「あ〜あ。私も彼氏欲しいなー」」から、冒頭部分で示されていた人形から脱するという形で主人公の成長。そしてタイトルに示されていた初めてのリクエストへ至る。良い読後感を演出していたと思います。

 かんたんですが、感想はこんなところでしょうか。
 どうやら三題噺のようですが、それも時間制限のある中で、これだけの話が書ければ充分良い結果のようにも感じます。結構めんどくさそうなお題三つなので。


殿智さんの意見

 紅供様、はじめまして。殿智と申します。
 作品拝読しましたので感想を残したいと思います。

 とにかくすっきりまとまった印象で心地よい読後感でした。
 減点となるような引っ掛かりがなくスラスラ読める、
 それでいてここぞというところで響くフレーズがある。
 短編の手本としたいような作品でした。

 一番印象的だったのは、

>痛い。痛いよ。

 という部分。それまでのデスマス調から一転、感情が表れる部分ですね。
 実に巧い演出になっていると思います。
 作品を通じて最後の「」によるセリフも含めて、演出の良さが光っていました。

 ではなぜ30点にとどめたかといえば、やはり展開の早さからです。
 前述の感情が表れるまでの部分にもっとタメがあればさらに効果的だったように思います。

 三題噺として書かれたとのことですが、
 私個人としてはこの場では作品のみを批評の対象とするようにしているので、
 題材消化による加点はしないつもりです。
 ですので逆に時間制限なしでこの作品を書いていたら、という期待が生まれてしまいました。
 日課のひとつで終わらせるにはもったいない作品であるように感じます。
 
 それと視点移動に関しては、私はそれほど違和感を覚えなかったのでアリだと思います。
 この点も文量を増やすなどしてクッションを敷けばさらによくなるのではないでしょうか?

 以上、個人的な意見をツラツラと書かせていただきました。
 未熟者の意見ですので取捨選択なさってください。
 それでは、乱文にて失礼しました。


珠翠さんの意見

 はじめまして、珠翠と申します。拝読しましたので感想をば。
 自分は我が儘な読み手なので、こういう意見もあるんだなくらいでお受け取り下さい。

 【文章】
 書き慣れているような感じなのに、なんだか荒いなぁと思いました。心理描写ばかりで、キャラクターの外見描写が少ないなと。
 自分は外見描写大好き人間なのでそう感じるのかなとも思ったのですが、このお話はお人形が女の子になるというのがテーマだと思うので、主人公の変化が友人の説明以外で欲しかったです。(主人公の語りの変化がありましたが、読みの浅い自分には唐突な印象で、推敲ミスかなと思いました)
 ベタですが、竜也と話しているときに、鏡が目に入って、あんなに嬉しそうな顔をしているのは誰だろうと戸惑わせてみたり。友人から、最近、いい顔していると聞かされたり。最初の主人公の性格説明のとき、人形の一言ですまさないで、笑えない、泣けないということを強調するのも良いかもしれません。
 一人称だと主人公の表情の変化を書くのは、難しいと思いますが、なんらかの工夫がほしいと思いました。
 あとは、一人称か三人称どちらかに統一したほうが良いと思いました。個人的には、内面描写を濃くした三人称が適当かと思いました。

【ストーリー】
 よくまとまっていて、楽しく読めました。ストーリーを作るのが苦手なのでとても羨ましいです。

【キャラクター】
 主人公が素直で可愛かったです。友人も好き。でも、竜也くんはうすいかなと思いました。
 お姉さんと友人の会話で、二人がどんな性格か書かれているのですが、複線が薄くて、竜也くんの性格は説明されている感じを受けました。

【総評】
 ストーリーの中に、はっきりとしたテーマを盛り込めるのはすごいと思いました。かなりの数の物語を書いてきているように感じました。
 文章の荒さは、制限時間つきということを聞き、納得です。個人的にはじっくりと推敲したものを読んでみたいと思いました。
 三題お題、制限時間つきというのは考慮にいれずに、点数を残させていただきます。
 ストーリー、テーマ→20点
 構成、文章→−10点
 合計10点です。


安倍辰麿さんの意見

 久々に「面白い」と口に出せた作品でした。
 はじめまして。安倍辰麿と申します。

 まず、全体の流れ。
 今巷に溢れている「恋人が病気」という設定を陳腐に感じさせない手腕は見事だと思います。
 他の方が苦言を呈している「人物像の描写不足」ですが、さほど気にするほどではないと思いました。
 むしろ、心理描写の巧みさが光り、竜姫の行動などが自由に想像できる点は十全でしょう。
 また、敢えて竜姫の台詞をほぼ最後まで地の文で書き綴った手法は感嘆の声が漏れます。
 コレが最後の一文に掛かってくるんですね。
 コレを読んで、自身も見習うべきことが多いものが多くて……!

 ただ、恋人のエピソード、もう少し絡めて深みを持たせたほうが良かったかもしれません。

 再度申しますが、久々に文句を付けたくても付けづらい作品だと思います。
 これからも自信を持って描き進んでくださいませ!
 満足の30点です。


くるりさんの意見

 はじめまして、くるりと申します。

 久しぶりにこの投稿室にやって参りました。僕自身の作品が行き詰まってしまい、どうしようもなくなったための息抜きです。
 ――が、そこでこんな作品に出会うとは。
 僕は主人公の心理描写で悩んでいたのですが、お手本のようにいい作品でした。
 主人公の気持ちがストレートに伝わる、小細工のないストーリーがとても魅力的です。珍しさはないですが、そこが気にならないくらい文章の流れや表現が素敵で……見習いたい部分がたくさんあります。

 主人公・竜姫ちゃんがかわいらしいですね。終盤に向かっての、恋への戸惑いと切なさもきちんと伝わってきます。
 あえて言うならば、キャラクター個々のインパクトがもう少しほしいところでしょうか。
 もちろんこのままでも充分に好感の持てるキャラたちですが、短編だからもたせられた部分もあります。これがもしも長編ならば、物足りなさを感じてしまうかもしれません。
 特に竜也くんは、エピソードなりセリフなり、もっと竜姫ちゃんを惚れさせる要因みたいなものをアピールしてほしいところです。

 丁寧な表現が目立ち、非常に読みやすい作品でした。
 僕も頑張らねば、と勝手にやる気を取り戻してます。
 今後の捜索活動もぜひ頑張ってください。
 それでは、短いですが失礼します。


いちおさんの意見

 初めまして。
 拝読させて頂いたので、拙いながら感想など。取捨選択をお願いします。

●良いと思ったところ
・まず、本作を読み始めたのは、素直にタイトルに惹かれました。
 何となく爽やかな印象、可愛らしい気もする、でもどんな内容なんだろう? と好印象です。

・地の文が丁寧語なのは個人的に苦手なのですが、本作に関しては読みやすく感じました。
 主人公にも興味が湧いたし、「どうやら普通ではなさそうな、箱入り娘的雰囲気の主人公」に「ナンパの男の子」がどう関与していくのかなあと言うところにも興味をそそられました。
 つまり、まんまと頭から引き込まれましたw
 主人公の心情が、本人が気がついていないところも含めて上手く描かれていると思います。

・起承転結が綺麗に纏まっていると感じました。羨ましいほど纏まってますねー。良作だと思います。
 彼の浮気疑惑にはどきどきw
 きぃっ……こんな純粋な子を泣かせたらあかん! と思ったら。
 良かったw
 ただ、気になったところもないではないので、それは下に書きます。

●気になったところ
・もう少し読点があると良いなあと言う感想です。
 欲しいところにないように思ったところが結構多かったので、読みながらちょいちょい息が苦しいような気分になりました。
 文章そのものにはさしたる違和感を覚えなかったので、少々残念です。
 あと、稀にですが、言葉選びが雑に思える部分がありました。
 それが端々で積み重なってしまうと、「全体を通してもう少し丁寧に描けるのでは」という印象になってしまうので、勿体無いかなあ、と。

 「それでも間違いじゃないけど、違う言葉の方が寄り良かったかも」と言う程度で、恐らく個人的好みの問題だとは思うのですが。
 例えば、以下のような部分です。

>お値段が低くて美味しい料理を出してくれるお店。
 「安くて」の方がすんなり受け入れられるかなあ……。

>漠然な答えしか
 漠然とした答え、かな? ここはちょっとおかしいから、誤字でしょうか。

>そうすると寂しそうな表情を一瞬だけ見せて、それが何でか判らなくて。
 何だか他の文章の中で少し浮いて見えました。同じように述語で終わって欲しいような。
 
・雪ちゃんの携帯が鳴った時、少し残念な印象を受けてしまいました、すみません。
 現在の展開で綺麗に起承転結が纏まっている以上、問題ではないと思うのですが、うーん……「ああ、病気か事故か」と思ってしまったことは否めません。
 読み手にもう少し早めに予感させてもらえると、安易な印象が緩和されるように思います。
 ……が、主人公の一人称で心理描写に重きを置いた書き方をされてるので……ちょっと無茶な要求ですかね?;;

・終わり方は、「リクエストのシーン」と「雪ちゃんとお姉さんのシーン」を逆転でも良かったのかも。
 恐らく「リクエスト」の印象を強くする為に最後に持って来たかったのだと思いますが……間に一度三人称が入って、再び一人称に戻ると言うのが、スマートさを損なわせてしまうように思います。
 

●以下、スルー推奨のただの戯言です。

>ありません。即答しました。
 ぷ……w
 早くも、小さく吹き出しました。

>どうしたのでしょう、最近になって気付いたのですが、彼と一緒にいる時間、私の鼓動が急に早くなることが多々あることに気付きました。
 いやん、可愛い。

>竜也の姉の香虎です。
 よ、読めn(ry
 いや、しかし何だか高潔で勇ましいお姉さまを思い描いてしまう名前。

>竜也ったら家でずうっとあなたのことばかり話すのよ
 むん? 海外出張中と言われた直後だけに、一瞬の違和感が。
 でも後で帰ってきたとわかることだし、ここは仕方がないんだろうか……。


 読後感が爽やかで、全体を通して好印象の良作でした。
 優しい気持ちになるようなお話だと感じました。
 読ませて頂いてありがとうございました^^
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