高得点作品掲載所     祐茂さん 著作  | トップへ戻る | 


幼馴染のさきにあるものは

「やっぱりさ、距離感って大事じゃない?」
「え? どうしたのさ、突然」
 この幼馴染の唐突な言動は日常茶飯事とすら言えるものだったが、今回はまた一段と凄い話の方向転換だ。
 何せ、たった今までカレーライスとハヤシライスの違いについて熱い議論を交わしていたのだ。ハヤシライスは香辛料を使わないんだよ、というぼくの理論的な主張に対し、辛ければカレーで甘ければハヤシライスだ、という味覚的な根拠――とすら言えないような子どもじみた駄々を彼女はこね回していたのである。
 そこからどうやって距離感などという話に結び付くのだろうか。あれか、カレーとハヤシライスって似てるから距離もなんとなく近そうだよね、とか、そういう発想なのか。うん、意味不明だ。
「だからさー、距離感よ、距離感」
 ぼくの内心なんて気にもかけず、話を続ける彼女。座布団に腰を下ろしながら無意味に胸を張っている。
 しかし、同じ言葉を繰り返されても何の話かわかるはずもない。とは言え、彼女の話が要領を得ないのも今に始まったことではないので、ぼくはいつも通りに『解読』を試みる。
「距離感って言うと、人との付き合い方とか、そういう話?」
「そうそう、それそれ!」
 偉そうにふんぞり返っていた身体が急に前のめりになって、対面の座布団に座るぼくに急接近してきた。反射的に、シーソーのようにぼくの体は仰け反ってしまう。
 適当に思い付いたことを言ってみたのだが、珍しく一発で言い当てることができたらしい。が、なぜ彼女がその思考に至ったのかは依然として謎のままだ。
 まあ、発想の起源なんて別にどうでもいいか。気にしてたら日が暮れちゃうし。
「なんでそう思ったかってゆうとねー」
 お、珍しくも彼女の方から起源を話してくれるらしいね。これは静聴せねば。
 彼女は座布団に座り直し、また無意味に人差し指を立てながら、さも世紀の大発見をしたかのように宣う。
「昨日さー、雨降ったでしょ」
 ああ、降ったね。しかも、天気予報では降水確率十パーセントってなってたから、ほとんどの人が傘持ってなくて、学校内で立ち往生してたね。結局、夕方になっても降り止まなかったから、濡れて帰った人が多いだろうけど。ちなみにぼくもその内の一人だったりする。今のところ風邪の症状は出ていないので、不幸中の幸いと言っていいのだろう。
「でさ、当然私も傘持ってないでしょ?」
 いや、訊かれても。へえ、そうだったんだ、としか言えないし。その無意味に語尾を上げる癖は直した方がいいと、ぼくは思う。
 ただ、朝、学校へ行くときに手に持っていなかったのは目撃していたが。彼女とぼくは通っている高校は違うが、朝は同じ時間に家を出て、同じ電車に乗り、違う駅に降りるのが日課と化している。
「そんなときに救世主様が現れたの!」
「はあ?」
 しまった。静聴するつもりが、思わず声を出してしまった。
 だって、仕方がないだろう。なぜ、傘を持っていないという話から『救世主様』などという言葉が生まれ出ずるのか、ぼくには理解不能だったのだ。彼女の発想が理解不能なんていつものことだけど。
「王子様って言い変えてもいいわ!」
 興奮して捲し立てる彼女。
 いや、あまり変わってないと思うよ? どっちにしろ意味不明だし。
 でもまあ、状況から推察するに、
「傘を貸してくれた人がいたってことだね?」
 これしかないだろう。と、半ば以上確信していたのだが、どうやら少しだけ違ったらしい。
 彼女はぼくの顔前で「ちっちっち」と言いながら指を振り、こう訂正を加えた。
「貸してくれたんじゃなくて、入れてくれたの」
 入れてくれた。
 傘に。
 つまり、所謂、相合傘。
 彼女はその相手を王子様とも言っていた。
 つまり、相合傘をしたのは、男。
「ふうん? それで?」
 まだ、『距離感』という言葉の起源までは分からない。
 それを知りたいがために今は彼女の話を聞いてるんだ。
  だから・・・、それを知るためにぼくは話を促した。
「その相手はねー、なんと! 今をときめくス~パ~スタ~、サッカー部のエースの人だよ! 超絶イケメンなんだよ! 女子のあこがれの的な存在ですよ!?」
 別に相手が誰かなんて訊いてない。そいつがイケメンでモテモテだなんてどうでもいい情報だ。
  だから・・・、その言葉にツッコむ気にもなれない。
 ただひたすらに話の続きを促したい気分だった。
「それで?」
「んん? なんか怒ってる?」
「そう? たぶんいつも通りだと思うけど」
「そう? まあいいけどね」
 彼女は自分の前髪を指でいじりながら、話を再開する。
「それでねー、今日のことなんだけどねー」
「いや、待って」
「ん、何?」
 なんでいきなり今日に飛ぶの!? その男とはその後どうなったのさ!
「…………いや、なんでもない。続けて」
 別に、わざわざそんなことを聞く必要もないだろう。知ったところでどうなるわけでもないしね。
「ふうん?」
 また彼女は前髪を弄びながら、続けた。
「でねー、今日学校に行ったでしょ?」
 だから、訊かれても。無意味に語尾を上げないで。平日なんだから学校に行くのは当たり前だし。
「で、靴箱開けるでしょ。そしたら、ななな、なんと! そこには!」
 そんな無意味なタメは要らない。さっさと話してほしい。
「ラブレターが入っていたのでしたー!」
 …………。
 そりゃまた、古風なことで。
「それで、誰からの?」
 淡々としたぼくの応答に、彼女はぷくっ、と頬を膨らませる。
「も~、反応薄いなあ。そこは『♯×▼@*=$%&!?』とか狂った反応すべきだよ」
 いや、そんな人外言語、ぼくには扱えないよ。というか、本当にどうやって発音したの? 聞き取ることすらできなかったんだけど……。
 そんな訊いても無意味そうな疑問はさて置き、彼女の話を促すことにする。
「誰から、って言うか、話の流れからすると……」
「そう! 昨日傘に入れてもらったサッカー部のエースの人だったの!」
 満面の笑みで頷く彼女。どうしてそんなに嬉しそうなんだろう。
「……そりゃ他の女子に妬まれそうな話だね。気を付けた方がいいんじゃない?」
 どこかずれたことを言うぼく。本当に何を言ってるんだろう?
「んー? 大丈夫じゃないかなあ? ラブレター受け取ったことは誰にもバレてないしね」
 気楽に言うが、実際に付き合ったとしたら周囲に露見するのは時間の問題で……。
 ……………………。
 付き、合うのだろうか?
「…………」
「…………」
 なぜか、沈黙がその場に横たわった。
 口を動かさなければ死んでしまうかのように喋り続ける彼女が黙っているのは、非常に希少価値が高い。
 しかも、前髪をいじくりまわしながら、心なしか深刻そうな表情までしている。
 はっきり言って、あり得ない。常時子どものように表情をころころと変える彼女が、そんな顔をするなんて、空から槍と札束とギャルのパンティーが同時に降ってくるくらいにあり得ない。
 変なものでも大量に食べたのだろうか。それとも何か心境の変化でも……。
 心境の変化? うん、それでしょ。考えるまでもないじゃん?
 心の中で無意味に語尾を上げるぼく。
 ラブレターを受け取ったということは、つまり、そういうことなんだろう。
「あー、なるほど……」
 なるほどなるほど。ようやく話の全貌が見えてきた。発想の起源は不明のままだけど、言いたいこと自体は分かった。
 つまり――
「つまり、幼馴染であるぼくと距離を置きたいって、そういう話?」
 それしか、ないだろう。
 彼女の心境の変化が起き得る原因なんて。より正確には、彼女がぼくに対して今までにない反応を返すことになった原因は。

 きっと、彼氏ができたからだ。

 幼馴染であるぼくが邪魔……とまではいかないだろう(そうであってほしい)が、今までのように、たった今までしていたように、どうでもいい話題に話を咲かせるようなことはもうないのかもしれない。
 幼馴染。恋人でもない、家族でもない、姉弟でもない、親友でもない、友達でもない、幼馴染としか言えない関係。
 まどろみの中にいるような、曖昧で居心地の良い空間。
 朝、一緒に家を出て。学校は違うけど、途中まで同じ電車に乗って。帰ってきたら、その日の出来事とか教師への愚痴なんかをぼくの部屋でゲームしながら語り合って。夕食は同じ食卓について食べ、また雑談する。
 それも、今日までということなのだろうか。明日からは一人の友達として、普通に遊び、普通に話し、恋愛相談し、それぞれ別の恋人と過ごすのだろうか。
 いや。
 そんなこと、わかりきっていたはず。人間関係が絶対不変だと信じるほど、残念なことにぼくは子どもではなかった。
 それでも幼馴染でいたいと思ったのは、他ならぬぼくだ。
 ずっと一緒にいるには、それが一番 都合がいい・・・・・と思ったのは、ぼくだ。
 ――彼女の意志を確かめもせずに。勝手に彼女も同じなんだと思い込んで。

「んっふっふー」

 と、ぼくを思考の海から引き揚げるように、唐突に彼女のくぐもった笑い声が耳に届いた。
 いつの間にか俯いていたぼくは、顔を上げて彼女の顔を見詰める。
 ……というか、なに、その気持ち悪い笑い方。
 口元だけ歪めるという奇妙な表情を彼女はしていたが、不気味というより滑稽だという印象を与えられるのは、彼女の性格によるものだろうか。
「なに、どうしたの?」
「いやー、嫉妬に満ちた男の表情はおもしろいなー、と」
 ――…………。
「たぶん無表情だったと思うんだけど?」
「うん、無表情だったね。だからだよ」
 彼女が何が言いたいのか、よくわからない。
「それがわかるのは私くらいだろうけど。幼馴染特権ってやつ?」
 訊かれても、そんなの知らないし。
「ま、それはともかく」
 と、彼女が唐突にスカートのポケットの中に手を差し入れ、何か紙片のようなものを取り出した。適当に突っ込んでいたのか、ぐしゃぐしゃになっている。なにかにつけて大雑把な彼女らしい、ぞんざいな扱いである。
「なにそれ?」
 反射的にぼくがそう訊くと、端的に、なんでもないことのように彼女は答える。
「ラブレター」
 あれ、らぶれたあってなんだっけ? と脳が一瞬だけ混乱をきたす。どうやら、目の前に差し出された『紙くず』が恋文だという認識を、脳みその中枢辺りが拒否したらしい。
 それも致し方がないことだろう。どこの世に、自分に宛てられた大事な手紙をそんなにぞんざいに扱う者がいるだろうか。ましてや、その中身には、自分に対する想いが詰まっているはずなのだ。
「……一応訊くけど、誰から誰に宛てたラブレターなの、それ?」
「もちろんあたし宛てに、…………ええっと……」
 と、顎に手を当て、眉を寄せてなにやら考え始める彼女。
 あれ? なんで悩むの? そんなに言い難いことなの? さっきから話題に上がってる、サッカー部の人じゃないの? 不思議に思うぼくを余所に、彼女は考え続ける。
 やがて結論が出たのか、ぽん、と握り拳で手の平を叩き、こう言った。
「エースの人から」
 考えて出した結論がそれ!? 名前くらい覚えててあげなよ! と思わずその『エースの人』に同情してしまった。
「で、読んで」
「はい? ……このラブレターを?」
 こくり、と笑顔で頷く彼女。
 全く以て、彼女は唐突だ。なぜ人のラブレターを読まなければならないのだろう。というか、人に見せるようなものなのか、ラブレターって。女子高生の間ではそういう回し読みが流行っているのだろうか。だとしたら、そうと知らずに出す男が憐れ過ぎるが。
「いーから、読んで」
 こんなもの、ぼくが読む気になれるはずがない。
 しかし、強引な彼女は、強制的に 手紙かみくずをぼくの手に握らせた。そして目で、絶対に読めよ、と思念を飛ばしてきた。
 こうなっては彼女は一歩も引かない。ぼくはしかたなく、丸まったそれを丁寧に伸ばしながら、破らないように慎重に開く。
「几帳面だねえ」
 大雑把よりは遥かにいいとぼくは思うのだが、どうだろうか。それに人の手紙を破いちゃダメだろう。内容が何であれ。
 ともかく、なぜか面白そうな表情をしている彼女に見守られながら、ぼくは手紙を読み始めた。
 そこには、綺麗とは言い難いが丁寧に心を込めて書いたであろうことが窺える字で、こう書いてあった。

『突然のお手紙、ごめんなさい。
 あまりこういうことを書く事には慣れていないので、単刀直入に書きます。
 僕は、あなたのことがずっと好きでした。でもサッカーに集中したかったので、その気持ちを抑えていたのです。でも、昨日一緒に帰ったとき、あんなことがあって・・・それで、その気持ちが一層強くなってしまい、もう抑えきれそうにないと思ったんです。だから、こうしてあなたに気持ちを伝えることにしました。
 僕と付き合ってください。
 もしお返事をもらえるなら、今日、午後六時に校舎裏で待っててください。
 P.S.よければ、練習も見に来てください。』

 技巧もへったくれもないような短く下手くそな文章だったが、だからこそ、本気なんだろうな、ということが読み手に伝わってくる。下手に言葉を並べ立てるよりはよっぽど効果的だろう。
 そんな文面を見る限り、『エースの人』は誠実そうな人柄のように思える。
 イケメンで、運動ができ、性格も良さそう。うん、何の文句も付けられないね。
 良かったじゃないか、いい人を見つけられて、と彼女に言おうとしたそのとき、
 …………あれ?
 ふと、手紙の内容に奇妙なことを発見した。してしまった。
「……六時に、校舎裏で?」
 何度も見直すが、その手紙に書かれているその言葉に間違いはない。
 次いで、壁の掛け時計を見る。八時過ぎだ。既に夕食であるハヤシライスを食べ終えているので、妥当な時間だろう。
 そして、六時ごろに自分は何をしていたかを考える。
 確か、この部屋、つまりはぼくの自室で、ゲームをしていたはずだ。
 ――――目の前にいる彼女と共に。
「……ねえ?」
「んー? なにかな?」
 悪戯が成功したクソガキみたいな笑顔で、彼女は訊き返す。
「や、何かな、じゃなくて」
 えーと、つまり、
「すっぽかしたの?」
 訊ねると、
「うん」
 あっけらかんとして彼女は頷いた。
 いやいやいや。待とうよ。うん、待って。ちょっと色々と処理しきれないから、待って。
 心中で無意味な言葉を無意味に並べ立て、無意味に何かを制止しようとしてしまうほど、ぼくの頭は混乱しているらしい。
 ……とりあえず、状況整理しよう。
 まず、昨日、彼女はエースの人の傘に入れてもらった。
 そして今日、その人からラブレターを貰った。
 しかし、彼女はそれをあろうことかぐしゃぐしゃに丸めてポケットに放り込み、約束までもすっぽかした。
 …………ってことは?

「え、なに。そのエースの人をフったってこと?」
「いえす」

 満足気に微笑んで、彼女は肯定する。
 うん、まあ、なんていうか……色々とツッコみたいことはあるけど、とりあえず。
「どうして?」
「フった理由? だって、別に好きじゃないし」
 平然と言ってのける彼女。何を当たり前なことを、と言いたげな目でこちらを見てくる。
 そりゃそうだ。好きじゃないから付き合わない。至極当たり前だ。でもぼくが聞きたいのはそこではなく。
「イケメンで、スポーツ万能……かどうかは知らないけど、少なくともサッカーではエースと呼ばれるほど上手くて、手紙から判断する限りじゃ性格も悪くないように思える。女の子にもモテてるくらいだし。……フる要素がぼくには見当たらないんだけど」
 それとも、実際に話してみたら、ものすごく嫌な奴だったりするのだろうか。
「でも、付き合う要素もないでしょ?」
「……そう?」
 イケメンだとかスポーツマンだとか、いくらでも付き合う要素はある気がする。
「ってゆうかね、昨日傘に入れてもらったときだけどさー?」
 え、ここでその話に戻るんだ? 本当に自由な人だね。
「距離感がね、おかしかったの」
 あ、ここで距離感の話も出てくるんだ。本当に順番が意味分かんないよ。
 しかし、彼女の説明が支離滅裂なのは今に始まったことではないし、それをぼくが上手く軌道修正してやるのが、いつものパターンのはずだった。今日に限ってそれをせずに彼女が話すままにさせたのは、まあ、ぼくが色々と余裕がなかったからだろう。余裕がなくなった理由は……なんでだろうね。
「たとえば、誰か見知らぬ人……はそもそも入れないか。ええっと、ちょっとだけ親しい、かつ可愛い女の子を傘に入れてあげるとき、どうする? どんな風に傘を持つ?」
「どんな風にって……」
 いまいち何を聞きたいのかが分からないけど、とりあえずその場面を想像してみる。

 水滴を大地に叩きつける黒雲を、玄関で見上げている可愛い女の子。特に親しいと言えるほどではないが、世間話程度はする仲の子だ。どうやら、その子は傘を持っていないらしい。
 そしてぼくが手に持つは、一本の大きめの傘。これはもう、神のお告げだろう。 幸い・・、その子とぼくは家が近いし。
 お告げに従い、その子に声をかける。傘に入れてあげようかと言うと、最初は遠慮されたが、じゃあ貸してあげる、と申し出ると、それは悪いと言われる。押し問答の末、結局は一緒に帰ることを申し訳なさそうにしながらも承諾してくれた。その眉を下げた表情が、また可愛いんだよね。
 そして傘を差し、歩き始めるぼくたち。しかし、その傘は大きめとはいえ、二人が入るには些か小さいので、できるだけその子が濡れないようにそっちの方へと傾ける。ぼくの肩が少し濡れてしまうけど、女の子が濡れるよりはましだろう。限界まで肩を寄せ合えばぎりぎり濡れないかもしれないが、そんなに身体をくっつけ合えるほど、まだ親しくはない。
 そんなことを考えていると、ぼくの肩が雨に濡れていることに気付いた女の子が、もっと近づいていいよ、と言ってきた。今度はぼくが遠慮する番だったが、女の子の方からぼくに身を寄せてくる。
 肩が触れ合う感触。
 そして、思わず顔を見合わせ、なんとなく見つめ合い。どちらからともなく顔を近づけ――――

 ごすっ

「ひゃげっ!?」
 口から変な声が飛び出した。そりゃあ、考え事に集中しているところにいきなり脳天に衝撃が走れば、誰でも奇声を上げるだろう。……上げるよね?
 頭頂部を押さえながら顔を元の位置に戻すと、そこにはなぜかそっぽを向いている彼女の姿があった。
「なんで殴るのさ」
「や、なんかムカついたから」
 ホントに自由だね。そんなわけの分かんない理由で殴られたくはないんだけど。
「ってゆうか顔、にやけてたんだけどー。変な想像してなかったかなー、と」
 …………。
 確かに、余計なことまで妄想していた感は否めない。そして、なにかで読んだシチュエーションそっくりな想像をしていたことも内緒だ。
 でも、一言だけ言わせてもらうと――ギャルゲーは日本の文化だよね、うん。
「それに、また見慣れないパッケージが増えてるよね」
 と、ゲームソフト(コンシューマー機用、PC用問わず)が並べられている棚を指して彼女が言う。どうしてそう、彼女は鋭いのだろう。女の勘というやつなのか、幼馴染の年季からか。
 でも、一言だけ言わせてもらうと――趣味は人それぞれだよね、うん。
「で?」
 ぶすっ、とした顔で彼女が一音だけ発する。ぼくの答えを促しているのだ。
 ……で、何の話だっけ? ああ、そうそう。どんな風に傘を差すのか、だった。確か、ぼくの想像(妄想)によると、
「女の子が濡れないように、そっち側に傾ける」
「ん」
 まだ機嫌が直らないのか、非常に素っ気ない返事だ。
「じゃあさ、あまり親しくない女の子じゃなくて、あたしが相手だったらどうするの?」
「二人とも濡れないように、できるだけくっつく」
 って、あれ? 想像すらすることなく即答しちゃった。でも、それは真実だ。というか、今までにも何度かそういうことがあったしね。
 だって、彼女、ぼくだけが濡れてると不公平だとか、わけのわからないこと言って怒るからねえ。
 ぼくの答えは満足のいくものだったのか、彼女はご機嫌を取り戻したようだ。
「だよねー。うん、それがあたしたちの距離なんだよ。距離ってゆうか、領域とか境界線とかゆってもいいかも?」
 ……ようやく、彼女の言わんとしていることの輪郭が見えてきた。
「じゃあ、エースの人との距離は?」
 より明瞭に見るために質問すると、彼女は眉を顰める。
「エース君はねー、それはそれは男らしかったよ」
 嫌そうな表情と矛盾したことを彼女は言った。
 どうでもいいけど、『エース君』って。その人の本名みたいに言わないであげなよ。手紙には本名が書かれてあったんだし。まあ、ぼくももう覚えてないから人のことは言えないけど。
「具体的にどう男らしかったの?」
「あたしが学校の玄関先で雨降ってる空見上げてたらねー? 声かけて来てさー」
 うん。
「それが、まあ、エース君だったわけだけど? あ、ちなみに、エース君とは去年クラスメイトで、まあ、普通に世間話する程度の仲だったんだけど」
 うん。
「一緒に傘入らないか、って。あたしが断ったら、じゃあ貸す、って言われて」
 うん?
「でまあ、それは悪いから、とか色々ともめてる内に、結局傘に入れてもらって一緒に帰ることになってさー」
 …………。
「でも、傘そんなに大きくなかったから、自分の肩が濡れるにも関わらず、あたしを濡らさないように必死になってたのよね、エース君。そこがまあ、男らしいっちゃあ男らしいところ」
 エース君。キミ、どこぞのギャルゲーから抜け出してきたの? まさにぼくの妄想通りのシチュエーションと行動じゃないか。まさか、リアルギャルゲー主人公が実在していたなんて。
 あれ? ってことは、この後……。
「で、あたしが、もっと傘をエース君側に寄せるか、あたしに近付いてもいいよって言ったの。まあ、不自然なくらいに近づくのを遠慮してたからねー?」
 この後、女の子の方から近づいて……。
「それでもエース君、遠慮したから、あたしの方から近づいてって」
 肩が触れ合って、そして見詰め合って……。
「で、まあ、肩が触れ合って……なんとなく顔を見合わせて」
 そして…………。
「そしたら、思わず殴ってたの。エース君を」
 そう、殴られ――――って、ええええぇぇぇ!?
 まさか、ギャルゲー内の展開ではなく、現実のぼくと同じく殴られるとは思わなかったよ! なんというフェイント! 同情を超えて共感しちゃうよエース君! ……じゃなくて!
「なんで殴ったの!?」
 いくら突拍子の無い言動が信条の彼女でも、無意味に人を殴ったりするようなことはしない。そんな人がいたら、それは単なる犯罪者だろう。
 問い詰めると、彼女は前髪をいじりながら言い訳するように呟く。
「だってさ、あんた相手にするのと同じ感覚で近づいたらさー? なんか……違ったのよ。距離感が?」
 訊かれても。
「その違和感を感じた瞬間、なんか嫌な気分になって。それで気づいたら手が出ちゃって、わけわかんなくなって、謝りながら逃げちゃった」
 逃げちゃった、じゃないよ……。
 でも言われてみれば、昨日は彼女の様子がほんの少し変だったかもしれない。彼女はいつも変だからわかりにくいけど。
 っていうか、エース君。理不尽にも殴られたのに、その次の日に告白するとか、キミ、勇者か何かですか? ……いや、待てよ。確か手紙には、『昨日一緒に帰ったとき、あんなことがあって……それで、その気持ちが一層強くなって』とか書いてあったね。あんなこと、ってのはたぶん、殴られたことで。それで彼女を想う気持ちが強くなって。とすると、つまり、彼は…………。
 一言だけ言わせてもらうと――趣味は人それぞれだよね、うん!
 これ以上掘り下げたら色々とまずいことになる気がするので、エース君自身の話は置いておこう。
「要するに、エース君とぼくでは、適正な距離が違っていることに気がついた、と」
「ってことかなあ?」
 ってことだと思うよ。というか、相手によって居心地の良い距離が違うのは当たり前じゃないの?
 これは何も、物理的な距離だけを言うんじゃない。精神的、人間関係的なことでもそうだ。
 他人の領域にどこまで踏み込むか、踏み込ませるか。自分と他人の共有している領域の、どこに境界線を引くか。どこまでの侵入や線引きを許すのか。
 誰もが半ば無意識に行っていることだ。
 彼女は、それを今まで知らなかったんだろう。もしくは、今まで気にしなかったか。
 本当に、子どもみたいな人だ。
 そんなぼくの思考を余所に、彼女は首を傾げながら話を続ける。
「うーん、まあ、とにかくね。あたしは、あんたとの距離が一番いいの。気に入ってるの」
 …………。この言葉、どう解釈すべきなんだろう。
「だから、距離感は大事って話。以上!」
 首をひねるぼくに、彼女は話はお終いとばかりに手の平を打ち合わせた。
 え、あれ、ここで結論出しちゃうんだ? 話は終わり? 色々中途半端だし、疑問も多々残ってるんだけど……。
「ちょっと、訊いてもいい?」
「ん? 何だね、少年?」
 なんでそんなに偉そうなの、って訊きたくなったけど、きりがなくなるのでやめておいた。
「えーと、まず、本当にエース君との約束すっぽかしたの?」
 だとしたら、それはちょっと失礼だろうと思い、言及してみる。
 下手したらエース君、今もまだ校舎裏で待ってるんじゃないの?
「え? だって、『返事をしてもらえるなら』ってことは、別に返事しなくてもいいってことじゃないの?」
 いやいや、違うでしょ! 普通、断るにしても返事するって! 完全にシカトとか、人間としてどうかと思うよ!?
「――ってのは、冗談で」
 えー……。
「なに、その目? あたしがそんなにヒドいことする奴だと思ってたの?」
「いや、別に」
 うん、嘘です。正直、あり得るかもしれないと思ったよ。だって、彼女がどこかズレているのは、十何年も付き合っているぼくにはよくわかってるし。子どもっぽいし。たぶん、それが酷いことだという認識すらなく、素でそんな態度を取ったんじゃないか、って思えたんだよ。まあ、口に出しては言わないけど。
「まあいいケド。でね、放課後まで待つの嫌だったから、手紙見てすぐにエース君の教室に行ったの」
 ……嫌な予感がするんだけど。
 戦慄するぼくに気付かず、彼女は話を続ける。
「で、彼の前でちゃんと断ったよ。付き合えません、って」
 嫌な予感的中! 十分酷いことしてるよ、キミ!?
 思い立ったら即行動。悪いことではないが、時と場合を選ぶべきではないだろうか。
 クラスメイト達のいる前でフられるとか、エース君、憐れすぎるよ……。ぼくの中ではエース君が可哀想なキャラクターに確定されてしまった。
 まあ、エース君はどうでもいいとして、それよりも、ラブレターを受け取ったことは誰にもバレてない、って言ってなかった? 確かにラブレターはバレなかったかもしれないね。けど、それが問題にならないくらいのレベルで他の女子に恨まれそうなんだけど、本当に大丈夫?
「だいたいさー、呼び出し時間が六時とか、おかしくない?」
 ぼくが心中で割と本気で心配していると、いつの間にか彼女の愚痴大会が開催されてしまっていた。
「普通、昼休みとか放課後になった直後とかでしょ? それをわざわざ部活が終わる時間に指定するとか、『P.S.よければ練習見にきて』とか書いてあったけど、絶対に見に来いよ、ってことだよね、時間的に。もし返事を迷っているようなら、それでカッコイイところを見せて、OK貰おうって寸法? バレバレだっつーの。確かに昨日は男らしいってほんのちょっとだけ思ったけど、そんな小細工するとか、失望よ、失望。女の鋭さなめんじゃねーっつーの。ちょっと女子にモテるからって調子に乗んなっつーの」
 初めにエース君を紹介したときと言っていることと態度が正反対である。おそらくはこっちが本音なんだろう。
 にしても、彼女の言が真実かどうかは知らないけど、随分とぼろくそに言われちゃってるよ、エース君……。主人公は主人公でも、不幸体質の主人公だったんだね。もはやキミはぼくの中で、憐れなキャラナンバーワンだよ、ダントツ首位独走中だよ。
「まあ、うん。エース君のことはもういいや……」
「うん。あたしもそいつのことなんて、もうどうでもいいわ」
 それ以上彼を虐めないでやって、という念を送って言ったのだが、さらに酷いことを言われるエース君。憐れなんて言葉ではもはや表しきれない憐れさだ。
 まあどうでもいいか。会ったことのない人のことを考えるなんて、それこそ無意味なことだ。

 ――本題に入ろう。

「じゃあ、どうして、わざわざ誤解させるように言ったの?」
「ん? なんのこと?」
「男と相合傘したこと。ラブレターを受け取ったこと。そしてそれらを嬉しそうに語ったこと。……ぼくにナニカを誤解させようとしたとしか思えないんだけど?」
 意味ある語尾の上げ方をするぼくに、彼女は楽しげに答える。
「どんな反応するのかなー、って思って」
「……どうして、どんな反応するのかが気になったの?」
「どんな反応をするのか気になったからだよ」
 答えになっていないが、それが彼女の答え――真実なのだろう。
 何も考えていないかと思えば、ぼくを騙すような『駆け引き』じみたこともする。そして、その駆け引きの理由が、なんとなく、という感情論一点のみ。
 コドモなのか、オトナなのか、オンナなのか。
 本当に、彼女は、よくわからない。
 そして彼女がよくわからない人だということを、ぼくはよくわかっているのだ。
「ううん」
 また唐突に、彼女が首を振った。
「やっぱり、あるかも」
「……何が?」
 思考に気を取られていたぼくは話が見えず、訊き返した。
「反応が気になった理由」
「…………」
「言わないつもりだったけど、うん、決めた」
 そう言う彼女の顔は、ごく真剣なものだった。
 ぼくも茶化したりせず、真剣に聞き入る。
 常にない、緊迫した空気がその場に訪れる。それはさっきのエース君の話のときのような、彼女の演技が作り出したものではない。
 正真正銘、重大な話が始まろうとしていた。
「たぶん、気にしてほしかったんだよ」
 主語や目的語が抜けているが、これはきっと、『あたしのことをぼくに気にしてほしい』ということだ。ぼくはそう判断した。
 ……それは、なぜ?
「もっと言えば、嫉妬してほしかったってゆうか?」
 …………どうして?
「あたしたちってさ、カレーとハヤシライスみたいなものなんだと思うの」
「はい?」
 また、突飛なことを言う。話が変わったのか、そうでないのか、判断できずに咄嗟に訊き返してしまった。
「あたしがハヤシライスで」
「ぼくがカレーライス?」
 言葉を継ぐと、彼女は嬉しそうに頷いた。いや、説明してよ。
「ハヤシライスってさー、甘いじゃん?」
 いや、その基準は違うと何度言えば。カレーも甘いのあるし。
 よっぽど言いたくなったが、今、水を差すのはまずいと思い、黙って聞く。
「甘々だからさ、なんか……色々と甘いのよ。言うこととか、することとか、考え方とか、人との距離感の測り方とか、そういうの」
 ……なんとなく、言わんとしていることはわかる。
 つまりは、自分が子どもっぽい思考や行動を取っているということを、彼女は自覚しているんだ。
 そしてその上で、ぼくに何かを伝えようとしている。おそらくは、子どもであることを卒業するために。
「でも、カレーは辛くてさ……。色んなこと知ってて、色々考えてるし、それこそ結構辛口なこと言うときがあるし、なにかにつけて無意味とか言うし、変なゲーム好きだし」
 いや、うん。それは正直すまんかった。っていうか、今関係ないでしょ、最後の二つ。
「で、まあ、きっと、ハヤシライスよりはずっと大人な意見や考えを持ってるんだよね」
 そうだね。全体的に見て、ハヤシライスよりカレーの方がきっと辛いんだろう。
 でも。でもね?
 人との関係性についての考え方においては、ぼくもきっと、甘口カレーなんだと思うよ。
 それを、さっきのキミの『駆け引き』で思い知らされた。
 大成功だったんだよ? キミの『駆け引き』は。まさにキミの言う通り、ぼくはエース君に嫉妬してた。キミとの関係性について、色々と考えさせられた。
 ぼくのその反応は、キミの満足のいくものだったかい?
 彼女の話は続く。
「カレーとハヤシライスは似てて、距離はかなり近いんだけど、でもやっぱり別モノで」
 それにしても、どちらかというと直截的な物言いをする彼女にしては、先程からえらく抽象的な表現だ。
 もしかしたら、カレーに近づこうとしているのかもしれない。必死に辛口になろうとしているのかもしれない。
「それじゃあダメかなー、とか思って。ダメっていうか、あたしが納得いかないだけなんだけど」
 つまりは、彼女の我儘ということか。
 でも、それはきっと我儘なんかじゃない。誰もが当たり前に持ってるモノではないだろうか。
「ダメだけど、でも、ハヤシライスに唐辛子入れても結局カレーにはなんないだろうし。じゃあどうしたらいいだろうなー、ってさっきから考えてて。なら、いっそのこと、その二つを混ぜちゃえばいいんじゃね? とか思ってさ?」
 いや、混ぜちゃダメでしょ。おいしいの、それ?
 ツッコみたかったが、耐える。ここは、静聴するところだ。
「えーと、だから、さ。混ぜちゃおうかな、って」
 うん? ハヤシライスとカレーを混ぜる? ハヤシライスが彼女で、カレーがぼくで、それを混ぜる。……これはどういう比喩?
「まだわかんないかなー?」
 少し困ったような表情で彼女が訊いてくる。心なしか頬も赤く染まっているような気がする。何か恥ずかしがるようなことなのだろうか。
 しかし、なんのことか、ぼくにはさっぱりわからない。
 やがて耐えかねたらしい彼女が、やけ気味に言う。
「だからさぁ!」
「うん」


「結婚しない?」


「…………」
 あれ? 今、なんか、宇宙語が聞こえた気がするよ? おかしいなあ、ラブレター見せられたときといい、ぼくの脳は言語障害にでも陥ってるのかもしれないなあ。
「聞こえなかったみたいだからもう一回言おうか?」
「お願いしま」
「あたしと結婚して」
 ぼくの言葉を遮る勢いでの即答だった。それも、他のどんな意味にも捉えられないような明言っぷりだ。むしろ、迷言と言ってもいい。あるいは名言? 確かに、ぼくの人生歴には一生残る一言には違いない。
 ……ふざけるのもこのくらいにしておこう。
 つまり、カレー(であるぼく)とハヤシライス(である彼女)が混ざるというのは、そういうことだったということで。
「まあ、もちろん、今すぐにってわけじゃないケド?」
「じゃあどうして、突然そんなことを? 一応確認しておくけど、ぼくたち、そもそも付き合ってすらないよね?」
 彼女の中ではいつの間にか幼馴染という一線を越えていたのだろうか。さすがにそんな妄想癖を持ってはいないだろう。……持ってないよね?
 表面上は冷静に訊ねるぼくに、彼女は前髪を弄びながらも、落ち着いて返してくる。頬が赤く染まったままなのはご愛嬌だ。
「うん、知ってる。それにいまさら恋人になろうって言われても、たぶん、絶対困るし。想像もつかないでしょ?」
 まあ……そうだね。たとえそういう願望があったとしても、その光景を想像する事なんて、全くできない。できなかった。
「でも、夫婦になった光景なら想像できなくない?」
 また一段と飛躍した思考ですね。
 指に前髪を巻きつけながら、彼女は捲し立てるように早口で言う。
「ほら、朝、一緒に家出てさ。会社は違うけど、同じ電車に乗って。帰ってきたら、その日のこととか上司への愚痴とか喋くりながらゲームでもして。一緒にご飯食べて。また、喋って。そんな風に過ごすの。どう?」
 …………あれ?
 おお、すごい。確かに、想像が容易すぎる。というか、最近のぼくらの状況と全く同じじゃないかな?

 ――でも、なんだか、すごいことに気がついちゃったかもしれない。ああ、うん、なるほど。これが真理か。

 幼馴染の延長上にあるのは、恋人ではなく、夫婦なんだ。

「ぷっ、あっはは……!」
 思わず、笑いが込み上げてきた。
「ええ? なに笑ってるのよ?」
「いや、自分の思考の馬鹿さ加減がおかしくなってさ」
 話を聞いていて、まあ、なんというか、馬鹿らしかった。
 どうやら、都合のいい関係を求めていたのは、彼女も同様らしいのだ。
 恋人というある種刺激のある関係ではなく、この日常がずっと続けばいいと願うような、そんな関係をお互いに欲していた。
 それを、彼女の言葉に色々と振りまわされて。彼女も、きっとぼくの態度に振りまわされて。
 結局行き着くところは、二人の望んだ先だったというわけだ。
 彼女の言うような、今までと全く同じような生活が続くとは限らない。しかし、そうなるように努力はできるはずだ。なんせ、二人とも同じ望みを持ってるんだ。
 きっと、実現できるはず。
「それで、どうなの?」
 おっと、返事がまだだったね。
 彼女はぼくを上目遣いに見上げながら、まだ前髪を弄んでいた。
 ……ああ。なんで忘れてたんだろう。そんなことすら忘れてしまうほど、ぼくは彼女の言葉に混乱し、視野狭窄していたらしい。
 彼女のその前髪をいじる癖は、不安になったときにする所作だ。
 それでさっきまでの会話を思い返してみると、確か、ぼくがつっけんどんな態度を取ったときには、そうしていた。沈黙していたときもそうだ。
 ぼくの態度を窺っていたんだ。自分は嫌われていないか、逆に好かれているのだろうか、と。このまま、幼馴染の関係でいた方がいいのではないかと、迷っていた。

 彼女は、コドモでもなく、オトナでもなく、オンナでもなく。
 やっぱり――彼女は子どもで、大人で、女なんだ。
 そんなわけのわからない彼女のこと、ぼくは前から知っていたんだよ。考えるだけ、無意味だったんだ。
 だから、まあ、返事なんて決まってる。
 これが、ぼくらの関係の行き着く先なんだ。

「今度、カレーとハヤシライスを混ぜたもの、食べてみようか? おいしいかどうかは、食べてみないとわからないけどね」
 そんなスパイスの利いたぼくの言葉に、彼女は満面の笑顔で言った。
「それ、絶対おいしいと思わない?」
 それは、まったく無意味な語尾の上げ方だった。
●作者コメント
 天真爛漫な『彼女』の言葉に『ぼく』が振り回され続ける話。
 ジャンルは、たぶん「恋愛」。割と軽快な文章なので、「コメディー」とも言えるかもしれません。……その二つなら「ラブコメ」でいいじゃん、と言われてしまいそうですが、ラブコメと期待して読まれるとイメージが合わないかなあ、と個人的には思うので。とまあ、そんなお話です。
 起承転結や話の順番が滅茶苦茶かもしれませんが、一応考えあってのことです。具体的に言うと『彼女』の性格と『ぼく』の思考癖によるものですね。こういう競作企画に実験的試みを導入するのはどうかと自分でも思いましたが、全力は尽くしましたので、どうかご容赦ください(もちろん酷評も歓迎ですが)。
 わけのわからない話になっていなければ良いのですが……とにもかくにも、読んで少しでも楽しんで下されれば幸いにござい。

◆お題:「傘」「手紙」「境界」

2010年夏祭り掲載作品


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●感想
柊野さんの意見 +30点
 こんにちは、柊野と申します。
 早速、批評させていただきます。

 まずは内容について。
 いろいろとぐちゃぐちゃに展開されている序盤を回収しきる展開、巧いです。
 「ぼく」と「彼女」の距離感から入り、ハヤシライスだのカレーライスだの、ラブレターだの傘だの、そういったものが軽妙に流れていくストーリーの中で綺麗にまとまり完結する様子は、なんというか精緻なパズルが完成されていくようです。
 「彼女」のキャラクターもよくできていると思います。

 「境界」のお題の使い方が強引であるようには感じますが、私から指摘できるのはこれくらいです。

 次に文章について。読みやすく、こちらも特に指摘する箇所はありません。
 失礼しました。では。


祐茂さんの返信(作者レス)
◆柊野 様へ。
 感想ありがとうございます。

>緻密なパズルを見ているよう
 ――これは……私の、「人生で一度は言われてみたい言葉ベストテン」にランクインしている言葉……!
 いや、もう、本当にありがとうございます。鼻血噴きながらモニターの前で拝んでしまいました。実際に鼻血までは出てないけど。

>「境界」
 ――これは私自身、悩んだところです。最初から距離感と境界を結びつけようとはしていたのですが、何度考えても結局上手く表現できず、こうなってしまいました。いっそのこと補足説明のようには使わず、読者が『距離感=人と人との境界』と解釈してくれることに期待して、一文字も出さなくてもよかったかもしれない、と今更ながらに思います。

>重箱の隅
 ――どちらもご指摘の通りですね。申しわけない。

 とにもかくにも、楽しんで頂けたようで、光栄です。ありがとうございました。またどこかで見かけたら適当に声をかけてやって下さい。


風乃さんの意見 +20点
 読ませていただきました。

 子供っぽいヒロインにほのぼのとして、主人公のツッコミにくすりと笑ったりして、すらすらと読み進められました。
 話の順番がどうこうというのも、よくまとめられていると思います。カレーとハヤシライスが再登場してきたときは、そこでくるのかっ、と、感心してしまいました。
 また、場面転換なしでこの枚数を読ませられるのはすごいなあ……と。二人のやりとりはそれぐらい面白くてテンポが良かったです。

 気になった点としましては。

>「だってさ、あんた相手にするのと同じ感覚で近づいたらさー? なんか……違ったのよ。距離感が?」

 ここの、“あんた”です。この呼称はヒロインには似合わないんじゃないかなあ……とか。
 幼馴染みという付き合いの長さなら、名前で呼び合ってる方が自然だし、仲の良さが伺えます。合わない代名詞を使わせるぐらいなら、名前を出してしまっても良かった気がします。

 あと、上の“あんた”のせいもありますが、その辺りからヒロインの性格がねじ曲がってきたような?
自分のヒロインのイメージは、子供っぽくて思考回路が少し飛んでる感じだったのですが、エース君の愚痴を言っているところとかは、やけにたくましくなってしまったなあと。(そっちが本当の性格ならすいません)

 また、主人公に告白? した辺りから、ヒロインが頬を染めたりで恥ずかしがってるようなのですが、話し方とか他の仕草は大して変わってないのに違和感を感じたり。

 それとまあ、主人公はギャルゲー好きな設定ですが、それがいまいち活かせてないかと。
 例えば、幼馴染みの延長は恋人じゃなく夫婦なんだ、と結論を出していますが、ギャルゲーやってるならそれ以外の答えはいくらでも見ているはずなんですよね。
 二次元の世界では、普通に恋人になっている幼馴染みが山ほどいます。そういった幼馴染みとの付き合い方を知っている(あくまで二次元だけど)主人公は、結婚に行き着く前に他の考えを巡らせていてもおかしくはないはずです。
 まあ些細な設定なので、あまり突っ込む必要もない気がしますが、一人のギャルゲー好きの意見として受け取って下さい。

 それと、単純に「結婚しない?」の台詞は上手かったと思います。ぶっ飛んだ思考のヒロインならではの答えの出し方で、意表も突かれて思わず唸ってみたり。


 それでは、長々と失礼しました。


祐茂さんの返信(作者レス)
◆風乃 様へ。
 お読みいただき、ありがとうございました。
 私の考えが甘かった・深く考えていなかった部分を、適確に衝かれていらっしゃいますね……。その観察眼、私も見習いたいものです。

>二人のやり取り・カレーとハヤシライス・場面転換など
 ――そんなに褒められると、私、鼻血噴出しながらタップダンス踊りたくなってきます。いや、タップダンスなんて踊れませんけど。

>ヒロインの「あんた」呼ばわり
 ――まず謝罪します。すみませんでした。これ、実は書いているときに私自身が違和感を覚えた箇所だったりするのです。が、丁度ノっているときだったために執筆の流れを途切れさせたくなく、「推敲のときに書き直そう」と後回しにして……推敲時になぜかスルーしちゃった模様です。ハイ、所謂ケアレスミスというやつです。今後は気をつけます。

>ヒロインの性格(エース君の愚痴)
 ――確かに、そう言われて読むと豹変しているようにも見えます……。描写不足だったんでしょうね。
 彼女は、半分程度はノリでふざけて言っているだけ(のはず)です。しかも本当の彼女は、子どもなだけでなく、大人でもあり、女でもあるのです。だから、小悪魔的というか“女の賢しさ”的な言動を取ることもあり得るわけです。女としては、エース君の行動や考えがよっぽど許せなかったのでしょう。
 ……ここでこれ以上語っても恥の上塗りになるだけか。そういう印象を持たれてしまったのは私の責ですし、無為な言い訳はこのぐらいにしておきます。

>ヒロインの恥かしがっている様子・そのときの話し方や仕草
 ――またも描写不足、ということですね。
 しかし、私的な意見になりますが、ここはテンポよく進めたかったので、地の文ではこれ以上どうしようもありません。台詞で変化をつけるのは…………どもらせる、という方法をたった今思い付きました。まだまだ推敲の余地はあるものですね……。ご意見、感謝いたします。

>主人公のギャルゲー好き設定が活かせていない
 ――実は、ギャルゲー好きという設定は書いている途中で唐突に思い付いたことだったので、主人公の心情・信条に絡ませようという発想自体がありませんでした。だから指摘されたことはもっともだと思います。次作からは無意味な(活きていない)設定がないように気をつけます。

>「結婚しない?」の台詞は上手かった
 ――これ、本作を書くにあたって、最初に決めた台詞なんです。なぜかこれを真っ先に思い付いたからこそ、ヒロインがあんな性格になったんですよね。褒めて頂き、ありがとうございます。……特別賞の、名言のやつに入っていないかな、と密かに期待していたり。

 当然というべきか、推敲の余地がまだまだあるようですね、この作品。
 風乃様、貴重なご意見、ありがとうございました。頂いたご指摘は全て――とはいかないかもしれませんが、可能な限り次の糧へとしたいと思います。またどこかで見かけたら適当に声をかけてやって下さい。


縁切さんの意見 +30点
 こんにちは、縁切と申します。拝読させていただきましたので感想をば。

 伏線を回収する手際の良さは素晴らしいですね。
 とどまらずにさくさく読める文章と、くすっとするユーモアもよかったです。

 一言で感想を言うならば、巧い! です。
 ただの感想ですみません。
 お祭り、楽しみましょう。それでは。


祐茂さんの返信(作者レス)
◆縁切 様へ。
 読了頂き、ありがとうございました。

 褒めちぎって頂けるとは……おかげで、モニターの前でにやにやしながら鼻血を噴いているバカが一人、出来上がってしまいましたよ。

 とにかく、楽しんで頂けたようで、大変光栄です。ありがとうございました。またどこかで見かけたら適当に声をかけてやって下さい。


燕小太郎さんの意見 +40点
 拝読しました、燕小太郎です。それではコメントを。

一読しての感想
 面白い。読み終わって率直な感想がそれでした。何で面白かったのか、というのはまた後で言葉にするとして、とにかく面白かったです。

ストーリーについて
 まさかワンシーンで終わるとは、という驚きとともに、軽快な会話と微妙な心理描写、独特な起承転結に引き込まれました。テーマも終始一貫し、タイトルの答えに結びつく。お話の流れそのものも良かったですが、何より。
『結婚しない?』
 予想の一歩上を行く一言がツボでした。そこへ至る論理展開もしっかりできていて、突飛だけどむちゃくちゃじゃない。
 また、主人公のテンションの上げ下げが自然に描かれていて、物語の起伏があって飽きてこないのも好印象でした。

キャラクターについて
 主人公と幼馴染、キャラクターとしてはややテンプレ的、もとい王道的な印象を受けましたが、どちらも生き生きとしてよかったです。振り回す彼女と振り回される少年というのは相性が良いようです。
 ……というか、ひょっとして『僕』と『彼女』の名前、出てないですか? もし見落としてたらごめんなさいですが、もし本当に出てないならすごいです。感想を書き始めるまで気づかなかった。
 そしてエース君、最高です。回想にしか出てこないのに(笑)。

お題について
 傘、手紙、境界。傘と手紙はエース君と彼女のやりとりで出てきました。それでもメインは境界、というか距離感ですかね。綺麗に回答が出ている辺り、使い方、解消の仕方が上手いなと感じました。

その他雑感
 素直に面白いと思える、良作でした。
 キャラクター・ストーリーともに充実していて、読んでよかったと思います。

 拙い感想ですが、少しでも参考になる部分があれば幸いです。それでは、また。


祐茂さんの返信(作者レス)
◆燕小太郎 様へ。
 楽しんで頂けたようで、なによりです。
 褒め殺しとは、なかなかやりますね。もう鼻血が止まらぬ。

>ワンシーンで終わるとは
 ――そうですね……この企画の他の作品を見る限り、ワンシーンで終わっているものって私が読んだ限りでは皆無ですね。意図して奇を衒ったわけではないのですけども。グダグダになっていなくて安心しました。

>独特な起承転結
 ――そう言って頂けると、救われます。むしろ、天にも昇る勢い? とにかく、試験的試みはある程度成功のようで、良かったです。

>「結婚しない?」
 ――複数の人に褒められ、もう鼻血が以下略。

>振り回す彼女と振りまわされる少年
 ――書き手側から見ても非常に書き易かったので、色んな意味で相性抜群なんでしょうね。

>『僕』と『彼女』の名前
 ――はい、出ていません。出す必要性を感じなかったもので。登場人物が二人だけ(エース君除w)だからということもそうですが、お互いに“名前で呼ぶ必要すらない仲”だということを表したかったのもあります。
 あ、あと、細かいですけど、『僕』ではなく『ぼく』だったりします。まあ、読者にとってはどちらでもいいかもしれませんが。

>エース君
 ――彼は今まで私が書いて来たキャラの中で、間違いなく五指に入るほど、よく“できた”キャラです。ええ、回想にしか出て来ないのに(笑) 直接は出て来ないからこそのキャラとも言えますが。

>お題
 ――上手く伝わったようで、嬉しい限り。

 色々と参考になりました。ありがとうございました! またどこかで見かけたら適当に声をかけてやって下さい。


双色さんの意見 +0点
 企画お疲れ様です。

 早速ですが評価を……と、申し遅れました双色です。よろしくお願いします。

 この文字数をして、一場面に収めるのか、と。
 それが読了後の驚きでした。

 冒頭のカレーライスとハヤシライスのくだりが後半で生きてくるのか、と布石に気付いたときの脱力感となにかしらの心地よさを感じ、そこは評価すべき点なのかなー、と思ったのですが、よくよく考えるとこれはちょっとした問題点なのではないかと思いました。

 私個人の話をするならば、この感覚は「やっと繋がった」という感情からきているものでした。

 伏線というには表に出すぎている。それでいて作品に即した上手い喩えでもない。まあ、ヒロインが突拍子もないキャラだというのですから、こんな会話もありではあるのですが。

 いってしまえば終盤と序盤だけで繋がってしまうじゃないですか。そこに中身が伴わない。伴う必要がない。別に文章をいくつも連ねなくても、二三文だけを重ねて説明すればよかったんです。この作品における中間部分はそれを変に焦らした会話でしかなかったように思います。物語がなかった、とも言い換えられます。

 ヒロインが告白する話、というならもっと展開を使って、物語を転がしてからにして欲しかったです。それこそ主人公の個性(ギャルゲーマニアなところとか)が生かされる展開で。これがある日どこかに遊びに行った先で妙な場面に巻き込まれた上で行われた会話なら、まだ少しは物語があったと思います。


 自分が気になったのはこれくらいです。
 こうしてみると全否定しているようにも見えますが、会話そのものは悪くなかったと思いますし、ヒロインに関して言うならば個性も出せていたと思います。

 ではでは。
 企画執筆、お疲れ様でした。


祐茂さんの返信(作者レス)
◆双色 様へ。
 批評、ありがとうございます。
 まず、半ば私事みたいなものなので書くべきかどうか迷いましたが……感謝の意を存分に込めて書いておきます。双色様、他の方の感想を見て天狗になりかけていた私の鼻をへし折ってくれて、ありがとうございます。成程、こういう意見もあるのかと、へし折られた鼻から血を垂れ流しながら感心しておりました。

 双色様のご指摘を纏めますと、

・序盤のカレーとハヤシライスのくだりが伏線としては上手くない(伏線にしてはあからさま&テーマに直接関連した喩ではない)

・序盤と終盤のカレーとハヤシライスの話だけで全体のテーマを構成できてしまうので、他の話題・会話に意味が見出せない(そのせいで“物語”がなかった)

の二点が主なものでしょうか。

 前者に関しましては、なにも反論がございません。確かにテーマ的にはカレーとハヤシで喩える必要性はどこにもありませんし、あえて自虐的に言うなら、ヒロインが突拍子もない言動を取るキャラだと説明するためのただのアイテムとすら言えるかもしれませんね……。まあ、無理に反論するなら、「『これはヒロインの性格を示す単なるアイテムか』と思われるだけで、これがまさかもう一度出てくるなんて思う人はいないだろう」というある種の自信が、このテーマ部分に「カレーとハヤシというまさに突拍子のない話」を用いた理由ということになるでしょうか。
 とにかく、少なくとも一考はすべきだったのでしょうね。今度からはテーマと伏線の関連性についても考えてみようと思います。

 後者に関しては……うーん。そう捉えられてしまうと、作品としては失敗なのかなあ、なんて思ったりします。
 それに関連して、

>ある日どこかに遊びに行った先で妙な場面に巻き込まれた上で行われた会話なら、まだ少しは物語があったと思います。

――このご意見についての反論をお許しください。
 作品のテーマ的に、“日常の中で”あるいは“日常の延長で”二人がくっつくことに意義があるのだと、私は考えています。外出先というある種の“外部刺激”に満ちた空間では、この二人の会話もどこか日常と乖離したもの(少なくとも“二人の日常の延長”ではなくなってしまう)と映ってしまうかな、と危惧したのです。
 ……とは言え、これは作者からの一方的な見解の押し付けでもあるでしょうね。双色様のご意見も尤もなもの。「日常の延長にいるからこそ、その先にあるものを見出せる」という作者の考えが伝わっていなかったのなら、それ即ち、私の力量不足ということなんですから。

 できる限り多くの人に“作者の意図”を伝えられるよう、これからも精進していく所存です。非常に参考になるご指摘、ありがとうございました。またどこかで見かけたら適当に声をかけてやって下さい。


前田なおやさんの意見 +30点
 こんばんわ、前田なおやと言うものです。

 うん、すっげー面白かった。
 個人的に、タイトルともなっている幼馴染の先にあるものの考え方が斬新で、けれどしっくりきたのでよかったです。
 要領を得ないヒロインの話が、最後の方で繋がる感じも素敵でした。

 他の方も言ってますが、これがたかが一部屋のワンシーンというのが驚きです。すげぇ。

 強いて文句を上げるなら……仲が良さそうで腹が立つぜ(オイコラ
 とにかく、面白かったです。

 これからも頑張って下さい!


祐茂さんの返信(作者レス)
◆前田なおや 様へ。
 読了頂き、ありがとうございます。

>幼馴染の先にあるものの考え方が斬新で、けれどしっくりきた
 ――夫婦(家族)≒幼馴染 夫婦≠恋人 この公式は結構成り立つのではないか、とか私は勝手に思ってます。

>仲が良さそうで腹が立つ
 ――いや、全くですw リア充は爆発すべき。

 それにしても褒めるのが上手いですね。鼻血が出るほどでした。私は褒めるのが苦手なので、そこを見習いたいものです。
 ありがとうございました。またどこかで見かけたら適当に声をかけてやって下さい。


江口猫さんの意見 +20点
 こんばんは、幼なじみという言葉にひかれて、拝読させて頂きました。

 最初は「訳わかんねぇ」という感じで読んでいましたが、最後で繋がるのがいいです。
 なるほど、幼なじみの先にあるのは、恋人ではなくて夫婦ですか。こんなアイディアは、ありそうでなかったですね。
 そして、この話をした理由も語られていて、伏線回収はお見事といっていいです。

 気になったことを上げますと、
 この文章、西尾維新を意識していませんか? 作風がどこか似ていると思いました。
 1シーンで、やたらと長いやり取りの光景。どこかで見たなと思いながら読んでいましたが、もしかしたらと思い書かせてもらいました。

 あと言うなれば、この作品を一言で結論づけると「今までと同じ関係でいましょう。これからもずっと、ずっと」で説明づけられるかと思います。
 そう考えると、少々中身が薄いのではないかと思います。
 オチで、夫婦にありそうなこととかもう一歩踏み込んで欲しかったですね。
 結局、二人の関係は何も変わっていなかったということになりますし。

 お題は、自然すぎますし、上手くストーリーに入れていました。使い方はすごいなと。

 いろいろと書きましたが、取捨選択はお願いします。
 祭りは……明日で終了ですが、最後まで楽しんでいきましょう。

 最後に一言言うならば、殴られた次の日に告白するエース君はドM。
 それでは、失礼します。


祐茂さんの返信(作者レス)
◆江口猫 様へ。
 読了&感想ありがとうございます、江口猫様。
 えー、まず、『江』『口』が一瞬、片仮名の『エ』『ロ』に見えてしまった馬鹿な私を罵ってやって下さい。……関係ありませんでしたね、失礼しました。
 それでは、一つずつ返答していきます。

>最後で繋がるのがいい・夫婦・伏線回収
 褒めて頂き、ありがとうございます。鼻血を垂れ流しながらにやにやしてしまいました。

>1シーンでやたらと長いやり取り・西尾維新
 ――西尾維新氏の作品は、戯言シリーズを以前友人に借りて読んだぐらいですね。しかも、だいぶ前のことなので、あまり覚えていなかったりします。あと、アニメの化物語は見ましたが……あまり関係ないか。
 ただ、1シーンでやたらと長いやり取りを書いてしまうのは、私が元から持っている癖だったりします。気を抜くと、いつの間にか無駄な会話(伏線もクソもない単なる雑談)を繰り広げてさせてしまう。今回のこの作品はそんな悪癖を逆手に取ったようなものです。

>「今までと同じ関係で~~」で説明できる・中身が薄い
 ――……反論が思い浮かびません。言い訳ならいくらでも思い浮かぶのですが、語っても仕方ないことばかりなので省略。

>オチで、夫婦にありそうなこととかもう一歩踏み込んでほしかった
 ――幼馴染と夫婦の“違い”を作中で示してほしい、ということでしょうか。うーむ……むしろ、変わらないことにこそ、意味があるというようなことを作中で言いたかったのですが……上手く伝わらなかった模様ですね。今度はそういったことを伝えられるよう、精進します。
 ……ちなみに。言い訳になりますが、一応、この作品を書いている途中に幼馴染と夫婦の違いを考えてはみたのです。しかし、私には“夜の生活”関連のことしか思いつかなかったのですよ(汗) それを『彼女』に言わせわけには…………いや、それはそれでアリか?w まあ何にしろ、私の考えていた本題とずれるので、作中で書く気にはなれなかったんですね。更に話がカオスになりそうですし。
(よく考えてみると、キスでもしてみせろ、ということだったのでしょうか。そのシーンを入れるのは非常に難しいですが、できなくはありませんね……ただ、上記の理由により、個人的には入れる気はしないのですが)

>お題
 ――お褒め頂き、光栄です。

>エース君は
 ――折角『ぼく』が明言を避けたのに、言っちゃいましたねw

 参考になる意見の数々、ありがとうございます。またどこかで見かけたら適当に声をかけてやって下さい。


ミナ・コレステロールさんの意見 +10点
 おはようございます、はじめましての方にははじめまして。
 ミナ・コレステロールです。

 軽くて読みやすい文章で、ラノベっぽい雰囲気がありました。
 でも、この内容にしては分量が長すぎる印象がありました。作者さんなりの幼なじみ恋愛論のレクチャーを受けているような気になりました。
 長く続いた小説の最後になって主人公とヒロインがくっつくって場面だったら、このくらい長くてもいいとは思うんですけど、一個の独立した作品でとなると難しいと思いました。

 キャラクターは、彼女のエース君も立っていて好感が持てました。主人公についてはまあ普通かなって思いましたけど。

 以下は、細部についてです。

>ラブレター
 あまりに古風or前世紀的すぎるので、てっきり、主人公の気を引くための嘘かと思ってたんですけど、本当にあったとは……。

>「結婚しない?」
 はやっ!

>幼馴染の延長上にあるのは、恋人ではなく、夫婦なんだ。
 納得させられました。


 以上です。
 次回もがんばってくださいね。


祐茂さんの返信(作者レス)
◆ミナ・コレステロール様へ
 はじめまして、祐茂(ゆうも)と申します。読了頂き、ありがとうございます。

>作者さんなりの幼馴染恋愛論のレクチャー
 ――……反論なし、ですね。確かに、私がこの作品に込めたものの一つはまさに仰る通り、幼馴染恋愛論や幼馴染の在り方の一例紹介のようなものです。ただ、そういうレクチャー染みたものを出さないため、色々と工夫したつもりではあったのですが……未熟でしたね。精進します。

>キャラクター
 ――ありがとうございます。主人公は……あまり力を入れなかったのがバレてしまったようですね。的確なご意見でした。

 次回作も頑張ります。応援、ありがとうございました。またどこかで見かけたら適当に声をかけてやって下さい。


デルフィンさんの意見 +40点
 こんばんは。デルフィンと申します。
 御作、拝読しました。感想を書かせて頂きます。


文章
 すらすらと読む事が出来ました。
 文章力があるなぁ、と思います。

内容
 こういう小悪魔な女の子が大好きです!
 彼女かわいいよ彼女。
 カレーとハヤシ、距離感、こういったキーワードが後半で活きてくるのは本当に御上手でした。
 なんというか、「引きと落とし」が絶妙なんですよね。
 コメディ部分にしても、
 彼女がエースを殴るというオチまでに、「ぼくの妄想」という引きが面白さをよく引きあげています。

御題
 三つとも内容とも良く絡み合い、とてもうまく使われていたと思います。

総評
 「彼女」も多面的でとても魅力的に描かれキャラクターが立っておりました。エースくんも実際には登場していないのにキャラ立っていましたし。
 わたしは最後に伏線大回収と言う流れが大好きで、その意味でも本作は面白かったです。
 本作でちょうどわたしが読んだのは30作目で、キリもいいので最後にしようと思っておりましたが、その締めに本作のようなすばらしい作品に出会えてよかったです。

 以上です。
 創作、お疲れさまでした。


祐茂さんの返信(作者レス)
◆デルフィン 様へ。
 読了ありがとうございます。褒め言葉ばかりだと、興奮して鼻血が……。

>文章
 ――ありがとうございます。

>内容・『彼女』
 ――おおぅ、そんなに気に入って頂けるとは、恐悦至極と言うやつです。

>内容・引きと落とし
 ――距離感のほうはともかく、カレーとハヤシのことは実はそこまで考えていたわけではありません。伏線として使ったら面白そうだな、程度の気持ちで使ったものでした。「ぼくの妄想」についても同様です。次からはその辺りもちゃんと意識して書いてみようと思います。

>お題
 ――ありがとうございます。

>総評・エース君
 ――大人気ですね、エース君w 変態的な嗜好を持つキャラって、やっぱり人気が出るのだろうか……。

>最後の感想
 ――こちらこそ、光栄です!

 楽しんで頂けたなら、それ以上のことはありません。ありがとうございました。またどこかで見かけたら適当に声をかけてやって下さい。


↓Bさんの意見 +30点
 「ラブコメ」という言葉があるのに、「コメラブ」という言葉がないのは変なものです。実際にはコメディタッチの恋愛って短編でよくあるのにね。↓Bです。

・爆笑を狙った作品ではありませんでしたが、何度か噴きましたし全体的にほわほわと面白かったです。
 天然キャラが変な思考をしたり、間違った思い込みをしてたり、唐突な飛躍をしたり、それでいてもう過ぎた話題を当然のように掘り起こしたり、その話題が不思議にさっきまでの話題とつながったり。天然キャラって本当に異次元の存在です。でも考えてみれば、人は他人と話すときに必ず間違いや勘違いや誤解をしてて、だからこそ本作の主人公みたいに誤解や勘違いを正したり二つの話を論理的につなげようとしたり努力するわけで、何が言いたいかというとつまり、これってこの世界で当たり前に起こっていることなんですよね、っていうことです。
 人は放っておいても誤解するものだし、だから人は誤解されないように話をする。ある意味、これが人生なんじゃないか、人生って言っちまえばそんなもんなんじゃないか、そういう気もしてきます。もう一度言います、「人は誤解する」。本作の大きな魅力のひとつはそこにあります。

・というかな、天然キャラをこれだけ使いこなせるってすごいと思うんだ。当然だけどわざとらしい会話よりは自然な会話のほうが難しいし、自然な会話よりも「天然キャラの入った」自然な会話は格段に難しい……というか、ほとんど別の能力が求められると言ってもいい。
 本作のライトな文章はケチのつけようがない代物だし、キャラや話の流れについてはもはや語る必要がないというか「コレ見てどこかおかしいと思うの?」と逆に訊きたいくらい、素晴らしい筆力です。ギャグも全体的に控えめなので当たりというほどの当たりは三割くらいしかなかったのですが、しかし一方でハズレはほとんどなかった。すごいことです。
 何がすごいって、笑わせることなんかよりこのほわほわした空気の作り方がすごい。

・しかしだ。本作の「彼女」はエース君を使って「ぼく」の反応を試していますが、これが妙に計算高い。そしてその後の嫉妬云々に関する彼女の考察も、妙に真面目なんです。その「普通さ」に強烈な違和感を覚えます。普通に喋れるんなら前半のあのボケボケな会話はなんだったんだ、って思っちゃう。
 ……私が思うに、天然さんって万能キャラだと思うんですよね。普通なら「Aで、Bで、Cで、だからDだ」って考察するところを、「だってDじゃない?」から始めるのが天然だと思うんです。で、「え、なんでDなの?」って訊くと「だってCでしょ? だからDじゃない」とか「あれはたぶんCなのよ、だからDなの」とか、最悪「なんとなくDっぽい」とか言って、でも結局それは当たってて、しかも性質の悪いことに彼女の頭の中では無意識にA→B→C→Dの過程がつながってる、ただそれを説明する時に(脳内ブラックボックスを経由するので)誤解を生む、そういうのが天然だと思うんです。だから本作の彼女が「どんな反応するのかなー、って思って」から最後の「結婚しない?」までほとんどボケらしいボケをはさまない(ハヤシライス甘いのくだりでちょっと)のはかなり変で、それならその話の最初にハヤシライスカレーライス混合説を持ってきて、カオスな語り口を展開した後で最終的に「だから結婚しない?」に持っていくほうが彼女らしいと思います。
 そこで支離滅裂な彼女の言い分を系統的に論理的に我慢強くひとつひとつつなげていくのが普通人たる主人公の役目で、そうした方が互いに必要とし合ってるみたいな感じも出るのではないかと。

・すみません長々と話していて申し訳ないんですがもう一点だけ。本作のストーリーはストーリーと呼ぶのもためらわれるほど、というか二人でずっと話してるだけでまったくといっていいほど動きがありません。
 私は、原則的にはこれは短編として「あり」だと思っています。私は元々掌編書きで、長編でも短編でも表現できないものを表現したくて掌編を書いていたので、長編と違って短編でしかできないこのようなスタイルもそれはそれでいいと思うし、またこのようなスタイルでしか表せないものもあると思っています。
 でも、作者様の筆力は間違いなくラ研トップ集団の一員ですがそれでも、さすがに動きがなさすぎて中盤で不安になってきます。何か、対策が必要かと思います。

 以上です。長々とすみませんでした。後半の彼女が普通すぎる点は不満でしたが、作者様の技量としても、また作品としてもかなりのレベルにあると思います。面白かったです。


祐茂さんの返信(作者レス)
◆↓B 様へ。
 読了頂き、ありがとうございます。

 まず、天然キャラについて申したい事がございますので、言及をお許しください。※↓B様のご意見を否定する意図はありません。むしろ、真摯に受け止めたからこそ、このような下らない話を書き連ねています。また、若干自分語りになりますので、それに不快を覚えるならば、次の空行まで読み飛ばしてください。


 実は、私は天然キャラというものがよくわかりません。そして、『彼女』が天然キャラなのかどうか、私には判断しかねます。(子どもっぽい=天然なんでしょうか?)
 ではどうやって『彼女』を書いたかと言うと、私は{天然な人物を描いたのではなく}、{支離滅裂な会話の展開を書いた}ということなのです。
 人物の描写・表現・顕現ではありません。その人物が成す会話をあえて順序立てずに書き連ねただけ、とすら言えるモノを書いただけなんです(厳密には違いますが、語ると長くなるので割愛)。要するに、間接的に彼女のキャラクターをあらわしたわけですね。
 結果、『彼女』が天然っぽく思われるような人物になり、“自然”な会話(リアルの日常会話ってのは、割と支離滅裂なものだと私は思っています)が出来上がったということです。

 ↓B様のご意見は非常に興味深いですし、読者側が『彼女』を天然だと思われたなら、それはその通りなのでしょう(作品を公開した時点で、各キャラは作者の手から離れているので)。
 しかしながら、私は天然キャラを使いこなせはしないし、言い訳にしかなりませんが、天然キャラの思考を正確にトレースして書ききることなんてできませんでした。↓B様の天然キャラについての考察を読んでも「へー、天然ってそういうキャラなのかー」ぐらいにしか思えなかったことから、おそらくはこれからも天然キャラを書くことは難しいでしょう。
 ですので、天然キャラについて褒められても改善案を申し渡されても、どうすることもできないのです……。ご意見を活かすことができず、申しわけございません。
 ……なんだか本当に単なる言い訳っぽくなってしまいましたね。ごめんなさい。

 では、ここからはご意見・ご指摘に対する私の見解を個々に述べたいと思います。

>「人は誤解する」
 ――はい、これは普遍的な事実であると、私も思います。本作は“リアルさ”を多少なりとも意識していたので、そこを褒められると、非常に嬉しくてテンションが上がります。鼻血が出るくらいに。

>『彼女』の計算高さ・真面目さ・普通さ
 ――天然のことは抜きにして。これは『彼女』の大人な部分や、女の部分が現れている、ということなんです。『ぼく』が、「彼女は子どもで、大人で、女なんだ。」と思った根拠の一つでもあります。
 ……以上、言い訳でした。伝わっていなかったのなら、それは私の技量不足ということですので……精進します!

>支離滅裂な彼女の言い分を系統的に論理的に我慢強くひとつひとつつなげていくのが普通人たる主人公の役目で、そうした方が互いに必要とし合ってるみたいな感じも出るのではないか
 ――これは、なるほど。“お互いに必要とし合っている”、そのような描写は本作にはあまりありませんでしたね。ご指摘ありがとうございます。次に活かそうと思います。

>作者様の筆力は間違いなくラ研トップ集団の一員
 ――……照れます。ただ、今回はライトな文体の一人称の短編という私の得意分野だったので、本作だけで判断されると、後で痛い目を見るでしょうね。主に私がw

>動きがない・(そのせいで)中盤で不安になってくる
 ――確かに、物語的に全く“動き”がありません。そこは、まあ、私自身も認めるところではあります。しかし本作においては、そうしたのはわざとだ、とだけ弁明しておきます。(ただ、「じゃあ起伏に富んだ話は書こうと思えば書けるんだな」と問われると、頬を引きつらせてしまいますが。精進のため、これからも色んな話を書こうと思っていますので、どうかお許しください)
 また、中盤で不安なったとは即ち、そこで読むのをやめてしまいそうになったということでしょうか。これは、問題ですね……。本作を改稿したりはしません(というか、無理)が、今後は物語の起伏にも気を遣いたいと思います。

 と、こんなところですね。言い訳とか弁明とかばかりで申し訳ない。
 色々と面白い観点からのご意見、ありがとうございました。またどこかで見かけたら適当に声をかけてやって下さい。


小林 不詳さんの意見
 +40点
 こんばんは。小林と申します。拝読いたしました。感想を書かせていただきます。

 うおおおお、これは恐るべし!

 まず全編1シーンで、選択した情報の提供順序を厳守しつつ、ここまで自然な会話展開、恐るべし。
 そもそも、この面白さを提供するために、エース君はもちろん、主人公の名前も彼女の名前も、彼女の容姿すらも「必要ない。つーか邪魔」と判断されて、そして迷わず排除されてしまっているという手腕、さらに恐るべし。
 そして、この読みやすさがその手腕によるものだと読者にやすやすとは気づかせない奥ゆかしさ、恐るべし。

 少なくともこの「面白さを構成する情報の選択力と提供力」はまさに自分が見習いたいところです。ブラボーです!

 お話もいいですね。
 ラノベ読者層と乖離させないような丁寧な気遣いに満ちた主人公が、幼馴染から「結婚しよう!」とビシッと言われてしまうといううらやまシチュエーションと、そこに持っていくまでの流れは、全編、裏の技巧を気づかせることなく、客をリラックスさせて喜ばせるという一流シェフにも似た作者様のサービス精神に満ちていると感じました。
 伏線回収と締めの上手さについては言うまでもありません。

 素晴らしい作品をありがとうございました!


祐茂さんの返信(作者レス)
◆小林 不詳 様へ。
 感想ありがとうございます。
 それにしてもなんという褒め殺し……。鼻血で出血多量にして殺す気ですか、あなたは!
 冗談はともかく、早速レスを。

>「面白さを構成する情報の選択力と提供力」
 ――いや、私のはそんなにたいしたものではないかと(汗)
 元々私のスタイル(というか癖)は、長々と無駄話や無意味な情報を羅列するというモノでした。今回はそれを戒め、徹底的に“無駄”(=一か所にしか出ない情報や他のどんな情報とも関わりを持たない情報など)を可能な限り排した(つもり)のです。偶然かもしれませんが、どうやらそれが功を奏したみたいですね。
 同じことをやって、次が上手く行くとは限りませんが……とにかく、非常に参考になるご意見でした、ありがとうございます。

>一流シェフにも似た作者様のサービス精神に満ちている
 ――過大評価ですって(汗)
 しかし、次も同じことを言ってもらえるよう、鋭意努力していく所存です。

 楽しんで頂けたようで、なによりです。ありがとうございました。またどこかで見かけたら適当に声をかけてやって下さい。


がーさんの意見
 +10点
 こんにちわ。拝読させて頂きました。

 ワンシーン(同じ場所)で引っ張る作風は嫌いじゃないです。
 私の好きな脚本家の三谷幸喜もよく使っていましたね。
 話の流れもスムーズで、特に引っかかるところもなくスラスラと読めました。言葉選びや論理の展開など素直にお上手と思います。
 ただ、読み終わってどうだった?と言われると、これは完全に個人的な趣向になってしまいますが、物足りなかったです。
 何に満足するかは人それぞれですから、このような日常の一幕を切り抜いた作品に満足される方も多いと思います。私としてはもっと謎めいたものが好みというだけの話ですが。

 カレーとハヤシライスの話については、これは話の基点になっていますよね。そしてエースの話を経て、話は戻るけどみたいな感じになっていますので、伏線と捕らえる事は出来ませんでした。

 例えば、あくまで例えばですが、海上自衛隊は金曜日にカレーを食べるみたいな話が間に挟まれていて、それが後半で何かのきっかけとして繋がっていれば、話の主軸と伏線を兼ね備えたエピソードになったのではないかと思います。
 偉そうなに言っていますが、じゃあ私が出来るかと言われれば、出来ません!
 ほんと伏線て難しいですよね……orz

 エースに至っては回想シーンのみの登場です。一見キャラが立っているかのように思えますが、よくよく考えてみると、

 彼女のキャラクターを生かすような台詞及び行動の中にのみエースが存在しているわけで、彼女の行動を突飛と思わせる為に存在している小道具のひとつでしかない。『キャラクター』として成立しているのか?

 と感じてしまいました。
 おそらく直接登場していれば、全然違う印象を持ったと思います。ですので非常に勿体ないなぁと……。

 特に何かの役に立つような気の利いた事が言えませんが以上です。
 企画お疲れ様でした。


祐茂さんの返信(作者レス)
◆がー 様へ。
 読了、感謝します。

>三谷幸喜
 ――古畑任三郎の脚本家ですよね。まあ、その程度しか知りませんが……。

>カレーとハヤシライスの話については、これは話の基点になっていますよね。そしてエースの話を経て、話は戻るけどみたいな感じになっていますので、伏線と捕らえる事は出来ませんでした。
 ――つまりは、“伏せて”いなかった、単に話が途切れてそれが元に戻っただけ、ということですね。これは、確かに。この作中の直前の会話がそれだったし、そこから『彼女』が距離感のことを思い付いたわけですから、話の基点・起点とも捉えられますね……。
 ちょっと考えてみましたが、
「そこからどうやって距離感などという話に結び付くのだろうか。あれか、カレーとハヤシライスって似てるから距離もなんとなく近そうだよね、とか、そういう発想なのか。うん、意味不明だ。」
この一文がカレーを伏線ではなくしてる……のでしょうか。ということは、『ぼく』に「カレーとハヤシの話とは全く関係ないことを彼女は言った」みたいな発言をさせれば良かったのだろうか。そうすれば、少なくとも読者には、カレーが話の基点とは思われないだろうし…………って、なんかこれはダメな気がする。
 うーん、色々と考えてみましたが、改善策が思い浮かびませぬ……伏線って、本当に難しいですね……。ひたすら精進あるのみ、のようです。

>エース
 直接エース君を書く自信がありませんw いえ、冷静に考えてみれば笑い事ではなく、これはつまり、私が彼のことを把握していない……更に突っ込んで言えば、彼について何も考えていないということなのでしょうか。
 つまり、「小道具でしかない」という指摘は、(少なくともキャラ設定的には)ごく正しいものといえます。危うく、地味に人気が出たからといって今後似たような“キャラ”作りをするところでした。ご慧眼、畏れ入ります。

 非常に参考になる意見の数々、ありがとうございました。またどこかで見かけたら適当に声をかけてやって下さい。
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