高得点作品掲載所     燕小太郎さん 著作  | トップへ戻る | 


ネコミミエックスの献身?

「ニシノケイゴくん、ドウカ彼女を彼女にシテクダサイ」
「意味がわからん。いろんな意味で」
 目深に被った黒の猫耳フード。
 サイズが合わないのか、手が出ていないクリーム色のパーカー。
 下は学校指定の藍色のスカートなのがちょっと違和感。
 そんな小柄な少女が、俺の前で土下座。
 おかしなイントネーションと最前の台詞。
 ……やっぱり意味がわからんので、俺は考えるのをやめた。



 遡ること約二十分。早々に昼飯のコンビニおにぎり二個を食べ終え、昼寝の体勢に入ろうとした俺は、机の中に入っていた手紙に気がついた。
 ひょっとして、これは『ラブレター』とかいうものではないか? 
 そんなわけない、イタズラや間違いだと自分に言い聞かせつつ、上がった心拍数を抑えられないまま手紙を開く。
『お話があります。桜坂に来てください』
 時間も差出人の名前も書かれていないその手紙をすぐに机の中に戻し、周囲をキョロキョロと見回してから教室を出る。
『桜坂』とは、芝浦三崎高校、略して『芝崎高』にある小さな坂道だ。二つの校舎の隙間にある小さな坂道の真ん中に大きな桜の木が一本あり、陽を遮ってくれるため休憩するにはうってつけの場所として、一部の生徒に知られている。
 そんな場所で、俺は最前の少女を見つけた。深く被ったフードで目は見えないが、口元は笑っているように見える。
 少女は手の出ない袖をふわりと持ち上げ、「ヤア」と俺に声をかけてきた。
「……ああ」
 微妙な返事を返し、イタズラかと落胆しかけたとき、彼女の放った台詞が先のものである。
「ニシノケイゴくん、ドウカ彼を彼氏にシテクダサイ」
「冒頭と台詞変わっとる!」
 おれはホモか!
「冗談ネ、彼女を彼女にシテクダサイ」
「……だから、意味がわからんと言ってるだろうが」
 ジロと猫耳少女を睨み、来た方へ戻ろうとする。すると、猫耳少女が俺の前に回りこみ、「チョットくらい、話してイッテモバチあたらナイネ」と桜の木の下へと俺を押し込んできた。春はとっくに過ぎているから、今は緑の葉が風に揺れている。
「時間はかけないヨ。チョット頼みタイだけネ」
「何を?」
「彼女を彼女にシテクダサイ」
「意味がわからん」
 渋い顔をしつつ、このまま押し問答するより話だけでも聞いたほうが早いと考え直し、木の下の芝生に腰を下ろす。下がった視点で中が見えそうになったスカートからあわてて目をそらし、「で?」と話を促した。
 ネコミミ少女は俺の隣に腰を下ろすと、少しだけ肩が触れる。ドクンと鳴った心臓の音を聞きつつ、微妙に尻の位置をずらす。
「ソノ少女はネ、トテモ大人しい子ヨ。大人し過ぎテ、誰にも話しかけられないクライネ。デモ根は優シイ子で、モット明るくナッテモいいと思うわけサ。ダカラ、例え形だけデモ、彼氏デモできたら少しは変わるカモ知れないと思ったネ」
 イントネーションは相変わらず変なままだが、嘘やからかいとは思えなかった。前を向いたまま動かないネコミミ少女の横顔を眺め、「友達とかいないのか?」と聞いてみる。
「奥手ダカラネ。イツモ教室ジャ一人ぼっち、友達もイナイネ」
「お前は?」
「ワタシは……友達にはナレないヨ」
 苦笑した口元に何かしらの事情があるのだと察し、俺は質問を変える。
「まあそれはいいとして。何で俺なんだ?」
「彼氏にナッテもらうためには、彼女がいてはダメネ」
「そりゃそうだけど」
「ソノ点、アナタなら安心ネ」
「どういう意味だ?」
「モテナイ」
 スッパリと当たり前のように言われたが、事実彼女がいない(当然告白されたこともない)身分には歯噛みするしかなかった。
「フフ、アナタのことは調べたヨ。人間関係はリョウコウ、タダシ特別親しいユージンはイナイ。マタ、根がビビリなせいカ女の子とはホトンド話せナイ。このヘタレガ」
「誰がヘタレだ」
 言い返すものの、おおよそ的を射た内容だけに強く言えなかったりする。
「でもよ、好きな人くらいいるかもしれないぜ?」
「イルのカ?」
 負け惜しみ同然の捨て台詞に敏感に食いつかれ、ふと一人の少女が脳裏をよぎる。
 少し間を空けてから、「……いや」と目を逸らした。
「……怪しいネ。今嘘ついたカ?」
 ギクリ。
 逸らした目を戻せない俺に、ネコミミ少女はため息をつく。
「マア、イイネ。それじゃヤッテくれるカ?」
「俺、その子の顔も名前も知らないんだけど」
「ソレは受けてくれてカラ教えるネ」
 平均的なIQを持つ頭脳が、知っている女子を片っ端からクローズアップしていく。
「安心スルヨ。彼女の容姿をFIFAランクに例えルとフェロー諸島くらいダカラ」
「どこだよそこ!」
「チナミにクック諸島は193位ヨ」
「それを知ってどうしろと!?」
 ヒントにならないヒントにツッコミつつ、だが、と考え込む。
 彼女いない歴イコール年齢の負の歴史は、終わらせたいのが正直なところ。例え相手がフェロー諸島であったとしても(どこだかは知らないが)、だ。それを向こうから紹介してくれるとあれば、渡りに船のありがたい話である。
 しかし。
 例え『振り』であったとしても、そんな理由でそういう関係を作りたくはない。
 ……それに、『友達』ならそんな深くなることもないだろう。
 少し考えてから、思い切って顔を上げる。
「友達でもいいか?」
 首を傾げた猫耳少女に、俺は言葉を付け足す。
「やっぱり、振りで彼氏彼女とか、そういうのは良くねえよ。だから友達。それなら俺にも異論はないし」
 猫耳少女はジトっとこちらを見つめてくる。まあ、目元は見えないからそんな気がしただけだけど。
「彼女は大人しいカラ、アナタから積極的に話しカケテあげるコト。ソレだけ守ってくれレバ、マア、何でもイイネ」
「了解。まっ、友達が増えるのに悪いことはないからな」
 ごろりと寝転がり、緑の屋根を見上げる。葉の隙間から降り注ぐ陽光の雨が俺の眠気を誘うほど美しい。
「でっ、その子って誰なんだ? 俺の知ってる子か?」
「同じクラスダカラネ。知らないコトないト思うヨ」
 言ってから、少し間ができる。まるで言うのを躊躇っているようだ、と感じた数秒後、彼女はその名前を口にした。
「ソノ子とは、静森香澄ネ」
「へえー……」と何の気なしに呟き、二秒後に「へええええ!?」叫んだ。
「し、静森!?」
 唾を飛ばさんばかりの俺に、猫耳少女が腰を引く。
「ソ、ソウヨ。何か問題デモ?」
「あっ、いや……」
 頭をかきながら、猫耳少女のいない方に寝返りを打つ。だが、心臓の音は警鐘よろしく騒がしいままだった。
 何故なら、最前思い浮かんだ一人の少女こそ、静森香澄その人だったのだから。



 昼休みが終わり、午後の授業を欠伸まじりに聞いていた俺は、ふと隣の席に座る少女に目をやった。
 美少女ではないな、とは思う。
 マッシュルームさながらスッパリ揃ったおかっぱ頭、お世辞にも『パッチリしている』とは言えない細い目。頬のラインは太っているわけではないものの、『細面』と呼ぶには気が引ける。背が低いこともあって、スタイルもまだ『発展途上』といった印象が強い。
 猫耳少女が『フェロー諸島くらい』と評したのは、あながち間違いでもないなと思えた(ちなみに携帯で調べるとフェロー諸島は118位だった)。
 だが、それがどうしたと言うのだ?
 だから何だと言うのだ?
 容姿で好きになったり嫌いになったりするわけじゃない。そうだろう?
 何となく彼女を見ていると、静森が教師に指されて立ち上がる。目線がノートと教師の間をせわしなく動き、俺はちらと彼女のノートを見るとその問題だけが空欄になっていた。
 よりによってわからない問題を指されるなんてついてないなと思いつつ、そっと自分のノートを左に寄せ、(静森)と小声で呼ぶ。
 ビクっと震えた肩がこちらを向き、俺は答えが書いてある場所をコツコツと指で叩いた。俺の意図を察した目が答えに向き、小さな声が教室に響く。
「2x+5です」
 静森が席に着き、ちらとこっちを見る。ぶつかった視線にあわてて俯いてしまう彼女が可愛らしく、俺はふっと頬を緩めた。
「正解は3x+3だ。じゃあ次の問題を……」
 ため息とともに流れた教師の言葉に、俺は今すぐ穴を掘って埋まりたくなった。



 翌日、学校に行くと机の中に手紙が入っていた。
『屋上ニ来るヨロシ』
 名前も書かれていないのに誰からかわかる手紙に驚きを感じつつ、荷物を教室に置いて階段を上がる。
 屋上に出ると、紺のスカートを風になびかせ、フードを手で押さえる少女が振り向いた。
「オハロー、ケーゴ・ニシーノ」
「欧米か」
 微妙に古く感じられるツッコミを返し、欠伸をかみ殺す。
「で? 今度は何の用だ」
「セッカチなオトコネ。セッカチは嫌われるヨ。だからアナタはモテナイネ」
「うっせ」
 ネコミミ少女は呆れたようなため息を吐く。
「ヤレヤレ、ワタシが呼び出す理由ナンテ、一つシカないネ」
「まあ、そりゃそうか」
「イザ、決闘ヨ!」
「何で!?」
「冗談ネ。静森香澄のコトヨ」
「……いらねえボケかますんじゃねえよ」
 俺の言葉をスルーし、ネコミミ少女が続ける。
「彼女ト仲良くナッテモラウためニ、一緒にゴハンを食べてモラオウと思ってネ」
「……ああ、そんなことか。別にいいけど」
「彼女ノ好きなパンはメロンパンネ。特ニ購買のガ大好きヨ」
「ふーん」
 ネコミミ少女の口がむっと引き締まる。
「ナニ他人事ミタイに聞いてるネ。アナタが奢るヨ」
「えっ」
「ナンネ、イヤなのか? 二百円テイドのパンを奢るノモ躊躇うホドアナタはケチなのか? ダカラアナタはモテナイのカ? コノ、歩くデフレスパイラルガ!」
「こんなことでそこまで言うか普通!?」
 聞いたことねえよそんな悪口。大体、何でパン代一つ渋ったくらいでここまで言われなければいかんのだ。
「そもそも、俺はケチったわけじゃない。静森はいつも弁当持ってきてっから、いらないんじゃないかって思っただけだ」
「ソノ心配はナイネ。彼女は今日お昼を持ってきてナイヨ」
「あっ、そうなんか。よく知ってるな」
 そういえば、静森の荷物ももう置いてあったなとどうでもいいことを思い出す。
 特に意味もなく言った言葉に、猫耳少女が急にうろたえ始めた。
「キ、昨日電話で話したネ。ワタシの忠実ナ飼い犬がゴハン奢るカラッテ」
「誰が忠実な飼い犬だ!」
「HACHI!」
「アメリカでリメイク!?」
 とりあえずツッコんでから、「まあいいや」とまとめる。
「とにかく、静森は今日昼飯を持ってきてないんだろ? それだけわかればいいよ」
「ウ、ウム。ソレもソウネ」
 そこで聞きなれたチャイムの音がして、そろそろホームルームが始まることを告げた。
「おっと、そろそろだな。戻ろうぜ」
 俺が中へと戻ろうとしたとき、「ケーゴ」と呼びかけられる。
「今はジチョーしてイタガ、アナタ会話で下ネタはイケルクチカ?」
 ……女の子の台詞じゃないよなどう考えても。
 好感度が二十下がった目でジロッと彼女を睨む。
「嫌いじゃないが、お前限度なさそうだから嫌だ」
「ソウカ」とネコミミ少女が頷く。
「チナミに、ワタシの好きな食べ物はウコン・チンスコウ・マンゴーネ」
「微妙なとこついてくんじゃねーよ!」
 それ自体は普通の食べ物なだけにタチが悪い。
 やっぱりこいつは変な奴、という思いを強くし、俺は教室へ戻る足を踏み出した。

 昼休みになり、俺は「静森」と声をかけた。
「よかったら、お昼一緒に食べないか? 購買でパン買いすぎてさ」
 俺を見上げた目がすぐにうつむき、小さくこくんと頷く。
「教室で食うのはちょっとな……どこで食べようか?」
 隣同士とはいえ、男女で食べれば周囲の視線が気になるところ。特にそうした視線を気にしそうな静森のために言ってみると、彼女はすぐに立ち上がり「こっち」とまるで決めてあったかのようにすばやく教室を出た。あわてて二人分の昼飯を持ってついていく。
 彼女が向かった場所は、校舎裏にある花壇脇のベンチだった。普通はヒマワリなんぞを植えていそうだが、そこにあるのはひっそりと咲く月見草だった。一つの噂として、南海ファンだった校長がある名捕手の名言、『王や長島がヒマワリなら、俺はひっそりと咲く月見草』にあやかって作ったらしい。俺もヒマワリより月見草のが好きだからいいけど。
「ん」
 ビニール袋に入った購買のメロンパンとあんぱん、それにペットボトルのアップルジュースを渡す。小鳥が囁くような小声で「ありがとう」とお礼を言われ、なんだか背中がむず痒くなった。
「あっ、お金」
「いいよいいよ。俺のおごり」
「でも……」と渋る静森を「いいから」と遮る。
「こっちから誘ったんだしさ。ちょっとはカッコつけさせろ」
 こっ恥ずかしいことをイタズラっぽい笑いで誤魔化し、自分もコンビニ袋からカレーパンを取り出す。それを見て、静森が細い目をかすかに見開いた。
「どうした?」
「さっき、購買で買い過ぎたって……」
 我ながらすぐばれる嘘をついたものだった。「そうだっけ?」と何食わぬ顔で誤魔化し、カレーパンにかぶりつく。それを見て、静森もメロンパンに口をつける。その横顔は、どこか嬉しそうに見えた。
 パク、もぐもぐ。
 パク、もぐもぐ。
 パク、もぐもぐ。
 パク、もぐもぐ。
「……」
「……」
「……」
「……」
 ……ち、沈黙が重たい……。
 元々自分から喋るタイプではない静森を相手にしているのだから、自分から切り出さなければこうなることは火を見るより明らかだった。まずいと思い何か話そうとはするのだが、どんな話ならばうまくかみ合うのかわからない。
 カレーパンを半分ほど腹に収めたあたりで、俺は絶対に外れないと言われるテーマを切り出した。
「良い天気だな」
「……そう、だね?」
 メロンパンをくわえたまま、静森が首を傾げる。あれっと思い空を見上げれば、今にも雨が降ってきそうな灰色の空が広がっていた。
「……そうでもないな」
「……そう、だね」
 途切れた会話に空気が重くなる。ちらと隣を見れば、静森は一途な瞳でメロンパンを食べている。そんなに好きなのか?
 どうしたものかとカレーパンを喉に流し込んだ後、俺は気になっていたことを聞いてみることにする。
「静森」
 うん? とメロンパンにかぶりついたままこちらを振り向く。その姿は小動物に似ていてどこか可愛らしい。
「お前さ、猫耳ついたフードかぶってる変な女子に心当たりあるか?」
 ブフォウ。
 ……静森が口に含んだメロンパンを噴出した。彼女はこっちを向いていたわけだから、当然『それら』は俺に飛んでくるわけで。
「おわっ!」
 とっさに飛び上がる俺と、俺以上に慌てふためく静森。
「ご、ごめんなさい! 驚いちゃって、その、あっ、ハンカチ……」
 スカートのポケットをパンパンと叩き、持っていなかったのか辺りをキョロキョロと見渡した後、何を思ったかメロンパンを包んでいたビニールを俺に差し出してきた静森。それでどうしろと言うんだ。
 普段は大人しい様子しか見ていないだけになんか新鮮だった。
「大丈夫だよ。これくらい」
 ぐいっと顔についた『それ』を手で拭う。
「しかし、静森もテンパることがあるんだな」
 苦笑混じりに言うと、
「あ、あう、その……ごめんなさい!」
 彼女は口元を手で覆い、目に涙を溜めて走っていってしまった。
「あっ……」
 冗談のつもりで言ったのだが、うまく伝わらなかったのだろうか。
 後で謝ろうと決めたところで、頬にポタリと冷たい感触がする。
 どうやら降ってきたらしい。今日は傘を持ってきていないことを思い出したが、まあテキトーに借りて帰ればいいと思いなおし、俺も教室に戻る足を踏み出した。

 教室に戻ると、席についている静森と目が合った。が、すぐに彼女は俯いてしまう。
 気になっている女の子に目を逸らされ、若干傷ついた雨の日の午後だった。



 翌日、一時間目が終わった後の休み時間、俺は三人の女子に囲まれていた。
 べ、別にハーレム展開とかドロドロの昼ドラ展開とか、そういうわけじゃないんだからね! カン違いしないでよね! 
 ……今のツンデレにも特に意味はない。なんだろう、疲れてんのかな俺。今もすげー眠いし。
 なんてことはない、田中、丸山、楠木の仲良し女子高生三人組、通称『田中・マル・クス・トーリオ』に囲まれているのである。もちろん恋愛要素もフラグも存在していないし、ついでに立てる気もない。
 ちなみに、誰が田中で誰が丸山で誰が楠木なのかは知らん。ひどいとか言うな。
「ねっ、ねっ。静森と付き合ってるってホント?」
「教えてよっ、西野」
「どっちが告ったの? やっぱアンタ?」
 アイシャドウばっちりの目を輝かせる三人に、俺は隣の席を見やった。トイレにでも行ったのか、静森の姿がないことにほっとしつつ、「いや」と否定する。
「えー、でも昨日一緒にゴハン食べてたの見たしー」
「最近二人とも昼休みいないしー」
「香澄ちゃんてば、西野とはよく話すしー」
「……どれから答えていけばいいんだ?」
 三人同時に喋るんじゃねえよ。俺は聖徳太子か。
「で、どうなの?」
「で、どうなの?」
「で、どうなの?」
 興味津々の眼差しに、俺は首を傾げて「いや」と応じる。
「本当に何もないよ。たまたま近くにいたから、ちょっと話しただけだろ」
 今は、という言葉は飲み込み、三人の反応を待つ。
「意気地なしー」
「ろくでなしー」
「甲斐性なしー」
 悪口三連発とかちょっと酷くない?
「なんでお前らにそこまで言われなきゃいかんのだ」
「だってねー」
「ねー」
「ねー」
 ねーじゃねえだろと思いつつ、「そういや」と意図して話を変える。
「静森にさ、こう、変な友達っている?」
「「「変なって?」」」
 うわ、ハモッた。
「なんか猫耳つけた、変な喋り方する子」
「いるわけないじゃーん、そんなキモい子」
「てゆーか猫耳って。ちょーウケル」
「てゆっか、あの子ってあんまり友達とかいなそうだよね。悪い子じゃないけど」
 いない、か。まあ、俺もそんな奴見たことねーし。
 てことは、あの猫耳少女は普段は普通の女の子で、猫耳フードをかぶるとああなっちまう、ってことか。
 もう少し静森について聞こうとしたが、
「ねー、今日帰りカラオケ行かない? 『カラオケ王に、おれはなる!』」
「行く行くー。フッ、『俺様の美声に酔いな』」
「あーん、皆アニソン歌う気まんまんじゃーん。『二時間で足りるのか?』」
 なんか違う話題に入っていたので、俺は話からエスケープすることにした。机に突っ伏し、チャイムが鳴るまでじっと寝て過ごす。
 もう少しで本当に眠れる、というところでチャイムが鳴り、大欠伸をしながら二時間目を迎えることになった。

「くちゅん!」
「……可愛いくしゃみだな」
 珍しく食堂で昼飯を食べ終え(今日は一人で食べた)、教室に戻ってきた俺の机の中に入っていたのが呼び出しの手紙だった。
 相変わらず場所しか書かない手紙に書いてある通り、管理棟四階の廊下端に向かうと、いつも通りに猫耳フードを被った少女が盛大にくしゃみをしていた。
「風邪か?」
「昨日、チョット濡れちゃってネ」
 洟をすすった猫耳少女が、はっとしたような顔をする。
「ぬ、濡れたッテ雨で濡れたんダカラネ! カン違いしないでヨネ!」
「何も言ってねーし」
 ……なんか下ネタっぽい気がしたけど、気づかなかったことにした。
「でっ? 今日は何の用だ?」
「ウム。今日は彼女と一緒に帰ってモラオウと思ってネ」
「一緒に登下校ってやつか。まあ定番イベントだな」
「ソシテ別れる寸前ニ熱い抱擁をカワシ……」
「高校生がすることじゃねえな」
「イザ、決闘ヨ!」
「またかよ!? おかしいだろその流れ!」
「冗談ヨ。でも、熱い接吻くらいはホシイネ」
 接吻、イコール、キス。方程式が頭の中で完成し、その相手に静森が浮かんできた瞬間にボン、と何かが破裂する音がした。熱い顔を雨で濡れた犬さながら左右に振り、煩悩を払う。
 何言ってんだと顔を上げると、猫耳フードの下はゆでダコみたいに真っ赤になっていた。
 ……こいつ、意外に純情なのか?
「言いだしっぺが照れるんじゃねえよ」
「だっ、だってFKがDKなんて、そんな……」
「FK? DK? なにそれ?」
「隠語よ。フリーキックを蹴るのがドンキーコングという意味よ」
「なんでキスの話からゴリラの話になるんだよ!」
 いやサッカーの話か? ツッコミどころを悩んでから、ふと気づく。
「今、普通に喋ってたな。普通に喋れるんじゃねえか」
 今までカックンカックンなイントネーションだっただけに、ちょっとギャップを感じる。
「えっ、あっ、いけない」
「いけなくないだろ。そっちの方が聞きやすいし、可愛いと思うぞ」
 言ってから、女の子に向かって『可愛い』と言ったことに顔が熱くなる。フードの下も少し赤く染まっており、俺は無意識に目を逸らした。
「……そういや、お前の声って聞き覚えあるな」
「っ!」
 誰だっけ、と思い出そうとしたとき。
「シャーラップ! ドンシンノー! アインファインセンキュー! オマエのミミはロバのミミー!」
 今まで以上にわけわからんことを言い始めた。
「お前の耳は猫だけどな」
 とりあえず一つだけツッコンでおく。
「ウルサイ! 今度ワタシの正体センサクシタラ、週一回口内炎にナル呪いをカケルヨ!」
「地味に嫌だからマジで勘弁してくれ」
 わかった、もうしないからと落ち着かせ、俺は大きく一つ息を吐く。
「用件ってのはそれだけか? それなら俺は教室戻るけど」
「アア、ソウネ……くちゅん!」
 また可愛いくしゃみをする猫耳少女。
「本当に風邪みたいだな。保健室行っておくか?」
「……いや、大丈夫ヨ」
 洟をすすりながら、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「心配シテくれるノカ? 嬉しいネ」
 ドクンと心臓が高鳴り、反射的に目を逸らしてしまう。素直な笑み、と言って差し支えない彼女の笑顔は、普段が普段だけにグサッと来た。
「……けっ、うつされたら困るから言っただけだ」
 憎まれ口を叩き、「じゃな」と彼女に背を向ける。くちゅん、と後ろで聞こえた声にもう一度振り返ると、額を押さえてうつむく猫耳少女の姿があった。
 なんとなく後ろ髪を引かれる思いを抱きつつ、俺はもう一度教室に戻る足を踏み出した。



 放課後、猫耳少女に言われたとおり、一緒に帰ろうと静森を誘おうとしたとき。
「くちゅん!」
 彼女は盛大にくしゃみをした。
「静森、お前も風邪か。大丈夫か?」
「ふえっ? あっ、西野くん……」
 くしゃみをして恥ずかしいのか、それとも風邪でか、静森の頬は少し赤い。
「家まで送ってくよ。別に今日残る理由とかないだろ?」
 少し赤い顔が、うつむきがちに、「……うん」と答える。
 静森と一緒に教室を出て、生徒で混雑する廊下を歩きながら、「なんで風邪なんてひいたんだ?」と聞いてみる。
「昨日、雨降ってきたけど、傘がなくて。それでだと思う」
「あー……なるほどね」
 真面目な性格だから、ひょいっと誰かの傘をパクッて……もとい、借りてということができなかったのだろう。まあやっちゃいけないことなんだけど。
 階段を降り、昇降口に出ると、何人かの生徒が外を見ながらなにやら騒いでいた。どうやらまた雨が降ってきたらしく、立ち往生しているらしい。
「また雨か」
 ため息混じりに言い、靴を履き替える。同じように上履きを脱いだ静森が「あっ」と声を上げた。
「私の傘、あった」
「へっ? どれ?」
 彼女がその傘を俺に見せる。瞬間、俺の心臓が凍りついた。
 紳士用傘らしく男性向けに合わせた大き目の傘で、色は黒。『NIKE』と入ったロゴマークといい、静森が使うような傘には見えないが。
 ていうか、その傘。俺が昨日パクッた……もとい、借りたものじゃありませんか。
「見つかってよかった。やっぱり私が見落としたのかな」
「あっ」
 黙っていればわからない。見つかって喜んでいるみたいだし、俺が使ったなんて知るより自分が見落としたと思ってるほうが良いかもしれない。
 けど。
「……静森。ごめん。それ、俺が昨日勝手に借りた」
 相手の承諾を得ないで借りればそれは盗んだと同義語である。わかってはいたものの、面と向かって『盗んだ』とは言えなかった。
 静森が「えっ」と息を呑む。
「昨日傘持ってなくて、それで……言い訳なんてできないけど、本当にごめん」
 人の多い昇降口で、深々と頭を下げる。集まったであろう視線に慌てたのは静森の方らしく、「あっ、あの」と戸惑う声が下げた頭に届く。
「気にしてないから、その、顔を上げて。ねっ?」
 それでもたっぷり三秒ほど下げてから、ようやく顔を上げる。視線が集まったからか、ますます赤くなった静森にもう一度「ごめん」と謝り、外に出た。
 静森が傘を差し、じっと俺を見る。
「どした?」
「あの……西野君、今日は傘ある?」
 いつもよりも更に小さな声で、彼女は言った。
「ああ」
 そんなことか。俺はがさごそとかばんを漁り、昨日入れたばかりの折りたたみ傘を取り出す。
 小学生時代から使っていた傘で多少小さくはあるものの、壊れてはいないので捨てられずにいたものだった。
「ほら、これ」
「……よかったら、その……一緒の……傘で……」
「えっ?」
 折りたたみ傘を探していて、静森が何か言っていたことに気がつかなかった。
 聞き返した俺の声に彼女も顔を上げ、俺が持っていた折りたたみ傘に目が向く。
「あっ……あるんだ」
「おう。同じ轍は二度踏まない、それが西野恵吾だぜい」
 ちょっと調子に乗って言ってから、「でっ? なんて言ったんだ?」と聞きなおす。
「え……ううん。なんでもない」
 静森は首を振り、早足に俺の横を通り過ぎる。あわてて俺も歩き出し、隣に並んだ。
「ところでさ、静森の傘って女の子っぽくなくないか?」
 暗い色合いといい、大きさといい、静森らしくないような気がする。
 そのことを指摘すると、彼女は小さく苦笑した。
「もともと、これは私の傘じゃないの」
「へえ?」
「……覚えてないんだ」
 静森がうつむきがちに笑い、言葉を続ける。
「受験の帰り、雨が降ってきて。私は傘を持ってきてなかったから、どうしようかなって困ってたとき、この傘を貸してくれた人がいたの」
「そりゃ親切な人もいたもんだ」
 けらけらと笑って言うと、彼女が俺を見つめて言った。
「西野くんだよ」
「何が?」
「傘。貸してくれたの」
「……そうなの?」
 まるで他人事みたいに呟いてから、受験のときのことを思い出す。
 確かに雨は降ってきていた。入れっぱなしにしていた折りたたみ傘の存在を忘れて長い傘を持っていき、教室でかばんを開いたときにあーあと思ったことも思い出し、そういえばあの頃傘を失くしたんだっけと気づいてから、「あ」と漏れた。
「そういや、そんなこともあったな」
「思い出してくれた?」
「まあ、な。あー、あれが静森だったんだ」
 今もまだうろ覚えでしか思い出せないが、静森の差す傘に見覚えがあることにも気づけば、そういえば俺のだったのかという気もする。
「……やっぱり、返さなきゃ、ダメかな?」
 俺を見つめる不安げな瞳に、「返して」なんて言えるわけがない。
「いや、そのまま使ってよ。気に入ってもらえてるなら何よりだしさ」
「本当? ……ありがとう。大切にするね」
 静森が本当に嬉しそうに笑う。彼女しては珍しい無防備な笑みに、俺はあわてて目を逸らしてしまった。
 歩きながらちらと彼女を見れば、両手で大事そうに傘の柄を握り締めている。それがなんとなく嬉しくて、俺はニヤける口元を必死にかみ殺した。
 やっぱり話は弾まなかったが、好きな子と並んで歩く雨の帰り道は悪くなかった。



 一緒に帰って以来、静森との距離は大分縮まったような気がする。
 休み時間によく話すようになり、昼休みには一緒にご飯を食べる。そして時間が合えば二人で帰った。『二人が付き合っている』という噂が流れるまでにそう時間はかからず、否定しながらも相手がどう思っているのか、チラッと横目で盗み見る日が続いた。
 いっそ本当にそうなれたら。そう思う一方で――
「オキャクサン、終点ダヨ」
「……俺は酔っ払いのサラリーマンか」
 昼休み、考え事をしているうちに眠ってしまったらしい。突っ伏した頭を上げればすでに予鈴が鳴った後らしく、冷房の効いた図書室にはまばらにしか人がいない。
「アナタはイツモ眠そうネ」
 猫耳少女がニヤッと笑う。こみ上げてきた欠伸をかみ殺し、「……ああ」と曖昧に呟く。
「授業中寝てないからな」
「寝るナヨ」
「……お前にツッコまれるとは思わなかった」
 心底驚き、猫耳フードに隠れた面を見つめる。何も言わずじっと見つめる俺を不思議に思ってか、彼女が首を傾げた。
「ナンネ? 顔にナニかついてルカ?」
「猫耳」
「ソレは知ってるネ」
 またコイツにツッコまれた。どうやらまだ覚醒しきっていない頭をコンコンと叩き、「悪い」と詫びる。
 背もたれに体を預け、ぐっと体を伸ばす。固まった関節が徐々に開き、心地よい痛みで眠気が多少抜けていく。
「なあ、お前今日ヒマ?」
「ふぇ? ナンネ急に。殴りこみカ?」
「今日空いてるかどうか聞いて即座に殴りこみを連想するお前の発想力すげーよ!」
「ツッコミ長いネ」
 ……コイツにダメ出しされた。まあ長い自覚はあったけど、軽くショック。
「うっせ。……今日さ、ラーメンでも食いに行かないか? 『麺独裁』っていう旨い店があってさ」
「漢字ダトいいケド、音ダケだとイカニモやる気ナサソーネ」
「そりゃ俺も感じてた。で、どうだ?」
 うーん、と困ったように首を傾げる猫耳少女。
「イキタイのはカワカワだが」
「ヤマヤマだろ」
「ヤマヤマだが、猫耳ツケテ人前に出る勇気はないネ」
「素顔で行けば良いだろうに」
「ヤーヨ。こんなカッコシテルなんて知られタラ、恥ずかしクテ外歩けナイネ」
 恥ずかしいっていう自覚はあったのか。内心驚愕しつつ、「そっか」と背もたれに体を預ける。
「オススメの店ナラ、静森香澄を連れてイッテハどうネ。メルアドはモウ聞いたのダロウ?」
「まあ、な」
「……ソレトモ、彼女が嫌いにナッタカ?」
 猫耳少女の声が不安げに揺れる。「そんなことない」と強く否定し、「なら」と携帯をポケットから取り出す。
「せめて、メルアドくらい教えてくれないか?」
 猫耳少女は少し考えてから、「……イヤ、ムリネ」と首を横に振った。
「ワタシ、携帯持ってナイネ」
「マジか? 携帯持ってない高校生って相当珍しいぞ」
「ダイジョウブヨ。世を忍ブ仮のワタシが持ってイルネ」
「どこのデーモン閣下だ……じゃない、それでいいから教えてくれよ」
「イヤネ。シタラ正体ばれるヨ」
「いいだろ別に。誰にも言ったりしねえよ」
「イヤネ!」
 叫び、猫耳少女が立ち上がる。同時に授業開始のチャイムが鳴り響き、俺の頭を急速に冷やしていった。
「……悪い。もう言わないよ。だから」
 どこにも行くな。そう言おうとして果たせず、彼女が先に口を開いた。
「静森香澄と、ヨロシクやるヨ。彼女と仲良くナッテくれタラ、ワタシも嬉しいネ」
 そう言って、にっこりと笑う。彼女がよく見せるニヤついたものではない素直な笑顔に、心臓が高鳴るのを自覚した。
「モウ授業が始まってるネ。アナタも早く戻るヨロシ」
「あっ……」
 引き止める間もなく、猫耳フードが図書室を出て行く。
 涼しいはずの冷房が、火照った体には凍えるように寒かった。



 あの日以来、猫耳少女に会えない日々が続いた。
 もともと、彼女が手紙で呼び出してそこで会うのが常になっていたから、こちらからではコンタクトを取れないのだ。唯一つながりのありそうな静森も、彼女の話になると口を渋る。
 あれからすぐにテスト期間に入ったから、彼女の言う『世を忍ぶ仮のワタシ』とやらも勉強に忙しいのかもしれない。
 理性が真っ当な理由を作り上げるが、俺にはもう会えないような嫌な予感が頭から離れなかった。まるで、『静森香澄と自分をよい雰囲気にすること』だけが、彼女の存在意義ででもあったかのように。
 ちらと隣に座る少女を見やる。
 猫耳少女のおかげで、静森とは仲良くなれた。今までよりも話すようになって、一緒に帰ったりもして、前よりも彼女を好きになった。それに、少なくとも嫌われてはいないはず、という自信もある。好きだった子と仲良くなれたのだから、彼女のことだけを考えるべきなのかもしれない。
 だけど。
 一方で、猫耳少女のことが頭から離れないのも事実だった。バカなことを言う迷惑なところもあるが、時には真剣なときもあり、時々見せる素の表情、と言っても目は見えないんだけど、隠さないむき出しの気持ちみたいなのが見えるときがあると、一瞬ドキッとする。
 静森へのそれとは少し違う、だけどよく似た想い。
 これは押し隠して静森のことを考えるべきなのか。それとも……
「どう」
「した」
「の?」
 不自然に三つに割れた質問に顔を上げる。朝、まだ生徒もまばらの教室で、そこには予想通りの仲良し三人組、通称『田中・マル・クス・トーリオ』が立っていた。
「別に。どうもしないけど」
「ふーん」
「そうは」
「見えないけど」
 相変わらず息の合った三人に、口を押さえて欠伸をする。
「「「女でしょ」」」
 三人そろって即答しやがった。「なぜわかる!?」と驚愕する俺に、「最近の西野見てれば大体、ねえ」と目配せしていた。
 静森との噂が回っているみたいだから、わかりやすいっちゃわかりやすいのか。
「まあ、な」
 否定する元気もなく、曖昧に肯定する。
 途端、三人は顔を近づけ、囁き声を大きくした。囁き声を大きくってなんか矛盾している気もするが、実際そうなのだから仕方ない。
「いいじゃんいいじゃん、がんばってね」
「あたしらは応援してるよ。後で話聞かせてね」
「それで、いつ自分の気持ち伝えるの?」
 自分の気持ち。静森香澄と猫耳少女、二人を同時に好きになってしまったこと。
 どうしたらいいかなんてわからない。このまま静森に告白しても、ダメな気がする。万一成功したとして、猫耳少女の方は忘れられるのか? 答えは『NO』だ。
「西野、ひょっとして迷ってる?」
 初めて、真ん中の子が一人で喋った。そのことに若干の驚きを感じつつ、「ああ」と正直に答える。
「迷ったときはね、西野。Bダッシュだよ」
「はあ?」
 自信満々、という笑みを浮かべ、少女が言った。
「マリオの話。やったことくらいあるでしょ? 困ったときは、Bダッシュで突っ込むの。すぐドッスンにつぶされるかもしれないし、崖から落ちちゃうかもしれない。ひょっとしたらクリボーにやられちゃうかも。でも、動かなかったら何も始まらないからね。タイムアップでゲームーオーバーなんて、次にも生きないしつまらないでしょ?」
「でしょ?」
「でしょ?」
「だから、とにかくBダッシュで突っ込んじゃうの。マリオみたいに何機もいないし、リセットボタンもないけどさ、やり直しがきかないなんてこともないでしょ?」
「でしょ?」
「でしょ?」
 末尾だけ残りの二人が便乗する。調子いい奴、という思いを外に追いやり、俺は彼女の言葉を反芻した。
 迷ってたって仕方ない。動いてみなきゃ始まらない。Bダッシュで突っ込んで、玉砕するのも悪くない。
 うん、そうだと頷き、顔を上げる。
「ありがとよ、田中」
「アタシ楠木だけど」
 大事なところで名前を間違え、ギロッと睨みつけられる。三人分の視線は石化しそうな殺気を纏っていて、俺はふけない口笛を吹きながら足早にその場を離れた。
 
 一時間目が終わった後の休み時間、俺は授業中にしたためた手紙を持って静森に話しかけた。
「静森。前に言った、猫耳の子のことなんだが」
 静森が細い目を見開き、少しだけ頬を赤く染める。
「え、えと、その……何のことか」
「俺はあいつに会わなきゃならないんだ。今日中に、これをあいつに渡してくれ」
 そう言って、手紙を静森に差し出す。破ったノートを、丁寧に四つ折りしただけの簡易な手紙だった。
「今日の放課後、桜坂で待つって書いてある。お前が来るまで帰らないからなって伝えておいてくれ」
 彼女の返事を待たず、自分の席につき狸寝入りに入る。眠気はあったが、眠れそうにはなかった。
 今日、自分の気持ちに決着をつける。踏ん切りをつけたBダッシュは、正解なのかはわからない道でも、確かに一歩進めてくれた。

 陽光を遮り、きらきらと光の雨を降らせる『桜坂』の桜の木の下待つこと三十分。帰宅部がある程度帰り、部活組が帰るにはまだ早い時刻に、彼女は現れた。
「……オハロー、ケーゴ・ヒガシーノ」
「俺は直木賞作家じゃねえぞ」
「間違えたネ、コージ・ヒガシーノ」
「チリチリでもねえ!」
 久しぶりにするツッコミに、自然と笑いがこみ上げてくる。しっくりくる、という感触を胸に、俺は自分の気持ちを再確認した。
「デ、今日はナンノ用ネ。ワタシは『テトリス』で忙しいネ」
「暇人じゃねえか」
 てゆーかまた微妙なチョイスだな。『テトリス』て。
 いつも通りの手の出ない長い袖、猫耳のついたフードとすっぽり隠れた目元、カックンカックンなイントネーションといい、変わらない猫耳少女がそこにいる。
「俺さ、お前に嘘ついてたから。本当のこと言おうと思って」
「ナンネ?」
「前にさ、『いつも眠そうだな』って聞いてきたことあったろ? そん時、『授業中寝てねーから』って答えたけど、そうじゃねえんだ。いやまあ、授業中寝てねえのは本当だけどさ」
 そこまで言って俯く。
「……眠れないんだ。夜」
 風が吹きすぎ、汗ばんだ体を冷やしていく。深呼吸をして、俺は続けた。
「小学生の時で、卒業式が近づいてきた頃さ。親の転勤とかあって、俺はみんなとは違う中学に行くことになってたんだ。最初はそんな意識とかしなかったんだけど、ふと考えちまってさ。仲良かったあいつらと会えなくなっちまう、その頃好きだった子と離れちまうんだって思ったら、急に寝るのが怖くなったんだ。
 その頃は、寝たら朝になるって思ってたからさ、じっと布団に包まって、寝ないようにしてた。それでも、当たり前だけど明日は来ちゃってさ。あの頃は、本当に夜明けが来るのが怖かった」
 子供だった、と言えばそれまでかもしれない。でも子供だからこその感受性みたいなのがあった。だから、余計に怖さが残っているのだろうか。
「それからかな。夜なかなか眠れなくて、布団に包まってじっと朝が来るのを待つようになったのは。そんで、あんまり親しい友達とかも作らないようにした。別れたとき辛いし、なんとなく別れたときのこと考えて深く入らないようにしてた。けど、もう遅い」
 俺の話を、猫耳少女は黙って聞いていた。相変わらず目元は見えないが、真剣に聞いてくれていることは雰囲気からわかる。
 だから、と俺は語気を強めた。
「だから、お前はいなくなるな。頼む」
「……ワタシは、ソンナ深い関係にナッタ覚えはナイネ」
「俺はお前に会うのを楽しみにしてたよ。今日はどんな変なことを言うのか、それにどんな風にツッコもうか、そればっかりずっと考えてた」
「女の子にツッコムことシカ考えないナンテ、アナタとんだ変態ネ」
「そういう変なことを言うお前が好きだ」
 勢いのままに、でも本心を言葉にした。好きだという思いは嘘偽りじゃない、ましてや寝惚けているわけでもない。
 猫耳少女の頬が紅潮し、同時に口元が怒りの形に歪む。
「ナンネ、ソレ。静森香澄はどうしたネ。ワタシは彼女と」
「静森も好きだ。でも、お前も好きなんだよ!」
 これもまた、嘘偽りのない本心だった。惚れっぽいとか、優柔不断とか言われたってかまわない。
 大人しくて、どっか危なっかしくておっちょこちょいで、だけど人に頼るのが苦手な静森。守ってあげたくなる。助けてあげたくなる。それで一緒にいて、はにかむように浮かべる小さな笑顔が可愛くて、俺はもっと彼女を好きになるんだ。
 でも、残念なことにコイツも好きだった。
 いつも馬鹿みたいなこと言って、変な喋り方で、猫耳つけた変な少女。それが楽しくて、ツッコむのが面白くて、時々ふっと素が見えたときにたまらなく可愛く思える。静森とは違うけど、やっぱり魅力的で、そして好きだった。
「自分勝手で、優柔不断なのもわかってる。だから自分の気持ちをちゃんと決めるまでは、付き合ってくれとは言わない。でも、いなくならないでくれ」
 言うべきことは言った。後は返事を待つのみ。顔を俯け、じっと猫耳少女の答えを待つ。
 しばらく続いた重い沈黙を風が押し流し、彼女が口を開いた。
「……モウ一回、言うネ」
「何を?」
「ワタシを、ドウ思ってイルカ」
「好きだって言ったろ」
「モウ一回」
「好きだ」
「モット大きな声デ」
「好きだ!」
「三回連続デ」
「好きだ好きだ好きだ!」
「あと十回」
「好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ、好きだ!」
「英語で」
「I LOVE YOU!」
「ドイツ語で」
「知らねえよ!」
「赤ちゃんっぽく」
「ちゅきでちゅっ! って言わすな!」
「もう一回、大きな声で」
「好きだ!」
「もっと伸ばして」
「好きだーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
 学校中に聞こえるんじゃないかってくらいに叫び、荒くなった息を整えもせず彼女を見つめる。
 小さくなっていった声が、「もう一度」と囁く。躊躇うことなく「好きだ!」と叫ぼうとして。
 それより早く、彼女はフードに手をかけ、後ろへと下ろした。反射的に「あっ」と声が漏れる。
 マッシュルームさながらスッパリそろったおかっぱ頭。お世辞にも『パッチリしている』とは言えない細い目。頬のラインは太っているわけではないものの、『細面』と呼ぶには気が引ける。
 容姿としては確かにフェロー諸島かもしれない。でも、俺にとってはスペインやブラジルにだって引けを取らない、とびっきりの美少女がそこにいた。
 頬を真っ赤に染めて、今にも泣きそうな瞳で、はにかむような笑みを浮かべて。
「……もう一度、今度は私を、好きだと言ってくれますか?」
 静森香澄が、そこにいた。



 夜。雲一つない空を自分の部屋から眺める。
 期せずして静森に自分の気持ちを伝え、正式に付き合うことになってから初めてのデートを明日に控え、俺はじっと布団に包まりうずくまっていた。
 眠気がないわけではない。しばしば訪れる欠伸に眠気を実感するが、しかし気持ちと体が眠ることを拒んでいる。今までであればそれは、明日が来ることへの不安、恐怖が原因だった。
 けど、今日は違う。
 ふとマナーモードにしてあった携帯が震え、あわてて手に取った。ディスプレイに出た『静森香澄』の名前に、あわてて「はい」と吹き込む。
(……今履いてイル、パンツの色は何色カナァ?)
 恐ろしく最低な第一声だった。
「悪い、今全裸だった」
(奇遇ネ、ワタシもヨ)
 ……やばい、コイツこんなネタに乗っかってきやがった。
(それじゃあ、セッカクだから会わないカ? 今駅にいるんダガ)
「捕まるぞ!」
(コレカラ公園に行くカラ、茂みで獣のヨウニ熱く交わり――)
 ブツ。ツー、ツー。
 携帯を床に置き、今のことをなかったことにする。今夜は月が綺麗だなあ。
 再び携帯が震える。慎重に携帯をとり、相手が話すのを待つ。
(……ごめんなさい。ちょっと緊張して、変なこと言っちゃった)
 静森の話し方だった。少し聞き取りにくい小さな声だが、猫耳状態よりよっぽどマシだ。
「気にするな。ちなみに俺も全裸じゃないからな」
 一応フォローしておく。なんかいらないカン違いされても困るし。
 彼女は二重人格などではないらしい。普段は人見知りで奥手なので喋らないが、顔を隠すなどで恥ずかしさがなくなれば、平気で下ネタも言える猫耳少女になるというわけだ。ちなみに顔を隠せばなんでも良いらしく(つまり顔が見られないので電話でもできる)、猫耳である必要はないとか。ここは趣味らしい。
 ちなみに、猫耳状態のことで素の静森をからかったことがあるが、二秒後に顔を真っ赤にして気絶してしまった。触れてはいけない領域だったようだ。
「で? どうしたこんな夜中に」
(うん……ちょっと。西野君の声が聞きたくなって)
 顔が鉄鍋さながら急激に熱くなる。同じように赤く染まったであろう静森の頬も想像に難くなく、中学生のようなぎこちない雰囲気が落ちる。
「明日はさ、九時に駅でいいんだっけ?」
(えっ。うん。九時にみどりの窓口)
「わかった。サンキュ」
 何度となく確かめ、メールを見ればわかることを今さら確認し合う。何か話したいけど何を話せばいいかわからない、そんな沈黙の後、心配そうな声が俺の鼓膜を震わせる。
(電話。とるの早かったね。やっぱり眠れなかったの?)
「ん」と返事が喉にからむ。
「まあ、ね」
(私もね、なかなか眠れなくって)
「どうして?」
 もじもじ、といった感じが電話越しにも伝わってくる。
(……笑わない?)
「ものによる」
(あっ、ひどい)
 拗ねた声に、不満気に唇を尖らせる静森が目に浮かぶ。その姿が可愛らしく、つい口元が緩んでしまう。
「冗談だよ。笑わない」
(本当に?)
「本当に」
(絶対?)
「絶対。命に賭けて」
 静森は少し躊躇った後、さらに小さくなった声で言った。
(明日が楽しみで、眠れないの。遠足前日の子供みたい)
 恥ずかしげに言う恋人に、口元が半端じゃないくらいニヤける。ごまかすように「ああ」とすばやく応じ、笑い声が届かないようにした。
「俺もだよ。明日が楽しみ過ぎて眠れない。こんなの初めてかもしれないな。明日が待ち遠しい、夜明けが待ち遠しいなんてことは」
 いつか明ける暗い夜。今日の終わりと明日の始まりを告げる大きな暗幕。怖くてしかたなかったそれが、今はひたすらに待ち遠しい。こういう眠れない夜なら、悪くない。
「眠れなくても、布団には入っとけ。横になってるだけでも違うと思う」
(うん。そうする。ありがとう)
 話の終わりを感じ、じゃな、と言いかけたとき、(西野くん)と先手を打たれた。
「どうした?」
(うん、あの……)
 言い難そうな雰囲気に、「どうした?」ともう一度促す。
(うん。その、ね?)
「ああ」
(ゴムは絶対にツケナクテはダメヨ。ワタシ生は認めナイネ。アト初めてダカラ優しくするコト。決シテ性欲に任せて乱暴シテはダメネ。デモそんなシチュエーションも嫌いじゃナイ――)
 ブツ。ツー、ツー。
 唐突な下ネタを遮り、携帯を充電機にのせて立ち上がる。
 窓の外はまだ暗いが、遠くでかすかに白み始めている。徐々に明るくなる空を、俺は遠足前日の子供のように、ワクワクしながら飽きもせずにじっと眺めていた。





 エンディングテーマ
『彼女じゃなきゃダメですか。友達じゃダメなんですか』

 声をかけるだけなのに 口が動いてくれないの
 君を見ると頬が火照って まともに顔も見れなくて
 だから私は手紙を書くの ほんの少しだけ勇気を出して

 手紙を書く手が震えてて 何度も何度も書き直す
 たった一行だけなのに 何度も何度も書き直す
 初めて贈った私の手紙 君はどう思ったのかな

 友達と言ってくれて 嬉しかった
 彼女ではないことが 悔しかった

 彼女にならなきゃダメですか 友達のままじゃダメですか
 二人で帰っちゃダメですか 私が隣じゃダメですか
 手を繋いではダメですか 告白しなくちゃ、ダメですか?



 ごめんと言って返してくれた 私の傘
 ずっと謝ってくれたけど 私は気にしてなかったよ?
 ぎゅっと握り締めるとね 君の温もり 感じたから

『今日はあるから』と傘を出した 君を見て
 残念だったことは 内緒だね
 二人で一緒の傘に入れたら もっと君に近づけたのに

 恋人みたいに一緒に帰れて 嬉しかった
 本当の恋人でないことが 悔しかった

 彼女にならなきゃダメですか 友達のままじゃダメですか
 相合傘はダメですか 送ってもらっちゃダメですか
 手を重ねてはダメですか 寄りかかっては、ダメですか?



 初めてするデートの前夜 全然眠れなかったんだ
 明日がとっても楽しみで 遠足前夜の子供みたいに
 夜明けがとっても待ち遠しくて 私の胸はドキドキしてた

 彼女にならなきゃダメですか 友達のままじゃダメですか
 相合傘はダメですか 手を繋いではダメですか
 手を重ねてはダメですか 私が彼女じゃ、ダメですか? 


 私が彼女で、いいですか?



 作詞 競作企画 作曲 競作企画

 唄 田中・マル・クス・トーリオ





「お前らが歌うのかよ!」
●作者コメント

 使用したテーマは『手紙』『傘』『夜明け』です。
 早い段階から書くものを決めていたものの、思うように筆が進まず苦戦しましたが、なんとか期間内に書き上げ、投稿することができました。
 拙作ではありますが、夏祭り企画が盛り上がることを祈りつつ、その一助になればと思います。くすっとでも笑っていただければ幸いです。
 それでは、よろしくお願いします!
 ……しかし、作者コメントって何を書けばいいのかいつも迷うなあ。

 8月22日追記
 夏祭り、お疲れ様です。燕小太郎と申します。
 多くの温かい感想を頂き、本当にありがとうございました。
 本文の一字下げを何度も確かめたのに、作者コメントで一字下げをミスっていることに投稿後に気づいてもう直せず、見るたび恥ずかしい思いもしましたが、今では良い思い出です。
 後夜祭も盛り上がることをお祈りしています。それでは、また。

2010年夏祭り掲載作品


この作品が気に入っていただけましたら『高得点作品掲載所・人気投票』にて、投票と一言感想をお願いします。
こちらのメールフォームから、作品の批評も募集しております。

●感想
シーマーさんの意見 +20点
 初めましてシーマーと申します。
 早速ですが感想を。

 純粋にラノベらしく楽しかったです。一度途中まで読んで用事があったので中断しましたがその間続きが気になっていました。冒頭を読んだだけで面白い匂いを感じたからです。
 最初の2ページ分位を読んだだけでぐいぐい持っていかれました。ハートが。
 文体は物凄くテンポ良く、会話劇も面白くてあっという間でした。
 化物語がかなりチラつきましたが御参考にされているのでしょうか? 間違っていたら申し訳ありません。スルーの方向で。
 何個かギャグに好き嫌いが分かれる描写がありそうですが、私は全然OKでした。

 猫耳少女の表情の描写がなかったので何か伏線があるのだろうと思っていました。
 ですが途中で表情の描写が入っていたので、あれ? 顔出してたっけ? と言う風になってしまいました。そこは憶測で、恥ずかしそうにしている的な事で良かったと思います。

 私からはこんなところです。あ、それと最初のネコミミ少女の外見描写で「手が出ていないクリーム色のパーカー」とあります。
 実はコレ……想像して凄く可愛らしく思えました。ある格ゲーのキャラを思い出します。

 というところで以上です。執筆お疲れ様です。ありがとうございました。


燕小太郎さんの返信(作者レス)
 シーマーさん、コメント感謝です!
 ありがとうございます! ラノベらしいラノベは経験がなかったので、そう言っていただけるのは嬉しいです。

>冒頭を読んだだけで面白い匂いを感じたからです。
 いよしっ! 掴みに成功したようで、何よりです。自分の中では正直ちょっと不安がありましたので、ほっとします。

>文体は物凄くテンポ良く、会話劇も面白くてあっという間でした。
 今回は雰囲気を軽くするために、台詞を多めに地の文を少なめにしています。テンポが良かったのであれば、その辺りの試みが上手くいったのかと思います。コテコテのコメディは初挑戦だったので、登場人物の掛け合いは不安がありました。やはり変人を出したことが正解だったのかと思います。

>化物語がかなりチラつきましたが御参考にされているのでしょうか
 うーん、前述したとおり、西尾作品に似ている自覚はないですね。いろんな方に言われるので、やっぱり似ているのか……。

>何個かギャグに好き嫌いが分かれる描写がありそうですが、私は全然OKでした。
 パロディ、小ネタ、下ネタ、有名人ネタ等々、危ないネタも多かったですからね。受け入れてもらえてよかったです。

>猫耳少女の表情の描写がなかったので何か伏線があるのだろうと思っていました。
 『目深に被った猫耳フード』は、目の辺りまで隠れているけど口元はちゃんと出ている、という認識で描いていました。その辺りで皆さんとズレが生じてしまったようです。反省です。

>あ、それと最初のネコミミ少女の外見描写で「手が出ていないクリーム色のパーカー」とあります。
>実はコレ……想像して凄く可愛らしく思えました。ある格ゲーのキャラを思い出します。

 やったっ。美少女描写って難しいので、別の機会があればまた使いたいと思います。格ゲーのキャラ……はて、誰だろう。

 感想、ありがとうございました!


ワタイさんの意見 +20点
 拝読させていただきました。

 全編にわたって、いい感じに猫耳少女と主人公のボケとツッコミが見られ、楽しめました。会話が実に生き生きとしていて、そこがこの作品の魅力かと思いました。

 ただ、静森と主人公の恋愛描写だけみると、展開が大人しすぎる気もします。猫耳少女というキャラクターの個性あってこその作品、というか。あらすじだけ取り出すとあまり惹かれなさそう、というか。もちろん、ラノベはキャラクター性を第一に押し出すもの、という認識もありますので、その意味では非常にラノベらしい作品と言えるかもしれません。何が言いたいかというと、キャラもいいし軽妙な文体もいいのだから、展開にもう少しひねりを加えるともっと面白くなるかもしれないな、ということです。

 全体としては、飽きることなく楽しんで読むことができました。

 失礼しました。


燕小太郎さんの返信(作者レス)
 ワタイさん、コメント感謝です!

 猫耳少女は、描いていても楽しかったですが、何より『何を喋らせようか』というのを考えるのが一番楽しかったですね。それにどうツッコムかまで含めて、楽しんでいただけたなら幸いです。

>ただ、静森と主人公の恋愛描写だけみると、展開が大人しすぎる気もします。
 むっ、痛いところをつかれました。
 今回の課題、というか目標が『キャラクター』だったのもあり、展開はやや練り込みが足りませんでした。王道といえば聞こえはいいものの、予想通りに過ぎたかもしれません。ここは反省点であり、次回の課題です。

 感想、ありがとうございました!


デルフィンさんの意見 +30点
 こんばんは。デルフィンと申します。
 御作、拝読させて頂きましたので感想を述べたいと思います。

文章
 詰まることなくスラスラと読めました。
 テンポも良かったです。

内容
 王道的な学園ラブ"コメ"。
 お祭りでは青春ラブ"ストーリー"ばかりで、ちょっと食傷気味なところに本作は一服の清涼剤のようでした。
 猫耳少女の正体は割と早くからわかっていたんですが、
 キャラを楽しむと言う意味では、早めに分かった方が読者がニヤニヤできていいですね。

ギャグ
 所々吹き出させて頂きました。
 特にラストの主人公の告白が良かったです。

御題
 手紙と傘は上手く使用されていたと思いました。
 夜明けはちょっと苦しかったですね。文脈的に「朝」の方が適切では? と言う場面ばかりでした。

問題点
 静森ちゃんがハンカチを持っていない事に違和感。女子で持ってない娘はかなり珍しいかな、と。
 またネトゲじゃあるまいし、顔も見ないで好きになる、にちょっとだけ違和感を覚えました。

総評
 ラノベっぽい良作でした。
 猫耳少女萌えー!
 いいですね、こういう娘、大好きです。

 以上です。
 創作おつかれさまでした。


燕小太郎さんの返信(作者レス)
 デルフィンさん、コメント感謝です!

>テンポも良かったです。
 文章のテンポとリズムは常に気をつけているところですので、そう言っていただけるとほっとします。

>王道的な学園ラブ"コメ"。
 静かな雰囲気の作品はしばしば書いていたので、どーんと笑いに走った話を書こうと思っていました。……しかしいざ描いてみると、今度はシリアスな話を書きたくなる不思議。

>猫耳少女の正体は割と早くからわかっていたんですが、
>キャラを楽しむと言う意味では、早めに分かった方が読者がニヤニヤできていいですね。

 いやー、隠すつもりは『全く』ありませんでした。ミスリードで隠して「わっ」とさせる仕掛けはしばしばやっていたのですが、今回は見え見えにすることでよい効果を出せれば、と考えていました。
 というわけで、早くわかっていただけて良かったです。

>所々吹き出させて頂きました。
 いよしっ! コテコテのコメディは初めてでしたので、ギャグは正直不安がありました。吹き出していただけたなら何より。
 告白のところは、あまりシリアス過ぎても雰囲気と合わないので、ちょろっと笑いに走ったところでした。下ネタでもないし、こういう感じなのは使えるのか。勉強になります。

>夜明けはちょっと苦しかったですね。文脈的に「朝」の方が適切では? と言う場面ばかりでした。

 『夜明けが来るのが怖かった』『朝が来るのが怖かった』……うーん、ちょっと苦しいか。お題の消化が先決だったので、あまり深くは考えなかったです。

>静森ちゃんがハンカチを持っていない事に違和感。
 そうなんですか? 知らなかった……。ちなみに、自分は持ち歩いています。だからなんだって話ですけど。

>またネトゲじゃあるまいし、顔も見ないで好きになる、にちょっとだけ違和感を覚えました。
 この辺は……どうだろうなあ。作者としてはそこまで不自然にはならないと思ったのですが、そう思う人もいることを肝に銘じ、これからは気をつけたいと思います。

 感想、ありがとうございました!


すぎ かふん。さんの意見 +30点
ネコミミエックスの献身?
 こんにちは。拝謁ながら読ませていただきましたので感想を書き残そうと思います。
 まず最初に、私はストーリー、キャラクター、文章、そして全体の四つに分けて批評させていただいています。お題に関しては「楽しければ何をどう書いてもOK」という持論なので、お題の使い方が上手下手は批評しませんのでご理解下さい。

☆ストーリー
 ほのぼのしていて、しかもどこぞの一冊完結のラノベにありそうなほんわかストーリー。ギャグセンスもいい味を出しており、かなりの手練れとお見受けします。
 思うに、この雰囲気の中でのギャグの応酬というのはかなり難しかったであろうと思います。ギャグに偏りすぎると雰囲気が壊れ、雰囲気を大事にしすぎるとギャグが不発に終わり。かなり上手いバランスで二つの要素が混ぜられており、楽しく読ませて頂きました。あとネコミミ最高。

☆キャラクター
 主人公はラノベらしいのでこのままでいいとして、ネコミミ少女のセリフ部分に静森の気持ちをそれとなく入れてみるというのは如何でしょうか。あるいは実は静森は下ネタ大好き少女であると言うことをどこかで含ませてみるとか。その場合最後のセリフは、「財布の中に入ってるの、見ちゃったの……」が正解でしょうな(何
 そうすることによって、ネコミミ少女が単なる「照れ隠しのための擬態」なだけではなく、「恥ずかしがらずに自分の気持ちを言える存在」であるということも加えられます。これが表の静森と逆転してしまっては駄目なのですが、指摘を敢えて加えるならここであろうと思います。
 ……いや、これくらいしか指摘するところが思いつかなかったのですがね。あとネコミミ最高。

☆文章
 西尾臭がぷんぷんしますねー。それとも入間臭でしょうか。などというどうでもいいことはさておき。
 先にも述べましたが、何より雰囲気とギャグのバランスが見事に調和しており、作者さまは相当に書き慣れていらっしゃるお方だなというのを感じました。
 描写もラノベらしい簡潔さで、すいすい読ませてくれます。かなり秀逸な文章であると思います。あとネコミミ最高。

☆全体
 レベルの高い作品ですね。指摘するところがまるで思いつきません。揚げ足を取ろうにも、指摘すればするほど自分の未熟さを思い知らされるばかり。正直嫉妬ビームでマイナス点付けてやりたいです。ちくせう。
 強いて、かなり無理な注文を付けるならば、ネコミミに何らかの意味も含まれていなかったことを指摘しておきます。いや、ネコミミは最高であり至高であり崇高であり明美なのは分かっていますが、それでも何かしらの理由は欲しかったかな、と。
 まあ、ネコミミは最高なんでそれでいいです。ええ。ネコミミ最高!

 今回の作品、総じて楽しく読ませていただきました。ありがとうございました。
 それでは、感想を閉じます。あとネコミミ最高。


燕小太郎さんの返信(作者レス)
 すぎ かふん。さん、コメント感謝です!

 ギャグ方面でのお褒めの言葉は、嬉しい以上にほっとします。自分の笑いのとり方は決して間違ってはいないと思えますので。ありがとうございます。

>思うに、この雰囲気の中でのギャグの応酬というのはかなり難しかったであろうと思います。
 猫耳少女がギャグ担当、静森香澄がラブコメを担当しているような感覚でしたので、キャラクターに救われた感じがします。

 ラノベらしい、裏を返せば珍しくない主人公とも言えます。ここは課題ですね。
 猫耳少女に静森の、あるいはその逆というのは考えていたのですが、そのシーンを入れる前に五十枚が来てしまい、そのまま出せずじまいになってしまいました。できたら面白かったかな、と思います。
 ……財布に何が入っていたんでしょうかねえ。気になります(笑)。

 描写は、普段より少なくした覚えがあります。軽めの作品でしたので、深い描写よりもテンポと掛け合いかなと考えていたので。うまくはまってくれたのであれば何よりです。

>いや、ネコミミは最高であり至高であり崇高であり明美なのは分かっていますが、それでも何かしらの理由は欲しかったかな、と。
 猫耳はアクセントの一つとしか考えていませんでしたので、構想ですらそこまで深く掘り下げてはいませんでした。この部分は確かに必要だったと思います。

 感想、ありがとうございました!


クズのKさんの意見 +30点
 どうも、クズです。「ネコミミエックスの献身?」拝読いたしましたので、夜分失礼いたします。

 いや、もう、とっても面白かったです。
 某所でとある方が推していたので読まさせていただきましたが、
 ザ・ラノベです。文句なしです。

 他の方もおっしゃってますが、猫耳娘を好きになる時点で、なんか顔が見えてる的な(あ、口もとで笑ったとかあったのかな?)描写があり、どこまで見えてれば正体がバレないんだろ?と良い感じの疑問はありますが、とりあえず、掛け合いが最高ですね。真似しなきゃ。

 では、短いですが、以上です。
 執筆お疲れさまでしたノシ。


燕小太郎さんの返信(作者レス)
 クズのKさん(決して悪口ではないですよ?)、コメント感謝です!

 ありがとうございます! 推していただいた方にも感謝です。薦めていただけるような面白い作品になっていたでしょうか。それならば良かったです。

 目元は隠れていますが、口元は見えている、そんな認識で書いていました。お約束ではありますが主人公は鈍感という裏設定にしていたので、目元まで見えるか、相当ハッキリしたことが何かがないとわからない、という風に考えていました。

 感想、ありがとうございました!


兵藤晴佳さんの意見 +20点
 拝読いたしました。ひょうどうです。

 ああ、こういう書き方もあるのだなと感服いたしました。
 最後の歌詞はウルサイと正直思いましたが、それを差っ引いても、二人の会話と主人公のモノローグでつむがれる、小説としての空気が見事にできていました。一人称小説の特長が生きています。

 読む人によっては好き嫌いがあるかと思いますが、男の妄想をいやらしくない爽やかさで描いた技には拍手を贈ります。(オイラにゃできね~や、ケッ)

 楽しませていただきました。ありがとうございました。


燕小太郎さんの返信(作者レス)
 兵藤晴佳さん、コメント感謝です!

 エンディングテーマは、その……ごめんなさい。
 少し前までは三人称ばかりだったのですが、最近一人称の作品を多く書いています。視点の感情が如実に表れる分、軽い雰囲気の小説には合うようなイメージがあるのですが、それが出ていれば幸いです。

>男の妄想をいやらしくない爽やかさで描いた技には拍手を贈ります。(オイラにゃできね~や、ケッ)
 小説は夢と想像と妄想で出来ている、なんて私なんぞは考えています。

 感想、ありがとうございました!


安倍辰麿さんの意見 +40点
 ども、安倍辰麿です。安部でもなく、阿部でもありません。
 御作を拝読したので、早速感想をば。

 負けた、完敗だ……。勝てる気がしない! でも嬉しい!
 人物のやり取り、ぶっ飛んだノリ、適度(?)な下ネタ、王道な展開。
 逸脱せず、しかも型にはまりすぎず、ここまで見事に全てを昇華している作品はなかなかお目にかかったことがありません。

 フードの下、つまり顔の下半分は出ていたという事でいいのでしょうか?
 そこら辺がちょっと曖昧なのは残念。

 しかし、コレくらいド真ん中で勝負を掛けてきた作者様に、敬意を表したいです。
 王道って、ストーリーラインが単純になりやすいのに、よくぞここまで面白く練り上げられましたねー!

 と、いうことで、大満足の作品でした。
 それでは!


燕小太郎さんの返信(作者レス)
 安倍辰麿さんへ、コメント感謝です

 下ネタの限界がわからなかったので、手探りで行った感があります。その影響からか、後半ほど濃くなっていると思うのですが……『適度』で済んでいれば幸いです。
 ノリややり取りというのは、やはりキャラクターが活発に動いてくれたのが幸いでした。
 オリジナリティを出したいと思っていたので、型にはまらないことは考えていたのですが、ストーリー面では王道に頼ってしまったところがあります。他の方にも指摘を受けたのですが、もう一展開、意外性があれば、と思います。

>フードの下、つまり顔の下半分は出ていたという事でいいのでしょうか?
 はい、そういうことになります。ここはもっとちゃんと描写しておくべきでした。反省です。

>王道って、ストーリーラインが単純になりやすいのに、よくぞここまで面白く練り上げられましたねー!
 ありがとうございます! ど真ん中で勝負というより、それしか出来なかったんですが、そういってもらえて嬉しいです。

 感想、ありがとうございました!


蒼月夜さんの意見 +40点
 執筆お疲れ様でした。拝読しましたので感想を残したいと思います。

 とは言ったものの、この作品は完成度が高くほとんど感想ばかりになりますがご容赦ください。

内容
 冒頭からいきなり訳のわからないネコミミの台詞で引き込まれました。そこから静森との王道の恋愛ものを展開しつつ、一方ではネコミミとの掛け合いが展開されて退屈しませんでした。静森=ネコミミの正体が明かされた後でもネコミミの台詞があるので最後まで笑わせてもらいました。

文章
 ラノベらしい文章で読みやすくテンポが良かったです。

キャラクター
 静森は引っ込み思案でおとなしく、目立たない少女。対してネコミミは下ネタ好きで内容はともかく言動は訳のわからん少女。対極にある同一人物がそれぞれ上手く書かれていました。しかし、よくよく考えると静森は相当面白キャラですね。

お題
 無理なく使ってあったので、それでOKです。

 なんか批評らしいことを書いておきたいので一つ。
>素直な笑み、と言って差し支えない彼女の笑顔は、普段が普段だけにグサッと来た。
 これだと結構顔が見えているようですけど、正体がばれてないのでやや気になりました。口から上はマスク、と言うのもアリだったかもしれません。

 総じてレベルの高い作品でした。ではこれで、失礼させていただきます。


ミナ・コレステロールさんの意見 +40点
 こんばんは、はじめましての方にははじめまして。
 ミナ・コレステロールです。

 正しいラノベを読ませてもらった気がしました。

 キャラが立っていました。
 香澄とネコミミの2大?ヒロインがそれぞれ強い個性をもっていました。
 しかも、無駄なキャラはいなくて、しっかりとまとまっていました。

 タイトルや主人公の名前からしてパロディの香りがしたんですけど、ノリの良いギャグやネタ(下ネタ含む)をうまくストーリーの中で扱ってらっしゃって、完成度に嫉妬するくらいでした。
 主人公の希望通りネコミミがいなくならなかったのもよかったと思います。
 しかも、蛇足としか思えないエンディングテーマでも、しっかりオチがついていて感服しました。

 でも、ネコミミの正体が最後までばれなかったのはちょっと変な気がしました。
 それと、香澄は自分とネコミミを二股?みたいに思われてたことについては、それでいいのかなって思いました。最初からこうだと今後、浮気しそうな気がしますし……。


 以下は、細かい点です。

>フェロー諸島
>118位

 個人的には、世界ランキングレベルの超絶美女と……とかかと思いました。
 まあ、最終的には主人公にとってはそうなるんですけど。

>ある名捕手
 しかも名監督でいらっしゃいます。
 はっ、だからって甘い採点をするわけには……ふるふる

>「良い天気だな」
>あれっと思い空を見上げれば、今にも雨が降ってきそうな灰色の空が広がっていた。

 鉄板ですけど。うまいです。

>通称『田中・マル・クス・トーリオ』
 田中マルクス闘莉王w

>週一回口内炎にナル呪い
 これはキツイですね

>世を忍ブ仮のワタシが持ってイルネ
>どこのデーモン閣下だ

 うわあ……。次回作に登場人物に小暮とか清水とかつけようと真剣に思ってるくらい好きです。困ったなぁ……。

 以上です。
 次回作も楽しみです。


北立敬さんの意見 +30点
 どうもはじめまして。
 ネコミミにホイホイ釣られてやってきました。

 いやー、冒頭からドツボでした。
 こういうの大好きですねー。
 他の方が化物語だとか西尾臭だとか言ってらっしゃいますが、まあ納得でございます。
 てか読んでなかったら貴方を詐欺罪で訴えます。いやマジで。

 そんなどうでもいいことはさておき。

 ストーリーはお決まりというか、まあ王道ですかね。いい意味で。
 猫耳少女が言っている女の子=主人公が好きな人というのも、猫耳少女=静森香澄というのも予想できて、終始ニヤニヤしてました。猫耳萌えー。

 主人公が猫耳少女に気持ちを伝えている途中、猫耳少女の口調が普通に戻っていくのが非常に良かったです。猫耳蕩れー。

 個人的に一番は『田中・マル・クス・トーリオ』でした。見事にツボりました。夜中に爆笑しました。家族の信頼を返してください。あと腹筋も。

 題名についてですが、これはケーゴ・ヒガシーノの作品からでしょうか。
 もしそうなら物語的に全くつながりがないので、語呂で選ばれたんでしょうかね。

 というわけでごちそうさまでした。


黒丸さんの意見 -10点
 企画参加お疲れ様です。

 本当はもっと早くに読んでいたのですが、他の方とは受けた印象が異なったので少し様子を見ていました。しかしほぼ肯定的なコメントで、自分と同じ感じの感想がなかったので書かせてもらいました。すいませんが酷評になります。

 一番の問題はギャグでした。自分にはどうにも合わなかったです。ギャグですから、合う合わないはもうしょうがないと思いますが、少し感じたことを書いていきます。切り捨てるかどうかの判断もお任せします。

 冒頭のギャグから外したのもの影響が大きかったとも思います。途中で確実に笑いを取れたり、違う種類の笑いがないので、このリズムに乗れないと殆どのギャグが外れてしまう危険があると思いました。逆に評価の高い人はそれに乗り切ったのでしょうが、念のために少し違った種類の笑いを途中に入れておいてもいいと思います。
 あとこれも好みでしょうが田中さん達は致命的でした。彼らはギャグだけの存在に近いので、外した場合はそれだけ悪い印象を抱かせるため、自分は彼らのところはちょっと流し読みしてしまいました。それとネコミミの口調も同じです。自分には少しなら許せたんですが、量が多く会話にいちいちあるので、だんだんと雑音になってしまいました。

 ただ読後感は良かったです。ストーリーは殆どオチが読めてしまう上に、途中で主人公がネコミミを好きになった理由が自分には納得いかず、かなり無理矢理で荒いとも思いましたが、読後感の引き立て方は力強いものを感じました。
 なのでこの良さを評価して加点しよう。
 かと思ったのですが、あの田中さん達のオチが全てを台無しにしてしまいました。そのため読後感とオチとでほぼ相殺になります。

 まとめると、読後感は力強く他の作品よりも良かったですが、ストーリーの荒さとギャグを外してしまったこと、田中さん達のオチに納得いかなかったことを考慮して点数をつけました。厳しくなってしまいましたが、他の感想は評価が高そうなので、それでカバーしてくれればと思います。お疲れ様でした。


↓Bさんの意見 
 ↓Bといいます。「最前」ってあんまり一般的な単語じゃないんだけど、「先ほど」じゃいけないの?

・FIFAランクでいうと日本と韓国を足して二をかけたくらいだと思います。全体的に残念な感じで、特にツッコミが(ネコミミに言われてないところも)長くてなんだか残念なセンスだと思いながら読んでいました。またストーリー的にはどう深読みしても静森=ネコミミ以外のルートが見出せないほどの一本道で、もうちょっと真面目な脇役が二・三人いたなら主人公の動きにもそれなりに深みが出てきたのですが現状だとただの鈍感野郎にしか見えませんでした。
 もっと世界を広くとってほしかったです。というかシリアスで完全な一本道なのにギャグの濃度も薄いので(それもよく滑るので)何を楽しむ作品なのか今ひとつ狙いが分かりませんでした。

・まあでも神出鬼没で(そうでもないか)怪しげなネコミミはいい味出してました。マルクスはちょっと狙いすぎて微妙でした。最後のエンディングテーマは意味不明でした。いや、演出としてエンディングテーマつけるのはいいんですが本作をどう楽しむのが正解なのかよく分からないままラストまで来たので、エンディングテーマをどう聴くべきなのか分かりませんでした。

・大事なことなので二度言いますがギャグはおおむね良好にスベってました。

 以上です。あれだ、多分なんかちょっと失敗しただけなんだよ、人生とか。


とある軍事スキさんの意見 +10点
・とある軍事スキと申します。猫耳と聞いてやってきました。
・3人組の元ネタが某白皇学院生徒会かと思ってしまったw
・ネコミミにパーカーって、某格闘ゲーにそんなヒロインいましたね。
・なんか物語が平坦な感じがしました。盛り上がりに欠けるというか。少女漫画の短編ぽい印象。
・アイディアとしてはネコミミと静森で別々にデートするとかすれば、主人公が「両方を愛してしまった」というのを後押しできたのではないかなーと言う感じ。
・また3人組ももっと活躍できたのではないかと。デートのプロデュースしてあげるとか、2人をストーカーするとか!まー尺足りない気がしますが。
・読みやすいけど物足りない。そんな感じがした作品でした。私からは以上です。ご縁があれば、またお会いしましょう。


燕小太郎さんの返信(作者レス)
 初めまして、あるいはお久しぶりですの方もいらっしゃると思います。燕小太郎と申します。
 お一人ずつの返信レスは少し遅れるかと思いますので、一度簡単にではありますが、多く指摘された点について、皆さんに向けた返信レスをしたいと思います。

 意味不明、台無し、蛇足、ウルサイとなかなか重たいダメだしを受けたエンディングテーマですが、これを入れた理由は三つあります。
 一つは『視点変更をせず相手の視点から見た心情を描く』こと。基本的に視点変更はしない(短編では特に)ことにしているのですが、物語上どうしても相手側から見た心理というものを描きたいと思うことがあります。そこで、『歌』という形で表現することで、ストーリー上は視点変更することなく、相手視点の心情を描き、伏線の回収やフォローができるのではないかと考えました。
 二つ目の理由は、『他作品との差別化』です。ある程度酷評を受けたとしても、被って埋もれるよりは違うことをして酷評されたほうが良いと思いました。それはヒロインを絶世の美少女にしなかったことにも共通していて、『やってはいけないこと』なのか、それともたまたま『まだやられていない、または少ないだけ』なのかを見極めたかったというのがあります。
 最後の一つは、ズバリ『やりたかったから』です。ネタとして思いついて、皆様がどのような反応をするのか見てみたかったというのがあります。ダメだしされたら『やめる』、良さそうなら『いける』と判断できますので、挑戦してみました。結果、読んでくださった方に『あれ?』と思わせてしまい、申し訳ありませんでした。

 また、西尾さんの作風に似ているとのご指摘も多かったですが、西尾作品は『化物語』をアニメで見た程度で、小説としては読んだことがないです。なのでそうした雰囲気があったとしても、自覚症状はないですね。今度何か読んでみたいと思います。

 他のご指摘につきましては、個別レスで随時お答えしていきたいと思いますので、もう少しお待ちください。
 今作を読んでいただき、また感想までくださり本当にありがとうございました!
 それでは、また。


加藤 汐朗さんの意見 +30点
 小学生時代、幼馴染のユリちゃんはずっと『おかっぱ』だった。その時は何とも思ってなかったさ。中学上がったら髪を伸ばし始め、ポニーテールにしやがった。白いうなじが眩しかったなぁ。「あれ、こいつこんなに可愛かったっけ?」あの時の甘酸っぱい記憶ががが……。

 『おかっぱ頭』を決して侮らない加藤汐朗です。おはこんにちばんわ。
 拝読いたしました。小生の読後感とイメージを重視した感想を述べさせて頂きます。

 2重人格という訳ではなく、変身すると本音が出せるヒロイン。しかも下ネタ暴走も上等という、ツボを押さえた設定はお見事です。
 このページ数に恋愛ストーリーだと、メインの登場人物は4人が限界で、何か大きなイベントを入れようとすると、ページが足りなくなって苦しむなと小生も痛感しております。盛り上がるような事件を挿入しにくいのですよね。
 そういった意味で、登場人物3人(実質2名だけど)に絞り、通常ヒロインと変身ヒロインの性格のギャップで終始読者をニヤニヤさせる作風は、素直に巧いなと思いました。
 惜しむらくは、通常ヒロインを『美人ではないな』と認めつつも、なぜ主人公は意識していたのか、ここの部分を書いて欲しかったです。人を好きになるのに確かに理由はないのですけど、男性心理として絶対に何かがあるはずなんですよね。この部分が小生としては不満が残りました。

 細かいことですが、『最前』という文字を冒頭で何度かつかっておられます。私は気にならなかったのですが、読み進める上で引っかかる方がいるんじゃないかと思います。何卒ご一考下さい。

 小生が個人的にうけた名言
>「ウルサイ! 今度ワタシの正体センサクシタラ、週一回口内炎にナル呪いをカケルヨ!」
>「地味に嫌だからマジで勘弁してくれ」

 これマジで嫌です(爆)なかなかの光るセンスをお持ちですね。

 最後に、終盤の『歌』の部分。縦書きにしてA4に印刷すると(電撃大賞投稿サイズ1枚、42文字34行。文庫本見開き2P分)ぜんぜんおかしくないです。
 福井晴敏先生の『終戦のローレライ』では、歌の歌詞が要所要所に出て来ます。これが暗くなりがちな戦時中の人間ドラマで、読者を優しい気持ちにさせるひとつのキーアイテムになっておりました。
 何が言いたいのかと言いますと、縦スクロールで読み進める時の弊害は、空行も含め、縦書きの紙媒体にした際には無い。という事。加えて、表現方法のひとつであって、『作者様は絶対に曲げちゃいけない』所だと思います。
 歌詞が長すぎるとくどくなりますので、ヒロインの心情がうまく伝わるよう言葉を吟味してコンパクトに纏めれば、表現として充分機能すると思います。
 大事なことなのでもっかい言います。作者としてココは絶対に曲げちゃいけないと思うのです。

 以上、おかっぱ萌えの優しい作品、ありがとうございました。次回作、期待しております。


鶴谷国男さんの意見 +40点
 初めまして、燕小太郎さん。
 私はROMすらしていなかった、今回の企画とは全く縁もゆかりもない人間ですが、企画終了後に「評価の高い作品だし、読んでみるか」なんて軽い気持ちでこの作品を読ませていただきました。
 名前や点数に影響されずに、素直な気持ちで作品を読もう、という企画の理念に全く反した動機であったので、感想も評価もしないと心に決めていたのですが、御作のあまりにも好きになってしまったので、居ても立ってもいられなくなり、こうして感想を書かせていただいているところでございます。

 まず、大雑把な感想。
 私にとっては、「最高のラブコメ」でした。
 プロでもここまで良く出来たラブコメを書ける人はそういないと思います。少なくとも私は、これよりも素晴らしいラブコメを知りません。

 静森香澄の描写について。
 申し分ないです。安易に美少女という表現に逃げなかったことも高評価に値すると思います。

>でも、俺にとってはスペインやブラジルにだって引けを取らない、とびっきりの美少女がそこにいた。

 ――といいつつ、後半にこの一文。にくいですね。最初に美少女だと言ってしまうよりも、何倍も効果的に美少女という言葉を使えています。
 「美少女」という言葉を使うと、キャラクター自体が何だか安っぽくなってしまうと私は思っているのですが、この言い回しならそんなことも無いでしょう。

 全体的な「ラブ」について。
 ヒロインの描写の巧さと相まって、非常に良かったです。こうして感想を書いている今でも、心がふわふわして落ち着きません。

 全体的な「コメ」について。
 コメディー要素というのは、個々の読者にハマるかどうかで評価が分かれるところだと思いますが、私にとってはドンピシャでした。
 田中・マル・クス・トーリオの扱い方が個人的には好きです。

 ここまで褒めてばかりでしたが、それは御作に欠点と言える欠点が殆ど見受けられなかったからです。
 ただ、後半の露骨な下ネタ、あれだけは頂けなかった……。
 前半の微妙な下ネタはまだかわいげがありましたが、後半のあれは、この作品の格を一段階落としてしまっていると言わざるを得ません。コメディー要素だったのでしょうが、大して面白いとも感じませんでしたし。

 全体としては物凄く良くできていると思います。
 私はラブコメの構想をしていたのですが、投げちゃうことにしました。御作のせいでやる気を失いました。放心状態です。それくらい、御作にはやられてしまいました。

 最後に、久しぶりに心から「良い」と思えるような作品を読ませていただいて、ありがとうございました。これからは、燕小太郎さんの作品をチェックしてみたいと思います。
 これからも良質な作品を生み出してくれたら嬉しいです。では。


祐茂さんの意見 +30点
 どうもこんにちは、返礼参りに悪戦苦闘している ゆうも と名乗る新参モノです。
 では、早速感想をば。

 ストーリーなどについて。
 全体的にまったりした雰囲気ながらも、ギャグがあり、物語や主人公のテンションに起伏があってすらすらと読み進められました。
 強いて難点(というか無茶なことですが)を挙げるなら、ギャグ部分がストーリーには直接絡まない(=ギャグがなくてもストーリーが成立する)ことでしょうか。ただ、軽快なラブコメのギャグにストーリー性を求めるのは酷ですし、ネコミミのボケがあったからこそ主人公が惚れたと解釈することもできるので、たいした問題にはなりえないかも?

 キャラクターについて。
 良い意味で何も言うことがありません。あえて一人一人評価するなら、
・ネコミミ:ボケが秀逸。「イザ、決闘ヨ!」の二回目が特に噴いた。
・静森:(外見は)あまり可愛くないけど、(性格その他は)可愛い。というか、ネコミミモードを使って主人公と仲良くなろうとするなど、いじらしいところとかが魅力的。
・主人公:傘をパクったことやネコミミと静森を同時に好きになったことなど、正直に告白できてすげえ。
・3人組:ボケだけのキャラと見せかけて、主人公をけしかけるなど案外重要な役割を担っていたところが良。
 全体的に評価するなら、みんなキャラが立っていて良いと思いました。

 文章について。
 特に問題なし。作品の雰囲気と合っていました。

 その他、細かい点。

>マタ、根がビビリなせいカ女の子とはホトンド話せナイ。
 ――主人公の性格を言っているこの部分が、あまり納得できません。主人公がモテないということに説得力を持たせるためだけの設定でしょうか。ネコミミと3人組には普通に(?)話せてますし、静森にも話しかけること自体には抵抗を抱いているようには見えなかったので。それとも、ネコミミのこの評価が間違いなのでしょうか。

 総評。
 面白かった。それ以外の言葉が浮かびません。特別、「メチャクチャ上手い!」という部分はなかったのですが、「普通に上手い」を乱発していて、下手と思える部分は皆無でした。文句なしの良作です。

 以上です。ありがとうございました。

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