ライトノベル作法研究所
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  4. エスケヱプ・スピヰド公開日:2012/07/09

エスケヱプ・スピヰド

ジャンル:バイオレンス
著者:九岡望
出版社:電撃文庫
発行年月:2012年02月

スポポニウムさん一押し!(男性・20歳)

■ 解説

 昭和一〇一年夏、廃墟の町“尽天”。暴走した戦闘兵器に襲われた叶葉は、棺で眠る不思議な少年に出会う。
 命令無しに動けないという少年に、叶葉は自分を助けるよう頼む。それは、少女と少年が“主従の契約”を結んだ瞬間だった。少年は、軍最強の兵器“鬼虫”の“蜂”九曜と名乗った。兵器ゆえに人としての感情が欠落している九曜だが、叶葉はそんな彼を一人の人間として扱い交流していく。徐々に心を通わせていく二人。しかし平穏な日々は、同じ鬼虫である“蜻蛉”竜胆の飛来によって打ち砕かれー!?
 閉じられた町を舞台に、最強の兵器たちが繰り広げるノンストップ・アクション。
 第18回電撃小説大賞“大賞”受賞作。

■ スポポニウムさんの書評2012/07/09

 第18回電撃大賞“大賞”受賞作品。これは久しぶりに凄まじかった。

 これだけの怪物的傑作がライトノベル界隈に登場したことは一種の事件、どころか、ひとつ時代の区切りとなるやもしれぬ。

 昭和一〇一年夏。戦乱により荒廃した『八州』にある廃墟の町“尽天”。暴走した戦闘兵器に襲われた叶葉は、棺で眠る不思議な少年――「蜂」の“九曜”に出会う。過去に負った負傷のため命令無しに動けないという九曜に、叶葉は自分を守護するよう命令する。
 かつて八州軍最強の兵器を謳われながらも、戦乱の終結と同時に二十年もの間闇に埋没していた九曜。戦乱の時代が過ぎ去り、兵器としての存在理由を喪った彼には、それでもなお果たさなければならぬ目的があった。それは二十年前、自分に瀕死の重症を与えながらも止めを刺すこと無く姿を消した戦友、「蜻蛉」――“竜胆”を撃墜することであった。

 尖っている――と、それ以外になんと表現すれば良いのか。昭和と平成が同居しているような、独特かつ荒涼とした世界観。戦前日本の雰囲気を思わせる硬派な文章の冴え。磨き抜かれたキャラ・物語構成。精密な戦闘描写。そのひとつひとつ、どれを吟味しても圧倒的に完成された要素に舌を巻かざるを得ない。まるで剃刀の如き鋭さがこの作品の血となり骨となり、物語全体の風格を高めている。

 それでいて決して暴力シーンやグロテスク描写、キャラ殺しに走ること無く、あくまで正攻法で新たなライトノベル世界の地平を切り拓いてゆくこの作品のなんと逞しいことか。

 この作品が電撃大賞の選考委員をして「問答無用の大賞受賞作」と表現したのも頷けようものだ。

 中でも特に素晴らしいのは、この作品が持つテーマ性である。仕えるべき主人を戦禍で失い、毎日精一杯生きながらも常に喪失の恐怖に怯える少女、叶葉。殉じるべき大義を失い、死に場所を求めるためだけに日々を生きる少年、九曜。
 死ぬために生きる少年と、生きるために生きる少女。その世界の交錯が彼らに一体どういう成長を促したのか、この作品では実に正々堂々と書き切ってみせた。

 守られる少女と守る少年、そんな単純な二項対立に堕さず甘えず、このテーマを苦吟しながらも書き上げたであろう作者の強烈な執念に、私は惜しみない拍手を送りたい。

 とにかく、私は今後、この作品の登場が電撃文庫というレーベルの一里塚として成長していってくれることを願って止まない。オススメです。

お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?

 「蜻蛉」の“竜胆”。

「――貴様、まだそんなものに頼らなければ戦えんのか?」

 これは彼が劇中で吐いた台詞である。この一文を読んだ瞬間、たいていの読者は作品全体につっかえていた巨石がごろりと転げ落ちたような、大きな衝撃を感じることだろう。
 なぜ彼が九曜に瀕死の重傷を負わせたのか。九曜の前から姿を消したのか。なぜ蜻蛉は再び九曜の前に現れたのか。これだけ強烈に、これだけ端的に、これだけ示唆に富むやり方で主人公を導けるライバルキャラは作中に他にいまい。凄まじい一文を見せてもらった。

この作品の欠点、残念なところはどこですか?

 電撃大賞の第19回はこの作品のせいで荒れるだろうですよ(笑)。

 なにせこの作品を読んだ選考委員が次回も手ぐすね引いて待っているのだから。この作品以上のものが出てくるか、そう思いながら待っているのですから。

■ 一言感想コメント

・筆力が卓抜しています。言葉選びは堅く、戦闘においては難解な創作理論も飛び交うのですが、全く目が滑りません。日常パートはコミカルな掛け合いも随所に見られますし、心理描写や情景描写もはっとするほど鮮やかです。
2012/12/31

・大賞公式サイトであらすじを読み気になって購入。
 結論→大正解でした。
 状況が目に浮かぶような戦闘描写もさることながら主人公二人心情描写も細かく、感極まって泣きそうになった場面もあります。
 あと、他のよさに圧倒されてあまり言われませんが、人間関係が濃密です。詳しくはネタばれ防止のため省きますが、九曜及び鬼虫の整備に戦中携わっていたおじいさんの孫が叶葉の友達だったりします。
2012/10/14

・おもしろかったです。たぶん今まで読んできた中でもトップクラスで!
 全てにおいてレベルが高いので、どこが良かったかというのは挙げにくいのですが、あえて言うならば読み終わった後のすさまじい満足感かなと思います。
2012/07/31

・戦場帰りが日常に還る話としてはまあまあ。バトルとしては普通。
 王道を往くより、外道に走ったほうが面白くなったんじゃないですかね?
 崩壊後の日本なんて美味しい舞台があるんですから。
2012/07/11

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