魔王子グレイの勇者生活(チートライフ)

ジャンル:異世界FT
著者:広岡 威吹
出版社:GA文庫
発行年月:2014年11月14日

ラノベの王女様さん一押し!(女性・17歳)

■ 解説

 魔族討伐の勇者を育成する、マグナルクス勇者学校に入学したのはなんと魔王子グレイと吸血鬼のサラ。その目的は封印されたグレイの魔力を取り戻すべく、勇者の秘儀を習得するためだった!
 だが―「グレイ、貴方は魔族ですわね?」すぐに一学年上の主席、エリーに疑われてしまう。さらにそのエリーがグレイの兄、ヴァルディスと共にサラを狙っているようで…?はたしてグレイは封印を解いて大切なサラを守りきれるのか!?
 絶対にばれてはいけない勇者学校生活“チートライフ”、ここに開幕!第6回GA文庫大賞奨励賞受賞作。

■ ラノベの王女様さんの書評2015/01/04

 才能がないなら数で勝負すればいい。

 「弱者の戦略『数』と『時間』」で取り上げられた広岡威吹先生の作品。彼は、百本以上の新人賞(ラノベに限っても二九本!)に落選してもめげずに執筆を続け、プロ作家への切符を掴みとったわ。
 その不屈の闘志は、一〇〇九回断られても自らが考案したレシピの売り込みを諦めなかったカーネル・サンダースや、紙パック掃除機への不満を解消するために試作品を五一二七台も制作したジェームズ・ダイソンを彷彿とさせるわ。

 新年最初のレビューは、広岡威吹先生のデビュー作である『魔王子グレイの勇者生活(チートライフ)』よ。
 あらすじで分かるように、この作品は勇者育成学校が舞台なの。ま、改題前が『勇者学校で魔王がスパイ?』だしね。
 魔王と勇者ものはあまりにも溢れすぎて『魔王が多すぎる世の中に告げる 』なんて皮肉られる有様だし、異世界ファンタジーもネット小説では定番の題材。学校が舞台の作品だってMF文庫Jに行けば大量にあるわ。
 でもそこはプロフェッショナル。一つ一つは差別化困難な要素だけど、「魔王と勇者もの×異世界×学園ラブコメ」と組み合わせることによって、今までありそうでなかったストーリーを作り出したわ。そこが受賞の要因なんじゃないかしら。

 あたしね、魔王と勇者もの大好きなの! 2chじゃ叩かれまくってるけど!
 呉越同舟の中にある、ゆるふわ感がいいと思わないかしら? 最後は人間と魔族がなんやかんやでお互いを認め合うってシチュエーションが好みなの! 『はたらく魔王さま!』の真奥とエミリアみたいな!

 『勇者生活』におけるシーンを挙げるなら、ヴァルディス撃破後のフレデリカの姉エリーと吸血鬼サラの会話かしら。

「随分と大きな口を叩いておるが、その前に言うべきことがあるのではないか? まさかここまで我が夫に迷惑を掛けておいて、洗脳されていたから悪くないとでも言う気か? だったら我にも考えがあるがの」
 魔族の脅しに子供のように怯えるエリー。
「ひいっ。そそれは、ちゃんと言うわよっ。――あ、あの、ぐ、グレイ」
「なに?」
 エリーは立ち上がってグレイに向き直ったとたん、口ごもってしまった。言いづらそうに唇を噛んで、上目遣いでグレイを見る。「う~」や「ぐぬぬ」と唸っていたけど、ついに観念して口を開く。
「まずは……妹を助けてくれて、ああありがとう。――わ、私がお礼を言うことなんてめったにないんだから、感謝しなさいよねっ」
 言い終わったとたん、エリーは幼い顔を真っ赤にして伏せてしまう。

 エリーの恥ずかしがる姿がたまんないっ! やっぱりツンデレは王道よ!

お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?

 サラ!
 「わしを見るのじゃ!」とばかりに前で出張っている(byあわむら赤光先生)表紙がいい!
 アクティブな性格を思わせるピンクのツインテール、見た者を魅了する紫色の瞳、幼さと妖艶さを象徴する家のような八重歯、自己主張が激しすぎず不足しすぎずな程よい大きさの胸、齢数百年の風格を漂わせる自信に満ちたポーズ。
 近年のラノベ吸血鬼キャラの中でもトップクラスの魅力を兼ね備えてるわ。

 外見だけじゃないわよ!
 グレイと同室になるために「グレイのアソコをちょん切って性別を変える」なんて叫ぶわ、自分のことを絶世の美女だと自信満々に宣言するわ、田舎からやってきた勇者志望のミレーヌにグレイを取られまいと対抗心燃やすわ、一挙手一投足がチャームポイントね!

この作品の欠点、残念なところはどこですか?

 作者、ラノベ慣れしてないように感じるわね。
 ブログのカテゴリが一般文芸関連ばっかりだし。
 「ラノベ苦手なんだけど、頑張って研究してみました!」って箇所がチラホラ。

 例えばエリーとの決闘。
 勇者学校では日々の生活に応じてポイントが加算されるの。入学すると一〇ポイント、みたいに。
 そのポイントに応じて上位五人が授業料免除になるんだとか。
 でね、決闘で負けると相手に一〇ポイント譲渡しなきゃいけないから、入学早々決闘に負けると退学になるらしいの。
 でもそれって不必要にシリアスな設定じゃない?
 「試召戦争に負けたら退学になる文月学園」並みの残酷な学校だわ。
 広岡先生は「笑いの正体とは『優越感』と『安心感』」を熟読すべき。

 あとはサラとグレイのキャラ崩壊。
 「ずっと友達でいる」とグレイに約束していたにも関わらず、彼の魔力が弱くなると魔界の弱肉強食論を振りかざしてグレイを見下すのには開いた口が塞がらなかったわ。
 主人公とヒロインの関係性が力に依存した主従関係ってどうなの? そこは対等であるべきじゃないの?
 グレイはグレイで序盤は困ってる人に気遣いのできる爽やかな好青年のイメージが一転、後半のバトルシーンでは「死ねぇぇぇ!!」「だから死ねぇぇえ!!」なんて乱暴な言葉づかいしちゃってげんなり。

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