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SCAR/EDGE―烙印よ、刃に囁け
黒い、手袋。まるで手錠のような黒い手袋を少年はしていた。 「キミ…は…」ちひろは茫然と呟いた。 世界が赤い。血に塗れ、日常はとうに崩壊している。 そこに、ちひろの憧れた、黒い手袋の少年が立っていた――。 『魂』の実在が証明され、人類の大半が「烙印」を刻まれた未来。 女子高生、緋原・ちひろ・ランカスターは、烙印局の捜査官・キズナと出会う。 彼は、〈烙印〉の副作用である特殊能力“傷”の持ち主、 そしてちひろが幼い頃から忘れられない人だった。 一方キズナは、死んだはずの姉・未冬が生きていること、 そして彼女が烙印システムに関わりがあることを知り…。 心の“傷”が力になる! ネオ・サイコ・アクション登場。
<烙印>を所有する一人の少女はある日、 9年前に一度だけ出会った思い出の少年と偶然の再会を果たす。 彼に救われたと思っていた少女は再会を喜ぶが、 彼は、心の欠落によって<烙印>に異能の力を持った「化け物」、「“傷”持ち(スカード)」だった……。 これはそんな二人の再会が、後に、<烙印>に満ちた世界の行く末を左右するようになる、 というボーイ・ミーツ・ガール的な物語です。 “傷”という異能の力が跋扈するアクションもので、ネオ・サイコ・アクションと銘打たれています。 <烙印>世界が「ネットワークで管理される」という様相を呈する為、 サイバーパンクに分類できるものとみてSFジャンルを指定させて頂きました。 戦いを彩るは心の欠落、「“傷”という名の異能」。 事ある毎に踏襲するイメージは原風景、「吹雪に見舞われた墜落事故現場の雪原」。 物語のトリガー、少女と少年の思い出は「雨の記憶」。 そして、語られていく多くの「死」――。 こうした作品に散らばる要素の一つ一つが総じて儚く、 「SCAR/EDGE」という一つの物語が完成していく終盤の雰囲気を、 寂しく、静かに、確かな「終わり」を感じさせるものへと仕上げています。 そんな終盤の物語は、全編に張られた伏線を回収しつつ、 一本の線へ集約していく造りとなっており、見事の一言。自分には快感とさえ思えました。 全四巻完結ということもあり、著者の文体もさっぱりしていて、重くなく、 比較的読みやすいと感じられます。 四巻構成、起承転結を感じさせる話の流れは、俯瞰するとすっきりまとまった印象です。 話の流れ、まとまり、文量、読みやすさ。 このバランスが非常に良く、お手本のような作品ではないかと、自分は思います。 上で述べた「儚さ」を押し出した雰囲気造りで包まれた世界観には、 サイバーパンクという言葉から想像するガチガチの印象をあまり感じないと思いますから、 抵抗のある人でも読めるかと思います。 創作系希望の方は、苦手でも習うつもりで読んでみることをお勧めしたいと思います。 自分も創作系の知人に勧められて読みました。確かに、勧めたくなる作品です。
話のまとまりが良いので、そういう見方をしてしまうと、 どれもこれも良いなあちゃんとやってるなあ、と思ってしまったりします。 個人的な好みで言えば、後半から登場するトールでしょうか。 一番好意的に思えるのは主人公の一人、キズナの成長になるのでしょうが、 彼と重要な共通点を持つのがトールという人物。 なのに、退場が少々あっけなく思えてしまい、もうちょっと見せ場作ってあげたい、 などと思ってしまったので、やはり好きなのでしょう。
序盤、1・2巻が退屈に感じられてしまったところでしょうか。 3・4巻は直接的に連続した話になっており、前後編という体裁なのですが、 1・2巻は一巻完結的な構成になっています。 しかし、一冊で一つの話が終わりはするのですが、 多くの伏線は終盤に拾われる為に謎を残す形で残され、 釈然としない、とまでは言わずとも消化不良気味に感じられてしまいます。 ちょっと、読み始めがつらいかもしれません。自分はちょっと苦手意識があります。今でも。 もう一つは、状況説明の文章です。 作品の魅力の半分程は、その雰囲気、空気感であると思っていますので、 もう少しくどくていいのではないかと感じられました。 すっきりさせるには簡素なくらいの方が都合がいいのかもしれませんが、 場面描写にもっと比重を置いても大丈夫ではないか、と。
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スパイダー・ワールド
時は二十五世紀。人類の文明は失われ、心を読む“意志の力”を獲得した蜘蛛が支配する地球。 人間たちはその下で、下僕または奴隷として暮らしている。 砂漠で育った少年ナイアルは、ひとり人類の自由を求めて闘いを始め……。 “人間の意識の在り様”を問うC・Wの思想の集大成、代表作。
犯罪評論家、世界各国人気小説家のコリン・ウィルソン最大最高の長編ファンタジー。 それが「スパイダーワールド」賢者の塔&神秘のデルタです。 舞台は、荒廃した未来、蜘蛛がこの世の支配者となった世界によって綴られています。 人間を食用として貪る蜘蛛――<死蜘蛛>と呼ばれる恐るべき支配者と、 砂漠のナイアルという少年の葛藤の物語。 蜘蛛から人類を解放したいナイアル、そのナイアルを打破しようとする蜘蛛の王。 序盤の砂漠放浪時代の話から、 続く二章では蜘蛛の町にたどり着いた彼の行動・言動が目に留まります。 ですが、この物語の本質はそこではありません。 詳しくはネタバレになりますので多くは綴りません。ですが一ついえる事は。 これはただ単なる善と悪の対決なんていう物語ではありません。 まして、蜘蛛は絶対的な悪ではありません。 蜘蛛と人の善悪論、本当の自由とは何か、人間の意識の謎、進化の方向性。 哲学者として、小説家として作者ウィルソン流の鋭い考察がそこにはあります。 砂漠の生態、神秘の動植物の描写から読者を引き込み、 蜘蛛への恐怖によって物語を練り、そして最後の意外性と必然性に裏打ちされた大円満。 いささかライトノベルとは外れますが、これは必ず読んでよかった、そう思える世界です。 世界が「指輪物語」「不思議の国のアリス」に並ぶとさえ言う屈指の傑作。 少なくとも、異世界造形、特に生態系や異生物関係、 文化などを参考にするだけでも非常に教訓になる部分があると思います。
また印象に残ったキャラクターばかりなので選択に困りますが、あえて。 ナイアルを導く老人ステグマスター、奴隷の王カザク、医者のシメオン。 片や民衆を率いるカリスマを持ち、方やシニカルな、そんな濃いこの人たちが好きです。 あと、これは種族全体になっちゃいますが「バクダン虫」がいい味出してます。
少なくともウィルソン氏は日本に対して友好的(むしろ日本が氏に対して友好的)なので、 翻訳はいずれできる……はず、です。 またより深い解釈をするのならば、氏の書いたほかの作品にも目を通さなくては、 見えない所があることです。
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サマー/タイム/トラベラー
あの奇妙な夏、未来に見放されたぼくらの町・辺里で、 幼馴染みの悠有は初めて時空を跳んだ―たった3秒だけ未来へ。 「お山」のお嬢様学校に幽閉された響子の号令一下、コージンと涼とぼく、 そして悠有の高校生5人組は、「時空間跳躍少女開発プロジェクト」を開始した。 無数の時間SFを分析し、県道での跳躍実験に夢中になったあの夏―けれど、 それが悠有と過ごす最後の夏になろうとは、ぼくには知るよしもなかった。
この本を読むのだ!! 短く淡い青春を無駄に過ごしたくないのならば!!! ハイ、いきなり偉そうに言ってすみません。僕も10代です。 では、真面目に書評します。 本書は2巻完結のSF青春小説。 まずSF小説のはずなのにリアリティが凄い。 自分が主人公と同じ10代だからなのかも知れませんが、 同様に10代の少年少女を主人公にした他の多くのライトノベルと比べてみても、 天と地ほどの差があります。 実際、他のラノベで凄い展開があっても無言で読みすすめるような僕が、 本書の2巻の山場に到達した瞬間に、 「……うぇっ!?」などと奇声を上げてしまいました(笑) とにかく描写が巧すぎます。 キャラクターたちがあまりに賢いもので、マイナーな固有名詞が出てきて、 理解に時間がかかる箇所もありますが、 それでも読んでいて物凄い共感を覚えます。 また、SF的な要素、その他不可解な要素が出てきても、 それらを主人公たちはちゃんと論理と知識で十分にカバー、もしくは考察する。 だから訳のわからない自体が起きても、本を投げ出すことなく、 むしろ読む速度が倍加します。 ストーリーは、主人公の幼馴染が3秒間のタイムトラベルをしたことを機に、 5人のすこぶる頭の良い高校生が<時空間跳躍少女開発プロジェクト>なるものを始め、 夏休みをそのプロジェクトで浪費する物語。 なんか物凄いプロジェクト名ですが、これを彼らは極めて現実的に進めていくので、 全く不自然さは無く、むしろ興味を引きます。仲間に入れて欲しい位です。 本当に彼らが羨ましい。 こんな青春を過ごしたいと本気で思うようになる、そんな作品です。
ナッシュ均衡だのN次元可能性マトリクスだのナイトの不確実性だの…… まぁでも、ネットで調べるなりすれば、大体の意味はつかめるので、 決定的な欠点ではないです。
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