ライトノベル作法研究所
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  4. アンブロークンアロー公開日:2012/09/10

アンブロークンアロー―戦闘妖精・雪風

ジャンル:SF
著者:神林 長平
出版社:早川書房
発行年月:2009年07月25日

猫Bさん一押し!(男性・30歳)

■ 解説

 地球のジャーナリスト、リン・ジャクスンに届いた手紙は、ジャムと結託してFAFを支配したというロンバート大佐からの、人類に対する宣戦布告だった。
 ついに開始されたジャムの総攻撃のなか、FAFと特殊戦、そして深井零と雪風を待ち受けていたのは、人間の認識、主観そのものが通用しない苛酷な現実だった。
 『戦闘妖精・雪風〈改〉』『グッドラック』に続く、著者のライフワークたる傑作シリーズ、待望の第3作 。

■ 猫Bさんの書評2012/07/16

 先に紹介が出ている、あの「戦闘妖精雪風」シリーズ、第二作目「グッドラック」に続く第三作目です。ハード中のハード、この作者はオタクが「硬派」であった時代の最後の生き残りなのだと思います。

 インベーダーやAI(人工知能)、そして戦闘機という古典的な枠組みを下敷きにしつつ、とことん作りこまれた「深さ」がオリジナリティを生んでいます。
 もしも文豪のドストエフスキーがSFを書いたらこんな風だったかもしれません。

 今回はSFミステリー色が強いです。あくまで憶測ですが「ティ・ゼロ」(同じ早川文庫から出ている「柔らかい月」、カルヴィーノの短編小説)あたりが発想の元ネタなのかもしれません。
 そして言語と無意識の関係(フロイト)や集合無意識(ユング)、意識の志向性・他者の問題(現代哲学)などの研究成果を巧みに利用しながらも、単なる「知識の羅列」に堕することのない強靭さがあります。

 著者自身の長年の独自テーマ、「人間と機械(非人間)の関係」という文脈で一個の世界観として再構築されている底力。

 本シリーズは外国でも翻訳されているそうです。

お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?

 雪風(主人公の戦闘機)です。
 今作では「わたしになろうとしてはいけない。もしわたしと同じになるなら、あなた(主人公)を排除する」というセリフが心に残りました。

 戦闘機械である雪風は、ジャム(インベーダー)と戦うために「人間」としての「深井零(主人公のパイロット)」を必要としているのです。
 とてつもなくシビアで打算的な関係であるのに、結果的に「深井零」という「個」を尊重し、切実に必要としている。そこにかえってまやかしのない「誠実さ」みたいなものを感じました。

 そして今回もジャムに制圧された味方基地を調査するために、零やブッカーさん(指揮官)を有無を言わせず偵察に送り込んだり、さんざんにこき使います。たじろぐ零たちをバルカンで追い立てるようなそぶりを見せたりするワガママ・スキルを発揮(そのくせちゃんと援護はしてくれる)。
 挙句「雪風は会議を望んでいます」などと、頭の弱い子みたく、自分自身のことを名前で呼んでしまう(「コイツ(雪風)、実は自分で自分のことがわかってないんじゃないのか」と、零とブッカーさんは頭を捻ります)。

 しかも記憶が正しければ第一作目のラストでも、雪風は急加速で他の乗員を殺しているくせに、その直後に「零だけは」一方的に脱出させています。ブッカーさんによれば、「零以外のパイロットなら死んでもかまわないと判断したのだろう」とのことで、雪風が専属パイロットの零を特別視していることは明白です。
 深読みすれば、雪風(戦闘機)のキャラクターはツンデレヒロインにとてもよく似ています。作者の神林は、洗練された別格のオタク野郎です
(かつて「七人のオタク」なんて映画がありましたが、「オタク」がただの軽蔑ではなく、畏怖や尊敬の対象でもあった時代が懐かしいです)。

この作品の欠点、残念なところはどこですか?

 一般的なサービス精神に欠けているところです。

 ライトノベルの「萌え」やハリウッド映画のヒロイズム・ロマンスのような俗っぽい面白みはないに等しい(特にこの第三作目)。それによって「萌えを超えた萌え」「ヒロイズムを超えたヒロイズム」を描ききっているあたりが見どころです。

 また超展開が多く、ついていけないかもしれません。それも最後には説明がなされ、それなりに説得力はあるのですが、わかりやすい娯楽を求めている読者からすれば「壁投げ」を食らうかもしれません。

 また「アンブロークン」単体で読むと、前作から読んでいるのを前提としているために少々理解が困難だったりします(その点が一番不親切です)。

 昨今の一般的な基準からすれば、問題外かと思われます。
 特にこの「アンブロークンアロー」は仮にライトノベルの新人賞に送ったとしたらほぼ確実に一次落ちするでしょう(「萌える女の子がヒロインでない」時点で、カテゴリーエラー扱い)。新人ライトノベル作家が同じものを書いたとしたら、きっと俗物編集者に一蹴されるでしょう。

 私見を述べれば、個人的に「萌え」は大好きですが、「萌えしか許さない」偏狭な「萌え豚原理主義者」どもは死ねばよいと切実に思います(そんな風潮に媚びるしか能のない出版社も同罪です)。そういう連中がオタク人種全体の評価を下げているのです。

 ともあれ本作は「日本SFの極北」であり、教師であるとともに反面教師でもあるでしょう。とにかく内容のレベルの高さは折り紙つきです。

 ただし興味のある方は、先に一作目・二作目から入ったほうが無難と思われます。

■ あなたはこの作品についてどう思いますか?(読者投票)

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