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3世紀の耶馬台国こそが、全人類史の存亡を懸けた最終防衛線

時砂の王


 ○読者投票結果
 最高です!一押し。 3
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ジャンルSF
著者小川 一水
出版社:ハヤカワ文庫(早川書房)
発行年月: 2007年10月
本体価格 600円 (税込 630 円)

JETさん一押し!(男性・20歳)

■ 解説                               
 
 西暦248年、不気味な物の怪に襲われた耶馬台国の女王・卑弥呼を救った“使いの王”は、
 彼女の想像を絶する物語を語る。
 2300年後の未来において、謎の増殖型戦闘機械群により地球は壊滅、
 さらに人類の完全殱滅を狙う機械群を追って、
 彼ら人型人工知性体たちは絶望的な時間遡行戦を開始した。
 そして3世紀の耶馬台国こそが、全人類史の存亡を懸けた最終防衛線であると―。
 期待の作家が満を持して挑む、初の時間SF長篇。


■ この作品について、熱く語ってください!            

 “私は2300年後の世界から来た。だが、ここの未来からではない。多くの滅びた時間枝を渡ってきた。”

 もし地球外から謎の攻撃を受けたら、人は世界を守ろうとするでしょう。
 この物語は、ETと呼ばれる謎の増殖型戦闘機械群から
 世界と人類を守るため26世紀に造られた主人公達の時を越えた戦いの物語です。
 
 これだけの紹介では使い古されたネタのように感じられますが、決してそうではありません。
 彼らが守るべき「世界」は一つではなく、全てのパラレルワールド(作中では時間枝)なのです!

 
 これはこの物語独特のSF法則に由来しますが、それについては割愛します。
 全ての時間軸の人類を滅ぼそうとする謎の敵、それを止めようとする主人公達。
 無数の時間軸を渡り、主人公達は絶望的な消耗戦を繰り返していきます。
 
 そんな絶望的な状況の中での、キャラクターの心理描写も光り、
 設定と相まって、非常に良い作品に仕上がっています。
 情報量が多いにも関わらず、うまくまとまっていて、蛇足巻が全くないのも好感を持てる要素です。


 著者は星雲賞やベストSFに選ばれるなど気鋭のSF作家の一人であり、
 「新作が必ず前の作品より面白い」とファンの間で言われることもある作者です。
 こういう宣伝調のフレーズを嫌う方もいることを知っていますが、
 著者の実績として、あくまで参考として載せておきます。

 また、特に設定好きにはたまらない、物語の深さがあります。
 以下、設定について触れるのでネタばれになります、ご注意を。


 細かなリサーチと深い考証・検証を行ったと思われる、終わりの見えない世界観が見ものです。
 物語は西暦243年の邪馬台国と未来(のさらに複数の時代)を交互に描かれるのですが、
 どの時代でもそのリサーチが生きていています。
 その時代に引き込む細かい設定を小道具としてうまく文中に配置することで、未来の章ではSFの世界に、
 3世紀の章では神話の世界にあたかもいるかのように、物語に引き込まれます。

 例を挙げれば3世紀を舞台にする章ではカタカナ語をほとんど使わず、
 古めかしい日本語や古語を多用することで歴史小説の雰囲気を醸し出しています。
 猿を“ましら”蜘蛛を“ささがに”と呼び、文身と書いて“いれずみ”と読むなどです。
 一方で未来の話では一転してSF未来調のフレーズが増え、従来のSF小説の文体になります。

 さらにこれらの部分に著者オリジナルの設定が組み込んであり、
 それらがすごく自然で、すらすら読める違和感の無いものでした。

 しかも第1章の漢字や古語の応酬の中で“変わってしまった歴史”を示すフレーズが入っていたり、
 未来の大衆的な生活観が垣間見えたりと、作者のこだわり具合が伺えます。
 また、それぞれの時代での主人公らの戦いは、それだけで小説が1冊書けそうな位密度が濃く、
 それを1章ごとに纏める事で2300年分、400回以上
 (もちろん、直接描かれる部分はさほど多くないのですが)という膨大な時間の戦闘がテンポよく読め、
 それが濃縮されることで主人公が受け、蓄積した絶望も一層強く感じられます。
 
 章の終わりに主人公達に不利な絶望が舞い込み、やむなく過去(正確には別の時間枝)に撤退する、
 という救いのなさも展開上、非常にうまいと思いました。

 ストーリーや人物描写にもすばらしいものがありますが、そういう目で読み返してみると、
 ギミックとして仕掛けられた様々な伏線が見え隠れし、物語を書く上で非常に勉強になります。
 そういう点でもお勧めの一冊です。



■ お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?  

 メッセンジャー・アレクサンドルです。
 彼は主人公と同じ使命を受けた戦友なのですが、
 人間をサポートするために作られた知性体
 (AI、ロボット、アンドロイドに関わらず人によって作られた意思を持つ存在は作中でこう呼ばれます)
 であるにも関わらず、私には登場人物の中でもっとも人間らしく感じられました。

 以下はネタばれになります。


 物語の知性体達は、みな人と違わぬ意思と精神を持ち、多くは肉体も持っています。
 笑うこともあれば、悲しみに暮れることも、絶望することもあります。
 普通の人より肉体的にも精神的にも強い彼らですが、
 それは、痛みを受けないという意味ではないのです。
 痛みの許容量が大きいというだけなのです。
 
 強い思いも年月とともに薄れ、絶望だけ蓄積する状況に、彼らは必死に耐えようとしています。
 それが非常に人間的で、感情移入できる部分なのです。
 これらのことは主人公であるオーヴィルにも言えることですが、
 アレクサンドルは彼とは別の方向で人間らしさを出していて、
 それが物語の重要なスパイスになっています。

 特にアレクサンドルが劇中で綴る一連の物語の根幹にあるのは、
 帰れない滅びた故郷にいる少女への想いなのです。
 その思いは見ていて痛々しい物ですが、理解できる人間的な感情であるのも事実なのです。
 
 話の終盤、アレクサンドルは人恋しさ故に任務放棄の罪に問われます。
 その行動の理由、仲間達の同情、皆が本当の人でないにも関わらず、我々と同じように思い、悩みます。
 他にも様々な時代の人々の心中、敵の攻撃の理由、錯綜する様々な感情。

 この作品を通して「人間性とは何か?」と考えさせられます。


■ この作品の欠点、残念なところはどこですか?          

 この小説の著者はラノベも書いていますが、主にSF作家として活躍されている方です。
 これはラノベのレーベルから出ているわけではないので、少しSF小説としてのテイストが強いです。

 自分はほとんど気にならないのですが、
 慣れていない人の中には「SF酔い」する方もいるかもしれません。


 またこれはパラレルワールド系の物語全般に言えることですが、
 この類の話は現実には無い「何か」のせいで変わってしまった“If”の歴史を扱うものであり、
 それすなわち現実の歴史を否定するものです。
 そういうものを「妄想の産物」として好かない人には向かないかもしれません。


■ あなたはこの作品についてどう思いますか?(読者投票)     

最高です!一押し。
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人の夢の中に逃げ込んだ凶悪犯の意識を退治する賞金稼ぎ、“ドリームバスター”

ドリームバスター


ジャンルSF
著者宮部 みゆき
出版社:トクマ・ノベルズEdge
発行年月: 2009年01月
本体価格 857円 (税込 900 円)

ドリシャさん一押し!(女性)

■ 解説                               

 燃え上がる火。焼け落ちそうな家。その中で、へんてこなダンスを踊る黒い人影……。
 悪夢に悩まされる道子とその幼い娘・真由は、夢の中で、奇妙な少年に助けられる。
 西部劇のガンマンに似た格好、背中に青竜刀を背負い、額には真っ赤なハチマキ。
 彼の名は、シェン。
 人の夢の中に逃げ込んだ凶悪犯の意識を退治する賞金稼ぎ、“ドリームバスター”であった……。
 壮大な物語のプロローグ「ジャック・イン」と、
 シェンたちの住む惑星“テーラ”の姿が明らかになるエピソード「ファースト・コンタクト」を収録。
 大人気アクション・ファンタジー巨篇。


■ この作品について、熱く語ってください!            

 D・B(ドリームバスター)。

 彼らは異世界の住民であるため、そちらからの視点が織り交ぜられています。
 「ニホン」という普段見慣れている景色を改めて新鮮に感じさせられました。

 途中、このジャンルでは珍しい二人称で語られる部分がありますが、
 主人公シェンの性格がそのまま表れていて笑えました。
 また何気ない軽口の叩きあいは読んでいてニヤっとさせられるものがあります(笑

 笑いと同時に、生々しい人間味も感じさせる巧い文です。


■ お気に入りのキャラはいますか? どんなところが好きですか?  

 シェン、かなあ。
 小さな子には優しく接するけど、普段は口が悪くて素直じゃない。
 というギャップが凄く好きです。


■ この作品の欠点、残念なところはどこですか?          

 続編が出るのが遅いところでしょうか;
 もうちょっとサクサクとしたペースで出して欲しいです。



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