ライトノベル作法研究所
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  4. ベストセラー・ライトノベルのしくみ公開日:2013/09/02

ベストセラー・ライトノベルのしくみ

ジャンル:ラノベハウツー
著者:飯田一史
出版社: 青土社
サイズ: 単行本
ページ数: 366p
発行年月:2012年04月
ラノベの王女様さんのオススメ!

■ 解説

 『生徒会の一存』『バカとテストと召喚獣』『とらドラ!』『ゼロの使い魔』『とある魔術の禁書目録』『鋼殻のレギオス』そして『涼宮ハルヒの憂鬱』・・・・・・。シリーズ累計で数百万部を売り上げ、いまもっとも読者を獲得しているジャンルであるライトノベルから、作品論、メディア論、顧客分析、競争環境分析を駆使して、市場で勝つ戦略までを解き明かす。Amazonランキングで1位になったライトノベル作品を徹底分析。

■ ラノベの王女様さんの書評2013/09/02

 ラノベ作家になりたい――そんな夢を日夜胸に抱き、日々執筆に邁進してる人が後を絶たないわ。
 文学部やラノベ専門学校に入学して理論を身に付けようとしたり、人によっては、高校や大学を中退してまで、あるいは会社を辞めてニートになってまで、ラノベ作家を目指すことさえ。
 悪いニュースだらけで先行き不透明の現代社会。終身雇用も崩壊し、安定が幻想としか感じられない時代。コツコツ働くなんて冗談じゃない。
 俺もラノベで一発当ててやる、そして一生遊んで暮らすんだ。動機はこんなものかしら。

 そのことについてとやかく言うつもりはないわね。程度はどうあれ、あたし含め作家志望者というものは少なからず一般人が歩むレールからは外れているのが普通なんだから。マジョリティと同じ生き方をするのが苦痛だ、ってこともあるでしょうし。
 今重要なのは、そういう風にレールから外れようが、あるいは学生や社会人として安定した(?)兼業作家の道を歩もうが、「ラノベ」を分かってない人間に面白い作品、すなわち多くの読者の心をつかむベストセラーは作れないってことよ。

 ラノベのあとがきや作家のtwitterと、2chやラ研の書き込みを比較すると、いつもそこに圧倒的な温度差を感じるの。まるで昼夜の温度差が530℃もある水星のように。もしかしたらそれ以上かも。
 ラノベ作家の人たちは「○○萌え!」「おっぱいっていいですよね!」のように、作品の楽しさを熱く(そして時には変態的に)語るのに対し、ネット上ではそういったコメントはMMOのレアアイテム並に見かけないという現実。むしろ、愛よりも嘲笑の方が多いわね。
 典型的な書き込みは「最近の作品は糞」「萌えはいらねえ」かしら。彼らに共通しているのは「ラノベは文学(特にSF、ミステリー、ファンタジー文学)の劣化版」だと見なしていることかしら。「重厚な本を読んでる俺たちは賢い! ラノベを読む奴は馬鹿だ!」とでも考えてるんでしょうね。

 そこまでラノベを蔑視しておきながらラノベ作家を目指そうとするのは一見不思議かもしれないけど、そんな複雑な話じゃないわ。前述したように「ラノベは文学の劣化版」なんだもの。文学を知ってる彼らにとっては、売れるラノベを書くなんて蟻を踏みつぶす以上に容易だと思うのも無理はないわ。もっとも、現実には一次選考すらも通過できないのがほとんどだけど。

 要約すると、多くの作家志望者は「ラノベが」売れる理由を理解してないのよね。「一般文芸のように書けば新人賞に通る」とラノベを見下してるの。でも、それは大きな間違いよ。

 じゃあ、売れるラノベの条件は何か。ネットで糞糞叩かれてる禁書やはがないやSAOがあそこまでヒットした理由は何か。その疑問に答えているのが、飯田一史先生の『ベストセラー・ライトノベルのしくみ』よ。著者は元ライトノベルの編集者。それだけでなく、グロービス経営大学院でMBAを取得しているというツワモノでもあるの。この点が今までのラノベ入門書との大きな違いよ。
 主要部分だけ抜き出すと、この本は次のような構成になっているわ。

はじめに――Amazonで1位になったライトノベル(だけ)を読む
第I部 総論――ライトノベルの四大ニーズ
第II部 ラブコメ
第一章 高坂桐乃はなぜ「残念」なのか――『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『生徒会の一存』『僕は友達が少ない』
第二章 リーダーシップ・ギャグ・秀吉――『バカとテストと召喚獣』
第三章 ラブコメで「刺す」には――『とらドラ!』『文学少女』
第四章 ファンタジー・ツンデレ・本妻確定型ハーレム――『ゼロの使い魔』
第五章 バトルラブコメ+本妻不在型ハーレムの成功と困難――『IS〈インフィニット・ストラトス〉』
第III部 バトル
第一章 なぜ異能バトルには上条さんの「説教」が必要なのか――『とある魔術の禁書目録』
第二章 バトルで「刺す」ためのしゃべらない敵――『鋼殻のレギオス』
第IV部 環境分析
第一章 顧客分析――『涼宮ハルヒの憂鬱』を通じてのオタク世代論
第二章 事業分析――なぜライトノベル発のメディアミックスは重宝されるのか
終わりに
青土社の公式ページの目次 見出しまで含めたより詳しい目次が公開されています)

 まず第I部冒頭で、売れるラノベは「楽しい」「ネタになる」「刺さる」「差別化要因がある」の四条件を兼ね備えていること、そして作家に要求されるのは「書くのが早い」「パッションがある」「自身もオタク」であることが明かされるわ。
 つまり、楽しくポジティブな感情になるもので、友達との会話のネタになって、胸に刺さる、そしてその作品でしか読めない固有のものがある、そんな作品が求められているわけ。

 だから、萌えを馬鹿にしたりラノベを文学の下位互換とみなしてる人間には、ラノベ作家を目指す資格がないのよ。
 まあ、こんなことはあたしが散々掲示板で主張しまくってたんだけど、「肩書きのないお前が何言ってんだ!」ってボコボコにされちゃったわ。住人のブランド信仰も困ったものね。

 続く第II部では、ラノベの定番であるラブコメを扱うわ。
 MF文庫のシェアを見ての通り、萌え萌え作品には間違いなくニーズがあるはずなのに、ベストセラーになるものとそうでないものが出てきてしまうのはなぜか。

 第III部では、禁書に代表されるバトルものに踏み込むわ。
 このジャンルは2chで槍玉に挙げられることが多いわね。今挙げた禁書もそうだし、SAOや劣等生もその部類に入るかしら。あとは少年漫画だけど、ワンピースやBLEACHも批判が多いわね。
 その背景にはHUNTER×HUNTERやジョジョの影響が間違いなくあるはず。俺TUEEE? まるで小学生だ。天才キャラ? 笑わせないでくれ。俺が読みたいのは手に汗握る頭脳戦なんだよ。みたいな。
 作家志望者はそんな意見を間に受けてやたら凝った設定を作ろうとするけど、そんなのは無意味な努力よ。なぜならば、読者が求めているのは「●●」なのだから。
 このあたりの議論は飯田先生が『バクマン。』から引用してるから、詳しくは本を参照して欲しいわ。

 ラストの第IV部だけど、ここは業界関係者向けの内容だから割愛するわ。どうしても知りたかったら本を買いなさい。
 以上、こんなものかしら。

■ この本の欠点、残念なところはどこですか?

 サンプル数が少ないことと、メジャーな作品しか言及してないことね。

 せっかく元編集者というバックグラウンドがあるんだから、マイナーなものも含めて、もっと多くの作品を語ってほしかったわ。
 もう一つは、経営学的な目線で見てるだけあって、「読者至上主義」的な面が強いことね。読者のニーズはこうなんだからこう書け、みたいな。これが媚びに繋がらなければいいんだけど……

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