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なぜこの小説は人気があるのか?

ネタバレ注意! このレビューにはネタバレが含まれています。

ロスト・ユニバース

 やっかいごと下請け人"ケインが押しつけられた金にならない仕事、
 それは単純な家出人探し、のはずだったが……。
 虚空にひろがる星々の片隅で、邪悪なるモノの胎動が始まっていた―。
 黒いマントをひるがえし、サイ・ブレードで悪を断つ。
 颯爽登場、"下請け人"ケイン=ブルーリバーの活躍を描く、
 ファンタスティック・スペース・アドベンチャー。

 1998年4月3日から9月25日までテレビ東京系列でテレビアニメが放映されました。全26話。
 当時は原作小説が未完結だった事もあり、敵のボス級艦船が全滅していないなど、
 原作とは違ったオリジナルストーリーが展開されました。

■ 宇宙を舞台にした冒険活劇                     

 ロスト・ユニバースは1990年代初頭に作られた作品、
 現在では失われた、古き良き時代の宇宙冒険活劇のティストが濃縮されています。
 “やっかいごと下請け人”こと、トラブルコントラクターのケイン・ブルーリバーが、
 先史文明によって製造された遺失宇宙船(ロスト・シップ)ソードブレイカーに乗って、
 巨大企業ゲイザー・コンツェルンを隠れ蓑にした宇宙最大の犯罪組織ナイトメアと戦う
 スペースオペラ……

 このあらすじからもわかるように、一言で言うと、小気味よい話ですね。

 喧嘩っ早く、やっかいごとに自ら首を突っ込み、
 情のために金にならない仕事も引き受けてしまうケインは、
 行く先々で、トラブルに見舞われるのですが、自らの腕っ節と機転、
 そしてソードブレイカーの力で、それを切り抜けていきます。

 こういう活劇モノが好きな人には、おそらくたまらない内容でしょう。

 また、良く人が死ぬ話です。
 ユーモア溢れる作風のため、重い感じは全くしないのですが、
 その巻に登場したサブキャラクターは、ほとんど全滅という容赦の無さ。
 ケインが救ってあげて、ようやくこれから平穏な人生が始まるというところで、
 サブキャラクターに死という幕引きを降ろす残酷な話でもあります。
 特に四巻の終わりがひどく、ケインたちが逗留し、親交を持った星の人々が、
 一人残らずジェノサイドされます。

 そのおかげで、敵であるナイトメアへの怒りが徐々に高まっていくという仕組みです。
 四巻の後味は、良い意味で悪くなっていますよ。


 また、この話は、地上や宇宙ステーションに降りての人間対人間の戦闘パートと、
 宇宙を舞台にした戦艦バトルの2つのパートに別れています。
 地上での白兵戦では、ケインが手心を加えるせいで、
 血を見ることはほとんどないのですが、戦艦同士の交戦パートとなると、
 大量の人間が宇宙の藻くずと消える大量殺戮が行われます。

 特に最終巻(五巻)の戦闘は、万単位の非戦闘員を巻き込んだ凄惨なもので、
 その死傷者の数は、戦争並みだと思いますよ。



■ キャナル・ボルフィードについて                 

 ロスト・ユニバースを語る上で外せないのが、このキャラ『キャナル・ボルフィード』ですね。
 ロスト・ユニバースではキャナルが一番最高! 

 銀色の髪をもつ美少女なのですが、
 その正体はケインの宇宙船ソード・ブレイカーの中枢制御システムです。
 人間とコミュニケーションするためのインターフェイスとして、
 質量を伴った少女の立体映像となり、ケインたちと関わっています。

 おそらくキャナルを開発した超古代文明の技術は優秀すぎたのでしょうね(笑)。
 コンピューターといってもキャナルの性格は、味気ない事務的なモノではなく、人間的で笑えます。


 例えば、ある日ケインは酒場でケンカをして捕まってしまいます。
 留置所に放り込まれたケインの前に警官であるレイルが現れ、
 出してやるから、自分の依頼を受けろと強要され、仕方無しに受ける事になります。
 ソードブレイカーに戻ったケインは、その事をキャナルに伝えます。
 しかし依頼料ゼロの原因がケインにある事を知り、
 キャナルは、それにつけ込んで宇宙船用の兵器をおねだりをするのです。

「げ。」
 値段を見るなりケインは思わず絶句した。
「ね。いいでしょ。買ってくださいね」
「お……お前なぁ……依頼料も入ってねぇのにこんなくそ高いもん四つも……」
「……買ってくれないんですかぁ?」
 キャナルは、ぷぅっ、と頬を膨らませて、
「ねぇ、買って下さいよぉっ!お・ね・が・い。
 買ってくれなきゃ生命維持装置とめちゃいますよっ!」
 ……このガキ……いつか基盤にコーヒーこぼしちゃる……
 心の中で毒づきながらも仕方なしにうなずくケイン。

(『ロストユニバース 幻夢 目覚める』より引用)

 「おしゃれのため」に役に立たない武装を買ったり、
 ネットに流れるトンデモ系の情報収集が趣味だったり、
 船体が汚れることを極度に嫌うきれい好きだったりと、
 性格は、やたらと凝り性で、わがままな少女といった感じです。

 例えば、以下は敵との戦いで損傷したソードブレイカーを修理する時間を稼ぐために、
 船体の上にジャンク・パーツを被せてカモフラージュしていた時のエピソードです。

『……そうですか、ジャンク……
 ………って、ゴミ扱いですか!? わたしっ!?』
「いや、そうじゃなくって……あくまでカムフラージュのために、
 ジャンク・パーツを上から載っけられているだけで……」
『じゃあ今、わたし、ジャンク・パーツに埋まっているですかっ!?
 ああああっ! 年頃の女性の肌になんてことをっ!?」

(『ロストユニバース 悪夢 生まれる』より引用)

 と、まあ、なかなか笑えますね(笑)。
 しかも、キャナルは酸素系などのライフラインを含むソード・ブレイカーの操作の全てを握っている為、
 船内にいる限りはその立場が一番強かったりします。

 しかし、ただのわがまま娘というわけではありません。
 先史文明を破滅に追い込んだダークスターの封印のために生み出され、
 創造主たちがいなくなった後も、ダークスターと戦い続けることを義務づけられているという、
 悲壮な運命も背負っています。
 
 ふだんのおちゃらけぶりと、この使命の重さのギャップが、
 キャナルのなによりの魅力になっていますね。
 最終巻のラストシーンでは、キャナルの本音が聞けてグッと来ました。


 ちなみに、原作のキャナルは銀髪をした巫女姿の少女ということでしたが、 
 アニメ版では、緑の髪をしたメイド的な格好をした少女になっています。
 そのためか、急遽、四巻からは、小説版もアニメ版と同じイラストになりました。
 私はアニメから原作に入ったので、最初はキャナルの姿の違いに戸惑いましたね。
 メイド姿の方が、好みです(笑)。


■ 魅力的な戦闘シーン                        

 ロスト・ユニバースの魅力は、
 先史文明の超技術の塊である遺失宇宙船(ロスト・シップ)同士の対決にあえると言えます。
 ロスト・シップは、現在の宇宙戦艦よりはるかに高水準の性能、戦闘能力を有しており、
 たった一機で星間軍の艦隊とも戦えるほどです。
 主人公ケインが操るロス・トシップは、195m級宇宙船ソードブレイカー、
 またの名を戦闘封印艦ヴォルフィードと、言います。

 で、このソードブレイカーは、機動性に優れ、リープレールガンや、プラズマブラストといった、
 強力な兵器を搭載しているのですが、敵のロストシップと比べた場合、
 その性能はあくまで標準的なラインにとどまっています。

 敵に比べて、主人公サイドの船が圧倒的に強いというわけではないのです。
 それどころか、敵のロストシップたちに比べて、性能面ではやや劣っていますね。

 戦闘の醍醐味は、主人公のケイン、その相方のミリィ、そしてキャナルが、
 3人で知恵を絞り、それぞれの長所を組み合わせて、
 自分たちより強い敵を打ち倒す点です。


 例えば、410m級重砲撃艦ゴルンノヴァ という敵がいます。
 多数のビーム砲を装備し、「空間レンズ」で空間を歪めてビームを収束して威力を高めたり、
 拡散させて広範囲を攻撃したりする事が可能という、
 ソードブレイカーよりはるかに高い攻撃力を持った敵です。
 しかも、空間が歪められて弾道が曲げられてしまうため、通常兵器は一切通用しません。

 このゴルンノヴァに対して、ソードブレイカーが勝っているのは機動性だけです(汗)。
 しかも、ゴルンノヴァにはリープレールガンしか相手にダメージを与えることができず、
(弾丸が転移装置になっており、命中した箇所の周囲半径50mをえぐり取って虚空へ放逐する兵器)
 どうやってリープレールガンを命中させるか、ケインたちは必死に戦術を練りながら戦います。
 なにしろ相手もリープレールガンを警戒していますので、
 普通に撃ったのでは、まず当たらないのですね。
 しかも、リープレールガンは現代の科学技術では製造不可能で、
 ソードブレイカー内の自動修復システムを使用して生産するため、5発も撃てないのですよ(汗)。
 
 このような不利な状況の中、敵の能力や周囲の状況に合わせて戦術を練り、
 苦戦しつつも最後には勝利するという、まさに燃える展開!


 こういう知恵によって勝つという戦闘の方が、単純にどちらが強いかで勝敗が決する戦いより、
 私は圧倒的に好きですね。

 キャナルが情報収集・戦力分析担当、ミリィが砲手・攻撃担当、
 ケインが機動・船の操縦担当と、役割分担がキッチリされており、
 船の中では傍観者になっている人間が一人もいません。
 それ故、戦闘中では、それぞれのキャラが相乗的にお互いの魅力を高め合う結果になっています。
 しかも、その中でユーモアのある冗談まで交わしているのですね。
 これはまさに巧みの技です。

「このスピードはあいつしかいませんっ! 
 一七〇M級機動駆逐艦『ラグド・メゼキス』!  苦手なタイプですっ!」
「苦手なタイプって……! 毎晩『君と僕は一緒になる運命だ』
 とかって電話かけてくるくらい!?」
「いえ! 毎日道の端から、じっと家を眺めてるくらい、です!」
 真顔でわけのわからん例えで問いかけるミリィに、やはり真顔で、
 わけのわからん例えでキャナルが答える。
 ……こいつら……昔ヤなことでもあったのか……?
 はたで聞いてて、思わず内心つぶやくケイン。

(『ロストユニバース 悪夢 生まれる』より引用)

 ロスト・ユニバースの戦闘シーンはなかなか学ぶところが多いですよ。


■ SFファンタジーの傑作                      

 20世紀には流行りに流行ったSFですが、21世紀に入ってからは見るも無惨に凋落しました。
 なにせ科学技術が進歩しまくり、もはや現実がSFに追いついていますからね。
 科学技術が人間に幸せを与えてくれるという幻想が崩壊し、
 SFに人々は魅力を感じなくなりました。

 ロスト・ユニバースは、SFが斜陽の時代に突入した1992年に生まれました。
 そのため、単なるSFではなく、捻りを加え、ファンタジー的な要素を取り入れています。


 近年、SFとファンタジーを無理矢理融合させた、
 なにこれ、SFなの? ファンタジーなの?
 と首を傾げたくなるような、どっちつかずの歪なSFファンタジーが乱発されてきました。
 しかし、1990年代の当時は、まだまだSFとファンタジーの融合というのは斬新でした。
 しかも、非常にうまく両者を融合させている珍しい成功例と言えるでしょう。
 第四巻のあとがきで、作者はこのように書かいています。

 一巻のあとがきで書いたよーに、だんだんお話はSFじゃなくなっていきます。
 度を超した科学は魔法のようにしか見えない、という、
 赤城リ○コ博士の有名な言葉がありますが、(おい)。
 『ダークスター』たちが、ちょうど、それ。

 (ロスト・ユニバース四巻 『悪夢 生まれる』 あとがきとより引用)

 例えば、主人公のケインが使う武器や、
 ソードブレイカーに搭載されている兵器などは、SFというよりファンタジー的なモノです。
 『サイ・ブレード』『サイ・バリヤー』『サイ・ブラスター』
 サイ・バリアを利用した高出力プラズマ・ブラスト。
 と、人間の精神力をエネルギーに変換して使う、という設定のモノが多いのですね。
 
 つまり、ド根性を出せば威力が上がるという、なんともアバウトな兵器です(笑)。

 まー、とても科学的とは呼べませんね。
 ケインが白兵戦に使う『サイ・ブレード』は、精神力が威力に反映される兵器の象徴的な存在で、
 彼が根性を出すと、ごく短い時間だけ増幅装置無しで刃が出たりします(笑)。
「ふははー、増幅装置が無ければ、サイ・ブレードは使えまい!」
 と、悪役に迫られて大ピンチになった時、その場の熱血で乗り越えてしまうという、
 まさに王道の燃えるシュチュエーションが展開されるわけです!
 
 また、敵のロストシップの親玉である『ダークスター』は、
 人間の意識、それも戦場で収集しやすい怒り、憎しみ、
 そして「恐怖」をエネルギーとするシステムと、
 あらゆる生命体の活動を停止させる「システム・ダークスター」という、
 2つの超技術を搭載しています。
 また、ソードブレイカーことキャナル・ヴォルフィードは、ダークスターに対抗するために、
 人間の「希望」をエネルギー源とするシステムを有しています。
 こういった人間の精神をエネルギーに変えるような技術が、超古代文明の究極形のようですね。
 システム・ダークスターの発動時には、逆五芒星の魔法陣が空間に現出するなど、
 魔法的な演出がなされています。

 ロスト・ユニバースは、だんだんSFからファンタジーにシフトしていくのですが、 
 その根幹はまっとうなSFであり、作品全体としては、あくまでSFの領域を出ていません。


 登場人物が魔法とか唱えて、戦ったりはしないわけですね。
 ファンタジー要素は、あくまでロストシップの技術と、
 サイ・ブレードなどの一部の兵器にのみにとどまっているため、
 本来のSF的世界観が壊されておらず、破綻無くまとまっています。
 このあたりは、見習いたいところです。
 

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