第5研究室 アニメ化小説研究室 | | トップへ戻る | |
なぜこの小説は人気があるのか?
ネタバレ注意! このレビューにはネタバレが含まれています。 ストレイト・ジャケット
このバトルを盛り上げる設定が非常に洗練されています。 ストレイト・ジャケットの魅力は、その洗練された世界観・設定にあると言えますね。 この世界では、魔法を使うと、呪素という不可視の汚染物質に身体を犯され、 殺戮と破壊衝動しか頭にない異形の怪物・魔族へと変貌してしまいます。 これを防止するため魔法を使う者たちは、 呪素を抑えるモールドという中世の騎士の鎧に似た拘束服を着ることを余儀なくされています。 主人公のレイオット・スタインバーグは、対魔族戦闘専門の無資格の戦術魔法士です。 ○魔族は時間が経つにつれて魔法を使うのが上手くなり、魔法生物として進化、強力になっていく。 ○魔族を殺すには、脳組織の5割以上を破壊する必要がある。それ以外の損傷は瞬時に再生されてしまう。 ○魔族は魔力圏(ドメイン)という防壁を身体の周囲に張り巡らしており、魔法による攻撃しか通用しない。 ○魔族は魔法を無限に使えるが、モールドには拘束限界があり、魔法使用回数が10回程度しかない。 ○モールドが破損した状態になったり、拘束限界を超えて魔法を使うと、魔法士自身も魔族化してしまう。 これら5つの条件により、レイオットは圧倒的に不利な立場で戦わざるを得なくなり、 バトルが非常に緊迫したものになります。 モールドには拘束度端子という金具が付いていて、魔法を撃つたびに、これが弾けて飛んでいきます。 拘束度端子がゼロになると、拘束限界で、それ以上魔法を使うと魔族の仲間入りです。 この拘束度端子が、バシンっ、と音を立てて弾けていく様が、なんとも緊張感を煽ります! あと、○回しか、魔法が使えない、大丈夫か、勝てるのか!? といった感じですね(笑) 魔族は、固体によってまったく異なる形状や能力を持っており、 弱点となる脳も、身体のどこに備わっているのかわかりません。 そのため、戦いながら相手の能力や、脳の位置を探っていかなければならないのです。 人類の天敵と相対する恐怖心に加え、無駄弾を撃つもできず、 下手をすれば自分自身も魔族と化してしまうかもしれない緊迫感。 まさに生命を賭けたぎりぎりの戦闘を強いられます。 その上、戦いの舞台となるのは、逃げ場の無い船の上だったり、 疾走する列車の中だったり、崩落の危険のあるトンネルの中だったりと、 趣向を凝らしたステージも多く、地形的にも不利な条件に立たされて、さんざんです(笑) しかし、レイオットは、育ての親を殺してしまった罰を自分に課すため、 あえてその極限の戦闘に自ら進んで向かいます。 強がるでも誇るでもなく、ただ静かな絶望に身をやつしながら、 絶望そのものと戦おうとする、ハードボイルドな感じがいいです。
魔族とは人間の一形態に過ぎないかもしれない、という学説が作中に出てきますが、 これを証明するかのごとき、ダークなストーリーが見所です。 特にひどいのが半魔族のカペルテータの過去に関する上下巻で、おっそろしくなります。ガクブル。 おそらく中世の魔女狩りに影響を受けているのだと思いますが、 魔族化した者の家族が受ける迫害、半魔族に対する差別などは、真に迫ってきます。 この世界において魔法は、すでに無くてはならない便利な技術となっており、 魔法士は他の労働者の10倍以上の高い報酬を受け取っています。 この裕福層への嫉妬の裏返しからか、魔族化した者の家族への迫害は凄惨を極めるのですね。 ふと――壁に書かれた文字が眼に入った。 『化け物屋敷』『クソ食って死ね』『責任をとれ』…… 書きなぐられた無数の言葉。汚物をぶつけたらしい跡。それに何か硬いもので殴った傷。つい先日までは美しく滑らかだった家の壁を、間接的な暴力がほぼ隙間なく覆っていた。 ほんの数日前までは確かに存在していた幸福な場所。自分たち家族の暮らしていた家。 (『ニンゲンのカタチ THE MOLD』より引用) しかも迫害者たちは『正義』『天誅』と書かれた覆面をしながら、 正義の味方気取りの暴行や嫌がらせを繰り返し、被害者を自殺に追い込むのです。 また、魔族は人間と交配可能であり、魔族に強姦された女性は、 半魔族という先天的に身体に異形の部分を備えた子供を生みます。 半魔族は、容姿にのみ異常があるだけで、魔法を使えるわけでも、 残虐な性格をしているわけでもないのですが、 いつ魔族化するかもしれないと噂され、集団リンチにあって殺されたりします。 しかも差別する側が『良識ある市民』と自称しているあたりが、なんとも薄ら寒いものを感じさせます。 弱い人間同士が肩寄せあって生きているのに、本当の悪である魔族ではなく、 その被害者を叩いて喜んでいる様には、作者が人間に向けた皮肉な視線を感じます。 他者を攻撃する時だけは、自分の身を蝕む絶望や不安から逃れられる。 人間とは、他人を罵りたい生き物なのだ、と。 この作品は、体内に一定の暗黒物質が溜まらないと書けないと、あとがきで言っておりますが、 それを反映してか、ダークな厭世観に物語全体が包まれています。 しかし、迫害を受けながらも、家族を守りながら必死に良い方向へ向かおうとする少年や、 半魔族のヒロイン・カペルテータを温かく迎えてくれる周辺の人たちなど、 最後は必ず希望へと向かうストーリー展開になっています。 世界はどうしようもなく腐っているけれど、それに飲まれる人間ばかりではない、 という静かですが力強いテーマを感じさせます。
主人公のレイオットなどは、最初は、やる気も無く、気だるいだけの雰囲気を纏わり付かせていましたが、 巻を重ねていくと、積極的に人助けをするようなポジティブさを身に付けて行きます。 絶望だ、絶望だと言いながらも、ぜんぜん絶望していないじゃないか、コイツ! と、ツッコミを入れたくなることもしばしば(笑)。 社会そのものは、醜く爛れて、いじめや迫害が横行しているのですが、 主人公の周囲の人間関係だけは、理想的とも言える状況を保っています。 ヒロインのカペルテータは半魔族なのですが、 彼女が直接的な暴力や暴言を浴びるようなシーンは、実はあまりありません。 それはレイオットや周囲の人たちが、彼女を守っているからであり、 幼いころの虐待によって感情を失ってしまった彼女は、ごく僅かずつではあるものの、 感情の片鱗らしきものを取り戻していきます。 この微妙な変化や感情の機微を描く技量には、まさに感服ですね。 敵対する登場人物などは、もはや破綻寸前の状況に置かれ、破れかぶれになっていることが多いので、 レイオットの周囲がどれほど奇跡的な幸運に恵まれているのか、よくわかります。 もっとも、この温かい日常も、レイオットが魔族化したり、殺されたりすれば、 一気に瓦解してしまう砂上の楼閣であり、破滅といつも隣り合わせなのですけどね…… ただレイオット側に属する比較的幸運な女の子が、 迫害から自殺しようとする半魔族の親子を説得するなど、 「それはキミが幸せな状況にいるだけで、出口の無い迫害を受け続けたら、こうなってしまうよ」 と、やや鼻に付くようなシーンもあります(汗)。
魔族の幼児じみた狂った言動、殺戮シーンなどは、苦手な人にはオススメできません。 魔族に強姦された女性が半魔族を生むという、 描写こそ詳しくされておらず、ぼかされていますが、それ何のエロゲー? と言ってしまっても過言ではないシーンもあります。 また、設定が細かいことが仇になり、設定の説明に毎回、手間を取っている上、 登場人物の微細な心の動きなどに焦点を当てた描写と、バトル中心の展開のため、 全体としてストーリーに動きが少ないです。 世界観や雰囲気を楽しむ作品と言って良いでしょう。 ハードボイルドを謳っていますが、カペルテータの過去編を除いて、 大きなどんでん返しや、謎解き要素を期待していると、肩透かしになります。 また、萌えやラブコメといった要素は、ほとんど無いです。 ハードでダークな世界観が好きな人にオススメです。 ▲目次に戻る ▲トップページへ戻る |
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