落第騎士の英雄譚/ラノベレビュー・T.Kさん

この記事は約4分で読めます。

[ 著者名 ] 海空 りく
[ ジャンル ] 現代FT
[ 出版社 ] GA文庫
[ 発売日 ] 2013/7/11

スポンサーリンク

T.Kさんの書評

千人に1人の割合で魔力と己の魂を具現化したアイテム「固有霊装」(デバイス)を操る「伐刀者」(ブレイザー)という異能者が存在する世界。

主人公の「黒鉄 一輝」(くろがね いっき)は生まれつき非常に魔力が少なく、「伐刀者」(ブレイザー)としての能力値の低さを理由に、魔道騎士を養成する学校である「破軍学園」で留年し、「落第騎士」(ワーストワン)という呼び名で呼ばれていた。

ある日、自分の部屋に戻ると、なんとその中に見ず知らずの女の子が着替えの途中の下着姿で立っており、その子の裸を見たことで大騒ぎになってしまう。

実はその女の子は、一輝とは対照的に世界最大の魔力量を持つ10年に1度の天才との呼び声の高い、ヨーロッパの小国ヴァーミリオン皇国の第二皇女にして日本に留学し、「破軍学園」に入学した「ステラ ヴァーミリオン」だった。

その後、理事長から、実は2人がルームメイトとして同じ部屋をあてがわれていたことがわかるのですが、先の事件の怒りが収まらないステラは「負けた方は勝ったほうに一生服従しろ」という条件の元、自分との決闘を一輝に要求し…

という形で物語が始まります。

まず、1巻の最初を初見で読んだときは正直、「最初に間違ってヒロインの裸見たり、ツンデレヒロインとか、他のラノベで読んだことある、超よくある王道パターンだな」と思っており、目新しさを感じませんでした。

まあ、主人公が最初は落ちこぼれ的なポジションから話がスタートするというのはラノベや少年漫画あるあるネタなのは言うまでもないですが。
しかし、この主人公「黒鉄 一輝」は実は1巻の最初のステラとの決闘の時点から、相当の実力を見せつけているのです。

「落第騎士」(ワーストワン)とか呼ばれて進級できずに落第してるのに、なんで?

と思われるでしょうが、実はこれには訳があります。
まず、落第した理由が、「伐刀者」(ブレイザー)としての能力値の低さを理由に…というところが1つ目のポイントです。

実は、「伐刀者」(ブレイザー)は魔力量と特殊な力を操り、超自然的現象を引き起こす異能を磨き上げることを重視する風潮があり、魔力に依存しない、武術、体術などは評価項目に入っていません。そう、彼は魔力の才能が無いがゆえに、徹底的に武術をやりこみ、努力に努力を重ねて超人的なレベルでの剣技と観察眼。そして、ネタばれ防止の為あえて詳しくは書きませんが、それらを生かした「あるスタイル」によって魔力量の差を覆すほどの力をようやく得た。というキャラなのです。

そして、2つ目の落第の理由というのが実は彼の出生にあります。
彼の実家の黒鉄家は代々高ランク騎士を輩出してきた名門の家柄なのですが、彼は生まれつき魔力が少ないというだけで、のけ者にされ、無視され続け、その後彼は黒鉄家を出奔し、苦労して剣の腕を磨いていたのですが、「破軍学園」に入ってからも黒鉄家からの圧力で、組織的な酷いいじめの様な扱いを受け、1年を過ごし、理事長が一輝に理解のある人物に変わったことでようやくチャンスを得たという苦労人なのです。

また、ヒロインのステラについても、自身の必死の努力の成果を、元々天才だからという風に解釈され、なかなか自分の努力を人に気づいてもらえないという、周囲から天才扱いされることについての辛さや、あまりに強すぎる異能を持つがゆえにその暴走で死に掛けたという過去があったり、飛びぬけた才能を持つがゆえの苦悩、葛藤が描かれるというのも印象的で、才能が無いことによる主人公の苦悩と、才能があるがゆえの苦しみを味わっているヒロインの存在を同時に出している。というのが1巻の序盤の見所ですかね。

ここから先はネタバレですが……

あと、ちょっと意外だったのが、主人公が早くも1巻からステラに告白して、1巻にしていきなり両思いの恋人同士になっちゃうとこですかね。

この手のラノベでは、次々出てくるヒロインたちが皆主人公に片思いするようになっていって、そのくせ主人公は自分に対する好意に鈍感で、そのためなかなか主人公はヒロイン全員とそれなりに仲良くはなっていくものの、特定の誰か一人にヒロインとくっつくことが無い状態のまま、ヒロインたちの主人公の取り合いのような状態がだらだら続くというのが、ラブコメ物のお約束展開ですからね。

こういう他のラブコメとの違いをつけるのはアリだと思います。

特に9巻のラストの方で描かれる一輝とステラのラブシーンは(バトルの方も、もちろんよかったんですが)中、高校生向きのラノベとしてはかなりきわどいギリギリのラインの描写なんじゃね?というほどのレベルで、思わず読んでるこっちが心臓バクバクになっちゃいました。

お気に入りのキャラはいますか?

ずばり、黒鉄 一輝です。
バトルにおける戦闘能力の高さもさることながら、ひどすぎる過去を持ちながら、歪むことなく、お人よしで温和、礼儀正しい好青年といっていい人物。

それでいて、バトルにおいてはたとえ血まみれになろうとも決してあきらめない才能よりも大事な強さを持っている、まさに強さと優しさを兼ね備えた人物。

そして、恋愛についても愛する女性へのアプローチの言葉もまさに直球で誠実。
これで嫌いな方がおかしい。

魅力的なラノベ主人公というと「禁書目録」の上条当麻が真っ先に浮かびますが、人間的魅力で言うと上条以来の逸材かも。

落第騎士の英雄譚<キャバルリィ>【電子特装版】 (GA文庫)

ラノベ書評

タイトルとURLをコピーしました