人気のあるラノベを書くためには、人気作の研究が欠かせません。
ここでは女性向けなろう系ラノベのヒット作『魔導具師ダリヤはうつむかない』 (2018/11/25)のヒット要因、どういったテンプレが使われているか詳しく分析します。
●ストーリーの概要
婚約破棄されたダリヤが、これらかは他人に合わせず自由に生きていこうと決めて、成功していく話。同時に彼女を婚約破棄したトビアスは、それが裏目に出て、ざまぁとなります。
キャラはこうだから良いのかなポイント
主人公のダリヤは現代日本からの転生者。前世は社畜で、現世では婚約者に合わせて自分を殺していたら、不幸になってしまったため、これからは自分の好きなことをして生きていこうと決めます。
「もう、うつむかない」
と冒頭で自分に約束する点に非常に共感できます。冒頭の盛り上がりポイント。
・ダリヤは婚約者のトビアスのことを、それほど強くは愛していませんでした。親同士が決めた婚約という側面が強く、恋愛というほどの情熱は持っていません。
もちろん、婚約破棄されたことにショックは受けますが、あまり取り乱すことはありません。この点でストレスを軽減していると考えられます。
同時に、恋愛に冷めた視点を持つ現代人に共感されるのかも知れません。
・元婚約者のトビアスの嫌な点が、エピソードとしてかなり繰り返し出てきます。
新居のベッドで、ダリヤより先に新しい恋人と寝ていた。
ダリヤの開発した魔道具を自分の名義にしていた。
などなど、女とお金に意地汚いというより、それをさほど悪いとは思ってはいないという点で、リアリティを持った嫌な奴になっています。ナチュラル自己中。
わかりやすい悪人というより、こんな人、実際にいそうだよね。こんな男と結婚しなくて、よかったね。という点で、女性読者から支持されると思います。
婚約破棄された後、新居や財産の分配で揉めるなどリアリティが有ります。
・新しい恋人のヴォルフは、貴族家の騎士で魔剣が大好き。魔剣が好きという点で、魔法のアイテムを作成する職人であるダリヤと気が合います。
また、超イケメンで貴族、性格が良い、ダリヤに対して下心を持っていないなど、女性が好きなポイントをすべて入れ込んだキャラになっています。
・トビアスの新しい奥さんのエミリヤは料理が苦手で、子爵家からは絶縁された娘であることがわかります。ただかわいいだけが取り柄の女ということで、ダリヤと比較されて、ざまぁ要素になっています。
女性が嫌いなタイプの女性であり、ヘイトを集めてざまぁが楽しくなっています。
展開はこうこうこうだから良いのかなポイント
・トビアスと、その新しい奥さんのエミリヤ、トビアスのお母さん以外の登場人物は、全員ダリヤの味方になってくれます。
(この3人は全員ざまぁされます)
・ダリヤは婚約破棄された後、自分の商会を立ち上げて、服装も婚約者に合わせた物から、会長にふさわしい物とへ変更します。商会の立ち上げに関しては、いろんな人が出資してくれて、彼女がみんなの信頼を得ていることがわかります。
また、美人になったダリアを見て、トビアスの心が動くなど、ざまぁが開始されます。
・ヴォルフと食事をしていたダリヤは、偶然、トビアスとその恋人エミリヤと会ってしまいます。ここにいわゆる物語が盛り上がる爆弾が仕掛けられています。その前フリの導火線が、上手に仕掛けられています。
以下はトビアスの母のセリフ
「急なことでごめんなさいね。エミリヤさんは子爵家のつながりもあるから、商会としては止めようがなくて……トビアスのことは仕事の上のことだったわけだし、あなたにはきっと、もっといい人が見つかると思うわ」
貴族家とつながりを持つことが商会にとってのステータスにつながることを明示しています。またダリアはここで相手側からマウンティングされています。
エミリヤはダリヤに
「ごめんなさい! あなたを傷つけてしまって。私、ずっと謝りたくて……」
といったセリフを言います。
自分こそが被害者のように振る舞う、実に嫌な女ぶりで、リアリティがあります。
(エミリアは男ウケしそう)
このあと、ヴォルフが自己紹介で伯爵であることを告げて、ダリヤを店の外にエスコートして、ざまぁします。
ダリヤが有力な伯爵家の子息と付き合っていることを知った、トビアスとエミリヤはたじろぎます。
自分を振った男に現在付き合っているもっとレベルの高い男を見せつけて、ざまぁするのは、大ヒット作『京都寺町三条のホームズ』などとも共通している点です。
女性向けでは効果的なざまぁのテンプレだと言えます。
ダリヤはその後、街でナンパされたり、お店で口説かれたりと、いきなりモテだします。
モテはやはり女性向けでも承認欲求を満たすための有効な手段なのだと考えられます。
また、一巻の後半になると、ダリヤが死んだ父親からいかに愛されていたか? 父とのエピソードが何度も出てきます。
男性向けのラノベでも同じなのですが、主人公が家族から愛されているというのは、承認欲求を満たすための有効な手段です。
男性向けだと、お母さん的な存在か妹ですが、女性向けではお父さんとなるのでしょう。
ダリヤを傷つけたトビアスとエミリヤは、夫婦仲がギクシャクし、周りからの評価も落ちて不幸になっていきます。主人公様を裏切った奴は不幸になる。これぞ、ざまぁです。
ただ、このあたりも非常にリアリティを持って書かれており、またダリヤが直接ざまぁするわけではないので、主人公が嫌な奴に見えるのを回避しています。
主人公が直接ざまぁすると、主人公が小物か嫌な奴に見える問題が発生します。
設定、世界観はこうだから良いのかなポイント
・経済や魔法の道具のことなど、生活感がある設定で、非常にリアリティがあります。
また、主人公が前世の知識を生かして魔道具の開発をするなど、転生物のお約束をしっかり守っています。
(初心者の小説では、転生している意味がない物が多い)
その他ここはこうだから面白いのかなポイント
ダリヤはヴォルフとすぐに恋人にはなりません。
お互いに恋愛でひどい目に合っているのがその理由で、気の合う友人として付き合うことになりますが、お互いに惹かれ合っています。
おそらく、これは長期連載のための工夫だと思います。すぐにくっついたら恋愛はそこで終わりなので、これである程度、引っ張ってお互いに惹かれ合う様子を描くのだと思います。
作品に感じられる工夫(特に冒頭10話で、読者をつかんでいる秘訣)
・主人公は転生者
追放系と異世界転生のテンプレを組み合わせて使っています。
さらにここに「もう、うつむかない」と主人公のポジティブな決心を加えて、爽快感のある出だしとなっています。
追放物と異世界転生の組み合わせは書籍化作品に多く見られる特徴で、非常に強力な出だしだと考えられます。