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タイトル:SF小説の現実性の返信 投稿者: 手塚満

結論から申せば、設定や理屈はできるだけ書かないことが大切です。(書いてて面白いかもしれないけど)読んでつまらないですから。また、架空の理論や技術を作中で使わなくても、出来事が架空ならノンフィクションとはなりません。

以下、少し説明してみます。

1.相対論を説明しない、相対論とすら言わないのがベター

相対性理論が必要なSFであれば、相対性理論が初耳の読者層は切り捨てるべきでしょう。SFという時点で相対論くらいは知ってる層が興味を示しますんで、メインターゲットは相対論くらいは知ってる層です。にもかかわらず「相対論っていうのはね」とか、地の文あるいはキャラ説明台詞なんか入れたら、せっかくのターゲット層には不満となります。

例えば宇宙で長距離移動をするに、もう「ワープ」とか当たり前です。いちいち「どんなに加速しても光速度は超えられないから、空間を歪曲して」とか説明しません。そのほうがいいのです。その部分に関してはですが、相対論知らない層にも受け入れてもらうことができます。なにせ「近道する」って話ですから。「宇宙は広すぎるから近道するんだ」ってな分かりやすい話になるわけです、相対論と言いさえしなければ。

2.「トップをねらえ」はウラシマ効果で起こる結果を重視

あまくささんがいい例を挙げておいでで、「トップをねらえ!」ですね。もう古い作品ですが(1988~89年)、確かにウラシマ効果が物語の重要な演出やドラマに関わってきます。例えば主人公の父親は宇宙で敵に襲われ死亡する。10年後、宇宙に出た主人公は父親の乗った宇宙船を発見する。限りなく光速度に近いため、その船内では2日しか経過していない。

主人公は一縷の望みで宇宙船に追い付き、船内を捜索する。という展開があります。船内は荒れ果てて生存者なしで、1時間も経たずに主人公は失意で帰還するんですが、帰還した先では数か月経っているわけです。さっき父親の死を確信したばかりの主人公と、数か月帰還を待っていた仲間との温度差が描かれます。

さらに主人公とバディとなる先輩。最初は1~2歳差です。その2人がしっかり結びついてから、いったん離れる。地球に残る先輩と宇宙航行を続ける主人公。ウラシマ効果で年齢差が10歳以上となります。先輩は主人公とは10年会ってないけれど、主人公はつい先日別れた先輩が、すぐに帰って来て、しかし歳がはっきり離れてしまっている。そこでも2人に温度差が生じます。

その温度差がドラマを動かす重要な部分になっています。ウラシマ効果がどういうもので、なぜ起こるかなんてことは大事じゃないし、興味が湧きもしません。大事なのはキャラクターの気持ちであり、キャラクター間に発生するドラマであるわけです。相対論ではこうなっている、なんて地の文の解説ないしはキャラの説明台詞なんぞが挟まったら台無しになります。

3.仕掛けの理屈や種類ではなく、仕掛けの結果が面白い

なぜなら、キャラの時間が離れるというドラマの仕掛けは、ウラシマ効果でもいいし、冷凍睡眠でもいいわけですから。問答無用に「時間の流れが異なる世界に行ってきた(浦島太郎の竜宮城)」とか、なんでもいいんです。とにかく、主人公とサブキャラがいて、どちらかだけが時間が止まっていた、という状況さえ作ればいいわけですから。それらしければなんでもいいのです。

説明しないといけない設定(考証を含む)はできる限り少ないほうがいいのです。読者の負担が減りますから。設定って作者的には作ってて面白いんですが、読むのは退屈です。作者が何して遊んだかなんか、読者としては関係ないですから。

ですので理屈は説明しない。ウラシマ効果や双子のパラドクス等の特殊相対論的効果とか、ブラックホールやその蒸発、ラプラスの悪魔、マクスウェルの悪魔、タ―ディオン/ルクソン/タキオン、多世界解釈、反物質、エキゾティックマター、ワームホール、反粒子の時間反転、先進波、母親殺しのパラドクス、時間のループ等々、全て理屈の説明・紹介は避けるべきです。読んでつまんないですから。

4.設定そのものではなく、設定によって何が起こるかが大事

見せるべきは、それで何が起こるのか、というほうです。ウラシマ効果なら上述の通り、キャラの時間や歳がいきなり離れるドラマとか。多世界解釈なら(実際は理論的にエラーだけど)似ているが違う世界に行っちゃったとか。母親殺しのパラドクスなら、過去の世界で何かしようとすると自分が消えそうになるとか(バック・トゥ・ザ・フューチャー)。

これはこういう理屈でして、とか言われるより、それで起こることにキャラが巻き込まれるほうが面白いのは当然です。読者は勉強したいんではなく、楽しみたいんですから。それに、読者が複数寄れば、たいてい作者より賢いものです。下手な解説は知識自慢となり、知識比べで読者に負ける、バカにされるリスクは低くありません。キャラがどう思って、どういう気持ちで何をするかを面白く描くことは作者の独擅場です。読者は文句を言わず/言えず、キャラの動きに夢中になってくれます。

5.ハードSFだって理屈は少ないほうがいい

ハードSFだと、それでも解説は必要になってきます。あまり知られていないことも多くなりますし、読者が知っていそうなことでも、使い方がややこしくなることが多いですから。それでも理屈を最低限にする工夫が大事なことは変わりません。作者が知っていること、苦労して調べてきたことは書きたくなりますが、ぐっとこらえることが大事です。繰り返しですが、読者は勉強したいのではなく、作者の知識自慢を聞きたいのでもないからです。作者が知識をいかに面白くドラマに生かすかに期待しています。

6.設定が既存だからノンフィクションなのではない

それが現実の物理法則に忠実に則っているかどうかは問題ではありません。そこは科学考証とSF考証の問題です。大雑把に言えば、科学考証は「ここまでは嘘はない」と設定的に保証するものであり、SF考証は「ここからは作品固有の嘘」と作者が自覚するラインを決めるものです。

SF考証部分では、主に「既に知られている法則を破る」と「まだ未知の部分をでっちあげる」の2通りがあります。面白ければ既知の法則に反してもいいのです。例えばワープなんてものは、ほぼ確実に因果律を破りますが、たいてい作者は知らんぷりで黙ってます。

しかしSF考証という嘘がなくてもSFは成立します。既存の物理法則の範囲内で書いてもいい。それがノンフィクションということはありません。全て既知の物理法則通りでも、架空のキャラの架空の出来事ですから、ノンフィクション扱いにはなりません。

例えば「アポロ13号」の事故と帰還を事実を徹底調査して克明に描いたら、いかに物語風でもノンフィクションでしょう。しかし、例えば今放映中の「月とライカと吸血姫」(ライトノベル原作、牧野圭祐著)は、ロケットや宇宙船については1950年代の技術に基づいて描いたとしても、純然たるフィクションです。ヒロインが吸血鬼だからではありません。登場人物も出来事も架空だからです。

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