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タイトル:私もデビルマンのファンです 投稿者: あまくさ

デビルマンは確かに好例ではあるかもしれないので、それに即して考えてみます。

サバトシーンは単行本全5巻の版の場合、第1巻のクライマックスだったと記憶しています。優しく真面目な高校生だった主人公がデビルマンに変身し、まさに悪魔さながらとも見える凶悪な姿で殺戮含みのバトルを始める。衝撃的なシーンでした。

さて。
あのシーンで見殺しにされていた人間達は、すべてモブです。そして、モブなので描写は浅いですが、作者の意図として「低劣で、けして善良とは言えず、殺されても仕方がない者達」と設定されていたことは読めば明らかです。デーモンとの合体が始まるまえには、酒を飲んで無軌道に盛り上がるうちに、飛鳥了に意図的に挑発されたとはいえ笑いながら主人公に暴力を振るったりもしていましたよね?

現実に「殺されても仕方がない人間」がいるかどうかは置くとして。

デビルマンという作品のエンタメ・ストーリーとしての仕掛けは、そういう配慮がなされていました。そこがまず重要です。

永井豪はもともと反モラルの設定や描写のうまい作者ですが、それでも少年マンガ誌に連載されたエンタメストーリーですから、敢えて言えば「偽善的」なエンタメの定石はきちんと押さえてあるのです。

しかしながら。

あのシーンをさらに子細に検討すると、やはり際どい要素はあるんですね。

見殺しにされた人間達は笑いながら主人公に暴力を振るっていましたが、根っからのチンピラ悪役でもありませんでした。
せいぜい少し思考の浅い甘やかされた若者達というくらいで、デビルマンを誕生させるための飛鳥了の企みに踊らされ、異常な状況の中に誘導されて我知らずのうちに暴力的になっていたきらいがあります。日常世界に戻れば、不良とは言えそう悪くもない若者かもしれないと想像させます。

並のエンタメに登場するヒーローなら、そういう者達は一時的に暴力的になっていても見殺しにはしないという「定石」が確かにあります。
永井豪は、そこは大胆に踏み越える作者なので、おそらく堕天使さん自身が読者としてあのシーンに感銘を受けたということなのではないでしょうか?

しかし、あれはなまじっかな書き手に真似のできる力業ではありません。現に永井豪のアシスタントから独立した石川賢が『聖魔伝』という神と悪魔の善悪の関係を逆転させた世界観で長編を描いていますが、『デビルマン』の迫力には及ぶべくもない出来でした。

デビルマンに戻りますが、漫画版第2巻以降も読まれたでしょうか?

主人公はデーモンと合体して以降、風貌も一変してしまい、人間を守ろうという意志も保ちながら、時に体内で悪魔の血が騒ぐと言います。それに悩む様子はあまりなく、バトルとなればまさに悪魔さながらの凄惨な戦いに身を投じることも多いです。

しかし、愛情の対象である牧村家の人々には最後まで優しいですし、最終巻の途中くらいまでは人類を全力で守ろうとする姿勢も捨てていませんでした。

あの主人公のそういう部分にも注目されているでしょうか?

最終巻では、サバトの若者達が見せた「人間の弱さゆえの醜悪さ」がサタンに利用され、人類全体が共食いのような自滅に追い込まれるという展開でした。主人公が愛した牧村家の人々さえ狂った民衆に惨殺されてしまったのを目の当たりにしたとき、主人公は初めて人類を見捨てます。

ヒロイン牧村美樹の父母を悪魔と断じて拷問死させた悪魔狩りの政府関係者達を、主人公が焼き殺すシーンを覚えていらっしゃるでしょうか?
そのシーンで、政府関係者は主人公に命乞いをします。デビルマンである主人公の姿を見てデーモンの襲撃と勘違いし、「ここで殺した奴らは調べたら皆デーモンじゃなかった。ただの人間だった。我々はデーモンは殺していない。お前達が望むように人間を殺しただけだ。だから許してくれ」と言います。
その姿に主人公は怒りを燃やし、「俺は体は悪魔になった。だが人間の心は失わなかった。貴様らは人間の体を持ちながら悪魔になった。これが俺が身を捨てて守ろうとした人間の正体か」と叫びます。

2巻以降のこれらのシーンにも注目した上で、サバトのシーンをもう一度読んでみてください。
最後の最後に主人公が人類を見捨てた醜さの片鱗が、あのサバトシーンですでに描かれていることに気がつかれるでしょうか?

見殺しにされる人間はそうされても仕方がないと読者に感じさせる力。非情に見える一方で、優しさや志の高さを読者にしっかり伝える、描写とストーリー力。

それらがあったからこそ、多くの読者はデビルマンの主人公に共感し、支持したんです。
堕天使さんは、ご自分の今の実力で、それが実現できると思いますか?

いや、堕天使さんが永井豪にも負けない創作者を目指すという意欲をお持ちなら、それは素晴らしいと思います。応援します。
ただし、相応の研鑽は必要であることを覚悟してください。

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