例えば、太郎は花子のことを美人だと思っている。しかし、太郎以外の人は花子は美人というほどではなく十人並みの容貌と見ている。そういう状況があったとします。
この場合、三人称なら、
1)太郎の目には、花子は美人だとうつる。
というように書けます。実際に美人なのかどうかは明言されていません。
しかし、一人称なら、
2)花子は美人だ。
3)花子ちゃんは美人だなあ。
4)あまり同意してもらえないのだが、俺は花子は美人だと思っている。
こんな感じになります。あくまで基本を例示しているので、文章が雑なのはご容赦を。
地の文に客観的事実のみを書くか、語り手の主観を書くか。これが三人称と一人称の基本的な違いです。一人称は3のようにセリフに近い文体で書くものと誤解している方がいるようなのですが、2のように硬めに書いても問題ありません。
そもそも人の美醜なんて他人の目から見た印象にすぎず、物理的な事実ではありません。したがって、2のように「美人だ」と断言するのは主観的な叙述であり、一人称的と言えます。また、4は語り手が自分の感覚を客観視できているケースですが、主観的であることには変わりがありません。
一人称と三人称の違いの本質は、こういうこと。文体の違いは実は演出にすぎないのです。
なので、ストーリーやアイデアによって、この話は一人称で書いた方が向いている、あるいは三人称の方が書きやすいということはあるものです。また三人称向きの話を、切り口を変えることによって一人称向きに変えることも可能です。
そういうことも含めて一人称と三人称の使い分けは、避けて通れない局面にいつかは逢着する可能性がありますから、しっかり体得しておくことには意味があると思いますよ。