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タイトル:冒頭に関する話の返信 投稿者: 手塚満

1.冒頭の分かりやすさと興味の掻き立て

「魔術士オーフェン」はちょっと分からないんですが、他の二つは確かにうまい冒頭、いいツカミになっていますね。

「フルメタル・パニック!」では、ヒロイン千鳥かなめが難しそうな用語の寝言で始まり、すぐに場面変わって、雪原を逃げる車両→追う軍用ヘリ→攻撃を受けて大破する車両→放り出される少女→宗介搭乗のアームスレイブがヘリを撃破、ですね。巨大人型ロボットは(フルメタ初出時でも)SF的兵器として既に広くなじみのあるものですし、軍用ヘリはもっと当たり前に現実にあるものです。絵的に想像しにくいものは登場していない。

目を引き、かつ分かりやすい戦闘アクションであるわけですが、それだけではないようです。救助された少女がアームスレイブを見て「アームスレイブ」と言ってるわけで、何か知ってる雰囲気を出してます。これがかなめの寝言からつながりそう。

そこに気が付くと、「なんだろう?」って思いますよね。大筋は分かる。悪そうな連中から哀れな少女を救った。だけど、ちょっとだけ分からない部分も加えてある。八割分かって二割不明な感じです。目を引く要素とともに、知りたくなる要素も盛り込んであるわけです。

もちろん「なぜ少女は誰かと逃亡しているのか?」といった謎要素はあります。ですが、アクションものの冒頭ではよくあるシーンですし、大掛かりっぽいですから「まあ、後で分かるんだろう」くらいの気がしてしまう。謎だけど安心感があり、性急に知りたい気はしない。

そこよりも、雪原で寒そうなのにやけに薄着な少女(医療用検査服っぽい)が、(読者にとっても未知な)アームスレイブを知っていることのほうが気にかかる。そういう細部で気にさせるテクニックが使われているように思います。すぐ手が届きそうな謎要素ですね。かつ、相良宗介が少女を救う物語らしいことも示されています。誰が何をする作品か、ということですね。

「とある魔術の禁書目録」ですと、まず(後に御坂美琴と明かされる)ファミレスにいる少女が不良に絡まれてて、主人公 上条当麻が救おうとしてる、と思ったら、実は危なかったのは不良のほうだった。そして、御坂美琴の恐ろしく強い(超)能力が明かされ、かつなぜか上条当麻に通用しない。そこが気になる謎ですが、さっさと次のシーンに移ってしまう。

インデックスの登場ですね。奇抜な登場の仕方でして、上条当麻のアパートのベランダに布団を干すみたい引っ掛かっている。これも「どういうこと?」になります。が、当麻はスルーして、インデックスの「お腹すいた」に応えようとする(当麻の性格「困ってる人が望むことをしてしまう」の一端が示されている)。

続いて、インデックスが自己紹介がてら、何の気なしに「逃げていた(途中で落っこちてベランダに引っかかった)」と漏らす。「逃げていた? なにから? なぜ?」と思わせるものですが、そこは詳しく説明はされない。その先を読みたくなる要素です。
(上条当麻の異能も、インデックスの服がちぎれ飛ぶという、目を引く形で説明もされる。)

こうなると、「上条当麻がインデックスを助ける話なんだな」「(超)能力と魔術がある世界」なんだな、ということが飲み込めて来ます。誰が何をする話なのか、という大事なことが冒頭で示されているわけですね。絵的にも、超能力はフィクションで昔から頻出ですし、その他は現実の日常にあるものが使われています。シーンをイメージするのが易しいように作られています。

2.冒頭に必要な要素と所要時間

いずれの作品も、

A. 目を引く冒頭イベント
B. 絵的にイメージしやすい
C. 誰が何をする物語なのかが示される

ということが同時に満たされています。確かに開始10分以内にこれらが示されなければなりません。もう少し付け加えるなら、3分以内で示される『はず』であることが分からないといけません(3分というのは、何が目的か知らされずに待てる限界だそうです)。さらに申せば、30秒以内に「3分読めば期待できそうか分かりそうだ」と期待させる必要があります。
(なお、以上の時間は体感時間です。文章のテンポ・ドラマ展開が良ければ読む実時間が長くても短く感じますし、ゆったりした文体・情景ならば文字数的に急ぐ必要がある。)
なお、実時間でどの程度かについて考えますと、毎分500字~1,000字程度だと思います。堅く漢字の多い文体なら読書スピードは遅く、柔らかくひらがな比率が高い文体なら速い。短い1文ごとに改行してあるなら速く、長い段落になると遅い。こうしたことは文章のテンポ調整の一助になったりもします。ストップウォッチ(やキッチンタイマー)で測りながら、黙読、音読をしてみるといいと思います(音読は台詞について、特に有効。例えば、話し手キャラ10秒以上も喋ってて、聞き手キャラが黙って聞いてるかとか分かる)。

3.読者は冒頭では作品知識皆無

とまあ、利いた風なことを述べてみましたが、たぶん「そんなことは分かっとる」とお怒りかもしれません。そうできないからこそのお悩みですよね(ご質問文から成功事例の分析、考察、試行錯誤が窺える)。

もしかしたら、冒頭用のシーンの選択が間違っているのかもしれません。派手なシーンは作れたけれど、由来がややこしくなってしまい説明が長くなる。後回しにしてすら長いと、書いた御当人のスレ主さんですら思う(実は自作でそう思えるなら、かなり客観視できている可能性が高い)。

冒頭では読者がどういう状態なのか考えてみますと、(シリーズものでない限り)作品知識は皆無です。楽しみたいのが読者ですから、まだ興が乗ってもないのに一生懸命読み取ろうとも思わない。ですので、何の前提知識もなしに、一読して分かる必要があります。分からないものをそぎ落とすことが必要です。

4.冒頭では読者が知っているか類推可能なもので

オリジナル性が必要だからといって、作者が例えば「見たこともないものを、まざまざと見せつけよう」と力んではいけない。単語から容易に想像できて、シンプルである必要があります。例えば以下のような感じでしょうか。

a. 能力、アイテム、ガジェット等が単純
b. 登場キャラ数が少ない
c. シーンの進行がありきたり、テンプレ

同時に全部やる必要はないですが、これぐらい気を付けてやると、読者に分かりにくくなることは少なくなるかと思います。読者に分かりにくさがないなら、当面は詳しい説明の必要も生じません。これに加えて、

d. 必要なら使い捨てキャラで見せ場を作る

ということも考えられます。重要キャラのみで冒頭を構成すると、「それは誰なんだ?」が生じがちです。例えば異能を見せることが大事なら、キャラは誰なのかのほうの重要度を下げてやる。

5.興味が先、知識欲は後

「とある」ですと、冒頭では仰るように「御坂美琴 vs 上条当麻」です。御坂美琴は重要キャラですが、そうなるのは後々のこと。最初のヒロインはインデックスです。御坂美琴は「この世界には異能がある」ことを示す役割しか負っていない。かつ、御坂美琴の異能の説明は「電気」→「レールガン」だけです。電撃とて、フィクションでは頻出ですし、雷等で読者にある程度は知識があるのが普通です。

派手なシーンで期待させておいて、インデックスの登場から作品世界の説明に移っていくわけですね。多少のギャグを交えつつ、異能(科学側の能力、魔術)について当面必要な情報開示をする。読者は既に多少は興味を持っていますから知りたくもなっていて、動きが少ない説明主題でもとりあえず読んでくれます。

「フルメタ」ですと、冒頭でピンチになる少女は、軍用ヘリの敵を引っ張って来て、相良宗介とアームスレイブを登場させ、本来のヒロイン千鳥かなめに若干の興味を喚起して、役割を終えて退場です。救われた後はどこか安全なところに運ばれたらしい、と匂わせて、それ以上の興味を起こさないようにしてある。軍用ヘリも戦闘ロボットも目新しくはない。悪党に追われる弱者を主人公が救うのも、テンプレで疑問は生じにくい。

そうしておいて、相良宗介軍曹が何に所属していて(軍事組織ミスリル)、これから何をするか(千鳥かなめの護衛)が示される。これも多少のギャグを交えつつ、説明を連ねている感じです。やはりもう興味は多少掻き立てられているので、説明を読んでも苦にならない。

5.無用の用

繰り返しですが、ご質問文からは勉強、考察、試行錯誤を重ねて来られたことが窺えます。例えば、無駄を省くことについてもいろいろ工夫されてこられたのではないでしょうか。これは要らない、あれは後回しにできないか、この二つはまとめてしまえば等々です。

ですが、減らすだけが無駄を省くとは限りません。「フルメタ」では冒頭でメインヒロインを救うシーンにせず、モブキャラで行ってます。冒頭で千鳥かなめを相良宗介が救うと、おそらく膨大な説明事項が生じます。

そこで冒頭ではモブのヒロインを立ててある。それにより、説明の必要性を下げてあるように思います。

「とある」でも、冒頭でインデックスの危機に上条当麻が遭遇したら、えらいことになりそうです。当麻が御坂美琴と勝負を続けてもまずい。どちらも説明すべきことが多くなります。ですので、御坂美琴で目を引いてさらっと流し、メインヒロインのインデックスにつないで、作品世界の説明に移ってます。

余計なキャラを冒頭に加えたようでいて、実際は描写、説明の量を下げることに成功しているわけですね。結果、無駄がなくなっている。正確に申せば、無駄に読まされる感じを減らしています。

そういう観点も持って、プロット段階から工夫してみてはいかがでしょうか。

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