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タイトル:視点変更を使った物語を新人賞で出すことについての返信 投稿者: 手塚満

結論から申せば、

「見ず知らずで赤の他人の読者の大半が読んで分かるなら、書き方はなんでもあり。視点移動も例外ではない。」

ということになります。以下、多少の説明をしてみます。

1.たいていの「べからず」はコツであってルールでも採点基準でもない

ラノベ、もっと大枠で小説、さらに文章を書くにあたって、「べからず集」みたいなものがよく言われますね。他にも時系列とか、設定語りとか、視点移動だけではありませんが、視点移動に絞って考えてみます。

視点移動を使ったとして、一読して分かる描写があったとします。何か問題でしょうか。そんなわけないですよね。読んでよく分かるのに、「視点移動だ、減点!」とか、小説ではあり得ません。実際、スレ主さんも視点移動を使った作品がよくあることをご存知で、どこがいけないのかと疑問を持たれたわけです。

実際に視点移動を使って問題ない作品がある以上、視点移動の可否は原理(理由抜きに採用する仮説、ルール)ではありません。では、なぜ視点移動が戒められるのか。これは視点移動禁止はルール、マナー等ではなく、コツだからです。それも我々初心者向けのものです。

視点移動を許すと、非常に書きやすいのはよく知られているんじゃないかと思います。シーン描写に都合のいいカメラ視点、視点キャラをシーンごとに選べば、作者的には満足いく描写ができるし、不自由もありません(そのカメラ視点から見えない、その視点キャラには分からない等々の制限が生じない)。

2.必須なのは他人が読んで分かること

問題は、その描写が読者に分かるか、ということです。コミックですと、問題は生じにくい。なぜなら絵を見せているから。カメラ視点も明快だし、キャラがどこにいるか、どのキャラをメインに据えたコマなのか、一目で分かるからです。

ですが、我々は文章で表現しようとしています。絵は直接伝えらえない。絵は読者が言葉からイメージを起こします。作者が選んだカメラ視点、視点キャラを読者が分かるように書かないと、描写が伝わらないわけです。往々にして、そこが欠けた描写になってしまい、読者にはちんぷんかんぷんになりがちです。

ですので、視点キャラということがよく言われるわけです。一人称だと描写がブレにくいのは、視点キャラもカメラ視点も明快だからです。三人称でも一視点と呼ばれる、1人のキャラ(たいていは主人公)から見たシーンとして描写するのも同様です。どちらも分かりやすくなります。いや、分かりやすくしやすいと言うべきでしょう。

3.コミック(絵)と小説(文章)の相違

なぜなら、読者には「このシーンは主人公から見ています」ということさえ伝わればいいからです。例えば、「主人公が洞窟の入り口に立った」→「洞窟は暗い」という描写をしたら、主人公が洞窟の奥を見ようとしているシーンと分かります。

コミックだと、「主人公が洞窟の入り口に立った(主人公の後ろ姿の絵)」→「洞窟の奥から、明るい外とシルエットだけが見える主人公」みたいな絵を描いたとしても、一目で何をどう描写しているか分かります。

しかし文章で「主人公が洞窟に入り口に立った」→「主人公が明るい日差しの中で黒く抜けたように見える」と書いたら、おそらく読者には分からない描写となります。一文ごとにどこから見ているか、読者には察しようがないからです。かといって、「洞窟に入り口に立って中を覗き込む主人公の背は太陽に照らされている」→「もし洞窟の中から主人公を見たら、明るい日差しの中で黒く抜けたように見えることだろう」なんて、いちいち書いていたら、くどいし長いし、面倒くさくて読めるものにはなりそうもありません。

4.描きたいことが書きやすいから視点移動させる、はNG

カメラ視点や視点キャラを入れ替える作品は某投稿サイトでもよく目にしました。成功例はなかったように思います。作者に描写が分かりにくい、原因は視点移動のようだ、と伝えてみたこともあります。

作者の多くの反応は、「そうしないと主人公がいないシーンが描けない」「角度を変えつつ描写したほうが見栄えがするはず」等々です。これは作者が陥りやすい間違いです。作者はシーンイメージを作ってから文章化します。だから、自分が書いたシーンはよく分かる。元イメージ知っているから当然ですね。

往々にしてコミックのようにベストアングルの絵の連なりをイメージしてシーン化し、文章もそれに沿って書いてしまう失敗がよくあるようです。(某投稿サイトのアマチュア作品などで)あまりにも目にするので、「コミック視点」とでも名付けたいくらいです。作者は凄いシーンを描けたと思っている。だけど、読者には伝わらない(せいぜい「なんとなく、こんな感じかなあ」くらい)。

例えばこんな具合です。

「俺は花子に声をかけた。花子は驚いた表情になったが、背を向けたまま「なあに、太郎?」と答え、おもむろに振り返った。」

何が起こっているかは論理的には分かる。ですが、「これ、どっから見てるんだ?」になり、シーンをイメージしにくくなります。意味的、記号的にしか理解できず、絵が思い浮かばない。感情を動かすのが物語の得意とするところであり、売りであるのに、それを阻害してしまいかねません。最低限必要なことは、あたかも目に見えるようであることです。

一人称主人公がなぜ、振り向く前の花子の表情が見えたのか。カメラをどこに置いていいかどころか、主人公の視界自体、理解不能になります。繰り返しですが、カメラ位置を自在に置けるコミックなら上記をしっかり描け、読者も惑いません。文章では(単純には)無理だということです。

5.視点移動禁止・プロ云々について

以上の前提で、お考えのことにも少し。おそらくこういう意味で言われているのではないかと思います。

> 新人賞では視点変更を使ってはいけない
→新人、つまり経験浅く書きなれていないなら、初心者に適する書き方(視点移動禁止)をしたほうが成功率が高い。

> 視点変更を使って良いのはプロになってから
→しかし、熟練者や上級者ならば、視点移動を使って効果をあげられると思えば、行使をためらう必要はない、

ということになります。

6.結論:読者に分かるように書く以外のルールはない

最初に申した結論を言葉を変えて繰り返しますと、

「小説の文章にルールがあるとすれば、読者が一読して分かることだけ。他のことは腕前別のコツでしかない。自分の技量に応じてコツを使いこなすべし。」

ということです。視点移動以外のいろんなコツ(時点移動、回想シーン、登場キャラ数、果ては行頭の字下げ等々)も同様です。

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